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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第五十話 武闘大会個人戦学園代表選抜最終日第三試合
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『し、信じられない……』
誰もが驚愕の表情を浮かべていた。ミューラ先生ですら丁寧語を忘れるほどに。
「おいおい、これから最後の試合なんだぞ。なに黙り込んでるんだ?」
俺の言葉に誰もが我に戻る。
そんな俺に審判が近づいてきた。
「ま、まさかその体で闘うつもりなのか?」
恐怖を僅かに含んだ声音と視線は俺の体に向いていた。ま、仕方がないよな。上半身は包帯で白一色。両腕もだ。手術とかしてないから包帯は数箇所が赤くなっているし、誰もが闘える状態ではないと思っているんだろうな。
「あたりまえだろ。この試合に勝てば優勝なんだから誰が棄権なんかするかよ」
「しかし……」
「自分の体のことはよく分かっているから気にするな。それよりさっさと始めてくれ」
「わ、分かった」
審判はそう言うと慌てて定位置に戻っていった。
『一時間前に激戦とも言える闘いを勝ち抜いたボロボロの体でジン選手は立っています!我々教師人ですら信じられない光景です』
お、ミューラ先生もどうやら我に戻ったようだな。これで試合が始められる。で、俺の相手が俺と同じ送り人のコイツか。
表情一つ変えないでジッと俺を見つめるオスカー。本当に17歳か?本当は俺と同じで中身はおっさんだったりして。
「ずいぶんと平然としているな。俺が試合に出てくることを予想していたのか?」
「まさかするわけがないだろ。あれだけの傷を負いながら今俺の前に立ち今から闘おうとしているこの状況が夢ではないかと思うほどだ」
誰が相手であろうと自分を貫き通す。そんな目だ。
だけどこういうタイプも厄介なんだよな。いつも冷静沈着に行動するから不意打ちの攻撃が出来ない。面倒だな。
「だが、随分と見縊られたものだな。その傷で俺に勝てると思っているとは。とても心外だ」
あ、こいつ。結構負けず嫌いなタイプだったりして。
「確かにお前の力は驚異的だ。だが、勝てないとは思っていない」
「ほう……」
挑発的な言葉でも声を荒立てないか。随分しっかりした教育を受けているんだな。
「勿論こんな体だ。長くは闘えない。だから五分以内にお前を倒してやるよ」
『なななな、なんと!五分以内に倒す宣言です!いったいどんなつもりで言っているのでしょうか!観客からは大ブーイングです』
『イザベラ選手に勝って調子に乗っているのでしょうか』
『きっと本気だと思います』
『どうして言い切れるんですか?』
『担任だからとしか言いようがありません。ですが彼と共に生活してきた者たちならばそれが本気だと分かっていると思います』
『解説のお二人から言葉を頂いたところで試合を始めたいと思います。勿論注目の試合は次期学園最強候補にして、送り人でもある。軍務科3年1組オスカー・ベル・ハワード対学園最強のイザベラ選手を激戦の末倒したダークホース。冒険科4年11組オニガワラ・ジン選手!いったいどんな試合が見られるのでしょうか!』
『この試合で優勝者が決まると言う事ですからね』
『アビゲイル先生の言うとおり、現在の戦績はトップがジン選手で10勝0敗。それに続くのは9勝1敗のイザベラ選手とオスカー選手。もしもここでオスカー選手とイザベラ選手が勝てば10勝1敗で同率一位が3人になるという武闘大会個人戦学園代表選抜始まって以来の出来事です。ですが、もしもここでジン選手がオスカー選手を倒すと、これまた武闘大会個人戦学園代表選抜初の冒険科11組の生徒が優勝するという結果を残す事になります』
『これまでの武闘大会個人戦学園代表選抜の過去のデータでは軍務科三年三組の生徒が優勝していますね。それ以下でのクラスが優勝した記録はありません』
『つまりオスカー選手、ジン選手のどちらかが勝利しようと大会始まって以来の偉業と言う事です!』
へぇ、そうなのか。なら優勝してジュリアスたちに喜んで貰うか。
「オスカー」
「なんだ?」
「先に言っておく。見てのとおりこの体だからな、最初から本気で行かせて貰うぜ」
「っ!」
(なんて威圧だ。まるで瀕死の大型魔獣を目の前にしているようなそんな威圧感だ。なるほどイザベラ様に勝っただけの事はある)
「それでは試合……開始!」
制限時間は5分。さっきはそう言ったが3分も持ちそうにないな。まったくカップ麺が出来上がるまで持てよな。
試合開始と同時に相手目掛けて走っていた俺。最初から0.8%で闘っている。イザベラより高いがこの体じゃ仕方がない。力の解放で身体能力も上がるが自己再生能力も上がる。
俺が持つ固有スキル完全制御は自分が好きなように力を制御する事ができる。だが制御すれば身体能力だけでなく身体機能やスキルまでもが制御される。つまり制御すればするほどスキルも身体機能も制御されてしまうってことだ。勿論制御される割合は違うが。それでもこれほど鬱陶しいと思ったことはないな。
でもまずは一発殴っておく!
「おらっ!」
「くっ!」
ほう、俺の一撃を真正面から腕で受けて場外に出ないか。さすがイザベラを苦戦させた男だな。
「空気掌握!」
「うっ!」
なんだ、急に息が出来なくなった!まるで口と鼻を見えない空気の幕で塞がれている感じだ。だが!
「プハッ!ハァハァ……ハァ……ハァ……」
やはり魔法か。
だけど魔力操作がずば抜けて上手いってのこういうことか。伊達に暗殺者なんて物騒な異名を手にしているだけのことはある。
「短時間なら効果はあるが長時間の魔法攻撃は効かないようだな」
「おい、後輩。なに先輩を実験台みたいにしてんだ」
「物事を知るには観察から始まり、推測し、それを実験してようやく一つの答えがでる。俺はそれを実行しただけに過ぎない」
なに科学者みたいな事言ってんだ。お前は軍務科の生徒だろうが。
「なら、これはどうだ。空気爆弾」
「だから俺で実験台にするなよ!」
ってなにも起こらない。なら、もう一度殴らせて――っ!
「ほう、攻撃するのは止めたか。危険察知の能力はあるようだ。だがやはり見えない攻撃は手で触れる事は出来ないようだな」
あのう野郎……先輩の言葉を無視しやがって。それより今は時間だ。この間に2分も経過してやがる。残りの体力と時間を考えれば悠長な事は出来ない。
「なら、こっちから仕掛けさせて貰うぞ」
「しまっ――」
ボンッ!
何かが触れた瞬間爆発しやがった!なるほど空気爆弾か。前世の知識を利用した魔法か。これまた厄介だ。あの島には居なかったからな前世の記憶を持った敵は。
だが、このままでは本当にジリ貧だ。感じろ奴の闘志を。
…………全部で15個。いや、さっきの爆発したのを含めて16個か。俺の半径三メートル以内に設置されてるな。で、頭上に一つか。ジャンプしたところを爆発させるつもりか。俺の想像以上に腹黒いやつ。
「どうした、動かないのか?」
「見えない爆弾が一つとは限らないだろうが」
「ほう……」
(魔力感知の能力はないはずだ。魔力感知するには魔力を保有している者にしか出来ないはずだからな。それを考えると俺が知らない方法で感知したか、はたまた俺の性格などを踏まえて推測したか………可能性があるとすれば後者だな)
だがこのままでは本当に拙い。爆弾を気にせずオスカーに目掛けて走るてもあるが、それは最終手段だな。今の体力から考えてこれ以上のダメージはきついからな。
「だが、どうやらそれが分かったところで反撃する手が無いようだな。なら遠慮する必要はないようだな」
「チッ!」
一斉に俺目掛けて動かしてきやがった!本当に遠慮なしだな。
仕方が無いここはオスカーに突っ込むしかないな。
動き出そうとした瞬間、左足が何かに固定されて動けなかった。
「足が!」
「棘の束縛だ。空気爆弾に気を取られて警戒が散漫になっていたようだな」
足の棘に触れている時間はない。ったくこんな事ならもっと早く行動しておくべきだった。
「最後だ。鋼の牢獄」
この中に閉じ込めて爆発力を強化するつもりかよ!暗殺者の異名を持ってるだけあって徹底してやがるな。クソ野郎!
