145 / 274
第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第六十三話 レイノーツ学園祭 ⑩
しおりを挟む
「テラスに行くんなら一言言ってくれ。心配するだろうが」
「申し訳ありません。少し疲れたので」
「もしかして昨日の事でまだ疲れが残っているんじゃ」
「そうかも知れませんが、これだけ人が居ると流石に疲れます」
「各国の重鎮たちと会話もした事がある皇女様のセリフとは思えないな」
「皇女としての私はここには居ません。今の私はレイノーツ学園普通科2年1組のシャルロットですから」
いつも優しくあまり弱音を吐かないシャルロットが口にした言葉に驚きを感じた。
でもそうだよな。皇女様でも本当はまだ17歳の少女なんだ。たまには自由に過ごしたい事だってあるよな。
勝手な思い込みをしていた自分に少し苛立ちを覚える。
なら、今俺が出来ることはただ一つだ。
「なあ、シャルロット」
「なんでしょうか?」
「散歩でもしないか?」
「散歩ですか?」
俺の言葉に呆けた表情をするシャルロット。それだけ意外だったのだろう。
「ああ、ここに居たら疲れるだろ。ならいつもは出来ない夜の学園内を探検してみないか?」
「とても面白そうですね」
「なら、全は急げだな」
「キャッ!」
俺はそんなシャルロットをお姫様抱っこする。
「あ、あのこれはいったい……」
「悪いが、叫ばないように我慢していてくれ」
「え?」
俺はそう言うと高さ4メートルのテラスから飛び降りた。
絶叫が響き渡るかと思いきやどうやらシャルロットは俺が言ったように目を瞑って我慢していた。
両足を曲げて衝撃を殺した俺はシャルロットに怪我させる事無く着地することに成功した。良かった。もしも怪我なんてさせたらグレンダやボルキュス陛下たちに何を言われることやら。
なら最初からしなければ良い話なのだろうが、この会場を抜け出すにはこの方法しか思いつかなかったのだから仕方が無い。
「シャルロット立てるか?」
「は、はい。問題ありません。ですが次するときはもっと早く教えてください!」
「わ、分かった」
きっと怖かったはずなんだが、トラウマにならないあたりさすがは皇族と言うべきなのか?それともシャルロット自身が恐怖に対する耐性を持っているのかもしれない。もっと危険な事件に巻き込まれたりしてたしな。
「それじゃ、シャルロット夜の学園を散歩しようか」
「はい」
嬉しそうに返事をしたシャルロットと二人で俺たちは歩き出した。
普段夜になれば学園中に赤外線などのセキュリティーが作動しているが、今日は後夜祭と言うこともあって学園周辺のセキュリティーしか作動していない。
そのためこうして学園内を散歩することが出来る。ま、校舎や建物の中に入ることは出来ない。出来るのは後夜祭が行われている建物だけだ。
それでも学生が学園内に残っていると言う事もあり学園内に設置された電灯が通路の一部を照らす。
それで足場が見えないと言う事がないため安心して俺たちは歩くことが出来るわけだが、山の中でもないので転ぶような事は早々無いだろう。
日中の時とは対比的で夜の学園と言うのは不気味なほど静寂だ。
きっとこの帝都でゴーストタウンやフリーダムの拠点がある48区の次に静寂な場所だろう。
そんあ通路を俺はシャルロットの歩く後姿を見守りながら歩く。
「夜の学園を散歩するなんて不良になって気分です」
「そんな事を言ったら大半の学生が不良になってしまうな」
夜の学園や学校を出歩く学生は少ないだろうが街中で遊ぶ生徒は普通に居るだろう。
それを考えたらシャルロットは本当に真面目だな。
皇族だし、なにより心優しいからな。家族に迷惑が掛かるような事をするはずがないか。ってことはそんなシャルロットに不良紛いな事をさせてる俺は教育的にアウトって事でボルキュス陛下に起こられたりしないよな。
そんな不安が過ぎりながらも俺は周囲の警戒は怠らない。
「やはり不思議な気分です」
「何がだ?」
唐突にそんな事を口にするシャルロットに俺は問いで返事をした。
「こんな夜に出歩いていれば恐怖や不安を感じると思っていました」
「ま、あんな事件があったあとだしな。それは仕方が無いだろう。って思っていました?」
「はい。何故かは分かりませんが全然怖くないんです。それどころかドキドキが止まりません」
ドキドキか。きっとそれは自分知らない世界に足を踏み入れた好奇心でいつも以上に興奮しているんだろう。
「それと同時に安心感もあるんです」
「安心感?」
それはどういう事だ?思った以上に平気だったから。とかか。いや、それなら安心感なんて言葉は使わないよな。なら何で安心感なんて言葉が出てきたんだ?
