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7章 魔導学園 1年生編

61話 秘書

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 あれから5分、今だに先生達は喋ろうともしないし、周りの奴らはうるさいままだ。それに1年生だけじゃなく上級生の奴らまで喋っているんだからタチが悪い。
 俺は段々そのことに腹が立ってきた、恐らくこの場で喋っていないのはちゃんと空気の読めるやつやしっかりとした性格のやつ、俺達のような平民、あとは友達のいないやつだけだ。

 すると、1人の白髪の生えた爺さんが中央に立つ。白いヒゲが顎から胸に向かって伸びており眉毛まで白い、そして身長は160cmといったところ……小さい。顔は楕円形で、目が丸々しており鼻の下の人中部分にチョビヒゲが生えている。恐らく竜の外皮よりも硬いであろう筋肉は綺麗についており、そしてその1つ1つが洗礼され筋肉のつき方において全くもって無駄がない。

 衣服もゆったりとした僧服で白い生地に赤い模様が入っている。

 喋っている連中、こうやって静かにしている連中の何人かは視界に捉えているだろう。

 だが一瞬一瞥して抱く感想は「なぁんだ爺さんか」と、こんなところだろう。だが、俺からして見たら恐らくあの爺さんがこの学園内で1番……いやこの世界で上から数えてもすぐに出てくるぐらいだろうな。

 面白いじゃねぇか……学園生活暇せずに済みそうだ。今日は不運なことが多かったが最後の最後にこんないいものを引けるとはな!



 そして、その白髪の爺さんがこちらを一瞥した刹那。



 急に場の空気が重くなり上から誰かに押さえつけられているような感覚に陥る。ガラスが割れ小さな地響きが起こり、脳震盪のような症状が現れ、控えていた先生も驚きの表情を隠せていない、想定外の事というのが明白だ。

 だが、ここまで幾多数多の殺気を経験してきた俺だがここまで濃厚で冷たく、肌が焼けつくような痛みを錯覚で感じ取れるほどの殺気は初めてだ。

 これだけで大抵の相手は萎縮、下手したら気絶までありうる。それほどまでに濃縮された威圧感……あの爺さん化け物だぜ。


 しかも、壇上に立って一発目でこれとはなかなか頭ん中ぶっ飛んでやがるな。

 そしてこの殺気を受け、先程まであれだけうるさかった室内闘技場は今では葬式でも参加しているのかと思うくらいに静かになっていた。

 そう、さっきまで喋っていた奴らは全員頭を地につけ倒れていたのだ。中には気絶している者、泡吹いて倒れている者、耐えはしたが地に膝が付いている者、そして俺のようにそこまでなんとも無い奴らに分けられる。



「残ったのはこれだけかの……」



 肩を落とした爺さんが喋り始める。残っている者……そう約3分の2の生徒がぶっ倒れており話を聞けるのは数えられる程度。肩を落とす理由も分からなくも無い。



「まぁ良い。え~こほん……今年から学園長に就任したジル・ドラドじゃよろしくの~」



「最近帝国の戦力も落ちてきておっての。その原因がこの学園にあるんじゃないかということでちょっと引き締めに来た訳じゃ」



 確かにそれは頷ける。これで戦えなくなるようじゃ先が思いやられるのも無理はない。



「先生方全員医療棟に連れてってやりなさい」



 そう学園長が促すと、教師が駆け寄って来て気絶している生徒を運び出す。



「今日はここまでで終了じゃから案内に書いてある通りの寮の方へ行きなさい。そちらにも教師陣を配置しておるのでなやることはそちらに伝えておる。では、解散じゃ」



 そう言って学園長は壇上を降りそのままこの室内闘技場から出て行ってしまった。



 俺もここにいたら搬送の邪魔になるだけだから動くか……そう思いつつ動こうとしたら他の人達も同じなのかぞろぞろと学園長に続く形で外に出て行く。



 はぁ~とっとと寮に行って寝たい。俺は口を限界まで開きあくびをしながらゆったりと歩き出す。

 俺を満足させてくれよ……

 俺は早く戦いたい疼きを抑えながらこの思いを飲み込む。









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「どうでしたか?新入生や今年学年が上がった2年、3年生は」



「そうじゃの~まぁ50点ってとこかの」



 ツルミ・シユ。メガネを掛け、膝まであるスカート、どこに出ても恥をかかないほどしっかりとしたあまり女っ気の無い服。だが、それを吹き飛ばすほどのしっかりとしたわしの顔が埋まりそうなくらい大きな胸!。長髪で髪を頭の後ろで縛ってありポニーテールになっている。目つきは若干つり上がっており怖さがあるが彼女はこれがコンプレックスだと言っていたがこれもまたあり。

 甘いものが好きだが自分には厳しく他人にじゃもっと厳しくをもっとうにして日々わしの秘書を勤めてくれる。

 壇上から降りそのまま学園長室に向かう最中秘書と偶然出くわしたのでそのまま一緒に向かっている。



「ですが、学園長のあの殺気をもらっても平気そうな生徒もちらほら見えましたが……」



「其奴らは別に問題ない、しっかりと己を弁えておる。問題は自分の力に溺れ、地位をいつまでも守り、優しい環境で育って来た奴らじゃ。そういう奴らが悪いとは言わんがこの先ついてこられるかが問題での~」



 ぶっちゃけ外部からの小言がうるさくなるから面倒なだけじゃが……



「面白そうな生徒とかはいなかったのですか?」



「う~む」



 面白そうな生徒は何人かいた。じゃが……



「内緒なのじゃ~」



 陽気に返し、秘書のツルミくんをからかってみる。



「……そうですか」



 ツルミくんが急に早歩きになりわしの前を陣取り、足が地面につく音が大きくなりガニ股になる。



 あ、やってしまった。ツルミくんを怒らせてしまった。このモードに入ると今日は殆ど口を聞いてくれなくなるし、厳しさが増すんじゃ……



「ツルミくん?……」



「・・・・」



「そ、そうじゃ学食で新しいデザートが出るらしいぞわしが奢ってあげよう」



「・・」



「うむ……1ヶ月わしの奢りじゃ!!」



 それに同意したかのようにこちらに向き返り、ツルミくんは右手を差し出してくる。



「交渉成立ですね」



 わしが差し出した手を握り握手するとツルミくんは小悪魔のような笑顔でウィンクする。



 今日もツルミくんは絶好調のようじゃ、良きかな良きかな……



「さて、仕事するかの~」



「あ!書類残り1500枚ほど残っているので目を通しておいてくださいね~」



 うーむ……帰ろうかの。
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