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Case.1 餓鬼
第四話
しおりを挟む「……なんだ。生きてたんだ」
専部の教室に戻って最初の一言。凛津さんだった。出会ってまだ数日も経ってないのに、もう冷たい。冷たい彼女にしか会ったことがない。
あぁ……。もう少しうまくやれないのかなあ……。やれたらいいんだけどなあ……。
「ま、桃田がチートなもんで。俺は楽ができたよ」
フォローしてくれたのは、有馬先輩だった。
チート……。チートかぁ……。嬉しいような、悲しいような……。もっといい単語なかったのかなあ……。
いやいや、ネガティブ思考は駄目です! 駄目なんです!
独りで落ち込んでいると、急に笑い声が響いてきた。
「そうかそうか! まさか啓介が役に立たなかったとは!」
え……。会長さん、なんでそんなに大笑いしてるの? お腹抱えて笑い転げるってそれ、漫画の世界とかでしか見たことないですよ?
「いや役に立たなかったわけじゃねえよ。全部あいつが片付けたんだから」
「いいや? どちらにしてもお前はなにもしていない!」
ある意味正論なその言葉に、有馬先輩は言い返さなかった。
「猪狩さんのツボはおかしいので、気にしない方が身のためですよ」
後ろから鬼頭先輩が教えてくれる。
「そ、そうなんですか」
うーむ。この専部とやらには個性的な方々が集まって、というか、集まりすぎているのですよ。
「澪」
いつの間にか、会長さんは笑うのをやめていた。
「ともかくこれで、〈能力〉がどういうことかわかっただろう?」
「な、なんとなく……」
会長さんにそう言われたものの、はっきりとしたことは、まだ何もわからない。
とりあえずわかったのは、有馬先輩はお札を使えて鬼退治ができるってことくらいかなあ。うーん。収穫が少ない。
「その〈退鬼能力〉って、色々種類があるんですか?」
その質問には鬼頭先輩が答えてくれた。
「そうですね。完全に一致するものはものはほとんどないといわれています。それは、その個人の力量や、血筋にもよりますね」
その言葉を聞いて、凛津さんが顔を背けた。
「私は〈式神〉だし、啓介は〈退鬼ノ札〉。あと……杉戸家は〈言霊〉だろう?」
「いや、オレにはそんな力ないんすけど……」
慌てて名津君が会長さんの言葉に割り込む。こちらもわけありのようです。
「知ってるさ。でも、凛津はそうなんだろう? 別に隠すことはない。『杉戸の双子』の話は我々の中では有名だからね」
それを聞いても、凛津さんは何も言わない。終始無言だ。
「それにしても、どうして澪は薙刀一本で鬼を退治することができたんだ?」
「あー……。それは気になってた。無駄に強かったし」
思い出したように、会長さんと有馬先輩が口々に言う。
自然と私に視線が集まった。なんとなく、言わなきゃいけないという雰囲気が漂う。
「えと、それは私が中学時代、薙刀の大会で全国優勝したからだと……思います……」
その場にいる、私以外の全員の声が揃う。
「「「「「……え?」」」」」
な、なんだかデジャブ……。
「ほう。澪はそんなに強かったのか」
「む、昔の話ですけど……」
そう昔でもないか。一年前だし。
皆さんに囃し立てられて、おどおどしていると、小さな会話が耳に入ってきた。
「……それだけじゃないよな?」
「そうだな。私と校長にわかるものならいいけど……」
有馬先輩と、会長さんの言葉。平和なものではないのは、私にもわかる。
それは、どういう意味だったんだろう?
それを確かめる隙もなく、会長さんが言った。
「……浮かれるのもいいが、ほどほどにな? いくら強いといえども、命に危険があることには変わりがないのだから」
その言葉で、辺りが急に凍りつく。有馬先輩も、真剣な顔をしている。
「世の中には、餓鬼みたいな雑魚ばかりな訳じゃないし、葵みたいな優しい鬼ばかりじゃないんだ」
そこで声を上げたのは、名津君だった。
「あ、葵先輩が!?」
その声とほぼ同時に、凛津さんが弟をかばうような仕草をした。
「……『どうして』鬼がここにいるの? 『どうして』この世界に入り込んでいるの? ねぇ、『どうして』?」
私から見ても、凄い勢いだった。迫力が違う。同い年とは思えない。
「僕にその〈言霊〉は効きませんよ。これは、秘め事でもなんでもありませんからね」
こ、言霊だったのか、これ。
「僕は〈茨木童子〉という鬼です。二年前、猪狩さんにちょっかいかけたら返り討ちにされてしまって。今は、式神みたいな扱いですよ」
それを聞いた凛津さんは、少しだけ警戒を緩めた。それも完全とは言えないけど。
な、何だか不穏な空気……。
それよかちょっかいって、何したんだろ?
「四ッ谷高校は堕ちた」
不意に、会長さんが言った。
「その原因になった事件があったろ? 実はそれには、我々が関係しているんだ」
四ッ谷高校を貶めた事件──校舎の爆発と、それによる女子生徒の死亡。一昨年の三月頃。
「あの事件は、〈酒呑童子〉との戦いの中だった。被害に遭った女子生徒、真冬と……有馬がね。当時高校一年生だった彼等には、最強の鬼と吟われる奴をどうすることもできなかった。真冬は〈退鬼師〉一家にも珍しい能力を持っていたが、結果は相討ち。先輩が駆けつけたときには、真冬の姿はなかった」
それを受けて、有馬先輩が言う。
「遺体がなければ、血の跡もない。俺もよく覚えてない。だから、あいつがどうなったかはわからないんだ」
それで、警察やマスコミに、真冬さんは「死んだ」と伝えられたのだろう。〈酒呑童子〉や〈退鬼師〉のことを世に広めることはできないのだから。
尾ヒレがついた噂は、瞬く間に広がってしまった。
「待って」
凛津さんが急に口を挟んだ。
「有馬先輩は、今二年生でしょ?どうしてそれに関係しているの?」
た、確かにそうかも。辻褄が合わない。
「ったく、何でそんな簡単な算数もできねーの?」
有馬先輩は、ガリガリと頭を掻いた。
「俺、留学してるから」
この世界は、鬼の中。
運命すらも、彼等に握られている──。
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