魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第七十四話 銀髪の吸血鬼少女 ⑧

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「言わなくてもそれぐらい分かってるさ。だけど俺を呼び出したのがこの国の皇帝なんだから仕方が無いだろ」
 もしも行かなければボルキュス皇帝が恥を掻く事になる。そうなれば帝国が吸血鬼の国ベラグール王国に恥を掻かせたと言われる恐れだってある。
 ボルキュス陛下にはなんどか助けられたりもしているし、俺たちに依頼をしてくれる友人であり、仕事上のパートナーとも言えなくもない関係だ。だからボルキュス陛下に迷惑は掛けたくはないのだ。
 それにボルキュス陛下に恥を掻かせたとなれば俺たちは侮辱罪に問われかねないからな。
 ま、一番の理由はシャルロットが悲しむだろうと言う考えからなんだが。

「ではどうされるのですか?」
「安心しろ。俺たちだって丸腰で敵に会う訳じゃないんだ。上手く回避して見せるさ」
「そうですか。では明後日の早朝に迎えに行きますから帝都を出発する準備をしていて下さい」
「分かった」
 俺がそう返事をするとハルナたちはソファーから立ち上がり仮面を被る。
 軽く会釈をしたハルナたちは割れた窓から闇に溶け込むように消えていった。
 それにしても新しい仲間を手に入れるだけでこうも面倒事が増えるとかありなのか?
 まさか俺の仲間になる奴は全員が面倒事を装備してるんじゃないだろうな。
 強い奴等と戦えるのは銀を強くする上でも、俺たちが強くなるためにも嬉しいことではあるが、こうも連続だと流石に疲れる。と言うか最近まともに休んだ記憶が無い。
 毎日依頼の事ばかり考えているような気がするが気のせいか?
 それならと、俺はさっさと風呂に入って寝ることにした。


 10月22日月曜日。
 午前7時40分に目を覚ました俺は身支度を整えてリビングで朝食を取る。
 本当なら寝室で朝食を取るところだが、何故か朝食、昼食、夕食と食事をする際はリビングで全員で食べると言う習慣が出来てしまっているため、自然と脚がリビングへと向いてしまったのだ。
 料理をする奴が居ない俺たちのギルドはいつものように弁当やおにぎり、パンを食べる。ただ今回は影光が商店街で買ってきてくれたため、いつもとは違う朝食だ。ま、食費はギルド持ちだけど。
 領収書をアイテムボックスにしまった俺は梅干入りのおにぎりを一口食べる。うん、美味い。いつもとは違うおにぎりは食の進みが全然違う。
 ま、これで窓ガラスが割れてなければもっと良かったんだが。
 影光が商店街から要らなくなったダンボールを大量に貰って来てどうにか雨風は凌げるが、それでもまだ寒い。と言うかエアコンが壊れていた。
 どうやら昨日の戦闘で敵の武器がエアコンに刺さっていたらしい。なんて不運なんだ。
 そのため寒いリビングで俺たちは朝食を取る羽目になったわけだ。ああ、あったかいお茶が体に染み渡って行く。
 8時15分頃、朝食を終えた俺はペットボトルに入った残りのお茶を持ってソファーに座る。
 テレビを見るわけじゃない。
 朝のニュースは冒険者に取って情報収集の一環なんだが、生憎と今から電話するところがあるからだ。
 履歴から以前電話した会社に電話する。
 十数秒して繋がると、スマホから「お電話、ありがとう御座います。タグリットハウスです」と言う声が聞こえてきた。
 この会社は所謂一軒家やリフォームなんか請け負う会社だ。
 そして俺が以前にお風呂場のリフォームを依頼した会社でもある。
 この会社の良い所はこんな時間帯にでも電話で簡単な相談や申請、などが可能と言うことだ。
 ま、何故俺がこの会社に電話しているかと言うと、明日からべラグール王国に向かうからリフォームを先延ばしにして欲しいと言う電話だ。別に俺たちが居ない間にでもして貰うのは別に構わないが、俺たちが居ない間に物が盗まれたりされたら困るからだ。
 生憎と金が無いからセキュリティーが全然だしな。
 ま、そう言う訳で俺は工事を延期して欲しいと言うことを伝えて電話を終えた。
 時間にして10分も経っていないだろう。ま、担当者に伝えておいて貰うだけだからな。
 これでもうする事はないな。
 ソファーから立ち上がり振り替えるといつもと変わらず平然としているアイン。いつもより強い眼光を放つ影光。少し不安そうだが覚悟を決めたヘレン。そして尻尾を振る銀が俺に視線を向けていた。
 どうやら皆も準備が整ったようだ。
 そんな皆の姿に自然と鼻で笑うかのように頬を吊り上げた。

