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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第五十話 レイノーツ学園祭前 ⑤

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 ふと、シャルロットに視線を向けると笑顔は浮かべてはいるがどこか不機嫌だった。と言うか逆に怖い。

「なぁシャルロット」
「なんですか?」
「少し見回ってきて良いか?」
「年下の女子に触れられて満足したんですか?」
 そんなシャルロットの口から吐かれた刺々しい言葉に俺は驚愕と動揺する。

「あ、あのシャルロットさん。どうして不機嫌なんでしょうか?」
「別に不機嫌ではありません。ただ依頼をそっちのけにして随分と楽しそうだな。と思っただけです」
「いや、別にそっちのけにしたわけじゃないんだ」
「なら、見回りをしたいって言い出すのですか?」
「そんなのシャルロットが心配だからに決まってるだろ」
「しぃ、心配ですか?」
 ん?なんで噛んだんだ?それにどことなく顔も赤い。まさか熱でもあるんじゃ。
 俺はシャルロットの額に手を当てて確かめる。いや、普通だな。

「あ、あの……いったいこれは?」
「あ、悪い。顔が少し赤かったから熱でもあるんじゃないかと思っただけだ。でも大丈夫みたいで良かった」
「はぅっ!」
「はう?」
「い、いえ!なんでもありません!それよりも見回りに行って来て大丈夫ですよ!」
「そうか。なら行って来る。グレンダ、シャルロットの事任せたぞ」
「お前に言われるまでもない」
 素直じゃないグレンダの言葉を耳にした俺は教室を出て校舎内を見歩く。
 綺麗に清掃された廊下。教室には掃除道具を入れている場所が無かったが、掃除は業者がしているんだろうか。
 そんな事を思いながら日光が差し込み人気の無い廊下を歩く。
 それにしてもやはり敵意や殺意は感じられない。だが確かに誰かに見られている気がするな。
 俺は階段付近の男子トイレに入る。

「やはりか……」
 男子トイレに入った瞬間、不愉快な視線が消えた。となると狙いは女子生徒と言う事になる。
 シャルロットが誰にかにストーキングされているのは間違いない。もしくは女子生徒を狙った犯行って可能性が出てくるが、それは後で教室で知り合った女子生徒たちに聞けば良いだろう。
 それにしても本当に大きな学園だな。
 スヴェルニ学園もそうだったが、ここはそれ以上だ。この階だけにも50人が入れる教室が15もある。いったいどれだけの資金で立てたのか、平民育ちの俺には想像も付かない。
 だけどやはり不愉快だ。廊下に出た瞬間に感じる視線。だが、どこから見ているのかまったく分からない。カメラ越しだから殺意も敵意も感じられない。まったく面倒な事をしてくれるな。うん?
 歩いていると壁際に置かれた消火器に目が行く。
 よく火災訓練などで使われる奴だが、これにカメラなんか仕掛けられないよな?
 そう思いながらも俺は調べてみようとする。

「っつ!」
 しかし持ち上げようとした瞬間、指先から強烈な静電気に眉を顰める事になってしまった。

「これも武器に認定かよ」
 悪態を吐きながら俺は消火器を倒す。別に触れないわけじゃない。持たなければ良いだけの話だ。
 倒した消火器を指だ先で転がしながら調べてみるがそれらしい物は取り付けられていなかった。

「やはり駄目か。ん?」
 そう思って戻そうとしたとき消火器の安全ピンの下に光る物を発見する。
 よく見るとそれは探していた小型。いや超小型の監視カメラだった。
 俺は安全ピンを抜いて取り出す。消火器は安全ピンを抜いても中身が出ることはない。レバーさえ握り締めなければ大丈夫なのだ。
 取り出したあと慎重に安全ピンを戻した俺は足を使って消火器を立てる。生憎手で持たないなら足で蹴って移動させれば良いとあの気まぐれ島に居る時に気が付いたのだ。そしてそれを何度もしているうちに俺の足はとてつもなく器用になったのだ。リフティング100回なんて余裕だぜ。
 超小型カメラは持っても平気なサイズなのでポケットにしまって廊下を歩く。他にもあるかもしれないからな。
 レイノーツ学園の授業は一日6時限。多いときは7時限あるそうだ。まったくよくそれだけの授業を受けていられるな。ま、俺の2ヶ月前までは受けていたけど。因みに1時限50分だ。
 だから1時限目が終わる5分前に教室にゆっくりと入りグレンダの横に立つ。

「(随分と遅かったな)」
「(この学園が広すぎるんだよ。一瞬迷子になるかと思ったぞ)」
「(それでどうだったんだ?)」
「(ああ、確かに視線を感じる。ま、俺の場合はシャルロットとは別の感情が篭った視線だろうけどな)」
「(そうだろうな。それで手がかりは見つかったのか?)」
「(ああ、見つけた)」
 俺はそう言ってポケットから超小型カメラをグレンダにこっそり渡す。一番後ろで見学しているとは言え、誰かに見られる可能性だってあるし、この教室内にも超小型カメラが無いとは言い切れないからな。

「(こ、これは!)」
「(これが、廊下の至る所に仕掛けられているはずだ。俺が見つけて取り外しただけでも15個。それもこの3階にしかけられていた)」
「(そ、そんなに!?)」
 勿論全部取り外したわけじゃない。仕掛けられていた位置や場所から考えて俺が取り外した5倍以上の数がこの階には仕掛けられているはずだ。特にこの教室には20個はありそうだ。

「(こ、これは異常事態だ!今すぐ陛下に連絡を!)」
「(待て!)」
「(何故止める!)」
「(慌てるのも無理はないが、今は落ち着け)」
「(この異常事態に落ち着いていられるか!)」
 まったくシャルロットが関わっているかもしれない案件となるとグレンダは冷静さを失いやすいな。
 俺にとってはこっちの方が異常事態だっての。

「(いいか、当たり前に考えてこの教室にも仕掛けられていると考えるのが普通だ。ましてやどこに仕掛けられているかも分からない状況でお前がボルキュス陛下に連絡してみろ。生徒名簿にも名前の無かった敵は姿をくらませる可能性だってあるんだぞ)」
「(だがっ!)」
「(それに一番最悪なのが危機的状況になったと言う事が相手に知られた場合だ。逆上してシャルロットを襲う可能性だってあるんだぞ)」
「(た、確かにその通りだ)」
 本当は監視カメラも取らない方が良かった。だがコソコソと盗撮行為をするような奴は生憎と嫌いなんだ。ましてやそのターゲットが俺の友人のシャルロットと分かればな。それを言えば俺も感情的になり過ぎているのかもしれないな。

「(今は冷静になれ。敵も複数の監視カメラが起動していないことには気づいているはずだ。それだけで警戒するだろう)」
 だが、本当にストーカーなら間違いなく俺に怒りを覚える筈だ。
 そうなればどんな方法であれ、俺に接触してくるはず。それが俺の目的でもある。
 ストーカーってのは自分以外の者に近寄って欲しくないものだ。ましてやこれだけの監視カメラを仕掛けられるだけの財力と行動力を持っている奴だ。間違いなく何かしてくる。

「(ああ、お前の言うとおりだな。すまない)」
「(いや、良いんだ。それよりも俺は他の生徒にそれなりに話を聞いてみる。もしかしたらシャルロット以外にも視線を感じる奴がいるかもしれないからな)」
「(分かった)」
 どうやらグレンダも冷静になってくれたようだ。
 それとほぼ同時に1時限目終了のチャイムが鳴る。
 先生に挨拶が終わると先生は教室を出て行った。
 それとほぼ同時に女子生徒たちが俺を囲むようにやってきた。まるでモテ期到来の気分だ。ま、直ぐに終わるだろうけど。
 俺はそんな女子生徒たちと会話をする。と言うかほぼ質問攻めだった。スヴェルニ学園では何をしていたとか、王族を殴るとき怖くなかったとか、この帝国に来てどうやって冒険者になったとか、そんなばかりだった。あ、それとイザベラの事も聞かれたな。やっぱり他国でも有名なようだ。
 そして彼女たちにある程度信頼して貰った所で俺はそれとなく聞いてみた。しかし結果は何も感じないだった。
 別にストーカー行為をされている記憶も無ければ視線を感じると言う事もないそうだ。となると考えられるのは女子生徒全員を狙ったものではなくシャルロット個人を狙ったものだと確定した。
 そして休み時間も終わり2時限目が始まった。
 それから時間が経ち午前中の授業を終えた俺たちは食堂で昼食を取らず購買で買ったパンやおにぎりをもって人気のない場所へやってきた。
 と言っても使われていない教室なわけだが。
 念のために俺とグレンダで徹底的に調べたが超小型カメラは見つからなかった。俺たちは廊下から見られないように文化祭で使うと思われる荷物の影に隠れて話す。

