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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第七十話 銀髪の吸血鬼少女 ④
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「それでヘレンが持っている魔眼の名前はなんて言うんだ?」
「私の魔眼の名前は『全痛覚眼』って言うのだ」
全痛覚眼?なんだそれは?
俺はそう思いヘレンに聞こうとした時、隣に座る影光が驚きの声を上げた。
「全幻痛眼だと!?」
「影光知っているのか?」
「知っているも何も七つの魔眼と言われている魔眼の中でも効果が凄いと言われている魔眼の1つだ」
「そんな凄い魔眼なのか」
「だが、全痛覚眼は忌み嫌われている魔眼の中でトップと言って良いほど最悪な魔眼の1つだ」
「何故だ?それだけ凄い力があるんだぞ」
「やはり貴方は馬鹿ですね。その効果が絶大すぎるからです」
一瞬アインの言葉がイラッとしたが、今は説明を聞くために押し殺す。
「全痛覚眼。その名の通りあらゆる痛みや苦しみを対象者に対して与える力です。この魔眼の最悪な所は本当に対象者を殺すことが出来るところです。勿論他の魔眼も使い方によっては殺すことも出来る物もあります。ですが全痛覚眼は最も残酷な殺し方で対象者を殺す事が出来ます。例えば体中に激痛を与えてショック死させるとかでしょうか。勿論魔眼の効果の強弱は持ち主が自由自在に操れますから徐々に強くして長い間苦しめながら殺す事だって可能です」
「マジかよ……」
そんな恐ろしい魔眼をヘレンが持っていると言うのか。全然想像も付かないんだが。
「他にも最悪な点がもう一つある。全痛覚眼は催眠タイプの魔眼なんだが、大抵催眠タイプの射程距離は15メートル~50メートルまでと言われている。だが全痛覚眼は100メートルの射程距離がある。つまり倍の距離にいる敵ですらその力を発揮することが出来るんだ」
そんな凄い力があるのか。まさにチート能力だな。
影光とアインの説明を聞いて俺は正直背筋が凍りそうになった。
「影光たちの説明した通りなのだ。私はこの魔眼のせいで同じヴァンパイアたちに恐れられ、嫌われて生きてきたのだ。そして最終的に両親が私を殺すためにヴァンパイアハンターを雇ったのだ。本当は私だってこんな力欲しくなかったのだ!普通に暮らして生きていたいのだ!」
涙を流しながらこれまで我慢していた気持ちを吐き出す。
ああ、分かってるよ。
誰だって生きたいよな。その証拠にヘレンはこれまで理不尽な運命と戦ってきたんだよな。
俺は違う理不尽と戦ってきた彼女。
「なるほどヘレンの魔眼の能力はよく分かった。それじゃ早速アイツ等とどう戦うか、作戦会議を開くぞ」
「え?ど、どうして……なのだ?」
充血した眼、頬には涙が流れた跡のある顔がキョトンとしていた。
まったく俺より年上の癖に分からないのか?
「何を言ってるんだ。俺たちは同じギルドメンバーで、仲間で、友達だろうが。これから同じビルの中で暮らす仲間を見捨てる奴がどこに居るんだよ。もしもそんな奴が居たらソイツはただの屑だ」
「ぅぇえええええええええええええええぇぇ!」
「お、おい泣くなよな!」
「カゲミツさん、あの屑男がいたいけな女の子を泣かせましたがどう思われますか?」
「これは死刑だな」
「ふざけれないで慰めるのを手伝えよ!それと影光もこんな時にアインに付き合う必要はないだろうが!」
「すまないな。つい見ていて面白くてな」
この野郎。後で覚えていろよ。
どうにか慰めた俺はヘレンの顔を真っ直ぐ見る。
「だから俺たちを頼れ。仲間なんだからな」
「仁の言うとおりだ。仲間になって日は浅いが同じギルドメンバーなのだから助け合うのは当然だ」
「私にとって魔眼などどうでもいい事です。私にとって最優先事項なのはマスターを護る事です。しかし貴方はマスターの魅力に気が付いた存在であり私が認めたのです。ですから死なれては困ります」
「う、うん。頼るのだ。だからお願いだから助けて欲しいのだ!」
「ああ、任せろ!」
まだ少し涙を流すヘレンの言葉に俺は自信を持って返事をするのだった。
さて、あのふざけたヴァンパイアハンターどもを倒す作戦会議と行きますか!
「まずヴァンパイアハンターに狙われ始めてどれぐらいなんだ?」
「もう10年になるのだ」
10年だと!?
つまりは12歳の時からと言う事だよな。そんな長い時をヘレンは1人で生き抜いてきたのか。
そう思うとやはり俺とは違う理不尽と戦っていたことに助けたいと思ってしまう。
「吸血鬼は魔族同様に身体能力が高くて魔力量も多い。それに加え夜になれば身体能力や魔力量が倍増する特殊体質を持っている。個人差はあるがな」
夜と違い日中が苦手、もしくは弱点と言うイメージの吸血鬼だが、どうやらそれは違うらしい。いや、その逆と言うべきだろう。日中が弱点なんじゃない。夜が吸血鬼の力が倍増するんだ。と、考えるともうそれはチートだよな。それに魔眼の持ち主ってチート+チートじゃんか!
「だけどヴァンパイアハンターは吸血鬼である私たちを討伐する専門の者たちだ。だから当時12歳だった私を殺しに来たのは三等執行官1人だけだった。勿論私は反撃した。生憎と私は戦闘センスがあったらしくどうにか倒す事が出来た。そして殺す瞬間に三等執行官が言ったのだ。私を殺すように依頼してきたのが自分の両親であると。その時私は絶望したのだしたのだ。私の事を忌み嫌い避けていた事を知っていた。だけどまさか殺させるとは思っていなかったのだ。
過去を語るヘレンの太ももに大粒の涙がポツポツと落ちる。
そんなのは当たり前だ。まさか自分を殺そうと依頼したのがまさか自分の両親なんてそんな理不尽な事実をまだ12歳の子供がしれば絶望するのは当たり前だ。
「だけど私は死にたくなかった。だから強くなるために家を飛び出して世界中を旅をする事に決めた。だけど12歳の子供が生きていくには今の時代は厳しすぎた。昔ながら直ぐにでも冒険者になれたのにな。と何度思ったことか」
当然だ。平和や平穏を作り出すには幾つもの法やルールを設けなければならない。その結果確かにこの世界は日本程では無いにしろ平和と言えるかもしれない。
だがそれが結果として1人の少女の運命をさらに厳しい棘の道へとしてしまう事だってある。
「だから私はこっそり魔物を狩ってはその肉を食べたり、肉を売って資金を集めたりして生き延びてきたのだ。でそれからは冒険者になってからは世界中を転々とし依頼を受けてお金を稼ぎ生きてきたのだが、なんど襲われたか分からないのだ。そして襲われるたびにヴァンパイアハンターの数は増え、また執行官の階級も上がっていったのだ」
見た目は11歳の少女にしか見えない。そんなへレンがそんな人生を送っていたなんてな。
そう思うと悲しみと怒りが渦巻いて仕方が無い。正直この苛立ちを今すぐにでもヴァンパイアハンターの連中に。いや、ヘレンの両親にぶつけてやりたい気分だ!
だけど、その前に。
「その執行官ってなんだ?」
そんな俺の言葉にヘレンと影光は驚いた表情を浮かべた。え?もしかしてこれも一般常識とかだったのか。それとアインは、またか。みたいな嘆息をしたあとにゴミを見るような目を俺に向けるんじゃない。
銀は興味が無いのか欠伸してるけど。
「仁、本当に知らないのか?」
「当たり前だろ。俺は冒険者だぞ。そんな吸血鬼専門にしている組織の事なんて知るわけ無いだろ」
「いや、そんな事はないぞ。たまに犯罪を犯した吸血鬼の討伐依頼があるときなんてのは合同で依頼をこなす時だってあるんだからな」
「え、そうなの?」
「本当に貴方はそれでも冒険者ですか?いえ、間違えました。それでも貴方は人間ですか?」
アインよ。なんで訂正しなおしたんだ。そこは訂正しなくて良いだろうが。
居心地が悪くなったのでお茶を飲んで気分を入れ替える。
「それで、その執行官ってのはなんなんだ?」
「冒険者で言うところのランクの事だ。ヴァンパイアハンターの場合は階級って言うけどな。一番下が三等執行官。その次は二等執行官」
「なら次は一等執行官だよな。三つしかないのか?」
「いや、その上に上等執行官、準特等、特等、超等と、全部で7つの階級がある」
全部で7つか。冒険者より随分と階級が少ないな。
「ただし一番下の三等執行官は冒険者のランクで言うところのDランクの実力がある」
Dランク。つまりは普通の冒険者と同じって事か。
普通と言えば弱そうに感じるかもしれないが、学園や養成学校に通っていた奴ならある程度の実力や知識はある。そんな奴を12歳の子供が倒すなんて本当に戦闘センスに恵まれていたか、相手が油断したか、運が良かったんだろうな。もしかしたらその全部の可能性だってある。
「ヴァンパイアハンターの本部はこの国から北北東にあるベラグール王国とヌイシャ連邦国との国境線近くにある。本部が立てられているのはヌイシャ連邦国の領土なんだが」
「またなんでそんな場所に?」
「理由としてはいくつかある。吸血鬼はよく魔族と同じ種族だと思われがちだが、全然違う種族だ。そのため国も魔王が治めているのではなく、吸血鬼が治めている。と言うよりもベラグール王国の9割が吸血鬼だ」
9割が吸血鬼って随分と他の種族が少ないな。
「私たち吸血鬼は閉鎖的と言うか、傲慢で他の種族を見下す傾向にあるのだ。未だに純血種が一番偉いって考えがあるぐらいだしな」
「こりゃまた時代錯誤な考えだな」
「私もそう思う。だけど大半の吸血鬼は違う。だから未だにベラグール王国では奴隷制度がある」
「ど、奴隷制度だと……」
そうだ。異世界と言えば中世ヨーロッパのような街並みと魔法と剣、人間以外の種族。そして奴隷だ。
あの気まぐれ島から出てこの大陸に来てあまりにも街並みが前世の日本と同じな事に驚いてすっかり忘れていたがこの国でもスヴェルニ王国でも奴隷は見なかった。と言うか奴隷の奴と言う文字すら聞かなかったような気がする。
「未だに奴隷制度がある国ってどれぐらいなんだ?」
「全部で50以上の国があるが、未だに奴隷制度がある国は全部で1割ぐらいだろう」
つまりは5つ。
あらゆるものが発展したこの時代で未だに奴隷制度があるなんて考えたくもないな。でも男としては奴隷を買うのは夢の1つだったりするんだよな~。だ、だからと言って俺は買わないぞ!この国は奴隷禁止だし。
「だから吸血鬼たちは隣国や他の国から人を攫って来たりしてるのだ」
「よくもそんな事が出来るな」
「さっきも言ったが私たち吸血鬼は他の種族全てが自分たちより劣っていると考えている。だから強者である自分たちが何をしても許されると思ってるんだ」
「まさに傲慢だな」
いや、傲慢以上だな。と言うか。考えが時代錯誤とか関係なしに幼稚すぎるだろ。
何が自分たちがこの世で一番強い種族だ。馬鹿じゃねぇの。なら何でヘレンに怯えて殺そうとするんだよ。同じ吸血鬼だからか?そんなのただの怯えだろうが。
「だからそれを防ぐためにヴァンパイアハンターの本部が吸血鬼の国であるベラグール王国の傍に造られたわけだな」
「その通りなのだ」
「よく分かった」
今回の敵はやはりヴァンパイアハンターの連中じゃない。いや邪魔をするなら容赦なく殴り飛ばすけど。そして今回の敵は間違いなくヘレンと同じ吸血鬼。それもヘレンの両親だ。
そう結論付けた俺はヘレンを真っ直ぐ見つめる。
「ヘレン」
「な、なんなのだ?」
ヘレンも俺の表情が変わったことに気づいたのか緊張した面持ちで俺を見つめ返す。
「先に聞いておきたい。お前を助けるために俺はお前の両親をぶっ飛ばさないといけないかもしれない。そうなれば相手の命の保障は出来ない。それでもお前は大丈夫か?」
「そ、それは………」
俺の言葉に一瞬目を見開けたかと思うと顔に影が落ちて俯いた。
当然の反応だ。なんせ俺はヘレンの両親を殺すかもしれないと言っているんだからな。そりゃぁ誰だって自分の両親を殺すかもしれない宣言されたら暗い顔になるのは当然だ。
「私の魔眼の名前は『全痛覚眼』って言うのだ」
全痛覚眼?なんだそれは?
俺はそう思いヘレンに聞こうとした時、隣に座る影光が驚きの声を上げた。
「全幻痛眼だと!?」
「影光知っているのか?」
「知っているも何も七つの魔眼と言われている魔眼の中でも効果が凄いと言われている魔眼の1つだ」
「そんな凄い魔眼なのか」
「だが、全痛覚眼は忌み嫌われている魔眼の中でトップと言って良いほど最悪な魔眼の1つだ」
「何故だ?それだけ凄い力があるんだぞ」
「やはり貴方は馬鹿ですね。その効果が絶大すぎるからです」
一瞬アインの言葉がイラッとしたが、今は説明を聞くために押し殺す。
「全痛覚眼。その名の通りあらゆる痛みや苦しみを対象者に対して与える力です。この魔眼の最悪な所は本当に対象者を殺すことが出来るところです。勿論他の魔眼も使い方によっては殺すことも出来る物もあります。ですが全痛覚眼は最も残酷な殺し方で対象者を殺す事が出来ます。例えば体中に激痛を与えてショック死させるとかでしょうか。勿論魔眼の効果の強弱は持ち主が自由自在に操れますから徐々に強くして長い間苦しめながら殺す事だって可能です」
「マジかよ……」
そんな恐ろしい魔眼をヘレンが持っていると言うのか。全然想像も付かないんだが。
「他にも最悪な点がもう一つある。全痛覚眼は催眠タイプの魔眼なんだが、大抵催眠タイプの射程距離は15メートル~50メートルまでと言われている。だが全痛覚眼は100メートルの射程距離がある。つまり倍の距離にいる敵ですらその力を発揮することが出来るんだ」
そんな凄い力があるのか。まさにチート能力だな。
影光とアインの説明を聞いて俺は正直背筋が凍りそうになった。
「影光たちの説明した通りなのだ。私はこの魔眼のせいで同じヴァンパイアたちに恐れられ、嫌われて生きてきたのだ。そして最終的に両親が私を殺すためにヴァンパイアハンターを雇ったのだ。本当は私だってこんな力欲しくなかったのだ!普通に暮らして生きていたいのだ!」
涙を流しながらこれまで我慢していた気持ちを吐き出す。
ああ、分かってるよ。
誰だって生きたいよな。その証拠にヘレンはこれまで理不尽な運命と戦ってきたんだよな。
俺は違う理不尽と戦ってきた彼女。
「なるほどヘレンの魔眼の能力はよく分かった。それじゃ早速アイツ等とどう戦うか、作戦会議を開くぞ」
「え?ど、どうして……なのだ?」
充血した眼、頬には涙が流れた跡のある顔がキョトンとしていた。
まったく俺より年上の癖に分からないのか?
「何を言ってるんだ。俺たちは同じギルドメンバーで、仲間で、友達だろうが。これから同じビルの中で暮らす仲間を見捨てる奴がどこに居るんだよ。もしもそんな奴が居たらソイツはただの屑だ」
「ぅぇえええええええええええええええぇぇ!」
「お、おい泣くなよな!」
「カゲミツさん、あの屑男がいたいけな女の子を泣かせましたがどう思われますか?」
「これは死刑だな」
「ふざけれないで慰めるのを手伝えよ!それと影光もこんな時にアインに付き合う必要はないだろうが!」
「すまないな。つい見ていて面白くてな」
この野郎。後で覚えていろよ。
どうにか慰めた俺はヘレンの顔を真っ直ぐ見る。
「だから俺たちを頼れ。仲間なんだからな」
「仁の言うとおりだ。仲間になって日は浅いが同じギルドメンバーなのだから助け合うのは当然だ」
「私にとって魔眼などどうでもいい事です。私にとって最優先事項なのはマスターを護る事です。しかし貴方はマスターの魅力に気が付いた存在であり私が認めたのです。ですから死なれては困ります」
「う、うん。頼るのだ。だからお願いだから助けて欲しいのだ!」
「ああ、任せろ!」
まだ少し涙を流すヘレンの言葉に俺は自信を持って返事をするのだった。
さて、あのふざけたヴァンパイアハンターどもを倒す作戦会議と行きますか!
「まずヴァンパイアハンターに狙われ始めてどれぐらいなんだ?」
「もう10年になるのだ」
10年だと!?
つまりは12歳の時からと言う事だよな。そんな長い時をヘレンは1人で生き抜いてきたのか。
そう思うとやはり俺とは違う理不尽と戦っていたことに助けたいと思ってしまう。
「吸血鬼は魔族同様に身体能力が高くて魔力量も多い。それに加え夜になれば身体能力や魔力量が倍増する特殊体質を持っている。個人差はあるがな」
夜と違い日中が苦手、もしくは弱点と言うイメージの吸血鬼だが、どうやらそれは違うらしい。いや、その逆と言うべきだろう。日中が弱点なんじゃない。夜が吸血鬼の力が倍増するんだ。と、考えるともうそれはチートだよな。それに魔眼の持ち主ってチート+チートじゃんか!
「だけどヴァンパイアハンターは吸血鬼である私たちを討伐する専門の者たちだ。だから当時12歳だった私を殺しに来たのは三等執行官1人だけだった。勿論私は反撃した。生憎と私は戦闘センスがあったらしくどうにか倒す事が出来た。そして殺す瞬間に三等執行官が言ったのだ。私を殺すように依頼してきたのが自分の両親であると。その時私は絶望したのだしたのだ。私の事を忌み嫌い避けていた事を知っていた。だけどまさか殺させるとは思っていなかったのだ。
過去を語るヘレンの太ももに大粒の涙がポツポツと落ちる。
そんなのは当たり前だ。まさか自分を殺そうと依頼したのがまさか自分の両親なんてそんな理不尽な事実をまだ12歳の子供がしれば絶望するのは当たり前だ。
「だけど私は死にたくなかった。だから強くなるために家を飛び出して世界中を旅をする事に決めた。だけど12歳の子供が生きていくには今の時代は厳しすぎた。昔ながら直ぐにでも冒険者になれたのにな。と何度思ったことか」
当然だ。平和や平穏を作り出すには幾つもの法やルールを設けなければならない。その結果確かにこの世界は日本程では無いにしろ平和と言えるかもしれない。
だがそれが結果として1人の少女の運命をさらに厳しい棘の道へとしてしまう事だってある。
「だから私はこっそり魔物を狩ってはその肉を食べたり、肉を売って資金を集めたりして生き延びてきたのだ。でそれからは冒険者になってからは世界中を転々とし依頼を受けてお金を稼ぎ生きてきたのだが、なんど襲われたか分からないのだ。そして襲われるたびにヴァンパイアハンターの数は増え、また執行官の階級も上がっていったのだ」
見た目は11歳の少女にしか見えない。そんなへレンがそんな人生を送っていたなんてな。
そう思うと悲しみと怒りが渦巻いて仕方が無い。正直この苛立ちを今すぐにでもヴァンパイアハンターの連中に。いや、ヘレンの両親にぶつけてやりたい気分だ!
だけど、その前に。
「その執行官ってなんだ?」
そんな俺の言葉にヘレンと影光は驚いた表情を浮かべた。え?もしかしてこれも一般常識とかだったのか。それとアインは、またか。みたいな嘆息をしたあとにゴミを見るような目を俺に向けるんじゃない。
銀は興味が無いのか欠伸してるけど。
「仁、本当に知らないのか?」
「当たり前だろ。俺は冒険者だぞ。そんな吸血鬼専門にしている組織の事なんて知るわけ無いだろ」
「いや、そんな事はないぞ。たまに犯罪を犯した吸血鬼の討伐依頼があるときなんてのは合同で依頼をこなす時だってあるんだからな」
「え、そうなの?」
「本当に貴方はそれでも冒険者ですか?いえ、間違えました。それでも貴方は人間ですか?」
アインよ。なんで訂正しなおしたんだ。そこは訂正しなくて良いだろうが。
居心地が悪くなったのでお茶を飲んで気分を入れ替える。
「それで、その執行官ってのはなんなんだ?」
「冒険者で言うところのランクの事だ。ヴァンパイアハンターの場合は階級って言うけどな。一番下が三等執行官。その次は二等執行官」
「なら次は一等執行官だよな。三つしかないのか?」
「いや、その上に上等執行官、準特等、特等、超等と、全部で7つの階級がある」
全部で7つか。冒険者より随分と階級が少ないな。
「ただし一番下の三等執行官は冒険者のランクで言うところのDランクの実力がある」
Dランク。つまりは普通の冒険者と同じって事か。
普通と言えば弱そうに感じるかもしれないが、学園や養成学校に通っていた奴ならある程度の実力や知識はある。そんな奴を12歳の子供が倒すなんて本当に戦闘センスに恵まれていたか、相手が油断したか、運が良かったんだろうな。もしかしたらその全部の可能性だってある。
「ヴァンパイアハンターの本部はこの国から北北東にあるベラグール王国とヌイシャ連邦国との国境線近くにある。本部が立てられているのはヌイシャ連邦国の領土なんだが」
「またなんでそんな場所に?」
「理由としてはいくつかある。吸血鬼はよく魔族と同じ種族だと思われがちだが、全然違う種族だ。そのため国も魔王が治めているのではなく、吸血鬼が治めている。と言うよりもベラグール王国の9割が吸血鬼だ」
9割が吸血鬼って随分と他の種族が少ないな。
「私たち吸血鬼は閉鎖的と言うか、傲慢で他の種族を見下す傾向にあるのだ。未だに純血種が一番偉いって考えがあるぐらいだしな」
「こりゃまた時代錯誤な考えだな」
「私もそう思う。だけど大半の吸血鬼は違う。だから未だにベラグール王国では奴隷制度がある」
「ど、奴隷制度だと……」
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「未だに奴隷制度がある国ってどれぐらいなんだ?」
「全部で50以上の国があるが、未だに奴隷制度がある国は全部で1割ぐらいだろう」
つまりは5つ。
あらゆるものが発展したこの時代で未だに奴隷制度があるなんて考えたくもないな。でも男としては奴隷を買うのは夢の1つだったりするんだよな~。だ、だからと言って俺は買わないぞ!この国は奴隷禁止だし。
「だから吸血鬼たちは隣国や他の国から人を攫って来たりしてるのだ」
「よくもそんな事が出来るな」
「さっきも言ったが私たち吸血鬼は他の種族全てが自分たちより劣っていると考えている。だから強者である自分たちが何をしても許されると思ってるんだ」
「まさに傲慢だな」
いや、傲慢以上だな。と言うか。考えが時代錯誤とか関係なしに幼稚すぎるだろ。
何が自分たちがこの世で一番強い種族だ。馬鹿じゃねぇの。なら何でヘレンに怯えて殺そうとするんだよ。同じ吸血鬼だからか?そんなのただの怯えだろうが。
「だからそれを防ぐためにヴァンパイアハンターの本部が吸血鬼の国であるベラグール王国の傍に造られたわけだな」
「その通りなのだ」
「よく分かった」
今回の敵はやはりヴァンパイアハンターの連中じゃない。いや邪魔をするなら容赦なく殴り飛ばすけど。そして今回の敵は間違いなくヘレンと同じ吸血鬼。それもヘレンの両親だ。
そう結論付けた俺はヘレンを真っ直ぐ見つめる。
「ヘレン」
「な、なんなのだ?」
ヘレンも俺の表情が変わったことに気づいたのか緊張した面持ちで俺を見つめ返す。
「先に聞いておきたい。お前を助けるために俺はお前の両親をぶっ飛ばさないといけないかもしれない。そうなれば相手の命の保障は出来ない。それでもお前は大丈夫か?」
「そ、それは………」
俺の言葉に一瞬目を見開けたかと思うと顔に影が落ちて俯いた。
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タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
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