息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

jun( ̄▽ ̄)ノ

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49・売る側と買う側5

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49・売る側と買う側5


「おかしい、これは絶対におかしい」

 自宅のマイルームドアに貼ってあるカレンダーを見ながら鳥子が愚痴るようにこぼした。

「これはまちがいなくおかしい!」

 いったい何がそんなにおかしいのか? と言えば、結婚相談所に行って登録してからというもの、一向にお知らせが来ないという事実。それが2か月目に突入すると、相談所が仕事をサボっているのだと疑りを持つ。

 一方で卓郎はどうなっているか? こちらは相も変わらず、さみしそうな目で鳥子を見ることが多い。そしてたまには喫茶店で話をしない? と言ってきたりもする。それからすればまちがいなく卓郎は鳥子に未練があると同時に、あたらしい恋を探すって動きに出ているわけでもない。

「卓郎がわたしから離れられないのは予定通り。だけど結婚相談所はいただけない。あいつら仕事していないでしょう、絶対に」

「もうガマンできない。電話する!」

 午後8時、ついに鳥子は相談所に向かって電話をした。そして自分に応対した年下の女を呼び出すと、さっそく不満をぶつけてやる。

「聞きたいんですけどぉ、どうして何も連絡がないんですか? わたしが登録してもう2か月ですよ、2か月! 言いたくないんですけどぉ、もしかしてそちら、仕事をサボっているって事はないですよね?」

「そんな、毎日鳥子さんに対する求愛がないかチェックするはもちろん、鳥子さんみたいな女性がいらっしゃいますよ? と男性に持ち掛けたりもしています。これはウソではありません」

「だったらどうしてわたしに連絡がないのよ、おかしいでしょう」

「いえ、その……なにぶん鳥子さんのハードルが高くて、なかなか寄って来る男性がいないのです。もし……もしもですけど、条件を少し緩和してくださるなら、いまここでも数人の男性を報告することはできるのですが……」

「条件の緩和ぁ?」

 鳥子、一瞬ばかり悩んだ。緩和とはやさしい響きだが、条件を提示した側にしてみれば敗北的な話でもある。どうするか、ふざけるんじゃねぇ! と怒鳴るか、それとも話くらいは聞いてみるか……と考えたら、当然のごとく聞くくらいはしたいとなる。

「どんな人なんですか?」

「えっとですね、まずは年齢34歳の方で年収は3,240,000円。身長は170cmで、髪の毛はちょっと薄いかも……あと体毛も少し濃いかも……だけど趣味はウオーキングと健康的ですし、話してみればすごくやさしい人なんですよ。きっと鳥子さんをシアワセに……」

「ふざけないで!」

「え……」

「なんでそんな食中毒必至の売れ残り弁当みたいなモノにわたしが嫁がなきゃいけないのですか? 人をバカにしているんですか?」

「鳥子さん、その言い方はダメです。そんな言い方は相手に対してすごく失礼ですよ?」

「べ、別にいいでしょう……だってこっちは女なんだから、女は売る側なのだから」

「鳥子さん、その考え方……止めませんか? それではシアワセの風船が遠のいていくばかりですよ?」

「じゃぁどんな考え方をするというのですか?」

「たいせつなのは愛と謙虚なんです。そう、愛と謙虚なキモチの2つがあればどんな原野も夢のフィールドに変換できるんです。2人で共に愛し合い歩んでいこうって、そういうやさしい謙虚なキモチこそが……」

「おぇぇ……」

 電話をしていて目の前がクラクラする鳥子だった。そしてこれは絶対に妥協してはいけないなぁと、前にも増して高望みって美意識を強固にする。

「えっと他にはですね」

「もういいです。条件を緩和する気なんてありませんから」

「え、鳥子さん」

 先方は条件を緩和した上でシアワセ探しをしようとテンションを上げていた。でもそれ鳥子には大変不愉快に感じるモノだった。よって電話はここで終了となり、スマホはベッド上に向かってやんわり放り投げられた。

「なーにが条件緩和、なーにがシアワセの風船、そんなの認めたらダメ、それでもいいとか認めたら女が廃れてしまう」

 鳥子はいくぶん感じる不安を胸に腕組みをこしらえた。そして謙虚になってみてはどうか? などと、どこからともなく聞こえる声に意識を飲み込まれそうになる事を否定。

「まだだいじょうぶ、わたしならだいじょうぶ。それにイザとなれば卓郎というカードもある。そんなわたしが負け犬みたいに条件緩和する必要なんてないんだ」

 こうしてほんの一瞬キモチが落ち込みかけた鳥子は元の勢いを取り戻す。女の花はこれから開くとか鼻歌をやってベッドにゴロっと寝転がったりする。

―一方その頃、卓郎―

「あぁ、さみしいよぉ……」

 損擦岳卓郎、自室のベッドに横たわり彼女がいない男は悲惨だとぼやく。そしてさらには、こんな展開になってもなお鳥子が忘れられず、バカかよ! と自分に言ってもなお鳥子から離れられない自分を嘆く。


「出会いなんて今さら……あるんだろうか」

 卓郎は天井を見上げ思ってみた。16歳の頃なら新たな出会いは求めなくてもやってくるという感じだったし、出会いそのものに不自由するという想像ができなかった。しかし10年ほどが経過した現在はちがう。出会いなんて言葉はゆっくり確実に遠ざかっている。それは地球から離れているという月みたいなモノ。

「出会い……結婚相談所……そういう場所もあるといえばあるのか」

 突然に、なぜ今まで気づかなかった的に思いつく。そう言えば結婚相談所とかいう手段があるじゃないか! と。

「や、やってみようかな……」

 寝転がっていた男は体を起こす。そしてスマホではなく机上のデカいディスプレイを見つめてマウスを握る。デスクトップパソコンで結婚相談所というモノを検索してみようと思ったせいだ。

「けっこうたくさんあるんだな。だ、だけど……」

 いかんせん鳥子しか知らない男なので、鳥子に腹を立てたとしても、鳥子から離れようとすれば怖くなる。

「でも……もし、鳥子よりステキな女の子と出会えたら……おれが鳥子に執着する必要なんてなくなる。バカみたいな扱いを受けてもなお鳥子……なんて思う必要はなくなる。それって……思えばすばらしい事って気がする。そうだ、だったらおれも結婚相談所へ行ってみるくらいはしてもいいはず」

 こうして卓郎はしばらく考えてから、日曜日に結婚相談所に行こうと決心。そこで出会いに恵まれるような事があるのなら、素直に感謝してそれを頂戴し、あの腐れな鳥子から離脱しようと考える。

「あ、いや、ちがう……成功したら鳥子から離脱って考えが間違っているのかな。成功しようがしまいが、あたらしい相手が見つかろうが見つからまいが、結婚相談所に行く時点で鳥子とは決別しなきゃいけないんだ。そうでなきゃ、いつまで経ってもおれはミジメな男止まり」

 自分の心に生じる鳥子から離れることの緊張、それに釘をさす。その不安というのは実は鳥子への執着とか依存であろうと。それがあるからいつまでもダサい男止まりなのではないか? と。

「そうだ、おそれるな卓郎……そもそもおれをバカにして別れようって言いだしたのは鳥子なんだ。だったらおれは勇気を持ってあたらしい愛を探しに出かければいいんだ。よし……行くぞ、おれはあたらしい出会いを求めて愛という名の海に漕ぎ出してやる!」

 こうして卓郎はかなり久しぶりに男らしく興奮し、日曜日にどこの結婚相談所へ訪れるか決めておく。そして決めたからには何があろうとそこに出向き、正直に自分をさらけ出そうと覚悟を決めた。
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