21 / 223
21・シアワセにはヒビを入れたくなる3
しおりを挟む
21・シアワセにはヒビを入れたくなる3
10日間、ひとまず椎奈はおとなしくした。浮気相手である太郎の方もそれがよかったらしく、久しぶりに平穏な10日が流れた。
が、しかし……32歳の女にとってみれば、浮気セックスでしびれる事を知っているのに平穏というのは苦しかったのも事実。しかも旦那である老気太が忙しさで疲れセックスをしなかったこともあり、椎菜の中にある女は疼いてしまって大変。
「あ、太郎から電話」
それは午6時50という時間帯、家には椎菜しかおらず、夫の老気太はまだ帰ってこないと断言できる時間帯。
「あぁ、太郎、久しぶり」
「あぁ、10日って短いようで長いよな」
「そう思う。実を言うとわたし……疼いちゃって」
「おれもだよ、椎菜と愛し合いたくてたまらないんだ」
「太郎……」
「って、ちょっと待ってくれ、会社の同僚から横入り電話が来た。1時間ほどしたらかけ直したいんだけど、いいか?」
「だいじょうぶ、うちの旦那は9時過ぎまでは帰って来ない」
「じゃぁ、1時間後くらいにかけ直す」
こうして一度電話は切られた。そして椎菜という女に油断が生じた。あまりお腹が減っていないので先にオフロへ入ろうと決めたわけであるが、スマホを居間のテーブルに置きっぱなし。油断大敵という言葉を知らないか軽視したみたいな行動を取った。
「ふぅ、久しぶりに早く終わるとうれしいもんだ」
旦那こと老気太が自宅の近くまでやってきていた。そうなのだ、今日に限ってめずらしく早くに解放されたのである。たまには洒落たことのひとつもしてみるかと思い、ケーキを2つ買ったりもした。
「ただいま」
玄関を開けると妻の姿は出て来ない。代わりにシャワーをしている音が聞こえる。
「先にオフロってか」
老気太はケーキを居間のテーブル上に置き、台所で手洗いしようと思った。するとそのとき妻のスマホが鳴ったのである。もちろんプライベートに首を突っ込む趣味はないので、通り過ぎるつもりだった。だが留守電に向かってしゃべり始めた声と内容を聞けば、ピタッと動きや神経が一時停止。
「椎奈、ちょっと用事で出かける事になったから先に言っとく。明日、午後0時に〇〇駅前でどうかな? 明日は時間が多めに取れそうだから、ラブホテルでたっぷり愛し合えるよ。じゃぁ、明日を楽しみにしているから」
そう、モロに聞こえてしまったのである。男の声、しかも話の内容、その2つが合わさると、どうしたってごくふつうには思えない。
「誰だ……」
妻に申し訳ないとか思うより先に、スマホの画面を見てみる。
「太郎? 太郎って誰だ……し、しかも太郎、カッコ浮気相手ってなんだ。浮気、浮気、浮気相手、じゃぁ今の伝言の内容って」
そうなのだった、これまたバカな話なのだった。椎奈はスマホを誰かに見せるつもりはまったくないとしながら、ちょっと緊張を味うため太郎の名前にはこう登録した。
―太郎(浮気相手)―
こういう文字がディスプレイに表示されると、バレるとヤバいって緊張が適度な快感に結び付くと椎奈は感じていたわけである。
「ふぅ、いい湯だった」
何も知らない椎菜がほこり顔で入ってきた。そしてガタ! っと焦りの身固まりをしてしまう。
「ふ、老気太……帰っていたの?」
慌ててスマホをつかもうとしたら、とても傷ついたという声で突っ込まれる。
「誰だよ太郎って……」
言われてドキ! っとしたものの、なにそれ? とシラを切る。
「留守電への吹き込み、丸聞こえだったぞ」
言われて椎菜は青ざめる。ディスプレイを見れば着信履歴のみならず、留守電という表記まであるから観念するしかない。
「あっとこれは……」
「これはなんだ?」
「と、友だちだよ、ハハ……」
「友だち?」
老気太、はげしい動揺でまともな会話ができそうにない妻を見ながら白い箱を開ける。そして2つあるショートケーキの一つをつかむと、それを思いっきり妻の顔面に押し付ける。
「ラブホテルでたっぷり愛し合うんだろう? だったらこのケーキも食えよ、愛し合うように味わって食えばいいだろう」
グリグリっとつよく押し付けてから手を離すと、ベチャっと音がし残骸がテーブルに落ちる。
「老気太、待って、話を聞いて」
