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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す

第六十話 罰ゲームマスター

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 寮へと戻った俺はソファーで寛ぎながら会議で決まった内容をジュリアスに話していた。

「ほんとうに私たちも参加して良いのだろうか?」
 学園代表たちの訓練に参加させて貰えることにジュリアスは恐縮そうに呟く。ジュリアスの性格から考えて分かっていた事だけど。

「決まったことだ。今更何を言ったって仕方が無いだろ。それとも嫌か?」
「そんなことはない。どちらかと言えばありがたい。学園代表者たちと共に特訓が出来る。これほど身になる訓練はないからな」
 そこまで真面目に考えなくても良いと思うが。ま、レオリオたちからも了解のメールも来たし、場所が決まったら教えてやらないとな。

「だが、どうして私たちが参加できるようになったんだ?」
「ま、色々あったんだよ」
 態々教えるような事でもないし、教えたら教えたでジュリアスは申し訳ないと感じるだろうから言わない。

「色々ね……」
「なんだよその目は」
「いや、またジンが何かやらかしたのではないかと思っただけだ」
「そ、そんなわけないだろ!喋るようなことはあまりしなかったが、居眠りもしなかったしちゃんと出席してたぞ!」
 うん、嘘は言っていない。寝てないのも事実だ。ま、居眠りをする暇がなかったとも言えるが、そこは置いておこう。
 それよりもジュリアスが俺をどんな風に見ているのかが良く分かる瞬間だな。

「今の話が本当かどうかはさておいて、今は黙って誘ってくれたことを感謝しておくとしよう」
 癇に障る言い方だな。それと感謝するなら最初からそうしてくれると嬉しかったぞ。


 眠気が抜けないままジュリアスと一緒に演習場に来ていた。
 既に全員が集まっていて全員が目をギラギラさせていた。
 まったく若者の元気は凄いな。休日の朝からよくそんな目ができる。おじさんはもうそんな目はできないよ。

「それじゃ特訓を始めるわよ。と言っても最初は基礎訓練から。互いに指摘し合ったり、話し合ったりして基礎向上をはかるわ。それが終わったらチームごとにジンと模擬戦。で、最後は全員でジンと模擬戦ね」
「おいおい、それはどう考えても俺の負担が大きいように聞こえるんだが」
「それぐらい大丈夫でしょ?」
 俺を超人かスーパーマンかなにかと勘違いしてるんじゃないだろうか。
 でもこれが一週間続くと思うととても憂鬱だ。闘うのは嫌いじゃないが流石に滅入る。

「なら、俺からも提案させてくれ」
「何かしら?」
 俺の言葉に全員が興味を示した視線が向けられる。

「一週間もこの特訓をするとなると俺の負担が大きい。だからモチベーションを維持する為に模擬戦の勝敗に関しては罰ゲームありで頼む」
「罰ゲームね………金銭関連や厭らしい内容は無しよね?」
「モチロンダ」
 流石はイザベラ、有無を言わせない目つきでいきなり釘を刺してきやがった。
 だけどここで否定すれば説教コースへ突入することは間違いないし、罰ゲーム自体が無くなる可能性があるから従うしかないな。

「それなら構わないわ。特訓をお願いしたのこちらなんだし」
「そうか………フフッ、実に模擬戦が楽しみだ」
 許可の言葉が出た。
 ならもう拒否権も文句も無い。つまりはこれまでの鬱憤を全て闘いと罰ゲームで晴らせる絶好のチャンス!我の勝利は確実の物となった!
 不敵な笑みを浮かべ不気味な気配を漂わせる仁の姿にイザベラたちは後悔の念を覚えるのであった。
(((((嫌な予感しかしない!)))))

「それじゃ始めるわよ」
「それじゃ頑張ってくれ」
「どこにいこうとしてるのよ」
「え、壁際で昼寝を」
「まだ9時過ぎよ。なにがお昼寝よ。ほら訓練するわよ」
「なに言っているんだ。俺は模擬戦の相手はするとは言ったが訓練をすると一言も言ってないぞ。それに魔法が使えない俺が訓練する理由がない」
「だったら同じ近接戦闘の子達に意見でも出したら良いでしょ」
「俺の武術は形がないから、意見すらだせないって。それより俺は少しでも体力を温存しておかないと模擬戦で負ける恐れがあるからな」
「はぁ………分かったわ」
「さすがイザベラ。話が早くて助かるぜ。それじゃ皆、頑張ってくれ!」
「アイツ普通に元気なような気がするんだが……」
「怠惰的思考の持ち主より私たちのほうが下だと思うと腹が立ちますわね」
 罰ゲームの内容でも決めておくか。何にしようか。駄目だそれだけを考えるだけでワクワクする!
 時間は流れ昼休憩を挟んだあと模擬戦を行った。で、結果だけ言えば、