「きっとジンさんが傍に居てくれるかれでしょうね」
あ、なるほど。そう言うことか。確かに1人なら怖いが誰かが傍に居れば怖さが紛れるからな。だから安心感なんて言葉が出てきたのか。
「だけど、別に俺じゃなくても大丈夫だろ。グレンダやボルキュス陛下が傍に居たって同じ事だ」
「いえ、そんな事はありません。確かにグレンダの事は信頼していますから安心は出来ます。ですが安心感と一緒に安らぎの気持ちを与えてくれるのはジンさんだけです」
「それは買い被り過ぎだ」
「そんな事はありません!」
そんな俺の否定に対して強く否定してくる。どうしてそこまで強く言う必要があったのか俺には分からない。
「初めてジンさんに会った時からそうでした。階級も生まれも違うのに全然怖くなくて。それどころか逆に安心できました。どうしてそんな気持ちになったのか最初は分かりませんでしたが、きっとジンさんには相手も気づかぬうちに心に自然と入り込む力があるんです」
「そんな力俺は持ってねぇよ。確かにシャルロットや他の友人にも仲良くしてくれる奴はいる。だけど俺のことを嫌っている奴だってたくさん居るんだぞ」
「例えば?」
「そうだな……アインとかそうだな。いつも俺に毒舌を吐くし銃を向けたりしてくるしな。他にもグレンダとか俺に対して警戒しているようだし」
「それはジンさんの事が好きだからですよ」
「いやいやいやいや」
「別に即答で否定しなくても……」
「だってあのグレンダだぞ。シャルロット第一でそれ以外に対しては警戒心剥き出し、俺に対してなんかいつも敵対心剥き出しだし。それのどこが俺のことが好きなんだ?」
「確かにグレンダと会話をすればジンの愚痴を口にします」
「ほらな」
「だけどジンさんの強さや戦う意志に関しては褒めていましたよ」
「…………」
「あ、あのどうして空を見上げてるんですか?」
「いや、グレンダがそんな事を口にするなんて珍しいからもしかしたら明日は槍でも降るんじゃないかと思ってな」
「そんなわけありません。とにかくグレンダはジンさんの事は認めているんです。ただあの性格ですから素直になれないだけなんです」
「そうか。シャルロットがそこまで言うならそう言うことにしておこう」
「はい。そう言うことにして置いてください」
こうして話がひと段落したところでまた喋る事無く散歩を続ける。気がつけば校舎を過ぎてストーカー野郎と戦った演習場近くまで来ていた。
「そう言えばここで私はジンさんにまたも助けられたんですよね」
「またって俺は何度もシャルロットを助けた覚えは無いんだが?」
「いえ、初めて会った時も刺客から助けて下さいましたし、私の我侭のためにグレンダの救出しもしてくれました。私はどうすればジンさんに恩返しができますか?」
「別に恩返しを期待して助けたわけじゃない。初めて会った時は俺も狙われたから、その脅威を排除しただけだし、グレンダを救出したのは冒険者として依頼を受けたからだ」
「では、今回は私の護衛だったから助けたのですか?」
「ま、それもあるな」
「それもある?それって護衛でなくても私を助けていたって事ですか?」
「当然だろ。なんたったって俺たちは友達なんだからな」
「そうですね……」
(痛い。依頼や仕事と関係なく助けてくれると言って下さっているのに心が痛い。いえ、それは分かっています。私はジンさんの事が――)
「暗い顔しどうかしたのか?」
「い、いえ!なんでもありません」
「そうか。それなら良いんだが」
良かった。どこか体調が悪いんじゃないかと心配したじゃないか。
「それよりもそろそろ戻らないか。出ないとシャルロットが消えたって騒ぎになるかもしれないからな」
「そうですね」
行きとは違い。帰りは横に並んで歩く俺たち。
軽く頭を上げれば星が見えるかと思ったが、そこまでは見えない。流石は帝都だな。静寂と化した学園からでも星空が見えないなんてどれだけ明るいんだ。
そんな事を思っているとシャルロットが俺の前に立つ。
「どうかしたのか?」
「いえ、せっかくの後夜祭ですので一緒に踊りませんか?」
「踊るって、俺が社交ダンスが踊れるように見えるか?」
「大丈夫です。私が教えますから」
「だが、音楽はどうするんだ?音楽なしに踊るわけにはいかないだろ」
「それも大丈夫です。これがありますから」
そう言ってポケットから取り出したのは学園祭で俺がゲットした景品の小さなオルゴールだった。
まさか持ち歩いているとは思わなかった。いや、今日のために持ってきたのかもしれない。なんて用意周到な。
もしかしたら俺が夜の学園を散歩に誘うことも予想していたのかもしれない。いや、シャルロットに限ってはそれは無いか。だがあのボルキュス陛下の娘だしな。
「それで踊ってくださいますか?」
「分かった、踊ろう。だけど初心者だから期待するなよ」
俺の言葉に笑顔を浮かべるシャルロットはベンチにネジを回したオルゴール置いて準備をすると俺の右手を握り、左肩に手を当てた。
そして教えるがままに俺はシャルロットの腰に手を回す。
そんなタイミングよくオルゴールの綺麗な音色が学園の通路に流れるとそれに合わせてゆっくりと踊りだす。
密着したシャルロットは予想以上に甘い香りさせており、変な気分になりそうだったが、どうにか抑える。と言うか踊りも同時進行なので頭の中がフリーズしそうになる。
まるで世界にたった二人だけ取り残された夜に踊るかのようなひと時は僅か10分足らずで終了した。
「ありがとうございます。とても楽しかったです」
「俺は上手く出来たか不安だらけだけどな」
「大丈夫でしたよ」
シャルロットがそう行ってくれるが心優しい彼女が本音を言うとは思えないのできっとお世辞に違いない。
今後のために社交ダンス教室にでも通った方が良いのかもしれないな。いや、そんな日は二度と事を祈るとしよう。
「それじゃ、そろそろ戻ろうぜ」
「はい」
(とても素晴らしい思い出が出来ました。やはり貴方は私の王子さまですね)
さっきまで横に並んで歩いていた筈が気がつくとシャルロットの姿は無くなっていて慌てて振り返ると何故か笑み浮かべて立ち止まっていた。
「どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません」
彼女はそう言って俺のところまで駆け足でたどり着くとまた横に並んで一緒に後夜祭が行われている会場へと戻ったのだった。
後夜祭会場に戻った俺たちはどうにかバレる事は無かった。
どうやら何かを察してくれたシャルロットのクラスメイトたちが上手く説明してくれたみたいだが、いったい何を言ったんだ?いや、それよりも最近の学生は察しが良いってレベルを超えた勘の持ち主だ。俺も過去がバレないように気を付けなければ。
そう思いながら俺はテーブルに置かれていたグラスを手に持ってオレンジジュースを飲む。
何やらシャルロットがクラスメイトの女子たちに囲まれて質問攻めにされているようだけど悪意や敵意を感じないから大丈夫だろ。
それから1時間ほどして後夜祭は終了した。
学園内にある寮に生活している生徒たちは徒歩で寮に戻り、実家から通っている者たちは学園側が用意したバスに乗り込む。
貴族たちはどうやら迎えの車が来ているらしくそっちに乗って帰って行ったが、当然だよな。バスに乗って帰るのは平民の学生だけだ。もしかしたら貴族の子も乗っているかもしれないが、乗るのは3割も居ないだろう。
貴族だけでなく平民の学生も親に頼んで迎えを呼んでいるだろうしな。
で、俺たちはイオが運転する車に乗り込んで皇宮に戻った。
「申し訳ありません。少し疲れたので」
「もしかして昨日の事でまだ疲れが残っているんじゃ」
「そうかも知れませんが、これだけ人が居ると流石に疲れます」
「各国の重鎮たちと会話もした事がある皇女様のセリフとは思えないな」
「皇女としての私はここには居ません。今の私はレイノーツ学園普通科2年1組のシャルロットですから」
いつも優しくあまり弱音を吐かないシャルロットが口にした言葉に驚きを感じた。
でもそうだよな。皇女様でも本当はまだ17歳の少女なんだ。たまには自由に過ごしたい事だってあるよな。
勝手な思い込みをしていた自分に少し苛立ちを覚える。
なら、今俺が出来ることはただ一つだ。
「なあ、シャルロット」
「なんでしょうか?」
「散歩でもしないか?」
「散歩ですか?」
俺の言葉に呆けた表情をするシャルロット。それだけ意外だったのだろう。
「ああ、ここに居たら疲れるだろ。ならいつもは出来ない夜の学園内を探検してみないか?」
「とても面白そうですね」
「なら、全は急げだな」
「キャッ!」
俺はそんなシャルロットをお姫様抱っこする。
「あ、あのこれはいったい……」
「悪いが、叫ばないように我慢していてくれ」
「え?」
俺はそう言うと高さ4メートルのテラスから飛び降りた。
絶叫が響き渡るかと思いきやどうやらシャルロットは俺が言ったように目を瞑って我慢していた。
両足を曲げて衝撃を殺した俺はシャルロットに怪我させる事無く着地することに成功した。良かった。もしも怪我なんてさせたらグレンダやボルキュス陛下たちに何を言われることやら。
なら最初からしなければ良い話なのだろうが、この会場を抜け出すにはこの方法しか思いつかなかったのだから仕方が無い。
「シャルロット立てるか?」
「は、はい。問題ありません。ですが次するときはもっと早く教えてください!」
「わ、分かった」
きっと怖かったはずなんだが、トラウマにならないあたりさすがは皇族と言うべきなのか?それともシャルロット自身が恐怖に対する耐性を持っているのかもしれない。もっと危険な事件に巻き込まれたりしてたしな。
「それじゃ、シャルロット夜の学園を散歩しようか」
「はい」
嬉しそうに返事をしたシャルロットと二人で俺たちは歩き出した。
普段夜になれば学園中に赤外線などのセキュリティーが作動しているが、今日は後夜祭と言うこともあって学園周辺のセキュリティーしか作動していない。
そのためこうして学園内を散歩することが出来る。ま、校舎や建物の中に入ることは出来ない。出来るのは後夜祭が行われている建物だけだ。
それでも学生が学園内に残っていると言う事もあり学園内に設置された電灯が通路の一部を照らす。
それで足場が見えないと言う事がないため安心して俺たちは歩くことが出来るわけだが、山の中でもないので転ぶような事は早々無いだろう。
日中の時とは対比的で夜の学園と言うのは不気味なほど静寂だ。
きっとこの帝都でゴーストタウンやフリーダムの拠点がある48区の次に静寂な場所だろう。
そんあ通路を俺はシャルロットの歩く後姿を見守りながら歩く。
「夜の学園を散歩するなんて不良になって気分です」
「そんな事を言ったら大半の学生が不良になってしまうな」
夜の学園や学校を出歩く学生は少ないだろうが街中で遊ぶ生徒は普通に居るだろう。
それを考えたらシャルロットは本当に真面目だな。
皇族だし、なにより心優しいからな。家族に迷惑が掛かるような事をするはずがないか。ってことはそんなシャルロットに不良紛いな事をさせてる俺は教育的にアウトって事でボルキュス陛下に起こられたりしないよな。
そんな不安が過ぎりながらも俺は周囲の警戒は怠らない。
「やはり不思議な気分です」
「何がだ?」
唐突にそんな事を口にするシャルロットに俺は問いで返事をした。
「こんな夜に出歩いていれば恐怖や不安を感じると思っていました」
「ま、あんな事件があったあとだしな。それは仕方が無いだろう。って思っていました?」
「はい。何故かは分かりませんが全然怖くないんです。それどころかドキドキが止まりません」
ドキドキか。きっとそれは自分知らない世界に足を踏み入れた好奇心でいつも以上に興奮しているんだろう。
「それと同時に安心感もあるんです」
「安心感?」
それはどういう事だ?思った以上に平気だったから。とかか。いや、それなら安心感なんて言葉は使わないよな。なら何で安心感なんて言葉が出てきたんだ?
「きっとジンさんが傍に居てくれるかれでしょうね」
あ、なるほど。そう言うことか。確かに1人なら怖いが誰かが傍に居れば怖さが紛れるからな。だから安心感なんて言葉が出てきたのか。
「だけど、別に俺じゃなくても大丈夫だろ。グレンダやボルキュス陛下が傍に居たって同じ事だ」
「いえ、そんな事はありません。確かにグレンダの事は信頼していますから安心は出来ます。ですが安心感と一緒に安らぎの気持ちを与えてくれるのはジンさんだけです」
「それは買い被り過ぎだ」
「そんな事はありません!」
そんな俺の否定に対して強く否定してくる。どうしてそこまで強く言う必要があったのか俺には分からない。
「初めてジンさんに会った時からそうでした。階級も生まれも違うのに全然怖くなくて。それどころか逆に安心できました。どうしてそんな気持ちになったのか最初は分かりませんでしたが、きっとジンさんには相手も気づかぬうちに心に自然と入り込む力があるんです」
「そんな力俺は持ってねぇよ。確かにシャルロットや他の友人にも仲良くしてくれる奴はいる。だけど俺のことを嫌っている奴だってたくさん居るんだぞ」
「例えば?」
「そうだな……アインとかそうだな。いつも俺に毒舌を吐くし銃を向けたりしてくるしな。他にもグレンダとか俺に対して警戒しているようだし」
「それはジンさんの事が好きだからですよ」
「いやいやいやいや」
「別に即答で否定しなくても……」
「だってあのグレンダだぞ。シャルロット第一でそれ以外に対しては警戒心剥き出し、俺に対してなんかいつも敵対心剥き出しだし。それのどこが俺のことが好きなんだ?」
「確かにグレンダと会話をすればジンの愚痴を口にします」
「ほらな」
「だけどジンさんの強さや戦う意志に関しては褒めていましたよ」
「…………」
「あ、あのどうして空を見上げてるんですか?」
「いや、グレンダがそんな事を口にするなんて珍しいからもしかしたら明日は槍でも降るんじゃないかと思ってな」
「そんなわけありません。とにかくグレンダはジンさんの事は認めているんです。ただあの性格ですから素直になれないだけなんです」
「そうか。シャルロットがそこまで言うならそう言うことにしておこう」
「はい。そう言うことにして置いてください」
こうして話がひと段落したところでまた喋る事無く散歩を続ける。気がつけば校舎を過ぎてストーカー野郎と戦った演習場近くまで来ていた。
「そう言えばここで私はジンさんにまたも助けられたんですよね」
「またって俺は何度もシャルロットを助けた覚えは無いんだが?」
「いえ、初めて会った時も刺客から助けて下さいましたし、私の我侭のためにグレンダの救出しもしてくれました。私はどうすればジンさんに恩返しができますか?」
「別に恩返しを期待して助けたわけじゃない。初めて会った時は俺も狙われたから、その脅威を排除しただけだし、グレンダを救出したのは冒険者として依頼を受けたからだ」
「では、今回は私の護衛だったから助けたのですか?」
「ま、それもあるな」
「それもある?それって護衛でなくても私を助けていたって事ですか?」
「当然だろ。なんたったって俺たちは友達なんだからな」
「そうですね……」
(痛い。依頼や仕事と関係なく助けてくれると言って下さっているのに心が痛い。いえ、それは分かっています。私はジンさんの事が――)
「暗い顔しどうかしたのか?」
「い、いえ!なんでもありません」
「そうか。それなら良いんだが」
良かった。どこか体調が悪いんじゃないかと心配したじゃないか。
「それよりもそろそろ戻らないか。出ないとシャルロットが消えたって騒ぎになるかもしれないからな」
「そうですね」
行きとは違い。帰りは横に並んで歩く俺たち。
軽く頭を上げれば星が見えるかと思ったが、そこまでは見えない。流石は帝都だな。静寂と化した学園からでも星空が見えないなんてどれだけ明るいんだ。
