魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第六十二話 レイノーツ学園祭 ⑨

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 その日の夕方俺はイオの運転でレイノーツ学園に来ていた。
 別に忘れ物や調べたいことがあるからじゃない。シャルロットの護衛として来たのだ。
 そう、これから後夜祭が行われるのだ。
 この学園は驚くことに校舎、演習場、射撃場、劇場だけでなく、パーティーが行える建物まである。
 勿論体育館のような場所じゃない。まるで舞踏会にでも来たかのような場所だ。
 てっきり俺はキャンプファイアーを囲みながらフォークダンスでも踊るのかと思っていたが、どうみてもこれは学生中心による立食パーティーのようだ。さすがは貴族が通う学園。
 だからと言って服装はドレスやスーツじゃなく、普段着ている学園の制服だけど。
 それにしてもすごい人数だな。
 この会場の広さは演習場以上の広さだ。
 ま、全校生徒が集まっているのだから当たり前と言えば当たり前か。

「飲み物をどうぞ」
「お、悪いな」
 周囲を見ているとシャルロットがグラスに入ったアップルジュースを手渡してくる。
 立食パーティーとはいえ、未成年が大半の後夜祭じゃお酒は出されないよな。ま、仕事中だし飲むわけにはいかないけど。
 お酒が恋しい気分になりつつも俺は気配探知で周囲を確認するが、殺意や悪意を持った連中はいないな。
 ま、敵意を感じないこともないが、それはシャルロットではなく俺に対するモノだ。美男美女が通うこの学園の中でもトップレベルの美少女であるシャルロットの傍に居れば男子生徒どもはあんまり良い気はしないだろうからな。
 同じクラスメイトたちと楽しそうに話すシャルロットから3メートル離れた場所に立つ俺。本当ならもう少し近づくべきなんだろうが、それだとシャルロットが楽しく離せないだろうからな。
 と、思っているとシャルロットたちの視線が俺の方に向けられる。ん?何か忘れ物でもしたのか?
 視線を向けたかと思えばシャルロットたちが近づいて来る。

「何か問題でも起きたか?」
「いえ。一人だとつまらないかと思いまして」
「別にシャルロットが気を使わなくても良いんだぞ。俺は依頼を受けているだけだしな」
「そ、それはそうですが……」
 なんでそんな悲しそうな顔をするんだ。俺変な事でも言ったか?

「それよりもジン君話聞かせてよ!」
 この場の空気を変えるように一人の女子生徒が話しかけてくる。

「話って何をだ?」
 だけどいきなり話を聞かせてくれって言われても何を話せば良いのか分からないんだが。

「それは勿論、ジン君の強さの秘密だよ。あの暴走した男を一瞬で倒しちゃうんだよ。いったいどうすればそれだけ強くなれるのか気になるじゃんか」
「別に話すのは構わないが、なんでそんなに知りたいんだ?」
「私ねお兄ちゃんが居るんだけど、今冒険者として活動してるんだ。で、昨日の夜ジン君の話したら凄く驚いてたんだ?」
「驚いてた?」
 確かに学園に冒険者が居たら驚くかもしれないど。昨日は学園祭だから居てもおかしくは無いと思うんだが。
 いや、俺がシャルロットの護衛として学園に来ているとでも言ったのかもしれないな。なら驚くのは無理はないが。

「うん。だってジン君たった二ヶ月足らずでCランクにまで昇級した期待のルーキーなんて言われてるんだよね。で、そんな噂のルーキーがシャルの護衛してたら驚くよ」
「ああ、なるほどな」
 確かにそれは驚くかもしれないな。
 だけど一つだけ過ちがあった。いや、犯したと言うべきだろう。
 その話を耳にした女子たちが騒ぎ出し、それを耳にした他の生徒たちにまで情報は広がり、僅か数分足らずで生徒たちの視線が一箇所に集中する事になってしまった。
 拙い。これは非常に拙い。
 好奇心、妬み、怒りと言う感情の視線が俺に向けられる。頼むから止めてくれ。人酔いしそうだ。

