息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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21・シアワセにはヒビを入れたくなる3

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21・シアワセにはヒビを入れたくなる3


 10日間、ひとまず椎奈はおとなしくした。浮気相手である太郎の方もそれがよかったらしく、久しぶりに平穏な10日が流れた。

 が、しかし……32歳の女にとってみれば、浮気セックスでしびれる事を知っているのに平穏というのは苦しかったのも事実。しかも旦那である老気太が忙しさで疲れセックスをしなかったこともあり、椎菜の中にある女は疼いてしまって大変。

「あ、太郎から電話」

 それは午6時50という時間帯、家には椎菜しかおらず、夫の老気太はまだ帰ってこないと断言できる時間帯。

「あぁ、太郎、久しぶり」

「あぁ、10日って短いようで長いよな」

「そう思う。実を言うとわたし……疼いちゃって」

「おれもだよ、椎菜と愛し合いたくてたまらないんだ」

「太郎……」

「って、ちょっと待ってくれ、会社の同僚から横入り電話が来た。1時間ほどしたらかけ直したいんだけど、いいか?」

「だいじょうぶ、うちの旦那は9時過ぎまでは帰って来ない」

「じゃぁ、1時間後くらいにかけ直す」

 こうして一度電話は切られた。そして椎菜という女に油断が生じた。あまりお腹が減っていないので先にオフロへ入ろうと決めたわけであるが、スマホを居間のテーブルに置きっぱなし。油断大敵という言葉を知らないか軽視したみたいな行動を取った。

「ふぅ、久しぶりに早く終わるとうれしいもんだ」

 旦那こと老気太が自宅の近くまでやってきていた。そうなのだ、今日に限ってめずらしく早くに解放されたのである。たまには洒落たことのひとつもしてみるかと思い、ケーキを2つ買ったりもした。

「ただいま」

 玄関を開けると妻の姿は出て来ない。代わりにシャワーをしている音が聞こえる。

「先にオフロってか」

 老気太はケーキを居間のテーブル上に置き、台所で手洗いしようと思った。するとそのとき妻のスマホが鳴ったのである。もちろんプライベートに首を突っ込む趣味はないので、通り過ぎるつもりだった。だが留守電に向かってしゃべり始めた声と内容を聞けば、ピタッと動きや神経が一時停止。

「椎奈、ちょっと用事で出かける事になったから先に言っとく。明日、午後0時に〇〇駅前でどうかな? 明日は時間が多めに取れそうだから、ラブホテルでたっぷり愛し合えるよ。じゃぁ、明日を楽しみにしているから」

 そう、モロに聞こえてしまったのである。男の声、しかも話の内容、その2つが合わさると、どうしたってごくふつうには思えない。

「誰だ……」

 妻に申し訳ないとか思うより先に、スマホの画面を見てみる。

「太郎? 太郎って誰だ……し、しかも太郎、カッコ浮気相手ってなんだ。浮気、浮気、浮気相手、じゃぁ今の伝言の内容って」

 そうなのだった、これまたバカな話なのだった。椎奈はスマホを誰かに見せるつもりはまったくないとしながら、ちょっと緊張を味うため太郎の名前にはこう登録した。

―太郎(浮気相手)―

 こういう文字がディスプレイに表示されると、バレるとヤバいって緊張が適度な快感に結び付くと椎奈は感じていたわけである。

「ふぅ、いい湯だった」

 何も知らない椎菜がほこり顔で入ってきた。そしてガタ! っと焦りの身固まりをしてしまう。

「ふ、老気太……帰っていたの?」

 慌ててスマホをつかもうとしたら、とても傷ついたという声で突っ込まれる。

「誰だよ太郎って……」

 言われてドキ! っとしたものの、なにそれ? とシラを切る。

「留守電への吹き込み、丸聞こえだったぞ」

 言われて椎菜は青ざめる。ディスプレイを見れば着信履歴のみならず、留守電という表記まであるから観念するしかない。

「あっとこれは……」

「これはなんだ?」

「と、友だちだよ、ハハ……」

「友だち?」

 老気太、はげしい動揺でまともな会話ができそうにない妻を見ながら白い箱を開ける。そして2つあるショートケーキの一つをつかむと、それを思いっきり妻の顔面に押し付ける。

「ラブホテルでたっぷり愛し合うんだろう? だったらこのケーキも食えよ、愛し合うように味わって食えばいいだろう」

 グリグリっとつよく押し付けてから手を離すと、ベチャっと音がし残骸がテーブルに落ちる。

「老気太、待って、話を聞いて」

「今さらなんの話があるっていうんだ!」

 ドン! とにぎった両手でテーブルを叩く。それは老気太にとってはめずらしい怒りの姿。こうなると浮気していた妻に勝ち目ない……と思われたが、素直に謝れない性格なのか、あるいは俗に言う逆ギレモードの発動なのか、どちらにせよ椎奈はあまりよろしくない態度に出た。

「なに、じゃぁどうするの?」

「な、なに?」」

「離婚する? たった一回の過ちを許さず、離婚してわたしを捨てる?」

「お、おまえ、何を開き直って……」

「人間はね、誰だって失敗をするモノ。立場が逆だったら、わたしは老気太を許すわ。でも老気太はどうなの? わたしを許さない? 離婚する?」

「り、離婚……」

「捨てるなら捨てるって言いなさいよ。でもね、老気太みたいな男、わたし以外の誰が寄り添ってくれるっていうの? 22歳ならまだしも32歳。しかも実年齢より老けて見えるし、おもしろくないし、いろいろとマンネリだし、セックスもマンネリ。これであたらしい生活を構築できると思うの?」

「ん……」

「一晩よーく考えるのね、ほんとうにこのわたしを捨てられるかどうか」

 なぜか、どうしてか、立場が逆転していた。ほんらい気の毒であるはずの老気太が悪者的になり、反省するべきはずの椎奈が勢いある聖者のよう。

「クソ!」

 老気太、冷蔵庫から缶ビールだのつまみになりそうなモノなどを取り出しお盆に乗っけると、それを持って自分の部屋に入ってしまった。

「バレた……か」

 ひとりになった椎菜、ティッシュで顔をぬぐいながら、今のはないよなぁ、絶対自分がまちがっているよなぁと思いながら、捨てられたらどうしようという不安もたっぷり胸に抱えながら、夫は自分を許すべきという思いをつよく持つ。それから洗面所に行き、ジャーっと勢いよく流れる水がお湯に変わるのを待ちながら、ぶつぶつ悲しそうな力強そうな声でぼやく。

「人は過ちを犯すモノ。許さなきゃいけないの、一回は許すべきなの。だから老気太はわたしを許すべき……そうでないとシアワセになれない」
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