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第九章
第四十五話
しおりを挟む父が語った話は、どれも自分が知らないことばかりだった。
俺は──俺達は、自分の無知さを突きつけられることになる。
* * *
「一希。お前は元々魂──幽霊というのが見えていたんだよ。ま、それも三歳だか四歳だかって頃のことだから覚えてないだろうがな」
今更そんなことに驚きはしなかった。
あの事件を境に、魂が見えるようになった。けど、それは結果論でしかない。俺はあの事件の直接的な被害がなかった。だからあの事件はきっかけじゃない。
魂に触れる機会がなかった。いや、触れる機会を作らなかったんだ。意図的に、巧妙に隠されていた。
「それでなお前……」
突然父さんが真顔になる。
「問題起こしたの」
「…………」
なんなんだその反応しにくい話題は。大昔のことだから記憶にない。まだゲラゲラ笑いながら言われた方がよかった。
「具体的に言うと、お前が幽霊と話したせいで、十人くらい誘拐されたの」
「…………」
ほら見ろ。女子二人も困ってるじゃん。どうしてくれるんだ。
父さんは「はいこれ証拠」とか言って、昔の新聞記事の切り取りを渡してくる。なにがそんなに楽しいのか。
そこには確かに、昔住んでいた町で起こった誘拐事件のことが書かれていた。でも、そこに「幽霊」という単語も、俺の名前もない。
「お前、そんなに俺のこと疑ってんの? おもいっきり顔に書いてるけど」
「うるさいな……。こんなこと、『信じてください』って言われて素直に信じられるかっての」
この人は他人をからかうことが、この世のどんな物より好きだ。俺をあおってるつもりなんだろうけど、今更その手には乗らない。
「これのどこが証拠だよ。なにも書いてないじゃないか」
「ま、そうだな」
潔く認めた。それで父さんが折れるとは思わない。
「お前に話を聞くと、透けたおじさんがなんとか、いっぱい人がいてなんとかって言っててな。噂がはびこって、どうにもならなかったから、元いた町を出ることにしたんだ」
だから話が飛びすぎている。そろそろ鬱陶しい。
「そこに行き着いた理由は?」
こっちはかなりイライラしているのに、父さんは話を引き伸ばしたがっているような態度だ。
「あそこが超がつくほどの排他的な所……ってのもあるが、一応俺達も直系だからな。守り姫サマの弟の」
そこで咲姫が口を挟む。
「守り姫には、同じ修行をしていた兄弟がいたみたいだから、おかしいわけじゃないけど……」
彼女が疑うのも無理はない。千年前の人物の血を引いていると、証明する術はない。
けど、そんな証明もいらないのだ。
彼等が「術」と呼ぶものを行使できる。それだけで十分だ。
「で、その姫サマがだな、実は水原の出身なの」
「え!? お姫様の出身!?」
一際大きな声を出したのは南帆。多分こいつはなにか勘違いしている。そんなことを一々訂正する人はいなかった。
「そうそう。お姫様の」
むしろ父さんは乗ってくる。話がややこしくなるだけなので、そのまま進めてください。
「姫サマが死んだ後、当時の帝についた兄は、すぐに没落した。内輪揉めから戦争に発展して、負けたんだ」
栄華を極めた貴族や大名が、一瞬で富や地位を失うのはよくある話。大切なのはここからだ。
「兄は自分の故郷──今の水原に帰ってくる。そして、こう決意する。『もう一度、妹が死んだ状況を再現するのだ』、とね」
そう言っておきながら、父さんは呆れたように笑う。
「まー、そいつも馬鹿だよね~。どうしてなんのメリットもないことしたいと思っちゃったんだか……」
一応ご先祖様にあたる人のことを貶すのはどうかと思う。
その人は、自分が一番栄えていた時期に戻りたかったんだ。理屈とか、そういうのはどうでもよくって、歪んでいった。そして……。
「今は、それしか残っていない」
俺の心を読んだかのようなタイミング。
でも、嫌な気はしない。
「結果、守り姫の死際を再現したい兄一族だけが残り、妹一族はそれを知らなかった」
咲姫は言う。
「だから『魂の封術士』の予言の、本当の意味もわからなかった」
本当の意味。父の言葉が全て、本当であるのなら。
「ねえ、おじさん」
南帆が青ざめた顔で言う。
「じゃあ私達は、そんなことのせいで死んだの? 大昔の、いたかいなかったかわからない人達のために?」
父さんは、南帆を見下したまま答えない。返答に困っているのか、それとも……。
「答えてよ! おじさん!」
怒鳴られて初めて口にされた事実は──。
「そうだ。お前達の学年以外の者は、皆知っている」
──自分達が無知であることを突きつけた。
南帆は言葉を失っている。当たり前だ。自分の知らないところで、自分を殺す計画が立てられていたのだ。
水原があまりにも排他的だったのは、そこに理由があったんだ。誰にも知られてはいけない。だから、外から来る人を拒み続けた。
それなら、自分があそこにいたのはなんのためだったんだろう。父さんは、俺が魂の封術士だと疑わなかったのか?
それを見抜いたかのように、父は言う。
「俺もめちゃめちゃ驚いたよ。まさかお前が封術士とは思わなくてな。たとえ予言の通りになったって、生き残るとは思ってたけど」
話は、これで全てのようだ。
「は~。思ったより長くなっちまったな。疲れた疲れた……」
と、わざとらしく伸びをする。
「このままだとお前、死ぬぞ?」
「…………」
死刑宣告。わかってた。この話を聞き始めた頃から。
「どうするつもりなんだ?」
どう答えたらいいのかわからなかった。ここで父さんをどうにかできたらいいのかもしれない。けど、父さんが魂の呪術士だと決まったわけじゃない。
でも、死にたいとは思わない。
「南帆を成仏させた上で、魂の呪術士に真っ向から立ち向かう。それしか、できないから」
今度は父さんが黙る番だった。
一分くらいだっただろうか? それくらい、時間があったような気がする。
「わかった」
ため息のような呟きが聞こえる。
父さんはもう、南帆に構うことはなかった。
「わかってるよな? 一希。弟の一族は、姉でも兄でも、どっちについてもいいんだ。俺個人は、兄の方についた」
声のトーンが一気に低くなる。
「お前は、俺とは逆の立場なんだよ」
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