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第十章
第四十八話
しおりを挟むおじさんと一希が戦っているのを見た。
当然、私にできることはなにもなかった。
咲姫ちゃんだって、傷ついている。
原因は、私だと言っても過言ではない。
* * *
「咲姫ちゃんおっはよー! 朝だよー!」
目覚まし時計に負けないくらいの大声を出す。霊体になってから、朝に強くなった。というより、眠らなくなった。
「んん……? 南帆ちゃん……おはよ……」
そんなことを言いながら、起き上がった咲姫ちゃんの頭が垂れていく。ほんと朝弱いよね。物理的に干渉できないから困ったものだ。
「学校遅刻するよ? 私知ってるからね? こないだ咲姫ちゃん遅刻しそうになって先生に怒られてたの」
それは一週間前のこと。正月と冬休みを挟んだ最初の登校日。生活リズムが戻りきらなかった咲姫ちゃんは、けたたましい目覚まし時計の音に一ミリも反応しなかった。私が全力で起こさなかったら、どうなっていたことか。
その後のことは、学校まで着いて行って見ていたから知っているんだ。申し訳ないけど笑っちゃった。咲姫ちゃんが項垂れてるのが新鮮で。
「うー……。それ今枝君にも似たようなこと言われた……」
と言いながら、意識が段々フェードアウト。
むしろ起こさない方が面白いかな?
なんて非道な考えが頭に浮かんだけど、なんとか振り払って咲姫ちゃんの目覚めをお手伝い。
五回目でようやく起きてくれました。
本日ずっきーは別登校。神社にいてもどうせ暇なので、咲姫ちゃんのお喋り相手──という名の暇潰し──として登校についてきた。
「不調?」
「そうそう。最近お札が全然使えなくてね~」
おじさん──一希のお父さんの一件以来、咲姫ちゃんはお札がうまく使えないそうな。
私はあまり咲姫ちゃんのかっこいいとこ見たことないな。いっつも「当たると危険だから」って見せてくれない。ずっきーとか本人とかの反応を見る限り、なにかあったっぽいし、強く聞けないけどやっぱり気になる。
「使わないよ? ……と言いたいところだけど、こっちは別にいっか」
私の視線に気付いたのか、咲姫ちゃんは渋々お札を取り出す。
こんなに間近で見るのは初めてかも。お札って以外と大きい。
咲姫ちゃんはお札を持った右手を振る。
なにも起きない。
「何回やってもこんな感じ」
「へー……」
「なんか変なんだよね」
「ほー……」
もちろん私はお札とか使えないので、咲姫ちゃんの感覚はわからない。
「色々試してみたんだけど、お兄ちゃんとかが使える普通のお札だけが使えないみたい。封術のは使えるんだけど……」
と首を傾げる咲姫ちゃん。
「ねえねえ、それっておじさんの能力封印しちゃったせいじゃない?」
咲姫ちゃんは不思議そうな顔でこちらを見てくる。漫画とかだと、頭の上にはてながついてそう。
「だからその、代償ってやつだよ。漫画じゃありきたりなやつ。おじさんのと一緒に、咲姫ちゃんのも使えなくなったとか」
そこで「なるほど~!」って感じの顔が返ってくる。
今気付いたんだ。
「あーそっか、そういうことか! 南帆ちゃん頭いいね~」
「う~ん……。咲姫ちゃんが気付かなかった方が不思議だよ……」
そうこうしているうちに学校について、私は手持無沙汰になってしまった。
何度目かの、始業のベル。
どこの学校でもほとんど変わらない響き。
ほんの数ヶ月前までは、この音嫌いだったんだけどな~。もうすっかり懐かしくなっちゃったよ。
そう思いながら、一希と咲姫ちゃんの教室を覗く。私は二人以外には見えないから、なにをしても平気。物理的ないたずらができないのはちょっと、いや、かなり寂しい。
「──で、ここに一番の式を代入して……」
黒板に白い文字を真面目に見てるのは、ほんの数人か。外から見てみると、色んなことがわかる。
ちなみにずっきーは馬鹿真面目に授業を聞いている。咲姫ちゃんは……寝てる。
お絵かきしている人、全然関係ない教科の勉強をしている人、髪の毛をいじって遊んでいる人。
もしかしたら、自分もあの中の一人だったかもしれないと思うと、なんだか不思議。
「──……そんなわけないかぁ」
おじさんの話だと、私達は皆死んじゃう運命だったんだよね。しかもそれを集落の皆は知っていて、隠してた。
お父さんとお母さんはどう思ってたんだろう。聞いてみたいけど、そんなことはできない。水原には帰れないから。戻ろうとしても、戻れない。
そういえば、穂積は中学校で成仏したって言ってたな。なんでだろ。私は帰れないのに。
一希が嘘ついてた? そんなわけない。嘘ついたって、なんの特もないもん。
「……あっ」
思わず声が漏れた。そうだ、あれがあった。
──怨霊。
でも他にも怨霊になった子いたな。その子達は雲谷で成仏してるし。なにが違うんだろ。
一人で頭を抱えていると、終業のベルが鳴った。むむ……。まさかこんなことに貴重な四十五分を使ってしまうとは。
ふらふら空を飛びながら、神社へ戻る。足を使わなくていいから楽だ。
神社にも、私が辿り着けない場所がある。この間言ってたお姫様が祀られてる場所。なんだか神秘的だね。
大した用事もないのに、いっぱい寄り道してたから遅くなっちゃった。もう一番星が輝いている。
壁をするりと通り抜け、ある部屋へ直行する。
「やっほー! ずっきー」
どうだ! 閉じた襖からすり抜けて、南帆ちゃん登場!
「…………」
うん。知ってた。無反応。
最近いたずらしても無反応なんだもん、この人。つまんない。
「一希ぃ!」
「えっ?」
大声で叫んでようやく気付いたみたいだ。
「あー……。なんだ、南帆か」
「なんだってなに」
「ありきたりな返答だな」
「む…………」
一希にしてやられた。なんか悔しい。
「なにしてんのー?」
机の中を覗いてみる。
「あ、歴史? 苦手だったもんね」
「うるさいな……」
けなしたつもりはなかったんだけどな。怒られちゃった。
平安時代か。似たような人いっぱい出てきてややこしいとこね。
「ここ、全部違ってるよ」
そう指摘すると、一希は「……まじか」とか言って消しゴムで消し消しする。
「あんた、社会いらないんじゃなかったっけ?」
返答は返ってこない。
これはあれだな。まだおじさんとなんの話もしてないやつだ。
一希がパラパラと教科書を捲っているのを眺める。
「……なにかあった?」
普段は少しちょっかいをかけただけでおさらばするけど、長かったから不審に思われたみたい。
「えっと……。ううん。なんでもない」
今は、まだ。もう少しだけ。
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