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27・暑い、それは黒いあいつの登場
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27・暑い、それは黒いあいつの登場
「あっつ……」
もう夜の7時40分だというのに……と思いながら、勉強机に向かっていたわたしはアクビをしながら顔を上に向けたんだ。
「はんんぅ!」
一瞬、まさに一瞬! 天井に黒くでっかい物体があると見えたその瞬間、わたしは慌ててイスから立ち上がっていた。
「ご、ご、ごき……」
ダメなんだ、たかがゴキブリとか思えるわけがないんだ。この世にはクロゴキブリを平気で見つめられる人もいるらしいけれど、中1の乙女がそんなことできるわけない。
「天井に張り付くなんて卑怯だぞ!」
わたしはそう言った。だからってゴキブリがアクションをかますわけでないのだけれど、なぜ神さまはゴキブリに忍者みたいな能力を与えたのかと腹が立つ。
「中1の乙女部屋にゴキブリホイホイとか置きたくない……だからおまえが出ていくしかないんだよ」
わたしはゴキブリに平和的な解決を訴えてみた。だけどやっぱりダメだから、ジーっとしている奴を見ながら、そーっと動いて赤い霧吹きを手に取った。
「必殺!」
わたしが勢いよく太い一本線って水を放った。その速度はかなりのモノであり、人間だったら避けられないんじゃないかと思う。なのにゴキブリは回避できるとか、おかしいよそんなの。
「ひぅ!」
カサカサって音がしてゴキブリが天井からベッドの下辺りにも逃げ込んだ。
「いやだ……」
わたしは足をガクガクさせながら、まずはタンスをしっかり閉めておく。もし万が一ブラとか下着を収納しているところにゴキブリが入ったら、わたし冗談抜きで立ち直れない。
「く……」
ベッドの下、どこかにゴキブリがいると思ったらものすごい恐怖が生じる。
「ダメ、どう考えても怖くてベッドでは眠れない」
わたしは午後10時にして結論に達した。ものすごく不本意だけれど、部屋にゴキブリホイホイを仕掛け、今夜は応接間の床にだらしなく寝転がってしまおうと。
「マリー」
「ひんぅ!」
「何してるの?」
パジャマ姿でクッションを持って応接間に入ろうとしたら、どういうわけかお約束みたいにしてお母さんに見つかった。
「あ、いや、今夜はここで寝ようかと思って」
「はい? ダメに決まってる」
「ちがうんだよ、聞いて、切実な理由があるんだよ」
「どんな?」
「ゴキブリが、しかもでっかいのが出現したんだよ。いくらゴキブリホイホイを仕掛けたってさ、寝ている間に襲われたらと思ったら怖くてたまらない。同じ女ならわかってくれるでしょう?」
「ダメ! 却下!」
「なんで!」
「中1の巨乳女子が応接間の床でだらしなく寝るとか、そっちの方がおそろしいって話だよ」
「ゴキブリが出たんだよ?」
「そんなの暑い季節の風物詩と思えばいいでしょう」
「思ったとしても怖いんだよ」
「友達と思えばいいんじゃない」
「やめてよもう……」
「とにかく女として、女がだらしない就寝をするのは認められない。ちゃんと自分の部屋で寝るべし」
仕方なく部屋に戻ったけれど……いつものわたしの女子力に満ちた空間なのだけれど、これのどこかにあいつがいると思ったら、わたしのかよわい女子力は涙で濡れそうになる。
「あ、そうだ、こういう時こそ!」
わたしはオドオドビクビクしながら光に電話をかけた。時間がちょっと気になったけれど、彼氏と彼女って関係なら許されると思って電話をしてみた。
「はい、もしもし」
「あ、光、いま何してる?」
「いまは自分の部屋でノートパソコンで小説を書いているところだけれど?」
「おぉ、やっぱり光はすごいね、がんばってるね!」
「で、何の用?」
光の声は露骨なまでに心ここにあらずだった。わたしが、なんか冷たくないって言ったら、今いいところなんだよ、小説を書きたいんだよ! って熱意こもった声で言われる。それはとてもかっこういいモノであり、こんな状況でなかったらすぐさま引くところ。
「待って、ちょっと待って!」
「だからなに……」
「ゴキブリが出たの、いまどこにいるかわからないんだよ、だから怖くてたまらないの」
わたしはおびえている自分を素直に出せば、彼氏たる光がかまってくれるんじゃないかと期待した。でも光って小説に気合が入っている時は彼女より執筆の方を取るタイプだった。
「口笛でも吹いたら出てくるんじゃないの?」
「アホか! それどんなゴキブリ……」
「電話切ってもいい?」
「光……お願い、怖くて眠れない、かまって……わたしを助けると思って朝までわたしに寄り添って」
「だいじょうぶだよ」
「だいじょうぶって何が?」
「神さまにお願いしておくから、マリーを守ってくださいって」
「こら、ちょっと待て! って……」
ここで電話がツーツーと切られ音を鳴き声みたいに出した。それは明日の朝まで光に寄り添ってもらおうというわたしの考えを否定されたってこと。
「薄情者! 呪ってやる……光なんか呪ってやるから」
わたしは致し方なく、ゴキブリホイホイを大量にセットして、ガクガクおびえながらベッドで寝ると選択に身を投じる事にした。あっちこっちにゴキブリホイホイがあるのを目にすると、こんなのわたしの部屋じゃないと泣きたくなる、ほんとうに。
「あっつ……」
もう夜の7時40分だというのに……と思いながら、勉強机に向かっていたわたしはアクビをしながら顔を上に向けたんだ。
「はんんぅ!」
一瞬、まさに一瞬! 天井に黒くでっかい物体があると見えたその瞬間、わたしは慌ててイスから立ち上がっていた。
「ご、ご、ごき……」
ダメなんだ、たかがゴキブリとか思えるわけがないんだ。この世にはクロゴキブリを平気で見つめられる人もいるらしいけれど、中1の乙女がそんなことできるわけない。
「天井に張り付くなんて卑怯だぞ!」
わたしはそう言った。だからってゴキブリがアクションをかますわけでないのだけれど、なぜ神さまはゴキブリに忍者みたいな能力を与えたのかと腹が立つ。
「中1の乙女部屋にゴキブリホイホイとか置きたくない……だからおまえが出ていくしかないんだよ」
わたしはゴキブリに平和的な解決を訴えてみた。だけどやっぱりダメだから、ジーっとしている奴を見ながら、そーっと動いて赤い霧吹きを手に取った。
「必殺!」
わたしが勢いよく太い一本線って水を放った。その速度はかなりのモノであり、人間だったら避けられないんじゃないかと思う。なのにゴキブリは回避できるとか、おかしいよそんなの。
「ひぅ!」
カサカサって音がしてゴキブリが天井からベッドの下辺りにも逃げ込んだ。
「いやだ……」
わたしは足をガクガクさせながら、まずはタンスをしっかり閉めておく。もし万が一ブラとか下着を収納しているところにゴキブリが入ったら、わたし冗談抜きで立ち直れない。
「く……」
ベッドの下、どこかにゴキブリがいると思ったらものすごい恐怖が生じる。
「ダメ、どう考えても怖くてベッドでは眠れない」
わたしは午後10時にして結論に達した。ものすごく不本意だけれど、部屋にゴキブリホイホイを仕掛け、今夜は応接間の床にだらしなく寝転がってしまおうと。
「マリー」
「ひんぅ!」
「何してるの?」
パジャマ姿でクッションを持って応接間に入ろうとしたら、どういうわけかお約束みたいにしてお母さんに見つかった。
「あ、いや、今夜はここで寝ようかと思って」
「はい? ダメに決まってる」
「ちがうんだよ、聞いて、切実な理由があるんだよ」
「どんな?」
「ゴキブリが、しかもでっかいのが出現したんだよ。いくらゴキブリホイホイを仕掛けたってさ、寝ている間に襲われたらと思ったら怖くてたまらない。同じ女ならわかってくれるでしょう?」
「ダメ! 却下!」
「なんで!」
「中1の巨乳女子が応接間の床でだらしなく寝るとか、そっちの方がおそろしいって話だよ」
「ゴキブリが出たんだよ?」
「そんなの暑い季節の風物詩と思えばいいでしょう」
「思ったとしても怖いんだよ」
「友達と思えばいいんじゃない」
「やめてよもう……」
「とにかく女として、女がだらしない就寝をするのは認められない。ちゃんと自分の部屋で寝るべし」
仕方なく部屋に戻ったけれど……いつものわたしの女子力に満ちた空間なのだけれど、これのどこかにあいつがいると思ったら、わたしのかよわい女子力は涙で濡れそうになる。
「あ、そうだ、こういう時こそ!」
わたしはオドオドビクビクしながら光に電話をかけた。時間がちょっと気になったけれど、彼氏と彼女って関係なら許されると思って電話をしてみた。
「はい、もしもし」
「あ、光、いま何してる?」
「いまは自分の部屋でノートパソコンで小説を書いているところだけれど?」
「おぉ、やっぱり光はすごいね、がんばってるね!」
「で、何の用?」
光の声は露骨なまでに心ここにあらずだった。わたしが、なんか冷たくないって言ったら、今いいところなんだよ、小説を書きたいんだよ! って熱意こもった声で言われる。それはとてもかっこういいモノであり、こんな状況でなかったらすぐさま引くところ。
「待って、ちょっと待って!」
「だからなに……」
「ゴキブリが出たの、いまどこにいるかわからないんだよ、だから怖くてたまらないの」
わたしはおびえている自分を素直に出せば、彼氏たる光がかまってくれるんじゃないかと期待した。でも光って小説に気合が入っている時は彼女より執筆の方を取るタイプだった。
「口笛でも吹いたら出てくるんじゃないの?」
「アホか! それどんなゴキブリ……」
「電話切ってもいい?」
「光……お願い、怖くて眠れない、かまって……わたしを助けると思って朝までわたしに寄り添って」
「だいじょうぶだよ」
「だいじょうぶって何が?」
「神さまにお願いしておくから、マリーを守ってくださいって」
「こら、ちょっと待て! って……」
ここで電話がツーツーと切られ音を鳴き声みたいに出した。それは明日の朝まで光に寄り添ってもらおうというわたしの考えを否定されたってこと。
「薄情者! 呪ってやる……光なんか呪ってやるから」
わたしは致し方なく、ゴキブリホイホイを大量にセットして、ガクガクおびえながらベッドで寝ると選択に身を投じる事にした。あっちこっちにゴキブリホイホイがあるのを目にすると、こんなのわたしの部屋じゃないと泣きたくなる、ほんとうに。
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