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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第五十六話 レイノーツ学園祭 ③
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「やっぱり何度見ても最高です!」
ん?今聞き捨てならない台詞が聞こえたような気がしたんだが。
「シャルロットはこの劇を見るのは初めてじゃないのか?」
「キャストは違いましたけど、この劇自体は小さい時から何度も見てますよ」
「お嬢様はこの物語が好き過ぎて台詞をすべて言える程です」
「そ、それは凄いな」
そんなに見てるなら別に見なくて良いだろうに。俺が睡魔と格闘していたあの40分を返して欲しい気分だ。
劇を見終わった俺たちは接客すべく戦場へと戻った。
俺はこんな戦場は嫌だ!
王宮に戻ってきた俺は湯船に浸かって疲労回復に勤しみ、レティシアさんとエリーシャさんが作ってくれた料理を頬張って体力を蓄え、数日前から使っている客室のベッドで体力回復に努めた。
ま、簡単に言うなら風呂に入って飯を食べて寝たってだけだ。
今日で学園祭3日目が終了したんだ。残り2日これを切り抜けたら絶対に一週間は働かないからな。いや、一ヶ月だな。
10月18日木曜日。
学園祭4日目がやってきた。今日を終えれば明日で最後だ。これで俺の依頼も達成される。
ま、その前に。
「ジン君、早く次のお客様を案内して!」
「わ、分かった!」
と、今日も俺は接客に追われているわけだが。
俺も学生なら一週間の学園祭は大いに喜んだだろう。だがこうも毎日接客接客だと全然見て回れた気がしない。
ま、そんな学生ならなんて妄想をしている余裕なんて無いほど俺は新しい来客者の許に出向く。
「いらっしゃいま――」
教室の入り口で待機していたのはなんとアインと影光。それとアインに抱かれた銀が居た。
「なんでお前らがここに来てるんだ?」
「なに、俺たちのリーダーがどんな様子で働いているのか見に来ただけだ」
「私はマスターのためにちゃんとお金を稼いでいるか確認にきただけです」
ここの売り上げは俺には入らないぞ。
それよりも様子を見に来るなら普通初日か2日目だと思うんだが、なんで4日目なんだ?
「それでお前らは昨日まで何してたんだ?」
「拙者は色々な勝負のお店を回っていた」
「私は主にシューティング系のお店を回っていました」
「お前ら俺たちは依頼を受けている真っ最中って事を忘れてないよな?」
「「勿論」」
あやしい。マジで怪しい。
だけどこれで初日から噂になっていた和装姿の男とメイドがこの2人だって事は分かった。知りたくはなかったけど。
「ま、こっちの席で待っててくれ」
そう言って俺は空いている席に案内する。
水が入ったコップを2つテーブルに置いた俺は注文を取る。
「それで何を食べる?品数は少ないが」
「なら拙者はこのサンドイッチを」
「私はオレンジジュースを」
「分かった。ちょっと待っててくれ」
そう言って俺は料理をしている女子生徒の許まで向かう。
「注文を持ってきた。サンドイッチとオレンジジュースを一つずつ」
「分かったわ」
「ねぇねぇ、ジン君」
すると突然複数人の女子生徒が近づいてきて質問してきた。
「なんだ?」
「あの2人。メイドさんとヤマトの侍っぽい2人組みだけど、知り合いなの?」
「知り合いって言うか、同じギルドメンバーだ」
「あの2人も冒険者なの?」
「そうだ。メイドの方は俺と同じCランク冒険者。侍に至ってはSランク冒険者だ」
「本当に!?」
「ああ、俺が最近創設したギルドメンバーだ」
「って事はジン君がギルドマスターなの!?」
「そうだが?」
その言葉に驚きを隠せないと言った表情をする彼女たちだが、そんなに驚くことなのか?この国は沢山ギルドがあるんだから別に驚くような事でも無いと俺は思うんだが。
それよりも今は。
「ほら、それよりも仕事だろ。まだお客は居るんだからな」
『は~い』
そう言って彼女たちは接客に戻って行った。まったく俺は助っ人であってリーダーじゃないんだぞ。
などと思いながら俺は準備できた品を2人の許まで運ぶ。
「ほら、さっさと食べて仕事に戻ってくれ。見ての通り忙しいんだからな」
「分かってる。それよりもアインがある事に気がついたらしい」
「あること?」
どうせ下らない事だろう。と一瞬思ったが影光の表情があまりにも真剣だったので一応アインに視線を向けて、話すよう促す。
「2日目から不穏な魔力を感じていました。それは日に日に大きくなり今では少し無視できない程です」
「それは本当か?」
「はい」
俺としてはどうしてその情報をもっと早く伝えてくれなかったのか苛立ちを覚えそうになるが、この場でそんな事を議論するわけにもいかないのでグッと押し殺す。
「そして何よりその魔力。以前カゲミツがヨウショウと戦った時に現れた雑魚集団と同じ魔力を感じます」
「「なに!?」」
アインの口から知らされたとんでもない情報に俺と影光は大声を出してしまい周囲の注目を集めてしまう。ここじゃ拙いな。
「シャルロット、悪いが少し離れる。絶対にグレンダの傍から離れるなよ」
「は、はい」
「グレンダ悪いが少しの間任せた」
「お前に言われるまでも無い」
代金をテーブルに置いた影光たちと教室を出た俺は人気のない場所に移動した。
「で同じ種類と言うのはどういう事だ?」
「そのままの意味です。つまりあの薬がまたしても使われたと言う事でしょう」
「ふざけおって……」
藤堂陽宵を駄目にした薬。そして誑かしたであろう首謀者がまたしても行動を始めたと言う事か。
だがなんでこの学園でそんな事をするんだ?
陽宵の時は俺たちを皆殺しにするために準備していた物だと思っていた。だが今回は違う。
いったい首謀者はなんの目的でこんな事をするんだ?
いや、それよりも今は詳細な状況確認が先だ。
「それで数は」
「私が感じられる数は一体のみ。それも以前の時とは比べ物にならない量の薬を投与している可能性があります。もしもそんな奴が外に出たら……」
「間違いなく無差別殺人が起こるに決まっておる!」
影光の言うとおりだ。拙いなまさかそんな奴がこの学園に入っているなんて。だが待てよ。どうやってこの学園に入ったんだ?入場の検問はかなり厳しい筈だ。それを潜り抜けるだけの隠密能力を持っていると言う事か?
いや、あれは薬なんだ。入ってから投与することも可能……それはないか。検問は荷物検査や身体検査まで行うんだ。それで見つからないのはおかしい。となると……
「まさかこの学園に最初から居る奴なのか……」
「おい、ジンさすがにそれはない――」
「いえ、その男の言うとおりかもしれません。魔力を最初に感じた場所は北北東の方角。そしてその方向にあるのは学生寮です」
「お、おい学生寮ってまさか……」
「その可能性は十分にありえるかもしれません」
影光とアインが予想する最悪。そしてそれは俺の脳裏にも過ぎっている事だ。
まさか本当にありえるのかそんな事が。ただの学生が手に入れられる代物じゃない。まさかアイツも陽宵と同じく誑かされたのか。いやきっとそうに違いない。
「今すぐライアンに連絡す――」
『キャアアアアアァァ!』
「なんだ!?」
「この叫び声、シャルロットたちが開いているお店の方角からだ!」
俺たちは急いでシャルロットたち2年1組教室に向かった。
しかし廊下には尻餅をつく客や好奇心で一定の距離から囲むように一般人が集まって中々前に進めない。
クソッ!こんな時に。
俺は仕方なくジャンプして壁を蹴りながら教室前まで移動した。
と言うか俺だけでなくアインと影光も同じ方法で移動してきた。
まったく俺の仲間は頼りになるな。
そんな事を思いながらも俺たちは教室の中に入ると一人の男性が店の中で暴れていた。
怯える女子生徒たちは一箇所に集まっていた。その中にシャルロットの姿があり一瞬安堵した俺は頭を切り替えて女子生徒を庇うように警戒するグレンダに話しかける。
「おい、これはどういう事だ!」
「分からない。注文を聞きに女子生徒が近づいた瞬間突然苦しみだしたかと思ったら暴れだしたんだ!」
なんだそれ。急に苦しみだしたかと思ったら魔物ように暴れだしたってか。そんな事ありえるわけないだろ。って言いたいところだが目のまで現実に起きていることだからな、信じるしかないだろう。
それにこいつの目の色はマジでヤバイ。強膜までもが紫色の変色してやがる。まるでこいつら倉庫街で戦ったチンピラ連中と同じじゃねぇか。
「この魔力……」
「何か気がついたのか?」
驚き気味に呟いたアインに俺は暴れる男から視線を逸らすことなく聞く。
「あの男から例の魔力が膨れ上がっています」
「やっぱりそうだったのかよ」
「ですが、この感じ間違いなく以前戦った時に使用された物とは違います」
「それはどういう事だ?」
「間違いなく強化版。いえ、原液を投与された恐れがあります」
「原液ってそんなにヤバイのなか?」
「最悪の一言です。原液はたった一滴体内に入るだけで投与された人間の魔力を喰らい増殖します。その間投与された人間は殺戮衝動に襲われ暴れまわると言う最悪の薬です。普通はそれに少し手を加え魔力を喰らうのを抑え力だけを増幅すさせるドーピングですが、原液となるとこの後なにが起こるか私にも分かりません。それに最初投与された時は私でも感知するのは不可能です」
「つまりはコイツ以外にもこの学園内に入り込んでいる可能性があるって事だよな」
「はい」
最悪だ。もうこれはちょっとした事件どころ話じゃない。間違いなく何者かによる襲撃と考えるべきだ。
となるとコイツに時間を取られている場合じゃないな。
だけどその前に確かめておく必要がある。
「因みに原液を投与された人間を治す方法は?」
「ありません。薬自体がその者の魔力を喰らい尽くすまで続きます。そして全て食われた者はその力に体が耐えられなくなり穴という穴から血を噴き出して絶命します」
「分かった」
ったく沢山の目があるなかで殺すような事はしたくなかったんだが、そうも言ってられないか。
躊躇ってシャルロットや他のクラスメイト、一般人に被害が出たら最悪だからな。
「影光、ムカつくだろうが我慢してくれ。ここで殺傷沙汰はあんまりしたくない」
「分かっている。それにこの怒りはこの薬をばら撒いた張本人にぶつけるつもりだから安心しろ」
「その言葉が聞ければ十分だ!」
俺は0.6%の力で暴走する男の背後に回るとそのまま首の骨を折って絶命させた。
一瞬の出来事に何が起こったのか分からないと言うクラスメイトや一般人。ただ暴走していた男が突然倒れたように見えた事だろう。
俺はそんな周りの事など一旦忘れて指示を出す。
「影光はこの異常事態を冒険者組合に連絡して出来るだけ多くの冒険者を集めてくれ」
「分かった」
「アインはこの近くに薬を投与された奴が居ないか探してくれ」
「分かりました」
こう言う時文句を言わずに動いてくれるのは助かる。
「グレンダはボルキュス陛下に連絡して直ぐに軍を動かしてくれ。俺はライアンに連絡するから」
「分かった」
指示を出した俺は急いでライアンに異常事態を連絡する。これで暴走した奴が居ても直ぐに対処出来るだろう。
ゴオオオオオオオオォォォ!!!
突如として聞こえる破壊音と地震のような揺れ。
「なんだ!」
俺はそう思って窓から外を見てみると数十人の男女が学園内で暴走していた。まさに惨劇。パンデミックと言って良いぐらいだ。
「チッ!遅かったか!」
このままじゃ一般人に被害が出る。
一応上級生の冒険科と軍人教育科の生徒、そして教師たちが避難誘導をしているがそれでも巻き込まれて怪我をしたり、恐怖で動けなくなった一般人が目視できるだけでも何人か居る。いったい何のためにこんなことするんだよ!
「影光、今すぐ外の出店に行って暴走している奴らを討伐してくれ。きっとアインもその近くに居るはずだ」
「分かった」
俺の指示で出て行った影光と入れ替わるように教師や上級生の生徒たちがやってきた。
「皆さん、大丈夫ですか!今すぐ非難しますから私たちの誘導に従って下さい!」
統制の取れた動きだな。さすがは実力主義の帝国を代表する学園。生徒も十分レベルが高い。
ん?今聞き捨てならない台詞が聞こえたような気がしたんだが。
「シャルロットはこの劇を見るのは初めてじゃないのか?」
「キャストは違いましたけど、この劇自体は小さい時から何度も見てますよ」
「お嬢様はこの物語が好き過ぎて台詞をすべて言える程です」
「そ、それは凄いな」
そんなに見てるなら別に見なくて良いだろうに。俺が睡魔と格闘していたあの40分を返して欲しい気分だ。
劇を見終わった俺たちは接客すべく戦場へと戻った。
俺はこんな戦場は嫌だ!
王宮に戻ってきた俺は湯船に浸かって疲労回復に勤しみ、レティシアさんとエリーシャさんが作ってくれた料理を頬張って体力を蓄え、数日前から使っている客室のベッドで体力回復に努めた。
ま、簡単に言うなら風呂に入って飯を食べて寝たってだけだ。
今日で学園祭3日目が終了したんだ。残り2日これを切り抜けたら絶対に一週間は働かないからな。いや、一ヶ月だな。
10月18日木曜日。
学園祭4日目がやってきた。今日を終えれば明日で最後だ。これで俺の依頼も達成される。
ま、その前に。
「ジン君、早く次のお客様を案内して!」
「わ、分かった!」
と、今日も俺は接客に追われているわけだが。
俺も学生なら一週間の学園祭は大いに喜んだだろう。だがこうも毎日接客接客だと全然見て回れた気がしない。
ま、そんな学生ならなんて妄想をしている余裕なんて無いほど俺は新しい来客者の許に出向く。
「いらっしゃいま――」
教室の入り口で待機していたのはなんとアインと影光。それとアインに抱かれた銀が居た。
「なんでお前らがここに来てるんだ?」
「なに、俺たちのリーダーがどんな様子で働いているのか見に来ただけだ」
「私はマスターのためにちゃんとお金を稼いでいるか確認にきただけです」
ここの売り上げは俺には入らないぞ。
それよりも様子を見に来るなら普通初日か2日目だと思うんだが、なんで4日目なんだ?
「それでお前らは昨日まで何してたんだ?」
「拙者は色々な勝負のお店を回っていた」
「私は主にシューティング系のお店を回っていました」
「お前ら俺たちは依頼を受けている真っ最中って事を忘れてないよな?」
「「勿論」」
あやしい。マジで怪しい。
だけどこれで初日から噂になっていた和装姿の男とメイドがこの2人だって事は分かった。知りたくはなかったけど。
「ま、こっちの席で待っててくれ」
そう言って俺は空いている席に案内する。
水が入ったコップを2つテーブルに置いた俺は注文を取る。
「それで何を食べる?品数は少ないが」
「なら拙者はこのサンドイッチを」
「私はオレンジジュースを」
「分かった。ちょっと待っててくれ」
そう言って俺は料理をしている女子生徒の許まで向かう。
「注文を持ってきた。サンドイッチとオレンジジュースを一つずつ」
「分かったわ」
「ねぇねぇ、ジン君」
すると突然複数人の女子生徒が近づいてきて質問してきた。
「なんだ?」
「あの2人。メイドさんとヤマトの侍っぽい2人組みだけど、知り合いなの?」
「知り合いって言うか、同じギルドメンバーだ」
「あの2人も冒険者なの?」
「そうだ。メイドの方は俺と同じCランク冒険者。侍に至ってはSランク冒険者だ」
「本当に!?」
「ああ、俺が最近創設したギルドメンバーだ」
「って事はジン君がギルドマスターなの!?」
「そうだが?」
その言葉に驚きを隠せないと言った表情をする彼女たちだが、そんなに驚くことなのか?この国は沢山ギルドがあるんだから別に驚くような事でも無いと俺は思うんだが。
それよりも今は。
「ほら、それよりも仕事だろ。まだお客は居るんだからな」
『は~い』
そう言って彼女たちは接客に戻って行った。まったく俺は助っ人であってリーダーじゃないんだぞ。
などと思いながら俺は準備できた品を2人の許まで運ぶ。
「ほら、さっさと食べて仕事に戻ってくれ。見ての通り忙しいんだからな」
「分かってる。それよりもアインがある事に気がついたらしい」
「あること?」
どうせ下らない事だろう。と一瞬思ったが影光の表情があまりにも真剣だったので一応アインに視線を向けて、話すよう促す。
「2日目から不穏な魔力を感じていました。それは日に日に大きくなり今では少し無視できない程です」
「それは本当か?」
「はい」
俺としてはどうしてその情報をもっと早く伝えてくれなかったのか苛立ちを覚えそうになるが、この場でそんな事を議論するわけにもいかないのでグッと押し殺す。
「そして何よりその魔力。以前カゲミツがヨウショウと戦った時に現れた雑魚集団と同じ魔力を感じます」
「「なに!?」」
アインの口から知らされたとんでもない情報に俺と影光は大声を出してしまい周囲の注目を集めてしまう。ここじゃ拙いな。
「シャルロット、悪いが少し離れる。絶対にグレンダの傍から離れるなよ」
「は、はい」
「グレンダ悪いが少しの間任せた」
「お前に言われるまでも無い」
代金をテーブルに置いた影光たちと教室を出た俺は人気のない場所に移動した。
「で同じ種類と言うのはどういう事だ?」
「そのままの意味です。つまりあの薬がまたしても使われたと言う事でしょう」
「ふざけおって……」
藤堂陽宵を駄目にした薬。そして誑かしたであろう首謀者がまたしても行動を始めたと言う事か。
だがなんでこの学園でそんな事をするんだ?
陽宵の時は俺たちを皆殺しにするために準備していた物だと思っていた。だが今回は違う。
いったい首謀者はなんの目的でこんな事をするんだ?
いや、それよりも今は詳細な状況確認が先だ。
「それで数は」
「私が感じられる数は一体のみ。それも以前の時とは比べ物にならない量の薬を投与している可能性があります。もしもそんな奴が外に出たら……」
「間違いなく無差別殺人が起こるに決まっておる!」
影光の言うとおりだ。拙いなまさかそんな奴がこの学園に入っているなんて。だが待てよ。どうやってこの学園に入ったんだ?入場の検問はかなり厳しい筈だ。それを潜り抜けるだけの隠密能力を持っていると言う事か?
いや、あれは薬なんだ。入ってから投与することも可能……それはないか。検問は荷物検査や身体検査まで行うんだ。それで見つからないのはおかしい。となると……
「まさかこの学園に最初から居る奴なのか……」
「おい、ジンさすがにそれはない――」
「いえ、その男の言うとおりかもしれません。魔力を最初に感じた場所は北北東の方角。そしてその方向にあるのは学生寮です」
「お、おい学生寮ってまさか……」
「その可能性は十分にありえるかもしれません」
影光とアインが予想する最悪。そしてそれは俺の脳裏にも過ぎっている事だ。
まさか本当にありえるのかそんな事が。ただの学生が手に入れられる代物じゃない。まさかアイツも陽宵と同じく誑かされたのか。いやきっとそうに違いない。
「今すぐライアンに連絡す――」
『キャアアアアアァァ!』
「なんだ!?」
「この叫び声、シャルロットたちが開いているお店の方角からだ!」
俺たちは急いでシャルロットたち2年1組教室に向かった。
しかし廊下には尻餅をつく客や好奇心で一定の距離から囲むように一般人が集まって中々前に進めない。
クソッ!こんな時に。
俺は仕方なくジャンプして壁を蹴りながら教室前まで移動した。
と言うか俺だけでなくアインと影光も同じ方法で移動してきた。
まったく俺の仲間は頼りになるな。
そんな事を思いながらも俺たちは教室の中に入ると一人の男性が店の中で暴れていた。
怯える女子生徒たちは一箇所に集まっていた。その中にシャルロットの姿があり一瞬安堵した俺は頭を切り替えて女子生徒を庇うように警戒するグレンダに話しかける。
「おい、これはどういう事だ!」
「分からない。注文を聞きに女子生徒が近づいた瞬間突然苦しみだしたかと思ったら暴れだしたんだ!」
なんだそれ。急に苦しみだしたかと思ったら魔物ように暴れだしたってか。そんな事ありえるわけないだろ。って言いたいところだが目のまで現実に起きていることだからな、信じるしかないだろう。
それにこいつの目の色はマジでヤバイ。強膜までもが紫色の変色してやがる。まるでこいつら倉庫街で戦ったチンピラ連中と同じじゃねぇか。
「この魔力……」
「何か気がついたのか?」
驚き気味に呟いたアインに俺は暴れる男から視線を逸らすことなく聞く。
「あの男から例の魔力が膨れ上がっています」
「やっぱりそうだったのかよ」
「ですが、この感じ間違いなく以前戦った時に使用された物とは違います」
「それはどういう事だ?」
「間違いなく強化版。いえ、原液を投与された恐れがあります」
「原液ってそんなにヤバイのなか?」
「最悪の一言です。原液はたった一滴体内に入るだけで投与された人間の魔力を喰らい増殖します。その間投与された人間は殺戮衝動に襲われ暴れまわると言う最悪の薬です。普通はそれに少し手を加え魔力を喰らうのを抑え力だけを増幅すさせるドーピングですが、原液となるとこの後なにが起こるか私にも分かりません。それに最初投与された時は私でも感知するのは不可能です」
「つまりはコイツ以外にもこの学園内に入り込んでいる可能性があるって事だよな」
「はい」
最悪だ。もうこれはちょっとした事件どころ話じゃない。間違いなく何者かによる襲撃と考えるべきだ。
となるとコイツに時間を取られている場合じゃないな。
だけどその前に確かめておく必要がある。
「因みに原液を投与された人間を治す方法は?」
「ありません。薬自体がその者の魔力を喰らい尽くすまで続きます。そして全て食われた者はその力に体が耐えられなくなり穴という穴から血を噴き出して絶命します」
「分かった」
ったく沢山の目があるなかで殺すような事はしたくなかったんだが、そうも言ってられないか。
躊躇ってシャルロットや他のクラスメイト、一般人に被害が出たら最悪だからな。
「影光、ムカつくだろうが我慢してくれ。ここで殺傷沙汰はあんまりしたくない」
「分かっている。それにこの怒りはこの薬をばら撒いた張本人にぶつけるつもりだから安心しろ」
「その言葉が聞ければ十分だ!」
俺は0.6%の力で暴走する男の背後に回るとそのまま首の骨を折って絶命させた。
一瞬の出来事に何が起こったのか分からないと言うクラスメイトや一般人。ただ暴走していた男が突然倒れたように見えた事だろう。
俺はそんな周りの事など一旦忘れて指示を出す。
「影光はこの異常事態を冒険者組合に連絡して出来るだけ多くの冒険者を集めてくれ」
「分かった」
「アインはこの近くに薬を投与された奴が居ないか探してくれ」
「分かりました」
こう言う時文句を言わずに動いてくれるのは助かる。
「グレンダはボルキュス陛下に連絡して直ぐに軍を動かしてくれ。俺はライアンに連絡するから」
「分かった」
指示を出した俺は急いでライアンに異常事態を連絡する。これで暴走した奴が居ても直ぐに対処出来るだろう。
ゴオオオオオオオオォォォ!!!
突如として聞こえる破壊音と地震のような揺れ。
「なんだ!」
俺はそう思って窓から外を見てみると数十人の男女が学園内で暴走していた。まさに惨劇。パンデミックと言って良いぐらいだ。
「チッ!遅かったか!」
このままじゃ一般人に被害が出る。
一応上級生の冒険科と軍人教育科の生徒、そして教師たちが避難誘導をしているがそれでも巻き込まれて怪我をしたり、恐怖で動けなくなった一般人が目視できるだけでも何人か居る。いったい何のためにこんなことするんだよ!
「影光、今すぐ外の出店に行って暴走している奴らを討伐してくれ。きっとアインもその近くに居るはずだ」
「分かった」
俺の指示で出て行った影光と入れ替わるように教師や上級生の生徒たちがやってきた。
「皆さん、大丈夫ですか!今すぐ非難しますから私たちの誘導に従って下さい!」
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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