何か手は…………っ!あれなら!
(これで終わりだな)
「おらっ!」
バンッ!
「なっ!」
『鋼の牢獄に開いた穴から強烈な爆風がオスカー選手を襲ったぞ。これはどういうことだ!』
『弾丸の仕組みと同じ原理でしょう』
『弾丸ですか?』
『弾丸は薬莢内にある火薬を爆発させた際におこる内部圧力によって弾頭が高速発射されます。それと同じ原理を利用してジン選手は鋼の牢獄の中で空気爆弾が爆発して生まれた内部圧力を壁の一箇所に穴を開け一気に放出させたと言う訳です。』
『つまりジン選手はそれをとっさに思いつき実行したと言う事でしょうか?』
『ええ、そうなります。弾頭があればオスカー選手にもっとダメージを与えられていたでしょうが、さすがにあの状況では無理でしょう。ですが放出された空気は高温で強烈ですからオスカー選手も無傷とはいかないでしょうが』
どうやら俺はまだ生きてるようだな。
『ジン選手が出てきました!というよりもあの爆発を受けて気絶すらしていないことが奇跡です!』
とっさの思いつきで牢獄の一部に穴を開けたが、開ける瞬間に空気爆弾の方が先に触れちまって爆発するから賭けだったが、どうやら上手くいったようだな。
「よう、生きてるか後輩」
「まさかあのような手段で攻撃してくるとは想定外だ」
「俺としてはその仏頂面が人間らしい表情に変わっていることに嬉しさを覚えるがな」
「ほざけ」
まったく、どうして俺の周りには先輩に対する礼儀を知らない奴らばかりなんだ。俺、ちょっと悲しくて涙がでそう。
「だけどま、後輩のお遊びもこれで終わりだ」
「なにをふざけたこ――っ!」
「こっからは先輩の指導のターンだ!」
十八番其の壱、+0.1%殴りで俺は奴の間合いに入り込み思いっきり殴り飛ばした。
さすがにさっきの爆風で体が一時的に鈍くなっていたんだろう。まともに俺の拳をくらったオスカーは場外まで吹き飛ばされて気絶していた。
「見たか、先輩の力」
「勝者、オニガワラ・ジン!」
『決まったあああああああああああぁぁぁ!!武闘大会個人戦学園代表選抜優勝は冒険科4年11組オニガワラ・ジン選手うううううぅぅ!』
優勝決定と同時に観客たちの拍手喝采と祝福の言葉が………少ししか聞こえないだと!
確認できただけでも拍手したり喜んでいるのは冒険科の一部の生徒だけ。正確にいえば、俺のクラスとジュリアス。それから銀の斧と失われた王冠の連中だけだった。きっと他にもいるだろう。俺は心からそう願うぞ!
