空は、あの日から青いままで〜不協和音は君のせい〜

影狼(カゲロウ)

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第5話 同じ部屋、違う距離

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あれからの二人の時間は、とても穏やかだった。  
とはいえ、話題のほとんどは4月から始まるツアーのことだけど。

11月、12月の段階で曲はほぼ出そろっていた。  
それでも、追加する曲や削る曲を改めて見直すため、  
それぞれが考えをまとめている。

明日の打ち合わせで、すべてが正式に決まる予定だった。  
そのリュウくんの曲決めを手伝わされたわけだけど……  
まぁ、いつものことだから別にいい。

夕方には二人で近くのスーパーに買い物へ出かけた。  
今日は寒いから鍋にしようとなり、食材を買い込んで足早に帰宅。

リュウくんには「ゆっくりしてて」と言われていたから、  
のんびりテレビを見ながら過ごしていた。  
その時だった。


プルルルルッ――


「あれ、風間さんだ。ちょっと電話出るね。」

「はいよー。」

「もしもし、お疲れ様です風間さん。どうされたんですか?」


突然鳴り響いた着信音。  
画面を見ると、マネージャーの風間さん。  
何かあったのかと通話ボタンを押すと、  
風間さんは信じられないことを口にした。


【楓にドラマのオファーが来たんだけどさ、どうする?】

「……はい?」

【ここ何年かライブでツアー用のミニドラマやってるだろう?  
あれを見た脚本家が、楓を主役にドラマをやりたいって言ってるらしいんだ。  
ネット配信のミニドラマで、1話30分・全10話くらい。  
ツアー前に撮り終えられるから、興味あったら受けるよ。】

「いや、え……?俺が?」

【そうそう。明日返事することになってるから、また教えて。】

「あ……分かりました。」


プツッ――


風間さんの言葉が現実味を帯びなくて、頭が追いつかない。  
俺が主演のミニドラマ?  
演技なんて、MV撮影とライブ用の短いドラマくらいしかやったことないのに。


「楓?風間さん何だって?」

「あ……いや……」

「ん?何かあった?」

「なんか、俺にミニドラマの主演の話が来たって。」

「ええ? 何でまた?」

「ライブ用に撮ったミニドラマを見てくれてた脚本家さんがいて、  
俺でやりたいって言ってるって。  
ツアー前に撮り終えられるから、興味あるなら受けるよって。」


電話を切ると、リュウくんが不思議そうな顔で近づいてきた。  
事情を話すと、驚いた表情を見せたあと、すぐに笑って言った。


「ねぇ、面白そうじゃん!やってみなよ楓。」

「本気で言ってる?俺、ちゃんとした演技やったことないのに?」

「だからじゃん!それに最近多いよ? アーティストが俳優やるの。」

「そうだけど……
リュウくんなら分かるけど、俺なんかが出来るの?って。
明日返事してって言われた。」


消極的な俺とは対照的に、リュウくんは挑戦を勧めてくる。  
リュウくんは何でも器用にこなすけど、俺は真逆。  
“絶対に無理だ”と思ってしまうから、素直に"うん"とは言えなかった。


「楓なら大丈夫だって。
それに主役なんて、やりたくて出来るもんじゃないんだしさ。  
チャレンジしてみるのもアリなんじゃない?  
そこから得られるものって、絶対にあると思うよ。」

「リュウくん……」

「それに、役者してる楓が俺は見てみたいな。
元々顔も良いし、絶対カッコいいから。」

「うっ……そんな目で見ないでよ……」


どうしようと悩む俺に、リュウくんは優しく笑ってみせた。  
そして、クシャッと俺の頭を撫でてからキッチンへ戻っていく。

その何気ない仕草で、また心臓が騒ぎ始めた。  
あ、頭を撫でるとか子供じゃないんだから。  

(いい大人が、なんでこんなにドキドキしてるんだろう……)

「明日返事するんでしょ?あとでゆっくり考えな。
今はしっかりご飯食べよー楓。」

「うん、そうだね。俺、手伝うよー。」

(無駄に反応しない!これ鉄則!)


そう自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせた。
そして何もなかったようにキッチンへと向かった――











「お風呂ありがと楓。」

「うん。じゃあ俺も入ってくるけど、もう帰る?」

「え?何で?」

「何でって……家はお隣ですよ?瑠海さん。」

「やだよ。泊まるし。」

「……左様ですか。じゃあ、お風呂入ってくるね。」

「はいよー。」


夜ご飯を食べて、くだらない話をしながらテレビを見て、  
気づけば時計は23時を回っていた。

リュウくんは、いつものように自分でお風呂を掃除して沸かして入る。  
そして、いつもならそのまま帰るはずなのに――  
今日はなぜか、断固として帰る気ゼロ。

ここまで居座る気満々だと、もう何を言っても無駄だ。  
俺が折れるしかないか……と諦めながら、お風呂へ向かった。

シャワーを浴び、体を洗いながら考える。  
“リュウくんにとっての自分”の立ち位置を。

メンバー、相棒、親友。  
この三つである自信はある。  
きっと、このどれか一つでも欠けたら、俺という存在は崩れてしまう。

だけどさ――  
もう一つ、そこに増やせる日が来ないかなって。  
そんなワガママな感情が、ふと顔を覗かせるんだ。

その感情が全部あふれ出さないように、必死に押し込めてるけど。  
これ以上距離を詰められたら、咄嗟に飛び出してしまいそうで怖い。

だから、一緒にいる時はなるべく感情を押し殺しなさいって、  
自分に言い聞かせる。

――リュウくんには、ずっと俺の隣にいてほしいから。


「はぁ……重いなぁ。重すぎる。嫌われるよこれ。」


リュウくんに今の感情をぶつけたら、きっと引かれて嫌われるだろう。  
普通の友達なら、適当に距離を置いて、新しい恋でも探して……  
そうやって折り合いをつけていくんだと思う。

だけど俺は、10年もそれをしなかった。  
いや――できなかった。

リュウくん以外の誰かに触れられれば、  
この呪縛から逃げられるかもしれないと思ったこともある。  
でも、いざ誰かと向き合おうとすると、どうしてもリュウくんと比べてしまう。

ダメなんだよね。  
リュウくんじゃないと。

そんなことを考えながら、鏡の中の自分をじっと見つめた。


「……やめやめ。」


自分の顔を見ていると、なんだか情けなくなって、  
逃げるように湯船へ身を沈めた。
ちょうどいい温度の湯が、暴れていた鼓動をゆっくり落ち着かせてくれる。

今日、ちゃんと眠れるかな。  
そんな心配を抱えたまま、湯船に顔を浸けて現実逃避していた――
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