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Case.1 餓鬼
第二話
しおりを挟む私の馬鹿ぁぁぁぁ……。どうしてあんなこと言っちゃったの……。
翌日の授業後の昼休み。私は一人、中庭で昼食をとっていた。
凛津さんと有馬先輩には、めっちゃ呆れられたし、会長さんには大爆笑されたし……。
もうあそこで生きていけない……。
「ねえ」
「はひっ」
後ろから急に話しかけられた。
あぁ、成長がない……。
ええと、この方は凛津さんですね。仲良くなれなさそうな方。名津君も一緒にいます。
私がネガティブモードに入っている間にも、凛津さんは話を進めていく。
「あなた、本当に何も知らないの?」
凛津さんは、昨日私が教室で言ったことを気にしているようだ。
「そ、そうですが……」
知っていたら、あんな反応しないですよ。
「じゃあ、どうしてここに来たの?」
初絡みで変なことを聞くものだ。
「それは、有馬先輩に連れて行かれたから……」
凛津さんは、大きなため息をついた。
「『桃田』なんて名字、聞いたこともないからどんな人かと思ったけど、まさか初歩的なことも知らないなんてね」
独り言のようにそう呟くと、彼女は踵を返した。
「あなたが何も知らない『只人』なら、私に『関わらないで』」
それだけ言い残して、凛津さんは行ってしまった。
は、初絡みがこれかぁ……。伸び代が、伸び代がない……。
「あーあ。怒っちゃったよあれ」
そう言って私の隣に座ったのは、名津君だった。
「ごめんねー。姉貴が失礼なこと言って」
「わ、私は大丈夫です」
姉貴、ということは、名津君は弟なんですね。
「ああ見えてあいつ、プライド高いんだよ。申し訳ないけど、多目に見てやって」
「いいことですよ。自信があるのは」
名津君は人懐っこい顔で「そう?」と言った。
「『杉戸』の能力者は、みんなあんな感じだよ。……って、こんなこと言っても、わかんないんだっけ?」
「面目ない……」
うう……。どうしてこんなにも無知なのでしょうか……。
「ちょっと吃驚しました。この学校が昔から鬼と戦っていたなんて」
これは、昨日受けたざっくりとした説明だ。
四ッ谷学園。そこは、日本有数の鬼がはびこる場所だった。
終戦直後、人がいなくなった日本には鬼が溢れていた。鬼は窃盗を繰り返し、人を殺めた。丁度そのころ、この辺りに新しい学校を建てようと政府が計画を練っていた。それも、鬼を退治する者──退鬼師のための学校を。
そして、そこに鬼を閉じ込め、数が増えすぎないよう、そして絶滅させないようにする。
……というのが、〈退鬼専門部〉の始まりだ。
「それねー。オレも最初はマジでびびった。こんなことしてたのかーつって」
「意外ですね。凛津さんはあんな感じなのに……」
私がそう言うと、名津君はカラカラと笑った。
「まぁ、オレは特別。語弊があるけど、凛津の付き添いなんだ」
付き添い……ですか。
「オレ自身に、凛津みたいな能力はないよ」
「能力?」
そういえば、さっき凛津さんが私のことを「只人」だって言っていたような……。
「でも変だな……。オレはともかく、どうして君はここに呼ばれたんだろう……?」
「た、確かに……」
すると急に、話の論点が五十度くらい変わった。
「つーか、なんで専部のこと知らなかった訳? スカウトされるってことは、知ってるはずなんだけど」
そ、そりゃそうきますよね。
「なんでと言われても……。学校の要項に鬼の話なんて一切なかったし……。推薦入学の話があったから、なんとなくそのまま入学したんですよね」
答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。一分もしないうちに予鈴が鳴り響いた。
* * *
「成程。そういうことか」
会長さんが神妙な顔で頷いた。
「ったく、何が『そういうことか』だよ。その顔、絶対何もわかっちゃないだろ」
有馬先輩が茶々を入れる。
……その顔はわかっていない顔なのですね。
「いいや? そういうことでもない。学校から正式に案内があったんだ。恐らく、学校町が見つけたんだろう」
「学校長が選んだ? どういうことですか?」
ますます話が複雑になる。
それを聞いた会長さんが教えてくれた。
「我が高校の校長は、昔から続く〈退鬼師〉の家の出でな。誰が能力持ちなのか、一目でわかるそうだ」
そんな凄いお方がいるんですね。
「ところで、さっきから言っている『能力』とは……?」
「あー、それは……」
有馬先輩が説明を始めようとしたとき、会長さんは、私と有馬先輩の肩をぽんっと叩いた。
「それは、自分の目で見た方が早いだろう?」
その一言で、有馬先輩の顔色が変わった。
「な……! こんな素人連れて行って、怪我でもされたら──」
「ステーイ」
会長さんは、有馬先輩の目の前に、右手を突き出した。
「別に、『あれ』はお前のせいじゃない。復帰したのなら、自分の役目をちゃんとこなすのが筋だろう?」
な、何だか不穏な空気……。
そう感じたのもつかの間、有馬先輩は「わかったよ」と吐き捨てた。
「心配はいらないさ。啓介の能力があれば」
* * *
「あ、あの!」
私は勇気を出して有馬先輩に話かけた。
「何?」
いたって普通の反応だ。冷たくはない。
「あの、失礼だとは思いますが……。有馬先輩って、どうしてピアスしてるんですか?確か、校則では禁止だったはずですよ……?」
言ってしまってから見ると、先輩は怒っているとも、悲しんでいるともとれる顔をしている。
う……。やっぱり私、馬鹿なこと──。
「……からだよ」
「え?」
聞こえなかった。
「友達からもらったからだよ。あいつ馬鹿でさ。どうして中学生の誕生日にピアスとか思い付くんだって話だよ」
どうしてだろう?楽しい思い出の話をしているはずなのに、空気が重い。
「それで?どうしてこんなこと聞こうと思った訳?」
そ、そうきますよね。
「せ、先輩が……」
「え?何だって?」
さ、催促が怖い……。
「せ、先輩がそんな格好をしてるから、ふ、不良かと思いまして……」
い、言ってしまった……。これで私はジ・エンド……。
「あー、それね。やっぱりそう見える?」
私はかすかに頷いた。
意外にも先輩は笑顔だ。
「これくれた友達が、一昨年死んだんだ。まあこれは……、精神安定剤みたいなもん」
何を言えばいいのかわからなくなって、また固まってしまう。
そんな自分が情けない。だから、私は──。
すると、有馬先輩は大きなため息をついた。
「お前がずっとおどおどびくびくしてたのはコレのせい?」
「そ、それとその髪の毛の色のせいです……」
「これは地毛だから。染めてない」
ご、ごめんなさい……。
「専科の奴等の内情には、あまり首を突っ込まない方が身のためかもしれねーぞ。どうしてもこういう奴になってしまうんだ。〈退鬼〉の能力があると」
その言葉の真意を、私はまだ知らなかった。
すると目の前に、黒い波が現れた。
「あわわわわわ……」
ななな、何ですかこれはぁ~……。
会長さんが示す場所に着いた私達は、すぐに小鬼の大群に出くわすことになってしまった。
鬼達は、その場にある食べれそうな物には、すぐに噛みついている。しかし、そのほとんどは炎に焼かれて食べることはできない。それどころか、自身が火に炙られているものもいる。
「餓鬼だよね。これ……」
本かなにかで見たことがある。
餓鬼。常に飢えと渇きにより、食物を求めている鬼。そのほとんどは、食物を手に取ると火に焼かれてしまう。その正体は生前、食物関係で罪を犯した人間だ言われている。
「猪狩の奴、何だよ。思いっきり大群じゃねーか!」
餓鬼にほとんどは力はないらしく、さっきから、噛みつきにきては玉砕されるを繰り返している。ただ、数が多すぎるのだ。先輩が文句を言いたくなるくらいには。
多分、だけど、先輩が振りかざしているその武器は、ファンタジー小説とか、ゲームでよく見る、お札みたいな物だ。でも、餓鬼の数が多すぎて、対処が追い付いていない。
対して私は、なんの武器も持たない一般人。隠れていることしかできず、役に立つこともできない。鬼の数は、段々増えてきている。
「──田。桃田!」
「う、はい!」
有馬先輩が叫んでいた。
「さすがに数が多すぎる。一度引いて、態勢を立て直す」
「…………!」
その日は、餓鬼を全て退治することはできなかった。
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