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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第七十三話 銀髪の吸血鬼少女 ⑦
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「そう言えばジンはヤマト皇国出身なのか?」
「ん?ま、そんなところだ」
これから同じビルで暮らす仲間だが悪いが話せない。
その事に少し悲しみを覚えたが、別に話さなくても問題は無いだろう。
そんな他愛も無い雑談をしているとアイーシャのキーボードをタイピングする音が止まった事に気がついた俺たちは視線を向けた。
「ヘレンちゃん、登録したわよ。これで貴女も今日からフリーダムのギルドメンバーね」
アイーシャに手渡された冒険者免許書に表示されたギルド、フリーダム所属と言う文字にヘレンは嬉しそうに見詰めるのだった。
やはり生まれてこの方友達や仲間が居なかったことが相当辛かったんだろう。
だが、今日からは違う。
「ヘレン、今日からお前は正式にフリーダムの仲間だ」
「うんっ!」
少し涙目のヘレン。しかし彼女の顔には笑みが浮かんでいた。
今日からヘレンは俺たちの仲間だ。
そう思うと俺も笑みが零れてしまうのだった。
ヘレンのギルド登録を終えた俺たちは拠点に戻る。
冒険者組合に居た時間は40分ぐらいだろう。
だからそこまで夜の街を歩く人々の数も減ってはいない。
しかしホームに近づくにつれその数は減っていく。ま、俺たちのホームが街外れと言っても過言ではない場所にあるからなんだが。
シャッターが下ろされたお店が立ち並ぶ商店街を抜けてゴーストタウンとも言えなくも無い48区に入る。
10月も終わりに違い今の時期の夜は流石に冷える。
歩道では浮浪者と思しき奴等やチンピラが火を焚いたドラム缶を囲んで暖を取っている。
これじゃゴーストタウンじゃなくてスラム街に近いと言った方が良いな。だって映画とかで見たことがある光景だもん。
実力主義の帝国。それは戦闘能力だけに止まらない。
だからこそ普通の仕事でも実力がある奴は出世をし、無い奴は平社員のまま。最悪解雇されてしまう。
だからこそ富裕層と貧困層の差が分かりやすいほどまでに見えてくる。きっと正義感の強い奴ならこの光景に腹を立てるだろうな。
ま、そんな話はどうでも良い。
そんな街を歩きながらホームへと辿り着いた俺たちはエレベーターに乗って3階にあるリビングへと上がる。きっとアインが綺麗にしてくれてるんだろうな。ま、ソファーと絨毯は替え変えないと駄目だけど。
そんな事を考えながらリビングのドアを開けた。
掃除が終わったのか、死体も壁や床に飛び散った血も綺麗になっているリビングのソファーに座っている影光とアイン。
そしてその対面には仮面を被ってるヴァンパイアハンター3人組の姿があった。
「おい、これはいったいどう言う状況だ?」
ヘレンもヴァンパイアハンターが目に飛び込んできたのか。体をビクッ!と震えさせると俺の袖を強く握り締めてきた。大丈夫だヘレン。必ず俺が護ってやるからな。
「なんでも私たちに話があるそうですよ」
「話?まさか今すぐヘレンを渡せって言いに来たんじゃないだろうな?」
敵意を飛ばしながら俺は鋭い視線をヴァンパイアハンターの3人に向ける。
「いえ、私たちはもう彼女を抹殺するつもりも、拘束して連れて帰るつもりもありません」
そう返事したのは3人の中でリーダーと思しき金髪の女性。そうコイツは以前俺とヘレンに槍で攻撃してきた奴だ。
俺はちゃんと話すべく女と対峙するかたちでソファーに腰を下ろした。
「よく言うぜ。数時間前までヘレンを殺そうとした奴が」
「一時撤退したあと、抹殺対象者に仲間が出来た事を本部に伝えたところ、上司から抹殺が中止になったのです」
「そんな嘘は通用しないぜ。なんせ1時間前にもお前等の仲間が襲ってきたんだからな」