「圧勝!」
 鬱憤の2割はこれで晴らせた。なんて素晴らしい気分なんだ。

「予想はしてたけど、ほんと化け物ね」
「つ、強すぎる……」
「デタラメですわ……」
 地面に座り込むイザベラたち。最後は学園代表5チームとジュリアスたち4名を加えた29人対1人だったが、1%~2%の間で勝つことが出来た。俺にとっても力を抑えた状態での戦闘はとても勉強になった。やはり実戦あるのみだよな。

「さて、お待ちかねの罰ゲームタイムだ~」
「ジン、分かってるでしょうね。厭らしいことは禁止よ!」
「大丈夫だイザベラ。それはちゃんと守るからよ。ただ少しだけトラウマになるかもしれないがな」
 と言ってもまだ一週間あるので今日は全員の顔に油性ペンで落書きして写真を撮る程度で止めておいた。

「これほど明日からの特訓が楽しみなことはない!」
 うしろでは憂鬱な空気を漂わせているが。

「最悪だわ……」
「こんな辱めは生まれて初めてですわ……」
「屈辱だ」
 さすがプライドの高い貴族様方。顔の落書き程度で凄い効き目だ。

「それじゃ、また明日」
「ジン、どこに行くの?」
「ちょっと買い物だ。明日の罰ゲームのために色々と用意しておこうと思ってな。それじゃ!」
 今回だけでも鬱憤が4割も減った。今後の特訓が実に楽しみだ。

            ************************

 ジンが明日の罰ゲームのためにと買い物に出かける後姿を見送った私たちは、顔に油性ペンで描かれた落書きを消すために一旦更衣室にある洗面場で顔に描かれた油性インクを落とす。
 鏡に映る屈辱的な自分の顔を見たくない一心にいつも以上に洗顔用クリームを使って念入りに顔を洗った。
 落書きを落とした私たちは再び集まって今までに感じた事の無い危機感を抱いていた。

「ごめんなさい。私が了承したばかりに」
「いえ、イザベラ様のせいではありませんわ」
「そうです。あの男が卑劣な奴だと忘れていた自分の責任です」
 アンドレア、ロイド。私は素晴らしい友達に出会えて嬉しいわ。

「だがよ。このままだと明日も罰ゲームだぜ」
「今回は急遽決まったので、これでしたが明日からは今日以上に屈辱的な罰ゲームが待っています」
「想像しただけで悪寒がしますわ」
「あの悪魔に勝つ方法を考えなければ!」
 このとき私たちはジンを倒すという目的だけに一致団結した。学園の過去を振り返っても代表者同士がここまで一致団結したことはないと私は思う。

「でも、あの悪魔に勝つのは至難の業だと僕は思いますけど」
「そうね。圧倒的なスピードとパワー。それを上手く利用した形にはまらない戦闘術」
「反射神経、動体視力ともにずば抜けていたな」
「近接戦がメインとはいえ、遠距離攻撃もできるしね」
「でも一番厄介なのはあの力なのよね」
「武器は吹き飛ばし、魔力は霧散させる力。あれはもうチートと言うべき力ですよね」
「アッシュ。それは違うぞ」
「違う?」
 アッシュ・フォン・マッローニ。軍務科四年一組の生徒で、夏の雲サマー・クラウドのメンバーでもある。

「ロイドさんそれはどう言う意味ですか?」
 彼女の名前はエマ・グラス。こんな言い方は好きじゃないけど軍務科では珍しい平民出身者だ。彼女もまた夏の雲サマー・クラウドのメンバー。

「奴のあれはチートではない。奴のアレは呪いなのだ」
『呪い?』
 ジンのあの力を知らない人たちが首を傾げる。ジュリアス君たちは知っているようね。同じチームメンバなんだしあたりまえよね。

「そうだ。奴は呪いをかけた者。つまり術者が武器と指定した物を掴めないんだ。掴もうとすれば強烈な痛みが走るらしい。だがその呪いを発想の転換で魔法や武器での攻撃を無力化しているんだ」
「つまり外傷は与えられないけどダメージは与えているってことですか?」
 エマがそんなロイドの説明を分かりやすく簡潔に纏めって聞き返して来る。これなら理解が追い付いていない生徒にも伝わるし、話がスムーズに進むわ。

「そうだ。だが奴の闘い方を見る限り相当痛みにも耐性を持っている」
「確かにそうですね。至近距離で弾丸を浴びても立っていましたから」
「私がした攻撃のことね」
「そ、そうです。あれはその呪い対策なんですよね?」
「ええ、そうよ。ジンは一定以上の大きさの物なら持てるの。だから魔力を使っていない普通の弾丸なら無力化する事が出来ないわ」
「なるほど。だからサブマシンガンを」
「それでも立ってきたけどね」
 あの時は流石に驚きを隠せなかったわね。
 みんなも煙の中から上半身傷だらけのジンが立っていた姿を思い出して戦慄していた。

「あれはもう人間じゃないですよね」
「まさに悪魔ですわね」
 アンドレアの言葉に全員が同意の意味も込めてため息を漏らす。

「てかよ。アイツはあれだけの力をどこで手に入れたんだ?」
 彼の名前は軍務科四年一組の生徒でマックス・ロート・リンチ。2メートルを超える巨体と鍛え上げられた筋骨隆々な体が特徴的で夏の雲サマー・クラウドのリーダーである。

「それは私も気になってたわ」
 彼女の名前はメリッサ・レガ・バーボン。軍務科四年一組の生徒で女性が嫉妬するほどの魅力的な体躯の持ち主。正直同級生とは思えないほどに。それでも実力は本物で緋色の幸せスカーレット・ハピネスのリーダーをしている。

「同じクラスメイトでチームメンバーなんだから何か知らないかしら?」
 メリッサの質問に全員の視線がレオリオ君たちに向けられるが、

「言われてみれば俺たちってジンのこと殆ど知らないな」
「知っていることがあるとすれば、呪いで武器が持てないことと」
「魔力が無い現実に抗う為に魔物と戦って強くなったってことぐらいでしょうか?」
「あとヤマト出身ってことぐらいだな」
 しかしレオリオ君たちの言葉から出て来た内容は既に知られている情報と強くなった大まかな経緯ぐらいで根本的な事は何も知らないみたいだった。ま、私たちとの約束があるから仕方がないけど仁には申し訳ない事したわね。本人が気にしているかは別だけど。

「魔力が無い現実に抗う為に強くなったか。格好良いじゃねぇか」
「私には絶対に無理ね」
 今までとは違う反応。編入当初なら間違いなく笑い飛ばされていた。だけどジンの力を知った者達は魔力が無くても対等な存在だと認めている。良かったわねジン。

「それよりも問題なのはあれだけの力を手に入れるまでの間魔物と戦い続けてきたってことの方が考え難いんだが」
「嘘じゃないよ!」
「疑ったりしてないわよ。身をもって知ってるもの」
「ああ、そういう意味で言ったんじゃない。ただ戦ってきたわりには怪我が少ないと思ってな」
「それは違うぞ」
 マックス君の意見をジュリアス君が否定した。
 その事に何も知らない特に軍務科の生徒たちは少し驚いた声音が口から漏れていた。

「「え?」」
「私は同じルームメイトだから奴の体を見たことがあるが、体中に戦闘でついた傷痕があった。正直悲惨と思えるほどな」
「俺も見たぜ。戦闘訓練で着替える時にな。あの時は掛ける言葉が見つからなかったけどよ」
「アヴァ先生も驚いてましたね」
「そんなにか……」
 悲しげな表情をするけど、きっとジンはそれを望んでいない。と言うよりもどうしてこんな暗い話になったのかしら。

「はい、この話はこれで終わり。今はどうやってあの悪魔に勝つかを皆で話し合いましょ。でないと今度こそトラウマを抱えることになるかもしれないわよ」
「そ、そうだな」
「それだけは絶対に嫌ですね」
 陣形や連携。ジンの行動を予測して私たちは作戦を練っていく。

            ************************

 せっかくの日曜日だが俺は再び演習場に来ていた。この学園に来て休日の大半を演習場で過ごしているような気もするが気にしないようにしよう。
 昨日と同じように俺は午前の訓練は見学だけ。てか午後からな俺はそれまで部屋で寝ていても良いような気がするんだが。
 ま、訓練を見ていたら相手の癖や技が見れるから情報収集にはなるけど。
 昼休憩を挟んで模擬戦を行った勿論俺の勝利だ。で最後に全員での模擬戦なわけだが、対戦相手として少し臨時講師的な事をしてみるか。

「今回は昨日みたいな退屈な模擬戦をしないために。先に女子の罰ゲーム内容を発表したいと思う」
 お、怒気を発してるな。良い傾向だ。だけど何で怒気なんだ?普通はヤル気だと思うが。

「それで罰ゲームの内容って何かしら?」
「それは……コスプレだ!」
『なっ!』
「女子全員分の衣装をレンタルしてきた。着る服は既に決めてある。その姿で一時間過ごしてもらう。これが罰ゲーム内容だ」
「ジン、厭らしい内容は禁止したはずよ!」
「なにが厭らしいだ。その格好で仕事している人たちもいるんだぞ。その人たちに失礼だとは思わないのか!」
「それは……」
「別に触ったりするわけじゃないんだ。もしかして平民に出来て貴族様であらせられるお前たちには出来ないのか?」
「くっ」
 貴族挑発の免許皆伝者をなめるなよ。

「なお、コスプレしたからと言って上から何かを羽織ったり、手や武器、魔法で隠すのは禁止な」
「先に言われてしまったわ」
 罰ゲームマスターにぬかりはないのだよ。

「それに罰ゲームがしたくなければ勝てば良いだけの話さ」
「確かにジンの言うとおりね」
「その通りですわ」
「そして男ども、学園の美女たちのコスプレ姿が見たいのなら手を抜くことだ!」
「ジイイイイィィン!」
 罰ゲームマスターは闘う前から仕込むものなんだよ。

「女子が男ども睨み。男どもは大丈夫だ。と言いながらも内心はとても見たいと思うのだった」
「なに、ナレーションしてるのよ!」 
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