「ジン」
「イザベラ……それにむっつりロイドか」
「誰がむっつりだ!」
「いや、なんとなく」
「なんとなくで人を判断するな!」
「お前だって最初してたじゃねぇか」
「あ、あれはだな……」
「それよりもジン、優勝おめでとう」
「サンキュー」
「団体戦は私たちが勝ってみせるわ」
「出来るものならやってみろ。お前とロイド、それにオスカー三人もいるチームだ。個人戦以上に手加減は出来ないぞ」
「ええ、それで良いわ。それを乗り越えて必ず勝ってみせるから」
「そうか、それは楽しみだ」
これはもしかしたら本当に強い奴探すより下から来る奴らと戦うほうが早いかもな。
「表彰式は30分後よ、遅刻しないようにね」
「するわけないだろ。俺を誰だと思ってるんだ」
「怠惰の化身でしょ」
「ったく、優勝したんだから少しは信じてくれても良いだろうに」
「それとこれは別よ」
「そうかよ」
「ええ」
イザベラと話し終えた俺はいつもの場所で休憩するため廊下を出ようとした。
『ジイイイイイィィィン!』
「うおっ!」
そんな俺にエミリアたちAAAメンバーにクラスメイト、銀の斧と失われた王冠の連中までもが祝福しに待っていてくれた。
ったくこいつらは。
「おめでとうジン」
「サンキュー、ジュリアス」
「凄い!凄い!凄いよ!」
「エミリー少し落ち着きなさい。ジンさんおめでとうございます」
「ありがとう、フェリシティー」
「ぅおおおおおぉぉぉ!お前って奴はどこまで凄いだ、この馬鹿野郎が!」
「泣くなよ」
「うるせぇ!」
ったくレオリオの奴。泣くほど嬉しかったのかよ。
「まさか優勝するとは思わなかったぞ」
「貴様は失われた王冠である俺たちを倒したんだ。これぐらいして貰わないと困る」
ガルム……サイモンは相変わらず生意気だな。
ソファーに座った俺を囲むようにみんなが祝福の言葉を投げかけてくれた。別に友達100人作る必要は無い。大切な時、大事な時に傍で祝福してくれる奴や慰めてくれる奴が少し居てくれるだけで心は温かく感じるものだ。
================================
どうも月見酒です。
こちらで報告するのは初めて(?)ですね。
「魔力無し転生者の最強異世界物語~なぜ、こうなった!!~」を公開し始めて一ヶ月と少し、とうとうお気に入り登録数が1000人を突破しました!
これも読者の皆様のおかげです。
なんども意見や誤字報告をして下さる読者の方も居て、それを励みに書かせて貰っています。
これを読んだ読者の中には「鬼神転生記」の方も書いて欲しいと思っているかもしれませんが、ごめんなさい!
完全に煮詰まっています。
ですので、もうしばらく待ってもらえると嬉しいです。
それでは熱中症対策をしっかりしてこの夏を共に乗り越えた時にまたお会いしましょう。
誰もが驚愕の表情を浮かべていた。ミューラ先生ですら丁寧語を忘れるほどに。
「おいおい、これから最後の試合なんだぞ。なに黙り込んでるんだ?」
俺の言葉に誰もが我に戻る。
そんな俺に審判が近づいてきた。
「ま、まさかその体で闘うつもりなのか?」
恐怖を僅かに含んだ声音と視線は俺の体に向いていた。ま、仕方がないよな。上半身は包帯で白一色。両腕もだ。手術とかしてないから包帯は数箇所が赤くなっているし、誰もが闘える状態ではないと思っているんだろうな。
「あたりまえだろ。この試合に勝てば優勝なんだから誰が棄権なんかするかよ」
「しかし……」
「自分の体のことはよく分かっているから気にするな。それよりさっさと始めてくれ」
「わ、分かった」
審判はそう言うと慌てて定位置に戻っていった。
『一時間前に激戦とも言える闘いを勝ち抜いたボロボロの体でジン選手は立っています!我々教師人ですら信じられない光景です』
お、ミューラ先生もどうやら我に戻ったようだな。これで試合が始められる。で、俺の相手が俺と同じ送り人のコイツか。
表情一つ変えないでジッと俺を見つめるオスカー。本当に17歳か?本当は俺と同じで中身はおっさんだったりして。
「ずいぶんと平然としているな。俺が試合に出てくることを予想していたのか?」
「まさかするわけがないだろ。あれだけの傷を負いながら今俺の前に立ち今から闘おうとしているこの状況が夢ではないかと思うほどだ」
誰が相手であろうと自分を貫き通す。そんな目だ。
だけどこういうタイプも厄介なんだよな。いつも冷静沈着に行動するから不意打ちの攻撃が出来ない。面倒だな。
「だが、随分と見縊られたものだな。その傷で俺に勝てると思っているとは。とても心外だ」
あ、こいつ。結構負けず嫌いなタイプだったりして。
「確かにお前の力は驚異的だ。だが、勝てないとは思っていない」
「ほう……」
挑発的な言葉でも声を荒立てないか。随分しっかりした教育を受けているんだな。
「勿論こんな体だ。長くは闘えない。だから五分以内にお前を倒してやるよ」
『なななな、なんと!五分以内に倒す宣言です!いったいどんなつもりで言っているのでしょうか!観客からは大ブーイングです』
『イザベラ選手に勝って調子に乗っているのでしょうか』
『きっと本気だと思います』
『どうして言い切れるんですか?』
『担任だからとしか言いようがありません。ですが彼と共に生活してきた者たちならばそれが本気だと分かっていると思います』
『解説のお二人から言葉を頂いたところで試合を始めたいと思います。勿論注目の試合は次期学園最強候補にして、送り人でもある。軍務科3年1組オスカー・ベル・ハワード対学園最強のイザベラ選手を激戦の末倒したダークホース。冒険科4年11組オニガワラ・ジン選手!いったいどんな試合が見られるのでしょうか!』
『この試合で優勝者が決まると言う事ですからね』
『アビゲイル先生の言うとおり、現在の戦績はトップがジン選手で10勝0敗。それに続くのは9勝1敗のイザベラ選手とオスカー選手。もしもここでオスカー選手とイザベラ選手が勝てば10勝1敗で同率一位が3人になるという武闘大会個人戦学園代表選抜始まって以来の出来事です。ですが、もしもここでジン選手がオスカー選手を倒すと、これまた武闘大会個人戦学園代表選抜初の冒険科11組の生徒が優勝するという結果を残す事になります』
『これまでの武闘大会個人戦学園代表選抜の過去のデータでは軍務科三年三組の生徒が優勝していますね。それ以下でのクラスが優勝した記録はありません』
『つまりオスカー選手、ジン選手のどちらかが勝利しようと大会始まって以来の偉業と言う事です!』
へぇ、そうなのか。なら優勝してジュリアスたちに喜んで貰うか。
「オスカー」
「なんだ?」
「先に言っておく。見てのとおりこの体だからな、最初から本気で行かせて貰うぜ」
「っ!」
(なんて威圧だ。まるで瀕死の大型魔獣を目の前にしているようなそんな威圧感だ。なるほどイザベラ様に勝っただけの事はある)
「それでは試合……開始!」
制限時間は5分。さっきはそう言ったが3分も持ちそうにないな。まったくカップ麺が出来上がるまで持てよな。
試合開始と同時に相手目掛けて走っていた俺。最初から0.8%で闘っている。イザベラより高いがこの体じゃ仕方がない。力の解放で身体能力も上がるが自己再生能力も上がる。
俺が持つ固有スキル完全制御は自分が好きなように力を制御する事ができる。だが制御すれば身体能力だけでなく身体機能やスキルまでもが制御される。つまり制御すればするほどスキルも身体機能も制御されてしまうってことだ。勿論制御される割合は違うが。それでもこれほど鬱陶しいと思ったことはないな。
でもまずは一発殴っておく!
「おらっ!」
「くっ!」
ほう、俺の一撃を真正面から腕で受けて場外に出ないか。さすがイザベラを苦戦させた男だな。
「空気掌握!」
「うっ!」
なんだ、急に息が出来なくなった!まるで口と鼻を見えない空気の幕で塞がれている感じだ。だが!
「プハッ!ハァハァ……ハァ……ハァ……」
やはり魔法か。
だけど魔力操作がずば抜けて上手いってのこういうことか。伊達に暗殺者なんて物騒な異名を手にしているだけのことはある。
「短時間なら効果はあるが長時間の魔法攻撃は効かないようだな」
「おい、後輩。なに先輩を実験台みたいにしてんだ」
「物事を知るには観察から始まり、推測し、それを実験してようやく一つの答えがでる。俺はそれを実行しただけに過ぎない」
なに科学者みたいな事言ってんだ。お前は軍務科の生徒だろうが。
「なら、これはどうだ。空気爆弾」
「だから俺で実験台にするなよ!」
ってなにも起こらない。なら、もう一度殴らせて――っ!
