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9・わたしは光を選ぶから2

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 9・わたしは光を選ぶから2


「自分の彼氏がひどい目に遭っているのに、それを離れたところから見ているだけで、後で保健室に連れて行くだけって、そんなの彼女って言える? そんな最低な女になりたくないよ、わたしは」

 わたしはグランドに出て、ただ見ているだけって性質の悪い見物人を押しのけて言った。

「やめなさい!」

 するとヤンキーが動きを止めて振り向いたのけれど、鼻血いっぱいの光が目に入るといてもたってもいられなくなる。

「光」

 わたしが近づこうとしたらヤンキーが両腕を横に広げ立ちふさがったんだ。

「どいて!」

「うるせぇんだよ巨乳! おまえもだまって見てろよ、おまえの彼氏が耐えられるかどうか」

「耐える?」

「10分間、おれに殴る蹴るされて、それでも言わずにいられるかどうか」

「何を言うっていうのよ!」

「マリーと別れますって言えばいいんだよ。そうしたら止めてやる」

「10分も人を殴る蹴るをするとか……クズ過ぎるでしょう」

「それはちがうぞ、おまえの彼氏が弱いからいけないんだよ。おれがケンカしようぜって言ったら、怖いからイヤだって逃げるんだよ。だからこうなった、弱いからクソなんだよ、おまえの彼氏は」

 わたしは吠えまくるヤンキーを無視して光に近づこうとした。そうしたら鼻血を手の甲で拭う光が言ったんだ。

「ケンカしても勝てないけど……でもこのカタチなら耐えられると思ったんだ」

「なんでこんな話に乗るの!」

「だって……マリーと別れろとか言われても応じたくないから。いやだよ、マリーみたいな彼女ができたのに別れるなんて。だからこうなったんだ、でも絶対に耐えてみせる」

 光がそう言い終えるか否かのとき、再びヤンキーが殴る蹴るを始めた。わたしはこのとき止められない自分が悲しいと思ったと同時に、見ているだけって外野こそが一番の外道だと腹が立った。

 そしてヤンキーが言っていた10分が過ぎたってことを外野にいた知らない誰かが言った。

「くっそぉ!」

 ヤンキーは倒れている光のお腹を踏みつけると、そのままグランドから立ち去っていく。

「光」

 わたしはたまらず起き上がった光に近寄る。顔面は鼻血の飛び散りで真っ赤、制服だって汚れている。

「いっしょに保健室へ行こう、ね?」

 わたしが言うと光は立ち止まった。

「どうしたの? どこか痛いの?」

 心配になって聞いたとき、光が一瞬印象的な顔をした。それは自分が力勝負で勝てなかったって事を哀しいと思っている感じだった。やっぱりこういうのは情けなくてつらいと言っているみたいにも見えた。

「いいよ、保健室くらいひとりで行くから」

 わたしはそう言ってひとり校舎に向かっていく光を見ながら、ツーっと両目に涙を流してしまっていた。
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