そんな事を思っているとシャルロットが俺の前に立つ。
「どうかしたのか?」
「いえ、せっかくの後夜祭ですので一緒に踊りませんか?」
「踊るって、俺が社交ダンスが踊れるように見えるか?」
「大丈夫です。私が教えますから」
「だが、音楽はどうするんだ?音楽なしに踊るわけにはいかないだろ」
「それも大丈夫です。これがありますから」
そう言ってポケットから取り出したのは学園祭で俺がゲットした景品の小さなオルゴールだった。
まさか持ち歩いているとは思わなかった。いや、今日のために持ってきたのかもしれない。なんて用意周到な。
もしかしたら俺が夜の学園を散歩に誘うことも予想していたのかもしれない。いや、シャルロットに限ってはそれは無いか。だがあのボルキュス陛下の娘だしな。
「それで踊ってくださいますか?」
「分かった、踊ろう。だけど初心者だから期待するなよ」
俺の言葉に笑顔を浮かべるシャルロットはベンチにネジを回したオルゴール置いて準備をすると俺の右手を握り、左肩に手を当てた。
そして教えるがままに俺はシャルロットの腰に手を回す。
そんなタイミングよくオルゴールの綺麗な音色が学園の通路に流れるとそれに合わせてゆっくりと踊りだす。
密着したシャルロットは予想以上に甘い香りさせており、変な気分になりそうだったが、どうにか抑える。と言うか踊りも同時進行なので頭の中がフリーズしそうになる。
まるで世界にたった二人だけ取り残された夜に踊るかのようなひと時は僅か10分足らずで終了した。
「ありがとうございます。とても楽しかったです」
「俺は上手く出来たか不安だらけだけどな」
「大丈夫でしたよ」
シャルロットがそう行ってくれるが心優しい彼女が本音を言うとは思えないのできっとお世辞に違いない。
今後のために社交ダンス教室にでも通った方が良いのかもしれないな。いや、そんな日は二度と事を祈るとしよう。
「それじゃ、そろそろ戻ろうぜ」
「はい」
(とても素晴らしい思い出が出来ました。やはり貴方は私の王子さまですね)
さっきまで横に並んで歩いていた筈が気がつくとシャルロットの姿は無くなっていて慌てて振り返ると何故か笑み浮かべて立ち止まっていた。
「どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません」
彼女はそう言って俺のところまで駆け足でたどり着くとまた横に並んで一緒に後夜祭が行われている会場へと戻ったのだった。
後夜祭会場に戻った俺たちはどうにかバレる事は無かった。
どうやら何かを察してくれたシャルロットのクラスメイトたちが上手く説明してくれたみたいだが、いったい何を言ったんだ?いや、それよりも最近の学生は察しが良いってレベルを超えた勘の持ち主だ。俺も過去がバレないように気を付けなければ。
そう思いながら俺はテーブルに置かれていたグラスを手に持ってオレンジジュースを飲む。
何やらシャルロットがクラスメイトの女子たちに囲まれて質問攻めにされているようだけど悪意や敵意を感じないから大丈夫だろ。
それから1時間ほどして後夜祭は終了した。
学園内にある寮に生活している生徒たちは徒歩で寮に戻り、実家から通っている者たちは学園側が用意したバスに乗り込む。
貴族たちはどうやら迎えの車が来ているらしくそっちに乗って帰って行ったが、当然だよな。バスに乗って帰るのは平民の学生だけだ。もしかしたら貴族の子も乗っているかもしれないが、乗るのは3割も居ないだろう。
貴族だけでなく平民の学生も親に頼んで迎えを呼んでいるだろうしな。
で、俺たちはイオが運転する車に乗り込んで皇宮に戻った。
10
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる