1 / 12
1)チラシを配っている女の子
しおりを挟む
夕暮れの寒空の下、一人で駅前を歩いていたときだ。
「お客さん、お風呂なんてどうですか?」
チラシを持った女の子が僕に声を掛けてきた。
「お風呂?」
僕は問い返す。こんな年齢の女の子がお風呂の営業だって?
いや、これまで生きていて、どんな女性からも、「お風呂なんてどうですか?」と言われたことがない。
「はい、お風呂です。銭湯なんですけど」
その女の子が僕の言葉にそう返事を返した。
心なしか、どこか恥ずかしそうである。僕は突然、頬を赤らめた女の子を見ながら思った。
はあ、なるほど。そうか、この子は銭湯屋の娘か孫娘なんだな。でもあまり繁盛していない。
父親のためか、おじいさんのためなのか知らないが、こうやって自分の家の銭湯屋を宣伝しているのだろう。
何とも健気な女の子ではないか。
「いいよ、銭湯。家にお風呂くらいあるけどね。たまには大きなお風呂でゆっくりしてもいいかな」
こうやって宣伝に駆り出されているのだから、お客さんは少ないのだろう。もしかしたら僕一人で大きな湯船を独り占めかもしれない。たまにはそういうのも悪くない。
それに目の前の女の子は、とてもかわいかった。つぶらな瞳、ぽにょぽにょした頬、あどけない口元。
爪楊枝で突き刺すと、パチンと弾けそうなくらい瑞々しい感じのする少女だ。
「でも、ちょっと、その銭湯、変わってるんです」
しかし女の子が言いにくそうに口よどんだ。
「変わってるって?」
「は、はい。実はお湯がないんです」
「こんなに寒いのに水風呂?」
「いえ、お水じゃありません」
女の子は再び口ごもる。「えーと、私のような女の子たちなんです」
「はあ?」
「お湯の代わりに女の子がバスタブいっぱいにいて、みんなでぎゅうぎゅうするので、お客さんは決して寒くなくて、すっごい温まりますよ」
「えっ?」
僕は女の子の言っている言葉の意味がまるで理解出来なかった。
「お気に召しませんか? そんなお風呂・・・」
女の子が不安そうに尋ねてくる。
「お気に召すも何も、意味がわからなくて・・・」
女の子が湯船にいっぱいのお風呂?
きっとみんな、水着か何かを着てるんだろうな。いや、それでも、ぎゅうぎゅうするらしいから、僕と身体が触れ合っちゃうよな。
腕とか肩とか、それどころじゃない。、胸とかお尻とかだって・・・。
そ、そんなことが許されるのか?
やっぱり、訳がわからんぞ。
「そうですよね。訳がわかりませんよね? そんなんだから、うちのお風呂はいつもお客さんが来ないんです。でも人肌で温ったまるのが、身体に最も良いらしいんです。雪山で遭難したときに、裸で抱き合って、何とか寒さをしのいだっていう話しがあるじゃないですか?」
「は、裸?」
「はい、裸でぎゅうっとするのが、一番温まる方法なんです。どうですか、そんなお風呂?」
「い、行くよ」
僕はそう答えた。
本気で言ってるとは思えない。もしかしたら騙されているのかもしれない。下手すると、恐い人からお金を恐喝されたりするのかも。
でも財布には千円札が数枚ある程度だ。別に守らなければいけない社会的地位だってない。それにこれから何か予定があるわけでもない。この女の子と話せるのなら、もう少し相手をしてあげてもいい。
「本当ですか! ありがとうございます!」
女の子は本当に嬉しそうにぴょんと飛び跳ねる。
嬉しそうにしている女の子を見て、とりあえず「行くよ」と答えておいて良かったって、僕は心から思った。
だって、かわいい女の子が嬉しそうにしているところを見られるなんて、最高じゃないか。
「お客さん、お風呂なんてどうですか?」
チラシを持った女の子が僕に声を掛けてきた。
「お風呂?」
僕は問い返す。こんな年齢の女の子がお風呂の営業だって?
いや、これまで生きていて、どんな女性からも、「お風呂なんてどうですか?」と言われたことがない。
「はい、お風呂です。銭湯なんですけど」
その女の子が僕の言葉にそう返事を返した。
心なしか、どこか恥ずかしそうである。僕は突然、頬を赤らめた女の子を見ながら思った。
はあ、なるほど。そうか、この子は銭湯屋の娘か孫娘なんだな。でもあまり繁盛していない。
父親のためか、おじいさんのためなのか知らないが、こうやって自分の家の銭湯屋を宣伝しているのだろう。
何とも健気な女の子ではないか。
「いいよ、銭湯。家にお風呂くらいあるけどね。たまには大きなお風呂でゆっくりしてもいいかな」
こうやって宣伝に駆り出されているのだから、お客さんは少ないのだろう。もしかしたら僕一人で大きな湯船を独り占めかもしれない。たまにはそういうのも悪くない。
それに目の前の女の子は、とてもかわいかった。つぶらな瞳、ぽにょぽにょした頬、あどけない口元。
爪楊枝で突き刺すと、パチンと弾けそうなくらい瑞々しい感じのする少女だ。
「でも、ちょっと、その銭湯、変わってるんです」
しかし女の子が言いにくそうに口よどんだ。
「変わってるって?」
「は、はい。実はお湯がないんです」
「こんなに寒いのに水風呂?」
「いえ、お水じゃありません」
女の子は再び口ごもる。「えーと、私のような女の子たちなんです」
「はあ?」
「お湯の代わりに女の子がバスタブいっぱいにいて、みんなでぎゅうぎゅうするので、お客さんは決して寒くなくて、すっごい温まりますよ」
「えっ?」
僕は女の子の言っている言葉の意味がまるで理解出来なかった。
「お気に召しませんか? そんなお風呂・・・」
女の子が不安そうに尋ねてくる。
「お気に召すも何も、意味がわからなくて・・・」
女の子が湯船にいっぱいのお風呂?
きっとみんな、水着か何かを着てるんだろうな。いや、それでも、ぎゅうぎゅうするらしいから、僕と身体が触れ合っちゃうよな。
腕とか肩とか、それどころじゃない。、胸とかお尻とかだって・・・。
そ、そんなことが許されるのか?
やっぱり、訳がわからんぞ。
「そうですよね。訳がわかりませんよね? そんなんだから、うちのお風呂はいつもお客さんが来ないんです。でも人肌で温ったまるのが、身体に最も良いらしいんです。雪山で遭難したときに、裸で抱き合って、何とか寒さをしのいだっていう話しがあるじゃないですか?」
「は、裸?」
「はい、裸でぎゅうっとするのが、一番温まる方法なんです。どうですか、そんなお風呂?」
「い、行くよ」
僕はそう答えた。
本気で言ってるとは思えない。もしかしたら騙されているのかもしれない。下手すると、恐い人からお金を恐喝されたりするのかも。
でも財布には千円札が数枚ある程度だ。別に守らなければいけない社会的地位だってない。それにこれから何か予定があるわけでもない。この女の子と話せるのなら、もう少し相手をしてあげてもいい。
「本当ですか! ありがとうございます!」
女の子は本当に嬉しそうにぴょんと飛び跳ねる。
嬉しそうにしている女の子を見て、とりあえず「行くよ」と答えておいて良かったって、僕は心から思った。
だって、かわいい女の子が嬉しそうにしているところを見られるなんて、最高じゃないか。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる