魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第六十八話 銀髪の吸血鬼少女 ②

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 そうと決まれば明日はヘレンの部屋に必要な物を買いに行かないとな。
 いや、まだ時間はあるし、今日買いに行くか。
 でもそれならアインたちにも説明しておかないと駄目だよな。

「俺の仲間を紹介したら必要な家具や服を買いに行くからそのつもりでいろよ」
「だ、だが私はお金がないのだ」
 Aランクの冒険者がどうすれば金欠状態になるのか知りたいんだが。ってそれなら空腹で行き倒れたりしないか。
 思わず嘆息しながらも俺は言葉を返す。

「安心しろ。ヘレンはこれからフリーダムのギルドメンバー。つまりは仲間なんだから、それぐらいギルドの経費でなんとかなる」
「それは本当か!?」
 俺の案に明るい光明が差したかのように安堵の表情で訊いて来る。

「ああ。その代わり高いのは無理だからな」
「それぐらい分かっているのだ!」
 嬉しそうにはしゃぐヘレンの姿は見た目相応だが、年齢とは懸け離れていた。
 本当に分かっているんだろうな。まさか見た目だけじゃなく精神年齢も人間より遅いって事はないよな。
 チィンッ!
 聞きなれた音がリビングまで一瞬聞こえてきた。
 エレベーターが止まった音だ。
 きっとアインと影光が帰って来たんだろう。
 リビングのドアが開かれ見えたのは予想通り影光とアインだった。
 アインは銀を抱きかかえていたが、影光はレジ袋を手に持っていた。何か買ってきたんだろう。

「よ、お帰り」
「今戻った。それでそっちの子が路地裏で倒れていた少女だな」
「ジン、この2人は?」
 ペットボトルに入ったお茶を一口飲んだヘレンが俺に2人の素性を訊いて来る。

「さっき話したろ。フリーダムのギルドメンバーだ」
「拙者は藤堂影光。Sランクの冒険者だ」
「私はアイン。Bランク冒険者です。で、こっちが私が慕っているマスターのギン様です」
「ヘレン・ボルティネなのだ。冒険者ランクはAランクなのだ」
「こんな小娘がAランク冒険者なわけありません。ウソを付くならもっとマシなウソを言ったらどうなんですか」
 初対面の相手に対して相変わらずの毒舌だな。
 そんなアインの言葉が障ったのか頬を膨らませるヘレン。

「本当なのだ!ほら!」
 そう言ってヘレンは冒険者免許書を影光とアインに見せる。
 2人の気になったのか覗き込むように冒険者免許書を凝視する。

「本当にAランク冒険者のようだな」
「そんな……ありえません。こんな変な病を持っていそうな小娘が私よりも上だなんて……」
 相当ショックだったのか額に手を当てるアイン。それと変な病ってもしかして中二病のことか?
 ショックを受けてるアインに足して影光は俺に視線を向けてくる。

「それで、今後どうするんだ?」
 影光はなんとなく察しているようで軽く笑みを浮かべていた。
 俺もそれに対して笑みを浮かべながら口を開いた。

「ヘレンは俺たちの新しいギルドメンバーにしようと思っている。明日にでも冒険者組合に登録しに行くつもりだ」
「やはりな。拙者は異論は無いが、アインはどうなんだ?」
「色々と不満なことはありますが、私も別に問題ありません。ただしマスターに危害を加えるのであれば許しません」
「マスターってその狼の事か?」
「そうです。よく分かりましたね」
「当然なのじゃ。普通の魔狼よりも遥かに強く濃密な魔力を感じるからな。相当強いことは見た時から分かっていたのだ」
「どうやら私は貴女のことを勘違いしていたようです。貴女は特別にマスターを撫でることを許可します。マスターも構いませんか?」
「ガウッ!」
 そう言ってアインはヘレンの手を握る。
 お前にとって良い基準は銀に対する対応で決まるのか?
 てか、銀の飼い主は俺なんだが許可を求めるなら普通俺じゃないのか?ま、別に良いけど。
 それよりも問題は別だ。
 俺はさっきヘレンが口にした言葉が気になった。
 ――普通の魔狼よりも遥かに強く濃密な魔力を感じるからな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 どうして魔狼じゃないって分かったんだ?
 銀は俺同様に普段は力を抑えている。
 特に子犬サイズの時は魔狼よりも弱いぐらいだ。なのにそれが分かる程の魔力感知能力を持っているって事なのか?
 いや、そんな感じはしない。
 俺は魔力が無いからヘレンの魔力量は分からない。だが戦闘能力なら気配で分かる。
 確かにヘレンは強い。
 最後に戦った時のイザベラよりも戦闘能力と言う意味でならヘレンの方が強いだろう。
 だが銀が力を制御しているのを見破るだけの力があるとは思えない。
 もしかしたら俺が知らない力があるのかもしれない。
 おっと今考え込んでいても何も始まらないからな。

「それじゃ、俺はヘレンと一緒にヘレンの部屋に置く家具を買ってくる。その間留守番を頼む」
「分かった。それとこれはさっき昼食で食べたときの領収書だ」
「サンキュー」
 影光から領収書を受け取った俺はソファーから立ち上がる。

「そのまま帰ってこなくても良いですよ?」
「はいはい」
 アインの嫌味を聞き流しながら俺はヘレンと一緒に必要な物を買いに行くためにギルドを出発した。
 最初に向かったのは安い値段で家具を販売している専門店だ。
 お店の名前はヒトリ。
 なんとも孤独感のある名前だが、お店の雰囲気や売られている家具はそんな事はない。
 それどころか安くて質の良い商品が置かれていると平民に人気のあるお店だ。
 そして何より出来て一ヶ月も経っていない弱小ギルドとしては最高のお店だ。
 ヒトリにやって来た俺たちはまずベッドを選ぶ。

「私はこれが良いのだ!」
「なんで1人で寝るのにキングサイズのベッドを買わなければいけないんだ。却下に決まってるだろ」
「むぅ~、ジンは思いのほかケチなのだ~」
「ギルドの経費で買うんだから当たり前だろ。それにそんなに欲しいんなら自腹で買え」
 ギルドマスターとしてそんな物は買えない。もっと成長したら買ってやれなくもないが、それはヘレンがフリーダムで結果を残せたらの話だ。
 口論とも言えなくも無い話し合いの結果ダブルサイズのブラウンのベッドを購入することにした。
 ついでに冬用と夏用の掛け布団とシーツも数枚購入する。
 あとは小さなテーブルと絨毯とクローゼットと棚を一つ購入してお店を出た。
 次に向かったのはクロニクルと言う名前の洋服店だ。
 ヒトリ同様にこちらも全国チェーン店の大手企業のお店で安目の値段で質の良い服が買えると一般人に人気の高いお店だ。

「これと、これと、あとソッチのと。あっ!これとこれも!」
「分かったから一気に言わないでくれ。カートに入れるのは俺なんだぞ」
 冬物の服を買い込んだ後、下着コーナーでヘレンが選らんだ下着数着を購入して俺たちはお店を後にした。

「さて、これで欲しいものは全て買ったかな」
「まだだぞ!」
「他に何かあるのか?」
 ヘレンに視線を向けて答えを待つ。
 それよりも人通り多い場所でそんな大声で喋らなくても良いだろうに。周りの視線が痛いだろうが。
 年齢に相応しくない幼児脳みそに悩まされながらも俺はヘレンの言葉を待つ。

「私はスマホを持っていないのだ」
「ああ、なるほどな。なら契約しに行くか」
「もちろんなのだ!」
 嬉しそうに返事をするヘレンの姿に俺は嘆息の笑みを浮かべる。
 これじゃどっちが年上なのか分からない。いやね、前世からの年齢を合わせれば俺の方が上なのは確かだけど、こっちの世界での年齢で言えばヘレンの方が3歳も年上なわけだよ。
 だけどこれじゃ親戚の子供を相手しているような光景にしかならないわけだよ。
 あ、でもこんなに手は掛からないかもしれないけど。
 アインのスマホを契約した時と同じお店でヘレンのスマホを契約する。
 ヘレンが選んだスマホはアインと同じ機種の色違いだ。
 アインはホワイトシルバーで、ヘレンはフォレストグリーンだ。
 俺は契約したスマホにカバーを装着してヘレンに手渡す。

「ほれ、俺の電話番号を登録しておいたから、もしもの時は電話して来いよ」
「…………」
 あれ?嬉しそうにはしゃぐかと思ってが、ヘレンはただ嬉しそうに両手で持ったスマホ見つめるのだった。
 俺はそんなヘレンを見てどうしてそんな顔をするのかと思ったが、答えは出なかった。
 しかし、なかなか現実世界に戻ってこないヘレンの姿が少し心配になって少し強く名前を呼ぶ。

「おい、ヘレン!」
「っ!わ、悪かったのだ。ただ嬉しくて」
「嬉しい?確かに最新機種だが言葉が出なくなるほど喜ぶことじゃないと思うんだが」
「そうじゃないのだ。私はこれまでスマホだけでなく携帯すら持ったことがなかったのだ」
 前世の世界より遥かに生活水準が高いこの世界でスマホどころか携帯すら持ったことが無いってどんな家に生まれたんだ?
 そうとう貧乏だったが、親が厳しかったんだろう。
 だがその事実に俺は驚きを隠せなかった。

「だけどAランクまで冒険者として活動していたなら自分で購入することぐらい簡単だったんじゃないのか?」
「確かにそうだが、スマホを持ったところで友達なんて一人としていなかった。だから持ったところで辛いだけだと思っていたのだ。だけど………だけど……」
 スマホ画面の上にポツポツと数的の水が落ちる。一瞬雨が降り出したのかとも思ったが違う。
 よく見るとスマホ画面に表示されていたのは電話帳で俺の名前と電話番号だった。
 そう、ヘレンは自分のスマホに仲間の名前が表示された事が嬉しかったのだ。それは涙が出てくるほど嬉しかったのだ。
 いったいどんな人生を送ればこれほどの喜びが込み上げてくるのか俺には想像できない。だが辛い人生だった事は容易に想像できた。
 だから俺が出来ることはただ一つだ。

「馬鹿だな。俺たちはこれから同じギルドでクラス仲間であり、友達であり、家族なんだから当然だろ」
「仲間……友達……家族……ああ、そうだな。ジンの言う通りなのだ……!」
 ヘレンの頭を撫でながら俺はそう言うと嬉し涙を流しながらスマホを抱きしめるのだった。

「帰ったら影光とアインとも交換すると良い。あいつ等も嫌とは言わないだろうからな」
「分かったのだ」
「それじゃ帰る――っ!」
「うわっ!」
 俺は殺意を感じ取るとヘレンを出来抱えて横に跳んだ。
 一瞬さっき立っていた場所に視線を向けると2メートルはありそうな銀色の槍がアスファルトに突き刺さっていた。
 そして俺は殺意がこもった槍が飛んできた方向――ビルの屋上へと視線を向けなおす。
 そこには仮面を被って顔を隠している3人の姿を発見する。
 ったく予想通りと言うべきか。やっぱり面倒事に巻き込まれたな。ま、そうなるだろうと予想しながらもヘレンを助けて仲間にしたんだ。もう引き返す事は出来ない。
 それにしても運命の神様が居ると言うのであれば俺の人生はどうなってるのかね。まさかレイノーツ学園で起きた事件からまだ三日も経ってないって言うのにもう次の事件に巻き込まれてるんだからな。いや、今回は自分から足を踏み入れたから関係ないのか?

「ま、どちらにしても今はこの状況をどうにかしないとな」
 こんな人通りが多い場所で戦闘をおっぱじめるような連中と戦いたくはない。と言うよりもここで戦うわけにはいかない。
 周囲の気配からして危機的状況だと言う事は周りの人たちも気づいたんだろう直ぐに走って逃げ出している。
 やはりここら辺は前世の日本とは違うな。きっと日本なら何かの撮影かって勘違いして野次馬が集まって来ただろうからな。

「ジン、私を置いて逃げるのだ!アイツ等には勝てない!ましてや魔力が無いお前では勝つことなんて不可能だ!」
「不可能……ね」
 ヘレン、悪いな。俺はこれまで理不尽で不可能と思えるような場所で戦って生き抜いてきたんだ。だからこの程度の事で逃げるわけにはいかないんだよ。それに、

「仲間を置いて逃げるわけないだろうが」
「っ!」
 俺はそう言って2%まで力を出す。
 ったくせっかくのショッピングが台無しだ。
 ま、買ったものは全部アイテムボックスに入れてるから問題はないけど。
 それよりも問題なのは変な仮面を被っているアイツ等だ。
 1人1人から感じる気配。あれは正直に言ってヤバイ。
 影光ほどでは無いにしろ冒険者として活躍すれば間違いなくSランクの上位に入れるだけの実力を持っている。
 どうしてそんな奴等からヘレンが今まで怪我もせずに生きてこれたのか不思議なぐらいだ。
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