「それじゃ行く、お前等」
 戦場へと赴く俺の後ろに続くようにそれぞれが返事をしながら一歩を踏み利出した。
 別に今から命を賭けた戦いに行くわけじゃない。それをするのは明日だ。
 だが俺たちにとっては戦場と同じだ。いや、それ以上かもしれない。
 なんせ一歩間違えれば大切な仲間を失うのだから。
 けして誰も死ぬことはない。
 血も流れない。
 だが仲間を失う可能性がある。
 俺たちは今からそんな戦場へと向かうのだ。
 いつも以上に気合が入る俺たち。
 それは一般人でも見れば感じるのか俺たちを避けるように建物側へと道を譲ってくれる。まるで威張り散らすチンピラみたいになってしまったが、別にガンを飛ばしているわけじゃない。喧嘩も売ってはいない。そう見えてしまうだけの話だ。
 時刻にして8時50分。皇宮正門前へと辿り着いた俺たちはいつもの警備のおっちゃんに冒険者免許書を見せてから中に入ると予想通り1階フロアでイオが出迎えてくれる。

「お待ちしておりました。フリーダムの皆様。皇帝陛下がお待ちです」
 そう言って俺たちはイオの後に続いてエレベーターへと乗った。
 エレベーターに向かう際、軍人や文官など皇宮で働く人々が俺たちに視線を向けながらコソコソと何やら話していた。
 流石に距離があり全て聞き取る事は出来なかったが、それでも聞こえてきたのは内容は、

「おい、ギルドフリーダムだぞ」
「え、嘘。あれが?たったの4人じゃない」
「だが、その実力は折紙付だ。なんせ1人はSランクにして世界最強と謳われるトウドウ・カゲミツ。武者修行のために世界中を回っていたようだけど、冒険者として活動していれば間違いなくSSSランクになっていたと言われている男。そしてその隣に居るメイド、アインはたった二ヶ月でBランクにまで上り詰めたルーキー。Aランクのフローネを相手に本気すら出さなかったとか」
「それは絶対に嘘でしょ。あの銃撃彗星シューティングスターの異名を持つフローネさん相手に手加減したって言うの?」
「ああ。だが一番凄いのはあの2人が所属するギルド、フリーダムのギルドマスターのオニガワラ・ジンだ」
「別に凄そうには見えないけど?」
「お前、そんな事言ってると間違いなく殺されるぞ。あのアイン同様にたった二ヶ月弱でBランクにまで上り詰めた男だ」
「日数で考えればメイドの子の方が凄いじゃない」
「確かにそうだが、彼はフローネを倒したアインを一瞬で拘束する程の実力者の持ち主だ。これはそして何よりあの3人は以前レイノーツ学園祭で起きた事件で最も活躍した冒険者だ。暴れまわる暴徒の半数を後ろの2人が倒し、リーダーのジンに至っては誘拐されたシャルロット様を救出した男なんだからな」
「え!?確かシャルロット様を誘拐した男ってたしかSSランクの力があるとかないとか噂されてなかった?それをたった1人で倒したってこと?」
「どうやらそうらしい」
「嘘でしょ。ならあの眼帯を付けた少女は?」
「彼女は……知らないな。きっと新しいメンバーなんじゃないか?だけど彼女の実力もずば抜けて居るに違いない」
「そうでしょうね。今の話が本当なら間違いなく少数精鋭のギルドだもの」
 なんて話が聞こえてきたわけだが、随分と知られているな。と言うかフローネが倒されたのは昨日だぞ。もう情報が届いているとか、この国の情報が広まる速度は尋常じゃないな。
 エレベーターを降りて応接室へと向かうと、そこにはボルキュス陛下、そして紅の瞳を持つ男性と女性の吸血鬼がソファーに座っていた。
 男性の方は金色の髪をオールバックにした髪形に渋い顔つきの男はどこかボルキュス陛下に雰囲気が似ている。
 女性の方は銀色の髪で顔つきがヘレンに似ている。と言うよりもヘレンが大人になったような女性だ。
 どうやらヘレンは母親の遺伝子を強く引き継いだようだ。と言うかそっちの方で正解だ。あんな渋い顔の男の遺伝子を引き継いでいたらとんでもない事になっていたに違いない。
 内心そんな事を思いながら俺たちはソファーがある場所へと歩く。
 するとヘレンの両親が立ち上がる。

「初めまして。私はヘレンの父親のギルバート・ファイス・ボルティネだ。そしてこっちが――」
「初めまして、冒険者の皆様。ヘレンの母親のヘンリエッタ・カペン・ボルティネです。娘を保護して頂き、誠にありがとうございます」
 なんて礼儀正しい両親なんだ。
 ヘレンから話を聞いていなければこの2人が人攫いを統括しているとは思わなかっただろう。まさに清廉潔白と言って良いほどの雰囲気と態度だ。

「俺は鬼瓦仁。ギルド、フリーダムのギルドマスターだ。で、こっちがギルドメンバーの――」
「藤堂影光だ」
「アインと申します」
「で、俺の家族の銀だ」
「ガウッ!」
 挨拶をした銀を見て2人は一瞬眉を顰めたように見えた。いや、違う。正確に言えば俺が銀と言う言葉を口にした瞬間と言うべきだろう。その理由は分からないが、今はどうでも良い。
 ここからが本番なんだからな。
 俺はヘレンに視線を向けた。

「お久しぶりなのだ。父上、母上。ギルドメンバーのヘレンなのだ」
 そんなヘレンの言葉に流石に表情を維持できなかったのか、目を見開けたあと俺に鋭い視線を向けてきたが、直ぐに優しげな表情に戻る。
 おいおい、早くも感情を表に出しちゃ駄目だろ。それでも貴族なのか?
 よく、漫画やアニメなんかでこういった交渉の場で感情を表に出してはいけない。と言われている。
 学生の頃は本当かどうなのか半信半疑だったが、会社員になってからその事が身をもって理解できた。
 ちょっと不機嫌な顔をするだけで相手を有利にさせてしまうのが交渉だ。
 勿論不機嫌にさせる内容にもよる。その内容によっては交渉を破棄にさせられる恐れだってあるのだから。
 俺は相手を探るうえで、こちらのカードを1枚を最初に見せたのだ。
 それが、へレンが俺たちの仲間であると言う事だ。
 そんな俺たちを見てかボルキュス陛下が話しかけてくる。

「ま、立ち話もなんだ。ボルティネ伯爵夫妻、それに冒険者たちもソファーに座ると良い」
「確かにボルキュス陛下の言うとおりだ。陛下の前で立ち話をするわけにも行くまい」
 同意するようにヘレンの父、ギルバートがソファーに座る。
 俺たちもそれを見てヘレンの両親と対峙するようにソファーに座った。
 俺の右隣にヘレン、俺の左に影光が座る。アインは俺の後ろに控えるように立って待機する。皇族としては客人を立たせて置く訳には行かないはずだが、アインの格好が運良くメイド服と言うこともありギルバートたちが俺の召使だと勘違いしたのだろう、何も言うことはなかった。
 アインの本当のマスターである銀は俺の膝の上で寛いでいた。
 そんな俺たちがソファーに座るタイミングを見計らってか、イオが俺たちの前にコーヒーが入ったティーカップをテーブルに置く。影光の飲み物は緑茶なのだろう。1人だけティーカップじゃなくて湯呑だ。
 そしてギルバートたちにも新しい紅茶が入ったティーカップが置かれた。
 さあ、ここからが本番だ。
 さっきの前哨戦は俺たちの奇襲攻撃でどうにか勝った。
 だが本当の戦いはこれからだ!
 そんな本番の戦いと言う名の交渉で最初に口を開いたのは予想通りギルバートだった。

「さて、ジン殿。先ほどの言葉はどう言うことか説明して頂きたいのだが?」
「さっきの言葉?はてなんの事やら?」
 そんな俺の態度に眉を顰めるかと思いきや、平然と言葉を口にした。

「ふむ、分からないのか。どうやら私は君の事を過大評価していたようだ」
 さっそくさっきの仕返しか。だがその程度で俺が怒ると思ったら大間違いだぞ。
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