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36・あたらしい相棒で大いなる躍進か? ゲーマーは大変だ
しおりを挟む本日、午後8時にてレースに勤しんでいた望、待ち望んでいた瞬間の到来にたまらず大きめの声が出る。
「来た! ついにゲット!」
コントローラーを机に置き、両手ガッツポーズでキャッホー! と喜ぶのは、ずっと欲しいと思っていた車の入手に成功したからだ。
「シボレーコルベットグランスポーツ、ついに来た!」
メタリックブルーのボディーたるこの車は、速度、加速、ハンドリング、ニトロ、それらがバツグンに揃っていて高い戦闘力を誇ると情報は得ていた。望が相棒として認定しているACRよりワンランク上の車だ。ハンドリングが一番重要だろうと思うこのゲーマーにしてみれば、現在お気に入りナンバー1のACRと並べておきたいモノのひとつだった。
「性能数値はすべてにおいてACRに勝っている。しかし、実際に運転してフィーリング的になじむかどうか確認せねば。大いに期待しているぜグランスポーツ」
望、練習するためのステージを呼び出す。まずは走り心地をがっちり満喫したいということで、太くて長い直線が多く、曲がりはゆるいカーブばかりという爆速可能なステージことスコットランドを選ぶ。
「では!」
ヘッドホンから爆走しか頭にないようなエンジン音がして、ついにお目当ての車が走り出す。するとすぐさま望は感嘆の声を出さずにいられなくなる。
「すげぇ、この馬力! 皮が3枚くらいベリベリめくれるような勢い、しかもこの安定感、やばいよ、やばいよグランスポーツ」
およそ1分の運転中において黙っている時間は20秒もなかっただろう。とにかく心地よい、迷いなく火の玉ストレートみたいな走りができるってフィーリングと安心感がめちゃくちゃ心地よい。だからして望が黙っていられるわけはなかった。
「いますぐ対戦だ! と思ったけれど……その前にもうひとつ確認するか」
望はここで慎重な顔になり、つい先日の縁日を思い出す。彼女である翠名をナンパした糞な男とこのレースゲームで対戦して勝利した。そのとき車はACRでステージは大阪という組み合わせだった。
「あのバトルをやるとき……その前からけっこうスランプだったからなぁ、うまくやれるのかって死ぬほど緊張して怖かった。でもやってみたら自分でもびっくりするくらい上手くやれた。気づかない内に上達していて、それが開いたって事なんだろうな。あのときの走りは我ながらすごくキモチよかったんだ……だったらいま、同じ大阪をこの車で走ったら、いったいどのくらいキモチいいだろう」
まるで誰かに説明でもするみたいに長くつぶやいた望、多くのプレーヤーからけっこう嫌われているステージのひとつ大阪を選ぶ。
「いくぜグランスポーツ、おれの腕をサポートしてくれよ」
言って車を走らせる。そして中途半端な距離たるカーブに突入し、勢いをつけて抜け出してみると、ACRで同じ事をやるときより濃厚な快感が沸いた。
「うぉ、すげぇ、これがワンランク上の快感か」
望の体に鳥肌が立った。いま自分はあたらしい世界に飛び込んで走っているみたいな感覚がすごいアドレナリン放出を誘う。
「さていよいよ……」
ごくりとやった望が見るモニターには、大阪最大の難所とされる工場内へと突っ込む。そして短いカーブの連打に対するドラテクを望がやると、グランスポーツは良すぎるくらいにきれいに動いてくれる。まるで望が自分の手で曲がり線を描いているみたいであり、車は天に帰ろうと素早く泳ぎ移動していく金魚のよう。
「うぉ、これ、これ、これ……凄すぎ!」
望、車をゴールインさせるとたまらず立ち上がる。自分が国士無双なキャラになったようなフィーリングを噛みしめながら、両手にぎって天井に顔を向ける。そしてゲーマーが興奮を隠せるわけがないだろうとばかり叫ぶ。
「おれ、田中望はいまモーレツにカンドーしているぅぅ!!!!」
それから望、再びイスに座るとやってやる、やってやるぞ! と意気込みながら対戦に身を投じることとした。
「いまのおれとこの車なら……1位はダメでも3位は安定して狙えるんじゃないか。3位になったら3位以下のやつらを思いっきり笑い飛ばしてやるんだ」
