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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第五十一話 レイノーツ学園祭前 ⑥
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俺も手伝おうとしたが、これがまた何も出来なかった。
男なら力仕事と言うことでテーブルや椅子を運ぶように言われたがすべて武器として弾かれて運べなかったのだ。
いやね。アイテムボックスを使えば運べるんだが、出す時にアイテムボックス持ちって事がバレるからな。
え?もう冒険者組合でバレてるんだから意味無いって?良いんだよ、そんな事。それに彼女たちはまだその情報を知らなかったみたいだしな。なら隠しておくべきだろ。イザベラに何言われるか分からないしな。
ま、そんなわけで役立たずの俺は皿やコップなど持てる物を運んだり並べたりしていた。
既に必要な機材類は準備していたらしく後は設置するだけだったので直ぐに終わった。
ならもう終わりかと思ったが、そうではなくこれから接客する時の制服を試着するそうだ。
それも自分たちの手作りかと思ったが、そこはお店に頼んで作って貰ったそうだ。流石はお嬢様たちだ。だがそれだと各クラスに振り分けられた経費では足らないだろう。と思ったが自分たちでお金を出し合ったそうだ。
つまりは自腹だ。
口には出さないがたかが学園祭で自腹でお金を出すような事をするなんてやっぱりお嬢様たちの考えは分からないな。
そのため女子行為室で着替えて来るそうなのでその間はグレンダに任せて俺を含めた男どもは女性陣が来るのを待つ。
男性人の好奇心と不満の視線を感じながら俺は窓から学園を見下ろす。
大学の学園祭以上の規模で行われるレイノーツ学園祭。
耳にした情報だけでも演習場の一つでライブを行ったり、出店を出すだけじゃなく色々な催し物があるそうだ。
なんでも去年は全てのお店を回ったら賞金プレゼントだったそうだ。なんとも盛大なスタンプラリーだな。
窓の外から見下ろすだけでも学生たちが出店の準備をしたり、作ったりしていた。しかし感じる限り不穏な動きや敵意や殺意なんかの気配は感じない。どうやら今のところ怪しい連中はいないみたいだ。ま、学園祭を襲うような連中が居るとは思えないが。
「みんな、着替えてきたわよ」
そんな女子生徒の言葉に男共の視線が一気に集まる。
『おおおおおぉぉっ!』
なんて男子生徒どもの歓喜の叫びを耳にする。そんなに嬉しそうだと俺も気になるじゃないか。
俺も振り返るとそこには白いシャツに黒のズボン。ココアブラウンのエプロンと言う超シンプルだが、どこかカジュアルさもある服装だ。
なにより清楚だからこそ体のラインが強調され、主張の強さが分かる。逆にけしからんな。
「ねえ、ジン似合ってる?」
「ああ、似合ってるぞ」
名前は知らないが元気一杯の女子生徒が聞いてくる。
メイド服や露出度が多い服は男の欲望を刺激して客引きするイメージがあるが、清楚でカジュアルだとどこかフレンドリーで直ぐに馴染めそうな服装だ。
「ええ、それだけ。もっと言うことあるでしょ」
「そんな事言われてもな」
まともに女性と付き合ったことの無い俺に気の利いた言葉が言えるわけ無いだろ!あの島じゃ誰も教えてくれなかったし、教える事が出来そうな奴なんて要るわけもないし、その前にそんな暇なかったし!毎日戦って生きるのに精一杯だったんだからな!
クソッ、青春ってなんだろうな!
「あ、あのジンさん私も似合ってますか?」
するとシャルロットが気恥ずかしそうに近づいてくる。
なんとも皇女様がカジュアルな服装をしているとなぜだが、別人のようにも思えてくる。それにいつも以上に親しみやすいようなそんな気もするが、それは服装のせいなので勘違いはしない。
「よく似合ってるぞ。いつもとは違うから最初は驚いたけどな」
「本当ですか!」
「ああ、いつものドレス姿も悪くないが、こっちはこっちで親近感が持てて俺は好きだな」
「はうっ!」
俺の言葉に向日葵のように明るく笑顔になるシャルロット。そんなに自分の格好に自信が無かったのか?シャルロットはこの中でもダントツで美少女なんだからもっと自信を持って良いと思うんだが。
そんな感じで他の女子にも質問されたので似たような返事をしておく。本当ならもっと上手い返事の仕方や言葉があるんだろうが、俺にそれを求めるな!悲しくなってくるから。
そんな事を思いながらもう一人着替えてきた人物に視線を向ける。
「で、なんだグレンダまで着てるんだ?」
「う、うるさい!お嬢様たちが用意してたんだから着るしかないだろ!」
恥ずかしいのか腕で自分の体を隠すようにするが、全然隠れてない。それどころかお前の主張の強い胸がさらに主張してきてるぞ。
そのせいで男共の視線がグレンダの胸に集まるが、グレンダが一瞥すると体をビクッと震わせてどこかへ行ってしまった。え?俺かって俺はあいつ等ほど馬鹿じゃない。あんなあからさまに女性の体を見るものじゃないからな。
それに俺はさっき視線を向けた時にしっかりと脳内メモリーに保存したのでなんの問題も無い!これが大人と言うものだ!
「それでシャルロットたちはこれからなにするんだ?」
「クラスメイトのみんなにお客になって貰って練習をしようと思ってます」
なるほど。それなら最初から慌てるような事はないな。やはりお嬢様でもただのお嬢様たちじゃなかったな。みんなとても優秀だ。
その後廊下に出た男子生徒たちをお客代わりにして練習を行う事にした。
俺もお客として練習相手にされたが別に嫌じゃなかったので楽しみながらお客の役をやった。
そこで分かった事は本当に優秀なお嬢様たちだと言う事だ。
メニューを見たが食べ物はサンドイッチと目玉焼きを乗せた簡単なトースト。飲み物はオレンジジュース、コーヒー、お茶の三種類だけだ。
大抵最初ははしゃぎ過ぎて色々なメニューを出そうって事になるはずだが、そうじゃないらしい。シャルロット曰く出来るだけたくさんのお客さんたちに楽しんで貰うにはこれがベストの事だ。確かにメニューが一つだけなら楽だがそれだとお客が楽しめるか分からない。なら自分たちで回るだけのメニュー数にすれば良いと言う事になったそうだ。
詰まらない事とお客さんたちに楽しんで貰える事を考えて出した品数に俺は本当に貴族育ちのお嬢様なのか疑いたくなった。俺とは2歳しか違わないのにな。ま、前世をあわせれば全然違うけど。
その後は授業が終わるまで何度も練習をしたり話し合ったりしながら来週の月曜日に向けて行った。
6時限目の授業も終わり女子たちも制服に着替えて下校して行った。
俺たちも正門前に来ていた黒い車に乗って王宮へ帰る。
「どうでしたか、レイノーツ学園は?」
出発して直ぐにシャルロットがそんな事を聞いてくる。
「楽しかったぞ」
「本当ですか!」
「ああ」
久々の学園生活?だったが、なかなか面白かったな。
スヴェルニ学園ではどちらかと言えばファンタジーな授業内容の方が多かったけど、こっちは普通科って事もあって前世の時の学生時代を思い出す感じだったからな。
「なら、一緒に学園に通いませんか?」
「それは止めておくよ」
「そうですか……」
何でそこまで悲しそうなんだ?別に友達が少ないってわけでもなかったじゃないか。まさか男性の友人が少ないとかか。まあ確かに王族であり美少女のシャルロットと友人として付き合える男性は早々居ないだろうな。大抵は王族の血か、恋人目当てだろうからな。それにボルキュス陛下が煩そうだし。え?俺はって。俺は別にシャルロットと恋人になるつもりはないぞ。だってシャルロットが俺みたいな男を好きになるわけないし。
「でも学園祭は楽しみだ」
「はい、そうですね」
どこかまだ悲しさが残る返事だ。俺拙い事でも言ったか?やっぱり女心は分からないな。
帰りも同様に信号に何度も捕まりながらようやく王宮に戻った俺はシャルロットたちと別れてボルキュス陛下許に向かった。と言うよりも王宮内に入った途端イオが待ち構えていたからな。
案内された場所は依然同様に書斎だった。一介の冒険者を書斎に連れ込んで良いものか改めて思うが今さらだろう。
ボルキュス陛下と対面する形でソファーに座った俺は出された紅茶を一口飲む。相変らず美味しいな。
「それで学園の様子はどうだった?」
単刀直入に聞いてくる。いつもなら世間話を最初に少しするもんだ。なんて言ってくるがやはり娘であるシャルロットに危険が迫っているとなると違うみたいだな。
「今日一日調べたがシャルロットが言っていることは嘘じゃない。それもシャルロットだけを狙ったストーカーの犯行だ」
「そうか……」
俺はポケットから今日だけで取った超小型カメラをテーブルに置く。
「シャルロットが通う教室がある廊下だけでもこれだけのカメラがあった。となると間違いなくシャルロットが授業を受けている教室はもっとあるだろう」
「そう……か」
ボルキュス陛下から感じる沸々と煮えくり返りそうな怒りが全身から伝わる。
見た目からただの王族では無いと思っていたが、やはりこの皇帝も体育会系の人物だ。
「俺としてはこれだけの超小型カメラをどうやって設置したのか疑問に感じるところだが、今はこの超小型カメラから情報を集めて欲しい」
「それは任せてくれ。皇帝の力を使えば容易い事だ」
あ、目がガチだ。頼むから職権乱用や脅迫紛いな事はしないようにしてくれよ。後でシャルロットが知れば悲しむだろうからな。で、レティシアさんあたりに叱られる羽目になるだろうな。
「それじゃ、俺はこれで。明日は休日で王宮から出ないだろうが念のために来るとする」
「こうなってしまったらジン君にシャルロットの事は任せるしかないだろう。悪いが明日も来てくれ給え」
「そうするさ」
俺はそう言って王宮を後にした。
警備員のおっちゃんに手を振って出た俺は歩いて拠点に向かう。まだ時間はあるしゆっくり帰るか。あ、そう言えば今日影光が帰って来るんだったな。何か美味い物でも買って変えるか。
美味しそうなお店を探しながらあるくが、こんな街中にはやはりないか。商店街にでも行けばあるだろうが、拠点とは反対方向だしな。仕方がない拠点近くのスーパーで惣菜でも買って帰るか。ついでに酒も買って帰るか。残りも少なくなっていたはずだからな。
そう思って帰り際にスーパーで惣菜と酒。それから銀の好物の肉を購入して帰路を歩く。
「はぁ……」
またか。
そう思ってしまうのも無理は無い。スーパーを出るやまたしても誰かに見られているからだ。それも殺意を放ちながら。
最近誰にも見られて無かったから平和に帰れると思ったがそうじゃないらしい。ま、この時期に狙われるとしたら間違いなくシャルロットのストーカー野郎が雇った連中だろうけどな。
気配から感じるだけでも10人。随分と雇ったな。ま、道路の監視カメラをハッキング出来るぐらいだ俺が冒険者だって事ぐらいもう知っててもおかしくないか。だけど雇うならもう少し力のある奴を雇うべきだったな。それとも資金が無くて雇えなかったか?ま、どっちでも良いか。
俺はいつも通り帰路を歩きながらも人気が少ない方へと誘導する。
そして完全に人気が無くなり俺と銀、それから尾行してくる連中だけとなったところで俺は歩くの止めてその場で止まる。
「いい加減出てきたらどうだ?」
「へぇ魔力が無いくせに俺たちの事に気づいていたのかよ」
リーダーと思しき男が余裕そうに聞いてくる。それに合わせて他の連中も出てくる。予想通りただのチンピラだな。
完全に包囲された俺だが全然恐怖も感じない。前世の俺ならビクビクしてチビっていたところだろうが、あの島での生活で大抵のことでは恐怖を感じなくなった。だってマジで怖かったんだからな!
