魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第四十一話 冒険者連続殺人事件 ⑥

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 指突も使い殺していくが。

「こいつら薬で痛みすら感じないのかよ!」
 どうやら痛覚神経が麻痺しているらしく腕を破壊したところでなんの反応も見せない。ただ狂喜に満ちた笑顔を浮かべて襲ってくるだけ。完全にイカれてやがる!
 ずば抜けた身体能力に痛みを感じない体は確かに脅威だが、ただそれだけだ。
 戦い方もド素人、薬で正気がない生きた屍なんか、

「怖くねぇんだよ!」
 0.6%の力で思いっきり殴る。
 一瞬視線をアインと銀に向けると二人も拍子抜けと言わんばかりの表情を浮かべながら戦っていた。
 正確無比な射撃で生きたゾンビ共の頭を撃ち抜くアイン。
 敵の体を切裂き、ある時には魔法で焼いたり、貫いたりする銀。
 戦いが始まって5分足らずで半分を殲滅し終えていた。

            ************************

 一向に膨れ上がる殺気を陽宵から感じ取る。
 まさかそこまでして拙者を殺したいのか。
 怒りも憎しみも感じられない。ただ殺したい。それだけ感じられる。
 昔は負けず嫌いで一生懸命で、でも弱い相手にも優しかった陽宵がどうして……まるで別人だ。それほどまでに薬の副作用が強力なのか。
 だとすれば兄としてこれ以上罪を犯す前に楽にしてやりたい。だがもしもその薬を自ら手にしたというのなら……拙者はお前を憎まずにはいられない!

「うっ!」
 軽く体重移動を行っただけでさっき斬られた脇腹が激痛を発する。どうやら思いのほか深く斬られていたようだな。内臓には達していないようだが。
 だがここで挫けるわけにはいかない!
 兄として弟の不始末を止めるために。そしてそんな俺のために手助けをしてくれ、今も俺たちの戦いを邪魔する生きた屍共を代わりに倒してくれている仁たちのためにも!
 地面を蹴った拙者は脇腹の痛みを堪えて陽宵に斬りかかる。
 正確な数すら覚えていない程の火花が目の前で散る。

「やっぱり兄ジャは強いな。その傷でも尚この威力。いや、さっき以上だ!」
「黙れ!お前は必ず拙者が殺す。それが師匠や無残に殺された名も知らぬ冒険者たちへの報いだ!」
「はっ、下らねぇ!何が無残に殺されただ。弱いから死ぬんだろうが。弱いのが悪いんだろうが!そんなに死にたくないなら、どんな手を使っても強くなれば良いんだよ!」
「怪しげな薬を使ってもか!」
「そうさ!俺は強くなった!兄ジャとも対等。いや、それ以上に強くなった!それが全てだ!」
「下らぬわ!強さこそが全てではないわ!人の想いや感情。それすら尊重出来ぬ者が刀を握るではないわ!」
「俺より弱いくせに説教なんかするんじゃねぇよ!」
 弾き、斬り、防がれ、躱す。
 そんな幾度と無く同じ攻防が続く。

「くっ!」
 体力も限界に近いと言うのに陽宵に斬られた脇腹が思いのほか体力を奪っている!

「どうしたっ!動きが鈍くなってるぞ、兄ジャアアアアァァ!」
「煩いぞ愚弟!」
 陽宵の一撃を受け流した拙者はそのまま切り上げるようにして左胸を切裂く。

「くっ!」
 浅かったか。痛みで体をよろめかせるだけで致命傷にはなっていなかった。だがあれでは長くは戦えまい。
 まだ陽宵の方が優勢だがこれで少しは差を埋められただろう。

「あそこから攻撃してくるなんてやっぱり兄ジャは凄いな。俺が認めた男なだけはある」
「今のお前に認められても嬉しくなどないわ!」
「はっ、そうかよ。ならこれで最後にしようぜ」
 そう言うと陽宵は刀を鞘に納めて構えた。
 ――居合いか。

「良かろう。お前の最も得意な技を粉砕してお前を殺す」
 拙者も同じように刀を鞘に納めて構える。
 零道ノ烏音。
 陽宵が最も得意とする技。
 そして俺もまた一番得意とする技でもある。
 この戦いの決着を決めるにはこれを以ってして他に無いだろう。
 ジリジリと距離を詰める。その時が来るのを待って。
 そう言えば居合い勝負は陽宵とはしたことがなかったな。
 他の剣士や門下生たちとはしたことがあったが、何故か陽宵とはしたことがなかった。きっとこの日のためにと運命で決められていたのだろう。まったく何たる皮肉か。
 俺が認めた中でも最高の剣豪であった陽宵とこのような形で居合い勝負をすることになるなど思っても見なかった。
 だが1人の武士としてきっちりとケジメを着けさせて貰う。それが亡き師匠と拙者の背中を押してくれた仁へのお礼である。

「「っ!」」
 目の前を吹き飛ばされて通り過ぎる生きた屍が一瞬陽宵の姿を消す。が相手の姿が見えた瞬間互いに地面を蹴っていた。
 ――陽宵おおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!
 ――兄ジャアアアアアアアアアアアアァァァ!!
 声には出さない。
 心の中で殺す相手の名前をあらゆる感情を乗せて叫ぶ。

            ************************

 俺は生きたゾンビどもを殺しながらも2人の決着を見守っていた。
 達人と達人の居合い勝負。
 始まってコンマ数秒。
 刹那の時で刀を抜き去って場所が入れ替わる。
 どっちだ。どっちが勝ったんだ!

「グハッ!」
「影光!」
 我慢し切れなかったのか口から大量の血反吐を吐く。ま、まさか影光が負けたのか。

「どうだよ兄ジャ、俺……強くなっただろ?だけどやっぱり兄ジャは強ぇな………」
 バタンッ!
 そこには兄に認めて欲しい弟が最後の灯火で呟いた言葉だった。
 痛みを我慢してゆっくりと亡き弟に近づく影光。

「馬鹿者が。拙者はとうの昔にお前の事を認めていると言うのに!この大馬鹿者が!」
 その場で泣き崩れる影光は弟である陽宵の亡骸を抱きしめながら号泣していた。
 俺はこの時これほど勝っても負けても達成感も嬉しさも感じない戦いを目にしたのだった。
 湧き上がる怒りを残りの生きたゾンビ共にぶつけながら俺は戦った。こんな戦いがあってたまるかよ!
 最初から分かっていた。悲しい結末が訪れる事は。だが、それでもやっぱり。納得できない。こんなに苛立ちを覚えたのはいつ以来だ?いや、それもどうでも良い。この怒りをどこかにぶつけたい。
 既に全て倒し終えた俺たちだが、未だに俺の苛立ちは治まっていなかった。
 いや、冷静になれ。今は何よりも影光の心配が先だ。

「影光!」
「仁か……すまないな。こんな結果になってしまって」
「最初から分かっていた事だろ?」
「ああ、そうだな。それよりもすまないが、肩を貸してくれるか?どうも1人で歩ける状態ではないようだ」
「ったく無茶しやがって」
「無茶をしなければ勝てない相手だった」
「そうだろうよ。なんせ相手が世界最強の剣豪の弟なんだからな」
「そうだな……」
 俺たちはそのまま銀の背中に乗って出来るだけ速く病院に向かった。
 病院に着くなり緊急手術が行われる事は無く、緊急治療で一命を取り留めた。やっぱり魔法って凄いな。傷が一瞬で塞がっていくんだからな。
 それでも数日は様子を見るために入院する事が決まった。

「仁!」
「あ、朧さん」
 慌てた表情で駆け寄ってきた朧さん。
 影光が治療中の時に朧さんとライアンに今回の事件の結末を電話で伝えたのだ。
 警邏隊の連中が未だにこないのは現場に向かったからだろう。

「それで影光の容態はどうなんじゃ!?」
「別に命の問題はない。治癒魔法で既に傷も塞いだ。だけど念のために数日入院するそうだ」
「そうか……仁よ。今回は――」
「お礼なら後で良いから。それよりも今は影光に会って来ると良い。そこの病室だから」
「すまぬな」
 そう言って朧と側近と思われる男が病室へと入って行った。
 自販機でお茶を買った俺は病院の外に出ると夜空を見上げた。
 倉庫街から見た時となんも変わらない夜空。呑気だなと思えてくる夜空だがそれでも戦い前よりかはなんだか綺麗に見えた。
 お茶で喉を潤していると数台の車が病院へとやって来た。まさか急患か?
 一瞬そう思ったが軍用の車であり、降りてきた人間を見て違うと分かった。

