魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す

第二十六話 武闘大会個人戦学科別代表選抜二回戦

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「よ、おつかれ」
「ああ、どうにか勝つことが出来た」
 ステージから降りるジュリアスと拳を突き合わせる。
 確かに最初は危うかったが結局最後は勝利を手にした。

「これも俺の声援のお陰だな」
「調子の良い事を言うな」
 軽く殴られてしまった。あれ?普段なら思いっきり叱られるところなんだが、いったいどうしたんだ?ま、いいか。

「二回戦はお昼からだし、レオリオのところにでも行くか」
「そうだな」
 俺たちは観客席にいるレオリオたちのところへと向かった。

「見てたぜ。二人とも一回戦突破おめでとう」
「まだ、一回戦に勝っただけだ」
「もっと喜べよ。一回戦突破するだけでも凄いことなんだぞ」
「そうか?普通に殴ったら気絶したが」
「いや、それはお前が異常だからだ」
 酷い。俺は普通に闘っただけなのに。

「それにしても個人戦だけでも凄い規模だな」
「人数だけは多いからね」
「てか、個人戦に出場しないお前らはずっと観戦なのか?」
「当たり前です。この大会で先生たちは大忙しですから授業なんて出来ません」
「それもそうかってお前ら観戦だけってずるくないか?ただ見てるだけで良いなんて羨まし過ぎるぞ!」
「いや、普通は逆だからな」
「え、なんで?」
「勝敗に関係なく参加することで戦闘に積極的って思われて内申点が上がるからね」
「いつも授業で寝てるジンには丁度良いな」
「よくねぇよ。怒られる事無く寝れるんだぞ。これほど素晴らしい時間があるのに参加しちまうなんて……」
「泣くほどかよ」
「ジン君はほんと寝るのが好きだね」
 涙を流す俺を見ながら呆れるレオリオたち。くそっ!こんな事なら参加しなければ良かった!欲望のまま参加してしまった自分が憎い。

「それにしても色んな魔法があるんだな。ん?」
「どうしたんですか?」
 ふと視線を向けたステージに立つ一人の少年が持っている武器?に目を取られた。あれはどう見てもトランペットだよな。

「いや、あそこで闘っている奴」
「それがどうかしましたか?」
「あれはどう見ても武器じゃないよな」
「その通りだ」
 俺の疑問にジュリアスが答えてくれた。やっぱ頼りになるルームメイトだな。

「きっと彼は音魔法が得意なんだろ」
「音魔法?なんだそれ?」
 聞いたことの無い魔法だ。そんな魔法があるのか。ま、魔力のない俺にはどうせ使えないので意味がないが。

「基礎属性は知っているな?」
「ああ、火、水、風、土、雷、氷、光、闇の八属性だろ」
「その通りだ。どんな魔法でさえこの基礎属性が元になっている」
「それってつまり、あれは八つのどれかの応用魔法ってことか?」
「そ、その通りだ」
 ん?どうしてそんな驚いたような表情をしているんだ。

「応用魔法は無限に等しいほど存在すると言われている。例えば火なら熱。水なら霧など様々な魔法が存在する」
「なら、時空間魔法や重力魔法はどの属性に当てはまるんだ?」
「その二つは闇属性だ。元々光と闇の属性を持つ者は種族関係なく少ない。ましてや闇属性の応用魔法である時空間魔法や重力魔法を使う人物は稀だ」
「へぇ、そんなに珍しいのか……」
 思いがけない魔法の種類の多さに俺は興味を引かれていた。

「なら、あれはなんの応用魔法なんだ?」
「あれは風だ」
「風なのか?」
「そうだ」
 以外だ。てっきり闇かと思っていたが。

「音とは即ち空気の振動によって生まれる物。それは空気を動かし操る風と一緒と言うわけだ」
「なるほど……」
 確かに言われてみればそうだ。ま、風が出来る仕組みは気圧の変化が原因だが、そこらへんは魔法の方が上ってことなんだろう。

「ならジンに問題だ」
「なんで折角の休日に問題なんか……」
「今日は火曜日だ!休日じゃない!」
「ただ観戦してるだけなんだから似たようなもんだろ」
「似てるか馬鹿者!」
 思いっきり叱られてしまった。ジュリアスは周りの視線を釘付けにしてしまったことで恥ずかしそうにしていた。ププ、ざまあねぇな。
 ギロ。

「っ!」
 俺の心を読んだのか物凄い威圧と殺気を放ちながら睨まれてしまった。
 数分してようやく冷静さを取り戻したジュリアス。ふう、なんとか死は免れたか。

「それでジン。私の問題に答えるつもりはあるのか?」
「あります、あります!」
「よろしい」
 完全に脅迫だろ。

「音魔法は風属性の応用魔法だ。なら水と土の属性を持つ応用魔法と言えばなんだ?」
「二つの属性の応用魔法だと。そんなのがあるのか?」
「ある。例えば火と水を合わせた水蒸気魔法と言うのがある。一つの属性では無理な応用魔法でも二つ以上なら可能となる応用魔法だって存在する。ただし水蒸気魔法は必ず火と水の属性を持っていなければならない」
「つまり、基礎属性のうち二つ持っていれば実質的に三種類の魔法が使えるということか」
「そういうことだ。で、私の問題は解けたのか?」
「粘土魔法か?」
「せ、正解だ」
 やっぱりな。小さいとき泥団子を作ったりして遊んだ記憶が役に立ったな。勿論前世の話だぞ。この世界にきて泥団子作りって痛いじゃねぇか!確かに見た目は子供だけど中身は三十過ぎのおっさんなんだからな。

「それにしても応用魔法を使う武器がトランペットって考えてみれば当たり前だが、闘いとなると凄い違和感だな」
「確かに迷い人や送り人たちからはそう言った感想はよく聞くな」
「そ、そうか……」
 危ねぇ。ジュリアスたちには俺が送り人ってことは内緒なんだよな。
 結局トランペットを使っていた学生は負けて一回戦敗退となった。ちょっと応援してたのに。
 その後も適当に時間を潰していると午前中の試合が終わった。
 ジュリアスたちと昼飯を堪能した俺は午後の二回戦のために再び演習場に戻ってきた。

「二人とも頑張ってね」
「さっきと同じ場所から応援してるからよ」
「怪我のしないよう頑張ってください」
「ああ、全力で戦ってくる」
「怪我はしたくないからな」
 俺たちは廊下でレオリオたちと別れて一階のドアを開けた。
 中にはさっきも見た大量のステージが備えられていた。

「必ず勝ってよ」
「ジン、お前もだぞ」
「ま、死なない程度に頑張ってみるさ」
「まったく……」
 呆れた表情を浮かべるジュリアスと別れ俺は自分の色で仕切られたステージ付近に向かった。何故か女子生徒に大人気だったえっと名前は……忘れたが、迷い人の奴の視線を感じるんだが。まあ、今は無視だな。
 昼休みも終わり先生たちもやって来た。いよいよだな。
 大きなテレビ画面に表示された自分の番号。お、どうやらまた最初から俺のようだな。

「これより二回戦を始める!」
 一回戦とは別の主審の言葉に頭を切り替える。それにしても今度の相手はツルペタツインテール少女か。俺の好みとは大幅に逆だな。ま、闘いやすいから良いか。

「どうやら一回戦は運よく勝てたようだけど、今度はそうはいかないわ。ましてや魔力を持たない能無しはさっさとお家に帰りなさい」
 うん、どいつもこいつも上から目線で腹が立つな。

「それに比べ私は二組。負け組みのアンタと違ってエリートなの。こんな無駄試合はさっさと終わらせたいの。分かる?」
「なあ、一つ聞いても良いか?」
「良いわよ。低脳で無能な役立たずなゴミ虫の質問に答えてあげる。感謝しなさい」
 よくもまあ、それだけの罵詈雑言が思いつくよな。怒りを通り越して関心だわ。

「お前、俺の試合見てた?」
「見るわけ無いでしょ。魔力も持たない無能の試合なんか見てなんの意味があるの?」
「いや、もう良いわ。変な質問をした俺が馬鹿だった」
「あら、随分と素晴らしい心がけね」
 まったく面倒な奴とあたったな。ま、楽でいいけど。それにしても身長は低い、胸もない。なのに態度だけデカイ。顔はまあ美少女の分類だが。こう言うのを性格ブスって言うんだろうな。ま、一部の人種には最高のご褒美なんだろうが、生憎と俺はそっちの趣味も無いし人種でもないので、鬱陶しいとしか感じないが。
 ようやく静かになった事を確認した主審が手を挙げる。

「それでは……試合開始!」
 と宣言すると同時に手を振り下ろした。

「はい、これで終わり」
 俺は一回戦と同じで相手の鳩尾に拳を打ち込んだ。え、女子なんだから手加減しろって?俺の辞書に女子供に手加減の文字はない!ま、力は手加減してるけど。

「勝者、オニガワラ・ジン」
 で、同じように勝利を掴んだ。
 それにしても見た目や能力で相手を見下すのは一番やっちゃいけないことだって教わらないのかこの学園は。勿論道徳的な意味でなく、戦闘での心構えとしてだ。