「それに関しては返す言葉もありません。しかし言い訳をさせて頂けるのでしたら、私たちヴァンパイアハンターの組織も一枚岩じゃないのです。きっと一時間前に襲撃して来た連中は敵対派閥だと思います」
敵対派閥と言う言葉を耳にしただけで嫌な予感が脳裏に過ぎる。
自ら面倒事へと足を踏み入れたとは言え、まさか別の面倒事まで関わる羽目になるんじゃないだろうな。それだけはどうにかして回避したい。
だがそのためにはまずコイツ等の話を聞かないとな。だが、その前にだ。
「なら、この部屋の弁償代と慰謝料は誰に求めれば良いんだ?あんた等が払ってくれるんなら俺たちは問題ないんだが?」
「……分かりました。お支払いいたしましょう」
よしっ!これで自腹で修理する必要がなくなったぜ。
内心ガッツポーズした俺は本題へと入るために頭を切り替えた。
「いったいお前等ヴァンパイアハンターに何が起きてるんだ?」
「私たちが属している派閥は正当派閥。私たち正当派閥は吸血鬼たちの不穏な動きを監視したり、犯罪を犯した吸血鬼たちを抹殺する派閥です。と言うよりもそれがヴァンパイアハンターの本来の仕事なのです。ですが、私たちと敵対する派閥のヴァンパイアハンターたちはお金に目が眩み吸血鬼たちと結託し人攫いの手助けをしたり、見逃したりとお金のために好き放題に暴れているのです。それどころか闇ギルドのような暗殺依頼まで引き受ける始末」
悔しそうに話す金髪仮面女。
なんと言うずぶずぶな癒着関係なんだ。
どこにでも私利私欲に走る連中って言うのは居るものだな。
「何より今回私たちは罪も無い吸血鬼の少女を謝って殺すところでした」
「おい、それって」
「はい。ヘレンさんの事です。上司からの命令でヘレンさんが悪逆非道の吸血鬼と知らされ抹殺しようとしました。しかし連絡した際。どうやら敵対派閥が偽造した暗殺の依頼だと発覚したのです。ですから私たちはこの任務から降りました。しかしその事を知った敵対派閥が同じ派閥の部下たちを使って暗殺しようとしたのでしょう。ま、失敗に終わったようですが」
なるほどな。通りでこの女たちと戦った時よりも手応えがないわけだ。
「だけど連絡して敵対派閥が直ぐにでも暗殺部隊を送り込んできたって事は内通者が居るって事じゃないのか?」
「残念な事にその通りです。ですがそれに関しては私たちの仲間が裏切り者を探している最中なのでご心配なく」
ま、そうだろうな。
それにしてもまさかヴァンパイアハンターの組織が派閥同士で争っているとはな。
そんな事をしてるから馬鹿な吸血鬼どもに好き勝手されるんじゃないのか?って言いたいところだが、それは彼女たちも分かっているはずだ。だからこそここに来たと考えるのが妥当かもしれない。
ま、自惚れかもしれないので念のために質問してみた。
「それでそんな自分たちの恥を晒してまで俺たちになんのようだ?」
「どうかお願いします。私たちに力を貸してください。私たちだけではもうどうする事も出来ないのです」
予想通りの展開だ。だがなこの依頼を受けたら間違いなく面倒事に足を突っ込む事になるしな。さてどうしたものか。
ま、もう少し話を聞いてみてからだな。
「いくつか質問したいんだが、どうして俺たちに頼る」
「こうして私たちが冒険者である貴方たちと接触していることが敵対派閥に知られれば間違いなくヴァンパイアハンター同士で戦争になります。今は睨み合い状態。行動したとしてもそれは水面下での戦いです。ですが何れ戦争となるでしょう。そうなれば間違いなく敵側には吸血鬼が増援として力を貸すでしょう。そうなれば私たちは負けてしまいます。それならば危険を承知で貴方たちの力を借りたいのです」
なるほど。少しでも戦力が欲しいわけか。確かに冒険者の仕事は魔物の退治や薬草なんかの最中が一般的だが護衛だってしたりする。なんせ冒険者は傭兵であり、ギルドは民間軍事会社なのだから。勿論法に触れない程度のだけど。
だから冒険者を頼るのは間違ってはいない。だけど一番重要な部分が抜けている。
「もう一度言うぞ。どうして俺たちフリーダムに頼む。腕の良い冒険者なら他にもあるはずだ」
「敵対する派閥とは力が拮抗しています。ですから吸血鬼を相手にする余裕がないのです。ですから貴方たちに吸血鬼の相手をして貰いたいのです。しかし弱い冒険者を何人集めようと勝てる見込みがあるとは思えませんし、何よりそれだけの人数で移動すれば間違いなく敵対派閥に気づかれてしまいます。ですからたった1人で吸血鬼を倒せるだけの力を持った少数精鋭でなければならないのです。ですから私たちは――」
「俺たちに頼み込んだって言うわけだな」
俺は彼女の言葉を遮るように次の言葉を口にした。
しかし彼女はそれで腹を立てる事無く、「その通りです」と答えた。
「私の誘導抹殺槍を躱したオニガワラ・ジンさん。あらゆる銃器を手足のように操る戦闘メイドのアインさん。世界最強の剣豪と謳われるトウドウ・カゲミツさん。貴方たちほど今回の依頼を頼めるギルドは存在しません。ですからどうか私たちに力を貸していただけないでしょうか!」
そう言って彼女は頭を下げ、それに合わせる様に両隣に座っていた仲間も無言で頭を下げた。
彼女の声音や言葉に嘘や偽りがあるとは思えない。それどころか本当に仲間を大切に思っているようにも思える。だから、良いぞ。と言いたいところだが、そう言う訳にはいかない。
「お前たちの気持ちは分かった。だが名前も顔も隠しているような連中の言葉を信じれるほど俺は優しくも馬鹿でもないんでな。悪いが仮面を外して貰えないか?勿論他の2人もだ」
「構いませんよ」
あれ?案外すんなりと承諾したな。何のために仮面を被っているのか逆に問いたいぐらいなんだが。
そう言って金髪の女性は仮面を外すと翡翠色の右目と蒼天の如し左目。仮面には外を見る穴があるがこちらからは見えないように細工されているため分からなかったが、まさかオッドアイだったのか。
両隣の2人は髪の毛の色が黒と白と言う違いがあるだけで目の色も顔立ちも瓜二つの男の双子だった。
「私は特等執行官のハルナ・マーベラスと言います。この2人はエテとイヴェールです」
「兄のエテ・テンプス」
「弟のイヴェール・テンプスです」
ハルナの挨拶を終えると双子が軽く会釈しながら挨拶をした。
なるほど黒髪の方が兄のエテで、白髪の方が弟のイヴェールか。間違えないようにまずは髪の毛を見て判別しよう。
「これで問題はありませんね」
「問題はありませんね。って言われてもな~」
今回の事を俺1人で決めるわけにはいかない。
なんせ俺はギルドマスター。
ギルドマスターはギルドメンバーの命を預かっている。だからおいそれと返事をするわけにはいかないのだ。
「因みに見事私たちの派閥が勝利した場合、報酬は1000万RK支払うつもりです」
「よし、引き受けた!」
俺はギルドマスターだ。
ギルドマスターはギルドの事を考えなければならない。つまりは今後色々と物入りになるだろう事を考えるならこの依頼を断る理由はない。なんせ弁償代+慰謝料+1000万RKなんだからな!
それにアインや影光が殺られるとは思えない。ヘレンは一応連れて行くが、ま、後方担当だろうな。だから3人ともジト目を俺に向けないで欲しい。断じてお金に負けたわけじゃない。
これは今後のギルドの事を考えた立派な判断なのだ。
だって1000万RKだぞ!そんな大金が入ってきたらどれだけ遊んで……ギルドのために色々な物が買えると思ってるんだ。
今回も指名依頼だからギルド口座に2割入るわけだ。つまり200万RK入ることになる。残りの800万RKを全員で山分けしても1人200万RK。こんな美味しいじゃなくて好条件の依頼は早々ない。ましてやBランクの俺が受けられる依頼でこれほどの高額報酬があるわけがない。
ましてや相手は吸血鬼。俺や銀にとって良い戦闘経験が出来るに違いない。それどころかヘレンも仲間に入った事だしパーティーとして連携の実戦訓練にもなる。
まさに一石二鳥。いや、三鳥と言えるだろう。
つまりは受けない理由が無い!と言うわけだ。だから断じてお金に目が眩んだわけじゃない!
