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月を爆破せよ(月下人撃滅計画)6

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―本日は運命の日なりー

 朝からずっと気が気でなかった真治、姉の優子が午後7時半から8時くらいに家を出ていくだろうと予想していた。

(ほんとうに月へ行くつもりなんだ……)

 真治は優子がこっそりと物置近くにカバンを置いたことを知っている。カバンを持って夜のウォーキングとか言ったら親に声をかけられるだろう。だからカバンは先に外へ出しておく。つまり優子はほんとうに月の都へ行くつもりなのだ。

「わたしちょっとウォーキングしてくる」

 午後7時40分、真治が思った通り優子が台所にいる母へそう伝えた。

「よいしょっと……」

 玄関で靴を穿く優子だが、おどろくべきことに何ら悪びれる様子もなければおびえる感も。月野住人によっぽど悪い魔法をかけられてしまったのか、優子は地球を捨てることに一切の迷いを抱いていない。

(よし……)

 家を出た優子、物置の近くに隠し置いていたカバンをつかむ。すると後ろから不意に声をかけられた。

「お姉ちゃん」

「あぅ、し、真治……びっくりするじゃん」

「どこに行くの?」

「ど、どこってウォーキングだけれど」

「こんな時間にカバン持ってウォーキングなんかするの?」

「う、うるさいな、とにかくわたしはウォーキングするんだ」

「じゃぁぼくもウォーキングする」

「えぇ……」

 真治はイヤがっている優子にべったりついてあれこれ口うるさく質問したりしゃべったりした。でもそれは時間稼ぎであり、その間にカエルーノが月下人を撃退してくれると期待してのこと。

―そしてこちらは月野住人が優子を待つ公園―

「いよいよだ、優子……あんなかわいくて魅力的な巨乳女子を連れていけるなんて、くふふ、これからは毎晩がたのしみだ」

 優子や女子としゃべるときはキザな表現を多用する住人だが、いまここでは下品で粗野で肉欲にデレデレしまくりな本性丸出し状態で優子がやってくるのを待っていた。

「そこのきみ」

 突然に声がしたのでおどろいて前を見る。誰もいない? と不思議に思ったのだが、よーく見ると月明かりの下に妙なチンチクリン生体が立っている。それは身長は30cmくらいでマントを着けているカエルだ。

「か、カエルが2本足で……」

「こんな時間に少年がひとりで何をしているのかな?」

「うっせーな、カエルに用はないんだよ、あっちいけ、シッシ」

「きみはあれかい? ひとりの女の子を月に連れて帰りたいとか思っているのかい?」

「ん?」

「たとえば連れ去れりたいと思っている女の子の名前は中野優子とか、ちがうかな?」

「おまえ……何者だ!」

 言われたカエルーノ、スーッと名剣「グラディウス」を取り出す。その剣体がキラッと光る。

「我が名はカエルーノ、今ここでは正義の味方だ」

「何が正義の味方、カエルが寝言ほざいてんじゃねーぞ」

「寝言かどうか……受けてみるがいい!」

 言った次の瞬間、カエルーノが駆ける。それは住人に向かって突き進むつむじ風!

(は、速い……)

「ひとりで月に帰れ!」

 おどろいた住人にカエルーノの振ったグラディスが向かう。ベンチに座っていた住人の腹を横から深くえぐらんと向かっていく。

「く……」

 バッと夜空にバク宙で舞い上がる住人、さすがに肝を冷やしたのか、呼吸を整えながらつぶやかずにいられない、くそったれ! と。

「よく避けた。だがおまえが優子さんをあきらめて一人で月に帰ると約束しないのであれば、次は外さない」

「く、くくく……あーはははは」

「何がおかしい」

「おかしいぜ、容赦しないだって? そんなチビなカエルにやられるほどおれは落ちぶれていないつーんだよ」

 言った住人の体が月明りを浴びながら少し大きくなる。それは小6の少年ではなく、20歳くらいのたくましい青年という姿であり、身長は190cmくらいとなる。

「カエル、ムカついたからおまえは殺す。ぐっちゃぐっちゃにしてカエルジュースにしてやるからな」

 言った住人の手にはこれまた名高い剣、スパタがある。だがそれを目にして臆するカエルーノではなかった。

「では、このカエルーノも同じ土俵に立とう」
 言うとカエルーノの体もよくわからない色の光に包まれた。するとどうだ、その見た目は人間男子、しかもめっちゃすごいイケメン! になり、身長は190cmのたくましい青年と化す。

「このカエルーノこそ、優子さんを守るためにおまえを永遠の闇に葬ろう」

 カエルーノもまたスパタを手にする。そうやって両者は月の明かりが印象的な公園の中央でにらみ合う。

「でい!」

「でやぁ!」

 2人が舞い踊る。かけ声と同時に剣のぶつかり共鳴する音が鳴り響く。それは地球の名誉と月の欲望をかけた戦いであり、カエルノーが負けるは優子という女子が連れ去られるという事だった。

 ギン! っと両者の剣がぶつかりせめぎ合う。その中で住人はカエルーノに問う。

「カエル、おまえは優子が好きなのか?」

「あぁ、このカエルーノ、おのれのハートを優子さんに捧げられたらどんなにいいだろうと思っている」

「プッ、まったくおまえって笑わせてくれるぜ」

 ここで住人の蹴りがカエルーノの腹に入った。それは強烈な一撃だったから、ズサーっと音を立てカエルーノの体が真後ろに流れていく。

「カエルが優子に恋をするとか冗談きついぜ、なぁカエルーノよぉ。そういうのを報われない恋とか言うんだろう。おまえはどんなにがんばっても優子とは結ばれないんだぜ? バカじゃねぇの? 空しいとか思わねぇのかよ」

 ギャーハハハ! と夜空に向かって爆笑する住人。それは相手の精神に対する攻撃として成り立つはずだった。

「何がそんなにおかしいのか理解ができない」

「なんだと?」

「このカエルーノ、報われるとか相手にされるとかではなく、まっすぐな思いを抱くことに価値があると思っている」

「うわ、恥ずかしいセリフ……」

「そしてもうひとつ! 男のたましいはステキな女性へ捧げるためにある。男は女を幸せへ導くために戦わねばならないのだ」

「あ、そ……だったらよぉ、おまえは好きな女のためなら死ねるとか真顔で言うタイプなのか?」

「それこそ……男子の崩壊、それに勝るモノなしだ」

 堂々言い放つカエルーノの前髪が夜風に吹かれて動く。それは住人に対する精神攻撃って威力があった。なぜなら住人は、男として敗北したようなキモチにさせられてしまったから。
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