「さて、今日の試合も終わった事だしレオリオたちと一緒に帰るか」
 廊下に設置された自販機のジュースを片手に二階の観客席に向かうとしていた。

「なら、私も一緒に行っていいか?」
「お、ジュリアス。お前も終わったのか?」
「ああ、一回戦の時みたいに先手を取られないために始まると同時に仕掛けたらそのまま勝利してしまった」
「そうか、それは良かったな。なら一緒に行くか」
「あ、ああ」
 ん?なんだか少し嬉しそうだな。そんなに勝てたのが嬉しいのか?ま、負けるよりかは勝ったほうが嬉しいよな。
 思いがけない同伴者も出来たが別に気にすることもなく、俺たちは応援してくれたエミリアたちの許へ向かった。
 観客席でフェリシティーたちから武闘大会や魔法についての知識を教えてもらっている全ての試合がいつの間にか終了していた。
 開会宣言と時のように学年、クラスごと整列する。もうその場で解散でいいじゃんか。
 すると、最初の挨拶の時と同じ丸刈り先生が壇上に立つ。

「今日の一回戦、二回戦の試合を拝見させてもらった。中には高レベルの対決も幾つかあったし、今後の伸びしろが期待できる生徒もいた。一回戦、二回戦で負けたからといって鍛錬を怠ることなく粉骨砕身し強くなってくれ。また一回戦、二回戦とも勝ちあがったからといって慢心することなく気を引き締めて明日の三回戦に望むように。以上だ」
 これまた定番と言える感想と激励だところ。ま、無駄に長いよりかは遥かにましだな。
 そのあとは即座に解散となったので俺たちは寮へと向かった。ん?またあのアイツの視線を感じる。ま、殺意は感じないからいいけど。
 寮へと戻ってきた俺はソファーに横たわる。

「こらジン、そのまま横になったら制服に皺ができるだろ。さっさと着替えろ」
「相変わらずだな」
「言われたくないならさっさと行動しろ」
「へいへい」
 嘆息するジュリアスを視界の端においやった俺は寝室に入って私服に着替えた。すると足元に銀が擦り寄って来た。

「どうした銀。寂しかったのか?」
 今日は試合だけだったので寮でお留守番してもらった。団体戦は来週からだしな。
 俺の問いかけに首を横に振る。最近銀の理解力が向上し過ぎなように気もするがま、いいか。

「なら、どうしたお腹がすいたのか?」
「ガウッ!」
 お、嬉しそうに尻尾振ってる。どうやら当たりのようだな。

「そうか、お腹が空いたか。ならもう少し我慢してくれ。夕食がまだなんだ」
「クゥ……」
 残念そうに尻尾と耳が垂れる。まったく表情豊かな奴め!これなら間違いなくカワイさグランプリで優勝できるレベルだ。

「ジン、何してる。冷たい麦茶を用意したぞ」
「お、マジか」
 俺は銀を抱きかかえて用意された麦茶で喉を潤す。くぅううっ!冷たいお茶が五臓六腑に染み渡るぜ!

「本当ならビールが良いところだが」
「駄目に決まっているだろ。学園内での飲酒は禁止だぞ」
「分かってるって、だから我慢してるだろ」
「規則なんだから守るのが当たり前だ。自慢することじゃない」
 ご尤もで。

「もうすぐ夕食だからいつでもいけるように準備しておけよ」
「ああ、問題ない」
 それから適当に時間を潰した俺とジュリアスは食堂で夕食を堪能したあと銀のご飯を持って部屋に戻ってきた。

「ほら銀、オーク肉の特大ステーキだぞ」
「ガウッ!」
 嬉しそうに尻尾を振る銀は地面に皿を置くと同時に飛びつきながらステーキに噛み付く。

「「かわいい」」
 微笑ましい光景に俺とジュリアスは頬を緩ませる。
 結局銀が食事を終えるまで見続けた俺とジュリアスは今日の反省会のように語り始めた。

「今日は自分の未熟さを思い知った」
「そうか?元からお前は強いと思うが?」
「戦闘力の話ではない。精神面のほうだ。ジンが応援してくれなければ私は一回戦で負けていただろう」
 確かに俺がくるまで押され気味だったのは確かだが、応援ひとつで逆転勝利を収めたのだからそこまで気にする必要がないと思う。

「別に気にすることはないと思うがな」
「相変わらず短絡的だな。だが今はそれが羨ましいとも感じるよ」
「そうか?俺的には過去は過去なんだが、確かに後悔はするだろうし反省は必要だ。だけど今考えるべきは次の試合でどう楽しむか。それだけだ」
「そのポジティブ思考が羨ましいよ。私はそうになれそうにない」
「ま、確かにジュリアスは一つの物事を自分の中で解決するまで納得しないタイプだろうな」
「む、悪かったな」
 あらら、図星を突かれて拗ねてしまった。でも女子だから可愛いって思うのは俺だけか?って今はそんな事を思ってる場合じゃない。