「それでどうだったんだ?」
「皇宮で話した通り間違いなくシャルロット個人を狙った犯行だろう。いつの間に複数ものカメラを仕掛けたのかだけは分からないがな」
「それは犯人を捕まえてから聞き出せば良い事だ」
「そうだな。今は早く犯人を見つけ出す事だ」
 それが俺とグレンダの答えだ。
 よく見るとシャルロットの体が少し震えている事に気がついた。

「大丈夫だシャルロット。俺たちがなんとかする」
「そうですお嬢様。私たちだけでなく陛下や殿下、皇妃様たちもついておられます。最終的には軍を総動員してでも犯人を捕まえてみせます!」
 そうなる前に俺たちで犯人を見つけ出さなければな。あとあと面倒になりそうだ。

「それで今後についてだが、相手からのなんらかの接触を図るため俺とシャルロットは出来るだけ共に行動する」
「だが、それだとお嬢様にも危険が」
「直ぐには無いはずだ。相手だってシャルロットに嫌われるような事はしたくないはずだからな。あるとすれば俺が一人で行動しているときだろう」
「でも、そんな事をすればジンさんが!」
「安心しろ。俺はやられたりしないさ。シャルロットだってそれは知っているだろ?」
「そうですが……」
 頼むから不安そうな表情をしないでくれ。
 心配してくれるのは嬉しいだが、そんな表情をされたらこっちが悲しくなる。

「大丈夫だ。さっさと犯人を捕まえて文化祭を一緒に回ろうな」
「はい、そうですね」
 どうにか少しは元気を取り戻してくれたようだ。
 その事に安心しながら俺は話を本題に戻す。

「まず、俺とシャルロットが共に行動すれば相手には仲が良いと思うだろう。そしてそれが嫉妬心に変わり怒りを増徴させる。そうすれば俺一人で行動している時になんらかの方法で接触してくるはずだ」
 ま、最初か本人が出てくるとは思えない。
 考えられるとすればチンピラを雇って襲わせる程度だろう。ま、そいつらから情報が引き出せるとは思ってはいないが、少しでもなんらかの手掛かりが見つかれば犯人に近づける。

「よし、午後からは文化祭の準備だったな」
「はい」
「なら俺も出来るだけ手伝うとしよう。そうすれば犯人はそれだけでも怒りを覚える筈だ」
「そうだな。私も出来ることをしよう」
「私は何をすれば良いでしょうか?」
「シャルロットは俺に文化祭の準備の手伝いとか色々教えてくれ。迷惑かけるがな」
「い、いえ!そんな事はありません」
(こんな時に不謹慎かもしれませんが、それってジンさんと一緒に行動できるってことですよね)
 ん?急にシャルロットが笑顔になったが、何か嬉しい事でもあったのか?ま、暗い顔をされるよりマシか。
 ある程度役割と予定を決めた俺たちは昼食を終えると残りの休み時間を学校案内で時間を潰す。
 シャルロットの休み時間を奪うようで申し訳ないが、一人で行動できるのは授業中で人気が少ないときだけだ。だからこうしてシャルロットに案内して貰わないと周りから変な目で見られてしまうからな。ま、男子生徒からは強烈な殺意と敵意の視線を向けられているけど。
 ま、帝国の第二皇女であるシャルロットに案内させてるんだ。仕方が無いと言えば仕方が無いか。
 昼休みも終わりいよいよ文化祭の準備が始まった。
 シャルロットのクラス2年1組は喫茶店をするそうだ。
 だからと言ってメイド喫茶ではなく普通の喫茶店だ。それなりに可愛らしい制服姿で飲み物と簡単な軽食を提供するお店と言うことらしい。
 もっと色々とするのかと思っていたが、接客も喫茶店も未経験の私たちが派手に色々しても手が足りなくなるだけ。との事らしい。
 普通は色々と想像が膨み詰め込みすぎて機能しなくなるものなんだが、やっぱりお嬢様は普通の女子高生とは違うな。とても優秀だ。
 さて、俺も手伝うとするか。
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