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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第五十二話 決闘 上
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一時間後、決闘の相手が全員が戦闘準備を整えて集まった。因みに全員が集まるまでの間、俺は昼寝をしていた。少しでも体を休めないと大変だからな。
「全員揃ったようだな」
敵意を向けてくる軍務科の生徒たち。やる気満々って感じだな。
「さて、決闘を始める前に10分間だけお前たちに作戦タイムを与える。俺も闘うなら手ごたえのある闘いがしたいからな。俺はその間もう少し寝かせてもらう」
壇上に寝そべり寝る。寝るなら柔らかいベッドが良かった。そう言えば硬い場所で寝るのってあの島に居たとき以来だな。
それにしても俺も酷な事をしたかもな。早く終わらせて保健室に行きたいなんて思ったから10分って言ったが、2000人の中からリーダーを決めるのはそう簡単なものじゃない。ましてや作戦を立てるのなんて不可能だ。
「(ジン、本当に大丈夫なの?)」
「(ん、なにがだ?もしかして体の事なら心配いらないぞ)」
「(そうじゃないわ。力の事よ。すでに遅いかもしれないけど、どうするの?)」
「(だから、なにがだ?)」
「(はぁ……力よ、力!貴方の正体がバレたら一気に面倒なことになるのよ。そのこと自覚してるわよね?)」
「(アタリマエダロ)」
「(なんで目を逸らすの?)」
「(気まぐれだ)」
「(なら、なんでカタコトなの?)」
「(戦闘の疲れが出たのかもしれない)」
「(はぁ……それでどれぐらいの力で闘うつもりなの?)」
「(あまり長くなると体に影響がでそうだからな。最初から1%の力で闘うつもりだ。それで駄目なら1.5%までは出すつもりでいる)」
「(因みに聞くけど1.5%ってどれぐらいの力なの?)」
「(そうだな……イザベラに分かりやすく説明するなら炎龍と互角に戦える力だろうな。あの時は最初から殺すつもりだったから2%の力で戦ったけど)」
「(つまりは2000VS炎龍ってことね)」
「(失礼な奴だな。俺を蜥蜴野郎と一緒にしないで欲しい)」
「(炎龍を蜥蜴野郎なんて言えるのは貴方ぐらいでしょうね)」
そっれて褒めてるんだよな?
「ジン、10分経ったぞ」
「お、そうか。なら闘ってくるか」
壇上から飛び降りた俺は急遽作られた特大のステージに立つ。
イザベラやジュリアス、教師陣は壇上から、他の生徒たちは観客席から観戦している。
「それではこれよりオニガワラ・ジン対軍務科、冒険科連合軍の決闘を開始する」
連合軍って95%以上が軍務科だぞ。
「審判はワシ、ヴァイゼ・デューイ・ダグラスが務めさせて貰う。まずは決闘のルールから説明から始める。基本ルールは武闘大会のルールと変わらん。相手を戦闘不能にするか、負けを宣言させれば勝ちじゃ。しかし場外に出ても負けにはならぬし、制限時間もない。以上じゃ。それでは両者なにか言いたいことがあれば手短に言うて良いぞ」
何気に審判が様になっていて腹立つな。あの狸爺。
「では僕が連合のリーダーとして言わせて貰います」
へぇ、あの短時間でリーダーが決まったのか。適当なのかそれともリーダーに相応しいだけの力を持っているのか。押し付けられたかのどれかだな。
「最初に名乗っておく。僕の名前は軍務科四年一組ニコラス・G・コスタークだ。コスターク伯爵家の次期当主でもある。オニガワラ・ジン。やはり僕は君が優勝したことに納得できない。魔力が無い君がイザベラ様やオスカー君に勝てるはずがない。勝てたのは不正行為を行ったからだ僕たちは未だにそう思っている」
「だが、アンドレアが言うには俺が扱える不正ツールやドーピングは存在しないみたいだが。それに俺と闘った本人たちが不正行為を行ったとは思ってないみたいだしな」
「そ、それは……」
「ま、別に構わないさ。イザベラたちはイザベラたち。お前たちはお前たちだ。お前たちが不正行為を行ったって思うんなら、この決闘で勝って証明すれば良い。それだけだろ」
「その意見にだけは賛成だ」
「それで何を賭ける?」
「賭けるだと?」
「ああ。普通に闘っても構わねぇけど、それじゃ面白くないだろ?それになにか賭けたほうがやる気もでるだろ?」
「神聖な決闘を賭博にするって言うのか」
ありゃ?もしかして怒った?貴族の家系ってみんな頭が固いのかね。
「別に金を賭けろとは言ってない。互いに望みを言って了承すれば良いだけの話だ」
「………分かった」
「それでお前たちは何を望む。さっき言ってたように負けたらこの学園を去れば良いのか?」
「ジン、何を言っているの!」
さすがにイザベラたちが黙ってないか。だが、
「決めるのはお前たちだ。で、何にする?」
「別に学園から去れとまでは言わない」
意外と善良な心は持ってるのか。
「だが、負けたら学園代表を辞退してもらう」
『なっ!』
ニコラスの言葉にイザベラたちは驚きの表情を浮かべていた。ま、当たり前か。
「ああ、別に構わないぞ」
『ジン!』
怒られちゃった。こういう時の大人の対処法技、無視!
「それで君の望みはなんだ?」
「別に大したことじゃない。不正行為うんぬんでイチャモンをつけないで貰いたい。別に影でコソコソ言うのは構わないが、こうも何度もイチャモンつけられるのはうんざりなんだよ。一々相手するのも面倒だしな」
「分かった。もしも僕たちが負けたら二度と君の力を疑わないことをここに誓おう」
「それ、信じても良いんだな」
「僕は貴族だし、ここに居る大半は誇り高い軍務科の生徒だ。嘘はいわない」
「そういう真っ直ぐな姿勢は嫌いじゃないぜ」
「その褒め言葉だけは素直に受け取っておくよ」
俺は感じていた。このニコラスという男とは立場や出会いが違えばきっと仲良くなれていただろう。と。
「それじゃ、始めるとしようか」
「賛成だ」
俺たちは同時に戦闘態勢に入る。俺にも余裕は無いんでな。最初から構えさせてもらうぜ。
「それでは決闘……始め!」
先制攻撃は貰うぜ!
地面を陥没させるほ強く蹴った俺は一瞬にして連合軍との間合いを詰める。
「おらっ!」
お、予想以上に道連れに出来たな。
殴られた少年とその後ろ立っていた数名の生徒が一気に吹き飛ばされる。順調だな。
「予想以上に動きが速い!全員作戦通りに行動開始!」
作戦まであったのか。あの短時間でよく全員に伝達できたな。
だが、俺には関係ないけどな!
「まだまだ、いくぜ!」
誰も俺の速度についてこられないのかしらないが、俺は片っ端から近くの敵を殴り飛ばしていった。そしてそれに巻き込まれる生徒たち。これでいったい何人がリタイアしたかは分からない。ま、立ち上がってくるのならまた殴れば良いだけだしな。
しかし中央まで突き進んだ時、俺の脚はその場で止まった。
「なるほど、そういうことか」
「君が不正行為を行ったと今でもそう考えている。だけど君の実力を馬鹿にした覚えはない。魔力が無くても不正ありきでの君の実力は脅威だからね」
「だからわざと敵陣に突っ込ませて包囲したってわけか」
認められているのか馬鹿にされているのか反応に困るところだな。
やつらと俺との距離はやく5メートル。この程度なら一瞬で間合いを詰めることが出来るが、この作戦を考えた奴の事だ。それも想定済みだろう。
「今度はこちらのターンだ。射撃部隊射撃開始!」
全方位からの射撃か。だがそれだと同士討ちになる危険性だって――
「チッ!」
俺は即座にジャンプして包囲から抜け出し、距離をとる。
「なんてジャンプ力なんだ。この包囲から抜け出せるほどだなんて……」
「ニコラス、これからどうするの?」
「作戦Aから作戦Bに変更する」
おいおいい早速陣形を変えてきたか。それにしてもさっきの全方位射撃には驚かされた。同士討ちになると思っていたが、まさか銃口に角度をつけて足元と頭をしか狙ってこないとは流石の俺も予想外だったぞ。人数が多いからこそ出来る作戦か。ほんと勉強になるね。
「だけど陣形変更の移動が遅いぜ!」
「しまっ!」
即席のチームにしては動けている方なんだろうが、やはりまだ学生ってこともあってか動きが鈍い。
再び突っ込んで俺は殴る。殴る。殴る!そして蹴る。
まだ敵は沢山居るんだ、主導権を奪われてたまるかよ。
************************
私の名前はイザベラ・レイジュ・ルーベンハイト。
私たちは壇上の上からジンたちの決闘を観戦していた。
「なぁ、俺の気のせいか。ジンの奴試合の時よりも動きが速いように見えるんだが」
「私もそう見えるよ」
同じクラスメイトでジンと一番仲の良いレオリオ・ナイツウェル君とエミリア・ゴットバルトさんが呆然としながら、そんな事を呟いていた。
「ジュリアスさん、本当にジンさんは何者なんでしょうか?」
「私にも分からない。私が知っている事といえば、ジンが魔力を持っていない事と呪いのせいで武器が持てないことぐらいだ」
ルームメイトにまでその二つしか情報を教えてないのね。ちゃんと私との約束は守っているようで安心したけど、一番仲の良いジュリアス君にまで秘密にしてると思うと申し訳ないわね。
「ただ、私以前にイザベラさんの方がジンの事は詳しいはずだ」
「そう言えばお二人は前からお知り合いみたいな感じでしたね」
で、ここで私に話が振られるのね。お願いだから全員私に視線を向けないで欲しいわ。私にだって言えないことだってあるんだから。
「はぁ………私だって知っている事は少ないわよ。ジンと出会ったのも丁度3ヶ月ぐらい前だし」
「確かジンが行き倒れているところを発見して助けたんでしたよね?」
「正確に言うなら倒れる瞬間を目撃したから助けた。だけどね。で、ジンが冒険者になりたいって言うから私がお父様に頼んで、このスヴェルニ学園冒険科の編入試験を受けれるようにして貰ったの」
「確かに以前、ジンから友達兼命の恩人ってのは聞きました。ですが、出会ったばかりの人をどうしてそこまでするのか不思議でならないのですが?」
暴力事件のことで説教しに行ったときのことね。確かにジュリアス君の言っている事は正しい。逆の立場なら私も同じ質問をしたに違いない。
「あの怠惰の化身を働かせないといけないって使命感があったのよ。友達兼保護者だしね」
嘘じゃないけど真実でもない。でも真実を話すことはジンの秘密に関わってしまうことになる。だから御免なさいね。
「あ、あのイザベラ様」
「レオリオ君どうかしたの?」
大半の生徒が緊張気味に話しかけてくるけど私ってそんなに怖いのかしら?平然と話してきてくれたのって同世代だと今のところジンと王族の方だけだったし。
「編入初日に実戦訓練の授業があってその時にジンの体を見たんですが、アレって普通じゃないですよね」
「………」
そうだったわね。実戦訓練の授業のときは専用の戦闘服に着替える。そうなればあの体が目に留まるのも無理は無いわね。
今思い出しても悪寒を感じるほどの無数の傷跡。切り裂かれたような痕や貫かれたような痕、火傷の痕もあった。それがジンの強さを象徴するかのように。
「あ、あのイザベラ様?」
「ごめんなさい。少し考え込んでいただけよ。レオリオ君は知ってたのね」
「私も知っています。ルームメイトですから見る機会はありましたから」
「ジンは訓練って言ってましたけど、本当のところ良く分からないし、聞かれたくないような感じでしたので俺たちはあれからは気にしないようにしてたんですが」
そう、訓練で隠し通しているのね。あながち間違ってはいないけど。ほんと申し訳ないわね。特に魔力が無いって分かっても平然と接しているこの子たちに秘密にしているのは本当に申し訳ないわ。
「レオ君、ジン君の体に何があるの?」
「そ、それは………」
そうそう人に言えることじゃないわよね。
「大量の傷跡があるのよ」
ごめんなさい、ジン。私はどうしてもこの子達に黙っていることはできないわ。でも安心して大事な部分は言わないから。
「大量の傷跡ってどれぐらい?」
「体中です。胸や腹部、背中や腰、腕に至るまで大量の傷がありました。きっと下半身にもあると思います。ま、偶然にも全てが服で隠せる部分ですから気づかないのはあたりまえです」
「フェリシティーは知ってたの?」
「私が知ったのも数時間前のことです。イザベラ様との戦闘で負った傷を治療している時に体中に傷跡があることに気づきました。ま、その時の負傷で分かりづらくなってはいましたので気づかなかったのも仕方がありませんが。これだけの傷を負うほどの訓練と考えるとゾッとしてなりません」
やはり彼等には話しておくべきなんでしょうね。
「全員揃ったようだな」
敵意を向けてくる軍務科の生徒たち。やる気満々って感じだな。
「さて、決闘を始める前に10分間だけお前たちに作戦タイムを与える。俺も闘うなら手ごたえのある闘いがしたいからな。俺はその間もう少し寝かせてもらう」
壇上に寝そべり寝る。寝るなら柔らかいベッドが良かった。そう言えば硬い場所で寝るのってあの島に居たとき以来だな。
それにしても俺も酷な事をしたかもな。早く終わらせて保健室に行きたいなんて思ったから10分って言ったが、2000人の中からリーダーを決めるのはそう簡単なものじゃない。ましてや作戦を立てるのなんて不可能だ。