「なあ、ジュリアス」
「なんだ?」
「どんな風に思い悩んでるんだ?」
「唐突になんだ?」
「いや、自分は精神面で未熟だって悩むのは仕方がないが、どんな風に悩んでるんだ?」
「そ、それは勿論、どうすれば直るんだろう。どうすれば克服できるんだろうってことだ」
「ああ、やっぱりか」
「なんだ、その呆れた表情は!」
 俺が呆れた表示をしているのが気に食わなかったのかジュリアスは不満たらたらに反発してきた。

「いや、普通に呆れるだろ。だってその悩みどうしたって解決出来る確立低いだろ。どうすればって前向きな考えに聞こえるけど、それってただその場で立ち止まって見えない道を探すようなものだからな」
「む、ならジンならどうするんだ」
「まずは灯火を見つける」
「灯火?」
 俺の言葉が理解出来なかったのか首を傾げる。

「そうだ。暗闇で道を探したって見つけるのは大変だ。だったら道を探すために照らすものを見つけるのさ」
「だが、どうやって?」
「案外、灯火を見つけるのは簡単だ」
「そうなのか?」
「ああ。精神面の弱さを克服したいんだよな?」
「そうだ。だから悩んでいる」
「なら、お前が言う精神の強さとはなんだ?理想とする人物でもいい」
「理想とする人物か……」
 俺の言葉にジュリアスは目を瞑って考える。

「冒険者のヴィオラ・ヘンドリクセンさんかな……」
「ヴィオラ・ヘンドリクセンって誰だ?」
「知らないのか!」
 迫る勢いで問い返してくるジュリアス。まったく驚いたのはこっちだ。

「あ、ああ」
「ヴィオラ・ヘンドリクセンさんは女性冒険者でギルド『眠りの揺り籠』のギルド長を勤め、国別のギルドランクではトップ10に入り、個人成績のランキングではトップ5に入るほどの実力者でランクもSSランクと男性女性問わず人気と信頼の高い人なんだ!」
「そ、そうか。よく分かったから離れてくれ。流石の俺でも私服姿のお前に迫られてまともでいる自信はない」
「っ!この変態スケベ怠け者!」
「ぐへっ!」
 顔を真っ赤にして可愛らしいかと思えば肉体強化状態の拳で殴り飛ばされた。なんでこうなる……。
 突如襲った理不尽から十五分ようやく回復した俺はソファーに座りなおす。

「す、すまない」
「まったくだ」
 普通なら「俺も悪かった」って謝るのが普通なんだろうが、俺は悪くないので絶対に謝らない。だってどう考えれも悪いのジュリアスなんだからな!

「さて本題に戻るが、お前の理想とする……」
「ヴィオラ・ヘンドリクセン」
「その人物ってどんな人物なんだ。言っておくが実績やランキングじゃないぞ。その人の性格や見た目の話だ」
「それは勿論威厳があって、凛々しくて自分にも厳しくて。戦闘では仲間の誰よりも先頭に立って闘う人だ」
 うん、確かに男性女性問わずに憧れそうな存在だな。ま、どう考えたって頭が堅そうな人物だが。

「つまりジュリアスはその人を目標に頑張っているんだな?」
「そ、そうだ」
「ほら、灯火が見つかった」
「そうか、灯火ってのは目標のことか」
「そうだ。悩むのは目標がないからだ。曖昧でも目標があれば自然と道は見えてくる」
 これで、後は軽く押すだけだな。

「なら、その目標に近づくにはどうすれば良いのか?考えて見ろ」
「考えて見ろって言われてもな……」
 まったく目標つまり灯火は見つけたんだから後は道を照らすだけだろ。

「ジュリアスが目標にする人物は仲間の先頭に立って闘うんだろ?」
「そうだ」
「で、お前は一回戦の時は前に出て闘ったか?」
「いや、負けるかもしれないと思って前にはなかなか出れなかった」
「そうだな。一回戦の時はお前が目標にする人物とは間逆だった。なら二回戦はどうだ?」
「っ!前に出た!」
「そうだ。お前が目標にする人物みたいに前に出たんだ。だけど全てを真似る必要はない。本人みたいになりたいと思ってもなれるわけじゃない。それにそればかり考えていたら猪突猛進気味になるからな」
「ああ、そうだな。ヴィオラさんは前には出るが冷静な判断力も持つ人だからな」
「ほら、道が見えた」
「ああ、本当だな」
 嬉しそうに微笑を浮かべて返事をするジュリアス。まったく俺が男だってこと忘れてないだろうな。
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