「それでは、私たちからの依頼を受けると言う形で構いませんね?」
「ああ、構わない。だが明日皇宮に呼ばれているからな。それが終わるまで待って貰えないか?」
「別に構いませんが、何故皇宮に?」
「ヘレンの事で呼び出されている。どうやらへレンが家出したから迎えに来たとかなんとか。言ってボルキュス陛下の力を利用しているようだ」
「それは完全に罠です」
「罠」
「罠です」
ハルナの言葉に続くように双子も答える。
「ん?ま、そんなところだ」
これから同じビルで暮らす仲間だが悪いが話せない。
その事に少し悲しみを覚えたが、別に話さなくても問題は無いだろう。
そんな他愛も無い雑談をしているとアイーシャのキーボードをタイピングする音が止まった事に気がついた俺たちは視線を向けた。
「ヘレンちゃん、登録したわよ。これで貴女も今日からフリーダムのギルドメンバーね」
アイーシャに手渡された冒険者免許書に表示されたギルド、フリーダム所属と言う文字にヘレンは嬉しそうに見詰めるのだった。
やはり生まれてこの方友達や仲間が居なかったことが相当辛かったんだろう。
だが、今日からは違う。
「ヘレン、今日からお前は正式にフリーダムの仲間だ」
「うんっ!」
少し涙目のヘレン。しかし彼女の顔には笑みが浮かんでいた。
今日からヘレンは俺たちの仲間だ。
そう思うと俺も笑みが零れてしまうのだった。
ヘレンのギルド登録を終えた俺たちは拠点に戻る。
冒険者組合に居た時間は40分ぐらいだろう。
だからそこまで夜の街を歩く人々の数も減ってはいない。
しかしホームに近づくにつれその数は減っていく。ま、俺たちのホームが街外れと言っても過言ではない場所にあるからなんだが。
シャッターが下ろされたお店が立ち並ぶ商店街を抜けてゴーストタウンとも言えなくも無い48区に入る。
10月も終わりに違い今の時期の夜は流石に冷える。
歩道では浮浪者と思しき奴等やチンピラが火を焚いたドラム缶を囲んで暖を取っている。
これじゃゴーストタウンじゃなくてスラム街に近いと言った方が良いな。だって映画とかで見たことがある光景だもん。
実力主義の帝国。それは戦闘能力だけに止まらない。
だからこそ普通の仕事でも実力がある奴は出世をし、無い奴は平社員のまま。最悪解雇されてしまう。
だからこそ富裕層と貧困層の差が分かりやすいほどまでに見えてくる。きっと正義感の強い奴ならこの光景に腹を立てるだろうな。
ま、そんな話はどうでも良い。
そんな街を歩きながらホームへと辿り着いた俺たちはエレベーターに乗って3階にあるリビングへと上がる。きっとアインが綺麗にしてくれてるんだろうな。ま、ソファーと絨毯は替え変えないと駄目だけど。
そんな事を考えながらリビングのドアを開けた。
掃除が終わったのか、死体も壁や床に飛び散った血も綺麗になっているリビングのソファーに座っている影光とアイン。
そしてその対面には仮面を被ってるヴァンパイアハンター3人組の姿があった。
「おい、これはいったいどう言う状況だ?」
ヘレンもヴァンパイアハンターが目に飛び込んできたのか。体をビクッ!と震えさせると俺の袖を強く握り締めてきた。大丈夫だヘレン。必ず俺が護ってやるからな。
「なんでも私たちに話があるそうですよ」
「話?まさか今すぐヘレンを渡せって言いに来たんじゃないだろうな?」
敵意を飛ばしながら俺は鋭い視線をヴァンパイアハンターの3人に向ける。
「いえ、私たちはもう彼女を抹殺するつもりも、拘束して連れて帰るつもりもありません」
そう返事したのは3人の中でリーダーと思しき金髪の女性。そうコイツは以前俺とヘレンに槍で攻撃してきた奴だ。
俺はちゃんと話すべく女と対峙するかたちでソファーに腰を下ろした。
「よく言うぜ。数時間前までヘレンを殺そうとした奴が」
「一時撤退したあと、抹殺対象者に仲間が出来た事を本部に伝えたところ、上司から抹殺が中止になったのです」
「そんな嘘は通用しないぜ。なんせ1時間前にもお前等の仲間が襲ってきたんだからな」
「それに関しては返す言葉もありません。しかし言い訳をさせて頂けるのでしたら、私たちヴァンパイアハンターの組織も一枚岩じゃないのです。きっと一時間前に襲撃して来た連中は敵対派閥だと思います」
敵対派閥と言う言葉を耳にしただけで嫌な予感が脳裏に過ぎる。
自ら面倒事へと足を踏み入れたとは言え、まさか別の面倒事まで関わる羽目になるんじゃないだろうな。それだけはどうにかして回避したい。
だがそのためにはまずコイツ等の話を聞かないとな。だが、その前にだ。
「なら、この部屋の弁償代と慰謝料は誰に求めれば良いんだ?あんた等が払ってくれるんなら俺たちは問題ないんだが?」
「……分かりました。お支払いいたしましょう」
よしっ!これで自腹で修理する必要がなくなったぜ。
内心ガッツポーズした俺は本題へと入るために頭を切り替えた。
「いったいお前等ヴァンパイアハンターに何が起きてるんだ?」
「私たちが属している派閥は正当派閥。私たち正当派閥は吸血鬼たちの不穏な動きを監視したり、犯罪を犯した吸血鬼たちを抹殺する派閥です。と言うよりもそれがヴァンパイアハンターの本来の仕事なのです。ですが、私たちと敵対する派閥のヴァンパイアハンターたちはお金に目が眩み吸血鬼たちと結託し人攫いの手助けをしたり、見逃したりとお金のために好き放題に暴れているのです。それどころか闇ギルドのような暗殺依頼まで引き受ける始末」
悔しそうに話す金髪仮面女。
なんと言うずぶずぶな癒着関係なんだ。
どこにでも私利私欲に走る連中って言うのは居るものだな。
「何より今回私たちは罪も無い吸血鬼の少女を謝って殺すところでした」
「おい、それって」
「はい。ヘレンさんの事です。上司からの命令でヘレンさんが悪逆非道の吸血鬼と知らされ抹殺しようとしました。しかし連絡した際。どうやら敵対派閥が偽造した暗殺の依頼だと発覚したのです。ですから私たちはこの任務から降りました。しかしその事を知った敵対派閥が同じ派閥の部下たちを使って暗殺しようとしたのでしょう。ま、失敗に終わったようですが」
なるほどな。通りでこの女たちと戦った時よりも手応えがないわけだ。
「だけど連絡して敵対派閥が直ぐにでも暗殺部隊を送り込んできたって事は内通者が居るって事じゃないのか?」
「残念な事にその通りです。ですがそれに関しては私たちの仲間が裏切り者を探している最中なのでご心配なく」
ま、そうだろうな。
それにしてもまさかヴァンパイアハンターの組織が派閥同士で争っているとはな。
そんな事をしてるから馬鹿な吸血鬼どもに好き勝手されるんじゃないのか?って言いたいところだが、それは彼女たちも分かっているはずだ。だからこそここに来たと考えるのが妥当かもしれない。
ま、自惚れかもしれないので念のために質問してみた。
「それでそんな自分たちの恥を晒してまで俺たちになんのようだ?」
「どうかお願いします。私たちに力を貸してください。私たちだけではもうどうする事も出来ないのです」
予想通りの展開だ。だがなこの依頼を受けたら間違いなく面倒事に足を突っ込む事になるしな。さてどうしたものか。
ま、もう少し話を聞いてみてからだな。
「いくつか質問したいんだが、どうして俺たちに頼る」
「こうして私たちが冒険者である貴方たちと接触していることが敵対派閥に知られれば間違いなくヴァンパイアハンター同士で戦争になります。今は睨み合い状態。行動したとしてもそれは水面下での戦いです。ですが何れ戦争となるでしょう。そうなれば間違いなく敵側には吸血鬼が増援として力を貸すでしょう。そうなれば私たちは負けてしまいます。それならば危険を承知で貴方たちの力を借りたいのです」
なるほど。少しでも戦力が欲しいわけか。確かに冒険者の仕事は魔物の退治や薬草なんかの最中が一般的だが護衛だってしたりする。なんせ冒険者は傭兵であり、ギルドは民間軍事会社なのだから。勿論法に触れない程度のだけど。
だから冒険者を頼るのは間違ってはいない。だけど一番重要な部分が抜けている。
「もう一度言うぞ。どうして俺たちフリーダムに頼む。腕の良い冒険者なら他にもあるはずだ」
「敵対する派閥とは力が拮抗しています。ですから吸血鬼を相手にする余裕がないのです。ですから貴方たちに吸血鬼の相手をして貰いたいのです。しかし弱い冒険者を何人集めようと勝てる見込みがあるとは思えませんし、何よりそれだけの人数で移動すれば間違いなく敵対派閥に気づかれてしまいます。ですからたった1人で吸血鬼を倒せるだけの力を持った少数精鋭でなければならないのです。ですから私たちは――」