「それで俺になんのようか?」
「お前をボコボコにすれば金が貰えるんだよ。それも2万もな。ちょっとした小遣い稼ぎには丁度良いぜ」
2万ってたったそれだけかよ。10人合わせても20万か。賞金首よりも安いだろそれ。チンピラを雇った奴は俺の実力を見誤ったのかそれとも資金がなかったのか。完全に舐められているのかのどれかだろうな。
ま、どうでも良い。向こうから接触してきたんだ。軽く気絶させて情報を聞き出すか。
男なら力仕事と言うことでテーブルや椅子を運ぶように言われたがすべて武器として弾かれて運べなかったのだ。
いやね。アイテムボックスを使えば運べるんだが、出す時にアイテムボックス持ちって事がバレるからな。
え?もう冒険者組合でバレてるんだから意味無いって?良いんだよ、そんな事。それに彼女たちはまだその情報を知らなかったみたいだしな。なら隠しておくべきだろ。イザベラに何言われるか分からないしな。
ま、そんなわけで役立たずの俺は皿やコップなど持てる物を運んだり並べたりしていた。
既に必要な機材類は準備していたらしく後は設置するだけだったので直ぐに終わった。
ならもう終わりかと思ったが、そうではなくこれから接客する時の制服を試着するそうだ。
それも自分たちの手作りかと思ったが、そこはお店に頼んで作って貰ったそうだ。流石はお嬢様たちだ。だがそれだと各クラスに振り分けられた経費では足らないだろう。と思ったが自分たちでお金を出し合ったそうだ。
つまりは自腹だ。
口には出さないがたかが学園祭で自腹でお金を出すような事をするなんてやっぱりお嬢様たちの考えは分からないな。
そのため女子行為室で着替えて来るそうなのでその間はグレンダに任せて俺を含めた男どもは女性陣が来るのを待つ。
男性人の好奇心と不満の視線を感じながら俺は窓から学園を見下ろす。
大学の学園祭以上の規模で行われるレイノーツ学園祭。
耳にした情報だけでも演習場の一つでライブを行ったり、出店を出すだけじゃなく色々な催し物があるそうだ。
なんでも去年は全てのお店を回ったら賞金プレゼントだったそうだ。なんとも盛大なスタンプラリーだな。
窓の外から見下ろすだけでも学生たちが出店の準備をしたり、作ったりしていた。しかし感じる限り不穏な動きや敵意や殺意なんかの気配は感じない。どうやら今のところ怪しい連中はいないみたいだ。ま、学園祭を襲うような連中が居るとは思えないが。
「みんな、着替えてきたわよ」
そんな女子生徒の言葉に男共の視線が一気に集まる。
『おおおおおぉぉっ!』
なんて男子生徒どもの歓喜の叫びを耳にする。そんなに嬉しそうだと俺も気になるじゃないか。
俺も振り返るとそこには白いシャツに黒のズボン。ココアブラウンのエプロンと言う超シンプルだが、どこかカジュアルさもある服装だ。
なにより清楚だからこそ体のラインが強調され、主張の強さが分かる。逆にけしからんな。
「ねえ、ジン似合ってる?」
「ああ、似合ってるぞ」
名前は知らないが元気一杯の女子生徒が聞いてくる。
メイド服や露出度が多い服は男の欲望を刺激して客引きするイメージがあるが、清楚でカジュアルだとどこかフレンドリーで直ぐに馴染めそうな服装だ。
「ええ、それだけ。もっと言うことあるでしょ」
「そんな事言われてもな」
まともに女性と付き合ったことの無い俺に気の利いた言葉が言えるわけ無いだろ!あの島じゃ誰も教えてくれなかったし、教える事が出来そうな奴なんて要るわけもないし、その前にそんな暇なかったし!毎日戦って生きるのに精一杯だったんだからな!
クソッ、青春ってなんだろうな!
「あ、あのジンさん私も似合ってますか?」
するとシャルロットが気恥ずかしそうに近づいてくる。
なんとも皇女様がカジュアルな服装をしているとなぜだが、別人のようにも思えてくる。それにいつも以上に親しみやすいようなそんな気もするが、それは服装のせいなので勘違いはしない。
「よく似合ってるぞ。いつもとは違うから最初は驚いたけどな」
「本当ですか!」
「ああ、いつものドレス姿も悪くないが、こっちはこっちで親近感が持てて俺は好きだな」
「はうっ!」
俺の言葉に向日葵のように明るく笑顔になるシャルロット。そんなに自分の格好に自信が無かったのか?シャルロットはこの中でもダントツで美少女なんだからもっと自信を持って良いと思うんだが。
そんな感じで他の女子にも質問されたので似たような返事をしておく。本当ならもっと上手い返事の仕方や言葉があるんだろうが、俺にそれを求めるな!悲しくなってくるから。
そんな事を思いながらもう一人着替えてきた人物に視線を向ける。
「で、なんだグレンダまで着てるんだ?」
「う、うるさい!お嬢様たちが用意してたんだから着るしかないだろ!」
恥ずかしいのか腕で自分の体を隠すようにするが、全然隠れてない。それどころかお前の主張の強い胸がさらに主張してきてるぞ。
そのせいで男共の視線がグレンダの胸に集まるが、グレンダが一瞥すると体をビクッと震わせてどこかへ行ってしまった。え?俺かって俺はあいつ等ほど馬鹿じゃない。あんなあからさまに女性の体を見るものじゃないからな。
それに俺はさっき視線を向けた時にしっかりと脳内メモリーに保存したのでなんの問題も無い!これが大人と言うものだ!
「それでシャルロットたちはこれからなにするんだ?」
「クラスメイトのみんなにお客になって貰って練習をしようと思ってます」
なるほど。それなら最初から慌てるような事はないな。やはりお嬢様でもただのお嬢様たちじゃなかったな。みんなとても優秀だ。
その後廊下に出た男子生徒たちをお客代わりにして練習を行う事にした。
俺もお客として練習相手にされたが別に嫌じゃなかったので楽しみながらお客の役をやった。
そこで分かった事は本当に優秀なお嬢様たちだと言う事だ。
メニューを見たが食べ物はサンドイッチと目玉焼きを乗せた簡単なトースト。飲み物はオレンジジュース、コーヒー、お茶の三種類だけだ。
大抵最初ははしゃぎ過ぎて色々なメニューを出そうって事になるはずだが、そうじゃないらしい。シャルロット曰く出来るだけたくさんのお客さんたちに楽しんで貰うにはこれがベストの事だ。確かにメニューが一つだけなら楽だがそれだとお客が楽しめるか分からない。なら自分たちで回るだけのメニュー数にすれば良いと言う事になったそうだ。
詰まらない事とお客さんたちに楽しんで貰える事を考えて出した品数に俺は本当に貴族育ちのお嬢様なのか疑いたくなった。俺とは2歳しか違わないのにな。ま、前世をあわせれば全然違うけど。
その後は授業が終わるまで何度も練習をしたり話し合ったりしながら来週の月曜日に向けて行った。
6時限目の授業も終わり女子たちも制服に着替えて下校して行った。
俺たちも正門前に来ていた黒い車に乗って王宮へ帰る。
「どうでしたか、レイノーツ学園は?」
出発して直ぐにシャルロットがそんな事を聞いてくる。
「楽しかったぞ」
「本当ですか!」
「ああ」
久々の学園生活?だったが、なかなか面白かったな。
スヴェルニ学園ではどちらかと言えばファンタジーな授業内容の方が多かったけど、こっちは普通科って事もあって前世の時の学生時代を思い出す感じだったからな。
「なら、一緒に学園に通いませんか?」
「それは止めておくよ」
「そうですか……」
何でそこまで悲しそうなんだ?別に友達が少ないってわけでもなかったじゃないか。まさか男性の友人が少ないとかか。まあ確かに王族であり美少女のシャルロットと友人として付き合える男性は早々居ないだろうな。大抵は王族の血か、恋人目当てだろうからな。それにボルキュス陛下が煩そうだし。え?俺はって。俺は別にシャルロットと恋人になるつもりはないぞ。だってシャルロットが俺みたいな男を好きになるわけないし。
「でも学園祭は楽しみだ」
「はい、そうですね」
どこかまだ悲しさが残る返事だ。俺拙い事でも言ったか?やっぱり女心は分からないな。
帰りも同様に信号に何度も捕まりながらようやく王宮に戻った俺はシャルロットたちと別れてボルキュス陛下許に向かった。と言うよりも王宮内に入った途端イオが待ち構えていたからな。
案内された場所は依然同様に書斎だった。一介の冒険者を書斎に連れ込んで良いものか改めて思うが今さらだろう。
ボルキュス陛下と対面する形でソファーに座った俺は出された紅茶を一口飲む。相変らず美味しいな。
「それで学園の様子はどうだった?」
単刀直入に聞いてくる。いつもなら世間話を最初に少しするもんだ。なんて言ってくるがやはり娘であるシャルロットに危険が迫っているとなると違うみたいだな。
「今日一日調べたがシャルロットが言っていることは嘘じゃない。それもシャルロットだけを狙ったストーカーの犯行だ」
「そうか……」
俺はポケットから今日だけで取った超小型カメラをテーブルに置く。
「シャルロットが通う教室がある廊下だけでもこれだけのカメラがあった。となると間違いなくシャルロットが授業を受けている教室はもっとあるだろう」
「そう……か」
ボルキュス陛下から感じる沸々と煮えくり返りそうな怒りが全身から伝わる。
見た目からただの王族では無いと思っていたが、やはりこの皇帝も体育会系の人物だ。
「俺としてはこれだけの超小型カメラをどうやって設置したのか疑問に感じるところだが、今はこの超小型カメラから情報を集めて欲しい」
「それは任せてくれ。皇帝の力を使えば容易い事だ」
あ、目がガチだ。頼むから職権乱用や脅迫紛いな事はしないようにしてくれよ。後でシャルロットが知れば悲しむだろうからな。で、レティシアさんあたりに叱られる羽目になるだろうな。
「それじゃ、俺はこれで。明日は休日で王宮から出ないだろうが念のために来るとする」
「こうなってしまったらジン君にシャルロットの事は任せるしかないだろう。悪いが明日も来てくれ給え」
「そうするさ」
俺はそう言って王宮を後にした。
警備員のおっちゃんに手を振って出た俺は歩いて拠点に向かう。まだ時間はあるしゆっくり帰るか。あ、そう言えば今日影光が帰って来るんだったな。何か美味い物でも買って変えるか。
美味しそうなお店を探しながらあるくが、こんな街中にはやはりないか。商店街にでも行けばあるだろうが、拠点とは反対方向だしな。仕方がない拠点近くのスーパーで惣菜でも買って帰るか。ついでに酒も買って帰るか。残りも少なくなっていたはずだからな。
そう思って帰り際にスーパーで惣菜と酒。それから銀の好物の肉を購入して帰路を歩く。
「はぁ……」
またか。
そう思ってしまうのも無理は無い。スーパーを出るやまたしても誰かに見られているからだ。それも殺意を放ちながら。
最近誰にも見られて無かったから平和に帰れると思ったがそうじゃないらしい。ま、この時期に狙われるとしたら間違いなくシャルロットのストーカー野郎が雇った連中だろうけどな。
気配から感じるだけでも10人。随分と雇ったな。ま、道路の監視カメラをハッキング出来るぐらいだ俺が冒険者だって事ぐらいもう知っててもおかしくないか。だけど雇うならもう少し力のある奴を雇うべきだったな。それとも資金が無くて雇えなかったか?ま、どっちでも良いか。
俺はいつも通り帰路を歩きながらも人気が少ない方へと誘導する。
そして完全に人気が無くなり俺と銀、それから尾行してくる連中だけとなったところで俺は歩くの止めてその場で止まる。
「いい加減出てきたらどうだ?」
「へぇ魔力が無いくせに俺たちの事に気づいていたのかよ」
リーダーと思しき男が余裕そうに聞いてくる。それに合わせて他の連中も出てくる。予想通りただのチンピラだな。
完全に包囲された俺だが全然恐怖も感じない。前世の俺ならビクビクしてチビっていたところだろうが、あの島での生活で大抵のことでは恐怖を感じなくなった。だってマジで怖かったんだからな!
「それで俺になんのようか?」
「お前をボコボコにすれば金が貰えるんだよ。それも2万もな。ちょっとした小遣い稼ぎには丁度良いぜ」
2万ってたったそれだけかよ。10人合わせても20万か。賞金首よりも安いだろそれ。チンピラを雇った奴は俺の実力を見誤ったのかそれとも資金がなかったのか。完全に舐められているのかのどれかだろうな。
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