「今さらなんの話があるっていうんだ!」
ドン! とにぎった両手でテーブルを叩く。それは老気太にとってはめずらしい怒りの姿。こうなると浮気していた妻に勝ち目ない……と思われたが、素直に謝れない性格なのか、あるいは俗に言う逆ギレモードの発動なのか、どちらにせよ椎奈はあまりよろしくない態度に出た。
「なに、じゃぁどうするの?」
「な、なに?」」
「離婚する? たった一回の過ちを許さず、離婚してわたしを捨てる?」
「お、おまえ、何を開き直って……」
「人間はね、誰だって失敗をするモノ。立場が逆だったら、わたしは老気太を許すわ。でも老気太はどうなの? わたしを許さない? 離婚する?」
「り、離婚……」
「捨てるなら捨てるって言いなさいよ。でもね、老気太みたいな男、わたし以外の誰が寄り添ってくれるっていうの? 22歳ならまだしも32歳。しかも実年齢より老けて見えるし、おもしろくないし、いろいろとマンネリだし、セックスもマンネリ。これであたらしい生活を構築できると思うの?」
「ん……」
「一晩よーく考えるのね、ほんとうにこのわたしを捨てられるかどうか」
なぜか、どうしてか、立場が逆転していた。ほんらい気の毒であるはずの老気太が悪者的になり、反省するべきはずの椎奈が勢いある聖者のよう。
「クソ!」
老気太、冷蔵庫から缶ビールだのつまみになりそうなモノなどを取り出しお盆に乗っけると、それを持って自分の部屋に入ってしまった。
「バレた……か」
ひとりになった椎菜、ティッシュで顔をぬぐいながら、今のはないよなぁ、絶対自分がまちがっているよなぁと思いながら、捨てられたらどうしようという不安もたっぷり胸に抱えながら、夫は自分を許すべきという思いをつよく持つ。それから洗面所に行き、ジャーっと勢いよく流れる水がお湯に変わるのを待ちながら、ぶつぶつ悲しそうな力強そうな声でぼやく。
「人は過ちを犯すモノ。許さなきゃいけないの、一回は許すべきなの。だから老気太はわたしを許すべき……そうでないとシアワセになれない」
10日間、ひとまず椎奈はおとなしくした。浮気相手である太郎の方もそれがよかったらしく、久しぶりに平穏な10日が流れた。
が、しかし……32歳の女にとってみれば、浮気セックスでしびれる事を知っているのに平穏というのは苦しかったのも事実。しかも旦那である老気太が忙しさで疲れセックスをしなかったこともあり、椎菜の中にある女は疼いてしまって大変。
「あ、太郎から電話」
それは午6時50という時間帯、家には椎菜しかおらず、夫の老気太はまだ帰ってこないと断言できる時間帯。
「あぁ、太郎、久しぶり」
「あぁ、10日って短いようで長いよな」
「そう思う。実を言うとわたし……疼いちゃって」
「おれもだよ、椎菜と愛し合いたくてたまらないんだ」
「太郎……」
「って、ちょっと待ってくれ、会社の同僚から横入り電話が来た。1時間ほどしたらかけ直したいんだけど、いいか?」
「だいじょうぶ、うちの旦那は9時過ぎまでは帰って来ない」
「じゃぁ、1時間後くらいにかけ直す」
こうして一度電話は切られた。そして椎菜という女に油断が生じた。あまりお腹が減っていないので先にオフロへ入ろうと決めたわけであるが、スマホを居間のテーブルに置きっぱなし。油断大敵という言葉を知らないか軽視したみたいな行動を取った。
「ふぅ、久しぶりに早く終わるとうれしいもんだ」
旦那こと老気太が自宅の近くまでやってきていた。そうなのだ、今日に限ってめずらしく早くに解放されたのである。たまには洒落たことのひとつもしてみるかと思い、ケーキを2つ買ったりもした。
「ただいま」
玄関を開けると妻の姿は出て来ない。代わりにシャワーをしている音が聞こえる。
「先にオフロってか」
老気太はケーキを居間のテーブル上に置き、台所で手洗いしようと思った。するとそのとき妻のスマホが鳴ったのである。もちろんプライベートに首を突っ込む趣味はないので、通り過ぎるつもりだった。だが留守電に向かってしゃべり始めた声と内容を聞けば、ピタッと動きや神経が一時停止。
「椎奈、ちょっと用事で出かける事になったから先に言っとく。明日、午後0時に〇〇駅前でどうかな? 明日は時間が多めに取れそうだから、ラブホテルでたっぷり愛し合えるよ。じゃぁ、明日を楽しみにしているから」
そう、モロに聞こえてしまったのである。男の声、しかも話の内容、その2つが合わさると、どうしたってごくふつうには思えない。
「誰だ……」
妻に申し訳ないとか思うより先に、スマホの画面を見てみる。
「太郎? 太郎って誰だ……し、しかも太郎、カッコ浮気相手ってなんだ。浮気、浮気、浮気相手、じゃぁ今の伝言の内容って」
そうなのだった、これまたバカな話なのだった。椎奈はスマホを誰かに見せるつもりはまったくないとしながら、ちょっと緊張を味うため太郎の名前にはこう登録した。
―太郎(浮気相手)―
こういう文字がディスプレイに表示されると、バレるとヤバいって緊張が適度な快感に結び付くと椎奈は感じていたわけである。
「ふぅ、いい湯だった」
何も知らない椎菜がほこり顔で入ってきた。そしてガタ! っと焦りの身固まりをしてしまう。
「ふ、老気太……帰っていたの?」
慌ててスマホをつかもうとしたら、とても傷ついたという声で突っ込まれる。
「誰だよ太郎って……」
言われてドキ! っとしたものの、なにそれ? とシラを切る。
「留守電への吹き込み、丸聞こえだったぞ」
言われて椎菜は青ざめる。ディスプレイを見れば着信履歴のみならず、留守電という表記まであるから観念するしかない。
「あっとこれは……」
「これはなんだ?」
「と、友だちだよ、ハハ……」
「友だち?」
老気太、はげしい動揺でまともな会話ができそうにない妻を見ながら白い箱を開ける。そして2つあるショートケーキの一つをつかむと、それを思いっきり妻の顔面に押し付ける。
「ラブホテルでたっぷり愛し合うんだろう? だったらこのケーキも食えよ、愛し合うように味わって食えばいいだろう」
グリグリっとつよく押し付けてから手を離すと、ベチャっと音がし残骸がテーブルに落ちる。
「老気太、待って、話を聞いて」
「今さらなんの話があるっていうんだ!」
ドン! とにぎった両手でテーブルを叩く。それは老気太にとってはめずらしい怒りの姿。こうなると浮気していた妻に勝ち目ない……と思われたが、素直に謝れない性格なのか、あるいは俗に言う逆ギレモードの発動なのか、どちらにせよ椎奈はあまりよろしくない態度に出た。
「なに、じゃぁどうするの?」
「な、なに?」」
「離婚する? たった一回の過ちを許さず、離婚してわたしを捨てる?」
「お、おまえ、何を開き直って……」
「人間はね、誰だって失敗をするモノ。立場が逆だったら、わたしは老気太を許すわ。でも老気太はどうなの? わたしを許さない? 離婚する?」
「り、離婚……」
「捨てるなら捨てるって言いなさいよ。でもね、老気太みたいな男、わたし以外の誰が寄り添ってくれるっていうの? 22歳ならまだしも32歳。しかも実年齢より老けて見えるし、おもしろくないし、いろいろとマンネリだし、セックスもマンネリ。これであたらしい生活を構築できると思うの?」
「ん……」
「一晩よーく考えるのね、ほんとうにこのわたしを捨てられるかどうか」
なぜか、どうしてか、立場が逆転していた。ほんらい気の毒であるはずの老気太が悪者的になり、反省するべきはずの椎奈が勢いある聖者のよう。
「クソ!」
老気太、冷蔵庫から缶ビールだのつまみになりそうなモノなどを取り出しお盆に乗っけると、それを持って自分の部屋に入ってしまった。
「バレた……か」
ひとりになった椎菜、ティッシュで顔をぬぐいながら、今のはないよなぁ、絶対自分がまちがっているよなぁと思いながら、捨てられたらどうしようという不安もたっぷり胸に抱えながら、夫は自分を許すべきという思いをつよく持つ。それから洗面所に行き、ジャーっと勢いよく流れる水がお湯に変わるのを待ちながら、ぶつぶつ悲しそうな力強そうな声でぼやく。
「人は過ちを犯すモノ。許さなきゃいけないの、一回は許すべきなの。だから老気太はわたしを許すべき……そうでないとシアワセになれない」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、10人の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる