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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第五十三話 レイノーツ学園祭前 ⑧
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10月14日日曜日。
5時に目が覚めた俺は日の出を屋上で見ながらホットコーヒーを飲む。生憎と白鳩は飼ってないしラッパも吹けないので、とある映画の少年みたいな事を期待されても困るからな!
「それにしても寒いな」
もう10月の中旬だからな。パーカーを着ていても朝は少し寒い。
それにしても急に屋上に来てどうしたって思うかもしれないが、別に理由はない。たまに屋上に来て酒かお茶を飲みながら風景を見ているのだ。ま、今回はホットコーヒーだけども。
こうして眺めていると本当に異世界に来てあの島から出てきたって事を感じられる。
それにアイツの事も――
「またここに居たんですか。奴隷の癖に面倒を掛けないで下さい」
「はいはい」
呼びに来たアインの愚痴を聞き流しながら俺は屋上を下りる。
朝食を食べた俺は銀を連れて皇宮に向かう事にした。
「で、なんでお前たちまで付いてきてるんだ?」
俺は振り返り影光とアインに視線を向ける。
「拙者たちもこの依頼をするのだ。別に構わないだろ?」
「それに傍にいれば少しでもマスターの世話が出来ます」
影光の言っている事は分かる。で、アインは微塵も本心を隠す気が無いと。
まったくこれじゃ余計に目立つだろうに。ま、もう遅いし別に良いか。
念のためにシャルロットに連絡した俺だったが、どうにかOKを貰えた。
これで一安心だな。さて問題は。
「それでアイン。覗き見しているストーカー野郎は見つかったか?」
「はい、見つけました」
「そいつの居場所見つけ出せるか」
「既ににやっていますが幾つもの海外ネットを経由しているらしく中々見つける事ができません。まったく蛆虫以下の矮小なクズのくせに面倒な事をしますね」
どうやら相手のハッキング技術に相当苛立っているようだな。
結局全員で皇宮に向かった俺たちは警備員のおっちゃんに挨拶をして仲間を連れてきた事を説明してから中に入った。
皇宮に入ると既にイオが待ち構えていた。お前はいつからそこに居るんだ?それとも俺たちが近づいてくるのが予知できたとでも言うのか?
未だに謎のイオのスーパースキルの事考えていると、イオが口を開いた。
「お待ちしておりました。ギルド、フリーダムの皆様。皇帝陛下が応接室にてお待ちです。さあ、こちらです」
どうやら書斎やプライベートフロアに案内されるわけじゃないのか。ま、仲が言い訳でもないアインや影光が居るんだから当たり前か。
イオの案内でエレベーターに乗った俺たちは見慣れた応接室へとやって来た。
そこには何故かボルキュス陛下だけでなく、エリーシャ第一王妃にレティシア第二王妃、ライアン第一皇子、カルロス第二皇子、シャルロット、サーシャ第三皇女、マオ第三皇子とミアと第一皇女以外皇族全員が集結していた。あとグレンダも居る。
「これはどう言う事なんだ?」
「急に君が創設したばかりのギルドメンバーを連れて来るって言い出したからね。ぜひ会ってみたいと思ったんだよ」
と、俺の疑問にライアンが答えてくれる。皇族の好奇心と行動力を舐めていたな。
なら、こっちも挨拶しておくべきだな。
「ギルド『フリーダム』のギルドマスターの鬼瓦仁。そして――」
「フリーダム所属のアインと申します」
「フリーダム所属、藤堂影光と申します」
と俺に続く形で全員が挨拶をした。俺としてはまさかアインが空気を読んで挨拶をするとは思わなかった。
しかしどこと無く様になっている俺たちの挨拶にボルキュス陛下たちは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「これは凄いわね」
「そうですね。全員が凄い人材ですわ」
すいませんエリーシャさん。1人は人間じゃありません。
内心そんな謝罪と訂正をしながら俺たちはボルキュス陛下たちと対面する形でソファーに座った。
「それにしてもまさか世界最強と謳われているトウドウ・カゲミツ殿をギルドに入れるとはな」
「まさに少数精鋭のギルドだね」
「俺としては是非手合わせをして貰いたいものだ」
「なら、今度指名依頼を出して剣術や対術の外部教官として指南して貰うと言うのもありだね」
なにやら勝手に盛り上がる皇族様たち。あの俺たちは一応シャルロットの護衛として来たんだが。
で、その護衛対象であるシャルロットとは言うと申し訳なさそうに俯いていた。あ、やっぱりシャルットもそう思うんだな。
盛り上がる皇族たちを一瞥するかのようにわざと咳をしたボルキュス陛下。それに気づいたライアンたちは直ぐに静かになる。
「すまないな。我が家族たちが」
「気にしなくて大丈夫だ」
ようやく話が進められるな。
そう思いながら俺は出された紅茶を一口飲む。相変わらずここの紅茶は美味しいな。いったいどこから取り寄せてるんだ?
そんな疑問を脳内で考えているとボルキュス陛下が口を開いた。
「ここに居る者たちは全員シャルロットの件について知っている。だから遠慮なく話してくれ」
「分かった。昨日皇宮を出てホームに戻る途中、数人のチンピラに襲われた」
「ほう……それで?」
直ぐに察したのかボルキュス陛下は眉を軽く顰めると、話を続けるようにと短く言ってくる。
どうやら気づいたのはボルキュス陛下だけでなくサーシャやマオ以外全員が気づいているようだった。
「軽く気絶させた後情報を聞きだしてみたが、やはり俺を襲うように雇われたチンピラだった」
そんな俺の言葉に全員の表情が険しくなる。
そんな皆を代表するようにボルキュス陛下が聞いてくる。
「それで何か分かったのか?」
「いや、何も分からなかった。雇われたチンピラたちは最初迷惑メールだと思っていたみたいだが、前金が振り込まれたから俺を襲うことを決行しただけだったようだ」
「やはりそうか」
「だが、そのチンピラのリーダーのスマホを貰って来た。この中に俺を襲うように依頼した奴からのメールが入っているはずだ。悪いが調べて貰いたい」
「任せたまえ。イオ、これを情報科の所に持って行って直ぐに調べて貰ってくれ」
「畏まりました」
ボルキュス陛下の言葉にお辞儀をすると俺からスマホを受け取って姿を消した。相変らず凄い能力だな。
俺の隣で平然と銀を撫でるアインを視界から追い出した俺は話を続ける。
「シャルロットを狙う犯人はこの程度では俺を倒せないと分かっただろう。もしかしたらもっと最悪な事を実行するかもしれない。ストーキングするような奴らは何を考えるか分からない。ましてや思い込みが激しいからな」
「確かにその通りだ。やはり早急に犯人を見つけ出さなければな」
「その必要はありません」
「それはどういう意味だ」
アインの言葉にボルキュス陛下たちが怪訝の視線を向けるが、俺と影光は直ぐに理解し笑みを零していた。
「犯人を見つけました」
「なにっ!?それは本当か!」
「はい。間違いありません。住所は10区2番地ですね」
「それって……」
「ああ、どうやら学園に犯人が居るようだ」
その言葉に驚きを覚えるレティシアさんたちだが、俺はその可能性も考えていたのでそこまで驚きはない。
犯人はシャルロットと学園内で出会った事がある人物だ。なら学園に潜んでいてもなんら問題はないのだ。
「そいつの詳細な場所は分かるか?」
「そうですね。場所は第三男子寮6階の603号室ですね」
「よし、今すぐその部屋に居る男子生徒のデータを持って来い!」
「畏まりました」
っていつ戻ってきたんだよ!
そう思いたくなるほどイオの神出鬼没っぷりに驚きを隠せない俺。こいつ気配まで消すからマジで分からないんだもん。
数分足らずで持ってきた603号室のデータが持ってこられた。
それをシャルロットに確認して貰うが。
「いえ、この方ではありません」
その言葉に皇族からは落胆の声が漏れ、アインからは鋭い視線がシャルロットに向けられる。
頼むからその目でシャルロットを見るのはやめてくれ。怯えているじゃないか。
「そんな筈はありません。まさか私が間違っているとでも?」
「い、いえ。そう言うわけでは。ですが私が出会って人物とは全然人相が違うので」
だから問い詰めるような言い方は止めろって。
だが、どうして違うんだ?アインの索敵能力はずば抜けている。その力に何度も助けられた俺はよく知っているからな。
なのにどうして……いや、待てよ。
「なるほど……そう言うことか」
「なにがなるほどなんだ?」
「どうやら俺たちは敵の力を見誤っていたらしい」
「どう言う事だ?」
「監視カメラをハッキングして覗き見できるだけの力を持っているんだ。学園のデータベースに入り込んで自分のデータを書き換える事ぐらい出来るんじゃないのか?」
『っ!』
俺のそんな言葉に全員が悟ったかのように目を見開けた。
「確かにその通りだ。どうしてこのような事に気づかなかったんだ」
「俺たちは犯人の人相を知っていたからな。人相に目が言って犯人の能力には気づかなかったんだろうな」
案外人と言うのは分かっている事に目が行きやすいものだ。
それに隠れている真実への手がかりを見落とすほどに。
だが、これでどうにかなりそうだな。
「よし、今すぐ603号室の生徒を監視しろ。なにか動きがあり次第報告しろ。念のために今部屋に居るかサーモカメラを使って確認。勿論他の生徒に気づかれないようにな」
「分かりました」
「任せてくれ」
そう言ってライアンとカルロスは出て行った。
行き詰まり掛けていた問題がどうにか動き出したな。これで後は学園祭が終わるのを待つだけだ。
そう思いながら俺は紅茶を飲んでシャルロットに視線を向ける。
「良かったな」
「はい。ありがとうございます!」
「別に気にしないでくれ。俺たちは依頼受けてやっただけだからな。ってそうだった。ボルキュス陛下依頼達成の報酬に関してなんだが、まだ話し合っていなかったと思ってな」
「そう言えばそうだったな。今回、我々は何も出来なかった。殆どが君たちフリーダムの手がらだ。Bランクの指名依頼となっているが、報酬は500万RK用意するつもりだ」
「影光、Bランクの指名依頼の相場ってどれぐらいだ?」
「最高でも約200万RK行くかどうかだな。それを考えれば破格の金額だ」
「マジか」
倍以上じゃないか。ギルドに100万入れたとしても1人当たり130万RK。最高の依頼じゃないか。残りの10万は美味い肉や酒でも買って達成した夜にでも宴の経費として使うか。
素晴らしい話につい笑みが零れそうになってしまった。危ない危ない。まだ依頼は終わってないんだ。気を引き締めないとな。何が起こるか分かったもんじゃないからな。
「なら、残りの一週間も頑張らせて貰うとしよう」
「ああ、よろしく頼む」
そう言うボルキュス陛下の言葉を聞きながら俺は残りの紅茶を飲み干した。
するとシャルロットが話しかけてくる。
「あ、あのもし宜しければ、中庭でお話でもしませんか?」
「別に構わないぞ。アインと影光はどうする?」
俺はそう言って影光とアインに視線を向ける。
「私はマスターと一緒にここで寛いでいます」
「なら、私の部屋に来ませんこと?」
そう言って来たのはエリーシャさんだった。
「私、貴方とお話してみたかったのよ。それにギンちゃんが好きそうなお肉もあるわよ」
「分かりました。すぐ行きましょう」
そう言って立ち上がるアイン。流石は帝国の第一皇妃。もうアインの本質を見抜いたか。
エリーシャさんの恐ろしさを傍目から感じていると今度はレティシアさんが口を開いた。
「なら私はカゲミツさんとお話がしたいわ。オボロの兄弟子ってことですしね」
「そう言えば、朧とは友人なのでしたな」
「ええ。冒険者時代に知り合ったのよ。ですからお茶の相手してくださいますか?」
「皇妃様の頼みと言うことであれば」
そう言ってそれぞれが別行動をする事になった。
俺は仲間を束縛するつもりは毛頭ないので別に構わない。ま、何か問題を抱えているのであれば聞くけど。そうでないのなら自由に過ごして貰って構わない。
「なら我はシャルロットたちと一緒に中庭に」
「「アナタは書斎に戻ってお仕事よ」」
「む」
そんなエリーシャさんとレティシアさんの言葉にボルキュス陛下は落ち込んだあと俺を睨んできた。別に悪いことをした覚えは無いのに睨まれるのはあまりにも理不尽な気がする。
ま、ここに居たら睨み殺されそうなので俺はシャルロットとグレンダと一緒に中庭に向かう事にした。
途中まではアインや影光たちと一緒に廊下を歩いたが、それぞれ別の部屋でお茶を楽しむみたいだ。
そんな事を思いながら案内された中庭はこれまた色々な植物や花が咲く場所だった。
5時に目が覚めた俺は日の出を屋上で見ながらホットコーヒーを飲む。生憎と白鳩は飼ってないしラッパも吹けないので、とある映画の少年みたいな事を期待されても困るからな!
「それにしても寒いな」
もう10月の中旬だからな。パーカーを着ていても朝は少し寒い。
それにしても急に屋上に来てどうしたって思うかもしれないが、別に理由はない。たまに屋上に来て酒かお茶を飲みながら風景を見ているのだ。ま、今回はホットコーヒーだけども。
こうして眺めていると本当に異世界に来てあの島から出てきたって事を感じられる。
それにアイツの事も――
「またここに居たんですか。奴隷の癖に面倒を掛けないで下さい」
「はいはい」
呼びに来たアインの愚痴を聞き流しながら俺は屋上を下りる。
朝食を食べた俺は銀を連れて皇宮に向かう事にした。
「で、なんでお前たちまで付いてきてるんだ?」
俺は振り返り影光とアインに視線を向ける。
「拙者たちもこの依頼をするのだ。別に構わないだろ?」
「それに傍にいれば少しでもマスターの世話が出来ます」
影光の言っている事は分かる。で、アインは微塵も本心を隠す気が無いと。
まったくこれじゃ余計に目立つだろうに。ま、もう遅いし別に良いか。
念のためにシャルロットに連絡した俺だったが、どうにかOKを貰えた。
これで一安心だな。さて問題は。
「それでアイン。覗き見しているストーカー野郎は見つかったか?」
「はい、見つけました」
「そいつの居場所見つけ出せるか」
「既ににやっていますが幾つもの海外ネットを経由しているらしく中々見つける事ができません。まったく蛆虫以下の矮小なクズのくせに面倒な事をしますね」
どうやら相手のハッキング技術に相当苛立っているようだな。
結局全員で皇宮に向かった俺たちは警備員のおっちゃんに挨拶をして仲間を連れてきた事を説明してから中に入った。
皇宮に入ると既にイオが待ち構えていた。お前はいつからそこに居るんだ?それとも俺たちが近づいてくるのが予知できたとでも言うのか?
未だに謎のイオのスーパースキルの事考えていると、イオが口を開いた。
「お待ちしておりました。ギルド、フリーダムの皆様。皇帝陛下が応接室にてお待ちです。さあ、こちらです」
どうやら書斎やプライベートフロアに案内されるわけじゃないのか。ま、仲が言い訳でもないアインや影光が居るんだから当たり前か。
イオの案内でエレベーターに乗った俺たちは見慣れた応接室へとやって来た。
そこには何故かボルキュス陛下だけでなく、エリーシャ第一王妃にレティシア第二王妃、ライアン第一皇子、カルロス第二皇子、シャルロット、サーシャ第三皇女、マオ第三皇子とミアと第一皇女以外皇族全員が集結していた。あとグレンダも居る。
「これはどう言う事なんだ?」
「急に君が創設したばかりのギルドメンバーを連れて来るって言い出したからね。ぜひ会ってみたいと思ったんだよ」
と、俺の疑問にライアンが答えてくれる。皇族の好奇心と行動力を舐めていたな。
なら、こっちも挨拶しておくべきだな。
「ギルド『フリーダム』のギルドマスターの鬼瓦仁。そして――」
「フリーダム所属のアインと申します」
「フリーダム所属、藤堂影光と申します」
と俺に続く形で全員が挨拶をした。俺としてはまさかアインが空気を読んで挨拶をするとは思わなかった。
しかしどこと無く様になっている俺たちの挨拶にボルキュス陛下たちは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「これは凄いわね」
「そうですね。全員が凄い人材ですわ」
すいませんエリーシャさん。1人は人間じゃありません。
内心そんな謝罪と訂正をしながら俺たちはボルキュス陛下たちと対面する形でソファーに座った。
「それにしてもまさか世界最強と謳われているトウドウ・カゲミツ殿をギルドに入れるとはな」
「まさに少数精鋭のギルドだね」
「俺としては是非手合わせをして貰いたいものだ」
「なら、今度指名依頼を出して剣術や対術の外部教官として指南して貰うと言うのもありだね」
なにやら勝手に盛り上がる皇族様たち。あの俺たちは一応シャルロットの護衛として来たんだが。
で、その護衛対象であるシャルロットとは言うと申し訳なさそうに俯いていた。あ、やっぱりシャルットもそう思うんだな。
盛り上がる皇族たちを一瞥するかのようにわざと咳をしたボルキュス陛下。それに気づいたライアンたちは直ぐに静かになる。
「すまないな。我が家族たちが」
「気にしなくて大丈夫だ」
ようやく話が進められるな。
そう思いながら俺は出された紅茶を一口飲む。相変わらずここの紅茶は美味しいな。いったいどこから取り寄せてるんだ?
そんな疑問を脳内で考えているとボルキュス陛下が口を開いた。
「ここに居る者たちは全員シャルロットの件について知っている。だから遠慮なく話してくれ」
「分かった。昨日皇宮を出てホームに戻る途中、数人のチンピラに襲われた」
「ほう……それで?」
直ぐに察したのかボルキュス陛下は眉を軽く顰めると、話を続けるようにと短く言ってくる。
どうやら気づいたのはボルキュス陛下だけでなくサーシャやマオ以外全員が気づいているようだった。
「軽く気絶させた後情報を聞きだしてみたが、やはり俺を襲うように雇われたチンピラだった」
そんな俺の言葉に全員の表情が険しくなる。
そんな皆を代表するようにボルキュス陛下が聞いてくる。
「それで何か分かったのか?」
「いや、何も分からなかった。雇われたチンピラたちは最初迷惑メールだと思っていたみたいだが、前金が振り込まれたから俺を襲うことを決行しただけだったようだ」
「やはりそうか」
「だが、そのチンピラのリーダーのスマホを貰って来た。この中に俺を襲うように依頼した奴からのメールが入っているはずだ。悪いが調べて貰いたい」
「任せたまえ。イオ、これを情報科の所に持って行って直ぐに調べて貰ってくれ」
「畏まりました」
ボルキュス陛下の言葉にお辞儀をすると俺からスマホを受け取って姿を消した。相変らず凄い能力だな。
俺の隣で平然と銀を撫でるアインを視界から追い出した俺は話を続ける。
「シャルロットを狙う犯人はこの程度では俺を倒せないと分かっただろう。もしかしたらもっと最悪な事を実行するかもしれない。ストーキングするような奴らは何を考えるか分からない。ましてや思い込みが激しいからな」
「確かにその通りだ。やはり早急に犯人を見つけ出さなければな」
「その必要はありません」
「それはどういう意味だ」
アインの言葉にボルキュス陛下たちが怪訝の視線を向けるが、俺と影光は直ぐに理解し笑みを零していた。
「犯人を見つけました」
「なにっ!?それは本当か!」
「はい。間違いありません。住所は10区2番地ですね」
「それって……」
「ああ、どうやら学園に犯人が居るようだ」
その言葉に驚きを覚えるレティシアさんたちだが、俺はその可能性も考えていたのでそこまで驚きはない。
犯人はシャルロットと学園内で出会った事がある人物だ。なら学園に潜んでいてもなんら問題はないのだ。
「そいつの詳細な場所は分かるか?」
「そうですね。場所は第三男子寮6階の603号室ですね」
「よし、今すぐその部屋に居る男子生徒のデータを持って来い!」
「畏まりました」
っていつ戻ってきたんだよ!
そう思いたくなるほどイオの神出鬼没っぷりに驚きを隠せない俺。こいつ気配まで消すからマジで分からないんだもん。
数分足らずで持ってきた603号室のデータが持ってこられた。
それをシャルロットに確認して貰うが。
「いえ、この方ではありません」
その言葉に皇族からは落胆の声が漏れ、アインからは鋭い視線がシャルロットに向けられる。
頼むからその目でシャルロットを見るのはやめてくれ。怯えているじゃないか。
「そんな筈はありません。まさか私が間違っているとでも?」
「い、いえ。そう言うわけでは。ですが私が出会って人物とは全然人相が違うので」
だから問い詰めるような言い方は止めろって。
だが、どうして違うんだ?アインの索敵能力はずば抜けている。その力に何度も助けられた俺はよく知っているからな。
なのにどうして……いや、待てよ。
「なるほど……そう言うことか」
「なにがなるほどなんだ?」
「どうやら俺たちは敵の力を見誤っていたらしい」
「どう言う事だ?」
「監視カメラをハッキングして覗き見できるだけの力を持っているんだ。学園のデータベースに入り込んで自分のデータを書き換える事ぐらい出来るんじゃないのか?」
『っ!』
俺のそんな言葉に全員が悟ったかのように目を見開けた。
「確かにその通りだ。どうしてこのような事に気づかなかったんだ」
「俺たちは犯人の人相を知っていたからな。人相に目が言って犯人の能力には気づかなかったんだろうな」
案外人と言うのは分かっている事に目が行きやすいものだ。
それに隠れている真実への手がかりを見落とすほどに。
だが、これでどうにかなりそうだな。
「よし、今すぐ603号室の生徒を監視しろ。なにか動きがあり次第報告しろ。念のために今部屋に居るかサーモカメラを使って確認。勿論他の生徒に気づかれないようにな」
「分かりました」
「任せてくれ」
そう言ってライアンとカルロスは出て行った。
行き詰まり掛けていた問題がどうにか動き出したな。これで後は学園祭が終わるのを待つだけだ。
そう思いながら俺は紅茶を飲んでシャルロットに視線を向ける。
「良かったな」
「はい。ありがとうございます!」
「別に気にしないでくれ。俺たちは依頼受けてやっただけだからな。ってそうだった。ボルキュス陛下依頼達成の報酬に関してなんだが、まだ話し合っていなかったと思ってな」
「そう言えばそうだったな。今回、我々は何も出来なかった。殆どが君たちフリーダムの手がらだ。Bランクの指名依頼となっているが、報酬は500万RK用意するつもりだ」
「影光、Bランクの指名依頼の相場ってどれぐらいだ?」
「最高でも約200万RK行くかどうかだな。それを考えれば破格の金額だ」
「マジか」
倍以上じゃないか。ギルドに100万入れたとしても1人当たり130万RK。最高の依頼じゃないか。残りの10万は美味い肉や酒でも買って達成した夜にでも宴の経費として使うか。
素晴らしい話につい笑みが零れそうになってしまった。危ない危ない。まだ依頼は終わってないんだ。気を引き締めないとな。何が起こるか分かったもんじゃないからな。
「なら、残りの一週間も頑張らせて貰うとしよう」
「ああ、よろしく頼む」
そう言うボルキュス陛下の言葉を聞きながら俺は残りの紅茶を飲み干した。
するとシャルロットが話しかけてくる。
「あ、あのもし宜しければ、中庭でお話でもしませんか?」
「別に構わないぞ。アインと影光はどうする?」
俺はそう言って影光とアインに視線を向ける。
「私はマスターと一緒にここで寛いでいます」
「なら、私の部屋に来ませんこと?」
そう言って来たのはエリーシャさんだった。
「私、貴方とお話してみたかったのよ。それにギンちゃんが好きそうなお肉もあるわよ」
「分かりました。すぐ行きましょう」
そう言って立ち上がるアイン。流石は帝国の第一皇妃。もうアインの本質を見抜いたか。
エリーシャさんの恐ろしさを傍目から感じていると今度はレティシアさんが口を開いた。
「なら私はカゲミツさんとお話がしたいわ。オボロの兄弟子ってことですしね」
「そう言えば、朧とは友人なのでしたな」
「ええ。冒険者時代に知り合ったのよ。ですからお茶の相手してくださいますか?」
「皇妃様の頼みと言うことであれば」
そう言ってそれぞれが別行動をする事になった。
俺は仲間を束縛するつもりは毛頭ないので別に構わない。ま、何か問題を抱えているのであれば聞くけど。そうでないのなら自由に過ごして貰って構わない。
「なら我はシャルロットたちと一緒に中庭に」
「「アナタは書斎に戻ってお仕事よ」」
「む」
そんなエリーシャさんとレティシアさんの言葉にボルキュス陛下は落ち込んだあと俺を睨んできた。別に悪いことをした覚えは無いのに睨まれるのはあまりにも理不尽な気がする。
ま、ここに居たら睨み殺されそうなので俺はシャルロットとグレンダと一緒に中庭に向かう事にした。
途中まではアインや影光たちと一緒に廊下を歩いたが、それぞれ別の部屋でお茶を楽しむみたいだ。
そんな事を思いながら案内された中庭はこれまた色々な植物や花が咲く場所だった。
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【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
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