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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第五十八話 レイノーツ学園祭 ⑤
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「詳しく説明してくれ」
お前が居ながら何してるんだ!って言いたいところだが、あのグレンダがこの俺に電話を掛けてくる事なんて自分のプライドが許さないはずだ。それなのに電話をして来たって事はそれだけシャルロットを想っているだけでなく、自分が動けないって事なんだろう。
「突然、私たちの前に現れたかと思えば……私は一瞬で殴り飛ばされてしまったんだ。まったく何がお嬢様の護衛だ!情けないったらありゃしない!だから頼む!もうお前にしか頼めないんだ!どうかお嬢様を……シャルロットお嬢様を助けてくれ、ジン!」
シャルロットを守れなかった。助けにも行けない。そんな己の弱さに怒りと悔しさ交じりの懇願する叫び声。
プライドが高く堅物なグレンダが、ここまで俺に頼み込むことなんてもう二度とないだろう。
それだけグレンダは覚悟を決めている証拠だ。そしてそれはスマホ越しでも十分に俺の心に伝わってきた。
「ああ、任せろ。その願い、俺が必ず叶えてやる!」
グレンダの願いに呼応するように腹の底から湧き上がる不思議な気持ちが力強い言葉となって出てきた。
スマホを切った俺はポケットにしまう。
「仁、何かあったのか?」
「ちょっとな」
ここで本当の事を話しても良かった。だがそれを話せばグレンダの醜態を教えることになる。あれだけシャルロットを護衛することに誇りと信念を燃やしていた女の醜態を晒す事なんて俺には出来ない。それが信頼出来る相手であったとしても。
「朧さん、悪いがここは任せて良いか?」
「お主はどうするのじゃ?」
「なに、少しムカつく野郎を殴り飛ばしに行くだけさ」
俺はそう告げると5%まで上げて走った。
居場所なんて分からない。なら今すぐ探し出せば良いだけの話だ。
気配探知を密にして探す。
ストーカー野郎の気配なんて分からない。だがシャルロットの気配なら嫌でも分かる。
だから、
「見つけた」
シャルロットは学園の南南東にある演習場の中に居た。どうしてそんな場所に居るのかは分からない。だがその場所なら周りに被害を出す心配もないから遠慮なくストーカー野郎をぶっ飛ばせる。
周りでは未だに戦闘している姿が目に入るが、そんなのはどうでも良い。今すべき事はシャルロットを助ける事だ。
「アイン、影光、緊急事態だ。悪いが雑魚共の相手は任せたぞ」
『仁、どういう事だ?』
『私たちにも分かるように説明してください』
「……シャルロットが攫われた」
『『っ!』』
本当は伝えたくなかったが、仲間に伝えないわけにはいけない。
だから正直に話した。悪いな、グレンダ。
「俺は今からシャルロットを助けに行ってくる。お前らはその間雑魚を倒しておいてくれ」
『分かりました』
『仁が戻って来るまでには全て倒しておくとしようかの』
「ふふ、それは心強いな」
信頼できる仲間たちは自信にたっぷりに背中を押してくれた。それだけで俺は何も考える事無くシャルロットを助け出せる。
南南東にある演習場に僅か5分足らずで到着した俺は扉を開けて中に入る。
一般人の気配どころか学園祭で使われた形跡もない。ま、校舎から遠いからな。
普段一般人が学園に入ることは許されない。しかし学園祭の時だけは入る事が許される。
だが、一般人が自由に行動できる範囲は学園のほんの一部だけ。
つまり俺が今居る演習場はその範囲の外と言う訳だ。
立派な演習場だが人が居なければ静かで寂しいだけの空間。
「よ、このストーカー野郎。シャルロットを返して貰うぞ」
俺はそんな寂しい空間に連れ去られ涙目を浮かべるシャルロットと不敵な笑みを浮かべる少年に近づく。
よし、まだ傷つけられていないな。
シャルロットの姿を見てそう思ったが、もしも傷つけられていたら自分が何をするか分からなくなっていた事に安堵していた。
「誰がストーカー野郎だ!僕はシャルロットの彼氏だぞ!」
こいつは何を言ってるんだ?
これはあれか?ニュースなんかでたまに聞く妄想と現実が区別できなくなっているとか言う。
だからって皇女を誘拐するか普通。
スヴェルニ王国で王族を殴った俺が言うのも変な話だが、皇女を誘拐って重罪だぞ。
ま、そこら辺の事はボルキュス陛下たちに任せるか。俺はあのストーカー野郎を殴り飛ばすだけだ。
「なら何で彼氏が護衛を殴り飛ばすんだ?」
「アイツは僕がシャルロットに送ったプレゼントを毎回最初に開けるんだ!護衛だからって調子に乗りやがって!」
まぁ、護衛だからな。
彼氏でもない、ましてや誰からの贈り物なのか分からない物が机の中や下駄箱に入っていたらグレンダが最初に確認するだろ。
この男の支離滅裂な発言に怒りを通り越して呆れてしまう。
「それよりも一番ムカつくのはお前だ!いきなり学園に現れたかと思えば僕のシャルロットに近づきやがって」
「俺は護衛だぞ。シャルロットの傍に居るのは普通だろうが」
コイツは馬鹿なのか?いや、馬鹿だな。
「何が護衛だ!そんな嘘が僕に通じるわけないだろ!」
「いや、嘘じゃな――」
「嘘なんかじゃありません!ジンさんは本当に私の護衛なんです!」
ストーカー少年の言葉を否定しようとしたら、それを遮るようにシャルロットに先に言われてしまった。
だがその事がストーカー少年には信じられない事だったんだろう。
驚きの表情を浮かべてゆっくりとシャルロットの頬に触れようとする。
「ど、どうしてシャルロットまでそんな嘘を言うんだい。僕は君の事をこんなにも愛しているのに。君だって同じの筈だ。シャルロットも僕のことを愛しているよね?」
「いえ、私は貴方の事を愛してなんかいません!それにこんな事をするような人を好きになるはずありません!」
ハッキリと面を向かって言う。
その言葉がストーカー少年の心にグサりと刺さったのか触れる手を止める。
「ど、どうして君がそんな事を言うんだい?そうか、あの男に騙されてるんだね」
「いったい貴方は何を……」
そんなシャルロットの言葉は無視してストーカー少年は強烈な殺意を俺に向けてくる。
これが薬が影響しているせいなのかは分からない。だがこれほどまでの殺意を感じるのは久々だ。
「よくも、よくも僕のシャルロットを洗脳してくれたな!」
「だからお前のシャルロットじゃねぇだろうが」
「うるさい!僕とシャルロットは心から愛し合ってるんだ!後から来たお前が出しゃばるな!」
そう叫ぶとストーカー少年は俺目掛けて地面を蹴った。
所詮は薬で強くなっただけの少年と思っていたが、そのスピードは俺の想像を遥かに超えるものだった。
少し油断していたのもある。
そのためか反応が遅れた俺は躱す事は出来ずどうにか防ぐ事しか出来なかった。
「くっ!」
だが、その身からは考えられない威力のパンチは俺を後方の壁まで吹き飛ばす。
交差した腕に走る強烈な鈍痛と壁に激突した瞬間背中にも同じ痛みが走る。
「あはは、やはり所詮はCランクの冒険者だな。他の国で王族を殴り飛ばした悲劇の騎士なんて言われて調子に乗るからこんな酷い目に合うんだ!」
痛てて。久々に良いのを貰ってしまったな。
舞い上がる土煙の中から俺は立ち上がる。
「それに帝国は実力主義だ。そして女性も強い男が好きなんだ。つまりお前より強い僕こそがシャルロットに相応しいんだ!」
未だに周囲を漂う土煙で互いの姿は見えない。しかし俺にはハッキリとストーカー少年の気配で居場所が分かる。
あ~あ。
俺は壊れた壁を見てやってしまったと思う。
壁に視線を向けていたらゆっくりと土煙が晴れて行く。
「おいおい、この壊れた壁の修理費、誰が出すと思ってるんだ」
「ば、馬鹿な……」
俺は1RKも出さないからな。
そんな俺の思いなど知る由も無いストーカー少年は驚愕の表情を浮かべていた。
どうして驚いているのか分からない。
「まさかこの程度で俺がやられたとでも思ったのか?」
相手を挑発するように言う。
そして俺の予想通りストーカー少年は怒りで顔を歪める。
「ふざけるな!それに僕の本気はこんなものじゃない!」
怒号を喚き散らすかすように言ってくる。
それで良い。それが俺の望みだ。
「なら見せてみろよ、ガキ」
「くっ!後悔するなよ!」
「それはこっちの台詞だ!」
再び地面を蹴ったストーカー少年は俺目掛けて右の拳で殴ってくる。
しかし、なっちゃいない。
確かに薬の影響でそのスピードはとんでもないくらいに速い。だが大振りだし隙だらけだ。
今度は油断する事無くストーカー少年の攻撃を躱してからカウンターの一撃を腹部に叩き込む。
「ぐはっ!」
強烈な一撃にストーカー少年は強烈な鈍痛に加え、肺に溜め込んでいた空気を全て吐きながら後ろに吹き飛ばされる。さっきのお返しだ。
後方の壁までに激突することは無かったが、地面を何度も跳ねる。その度に土煙が上がり気がつけば一匹の龍のようになっていた。
「ゲホッ、ゲホッゲホッ!」
「どうした?もう終わりか?やはり所詮はストーカーだな」
「う、煩い!僕はまだ戦える!」
なんとも台詞だけ聞いていれば俺の方が悪役に思えてくる。あっちが悪者なんだよな?
一瞬分からなくなりそうになったがシャルロットの姿を見て改めて再確認する。まだ肉体年齢19歳なのにもう認知症が始まったかと思ったぞ。
ま、そんな冗談はさておき、これでグレンダを殴ってくれた借りは返した。
「ここからは俺がやりたいようにやらせて貰うからな!」
そう叫んだ俺は立ち上がったばかりのストーカー野郎目掛けて接近する。
まだ鈍痛が響いているのか先ほどまでの俊敏さが無い。
ま、このストーカー野郎は冒険科や軍人教育科の生徒じゃない。技術科の生徒だ。つまりは戦いに関してはまったくのド素人。そんな奴が俺に勝てるわけがない!
そう思ってストーカー男の顔面目掛けて拳を振り下ろしたが、予想外なことに奴は俺の一撃を躱してきやがった。
おいおいマジかよ。
そう思った時には奴の蹴りが俺に直撃していた。
こんどは蹴り飛ばされた俺は地面を滑りながら止まる。
いったいどうなってんだ。さっきよりも強烈な一撃だぞ。まさかさっきよりも強くなっているなんて言わないよな。
ま、どっちでも良い。俺は早くシャルロットを助けないといけないんだ。
気がつくとさっき殴られた時にでも切れたんだろう。口の端から血が垂れていた。
「僕こそがシャルロットに相応しいんだ!」
そんな戯言を大声で叫ぶ。こいつ何言ってるんだ?
何故かは分からない。だが以上に腹が立った。
「お前がシャルロットに相応しいって。ふざけるなよ。お前ほどシャルロットに相応しくない男はいねぇよ」
「煩い!お前に何が分かる。この見た目でいつも周りに馬鹿にされ、少し良い成績を取れば影でコソコソと言われる僕の気持ちなんて分からないだろうが!だけどシャルロットは違う。こんな僕にでも優しく接してくれた。それは僕の彼女だからだ!僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の彼女なんだ!だからシャルロットに相応しい男になるために僕は力を手に入れたんだ!もうこれで邪魔する奴はいない。後はお前を殺し、そして僕を馬鹿にした奴らに制裁を加えれば僕とシャルロットは幸せになれる!」
憎しみと怒りで顔を歪めたかと思えば今度は優越感に浸る気持悪い笑みを浮かべる。
本当に馬鹿だろコイツ。
「何が相応しいだ。何が彼女だ!ならお前は一度でもシャルロットの事を考えた事があるのか?シャルロットの気持を知ろうと行動したことがあるのかよ!」
「そ、それは……」
「ねぇだろうが!そう言うのはな。ただの身勝手って言うんだよ!」
「う、うるさい!ならお前に僕の何が分かるって言うんだ!」
「分かるかボケ!それにお前みたいな奴の気持ちなんて知りたくもないわ!ただ俺は大切なシャルロットを助けに来ただけだ!お前みたいなクズ野郎ぶっ飛ばしに来ただけだ!」
気がつけば俺は叫んでいた。怒りに任せて叫んでいた。だがそれほどまでに目の前のこのストーカー野郎がムカつくのだ。
お前が居ながら何してるんだ!って言いたいところだが、あのグレンダがこの俺に電話を掛けてくる事なんて自分のプライドが許さないはずだ。それなのに電話をして来たって事はそれだけシャルロットを想っているだけでなく、自分が動けないって事なんだろう。
「突然、私たちの前に現れたかと思えば……私は一瞬で殴り飛ばされてしまったんだ。まったく何がお嬢様の護衛だ!情けないったらありゃしない!だから頼む!もうお前にしか頼めないんだ!どうかお嬢様を……シャルロットお嬢様を助けてくれ、ジン!」
シャルロットを守れなかった。助けにも行けない。そんな己の弱さに怒りと悔しさ交じりの懇願する叫び声。
プライドが高く堅物なグレンダが、ここまで俺に頼み込むことなんてもう二度とないだろう。
それだけグレンダは覚悟を決めている証拠だ。そしてそれはスマホ越しでも十分に俺の心に伝わってきた。
「ああ、任せろ。その願い、俺が必ず叶えてやる!」
グレンダの願いに呼応するように腹の底から湧き上がる不思議な気持ちが力強い言葉となって出てきた。
スマホを切った俺はポケットにしまう。
「仁、何かあったのか?」
「ちょっとな」
ここで本当の事を話しても良かった。だがそれを話せばグレンダの醜態を教えることになる。あれだけシャルロットを護衛することに誇りと信念を燃やしていた女の醜態を晒す事なんて俺には出来ない。それが信頼出来る相手であったとしても。
「朧さん、悪いがここは任せて良いか?」
「お主はどうするのじゃ?」
「なに、少しムカつく野郎を殴り飛ばしに行くだけさ」
俺はそう告げると5%まで上げて走った。
居場所なんて分からない。なら今すぐ探し出せば良いだけの話だ。
気配探知を密にして探す。
ストーカー野郎の気配なんて分からない。だがシャルロットの気配なら嫌でも分かる。
だから、
「見つけた」
シャルロットは学園の南南東にある演習場の中に居た。どうしてそんな場所に居るのかは分からない。だがその場所なら周りに被害を出す心配もないから遠慮なくストーカー野郎をぶっ飛ばせる。
周りでは未だに戦闘している姿が目に入るが、そんなのはどうでも良い。今すべき事はシャルロットを助ける事だ。
「アイン、影光、緊急事態だ。悪いが雑魚共の相手は任せたぞ」
『仁、どういう事だ?』
『私たちにも分かるように説明してください』
「……シャルロットが攫われた」
『『っ!』』
本当は伝えたくなかったが、仲間に伝えないわけにはいけない。
だから正直に話した。悪いな、グレンダ。
「俺は今からシャルロットを助けに行ってくる。お前らはその間雑魚を倒しておいてくれ」
『分かりました』
『仁が戻って来るまでには全て倒しておくとしようかの』
「ふふ、それは心強いな」
信頼できる仲間たちは自信にたっぷりに背中を押してくれた。それだけで俺は何も考える事無くシャルロットを助け出せる。
南南東にある演習場に僅か5分足らずで到着した俺は扉を開けて中に入る。
一般人の気配どころか学園祭で使われた形跡もない。ま、校舎から遠いからな。
普段一般人が学園に入ることは許されない。しかし学園祭の時だけは入る事が許される。
だが、一般人が自由に行動できる範囲は学園のほんの一部だけ。
つまり俺が今居る演習場はその範囲の外と言う訳だ。
立派な演習場だが人が居なければ静かで寂しいだけの空間。
「よ、このストーカー野郎。シャルロットを返して貰うぞ」
俺はそんな寂しい空間に連れ去られ涙目を浮かべるシャルロットと不敵な笑みを浮かべる少年に近づく。
よし、まだ傷つけられていないな。
シャルロットの姿を見てそう思ったが、もしも傷つけられていたら自分が何をするか分からなくなっていた事に安堵していた。
「誰がストーカー野郎だ!僕はシャルロットの彼氏だぞ!」
こいつは何を言ってるんだ?
これはあれか?ニュースなんかでたまに聞く妄想と現実が区別できなくなっているとか言う。
だからって皇女を誘拐するか普通。
スヴェルニ王国で王族を殴った俺が言うのも変な話だが、皇女を誘拐って重罪だぞ。
ま、そこら辺の事はボルキュス陛下たちに任せるか。俺はあのストーカー野郎を殴り飛ばすだけだ。
「なら何で彼氏が護衛を殴り飛ばすんだ?」
「アイツは僕がシャルロットに送ったプレゼントを毎回最初に開けるんだ!護衛だからって調子に乗りやがって!」
まぁ、護衛だからな。
彼氏でもない、ましてや誰からの贈り物なのか分からない物が机の中や下駄箱に入っていたらグレンダが最初に確認するだろ。
この男の支離滅裂な発言に怒りを通り越して呆れてしまう。
「それよりも一番ムカつくのはお前だ!いきなり学園に現れたかと思えば僕のシャルロットに近づきやがって」
「俺は護衛だぞ。シャルロットの傍に居るのは普通だろうが」
コイツは馬鹿なのか?いや、馬鹿だな。
「何が護衛だ!そんな嘘が僕に通じるわけないだろ!」
「いや、嘘じゃな――」
「嘘なんかじゃありません!ジンさんは本当に私の護衛なんです!」
ストーカー少年の言葉を否定しようとしたら、それを遮るようにシャルロットに先に言われてしまった。
だがその事がストーカー少年には信じられない事だったんだろう。
驚きの表情を浮かべてゆっくりとシャルロットの頬に触れようとする。
「ど、どうしてシャルロットまでそんな嘘を言うんだい。僕は君の事をこんなにも愛しているのに。君だって同じの筈だ。シャルロットも僕のことを愛しているよね?」
「いえ、私は貴方の事を愛してなんかいません!それにこんな事をするような人を好きになるはずありません!」
ハッキリと面を向かって言う。
その言葉がストーカー少年の心にグサりと刺さったのか触れる手を止める。
「ど、どうして君がそんな事を言うんだい?そうか、あの男に騙されてるんだね」
「いったい貴方は何を……」
そんなシャルロットの言葉は無視してストーカー少年は強烈な殺意を俺に向けてくる。
これが薬が影響しているせいなのかは分からない。だがこれほどまでの殺意を感じるのは久々だ。
「よくも、よくも僕のシャルロットを洗脳してくれたな!」
「だからお前のシャルロットじゃねぇだろうが」
「うるさい!僕とシャルロットは心から愛し合ってるんだ!後から来たお前が出しゃばるな!」
そう叫ぶとストーカー少年は俺目掛けて地面を蹴った。
所詮は薬で強くなっただけの少年と思っていたが、そのスピードは俺の想像を遥かに超えるものだった。
少し油断していたのもある。
そのためか反応が遅れた俺は躱す事は出来ずどうにか防ぐ事しか出来なかった。
「くっ!」
だが、その身からは考えられない威力のパンチは俺を後方の壁まで吹き飛ばす。
交差した腕に走る強烈な鈍痛と壁に激突した瞬間背中にも同じ痛みが走る。
「あはは、やはり所詮はCランクの冒険者だな。他の国で王族を殴り飛ばした悲劇の騎士なんて言われて調子に乗るからこんな酷い目に合うんだ!」
痛てて。久々に良いのを貰ってしまったな。
舞い上がる土煙の中から俺は立ち上がる。
「それに帝国は実力主義だ。そして女性も強い男が好きなんだ。つまりお前より強い僕こそがシャルロットに相応しいんだ!」
未だに周囲を漂う土煙で互いの姿は見えない。しかし俺にはハッキリとストーカー少年の気配で居場所が分かる。
あ~あ。
俺は壊れた壁を見てやってしまったと思う。
壁に視線を向けていたらゆっくりと土煙が晴れて行く。
「おいおい、この壊れた壁の修理費、誰が出すと思ってるんだ」
「ば、馬鹿な……」
俺は1RKも出さないからな。
そんな俺の思いなど知る由も無いストーカー少年は驚愕の表情を浮かべていた。
どうして驚いているのか分からない。
「まさかこの程度で俺がやられたとでも思ったのか?」
相手を挑発するように言う。
そして俺の予想通りストーカー少年は怒りで顔を歪める。
「ふざけるな!それに僕の本気はこんなものじゃない!」
怒号を喚き散らすかすように言ってくる。
それで良い。それが俺の望みだ。
「なら見せてみろよ、ガキ」
「くっ!後悔するなよ!」
「それはこっちの台詞だ!」
再び地面を蹴ったストーカー少年は俺目掛けて右の拳で殴ってくる。
しかし、なっちゃいない。
確かに薬の影響でそのスピードはとんでもないくらいに速い。だが大振りだし隙だらけだ。
今度は油断する事無くストーカー少年の攻撃を躱してからカウンターの一撃を腹部に叩き込む。
「ぐはっ!」
強烈な一撃にストーカー少年は強烈な鈍痛に加え、肺に溜め込んでいた空気を全て吐きながら後ろに吹き飛ばされる。さっきのお返しだ。
後方の壁までに激突することは無かったが、地面を何度も跳ねる。その度に土煙が上がり気がつけば一匹の龍のようになっていた。
「ゲホッ、ゲホッゲホッ!」
「どうした?もう終わりか?やはり所詮はストーカーだな」
「う、煩い!僕はまだ戦える!」
なんとも台詞だけ聞いていれば俺の方が悪役に思えてくる。あっちが悪者なんだよな?
一瞬分からなくなりそうになったがシャルロットの姿を見て改めて再確認する。まだ肉体年齢19歳なのにもう認知症が始まったかと思ったぞ。
ま、そんな冗談はさておき、これでグレンダを殴ってくれた借りは返した。
「ここからは俺がやりたいようにやらせて貰うからな!」
そう叫んだ俺は立ち上がったばかりのストーカー野郎目掛けて接近する。
まだ鈍痛が響いているのか先ほどまでの俊敏さが無い。
ま、このストーカー野郎は冒険科や軍人教育科の生徒じゃない。技術科の生徒だ。つまりは戦いに関してはまったくのド素人。そんな奴が俺に勝てるわけがない!
そう思ってストーカー男の顔面目掛けて拳を振り下ろしたが、予想外なことに奴は俺の一撃を躱してきやがった。
おいおいマジかよ。
そう思った時には奴の蹴りが俺に直撃していた。
こんどは蹴り飛ばされた俺は地面を滑りながら止まる。
いったいどうなってんだ。さっきよりも強烈な一撃だぞ。まさかさっきよりも強くなっているなんて言わないよな。
ま、どっちでも良い。俺は早くシャルロットを助けないといけないんだ。
気がつくとさっき殴られた時にでも切れたんだろう。口の端から血が垂れていた。
「僕こそがシャルロットに相応しいんだ!」
そんな戯言を大声で叫ぶ。こいつ何言ってるんだ?
何故かは分からない。だが以上に腹が立った。
「お前がシャルロットに相応しいって。ふざけるなよ。お前ほどシャルロットに相応しくない男はいねぇよ」
「煩い!お前に何が分かる。この見た目でいつも周りに馬鹿にされ、少し良い成績を取れば影でコソコソと言われる僕の気持ちなんて分からないだろうが!だけどシャルロットは違う。こんな僕にでも優しく接してくれた。それは僕の彼女だからだ!僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の彼女なんだ!だからシャルロットに相応しい男になるために僕は力を手に入れたんだ!もうこれで邪魔する奴はいない。後はお前を殺し、そして僕を馬鹿にした奴らに制裁を加えれば僕とシャルロットは幸せになれる!」
憎しみと怒りで顔を歪めたかと思えば今度は優越感に浸る気持悪い笑みを浮かべる。
本当に馬鹿だろコイツ。
「何が相応しいだ。何が彼女だ!ならお前は一度でもシャルロットの事を考えた事があるのか?シャルロットの気持を知ろうと行動したことがあるのかよ!」
「そ、それは……」
「ねぇだろうが!そう言うのはな。ただの身勝手って言うんだよ!」
「う、うるさい!ならお前に僕の何が分かるって言うんだ!」
「分かるかボケ!それにお前みたいな奴の気持ちなんて知りたくもないわ!ただ俺は大切なシャルロットを助けに来ただけだ!お前みたいなクズ野郎ぶっ飛ばしに来ただけだ!」
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