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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第八十三話 4人目の仲間!?
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10月25日木曜日。
朝食を食べるために食堂に向かうと沢山のヴァンパイアハンターたちが、食事をしていた。
ただ以前と違うのはシルバーの軍服だけでなく白い軍服を着たヴァンパイアハンターたちも居る事だ。
敵対する派閥同士が同じ食堂で食事をしていると言う事はもう1つの食堂がだめになったんだろう。
いや、それよりも。両派閥が1つの食堂で食事が出来てしまうまでにヴァンパイアハンターたちが減ったって事なんだろう。
そう思いながら俺たちは食事をしているとセルケが俺たちに近づいてきた。
「どうやら無事だったようだな」
「お前こそ、地下の通路は塞いだのか?」
「当たり前だ。ま、その際に仲間が数人殺られたがな……」
「そうか」
俺たちフリーダムは無事に依頼を達成したし、負傷したのも俺だけ。と言う素晴らしい成果だ。
しかしヴァンパイアハンターたちはそうはいかない。
両派閥を合わせても6割弱しか生存者がおらず、その内の半数は負傷しており、壊れた要塞内の修繕費等などを考えれば大損害だ。
勿論悪いことだけではない。人攫いを統括していたボルティネ夫妻は殺されたし、人攫いに関与していたと思われるボルティネ家の私兵、およそ100人の吸血鬼を討伐する事が出来た。
だが今後人攫いが起こらないとは限らない。きっと統括する吸血鬼が変わるだけの事だろう。そうなる前に手を打たなければならないわけだが、今のヴァンパイアハンターたちにその力はない。ま、手が無いわけじゃない。俺としても今後のお付き合いを考えるなら貸しを作っておくのも吝かではないからな。
食事を終えた俺たちはダグラスの書斎に呼び出されていた。
現在この場所には俺たちフリーダムメンバーとダグラスしかいない。ハルナは戦後処理で大忙しだそうだ。
「昨日はよく眠れましたか?」
「まぁな。それよりもここからは冒険者として話させて貰うぜ」
「ええ、構いませんよ」
「まず俺たちのホームを壊した弁償代と慰謝料で300万。今回の依頼の報酬として1000万。合計1300万RK貰いたいんだが」
「これは随分と痛い出費となりますが、仕方ありませんね。良いでしょうではこちらに口座番号を記入してください」
出されたメモ用紙に俺は口座番号を記入する。念のために口座番号を覚えておいて良かった。
「それにしても貴方たちの力は私の予想以上でした。どうですかこのままヴァンパイアハンターになりませんか?」
「悪いが、断らせて貰うぜ。俺たちは冒険者と言う職業が気に入っているんでね」
「それは残念です」
相変わらず何を考えているのか読めないな。
「それじゃ俺たちはこれで失礼するよ」
「おや、もう出発なされるのですか?」
「ああ、ここに居てももうする事はないからな」
「そうですか。それでは」
そう言ってダグラスは立ち上がり俺の前まで来ると右手を出してきた。
「また頼みごとがあった時はよろしくお願いします。出来ればもう少し報酬を安くしてもらえると嬉しいのですけどね」
「依頼内容によるな」
「お金にがめついと信頼を無くしますよ?」
「まだ発展途上のギルドだから何かとお金が入り用なんだよ」
「ならもう少し時間がたってから依頼を出すことにします」
「それは俺たちが困るかもな。だけど次の時はあんまり他人を変な計画に巻き込まないで貰いたいものだな」
「はて、なんの事でしょうか?」
「いや、なんでもない」
話を終えた俺たちは握手を交わすのだった。
書斎を後にした俺たちは要塞を出るとハルナが待ち構えていた。
「もう行かれるのですか?」
「ああ、俺たちが居ても邪魔なだけだからな。それにこの後の事はお前たちヴァンパイアハンターの問題だろ?」
「そうですね」
どこか少し寂しそうな表情をしていた気もするが、気のせいだろう。
おっとすっかり忘れるところだった。
「ハルナ、これを受け取ってくれ?」
「USBメモリーですか?」
「その中にボルティネ伯爵がこれまで人攫いの記録と横領の記録が入っている。上手く使えばベルグール王国に大ダメージを与えることも牽制することも出来る」
「そんな情報を私に!?」
「俺たちが持っていても無意味だからな。ただ使うならあまり公にしないで貰いたい。なんせ人攫いの統括をしていたのはヘレンの両親だからな。公になれば間違いなく恨まれるだろう。ヘレンがこの情報をお前たちに齎したと言ったとしても中にはヘレンを恨む奴も居るだろうし、吸血鬼側は裏切り者としてヘレンの命を狙いかねないからな」
「分かりました。ダグラス超等にもそうお伝えします」
「助かる」
ふう、これで最悪な状況にはならないだろう。多分。
「それじゃあな」
「はい、またお会いしましょう」
こうして俺たちは要塞を後にした。
要塞を出発して1時間。
今回もどうにか依頼を達成した。色んな奴にも出会えたしヘレンが命を狙われる心配もなくなった。なにより大金が手に入った。まさに万々歳だ!
しかしいっさい車にすれ違う事も無く俺たちは歩き続けていた。銀の背中に乗って移動したいところだが、さすがに全員を乗せて走ることはまだ無理だ。
「こんな事なら車で送って貰えば良かっただろう」
「あんな別れ方して戻れるかよ!それにそれを言うならもっと早くに言えよ!」
どうにかアインの力で道に迷うことなく進めてはいるが、このままでは日が暮れる。
「それよりも仁、あれで本当に良かったのか?」
「何がだ?」
「今回の事件の本当の首謀者の事だ」
「ああ、構わないさ。アイツは私腹のために他人を傷つけるような奴じゃない。それどころか吸血鬼を憎んでいるんだからな」
「どういう事なのだ?」
「ヘレンは気づかなかったかもしれないが、お前を見る時だけ憎しみと怒りが一瞬漏れていたのさ」
「漏れていた?」
ヘレンは気配と言う力が存在していることを知らない。だから疑問に感じているんだろう。ま、いつか教えるけど。
「ハルナを襲い、俺たちに敵対派閥が如何に悪い存在なのか印象付けたのも全てあのダグラスの仕業だ」
「本当なのか?」
「俺はそう思っている。ま、証拠がないから。絶対にとは言えないけどな」
「全ては闇の中ってわけか」
影光はそう呟く。
結果的俺たちは得をしたわけだし、被害があったわけじゃない。だから少しぐらい奴の計画と言う舞台の上で踊るのも目を瞑る事が出来る。
ま、次やったら許さないけど。
そう思った時1台の大型トラックがやって来た。
「よし、どうにかして止めるぞ!」
俺たちは道のど真ん中に立ち大型トラックを強制停車させる。
※良い子の皆は危険だから絶対に真似しないように。(月見酒)
事情を説明して大型トラックの荷台に乗せてもらう事に成功した俺たちは空港がある街まで移動した。ふうやはり体を張ればどうにかなるものだな。
大型トラックに揺られること数時間。俺たちはヌイシャ連邦国、首都ドマイルに来ていた。
帝都と雰囲気は似ている。
しかし信号機が横ではなく縦なのは雪で折れないようにするための対策なんだろう。北海道もそうだったしな。
「それで今日はどうするのだ?」
「今日は近くのビジネスホテルで宿泊だな。で明日一日は観光して明後日飛行機で帰ろうと思うんだがどうだ?」
「賛成なのだ!」
「拙者も異論はない」
「私もそれで構いません」
こうして予定が決まった俺たちは近くのビジネスホテルにチェックインするのだった。
10月26日金曜日。
ドマイルを観光すべく俺たちは街中を歩く。
だが、流石は北国だ。
10月下旬とは言え、雪が降っている。
ヌイシャ連邦国の名産は何を隠そうお酒である!
あらゆる蒸留酒が有名なこの国ではお酒好きの人が観光にやって来るのだ。それはつまり酒が好きな俺や影光にとっては素晴らしい場所なのである。
そしてヌイシャにしか生息していない魔物も存在しており、そのお肉を買い求める観光客もいたりするわけで、アインも銀のためにと脳内検索に必死だった。
そしてお菓子はチョコレートである。甘い物好きなヘレンも目を輝かせてお菓子を探していた。そう、この国ヌイシャは俺たちが好きな食べ物、飲み物が沢山揃っているのだ!
ま、そんなわけで俺たちは肉、お菓子、酒が全て揃っているマーケットへとやって来た。
全員別行動をしてそれぞれ堪能したいところだが、生憎1人にすると迷子になりそうな奴が約1名居る為、全員で行動することにした。ま、それは言わなくても大体分かるだろう。はい、ヘレン。嬉しいのは分かるがはしゃがない。
そんな感じで俺たちはお酒、お菓子、お肉を大量買いをする。え?お金はって。そんなの今回の依頼の報酬が大きかったからな。気にするわけないだろ。
で、俺たちは夕方になるまで食べ物を買ったり、食べたりを繰り返し、マーケットのお店を堪能しつくした。
え?買った品はどうしたかってそんなの俺のアイテムボックスに入れているに決まっているだろ。ま、お肉はアインの亜空間に収納しているけど。
「あまりの楽しさに大人買いをしてしまったな」
「なに、問題無かろう今回の報酬は多かったのだからな」
「何の問題もありません」
「沢山のお菓子。帰ってからが楽しみなのだ!」
ま、そんな浮かれ気分で俺たちはビジネスホテルに戻った。
10月27日土曜日。午後2時34分。
ヌイシャ連邦国から飛行機に乗ってベルヘンス帝国帝都レイノーツに戻ってきた俺たちは歩いてホームに戻る。
ここに来て一気に疲れが出てきた。駄目だ。少しはしゃぎ過ぎた。
フラフラな足取りで人気が少なくなった48区へとやって来た俺たちはようやく我が家に到着したわけだが、入り口の前で思わず歩みを止めていた。
「おい、誰だ俺たちの家の前に大きな銅像を置いた奴は」
「これだから柄の悪い連中が多い場所は嫌なんだ」
「大きいのだ……」
そんな会話をしていると突如銅像が動き出した。まさかゴーレム!?と思ったが違う。
よく見たらTシャツにズボンも履いている。まさか人間なのか!
身長3メートル越えの筋骨隆々の男はドシッン、ドシッンと歩くたびに地面を揺らしながら俺たちに近づいて来る。まさか俺たちを狙った刺客!そう思い全員が身構えた。
男は俺たちに近づくと両手を振り上げて――
「あ、あのぉ、お願いがあって来ました!」
土下座した。
『え?』
予想外の出来事に俺たちは目をパチクりとさせた。
よし、一旦落ち着こう。
軽く深呼吸した俺は土下座する大男に話しかける。
「お願いがあるって言っていたが、お願いってなんだ?」
「はい!僕を貴方たちのギルドに入れてください!」
ヴァンパイアハンターからの依頼を終えて帝都に戻ってきたその日。
俺たちは仲間に入れて欲しいと言う大男に出くわした。
事情を聞くべくリビングに移動した。
「さて、まずは自己紹介をして貰っても良いか?俺は鬼瓦仁。このギルドのギルドマスターだ」
「ギルドメンバーのアインです」
「ギルドメンバーの藤堂影光だ」
「ギルドメンバーのヘレン・ボルティネなのだ」
「は、初めまして!ぼ、僕はグリードって言います。グリード・クレムリンです!冒険者ランクはEです!」
と自己紹介をするグリードだが、見た目と中身が全然合ってない。図体はデカいのに物腰は低いって本当に居るんだな。
そんな奴がどうして冒険者になったのか不思議なぐらいだ。
さて、どうするか。確かにフリーダムは人数が少ない。あと数人は欲しいところだ。
確かにグリードの肉体は鍛え上げられているし、見た目だけならば有望株だ。だが内面が問題だ。ここまで弱腰だと戦闘で役に立てるのか怪しい。
そう感じたのは俺だけでなく影光たちも感じたようだ。
ま、幾つか質問してみるか。
「グリード、使える魔法属性はなんだ?」
「あ、えっと……はい!土魔法が使えます!」
緊張しているのか周囲を見て集中出来ていない。受け答えもハキハキしていない。これが就職試験の面接なら完全に落とされているぞ。
だが土魔法は有効だな。俺たちのギルドには居ない属性持ちだからな。
今度は影光が質問した。
「グリード、お主は冒険者になってどれぐらいになる?」
「あ、えっと……5年になます……」
「5年か……」
5年でEランクって。いったいどんな依頼を受けてたんだ?
グリードから感じる潜在能力は悪くは無い。だがそれを駄目にしているのは間違いなく奴の性格なんだろう。
これは微妙だな。
「戦闘経験はあるのか?」
「戦闘経験はありますが、数える程度だけです。いつも受ける依頼は薬草採取や都内の手伝いの依頼をしています」
おい、それって完璧にGランクやFランクの依頼じゃねか。なんでそんなばかりの依頼を受けるんだ?
「それでグリード。お前の武器はなんだ?」
「ぼ、僕の武器は両手持ちのウォーハンマーです!」
「戦鎚の事か。確かにその巨体にあった武器だな」
お、影光の評価が少し上がったぞ。
だが、それでも戦う意志が無ければ宝の持ち腐れだ。
だからこそ、聞いて置かなければならない。
「グリードはどうして冒険者になったんだ?」
「そ、それは……強くなりたくて。でも戦いになると体が震えてその場から動けなくなるんです!」
なるほどね。やっぱり根本的な処は肉体じゃなくて精神面の方に合ったわけだな。
どうしたものかと影光たちに視線を向けるが、向こうも困っているのか俺に視線を向けてきた。
─────────────────────
【ギルド残高】
非公式依頼報酬 +1000万RK
慰謝料 +200万RK
弁償代 +100万RK
ギルドメンバー報酬×4 -800万RK
慰謝料ギルドメンバー分配×4 -200万RK
ビジネスホテル2人部屋×2 -1万6520RK
飛行機代(エコノミー席)×4 -39万RK
外食 -1万RK
コンビニで食料購入 -4230RK
ギルド口座残高 547万9250RK
【個人残高】
非公式依頼報酬 +200万RK
慰謝料 +50万RK
買い物(観光) -18万RK
残高615万8740RK
Aランク昇格まで残り500ポイント
朝食を食べるために食堂に向かうと沢山のヴァンパイアハンターたちが、食事をしていた。
ただ以前と違うのはシルバーの軍服だけでなく白い軍服を着たヴァンパイアハンターたちも居る事だ。
敵対する派閥同士が同じ食堂で食事をしていると言う事はもう1つの食堂がだめになったんだろう。
いや、それよりも。両派閥が1つの食堂で食事が出来てしまうまでにヴァンパイアハンターたちが減ったって事なんだろう。
そう思いながら俺たちは食事をしているとセルケが俺たちに近づいてきた。
「どうやら無事だったようだな」
「お前こそ、地下の通路は塞いだのか?」
「当たり前だ。ま、その際に仲間が数人殺られたがな……」
「そうか」
俺たちフリーダムは無事に依頼を達成したし、負傷したのも俺だけ。と言う素晴らしい成果だ。
しかしヴァンパイアハンターたちはそうはいかない。
両派閥を合わせても6割弱しか生存者がおらず、その内の半数は負傷しており、壊れた要塞内の修繕費等などを考えれば大損害だ。
勿論悪いことだけではない。人攫いを統括していたボルティネ夫妻は殺されたし、人攫いに関与していたと思われるボルティネ家の私兵、およそ100人の吸血鬼を討伐する事が出来た。
だが今後人攫いが起こらないとは限らない。きっと統括する吸血鬼が変わるだけの事だろう。そうなる前に手を打たなければならないわけだが、今のヴァンパイアハンターたちにその力はない。ま、手が無いわけじゃない。俺としても今後のお付き合いを考えるなら貸しを作っておくのも吝かではないからな。
食事を終えた俺たちはダグラスの書斎に呼び出されていた。
現在この場所には俺たちフリーダムメンバーとダグラスしかいない。ハルナは戦後処理で大忙しだそうだ。
「昨日はよく眠れましたか?」
「まぁな。それよりもここからは冒険者として話させて貰うぜ」
「ええ、構いませんよ」
「まず俺たちのホームを壊した弁償代と慰謝料で300万。今回の依頼の報酬として1000万。合計1300万RK貰いたいんだが」
「これは随分と痛い出費となりますが、仕方ありませんね。良いでしょうではこちらに口座番号を記入してください」
出されたメモ用紙に俺は口座番号を記入する。念のために口座番号を覚えておいて良かった。
「それにしても貴方たちの力は私の予想以上でした。どうですかこのままヴァンパイアハンターになりませんか?」
「悪いが、断らせて貰うぜ。俺たちは冒険者と言う職業が気に入っているんでね」
「それは残念です」
相変わらず何を考えているのか読めないな。
「それじゃ俺たちはこれで失礼するよ」
「おや、もう出発なされるのですか?」
「ああ、ここに居てももうする事はないからな」
「そうですか。それでは」
そう言ってダグラスは立ち上がり俺の前まで来ると右手を出してきた。
「また頼みごとがあった時はよろしくお願いします。出来ればもう少し報酬を安くしてもらえると嬉しいのですけどね」
「依頼内容によるな」
「お金にがめついと信頼を無くしますよ?」
「まだ発展途上のギルドだから何かとお金が入り用なんだよ」
「ならもう少し時間がたってから依頼を出すことにします」
「それは俺たちが困るかもな。だけど次の時はあんまり他人を変な計画に巻き込まないで貰いたいものだな」
「はて、なんの事でしょうか?」
「いや、なんでもない」
話を終えた俺たちは握手を交わすのだった。
書斎を後にした俺たちは要塞を出るとハルナが待ち構えていた。
「もう行かれるのですか?」
「ああ、俺たちが居ても邪魔なだけだからな。それにこの後の事はお前たちヴァンパイアハンターの問題だろ?」
「そうですね」
どこか少し寂しそうな表情をしていた気もするが、気のせいだろう。
おっとすっかり忘れるところだった。
「ハルナ、これを受け取ってくれ?」
「USBメモリーですか?」
「その中にボルティネ伯爵がこれまで人攫いの記録と横領の記録が入っている。上手く使えばベルグール王国に大ダメージを与えることも牽制することも出来る」
「そんな情報を私に!?」
「俺たちが持っていても無意味だからな。ただ使うならあまり公にしないで貰いたい。なんせ人攫いの統括をしていたのはヘレンの両親だからな。公になれば間違いなく恨まれるだろう。ヘレンがこの情報をお前たちに齎したと言ったとしても中にはヘレンを恨む奴も居るだろうし、吸血鬼側は裏切り者としてヘレンの命を狙いかねないからな」
「分かりました。ダグラス超等にもそうお伝えします」
「助かる」
ふう、これで最悪な状況にはならないだろう。多分。
「それじゃあな」
「はい、またお会いしましょう」
こうして俺たちは要塞を後にした。
要塞を出発して1時間。
今回もどうにか依頼を達成した。色んな奴にも出会えたしヘレンが命を狙われる心配もなくなった。なにより大金が手に入った。まさに万々歳だ!
しかしいっさい車にすれ違う事も無く俺たちは歩き続けていた。銀の背中に乗って移動したいところだが、さすがに全員を乗せて走ることはまだ無理だ。
「こんな事なら車で送って貰えば良かっただろう」
「あんな別れ方して戻れるかよ!それにそれを言うならもっと早くに言えよ!」
どうにかアインの力で道に迷うことなく進めてはいるが、このままでは日が暮れる。
「それよりも仁、あれで本当に良かったのか?」
「何がだ?」
「今回の事件の本当の首謀者の事だ」
「ああ、構わないさ。アイツは私腹のために他人を傷つけるような奴じゃない。それどころか吸血鬼を憎んでいるんだからな」
「どういう事なのだ?」
「ヘレンは気づかなかったかもしれないが、お前を見る時だけ憎しみと怒りが一瞬漏れていたのさ」
「漏れていた?」
ヘレンは気配と言う力が存在していることを知らない。だから疑問に感じているんだろう。ま、いつか教えるけど。
「ハルナを襲い、俺たちに敵対派閥が如何に悪い存在なのか印象付けたのも全てあのダグラスの仕業だ」
「本当なのか?」
「俺はそう思っている。ま、証拠がないから。絶対にとは言えないけどな」
「全ては闇の中ってわけか」
影光はそう呟く。
結果的俺たちは得をしたわけだし、被害があったわけじゃない。だから少しぐらい奴の計画と言う舞台の上で踊るのも目を瞑る事が出来る。
ま、次やったら許さないけど。
そう思った時1台の大型トラックがやって来た。
「よし、どうにかして止めるぞ!」
俺たちは道のど真ん中に立ち大型トラックを強制停車させる。
※良い子の皆は危険だから絶対に真似しないように。(月見酒)
事情を説明して大型トラックの荷台に乗せてもらう事に成功した俺たちは空港がある街まで移動した。ふうやはり体を張ればどうにかなるものだな。
大型トラックに揺られること数時間。俺たちはヌイシャ連邦国、首都ドマイルに来ていた。
帝都と雰囲気は似ている。
しかし信号機が横ではなく縦なのは雪で折れないようにするための対策なんだろう。北海道もそうだったしな。
「それで今日はどうするのだ?」
「今日は近くのビジネスホテルで宿泊だな。で明日一日は観光して明後日飛行機で帰ろうと思うんだがどうだ?」
「賛成なのだ!」
「拙者も異論はない」
「私もそれで構いません」
こうして予定が決まった俺たちは近くのビジネスホテルにチェックインするのだった。
10月26日金曜日。
ドマイルを観光すべく俺たちは街中を歩く。
だが、流石は北国だ。
10月下旬とは言え、雪が降っている。
ヌイシャ連邦国の名産は何を隠そうお酒である!
あらゆる蒸留酒が有名なこの国ではお酒好きの人が観光にやって来るのだ。それはつまり酒が好きな俺や影光にとっては素晴らしい場所なのである。
そしてヌイシャにしか生息していない魔物も存在しており、そのお肉を買い求める観光客もいたりするわけで、アインも銀のためにと脳内検索に必死だった。
そしてお菓子はチョコレートである。甘い物好きなヘレンも目を輝かせてお菓子を探していた。そう、この国ヌイシャは俺たちが好きな食べ物、飲み物が沢山揃っているのだ!
ま、そんなわけで俺たちは肉、お菓子、酒が全て揃っているマーケットへとやって来た。
全員別行動をしてそれぞれ堪能したいところだが、生憎1人にすると迷子になりそうな奴が約1名居る為、全員で行動することにした。ま、それは言わなくても大体分かるだろう。はい、ヘレン。嬉しいのは分かるがはしゃがない。
そんな感じで俺たちはお酒、お菓子、お肉を大量買いをする。え?お金はって。そんなの今回の依頼の報酬が大きかったからな。気にするわけないだろ。
で、俺たちは夕方になるまで食べ物を買ったり、食べたりを繰り返し、マーケットのお店を堪能しつくした。
え?買った品はどうしたかってそんなの俺のアイテムボックスに入れているに決まっているだろ。ま、お肉はアインの亜空間に収納しているけど。
「あまりの楽しさに大人買いをしてしまったな」
「なに、問題無かろう今回の報酬は多かったのだからな」
「何の問題もありません」
「沢山のお菓子。帰ってからが楽しみなのだ!」
ま、そんな浮かれ気分で俺たちはビジネスホテルに戻った。
10月27日土曜日。午後2時34分。
ヌイシャ連邦国から飛行機に乗ってベルヘンス帝国帝都レイノーツに戻ってきた俺たちは歩いてホームに戻る。
ここに来て一気に疲れが出てきた。駄目だ。少しはしゃぎ過ぎた。
フラフラな足取りで人気が少なくなった48区へとやって来た俺たちはようやく我が家に到着したわけだが、入り口の前で思わず歩みを止めていた。
「おい、誰だ俺たちの家の前に大きな銅像を置いた奴は」
「これだから柄の悪い連中が多い場所は嫌なんだ」
「大きいのだ……」
そんな会話をしていると突如銅像が動き出した。まさかゴーレム!?と思ったが違う。
よく見たらTシャツにズボンも履いている。まさか人間なのか!
身長3メートル越えの筋骨隆々の男はドシッン、ドシッンと歩くたびに地面を揺らしながら俺たちに近づいて来る。まさか俺たちを狙った刺客!そう思い全員が身構えた。
男は俺たちに近づくと両手を振り上げて――
「あ、あのぉ、お願いがあって来ました!」
土下座した。
『え?』
予想外の出来事に俺たちは目をパチクりとさせた。
よし、一旦落ち着こう。
軽く深呼吸した俺は土下座する大男に話しかける。
「お願いがあるって言っていたが、お願いってなんだ?」
「はい!僕を貴方たちのギルドに入れてください!」
ヴァンパイアハンターからの依頼を終えて帝都に戻ってきたその日。
俺たちは仲間に入れて欲しいと言う大男に出くわした。
事情を聞くべくリビングに移動した。
「さて、まずは自己紹介をして貰っても良いか?俺は鬼瓦仁。このギルドのギルドマスターだ」
「ギルドメンバーのアインです」
「ギルドメンバーの藤堂影光だ」
「ギルドメンバーのヘレン・ボルティネなのだ」
「は、初めまして!ぼ、僕はグリードって言います。グリード・クレムリンです!冒険者ランクはEです!」
と自己紹介をするグリードだが、見た目と中身が全然合ってない。図体はデカいのに物腰は低いって本当に居るんだな。
そんな奴がどうして冒険者になったのか不思議なぐらいだ。
さて、どうするか。確かにフリーダムは人数が少ない。あと数人は欲しいところだ。
確かにグリードの肉体は鍛え上げられているし、見た目だけならば有望株だ。だが内面が問題だ。ここまで弱腰だと戦闘で役に立てるのか怪しい。
そう感じたのは俺だけでなく影光たちも感じたようだ。
ま、幾つか質問してみるか。
「グリード、使える魔法属性はなんだ?」
「あ、えっと……はい!土魔法が使えます!」
緊張しているのか周囲を見て集中出来ていない。受け答えもハキハキしていない。これが就職試験の面接なら完全に落とされているぞ。
だが土魔法は有効だな。俺たちのギルドには居ない属性持ちだからな。
今度は影光が質問した。
「グリード、お主は冒険者になってどれぐらいになる?」
「あ、えっと……5年になます……」
「5年か……」
5年でEランクって。いったいどんな依頼を受けてたんだ?
グリードから感じる潜在能力は悪くは無い。だがそれを駄目にしているのは間違いなく奴の性格なんだろう。
これは微妙だな。
「戦闘経験はあるのか?」
「戦闘経験はありますが、数える程度だけです。いつも受ける依頼は薬草採取や都内の手伝いの依頼をしています」
おい、それって完璧にGランクやFランクの依頼じゃねか。なんでそんなばかりの依頼を受けるんだ?
「それでグリード。お前の武器はなんだ?」
「ぼ、僕の武器は両手持ちのウォーハンマーです!」
「戦鎚の事か。確かにその巨体にあった武器だな」
お、影光の評価が少し上がったぞ。
だが、それでも戦う意志が無ければ宝の持ち腐れだ。
だからこそ、聞いて置かなければならない。
「グリードはどうして冒険者になったんだ?」
「そ、それは……強くなりたくて。でも戦いになると体が震えてその場から動けなくなるんです!」
なるほどね。やっぱり根本的な処は肉体じゃなくて精神面の方に合ったわけだな。
どうしたものかと影光たちに視線を向けるが、向こうも困っているのか俺に視線を向けてきた。
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【ギルド残高】
非公式依頼報酬 +1000万RK
慰謝料 +200万RK
弁償代 +100万RK
ギルドメンバー報酬×4 -800万RK
慰謝料ギルドメンバー分配×4 -200万RK
ビジネスホテル2人部屋×2 -1万6520RK
飛行機代(エコノミー席)×4 -39万RK
外食 -1万RK
コンビニで食料購入 -4230RK
ギルド口座残高 547万9250RK
【個人残高】
非公式依頼報酬 +200万RK
慰謝料 +50万RK
買い物(観光) -18万RK
残高615万8740RK
Aランク昇格まで残り500ポイント
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2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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