「やあ、ジン君」
「ライアン。どうしてここに?」
「君が連絡してくれたんじゃないか」
「確かにそうなんだが、ライアンは警邏隊の人間じゃないだろ。それに第一王子がこんな時間に出歩いていて良いのか?」
「父の言葉でね。王族であれ軍人なら軍の任務を優先させろ。ってね」
「ああ、ボルキュスなら良いそうだな」
 俺の言葉にライアンの後ろに控えていた側近?と思われる堅物そうな女性軍人が俺を睨んでくる。ったくどうして俺が知ってる側近や護衛ってのはロイドやグレンダみたいに堅物なんだ?
 笑みを浮かべていた顔が一瞬で真剣なモノへと変わる。やっぱりイケメンが真剣な表情をしても様になるな。腹立つ。

「君の連絡で言われた通り現場である倉庫街に向かったよ」
「どうだった?」
「確かに藤堂陽宵の死体を確認した。刀からはこれまで殺された冒険者のDNAとも一致した」
「そうか」
 どれだけ洗い流しても血液と言うのはそう簡単に流し落とせる物じゃない。ってなんかの特番で見た覚えがあるな。

「それで藤堂陽宵を倒した兄の藤堂影光さんに会いたいんだが」
「あ~、もう少し待ってあげてくれないか。今久々に家族と会ってるんだ」
「そうか」
 正確には同じ道場の門下生同士と言うべきなんだろうが、あれだけ心配してるんだ家族と言っても構わないだろ。ま、王子に嘘をついたって言われて逮捕されたらおしまいだけど。

「それよりもあのチンピラたちはどうなった?」
「ああ、彼等の事か。確かに何らかの薬で身体能力が向上していた。だが薬と言っても薬物の効果じゃない。あれは魔法によって強化されたものだった。だから全力で魔力の持ち主を調べているところだが、未だに見つからない事を考えると帝国のデータベースにすら乗っていない人物だろうね」
 血液とは別に魔力で人を判別する事が出来るらしいが、俺には分からないのでアインにでも聞くとしよう。嫌な顔をされるだろうが。

「それにしても暴れすぎだよ。現場に行ったら沢山の死体が転がっていて戦争でもあったんじゃないかって。部下たちが不安がっていたからね」
「仕方が無いだろ。緊急事態だったんだから」
「ま、分かるけどね」
(見た感じ一般市民だけどあれだけの身体能力があれば一時的にでも帝都を混乱させる事は可能だ。そんな相手をジン君は倒している。やはり彼の力は父上たちが危惧しているように脅威だ。それだけじゃないレグウェス帝国が産み出したサイボーグ。世界最強の剣豪と歌われている藤堂影光氏。たった一人で帝国軍の大隊規模に相当する戦力を保有する存在との接触。そして彼等と仲良くなれるだけの未知数の力。きっと彼が有名になれば間違いなく各国が彼を欲しがるだろう。いや、彼が創り上げるギルドは間違いなく世界的に有名になる。それが帝国の未来をどうするかはわからないけど)
 鋭い視線を向けられているが、俺何かした覚えはないぞ。まさか俺が犯人だって疑われているのか!?ま、それはないだろうけど。

「それじゃ僕たちはそろそろ藤堂影光氏のところに向かうよ。シャルロットも君たちに会いたがっていたからたまには王宮に顔を出してくれたまえ」
「ああ、分かったよ」
 そう言えばシャルロットに最後に会ったのは俺が冒険者試験に合格した次の日だったな。まさか王族の人たちに祝ってもらえるとは昔の俺なら想像すらしてなかった事だろうけど。

「仁はん」
「朧さん。もう話は良いのか?」
「長くおったら病院にも迷惑が掛かるしの。それにライアン殿下が事情聴取したいって来たからの」
「そうか」
 ま、確かにそんな場所に長居はしたくはないよな。俺だったらとっとと逃げてるだろうし。

「それにしても今回は本当にありがとうでなのじゃ」
 朧さんはそう言って頭を下げる。
 ぅおおおおおおおおぉぉ!深い!なんて深い谷間なんだ!
 っとおっとクール知的な俺様としたことがなんて下品な事を。つい男の本能が表に出てしまった。

「別に頭を下げられるような事はしてないんだがな」
 頭を切り替えて何事も無かったかのように平然と対応する。これが大人と言うものだ。

「女のお礼は素直に受け取って置くものじゃ」
「なら、そうさせて貰うよ」
「素直で宜しい」
 まったく見た目とは違ってどこか姉気質だよな朧さんって。前世から合わせれば俺の方が上なんだがな。

「改めて我がギルドに来てくれなのじゃ。そん時は精一杯おもてなしするかのぉ」
「それは楽しみだ」
 そう言って朧さんたちは車で帰っていった。
 影光が退院したら一緒に向かうとするか。
 アインも出てきたところで俺たちは拠点に戻った。てかアインよ。今までどこに居たんだ?
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