「ほう、攻撃するのは止めたか。危険察知の能力はあるようだ。だがやはり見えない攻撃は手で触れる事は出来ないようだな」
あのう野郎……先輩の言葉を無視しやがって。それより今は時間だ。この間に2分も経過してやがる。残りの体力と時間を考えれば悠長な事は出来ない。
「なら、こっちから仕掛けさせて貰うぞ」
「しまっ――」
ボンッ!
何かが触れた瞬間爆発しやがった!なるほど空気爆弾か。前世の知識を利用した魔法か。これまた厄介だ。あの島には居なかったからな前世の記憶を持った敵は。
だが、このままでは本当にジリ貧だ。感じろ奴の闘志を。
…………全部で15個。いや、さっきの爆発したのを含めて16個か。俺の半径三メートル以内に設置されてるな。で、頭上に一つか。ジャンプしたところを爆発させるつもりか。俺の想像以上に腹黒いやつ。
「どうした、動かないのか?」
「見えない爆弾が一つとは限らないだろうが」
「ほう……」
(魔力感知の能力はないはずだ。魔力感知するには魔力を保有している者にしか出来ないはずだからな。それを考えると俺が知らない方法で感知したか、はたまた俺の性格などを踏まえて推測したか………可能性があるとすれば後者だな)
だがこのままでは本当に拙い。爆弾を気にせずオスカーに目掛けて走るてもあるが、それは最終手段だな。今の体力から考えてこれ以上のダメージはきついからな。
「だが、どうやらそれが分かったところで反撃する手が無いようだな。なら遠慮する必要はないようだな」
「チッ!」
一斉に俺目掛けて動かしてきやがった!本当に遠慮なしだな。
仕方が無いここはオスカーに突っ込むしかないな。
動き出そうとした瞬間、左足が何かに固定されて動けなかった。
「足が!」
「棘の束縛だ。空気爆弾に気を取られて警戒が散漫になっていたようだな」
足の棘に触れている時間はない。ったくこんな事ならもっと早く行動しておくべきだった。
「最後だ。鋼の牢獄」
この中に閉じ込めて爆発力を強化するつもりかよ!暗殺者の異名を持ってるだけあって徹底してやがるな。クソ野郎!
何か手は…………っ!あれなら!
(これで終わりだな)
「おらっ!」
バンッ!
「なっ!」
『鋼の牢獄に開いた穴から強烈な爆風がオスカー選手を襲ったぞ。これはどういうことだ!』
『弾丸の仕組みと同じ原理でしょう』
『弾丸ですか?』
『弾丸は薬莢内にある火薬を爆発させた際におこる内部圧力によって弾頭が高速発射されます。それと同じ原理を利用してジン選手は鋼の牢獄の中で空気爆弾が爆発して生まれた内部圧力を壁の一箇所に穴を開け一気に放出させたと言う訳です。』
『つまりジン選手はそれをとっさに思いつき実行したと言う事でしょうか?』
『ええ、そうなります。弾頭があればオスカー選手にもっとダメージを与えられていたでしょうが、さすがにあの状況では無理でしょう。ですが放出された空気は高温で強烈ですからオスカー選手も無傷とはいかないでしょうが』
どうやら俺はまだ生きてるようだな。
『ジン選手が出てきました!というよりもあの爆発を受けて気絶すらしていないことが奇跡です!』
とっさの思いつきで牢獄の一部に穴を開けたが、開ける瞬間に空気爆弾の方が先に触れちまって爆発するから賭けだったが、どうやら上手くいったようだな。
「よう、生きてるか後輩」
「まさかあのような手段で攻撃してくるとは想定外だ」
「俺としてはその仏頂面が人間らしい表情に変わっていることに嬉しさを覚えるがな」
「ほざけ」
まったく、どうして俺の周りには先輩に対する礼儀を知らない奴らばかりなんだ。俺、ちょっと悲しくて涙がでそう。
「だけどま、後輩のお遊びもこれで終わりだ」
「なにをふざけたこ――っ!」
「こっからは先輩の指導のターンだ!」
十八番其の壱、+0.1%殴りで俺は奴の間合いに入り込み思いっきり殴り飛ばした。
さすがにさっきの爆風で体が一時的に鈍くなっていたんだろう。まともに俺の拳をくらったオスカーは場外まで吹き飛ばされて気絶していた。
「見たか、先輩の力」
「勝者、オニガワラ・ジン!」
『決まったあああああああああああぁぁぁ!!武闘大会個人戦学園代表選抜優勝は冒険科4年11組オニガワラ・ジン選手うううううぅぅ!』
優勝決定と同時に観客たちの拍手喝采と祝福の言葉が………少ししか聞こえないだと!