「(ジン、本当に大丈夫なの?)」
「(ん、なにがだ?もしかして体の事なら心配いらないぞ)」
「(そうじゃないわ。力の事よ。すでに遅いかもしれないけど、どうするの?)」
「(だから、なにがだ?)」
「(はぁ……力よ、力!貴方の正体がバレたら一気に面倒なことになるのよ。そのこと自覚してるわよね?)」
「(アタリマエダロ)」
「(なんで目を逸らすの?)」
「(気まぐれだ)」
「(なら、なんでカタコトなの?)」
「(戦闘の疲れが出たのかもしれない)」
「(はぁ……それでどれぐらいの力で闘うつもりなの?)」
「(あまり長くなると体に影響がでそうだからな。最初から1%の力で闘うつもりだ。それで駄目なら1.5%までは出すつもりでいる)」
「(因みに聞くけど1.5%ってどれぐらいの力なの?)」
「(そうだな……イザベラに分かりやすく説明するなら炎龍と互角に戦える力だろうな。あの時は最初から殺すつもりだったから2%の力で戦ったけど)」
「(つまりは2000VS炎龍ってことね)」
「(失礼な奴だな。俺を蜥蜴野郎と一緒にしないで欲しい)」
「(炎龍を蜥蜴野郎なんて言えるのは貴方ぐらいでしょうね)」
そっれて褒めてるんだよな?
「ジン、10分経ったぞ」
「お、そうか。なら闘ってくるか」
壇上から飛び降りた俺は急遽作られた特大のステージに立つ。
イザベラやジュリアス、教師陣は壇上から、他の生徒たちは観客席から観戦している。
「それではこれよりオニガワラ・ジン対軍務科、冒険科連合軍の決闘を開始する」
連合軍って95%以上が軍務科だぞ。
「審判はワシ、ヴァイゼ・デューイ・ダグラスが務めさせて貰う。まずは決闘のルールから説明から始める。基本ルールは武闘大会のルールと変わらん。相手を戦闘不能にするか、負けを宣言させれば勝ちじゃ。しかし場外に出ても負けにはならぬし、制限時間もない。以上じゃ。それでは両者なにか言いたいことがあれば手短に言うて良いぞ」
何気に審判が様になっていて腹立つな。あの狸爺。
「では僕が連合のリーダーとして言わせて貰います」
へぇ、あの短時間でリーダーが決まったのか。適当なのかそれともリーダーに相応しいだけの力を持っているのか。押し付けられたかのどれかだな。
「最初に名乗っておく。僕の名前は軍務科四年一組ニコラス・G・コスタークだ。コスターク伯爵家の次期当主でもある。オニガワラ・ジン。やはり僕は君が優勝したことに納得できない。魔力が無い君がイザベラ様やオスカー君に勝てるはずがない。勝てたのは不正行為を行ったからだ僕たちは未だにそう思っている」
「だが、アンドレアが言うには俺が扱える不正ツールやドーピングは存在しないみたいだが。それに俺と闘った本人たちが不正行為を行ったとは思ってないみたいだしな」
「そ、それは……」
「ま、別に構わないさ。イザベラたちはイザベラたち。お前たちはお前たちだ。お前たちが不正行為を行ったって思うんなら、この決闘で勝って証明すれば良い。それだけだろ」
「その意見にだけは賛成だ」
「それで何を賭ける?」
「賭けるだと?」
「ああ。普通に闘っても構わねぇけど、それじゃ面白くないだろ?それになにか賭けたほうがやる気もでるだろ?」
「神聖な決闘を賭博にするって言うのか」
ありゃ?もしかして怒った?貴族の家系ってみんな頭が固いのかね。
「別に金を賭けろとは言ってない。互いに望みを言って了承すれば良いだけの話だ」
「………分かった」
「それでお前たちは何を望む。さっき言ってたように負けたらこの学園を去れば良いのか?」
「ジン、何を言っているの!」
さすがにイザベラたちが黙ってないか。だが、
「決めるのはお前たちだ。で、何にする?」
「別に学園から去れとまでは言わない」
意外と善良な心は持ってるのか。
「だが、負けたら学園代表を辞退してもらう」
『なっ!』
ニコラスの言葉にイザベラたちは驚きの表情を浮かべていた。ま、当たり前か。
「ああ、別に構わないぞ」
『ジン!』
怒られちゃった。こういう時の大人の対処法技、無視!
「それで君の望みはなんだ?」
「別に大したことじゃない。不正行為うんぬんでイチャモンをつけないで貰いたい。別に影でコソコソ言うのは構わないが、こうも何度もイチャモンつけられるのはうんざりなんだよ。一々相手するのも面倒だしな」
「分かった。もしも僕たちが負けたら二度と君の力を疑わないことをここに誓おう」
「それ、信じても良いんだな」
「僕は貴族だし、ここに居る大半は誇り高い軍務科の生徒だ。嘘はいわない」
「そういう真っ直ぐな姿勢は嫌いじゃないぜ」
「その褒め言葉だけは素直に受け取っておくよ」
俺は感じていた。このニコラスという男とは立場や出会いが違えばきっと仲良くなれていただろう。と。
「それじゃ、始めるとしようか」
「賛成だ」
俺たちは同時に戦闘態勢に入る。俺にも余裕は無いんでな。最初から構えさせてもらうぜ。
「それでは決闘……始め!」
先制攻撃は貰うぜ!
地面を陥没させるほ強く蹴った俺は一瞬にして連合軍との間合いを詰める。
「おらっ!」
お、予想以上に道連れに出来たな。
殴られた少年とその後ろ立っていた数名の生徒が一気に吹き飛ばされる。順調だな。
「予想以上に動きが速い!全員作戦通りに行動開始!」
作戦まであったのか。あの短時間でよく全員に伝達できたな。
だが、俺には関係ないけどな!
「まだまだ、いくぜ!」
誰も俺の速度についてこられないのかしらないが、俺は片っ端から近くの敵を殴り飛ばしていった。そしてそれに巻き込まれる生徒たち。これでいったい何人がリタイアしたかは分からない。ま、立ち上がってくるのならまた殴れば良いだけだしな。
しかし中央まで突き進んだ時、俺の脚はその場で止まった。
「なるほど、そういうことか」
「君が不正行為を行ったと今でもそう考えている。だけど君の実力を馬鹿にした覚えはない。魔力が無くても不正ありきでの君の実力は脅威だからね」
「だからわざと敵陣に突っ込ませて包囲したってわけか」
認められているのか馬鹿にされているのか反応に困るところだな。
やつらと俺との距離はやく5メートル。この程度なら一瞬で間合いを詰めることが出来るが、この作戦を考えた奴の事だ。それも想定済みだろう。
「今度はこちらのターンだ。射撃部隊射撃開始!」
全方位からの射撃か。だがそれだと同士討ちになる危険性だって――
「チッ!」
俺は即座にジャンプして包囲から抜け出し、距離をとる。
「なんてジャンプ力なんだ。この包囲から抜け出せるほどだなんて……」
「ニコラス、これからどうするの?」
「作戦Aから作戦Bに変更する」
おいおいい早速陣形を変えてきたか。それにしてもさっきの全方位射撃には驚かされた。同士討ちになると思っていたが、まさか銃口に角度をつけて足元と頭をしか狙ってこないとは流石の俺も予想外だったぞ。人数が多いからこそ出来る作戦か。ほんと勉強になるね。
「だけど陣形変更の移動が遅いぜ!」
「しまっ!」
即席のチームにしては動けている方なんだろうが、やはりまだ学生ってこともあってか動きが鈍い。
再び突っ込んで俺は殴る。殴る。殴る!そして蹴る。
まだ敵は沢山居るんだ、主導権を奪われてたまるかよ。
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私の名前はイザベラ・レイジュ・ルーベンハイト。
私たちは壇上の上からジンたちの決闘を観戦していた。
「なぁ、俺の気のせいか。ジンの奴試合の時よりも動きが速いように見えるんだが」
「私もそう見えるよ」
同じクラスメイトでジンと一番仲の良いレオリオ・ナイツウェル君とエミリア・ゴットバルトさんが呆然としながら、そんな事を呟いていた。
「ジュリアスさん、本当にジンさんは何者なんでしょうか?」
「私にも分からない。私が知っている事といえば、ジンが魔力を持っていない事と呪いのせいで武器が持てないことぐらいだ」
ルームメイトにまでその二つしか情報を教えてないのね。ちゃんと私との約束は守っているようで安心したけど、一番仲の良いジュリアス君にまで秘密にしてると思うと申し訳ないわね。
「ただ、私以前にイザベラさんの方がジンの事は詳しいはずだ」
「そう言えばお二人は前からお知り合いみたいな感じでしたね」
で、ここで私に話が振られるのね。お願いだから全員私に視線を向けないで欲しいわ。私にだって言えないことだってあるんだから。
「はぁ………私だって知っている事は少ないわよ。ジンと出会ったのも丁度3ヶ月ぐらい前だし」
「確かジンが行き倒れているところを発見して助けたんでしたよね?」
「正確に言うなら倒れる瞬間を目撃したから助けた。だけどね。で、ジンが冒険者になりたいって言うから私がお父様に頼んで、このスヴェルニ学園冒険科の編入試験を受けれるようにして貰ったの」
「確かに以前、ジンから友達兼命の恩人ってのは聞きました。ですが、出会ったばかりの人をどうしてそこまでするのか不思議でならないのですが?」
暴力事件のことで説教しに行ったときのことね。確かにジュリアス君の言っている事は正しい。逆の立場なら私も同じ質問をしたに違いない。
「あの怠惰の化身を働かせないといけないって使命感があったのよ。友達兼保護者だしね」
嘘じゃないけど真実でもない。でも真実を話すことはジンの秘密に関わってしまうことになる。だから御免なさいね。
「あ、あのイザベラ様」
「レオリオ君どうかしたの?」
大半の生徒が緊張気味に話しかけてくるけど私ってそんなに怖いのかしら?平然と話してきてくれたのって同世代だと今のところジンと王族の方だけだったし。
「編入初日に実戦訓練の授業があってその時にジンの体を見たんですが、アレって普通じゃないですよね」
「………」
そうだったわね。実戦訓練の授業のときは専用の戦闘服に着替える。そうなればあの体が目に留まるのも無理は無いわね。
今思い出しても悪寒を感じるほどの無数の傷跡。切り裂かれたような痕や貫かれたような痕、火傷の痕もあった。それがジンの強さを象徴するかのように。
「あ、あのイザベラ様?」
「ごめんなさい。少し考え込んでいただけよ。レオリオ君は知ってたのね」
「私も知っています。ルームメイトですから見る機会はありましたから」
「ジンは訓練って言ってましたけど、本当のところ良く分からないし、聞かれたくないような感じでしたので俺たちはあれからは気にしないようにしてたんですが」
そう、訓練で隠し通しているのね。あながち間違ってはいないけど。ほんと申し訳ないわね。特に魔力が無いって分かっても平然と接しているこの子たちに秘密にしているのは本当に申し訳ないわ。
「レオ君、ジン君の体に何があるの?」
「そ、それは………」
そうそう人に言えることじゃないわよね。
「大量の傷跡があるのよ」
ごめんなさい、ジン。私はどうしてもこの子達に黙っていることはできないわ。でも安心して大事な部分は言わないから。
「大量の傷跡ってどれぐらい?」
「体中です。胸や腹部、背中や腰、腕に至るまで大量の傷がありました。きっと下半身にもあると思います。ま、偶然にも全てが服で隠せる部分ですから気づかないのはあたりまえです」
「フェリシティーは知ってたの?」
「私が知ったのも数時間前のことです。イザベラ様との戦闘で負った傷を治療している時に体中に傷跡があることに気づきました。ま、その時の負傷で分かりづらくなってはいましたので気づかなかったのも仕方がありませんが。これだけの傷を負うほどの訓練と考えるとゾッとしてなりません」
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ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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