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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す

第二十七話 武闘大会個人戦学科別代表選抜五回戦と準々決勝

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 次の日も俺とジュリアスは三回戦と四回戦を勝ち抜き、今日五回戦と準々決勝を行う。
 人数も減って一組16人にまでなった。逆に観客席がどえらいことになっているが、まあ気にしない。
 それに伴ってか、俺に対する評価も徐々に変わっていた。大半が見下す目をしていたが今となっては好奇心の目で見てくれる奴が増えた。品定めと言ってもいいだろう。
 それでも実力の世界。
 未だに蔑む奴や嫉妬の目で見てくる奴だっている。ま、魔力のない人間が未だに試合に出ていればさっさと負けた奴らにとってはいい気分じゃないだろう。俺にはどうでもいいことだが。

「これより五回戦を開始する。生徒はステージに上がれ」
 人数が減ったことでステージの広さが倍になった。これだけあれば長距離型の連中は闘いやすくなるだろう。ま、俺には関係ないことだけど。で、今回の俺の相手は一組の男子。

「まさか問題児と闘うことになるなんてな」
 ん?どこかで会ったことあったか?それよりこいつからは蔑みや哀れの視線を感じない。対等の存在だと思われている。そんな気を感じる。それより問題児ってなんだ?

「俺の事を知ってるのか?」
「当たり前だろ。一組の実技の中でもそれなりに上位だった三人をたった一人で病院送りにした奴だぞ。警戒しないわけないだろ。その証拠にここまで勝ち残っているんだからな」
 なるほど問題児ってそういう意味か。これはいつも以上に警戒して戦わないと駄目だな。

「ま、俺はいつも通り闘うだけだ」
「過小評価なのか過大評価なのかわからないな」
 互いに構える。

「それでは……始め!」
 主審の合図と同時に俺はこれまで通り相手の懐に入り込み掌底を叩き込む。

「ぐはっ!」
 俺の速度に気づけなかったのか。男は吹き飛ばされ地面に倒れ伏す。これで終わりだな。

「まだ……だ……」
「なに!?」
 男はお腹を抑えながら立ち上がった。なんてタフさだ。

「いや、打ち込まれると同時に足を浮かせて衝撃を流したのか」
「ああ……ま、それでもこの通りフラフラだけどな」
「ふふ……」
「?」
 まともに戦える奴は同世代で居ないと思っていたが見込みのある奴がいるじゃねぇか。

「どうやらもう少し本気で闘っても平気なようだな」
「手加減されていたとは屈辱だな」
「別にお前が弱いわけじゃない。どちらかと言えば俺が強いんだ。だけど生憎と俺はある奴から本気を出すなって言われていてな。力を抑えさせられてるんだ。悪く思うな」
「そう言うことなら仕方がないか」
「ああ、でないと相手を殺してしまうからな」
「っ!」
 俺の笑みに男は恐怖を浮かべる。

「おいおい、お前みたいな化物がどうして十一組なんだ?」
「魔力がないからだろ?」
「魔力なしでこれほど闘える奴なんてそうそういねぇよ。どう考えても化物だろ」
「なら、学園長に文句を言うんだな」
「どうやら学園長の目は節穴らしい。こんな化物を十一組に編入させるなんてよ」
 さっきから化物、化物ってちょっと傷つくんだが。

「それより、早く始めようぜ」
「それは無理だ」
「なに?」
「こうして立ってはいるが、どうやら肋骨をかなりの数をやられたらしい。立っているのもやっとのところだ。悪いが俺はここで棄権させてもらう」
 そう言うと男は主審に棄権することを伝えた。

「勝者、オニガワラ・ジン!」
「俺もまだまだだな……」
「俺の一撃をまともに受けて立っていられた奴はこの大会ではお前が初めてだよ」
「そうか。それなら少しは自信がつくな」
 そう言い残して男はゆっくりとステージを降りていった。
 この学園も捨てたもんじゃないな。色々な思惑や思いが渦巻き、交錯する弱肉強食の学園。正直退屈し始めていたところだったからな。ま、冒険者になるために数ヶ月の間だけ我慢するつもりが思いのほか我慢する必要も無いかもしれないな。
 いつの間にか笑みを溢していた俺もステージを降りた。ん?殺意?どこから――。

「ジン、おつかれ」
「ジュリアス。どうやら勝ち残ったようだな」
 既に終わっていたジュリアスが待っていた。
 先ほどまで向けられていた殺気はどうやらジュリアスに意識を向けていた一瞬の間に消えてしまっていた。

「ああ、思いのほか楽に勝てた。そう言うジンは時間が掛かったな」
「相手が俺の予想より強かっただけだ」
「その割には服が乱れていないが?」
 意地悪そう笑みを浮かべたジュリアスに皮肉を言われながら俺たちは廊下に出た。

「準々決勝は午後からだそうだな」
「そうだ。ステージの大きさも変わるからな。それに準々決勝の八人に残ったとはいえ、それは一組での話だ。全部の組だと四十八人も居るんだ。それなりに準備はかかる」
「ま、それもそうか」
 人数が多いとそれだけ時間と手間が掛かると言う訳か。面倒だな。

