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6章 入学試験 2次試験編
57話 一息
しおりを挟む「学園長殿これは一体どういうことですかな?」
少し、小太りの貴族がルィン魔導学園学園長室に数人の他の貴族を連れ、殴り混んで来たのだ。
そして、学園長はちらりと秘書を見るがいつも通り何もしてくれない。学園長の秘書は正規の訪問客や事務的な作業、学園長が書いた書類の不備訂正などしっかり仕事をこなしてくれる。だが、それ以外のこういったしょうもない事に対しては絶対に対応してくれず、横で書類に目を通していた。まるで、この貴族たちが空気であるかの如く……
仕方なく、学園長は口を開く。
「いやぁこれというのはどういうことですかの~もう歳で物覚えが悪いんじゃよ」
わざとすっとぼけて軽いジョークをかます。
すると、ムッとしていた小太り貴族の顔がさらに歪みさっきの微笑とは打って変わってだいぶご立腹な様子。
「ふざけるな!!分かっていてこちらをからかうとはな!」
そういうと学園長テーブルの上にあった花瓶や書類の山ををその小太り貴族は腕で薙ぎ払い机にあった物の3分の1が床に落ちる。花瓶はひび割れ中に入っていた水が溢れ出し書類にかかる。
学園長はこの場にいる誰もが分からないくらいごく僅かに反応をし、怒りをあらわにする。
が、そんな事を知る由もない貴族達は追い討ちをかける。
「おい!学園長殿……あんたこんなに平民入れて分かってんのか?」
小太り貴族は顔を近づけ圧力をかけるように言う。
こういう一部のしょうもない貴族達によって貴族全体の印象も悪くなる。今回も1次試験でやらかしたのは貴族達だ、それを不問にしてやったのにこの有様だ。
ハァ~と心の中でため息をつく。この歳になると涙腺も膀胱も堪忍袋もゆるくなるもんじゃ。
昔のわしならとっくに切れて目の前の顔面めがけ拳をめり込ませていただろうに……
「元帝国最強の冒険者かなんだか知らんがそんな迷信の様なやつがこんな老いぼれだとはな!!」
うむ、堪忍袋はまだ緩んではおらんかったようじゃのーー
濡れた書類を拾い始める秘書、その明らかに自分を無視されているのに腹が立ったのか小太り貴族はその短い足で秘書に対し蹴りを入れようとする。
「こいつ!!」
そのまま蹴りが秘書に入るかと思った刹那。
この部屋の気温が10℃マイナスされるような感覚に陥る全身に鳥肌が立ち、服を着ているのに生身の肌を氷水につけている様な寒さが全身を走る。そして、この場にいる貴族10名全員が何の抵抗もせず足を折り崩れ落ちる。窓にはひびが入り、小物が揺れ、扉が歪む。とてつもなくドス黒く、針を刺す様な冷たいオーラがこの部屋を包み込み、耐えられなかった者は全員失神し、音もなく崩れ落ちる。
そしてこの場には2人しか残らなかった。
「学園長やりすぎです」
さっきまで全く無反応無口な秘書が喋りかけてくる。無表情なのは変わりないが……
「冗談きついぞツルミくん。わしが殺気を飛ばさなきゃ君……あの貴族の足飛ばしてたじゃろう?」
「そんなことするわけないじゃないですかー学園長」
無表情なので本心が全く分からん……
下を向いてずれた真っ赤なメガネを元の適正ポジションに戻すと、濡れた書類を机の上に置く。
「うむ……そうかの~。ま、あやつの足が例えツルミくんの腹筋に命中したとしてもあやつの足が折れるだけじゃったしこれで正解かの……」
学園長は白く染まったあご髭を上下に摩りながら今回起きたことをなんとかいい方向に持って行こうと思案するが無駄だった。
「この貴族達どういたしますか?」
「ん?ああ放置しとけばいずれ起きるじゃろ。それより飯じゃ飯、今日の学食は何かの~♪」
そのまま歪んで開かなくなった扉を片手でいとも簡単に引き開ける。
先程とは打って変わって子供の様なテンションでスキップしながら学食を食べに行ってしまった。
そして、倒れた貴族達を横目に横になる秘書ツルミ・シユ。
「学園長……やるならやるって言ってくださいよ……」
この学園長の殺気をもろに受けたのは久しぶりでしかもいきなりのことだったので足が竦んで立つので精一杯だった。
あと一瞬気づくのが遅れたらここに倒れている人数が11人になるところだった。
私も元冒険者だったが、ここまでの殺気は魔物や冒険者でも見たこともない。まさに化け物。
はぁ~書類片付けたら私もご飯食べに行こう……ちゃんと動ける様になってたらだけど。
結局その日に貴族達が起きることは無かったので秘書がわざわざ校庭まで移動させたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いでっ!!」
俺は朝目を覚ますと変な痛みの頭痛と吐き気に襲われていた。
そう、昨日2次試験の後ホルドさんが腕に縒をかけて作った料理を食べていたまでは覚えているのだが、そこからが思い出せない。
確か……食後にホルドさん特製ドリンクをみんなで飲んでそれから……
すると、ドアのノック音が鳴る。そして、数秒。
はっ!!いかんいかんここはホテルじゃない。インターホンなどついていないのだ。やはり異世界に来てもこういうところは慣れるまで抜けなさそうだ。
「どうぞー!!」
ちゃんと誰か分からないドアの向こうの人まで届くよう、少し大きめの声で返事する。
木製のドアなので、ドアの下側と地面が擦れ木を鉋で削る様な音が鳴る。
「おはよう……」
そう言ってエーフが申し訳なさそうにゆっくりと入ってくる。
「お、おはよう……どうした?急に」
「う、うん昨日の事なんだけどね。多分記憶がところどころ曖昧かなと思って昨日みんなでじゃんけんして朝誰が話に行くか決めたの……」
なんだと!みんな……と言うことは俺だけなのか記憶ないの。エーフの顔を見てると聞きたくないとは言い出せず、事の詳細を聞くことにした。
「えっと……まずホルドさんが出したドリンクなんだけど、あれには微量にホッスっていう森によく生えてる薬草があってね。飲み物に混ぜて飲むとストレスとか血行が良くなったり疲れが取れやすくなるの、それに臨時での薬草がわりにもなる。ただ摂取し過ぎたり耐性がない、つまり相性が良く無かったりすると倒れることがたまにあるの」
「なるほど俺には耐性が無かったということか……」
「うん、でも耐性がないのって基本赤ん坊だったり老年の方だったりでこの歳でなるのは珍しいんだよ」
つまりは、俺は超希少種という訳ですか。というか聞く限りアルコールに近いものなのだろう。元の世界でアルコールを摂取したことは無いが、理科の授業にやったアルコールパッチテストで見事に赤く染まってたし、もしかしたらそういうのも関係あったりしてな……はは。
まぁ謎は解けたし良しとしよう。
「ありがとなエーフ」
「それじゃあね。あ、もう朝ごはん出来てるから下降りて来てってホルドさん言ってたから」
そう言ってエーフは朝ごはんが楽しみなのか軽快なステップで下に降りて行った。
俺も痛い頭を抑えながらゆっくりと降りる。
するとホルドさんが気を使ってくれたのか朝ごはんはおかゆのようなどろっとして胃に優しい朝食だった。
ホルドさんの気遣いに感謝しつつペロリと平らげる。途中からさっきまでの吐き気と頭痛はどこへ行ったのか不安になるくらいスーッと消えていった。
さて、今日から6日間くらい何をしようか……
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