「俺たちに頼み込んだって言うわけだな」
俺は彼女の言葉を遮るように次の言葉を口にした。
しかし彼女はそれで腹を立てる事無く、「その通りです」と答えた。
「私の誘導抹殺槍を躱したオニガワラ・ジンさん。あらゆる銃器を手足のように操る戦闘メイドのアインさん。世界最強の剣豪と謳われるトウドウ・カゲミツさん。貴方たちほど今回の依頼を頼めるギルドは存在しません。ですからどうか私たちに力を貸していただけないでしょうか!」
そう言って彼女は頭を下げ、それに合わせる様に両隣に座っていた仲間も無言で頭を下げた。
彼女の声音や言葉に嘘や偽りがあるとは思えない。それどころか本当に仲間を大切に思っているようにも思える。だから、良いぞ。と言いたいところだが、そう言う訳にはいかない。
「お前たちの気持ちは分かった。だが名前も顔も隠しているような連中の言葉を信じれるほど俺は優しくも馬鹿でもないんでな。悪いが仮面を外して貰えないか?勿論他の2人もだ」
「構いませんよ」
あれ?案外すんなりと承諾したな。何のために仮面を被っているのか逆に問いたいぐらいなんだが。
そう言って金髪の女性は仮面を外すと翡翠色の右目と蒼天の如し左目。仮面には外を見る穴があるがこちらからは見えないように細工されているため分からなかったが、まさかオッドアイだったのか。
両隣の2人は髪の毛の色が黒と白と言う違いがあるだけで目の色も顔立ちも瓜二つの男の双子だった。
「私は特等執行官のハルナ・マーベラスと言います。この2人はエテとイヴェールです」
「兄のエテ・テンプス」
「弟のイヴェール・テンプスです」
ハルナの挨拶を終えると双子が軽く会釈しながら挨拶をした。
なるほど黒髪の方が兄のエテで、白髪の方が弟のイヴェールか。間違えないようにまずは髪の毛を見て判別しよう。
「これで問題はありませんね」
「問題はありませんね。って言われてもな~」
今回の事を俺1人で決めるわけにはいかない。
なんせ俺はギルドマスター。
ギルドマスターはギルドメンバーの命を預かっている。だからおいそれと返事をするわけにはいかないのだ。
「因みに見事私たちの派閥が勝利した場合、報酬は1000万RK支払うつもりです」
「よし、引き受けた!」
俺はギルドマスターだ。
ギルドマスターはギルドの事を考えなければならない。つまりは今後色々と物入りになるだろう事を考えるならこの依頼を断る理由はない。なんせ弁償代+慰謝料+1000万RKなんだからな!
それにアインや影光が殺られるとは思えない。ヘレンは一応連れて行くが、ま、後方担当だろうな。だから3人ともジト目を俺に向けないで欲しい。断じてお金に負けたわけじゃない。
これは今後のギルドの事を考えた立派な判断なのだ。
だって1000万RKだぞ!そんな大金が入ってきたらどれだけ遊んで……ギルドのために色々な物が買えると思ってるんだ。
今回も指名依頼だからギルド口座に2割入るわけだ。つまり200万RK入ることになる。残りの800万RKを全員で山分けしても1人200万RK。こんな美味しいじゃなくて好条件の依頼は早々ない。ましてやBランクの俺が受けられる依頼でこれほどの高額報酬があるわけがない。
ましてや相手は吸血鬼。俺や銀にとって良い戦闘経験が出来るに違いない。それどころかヘレンも仲間に入った事だしパーティーとして連携の実戦訓練にもなる。
まさに一石二鳥。いや、三鳥と言えるだろう。
つまりは受けない理由が無い!と言うわけだ。だから断じてお金に目が眩んだわけじゃない!
「それでは、私たちからの依頼を受けると言う形で構いませんね?」
「ああ、構わない。だが明日皇宮に呼ばれているからな。それが終わるまで待って貰えないか?」
「別に構いませんが、何故皇宮に?」
「ヘレンの事で呼び出されている。どうやらへレンが家出したから迎えに来たとかなんとか。言ってボルキュス陛下の力を利用しているようだ」
「それは完全に罠です」
「罠」
「罠です」
ハルナの言葉に続くように双子も答える。
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