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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第六十九話 銀髪の吸血鬼少女 ③

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 俺は3人の敵から目を離す事無く警戒する。
 なんの動きを見せないのは向こうも俺たちを窺っているんだろう。

「っ!ってマジかよ!」
 と、最初は思っていた。
 先ほどまでアスファルトに突き刺さっていた銀色の槍が勝手に動き出し俺たち目掛けて再び襲ってきたのだ。
 ふざけるなよ。突き刺さった槍が勝手に俺たちを襲うなんてどんだけ高性能なホーミング機能が付いてんだよ!てか槍にそんな機能付けるんじゃねぇよ!
 どうにか躱したもののその場で槍の向きを変えて何度も俺たちを襲ってくる。
 ったくこんな事をしてくる敵があの島以外にも居るなんて思わなかったぞ!
 気まぐれ島の中枢近くに全長50メートルはある超巨大な亀が生息している。
 その巨大亀の名前は鉱杭皇帝亀エンペラータートル
 その亀の特徴的な所はその巨大な体だけじゃなく甲羅から生えた無数の杭。
 ダイヤモンド並みに硬い杭がどう言う訳ロケットのように襲ってくるのだ。それもホーミング機能付きで。まさに杭の形をしたロケットだ。
 ある程度強くなったとき師匠の命令で倒しに向かわされた事があったが、本当に死ぬかと思った。
 だって杭の中にある核を壊すまでどこまでも追ってくるんだからな。
 そんな杭と同じホーミング機能が付いたあの槍だが、どうやってこの状況を打開したものか。
(す、凄いのだ。初めてあった時、ジンから魔力は一切感じなかった。だから彼は1億人に1人の割合で産まれてくると言われている魔力なしの青年だとすぐに気づいたのだ。だけどそんなジンが冒険者で、それもあんな化物染みた仲間を持っていただけでも驚きなのにギルドマスターって言われた時は詐欺師にでも出くわしたのかと思ったのだだけど……)
 荷物のように抱えられているヘレンはその事に不満に感じている事を忘れるほどアクロバティックな動きで躱すジンの顔を見上げていた。
(いったい何者なのだ。魔力も一切感じない、なのに私でも躱すのがやっとのアイツの攻撃を私を抱えた状態で意図も容易く躱してる。それになんなのだこの全身を纏わり付くヒリヒリするような感覚は。ただ分かるのはさっきまで一緒に買い物してた時のジンとは別人なのだ)
 クソッ!さっきよりもホーミングの精度が上がってやがる。
 徐々に攻撃と攻撃の時間が短くなってやがる。
 ヘレンを抱きかかえたまま3%で躱しつづけるのはさすがにキツイか。
 仕方がない。上げる――

「槍の口金部分を狙って攻撃するのだ!そこが弱点なのだ!」
「っ!おらっ!」
 再び向きを反転して襲ってきた槍。
 俺はそれを見て力を上げようとした瞬間ヘレンがそう叫んだ。
 ナイス、アドバイス!内心そう思った瞬間笑みを浮かべていた。そして俺は躱して槍が目の前を通り過ぎる瞬間必殺技の一つ。十八番其の壱、%殴りで槍の口金部分を思いっきり殴る。
 一瞬だけ+1%上げて殴った拳は見事に槍を真っ二つに折った。
 真っ二つに折れた槍の柄と穂は地面に転がる。
 それを見て気を抜くことなく身構えるが動くことは無く、ただの鉄(?)の塊となっていた。

「サンキュー、ヘレン。どうにか凌ぐ事が出来たぜ」
「別に良いのだ。それよりもそろそろ下ろして欲しいのだが……」
 恥ずかしいのか俯いて呟くヘレン。少し顔が赤いような気がする。
 だけど誰にも見られてないんだし別に恥ずかしがる事無いだろうに。
 どうせ見られた所で兄弟と思われるか、もしくは俺が誘拐しているようにしか見えないから安心しろ。って安心できるわけないだろ!ヘレンの羞恥心とか関係なく俺の今後の人生に関ってくるじゃねぇかよ!
 そう思った瞬間俺は慌ててヘレンを下ろす。

「それで、お前らはいったい何者なんだ?」
『…………』
 無視ですか。
 真ん中のブラウンの長髪を靡かせる仮面を付けた女に問いかけたつもりだ。勿論答えてくれるなら誰でも良かったわけだが、まさか誰も答えてくれないとは。俺、ちょっと傷ついたぞ。
 今すぐ10%まで力を解放して戦って倒しても良いんだが、そうすると間違いなく被害が出るだろう。被害が出ると分かっていて街中で戦うわけにはいかない。別に道徳とか倫理とか、正義とかじゃないよ。ま、他人を巻き込むのは好きじゃないけど。俺が言っているのはこの戦いで壊れた物の弁償をいったい誰がするのかって話だ。俺は絶対に弁償金なんて払わないからな!ようやく資産とギルドのお金を合わせて830万弱貯まったんだ。それを弁償金に使ったら俺はまたしても借金生活に逆戻りになるに決まってるからな。
 それにアイツ等から感じる気配は正直只者じゃない。
 イザベラとも1人で戦えるほどの強さだ。まったく流石は世界で1、2を争う軍事国家だな。
 出てくる奴、出てくる奴の強さが尋常じゃない。スヴェルニ王国が生ぬるく感じてくるぜ。
 そんな奴相手に周りに被害を出さずに戦うなんて無理だ。
 いや、気絶させる程度なら出来るよ。だけどそれだけの力を出せば間違いなく地面を蹴った衝撃でアスファルトが砕けるだろうし、移動する際に起きた風圧で窓ガラスが割れるに決まってる。そんな無駄な金を払いたくないわけだよ俺は!
 だからここでの最善の手は、

「ヘレン、逃げるぞ!」
「え?ぅわっ!」
 俺はまたヘレンを抱きかかえて謎の仮面連中から逃げる。勿論地面を壊さない程度の力に抑えてだ。
 それを見た謎の仮面3人組は予想通り追いかけてきた。
 ヘレンを抱きかかえて歩道を走る俺とビルの上を身軽に跳んで追いかけてくる謎の仮面3人組。
 そんな光景が30分経った今でも続いている。
 クソッどこに逃げても追いかけてきやがって!
 人通りが多い場所に逃げようが、地下鉄に乗り込もうが、建物の中に入ろうがお構い無しだな!
 少しは周りに出る被害も考えて行動してもらいたいぜ。え?なんで人通りの多い場所に来ているのかって。そんなの決まってる。人が多ければ攻撃してこないと思ったからだ。
 それにしても流石に疲れてきた4%の力を開放しているとは言え、本気で走れば間違いなく周囲に被害が出るから本気で走れない。つまり今の俺は4%の力を解放はしているもののその半分以下の力しか出していない。と言うよりもそうせざる状態だ。だからと言って力を抑えれば体力まで制限されてしまう。なら力を開放して手加減して走れば良いのかもしれないが、そうすると精神的に疲れるからこれ以上は力を開放するわけにはいかない。まさに悪循環だな。
 だけどそろそろそれも終わることだろう。

「ジ、ジン!もう少しゆっくり走って欲しいのだ。気分が悪いのだぁ~」
「おい、今吐くなよ!」
 荷物を抱えるようにして走っているからお腹へと圧迫もあってか青ざめた顔で口元を押さえているヘレン。
 人気の多い路上で吐くなんてそれこそ羞恥でしかない。それに他の奴等から見たら俺はどう見ても誘拐犯にしか見えないだろうからな。
 ったくあいつ等はビルの上を移動して。

「それにもう直ぐすればこの駆けっこも終わるから安心しろ」
「そ、それはどう言う事なのだ?ウプッ」
 ヤバい。もうそろそろヘレンの我慢も限界に近い。頼むから早く来てくれ!
 そう思った瞬間、耳に銃声が聞こえたような気がした。
 俺は振り返り謎の仮面3人組に視線を向けると奴等はビルの上で立ち止まっていた。

「どうやら助けが来たみたいだぞ」
「え?」
 俺が見上げるビルをヘレンも見上げた。
 そこには俺たちではなく別の方向を見つめる謎の3人組の姿があった。
 俺はインカムを耳に装着する。

「助かったぞ」
『まったく、マスターの奴隷がマスターとマスターのメイドに迷惑を掛けるとはいったいどう言うつもりですか。帰ったら説明してもらいますからね。そしてその後に殺します』
「説明はするが、殺すと銀が怒るぞ」
『マスターを出すなんて、どこまで卑怯な奴隷なんでしょうか。やはり貴方は奴隷以下の姑息人間ですね』
 愚痴りながらもこうして助けてくれるんだから、アインは何気に優しいのかもしれない。口から吐かれている内容からは全然そうは思えないが。
 と言うか、最初に銀を持ち出したのはアインの方だろうが。

『2人とも口喧嘩をしている場合か』
「影光か。お前まで来てくれたのか」
『仲間の窮地と聞いたからな。今は怪しげな仮面を着けた連中と対面中だ』
「そうか」
 地下鉄に乗り込んだ時、連中の視界から消えることが出来た。その隙に俺はアインに連絡して救援を頼んだのだ。でもまさか影光まで来てくれるとは思ってなかった。
 アイツもアイツで根は仲間想いな所があるんだな。

「悪いが影光、1人ぐらいは拘束して欲しいんだが出来そうか」
『簡単なところだ。と言いたいが、こいつ等から感じる力は尋常じゃない。周囲に被害を出さずに倒すのは、ちと難しいな』
 影光でも難しいか。

『それにどうやら連中は続行不可能と判断したのか撤退したぞ』
「なにっ!」
 ったく、せっかく情報を引き出そうと思ってアインたちを呼んだのにこれじゃ意味ないじゃねか。
 と言うか、

「なんでアインは2発目を撃たなかったんだよ。今使っている武器はライフルなんだろ。ならお前の実力なら楽勝だろうが」
『確かに殺さずに無力化する事ぐらい造作も無いことです』
「だったら……」
『ですが、周囲に被害を出さないようにするのは不可能です。脚を狙って撃てばビルに着弾しますし、真っ直ぐ撃てばビルに着弾せずとも他のビルの窓を割っていました。上向きに撃てば間違いなく敵を殺していましたし』
「なら、さっきの1発はどうやったんだよ」
『敵の顔をギリギリ掠める程度のタイミングで上向きに撃っただけです』
「そ、そうか」
 なんて芸当だ。流石はレグウェス帝国が創ったサイボーグ。
 いや、今はそんな事よりもだ。

「いきなり呼びつけて悪かったな。今からギルドに戻って事情を聞くとしよう」
『賛成です』
『拙者も同意見だ』
「だとよ」
「だよね~」
 ヘレンの耳にもインカムを着けたので今までの会話は聞いていた。
 そんなヘレンは苦笑いを浮かべながら返事をするのだった。
 一度集まった俺たちは尾行されていないか、気配探知と魔力探知を使いながらギルドへと戻ってきた。
 リビングのソファーに座った俺たちは冷蔵庫から取り出したお茶を飲みながらヘレンの話を聞くことにした。

「それで、連中はいったい何者なんだ?」
 俺がそう尋ねると1人だけ未だに暗い顔で俯いているヘレンが少し怯えながらも口を開いた。

「奴等はヴァンパイアハンターなのだ」
「ヴァンパイアハンター?」
 いや意味は分かるよ。映画や漫画なんかで見たことあるし。だけどどうしてそんな連中がヘレンを襲うのかまったく理解出来ないんだ。

「吸血鬼狩りを専門にしている連中の事です。それぐらいの事も知らないのですか」
「知ってるわ!俺が聞きたいのはどうしてそんな連中がヘレンを狙っているのかって事だよ」
 呆れた目で俺を見つめるアイン。
 なんで同じ説明を2度もしないといけないんだよ。てか、なんで俺は2度も説明したんだ?ま、良いか。

「別に私たちヴァンパイアが忌み嫌われた種族だからではないのだ。原因なのは私の左目が原因なのだ」
「その中二病とも言えなくも無い眼帯のことか?」
「中二病ではないのだ!これは眼帯の下にある眼を封じるために着けているだけのだ!」
 おおっ!なんて中二病っぽい台詞なんだ。
 思わず拍手しそうになったが、どうにか堪える。だって今にもヘレンが泣きそうな顔をしているからな。
 と、言うかこの世界に中二病と言う言葉があること自体に驚きなんだが。でも前世よりも少し進んだ世界なんだからアニメや漫画があってもおかしくはないのか。

「それでその眼帯の下にある眼がなんだって言うんだ?」
「そ、それは……」
「魔眼か」
「っ!」
 影光の口から小さな声音で呟かれた言葉。
 その言葉にヘレンはビクッと体を反応させた。え?まさか本当なの?

「と、言うか実際に魔眼って実際するのか?」
『当然』
 俺の質問に全員が声を揃えて答えた。
 まさか一般常識だったとは知らなかった。

「魔眼にも色々とある。遠い場所を見ることが出来る千里眼タイプ。見た相手を魅了して僕にしてしまう催眠タイプなど、知られているだけで200人は居る」
 そ、そんなに居るのか。あ、でも世界人口から考えれば少ないのかもしれないな。
 俺と同じ送り人よりは多いけど。
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