魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第五十七話 レイノーツ学園祭 ④

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「って、こいつ外で暴れている奴らと同じ!」
 教室の中央で倒れている暴走男の死体を見て警戒するが、

「それなら窓際に立っている青年が倒したよ」
 一般人の一人がそう言う。よく俺が倒したって分かったな。いや、倒れたとき奴の真後ろに立っていたんだから分かるか。

「これは君が倒したのか?」
「ああ、そうだ」
「いったい君は?」
「俺は鬼瓦仁。今は護衛の依頼でこの学園に来ている冒険者だ」
 俺はそう言って内ポケットからギルドカードを見せる。
 それを見せたことで話しかけてきた男性教師から警戒心が和らぐ。

「そうか。生徒たちを助けてくれてありがとう」
「なに、冒険者として行動しただけだ。それよりも早く彼女たちも非難させてやってくれ」
「ああ、そうだな」
 俺の言葉に男性教師は女子たちを急いで非難させて行く。
 さて、俺はシャルロットの護衛だな。

「シャルロット立てるか?俺とグレンダが守ってやるから一緒に非難しよう」
「いえ、私は大丈夫です。それよりもジンさんは早く他の人たちのために行って下さい」
「だが、それじゃ」
「避難訓練は何度も行っていますし、グレンダも居ます。それに私だけ特別扱いされるわけには行きません。私はクラスメイトのみんなと一緒に非難しますから。早く暴れている連中を倒して来てください!」
 真剣な眼差し。
 そう言えば最初シャルロットと会った時もこんな目をしていたな。自分が皇女様であることなんて関係ない。ただ一人でも多くの人を助けたい。巻き込みたくない。そういう優しさを持った少女。
 強き信念を持った皇女様。俺はそんなシャルロットに魅了されたんだったな。だからと言って惚れたわけじゃない。

「お父様には私から説明しますから悪いようにはならない筈です。ですから早く!」
「ああ、分かったよ。グレンダ悪いが任せるぞ」
「心配するな。私はお前よりもお嬢様の護衛歴は遥かに長いんだ」
「そうだったな、それじゃ行ってくる」
 軽く笑みを浮かべた俺はシャルロットと分かれた一人でも多くの敵を倒すべく走る。
 しかし思いのほか未だに取り残されている一般人や生徒が多くて思うように進まない。なら窓から飛び降りるか?いや、さっきシャルロットのお店に1人出たんだ。他にも居る可能性だってあるはずだ。
 俺はアイテムボックスからインカムを取り出して耳に装着する。念のために買っておいて良かった。

「おい、誰か聞こえるか?」
『ようやく繋がりましたか』
『リーダーの癖に遅いぞ!』
 俺の言葉にアインと影光が返事をしてくる。まさかもうインカムを付けているとは優秀な奴らだな。

「悪い悪い、少し手間取ってな。それよりも敵の規模は?」
『私が確認できただけでも凡そ250体』
「そんなに居るのか!?」
 俺の想像を遥かに超える数に驚きを隠せない。だってあたりまえだろ。ずば抜けた身体能力を持った無差別殺人鬼共が250人だぞ。それだけの数が暴れたらいったい何人の死傷者が出ることやら。

『室内に入り込んでいる敵は凡そ50体。それ以外は外で暴れています』
「対応しているのは?」
『教師と上級生と思われる生徒は避難誘導を行っており、戦闘に参加しているのは学園祭に来ていた軍人と冒険者のみ。その両方をあわせても400人程度。しかし一体一体の身体能力が高く苦戦を強いられている状況です』
 ちっ、思いのほか苦戦しているっぽいな。なら俺はまずする事は決まっている。

「俺は校舎内に潜んでいる奴を片っ端から倒して行く。その間影光は外の敵を倒しまくってくれ。アインがどこにいるか知らないが、そこから敵が見えるなら射殺しても構わない。それと平行して新たな敵を確認したら教えてくれ」
『分かった』
『まったく人使いが荒いですね』
 お前人じゃなくてサイボーグだろうが。
 ま、そんなツッコミは心の中だけにしておく口に出して万が一不機嫌になられたら困るからな。

「お前の能力を買って頼んでるんだよ」
『ゴミに褒められても嬉しくはありませんが仕方がありません。冒険者として依頼をこなすのはあたりまえですから』
 お前はもう少し素直になれないのか。いや、素直になったらもっと悪化しそうだから言わないでおこう。

「2人ともこれがフリーダム最初のギルド全員参加の依頼だ。張り切って討伐しろよ!」
『無論そのつもりだ!』
『貴方に言われるまでもありません』
 俺たちはそれぞれの役割を果たすべく行動を開始した。さあ見てろよ首謀者。お前の思い通りにはならないからな。
 俺は校舎内を走り回り敵を探す。
 だが案外敵を見つけるのに手間取る事はなかった。暴走する前の気配は普通の一般人と変わりないが、暴走した後の気配は殺意しか感じない禍々しいモノへと変貌していたからだ。

「シッ!」
 俺は気配探知で見つけ出した敵に近づき指突で殺して行く。
 教室の時とは違って時間が惜しいからな効率よく倒して行く。
 俺は見つけては殺しを繰り返して行く。

「これで30体目!」
 3階、4階、5階に居た敵は全て倒し終えた俺は2階まで降りて敵を倒して行く。
 それにしても不気味な奴らだ。見た目は人間なのに強膜は紫、色彩は赤、瞳孔は黒ってもう化け物じゃねぇか。いや薬で暴走した化け物か。
 それに中には薬の効き目が強いのか筋肉が肥大化する奴まで居る始末だ。
 まったく俺は確かに接客より戦闘の依頼の方が良いとは思ったが別に今望みを叶えなくても良いだろうに。
 そんな事を思いながらも俺は指突で殺して行く。
 頭、胸を指突で貫かれた敵は倒れて行く。
 そんな中俺の目の前でおかしな光景が起きていた。

「おいおい、そこまで分からないのかよ」
 呆れ半物、哀れみ半分の気持ちにさせられた。
 仕方が無いだろ。だって暴走した者同士が殺しあっているんだからよ。
 ガードも回避もしない。ただ力と力の殴り合い。
 廊下のど真ん中で殺り合っているのだから哀れみだって覚えるさ。
 ま、俺としては好都合だが、ただ殺意剥き出しで殺し合う二人の側頭部を指突で貫き殺す。
 これで残りは10体。
 気配から察する2階にはもう居ないな。残りは1階か。
 俺は急いで1階に下りる。しかしそこは惨劇会場だった。
 床や壁、そこら中に飛び散った血が付着し、幾つもの死体が転がっていた。

「地獄絵図だな……」
 その光景は昔と言うか7ヶ月前までは見ていた光景に近い。しかし倒れているのが魔物ではなく人間である事に俺は眉を顰められずにいられなかった。
 俺だって生きるためにこれだけの敵が居れば殺すだろう。だがなんの罪も無い一般人を無残に殺すのは俺の信念に反するんだよ!
 久々に頭に血が上る。
 それと一緒に勝手に力が解放されていく。駄目だ抑えろ。冷静になれ。
 それでも現在俺の力は2%まで上げっている。
 ま、この程度なら大丈夫か。
 頭は冷静にだけの心は怒りの炎を燃やし続けながら暴走する敵を殺して行く。
 確かにお前らは薬を投与された被害者なのかもしれない。だがそれでも俺はお前たちを許せない。だから俺はお前らを躊躇い無く殺す!
 心の中でそう叫びながら俺は1体、また1体と殺して行く。
 もう戦い方にも静けさはない。殴って殺し、蹴って殺し、叩き付けて殺す。

「これで最後!」
 そう叫びながら俺は残り1体の顔面を殴って殺す。
 歩くとピチャとどこか懐かしい足音を感じながら俺も外に出る。
 逃げ遅れた一般人が未だにそこら中に居る。いったい何人の一般人がこの学園祭に来てるんだ。
 それにしてもこれはパンデミックと言うよりバイオハザードに近い光景だ。

「ほんと何がしたいんだよ……」
 腹の底から煮えくり返るような怒りが言葉となって出てきた。
 こんなに怒りを覚えるなんてシャルロットを助けて以来か。いや、それ以上の怒りだ。イザベラを救出に行った時以来か。ま、どっちでも良いや。今は目の前のクソッタレ共を殺すだけだ。
 俺は目に見えた敵から殴り殺して行く。
 その度に近くに居た一般人にさっさと避難するように告げる。
 だけど250体は多すぎるだろ。
 俺は残り何体なのかアインに聞いてみる。

「アイン、残りどれぐらいだ?」
『そうですね。あれから増えては居ませんので残り130体と言った所でしょうか』
「そうか」
 まだ130体もいるのかよ。
 このままじゃ全部倒す前に被害が拡大しちまうぞ!

「キャアアアアアアアァァ!」
 耳に入ってきた叫び声に俺は即座に走り出す。そこには一人の女子生徒が今にも襲われそうになっていた。
 クソッこのままだと間に合わない!
 俺はそう思い制限している力を解放しようとしたが、その前に敵の頭が地面に転がった。

「まったく女性を襲うなんて愚か者にも程があるじゃろ」
「朧さん!」
 そこには着物を着崩して来ている妖艶な姿の朧さんとその後ろにスーツ姿の冒険者たちが何人も居た。

「冒険者組合から連絡で駆けつけてやったぞ」
「助かる!」
「なに、お主には兄弟子を助けて貰った恩があるからの。それに冒険者が依頼を受けて駆けつけるのは当然のことじゃ」
 笑みを浮かべながら黒い扇、いや、鉄扇を開いたり閉じたりする。

「ギルド夜霧の月、総勢60名が遣って来たから安心するがええ」
「ああ、助かる」
 朧さんの姿とは対比的に統率の取れたスーツ姿の冒険者たち。中には強い連中も数人いた。きっとAランクかSランク冒険者だろう。

「D、Cランクの者たちは一般人の救助にあたれ。それ以外の者たちはこの愚か者どもを討伐するのじゃ!」
『ハッ!』
 朧さんの指示に全員が迅速に行動を開始した。
 救助を行う冒険者たちは3人1組でバラバラに散らばり、討伐を行う奴らは5人一組になって敵と戦闘を始めた。
 一気に加速する救助活動と討伐。これで少しは被害が少なくなるだろう。

「それにしても仁は1人なのかえ?」
「ああ、俺はさっきまで校舎内に居た奴らを殺してたからな。影光は外で戦っているしアインはどこに居るか分からないが、敵の数を俺と影光に教えながら敵を射殺しているだろうよ」
「つまりは同じギルドでありながら別々に行動していると」
「そういう事だ」
「まったくわっちがギルド名を考えたにしてはフリーダム過ぎぬか?」
「連携はまだ試してもないから、個々の実力は確かだからな。なら別々に行動したほうが効率が良いと思っただけだ」
「なるほどの。適材適所ってやつじゃの」
「まあな。それよりも冒険者は朧さんたちだけか?」
「いんや、他にもギルド連中が来て救助と討伐を開始しておるよ。ほら」
 鉄扇で指した方向で見たことが無い冒険者たちが討伐、救助を行っていた。

「わっちが見る限り、冒険者組合からの連絡を受けて動いたのは全部で50以上のギルド、人数にして800人と言ったところじゃの」
「800人……それだけ居れば直ぐにでも収束するな」
『いえ、それは難しいと思いますよ』
「なに?」
 突然インカムからアインが否定してくる。

「それはどういう事だ?」
『男子寮に居たはずのストーカー男の行方が分からなくなりました』
「なに!?」
 俺の声に朧さんが一瞬目を見開ける。そして直ぐに察したのか鋭い視線となる。

「おい、それはどういう事だ。お前でも分からないのか?」
『はい。今はいっさいの魔力を感じません。あれだけの魔力量であれば制御するのも難しいはず。なのにこの私ですら探知が無理となるとストーカー男が思いのほか魔力制御に長けていたか、もしくは何らかの方法で魔力を隠していると言う事になります』
 なんらかの方法ってなんだよ。
 まさかストーカー野郎本人がアインでも探知不可能な程の魔力制御装置を作り出したとでも言うのか?それこそありえないだろ。
 となると考えられるのは……

「首謀者が手を貸しているって事は無いか?」
『それは高確率でありえる話です。と言うよりもそれしか無いでしょう。コソコソとカメラでしか見ることしか出来ないような臆病者にそんな装置作れる筈がありません。貴方以上のゴミ虫ですね』
 最後の言葉は余計だろ。
 だがそうなると奴は……
 と考え込んでいると突然ポケットに入れていたスマホの着信音がなる。ったくこんな時に誰だよ。
 そんな苛立ちを覚えながら電話に出る。

「もしもし、悪いが今は忙しいんだ。だから後で――」
『ジン……』
「その声……まさかグレンダか?」
『そうだ………それよりも……すまない……お嬢様を……ストーカー男に……攫われてしまった』
 辛そうな声音で伝えられた言葉に俺は一瞬思考停止するのだった。
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