「で、ジンの次の相手は誰だ?」
「三組の奴だ。確か遠距離タイプだったと思うが」
「あやふやだな。対戦相手のことを調べるのは闘いの基本だぞ」
「いや、分かっているんだがな。どうも自分の事になると適当になってしまうんだ」
 後頭部を掻きながらそう答えた。
 しかしそれは半分の理由だ。もう残りの理由は作戦を考える必要が無いほど相手が弱いからだ。ま、そんな考えで闘ったら痛い目に合うわけなんだが、それでも構わない。そっちの方が面白そうだからな。

「まったく……団体戦では真面目に考えているから文句も言えん」
「それはラッキーだな」
「本気で叱られたいのか」
「ご遠慮します」
 おっと思わず本音が漏れてしまった。正直な自分が憎い。

「死ねっ!」
 廊下全体に金属音が響く。

「ちっ、躱されたか!」
 いや普通に躱すだろ。あれだけ殺気を放出してたら。誰だって気づく。

「ジン!大丈夫か!」
「ああ、なんともない。それよりお前ら誰だ?」
 そこには同じ制服に身を包んだ男女十五人が俺を囲むようにして殺気を飛ばしてくる。

「そんなの決まってるだろ。お前の不正を暴くためさ」
「不正?なんの事だ?」
「魔力の無いアンタが準々決勝まで残れるわけないでしょ!絶対に不正しているに決まっているわ!」
「ジンがそんなことするわけ無いだろ!」
 なるほど、嫉み僻みからくる仇討ちってわけか。

「ジュリアス君は黙っていて!これは私たちとこいつの問題よ!」
 どうやら同じクラスの奴ららしい。ってことは一組か見た感じ二組の連中もいるな。嫌だね、強者から弱者成り下がった奴らの嫉みは。

「そんなわけないだろ!これは歴とした規則違反だ。この事は先生方に報告させて貰う!」
「良いわよ、私たちは。その代わりもしもこいつから不正の証拠が出ればそれでこいつも終わりだけどね」
「そ、それは……」
 おいジュリアス、俺のこと信じてくれてなかったの?ちょっと悲しいんだが。

「別に俺は闘うのは構わないけどよ。これはどう見ても喧嘩だよな。この学園では喧嘩は絶対に駄目じゃなかったか?」
「ギドたちを病院送りにした奴の台詞じゃないな」
「なんだ知ってたのか?」
「当たり前だろ。同じクラスなんだからな」
「だったら俺の実力もそれで分かると思うんだが」
「確かにあいつらは実技の成績は急激に良くなった。だけどそれは良い武器を買って闘ってたからだ。元々あいつ等は強くねぇんだよ。それにどうせお前も不正でもして勝ったんだろ」
 ま、普通はそう考えるわな。

「だったら、はっきりさせればいい。こんな不意打ちみたいなことするんじゃなくてよ。この学園にはその為の規則があるだろ。生徒同士でのいざこざを解決する方法が」
「つまり決闘ってこと?」
 俺の言葉に女子生徒が聞き返してきた。
 その通りと言うべく俺は不敵な笑みを浮かべた。

「そうさ。ちょうど今は午後の準々決勝に向けて準備中だ。先生も生徒もこの演習場にいるからな。きっとお前たちだけじゃなく他にも俺に不満を持った連中だって居るはずだ。直ぐにでも了承されるだろうよ」
「………」
「それとも何か?他人の目の無い場所で不意打ちは出来ても先生や生徒が見ている中で真正面から闘うことは出来ないのかお前たちは?」
(なんで、逆に挑発するんだお前は!)
 ジュリアスは内心そんな事を考えていたが、当のジンに聞こえる筈もない。

「ああ、良いぜ」
「ちょっ、ライゼ!」
「同じ冒険科の連中に見せてやる。こいつが不正している証拠って奴をな」
「どうやらお前たちもOKのようだな。なら日にちは明日。決勝戦が終わってからで良いな?」
「今すぐじゃないの?」
「別にお前らは俺が代表に選ばれたく無いんだろ?だったら決勝戦が終わってからでもいいはずだ。それまでに俺が負ければお前たちも満足じゃないのか?」
「そ、それは……」
「それにもしも俺が代表に選ばれたらそん時に言えば良いだろ。納得がいかない。不正しているってな。で、お前たちと決闘してはっきりさせれば良いだけの話さ。違うか?」
「……分かった。それでいい。もしもお前が次の試合で負ければ不正しているのが怖くなってわざと負けたって言えばいいだけだしな」
「なっ!そんな卑怯なこ――」
「ああ、それで良いぜ。みんなの前でハッキリさせれば良いだけの話だからな。じゃ、俺は腹減ったから食堂に向かわせて貰うわ」
「ちょっ、ジン待て!」
 こうして俺は代表選抜の後で決闘することになった。また一つ楽しみが増えたな。