「それでどうやって強くなったの?」
「別に大した事はしてないぞ。訓練したり、実戦で経験を積んだりと他の冒険者と変わらないと思うぞ」
「ウソだぁ~。絶対に秘密の特訓や方法とか知ってるでしょ」
「いや、本当に無いんだが……」
 目を輝かせるシャルロットのクラスメイトたち。
 まいった。好奇心旺盛な女子生徒ほど厄介なものはないと俺はこの時思い知らされた。

「本当に何かないの?」
「だからさっきからそう言って……」
「ん?どうかしたの?」
「一つだけあったな」
「え!本当に。何々、教えて!」
 俺の言葉に全員が好奇心を膨らませる。
 そんな大したことじゃない。と言うよりもこれは強くなる方法ではあるが、どちらかと言えば早く昇級する方法と言うべき無いようだ。
 そんな俺の言葉に興味を示す女子生徒だが、よく見ると聞き耳を立てた冒険科の生徒が俺たちを囲むように集まっていた。そんなに気になるのか。

「それでどんな方法なの?」
「冒険科の生徒なら当たり前のように知っていると思うが学園を卒業、もしくは冒険者試験を合格した冒険者は必ずどこかのギルドに入る。別に入る必要は無いが、そっちの方が確実に依頼をこなせるし、選べる依頼も多い」
 俺の言葉に、そうなんだ。って表情を浮かべる普通科の生徒たちとそれぐらい知っているって表情をする冒険科の生徒たち。

「そしてギルドに入れば同じギルドメンバーの先輩や同期たちと一緒に依頼を受けることになる」
「それで?」
「まずギルドに入った冒険者のメリットを教えておく。一つはさっきも言ったけど受けられる依頼の数が全然違う。Gランクに関してはフリーであろうがギルドに入っていようが関係ないが、Fランク以上の大半が複数人による、つまりパーティーでの依頼ばかりだ。だからギルドに入っている冒険者の方が受けられる依頼は多いし、何より先輩の冒険者から色々な事を教えて貰える事が出来る」
「それ私もお兄ちゃんから聞いたわ。大半がギルド向けの依頼なのは死亡率を下げるためだって」
「その通りだ。強い魔物が出現したとして、フリーの冒険者が挑めば死ぬ危険性がある。だが同じランクでもパーティーならば連携して倒せる分死ぬ危険性だって低い。それはお互いに助け合う事が出来るからだ。他には武器のメンテナンス料や保険の支払いなんかを自己負担ではなくギルドがしてくれるところだってある。勿論それは全てのギルドがそうしているわけじゃないがな」
 そんな俺の言葉に興味津々に話を聞く生徒たち。なんで立食パーティーで外部講師みたいな事をしてるんだ?

「それじゃ、ギルドに入るとデメリットだけどフリーならメリットな事ってなに?」
「まず、報酬を独り占め出来ることだ。同じ依頼を受けて報酬金額が同じだったとしてもギルドに入っていたら報酬金額の最低1割をギルドに入れないといけない。そして残りの9割を同じ依頼を受けたパーティーメンバーで山分けする事になる。だからフリーの方が貰える報酬は多いんだ」
「なら、皆そうしないの?」
「理由は幾つかある。一つは誰も死にたくないからだ。さっきも言ったように単独では無理でもパーティーなら倒せる魔物だって存在する。それはつまり死ぬ確率が低いと言う訳だ。他にはフリーだと武器や保険が自己負担であること。ギルドによっては住み込みが可能なギルドもあるからそうなると光熱費や食費だって徒になるわけだ」
「つまりは報酬は多いけど死ぬ危険性はあるし、光熱費、食費、あとは自分の武器などのメンテナンスや部品などの経費と言ったもの全てが自己負担になると」
「そう言うことだ」
「それなら安全を考えてギルドに入った方が良いよね?」
「私ならそうしますわね。先輩たちからも色々と教えて貰えますし何より衣食住がタダになるのは最大のメリットですしね」
「そうだよね。貰った報酬は好きなものだけに使えるわけだし」
 そんな俺の言葉に普通科の女子生徒たちは自分たちの意見を口にして話し合う。勿論冒険者になるわけではなく、もしも自分が冒険者になるならと言う設定での話しだ。
 そしてそれは普通科の女子生徒だけでなく、冒険科の生徒の方ではさらにヒートアップした会話がされていた。
 この国の生徒たちは熱心だな。前世の時の俺とは大違いだ。

「それで他には無いの?」
「あるぞ。と言うよりもここからが、お前たちが知りたがっていた強くなる方法だ」
 そんな俺の言葉に誰もが興味を示す。
 特に冒険科の生徒の興味は凄い。気がつけば中心近くに居た筈の俺たちは押されて壁際まで来ていた。

「と言ってもこれは強くなる方法と言うよりもランクを他の奴らよりも早く上げる方法と言うべきだな」
「え?そんな方法があるの?」
「勿論あるさ。冒険者のランク制度は一定以上のポイントを獲得すれば昇級する事が出来る。だがそれはCランクまででBに昇級する時からはポイントを獲得するだけでなく昇格試験に合格する必要があるけど。ま、それは置いといて、Cランクまで昇級するならギルドに入るよりフリーの方が早いんだ」
「どうして?」
「ポイントも報酬と同じでパーティーなら山分けするからだ。例えば30ポイントの依頼を5人組のパーティーが受けた場合1人あたりに振り分けられるポイントは6ポイントに対してフリーなら30ポイント全てを手に入れる事ができるからだ」
 そんな俺の言葉に誰もがそうなんだ。と言う顔をしていた。
 なんで知らないのか不思議だが、たぶんだが調子に乗って死なれては困るからだろう。え?ならなんで教えたのかって。そんなの自分に見合った依頼すら見分けられない奴らが冒険者になる資格は無いと俺は思っているからだ。
 でも、今の話を聞いたのが原因で死なれたら俺に責任が来るかもしれないからな。念を押しておくか。

「冒険科の生徒は自分の実力を考えてフリーになるかギルドに入るか決めろよ。俺から言わせればギルドの方が遥かに安全だ。危険を冒してまでフリーになる事はないんだからな」
「なら、どうしてジン君はフリーだったの?」
「俺か?俺は冒険者試験を受けて冒険者になったんだが。ま、履歴書の内容が酷くてな。幾つものギルドの試験を受けたが落ちたんだ」
「だからフリーだったんだね」
「でも今じゃ期待のルーキーなんて言われてる存在。それってつまりジン君が受けたギルドは見る目が無かったって事だよね」
 普通科の女子生徒たちがそんな会話をする。頼むからあんまりそんな事言わないであげて欲しい。もしかしたらこの中に関係者が居るかもしれないんだからな。

「でも今はギルドを自分で設立してるんだよね」
「ああ、俺を含めてまだ3人しか居ない弱小ギルドだがな」
「なら、もしかしたらこの中にジン君のギルドに入りたがっている生徒も居るかもしれないよ」
「それはどうかな。出来立てホヤホヤのギルドだからな。そんなギルドに入りたがる生徒が居るとは思えないんだが」
「因みにジン君が設立したギルドはどこまで負担してくれるの?」
「俺のギルドはメンテナンス料、衣食住、保険と全て負担するギルドだ。ビルを購入してまだ3人しかいないからな。部屋も余ってるし」
「そうなんだ。でもそれって冒険者を目指す人にとっては好条件だよね」
「まあな。でもルームシェアが苦手な人には向かないかもな。1人それぞれ個室はあるが、風呂やトイレは共同だからな」
 特に潔癖症の人は無理だろう。
 俺の仲間に掃除の達人が居たとしてもトイレやお風呂を共同で使うのが無理って人は居るからな。

「ま、俺はそんなこんなで。フリーの間にお金とランクを上げて今はギルドを設立したってわけだ」
「なんだか自分の夢を叶えたみたいで羨ましいな」
 そんな事を呟く生徒が居たが、別にそんな事はない。努力すれば必ず夢が叶うとは言わないが、行動しない奴にその可能性はない。
 ただ俺はギルドを設立したいからこそ行動しただけなんだからな。
 ま、そんな感じで冒険者に関する講義は終了し、それぞれ自由に食事をしたり駄弁ったりしていた。
 しかし、9時になると中央から人が消え、男女のペアが数人立つ。
 そして美しい音色が会場に流れ出すとそれにあわせてゆっくりと踊りだす。
 なるほど貴族も通う学園だからな舞踏会のように踊る時間帯があってもおかしくはないか。
 そう思っているとシャルロットがテラスへと向かう姿が見えた。
 俺はそんなシャルロットを急いで追いかける。
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