ヘッドホンの音量をアドレナリンの大放出が確実ってところまで上げ、大阪ってステージを逆光で走り抜けることとする。
「始まった!」
一番後ろの8位ってところか始まる望であったが、ACRの時とちがいスーッと前に出ていける。そして6位となったところでいきなり難所の工場へ突入。
「ん……」
曲がる、キモチよく曲がる、まるで自分の手足みたいな感じで手にしたばかりの車がクイクイっと曲がりサーっと進んでいく。
「よっしゃぁ!」
勢いよく工場を飛び出して3位になった。いい感じだ、今までこんなにキモチいいと思った事はなかったぞと興奮がよりいっそう熱くなる。
「し、しかし……1位のやつってなぜあんなに速いんだ……いったいどこでどういう差がつくんだ、未だにわかんねぇ!」
望、圧倒的な先頭車には追いつけないと、感情がマイナスに陥りかける。しかしここは冷静になると自分に言い聞かせ、1位は無視して2位になるのだと心を定める。
「2位のやつ、絶対に抜いてやる……追いつけるはず、追いつけるはず」
レースが熱い、望のグランスポーツが燃える。もうすぐ、もうすぐ2位の車をとらえる。そして残りを考えたら抜くことだってできるはず。望、初めての2位獲得か! と思われたとき、人生はそんなに甘くねぇよ! って言われているみたいなアクシデントが発生してしまう。
ガン! っと後ろから突かれた。4位の車が望を抜こうとしている。そうなのだ、敵を抜こうと前ばかり見ていたら、後の敵に抜かれかけている。
「おまえ、ふざけるなよ、ジャマするんじゃねぇよボケ! おまえみたいなアホは4位のままあの世に逝きやがれ!」
望からいかにもゲーマーらしい暴言が出てきた。しかしゲームの神さまは望に試練を与えるって方を取った。
―ぐしゃー
すごい音がして望の車が転がり回って大破。それは後ろの車から回転タックルを食らってしまったせいである。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁl!!!!!!」
望が絶叫、コントローラーをモニターに投げつけるわけにはいかないから、ティッシュの箱を床に落としたら思いっきり何回も力強く踏みつける。
「ふざけるな、クソッパゲ野郎……おまえみたいなアホがいるから人が不幸になるんだろうが。おまえみたいなアホは世のため人のために何回でも死ねっつーんだよ! くそぉ、くそぉ、くそぉ、くそぉ!!!」
望、コントローラーを持って自分を貶めたクソ野郎をブッ殺したいと思う。だがクラッシュによって6位まで順位を落とされたらもう復讐はできない。
「くそぉ、殺したい、殺したい、あのクソ野郎を殺したい、殺したいのに、殺したいのに、あのクソ野郎を殺したいのに!」
物騒な事を叫びまくる望だが、レースは5位で終わった。むごい、あまりにもむごい! と言わざるを得ない。出来上がったおいしそうなクリスマスケーキを食べる前に捨てられてしまったみたいな哀しさが胸の内に広がる。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!! あのクソ野郎……あんなバカがいるからこの世からストレスが消えないんだ。あんなクソ野郎は回っている扇風機に顔面押し付けて目玉飛び出してぐちゃぐちゃのスプラッターにしてぶっ殺すしかない。そうでなきゃ誰も幸せになれない。くっそぉ、ムカつく、ムカつく、ムカつく!」
散々に暴言を吐きまくった。そして怒りが収まってくると、暴言吐きまくりだった自分を少しだけ恥ずかしいと思ったりする。
「おほん! 冷静に考えてみて、あのバカ、人間のクズに絡まれなきゃ最低でも3位だったんだ。つまり上位に入るだけの力が付きつつあるって事なんだ。だからここは冷静になろう、あの人間以下のバカクソ野郎のために取り乱すのは自分が損するだけだもんな」
気を取り直した望、再びイスに座ってコントローラーを持つ。そしてゲーマーの道はきびしいのだと自分に言い聞かせたが、がんばるためにもうひとつつぶやいた。彼女にいい格好を見せたい、そのためにもおれはがんばるのみだ! と。
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