「待て!」
「どうしたんだ?」
 俺の前に立ちはだかるようにジュリアスが怒りの形相で俺を睨む。うん、美女だけあって起こると怖いな。

「どうしたんだ。ではない!なぜ、あんな勝手な約束をしたんだ!」
「なんでって、ああでもしないとあいつ等が納得しないだろ。それともなんだ。あのまま喧嘩しろとでも言うのか?」
「いや、それは……だが、話し合いっていう選択もあった筈だ」
「確かに選択肢の中にはあるだろうな。だがあの状況で話し合いという選択を選ぶ奴が居ないことを見ていたお前だって分かっていたはずだ」
「そ、それは……」
「この学園は弱肉強食。己の意思も、野望も、言葉も、志も全て強者にしか許されない。誰一人弱者に耳を貸す者はいない。だったら闘って勝てば良いだけの話だ」
「だが、いきなり殺そうとしてきた相手の話を受ける必要もなかったはずだ」
「ジュリアス、相手の考えを一瞬で屠る一番の方法は何だと思う?」
「え?」
「答えは真正面からぶっ壊すだ」
「なっ!」
 俺の言葉に驚愕の表情を浮かべる。

「ま、驚くのも無理はないな。確かに戦いで、戦争で効率を優先するなら如何に相手が嫌がることをするかだ。奇襲による攻撃、恐怖心を植付ける非道な行為。確かに効果的だ。だが一番の効果的なのは相手の土俵で相手の攻撃を全て防ぎ、受け止め反撃し相手を倒す。これほど相手に精神的ダメージを与えるものはない」
「まさかジン、お前は……」
「その通りだ。俺はあいつ等の土俵で勝つ」
「はぁ……まったくお前ほど性根が腐ってる奴はいないだろうな」
「酷いな。策略家と言ってくれ」
「何が策略家だ。相手の不幸な顔を見て喜ぼうとしている奴が」
「え、だって相手の不幸ほど甘味な物は無いって言うだろ?」
「言うわけ無いだろ、馬鹿者が!」
「グヘッ!」
 いつもよりかは軽めだったが、不意打ちの一撃は流石に利くな。

「ほら、さっさとレオリオたちと合流して昼ご飯に行くぞ」
 まったく自分勝手なのはどっちなんだよ。
 その後、俺たちは昼食を堪能して再び演習場へと舞い戻ってきた。ああ、今日のカレーとナンも美味しかったな。
 午後になり、いよいよ準々決勝が始まる。
 人数も減り二回に分けてする必要もなくなった。
 ステージに上がると、副審が二人追加されていた。そう言えば準々決勝から審判が増えるってエレイン先生が言ってたな。
 対戦相手と対峙していると主審が一歩前に出て口を開いた。

「これより、武闘大会学科別代表選抜準々決勝を行う。これまでとは違い一試合十五分となる。体力の配分もきちんと考えて闘うように」
 あ、下がった。

「それでは………始め!」
 主審の合図と同時に準々決勝が開始された。
 うん、話に聞いていたとおり相手の武器は遠距離タイプのアサルトライフルだな。ステージ広くなったからな、それを有効活用する気か。

「ま、させないけどな!」
 地面を蹴り一瞬にして相手の懐に入り込んだ俺はいつも通り掌底を打ち込む。

「グハッ――!」
 吸い込んだ空気だけでなく肺にあって全て空気を吐いた対戦相手はそのまま倒れこみ気絶した。うん、五回戦の相手のほうが強かったな。トーナメント戦で必ずしも強い奴が勝ち残るわけじゃない。場所によっては偶然にもレベルの低い奴らが集まったりする。ま、これまで運が良かったんだろうが、今回は俺のほうに運が味方したようだな。

「勝者、オニガワラ・ジン!」
 主審の一言で演習場内がざわめく。やっぱり出場者の人数が減ればそれだけ注目度も増すよな。ましてやどうやら一番で勝利を勝ち取ってしまったらしい。目立ちたくはないんだがな。つい勝負となると他の事を忘れてしまう。本当は良い事なんだろうけど。今回はそれが裏目にでたな。ま、何とかなるだろう。
 俺はいつも通り勝利を掴んでステージを下りた。
 ジュリアスは……どうやらまだ闘っているようだな。
 近接と中距離を得意とするジュリアスに対して相手の武器は……鞭だな。てか、なんで蝶々の形をした仮面までつけてるんだ。一応戦闘だから服装は指定された戦闘服だが、あれで服装までもがあっち系なら間違いなしだよな。

「さあ、地面伏して懇願なさい!このM豚が!」
 うん、間違いない。一部の人種に大人気の存在だな。同じ組じゃなくて本当に良かった。流石の俺もそっちの趣味は無いからな。もしも闘うことになっていたらいつも以上に力だしてたと思う。うん、間違いなく。
 ま、結局ジュリアスが鞭の攻撃をギリギリのところで躱わして首筋に切先を突きつけて終了した。あいつもどうやら楽しく闘えているようでなによりだな。
 こうして五回戦、準々決勝が終了し、いよいよ明日準決勝と決勝が執り行われる。それと俺は決闘だな。一応エレイン先生には伝えておいた方が良いのか?いや、どうせ直ぐに分かることだし、早く帰って横になりたいから良いか。
 俺はジュリアスたちと一緒に寮へと戻った。さ~て、今日の夕食はなにかな。
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