確認できただけでも拍手したり喜んでいるのは冒険科の一部の生徒だけ。正確にいえば、俺のクラスとジュリアス。それから銀の斧と失われた王冠の連中だけだった。きっと他にもいるだろう。俺は心からそう願うぞ!
「ジン」
「イザベラ……それにむっつりロイドか」
「誰がむっつりだ!」
「いや、なんとなく」
「なんとなくで人を判断するな!」
「お前だって最初してたじゃねぇか」
「あ、あれはだな……」
「それよりもジン、優勝おめでとう」
「サンキュー」
「団体戦は私たちが勝ってみせるわ」
「出来るものならやってみろ。お前とロイド、それにオスカー三人もいるチームだ。個人戦以上に手加減は出来ないぞ」
「ええ、それで良いわ。それを乗り越えて必ず勝ってみせるから」
「そうか、それは楽しみだ」
これはもしかしたら本当に強い奴探すより下から来る奴らと戦うほうが早いかもな。
「表彰式は30分後よ、遅刻しないようにね」
「するわけないだろ。俺を誰だと思ってるんだ」
「怠惰の化身でしょ」
「ったく、優勝したんだから少しは信じてくれても良いだろうに」
「それとこれは別よ」
「そうかよ」
「ええ」
イザベラと話し終えた俺はいつもの場所で休憩するため廊下を出ようとした。
『ジイイイイイィィィン!』
「うおっ!」
そんな俺にエミリアたちAAAメンバーにクラスメイト、銀の斧と失われた王冠の連中までもが祝福しに待っていてくれた。
ったくこいつらは。
「おめでとうジン」
「サンキュー、ジュリアス」
「凄い!凄い!凄いよ!」
「エミリー少し落ち着きなさい。ジンさんおめでとうございます」
「ありがとう、フェリシティー」
「ぅおおおおおぉぉぉ!お前って奴はどこまで凄いだ、この馬鹿野郎が!」
「泣くなよ」
「うるせぇ!」
ったくレオリオの奴。泣くほど嬉しかったのかよ。
「まさか優勝するとは思わなかったぞ」
「貴様は失われた王冠である俺たちを倒したんだ。これぐらいして貰わないと困る」
ガルム……サイモンは相変わらず生意気だな。
ソファーに座った俺を囲むようにみんなが祝福の言葉を投げかけてくれた。別に友達100人作る必要は無い。大切な時、大事な時に傍で祝福してくれる奴や慰めてくれる奴が少し居てくれるだけで心は温かく感じるものだ。
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どうも月見酒です。
こちらで報告するのは初めて(?)ですね。
「魔力無し転生者の最強異世界物語~なぜ、こうなった!!~」を公開し始めて一ヶ月と少し、とうとうお気に入り登録数が1000人を突破しました!
これも読者の皆様のおかげです。
なんども意見や誤字報告をして下さる読者の方も居て、それを励みに書かせて貰っています。
これを読んだ読者の中には「鬼神転生記」の方も書いて欲しいと思っているかもしれませんが、ごめんなさい!
完全に煮詰まっています。
ですので、もうしばらく待ってもらえると嬉しいです。
それでは熱中症対策をしっかりしてこの夏を共に乗り越えた時にまたお会いしましょう。
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だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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