魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第七話 ベルヘンス帝国

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「これで良しっと」
 糞豚野郎を柱に縛り付けた俺にシャルロットたちが駆け寄ってくる。

「ご無事でなによりです!」
「これで安心して国に帰れるな」
「はい!」
 なんて良い笑顔なんだ。美少女の笑顔には中身がおっさんの俺でもドキッとするものがあるな。っと危ない危ないこんな考えをしているとグレンダに殺されてしまう。

「あとはこれを奴の傍に置けば終わりだ」
「なんだそれは?」
「USBだ。グレンダを救出する前に映像をこっちに移しておいたんだ」
「つまりお嬢様のスマホには……」
「何も入っていません」
「そんな危険な事を……」
 あれ?怒るかと思ったが違うのか。いや、それを通り越して呆れているのか。ま、俺も最初この話を聞いた時は驚いたけどな。まさかシャルロットがこんな提案をしてくるなんて思わなかったからな。

「さて、後は警察に通報して終わりだ」
「そうですね」
「ジン、言っておくが私は納得したわけじゃないんだ。あとできっちりと説明してもらうからな」
「はいはい、分かってるよ」
 ったく、変なところで融通が利かないのはロイドと一緒だな。
 廃墟ビルを後にした俺たちは警察に通報してホテルにチェックインした。時間も時間なので今日空港に向かうのは諦めた。
 それに警察と関われたらシャルロットたちの素性を教えなければならない。そうなれば国際問題へと発展するので俺たちはとっとと逃げることにしたのだ。まさかシャルロットの口から、

「取り調べは面倒ですから」
 なんて言葉が聞けるとは思わなかったけどな。
 その分グレンダは俺に洗脳されたって落ち込んでいたけど。まったく酷い言われようだ。
 その日の夜、街へと繰り出そうとしているとグレンダがやってきた。因みに今日は二部屋借りている。流石に俺にも色々と用事があるからな。

「で、急になんの用だ?」
「そ、その……だな。まだお前にはハッキリとお礼を言っていなかったと思ってな」
「別に気にする必要はない。俺は雇われてしただけだからな」
「だとしてもだ。私がお前に助けられた事には変わりはない!」
 なのにどうしてそんなに屈辱的そうな顔をしてるんだ?そんなに俺に助けられたことが不満だったのか。

「だからその……ありがとう……」
「お、おう……」
 なんだこの生き物は。いつも凛々しく厳しい筈のグレンダが恥らいながらもどこかしおらしい。不覚にも可愛いと思ってしまったではないか。
 
「よし、これでちゃんとお礼は言ったからな。ここからは説教だ」
 悪いきっとさっきのは幻覚だったに違いない。いつも以上に眉間に皺を寄せている女に可愛いなんて思うはずがないもんな。

「わ、悪いがこの後少し出かける用事があるんだ」
「まだお嬢様の護衛は終わっていないと言うのに出かけるとは随分と弛んでるな」
 墓穴を掘ってしまったか。

「仕方が無いだろ。俺だって男なんだ。シャルロットやお前みたいな女と一緒に行動していたら欲求だって溜まるってものだ!」
「な、なにを平然と暴露してるんだ!」
 赤くなってる可愛い。

「た、確かにその欲求をお嬢様や私に向けないことには感心だ。だが少しぐらい我慢したらどうなんだ」
「俺の辞書に我慢と言う文字は無い!」
「自身を持って言うことか!」
 そんなに怒ると寿命が縮むぞ。
 結局一時間も説教されてしまった俺は疲れてしまい夜の街に繰り出す元気すらなかった。俺が知っている気が強い女ってどうしてこうも説教が好きなんだ。


 8月29日水曜日。
 空港に到着するとテレビにゲルトが武器の密輸と売買の罪で逮捕された事が報道されていた。
 ましてや捕まったのが他国であり、先日の襲撃事件の首謀者であることまです全て暴露されていた。

「こりゃ、これでテメルはホーツヨーレンの要求をある程度呑む羽目になるだろうな」
「当たり前だ。あれだけの騒ぎを起こしたんだからな」
 クソ豚野郎の写真がテレビに映し出されているのを見上げながら言葉を口にすると、グレンダが憤慨気味に肯定の言葉を吐く。

「で、その騒ぎの片割れである俺たちは飛行機に乗ってベルヘンス帝国に向かおうとしているわけだ」
「仕方があるまい、お嬢様が皇帝陛下には知られたくないと言うのだから」
 俺も文句を言うつもりはない。取調べは二度とお断りだ。もしもこれで取り調べ受けることになったら半年も経たずに3回目になってしまうじゃないか。

「二人とも何をしているのですか。早く乗りますよ」
「分かってるって」
「申し訳ありません」
 金属探知機のゲートの先に居るシャルロットに言われた俺たちは同じようにゲートを潜って飛行に乗った。因みに銀をそのまま飛行機に乗せるわけにもいかないので、ペット用のキャリーバックに入れて飛行機に乗った。

「クゥ……」
「我慢してくれ。帝国に到着したら美味い肉をシャルロットが用意してくれるはずだ」
 落ち込む銀を宥めながら俺たちは帝国へと離陸した。
 ベルヘンス帝国帝都レイノーツ。
 帝都とは名ばかりで、その面積は東京よりも一回り大きい。
 領地としての総面積で言えば北海道ぐらいはあるだろう。それでも他の領主が治める領地の広さよりも小さい。それだけでベルヘンス帝国の広さが凄まじいと分かってくる。
 三時間掛けてレイノーツ国際空港に到着した俺たちを出迎えてくれたのは高級リムジンと厳重な護衛集団である。いったい何人のSPが居るんだ?視界がリムジンとSPだらけで8割以上が黒で支配されてるんだが。いや、それよりも。

「なんで俺たちがこの便で帰って来る事が分かったんだ?」
「私が連絡したからに決まっているだろう」
「なるほど」
 そう言えば離陸する前に空港で誰かと話していたが、そういう事か。

「お帰りなさいませ、シャルロット皇女殿下。皇帝陛下がお待ちしております」
 これまたセバスにも劣らない洗礼された一礼をした執事がドアを開ける。

「ありがとう」
「それじゃ、俺はこれで失礼するぞ」
 面倒事になりそうだと俺の直感が警鐘を鳴らので踵を返したが、一瞬で黒服たちに囲まれてしまった。なに、超怖いんだけど。

「ジン様もお乗り下さい。皇帝陛下がお会いしたいと仰っております」
「え、皇帝陛下が俺に!」
「はい」
 なんで、国のトップが俺なんかに会いたがるんだ。

「(お嬢様には申し訳ないが、私が皇帝陛下にテメルでの事件を報告した)」
「(なるほどな)」
 知らせた時に伝えたのか。ま、遅くなった理由を言わないわけにはいかないよな。

「ジンさん、早く乗りましょう」
「あ、ああ」
 シャルロットに止めを刺された俺は成す術も無くリムジンに乗ることになった。
 1時間掛けて見えてきた皇宮はこれまた見事なお城ではなく、高さの違う超高層ビルが3棟建っていた。いや、よく見ると引っ付いてる。あれは3棟のビルではなく1棟なんだ。まるで四角柱を3つ引っ付けたような超高層ビルだな。それにしても真ん中の一番高いビルは何階まであるんだ?

「現代の建築技術を集めて建てられた城だ。その厳重さは凄まじいからな」
 城?あれは城とは言わないと思うが。口に出しても仕方が無いか。
 それとグレンダ。凄いって事だけは伝わるが具体的に言ってくれるとありがたい。と思ったがきっと言わないのは機密なのだろう。
 現代建築の粋が集められ建てられたのであれば、セキュリティーやそれに伴う装備も凄まじいだろうからな。俺は自分から国家機密を知りたいとは思わないぜ。だって面倒に巻き込まれるのが目に見えてるからな。

「到着いたしました」
 気がつけば到着したようだ。
 リムジンを降りると両脇に沢山のメイドと執事が出迎えてくれていた。
 イザベラの家であるルーベンハイト家でも見た光景だが流石は皇族、スケールが全然違う。

「ジンさん、私について来てくださいね」
「お、おう」
 正直作法とか知る俺じゃない。勿論気にする俺じゃないが、流石に緊張する。
 後宮内に入った途端俺は考えを改めた。
 まるで近未来に来たかと錯覚しそうな光景、それでいて皇族としての品位を落とさないほど豪華な仕上がりになっていた。
 あまりの光景に声が漏れそうになるのをどうにか抑えた俺は周囲を見回した。
 皇宮内に入るとスーツ姿の人や軍服の人が業務のためか歩ていた。
 しかしシャルロットが通路を歩くだけで脇に寄って一礼する光景に、本当に帝国のお姫様なんだな。と改めて実感する。
 ガラス張りのエレベーターに乗った俺だったが、正直頭が正常に働いていなかった。それだけこの内装が衝撃的だったのだ。

「この先が謁見の間です。準備は良いですか?」
「あ、ああ」
 シャルロットの声でようやくハッキリと頭が冴えた。
 だがその時には既に謁見の間の前で来ていたため、ここが何階なのかも分からない。

「くれぐれも無作法な事をするなよ」
 先ほどまでボーっとしていた俺を見て不安になったのかグレンダが注意してきた。

「分からない時は私やグレンダの真似をすれば良いですから」
「分かった」
 シャルロットはもう慈愛と優しさの女神だな。どっかの頑固軍人とは大違いだ。
 優しい笑顔に心が休まると同時に高さ3メートル以上はある扉がゆっくりと開かれた。
 レッドカーペットの中央を歩くシャルロットに続いて俺とグレンダも歩く。
 見る限り両脇には貴族と思しき人たちが並んでいたが、その服装は豪華な服ではなく普通のスーツだったが、その者から溢れる気品さは凄まじいと言うしかなかった。これが帝国貴族か。恐るべし。
 シャルロットが跪き、それに続くように数メートル後ろで俺とグレンダも跪く。

「我が娘シャルロットよ、よく無事に帰ってきた」
 静寂が支配する空間を真っ直ぐに切り裂くような渋い声が俺たちの耳に届く。

「心遣い感謝いたします。お父様」
「うむ、婚約のためにスヴェルニ王国に向かわせたにも拘らず、まさかお前の婚約者があのような男だったとは。婚約前に知れて良かった」
 確かにそれは俺も同感だ。

「お父様、イディオ様はどんなお方だったのですか?」
「むぅ……」
 父親としては伝えるべきか悩むよな。

「あの男を一言で言うならばクズだ」
「ク、クズですか!?」
「そうだ」
 まさか皇族からクズって言葉が聞けるなんてな。それも謁見の間で。

「陛下、臣下たちも居りますゆえお言葉はお選び下さい」
「すまぬな、宰相」
 皇帝陛下の傍で控える50代後半の男性が宰相か。クソッ陛下の顔だけは見えないな。なんであんな高い場所に座ってるんだよ。皇帝陛下だからか。

「お父様、具体的にお願いします」
「あの男は王族であることを利用し、好き勝手に権力を行使していたのだ。ましてや女性を己の性欲を満たすだけの道具としか思っていない男だったとは我ながら調査が甘かった」
「陛下が気に病む事はありません。私を含め臣下の調査不足に御座います」
「宰相よ、お前たちを咎めるつもりはない。それに結果的にあの男は王族を破門され逮捕されたのだ。そのお陰でシャルロットが無事なのだ。それで良いではないか」
「寛大な心遣いに感謝致します」
 皇帝陛下としてそれで良いのか俺には分からないが、皇帝陛下がそれで良いのなら良いんだろう。

「グレンダよ。お主から報告でテメルでの出来事は耳にしている。よく娘を守ってくれた」
「勿体無きお言葉」
「お父様、では全て知っているのですか?」
「その通りだ」
「申し訳ありません、私が観光したいなどと我侭を言ったばかりに……」
「気にすることは無い。それに観光もまた社会見学の一環である」
「お父様……ではグレンダには何か褒章をお願いできませんか!グレンダは身を挺して囮となり私を守ってくれました!」
「お嬢様!」
 謁見の間で堂々としているな。いや、周りが見えていないだけなのか?

「安心するがよい。最初からそのつもりである。グレンダよ、今回の出来事に際してお主を陸軍少尉から中尉へと昇格させるものとする。またお主には騎士爵の爵位を与える。これからも娘の側近として頼むぞ」
「あ、ありがたき幸せ!そしてこの命に代えましても必ずやお守り致します!」
 貴族の娘から貴族になった。爵位は落ちるが立派な貴族当主となったことを意味する。つまりは伯爵の息子でも騎士爵の当主を侮辱することは許されないと言う事だ。
 それに軍人で騎士爵を持っている人間は少ない。その後を継いだ人間は別だが、この若さで貴族の当主になる事は稀と言う他ないだろう。

「そして最後に、オニガワラ・ジン。面を上げよ」
「はっ」
 ようやく見れた皇帝陛下の顔。その顔に思わず「ヤ○ザだ!」って叫びたくなるほどの怖い男が椅子に座っていた。あの男からシャルロットが生まれたなんて想像もつかない。いや、ほんとマジで。ただ言えるのは母親の血を受け継いでくれて良かったと思った。

「我はベルヘンス帝国現皇帝、ボルキュス・サイム・ベルヘンスである。お主の事はグレンダからの報告で聞き及んでおる。よく娘を助けてくれた」
「勿体無きお言葉にございます」
「しかし、これは何の縁かの。クククッ」
 突然笑い出すボルキュス陛下の姿に誰もが困惑する。俺もまったく意味が分からないんだが。

「お、お父様?」
「そう言えばシャルロットとグレンダは知らぬのだったな。その男なのだよ。シャルロットの婚約者候補であったスヴェルニ王国第三王子イディオ・フェル・スヴェルニの悪行を潰した張本人は」
「「え!?」」
 ボルキュス陛下の言葉に二人は驚愕の表情を浮かべて俺の方を向いた。やっぱり知らなかったのか。

「相手が王族だと知りながらも友人を助けるために拳を振るった男。その結果我が娘の悲惨な未来までも救ってくれた男。一度会ってみたいと思っていたが、まさかこの様な形で会えるとは思っていなかったぞ」
 渋く厳つい顔に誇らかな笑顔を浮かべ語るボルキュス陛下。正直俺も会えるなんて微塵も考えていませんでしたよ。てか、シャルロットがあの糞野郎の婚約者相手って知った時、正直この国の上層部を疑ったほどだからな。

「ジンさん、それは本当なのですか?」
 未だに驚きを隠せないシャルロット。美少女はどんな顔をしてみ可愛いな。いや、シャルロットだからか?

「ああ、本当だ」
「では何故会った時にその事を言わなかったんだ」
 グレンダは問いただすように睨みながら質問してきた。グレンダよ。お前も美女なんだからそんな顔をするなよ。眉間の皺が取れなくなるぞ。

「言えるわけないだろ。国同士の婚約を壊したんだぞ」
「そ、それもそうだな……」
 俺の言葉にグレンダは顎に手を当てて納得した。

「でしたら、何故ジンさんがここに?」
「どんな理由があれ王族を殴り飛ばしたんだ。無罪放免とはいかないからな。その結果として期限付きではあるが国外追放処分になったんだ」
「そうだったんですか……」
 俺の言葉にシャルロットは納得の行かないと言う顔をしていた。イザベラも似たような顔をしていたな。

「シャルロットよ、今は我がジンと話している最中だ」
「申し訳ありません!」
 ボルキュス陛下はシャルロットを見下ろして注意の言葉を口にした。
 それを聞いたシャルロットは自分が謁見の間に居ることを思い出したのか慌てて謝罪する。

「して、オニガワラ・ジンよ。お主は褒美に何が欲しい?」
「私が望むのはお金と冒険者になることだけです」
「爵位は欲しくないのか?」
 まるで何かを見極めるかのような視線で俺を見下ろしながら質問してきた。正直言ってあまりいい気はしない。
 だがこの国の皇帝として危険な存在かそうではないかを判断する必要があるのだろう。
 俺もそれぐらいは分かるので何も言わないし、態度に出さない。

「生憎と私はこの国に来たばかりですので忠誠心などありません。そのような人物を臣下に加えたところで陛下が害になるだけかと」
「なるほどな……なら、分かった。その願い叶えてやろう。ただ、お主も知っておるだろうが冒険者になるためにが学校に通う他無い」
「存じております」
 やっぱりまた学校に通う羽目になるのか。面倒だな。

「勿論他にも冒険者になる方法はある」
「え?」
 予想外の言葉に俺はアホな声で聞き返してしまう。
 しまった。グレンダと宰相に睨まれてる。
 しかしボルキュス陛下は気にする様子も無く話を進める。

「その方法とは冒険者組合に本人が申請書を提出する。その際に二人以上の推薦者の直筆の手紙が必要だ。勿論推薦者にも規定として伯爵以上の爵位、少尉以上の軍人、Bランク以上の冒険者でなければならない。勿論推薦するだけであって、すぐに冒険者になれるわけではない。試験を受けて合格しなければ冒険者にはなれない。勿論試験は学園に入る以上の難関だ。それでも受けてみるか?」
「勿論でございます」
「良かろう。あとで日程を知らせる。これにて謁見を終了とする」
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