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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第八十七話 パーフェクトペインの新たな使い道
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「なぁ、ヘレン」
「なんだ?」
「別に気にせず魔眼の力を使えば良いと俺は思うぞ」
「いきなり何を言っているのだ!ジンはこの魔眼がどれだけ危険で恐ろしいものか知らないからそんな事が言えるのだ!」
「傷つけたのなら謝る。だけどどんな忌み嫌われた能力であろうと所詮、力だ。つまりはその力の使い手次第じゃないのか?」
「え?」
「拳を振るうのもまた力だ。だがその力を他人を傷つけるために使えば、それは暴力。だが誰かを守るため、何かを成し遂げるために使えば、それは暴力じゃない。そしてそれはヘレンの全痛覚眼も同じだ。対象者が苦しめるだけに使えば、それは暴力。しかし自分が生き残るため、仲間を守るために使えばそれは暴力じゃない。だからヘレンも自分の力を嫌いになるな」
「うん……頑張ってみるのだ……」
「ああ、それで良い」
下を向いていて表情は見えない。ただ銀がヘレンの頬を舐めていた。
それにしても全痛覚眼か。確かに拷問なんかには向いている力だが、ヘレンにそんな事をさせるつもりはない。
となると他の利用方法を考えなければならないな。
俺は考える。自分の呪いを無力化に使うと言う発想に転換した時のように考える。
何かないか、ヘレンが自分の力を嫌いにならない良い方法が……。
その時、アインとグリードの戦いが目に飛び込んできた。
銃で攻撃すると見せかけてグリードの顎に蹴りを打ち込んだ。おいおいあんな事も出来るのかよ。
まさか銃をブラフに使うとは。ん?ブラフ……見せかけ……偽情報……騙す……っ!
「これだ!」
「ど、どうかしたのか!」
隣で座っていたヘレンが慌てて顔で話しかけてくる。
影光たちも急に俺が叫んだからこっちに視線を向けていた。あ、気にせずに戦ってくれ。
「ヘレン、お前のその魔眼。良い使い方を思いついたぞ」
「え?」
驚いた表情を浮かべる。
俺はさっそくヘレンにその内容を伝えた。
「どうだ?上手く出来そうか?」
「分からないのだ。この力は緊急時以外使わないと決めていたから、でもやってみるのだ!」
ああ、それで良い。
もしもこれで上手く行けば、ヘレンは全痛覚眼を使えるように練習するはずだ。そうすればもっと強くなる。
さて、そんなヘレンの実験台としてはやっぱり影光あたりが良いだろう。
「影光」
「なんだ?」
「悪いが、ヘレンと模擬戦をしてくれないか?」
「別に構わぬが」
よし。これであとはヘレン次第だ。
俺はヘレンに視線を向けて頷く。ヘレンもまた「分かった」と頷いた。
グリードとアインが戦う横でヘレンと影光が対峙し合う。
しかし影光は驚いたのか目を見開け、そして直ぐにいつも以上に真剣な表情へと変わった。
「なるほど。仁が急にヘレンと戦ってくれ。と言い出したわけはこれか」
不敵な笑みを浮かべる影光。しかし額には冷や汗が流れていた。
ま、無理もないか。なんせ今のヘレンは眼帯を外しているのだからな。
これまで隠れていた左目は黄金に輝き、瞳は×のような、星のような形をしていた。手裏剣って言うべきかもしれないけど。
そう、ヘレンはようやく自分すら嫌っていた全痛覚眼を使う気になったのだ。
だからこそ影光は冷や汗を流す。まさか自分が最初の実験台にされるとは思ってなかっただろうからな。
だが仕方が無い。
ヘレンが試そうとしている戦術は俺が考えたものだし、アインはサイボーグなので痛覚を遮断することが可能。グリードに試せばトラウマになる可能性がある。それに比べて影光はヘレンよりも圧倒的に強いし、メンタル面も鍛えられているから問題ない。
それに今回の戦術はヘレンよりも強い人間で試した方が、今後の課題が見つかり易いからな。
互いに武器を構える。
「それじゃ………始め!」
そんな俺の合図と同時に2人は瞬脚を使った。
一瞬で敵の懐まで移動することが可能な瞬脚。しかし俺とは違い、地面が陥没していない。やはり普通に地面を蹴るのとは違うのだろう。あとで教えて貰わないとな。
一瞬にして零距離で火花を散らす2人。
ヘレンは双剣で手数と言う意味では有利の筈だが、全て弾かれている。それだけ2人の技量に差があると言う事だ。
それにしても影光の奴、試合開始早々にヘレンに目掛けて走ったな。だけど当然と言えば当然か。
全痛覚眼の射程距離は約100メートル。訓練所の広さ以上ある射程距離だ。つまり距離を取ろうと思っても無理だ。
それなら相手に近づいて使わせる隙を与えないつもりなんだろう。さっさと決めようと思えば決められるからな。
そんな2人の攻防が数分間続いた。
そして最初に仕掛けたのはヘレンだ。
地面から一本の氷柱を影光目掛けて地面から生やす。
突然の攻撃だったが、影光は冷静にヘレンの氷柱を躱した。
しかしそれはヘレンも予想していた事。悔しそうな顔をする事無く冷静に影光に追撃を仕掛けた。
今だ。
俺は心の中だ呟いた。
影光と離れた距離を詰めたヘレンは一閃した。
しかし影光はそれすらも予測していたのか体を反らして躱す。
流石は影光。ヘレンの数手先を読んでいるな。
「だが影光、その攻撃は躱せないぜ」
俺は2人の戦いを見ながら小さく呟いた。
「くっ!?」
その瞬間、影光は思わず目を見開け、苦悶の声が口から漏れた。
影光は慌てて左手で自分の胸を触るが、何も起きてはいない。
傍から見れば何をしているんだ。って思われるだろう。だがそれがヘレンが行った攻撃。次へと繋げるための攻撃だ。
何が起きたのか一瞬分からなかった影光は困惑した。その数瞬の隙をヘレンは見逃す事無く影光の刀を弾き飛ばしたのだった。
「そこまで!勝者、ヘレン!」
「や、やったのだ!カゲミツに勝ったのだ!」
嬉しそうにはしゃぐヘレンは、見た目相応だと思えたが、本当は22歳。俺よりも年上だ。
「まさか拙者が負けるとはな」
そう呟きながら弾かれた刀を手にとって鞘に納めた。
「どうだ、俺が考えた戦術は?」
「見事と言うほかないだろう。まさか全痛覚眼にあんな使い方があるとはな。すっかり騙されてしまったぞ」
「なんでも、想像力が大事って事だ。ま、今回はたまたま上手くいっただけだ。今後はもっと訓練を重ねる必要があるだろうけどな」
「そうだろうの」
「頑張るのだ。もっと上手く使いこなせるようになるのだ!」
影光に勝てた事が嬉しかったのか、ヘレンはこれまでに無いほどやる気に満ち溢れていた。
俺がヘレンに教えた戦術は全痛覚眼をブラフに使う戦術だ。
普通に相手に痛みを与えるのでは無く、攻撃と織り交ぜる事で思考を停止させるのが今回の目的だ。
普通に痛みを与えれば相手は全痛覚眼を使ったと判断し、直ぐに対処してくる。
しかし双剣の攻撃を行った瞬間に全痛覚眼を使えば、攻撃が当たったと最初は認識する。
ましてや攻撃を躱したにも拘らず、痛みを感じれば誰だって攻撃が当たったと認識し、困惑するだろう。
それが相手の動きを封じ、その先の読みすらも封じる戦術だ。
「剣の一撃を躱したと脳が認識している時に全痛覚眼で痛みによるブラフを与える。剣の一撃が合ったからこそ、ブラフが絶大な効果を発揮したのですね。単細胞の癖によくもそんな戦術を思いつきますね」
毒舌が俺の耳に届くと方向に視線を向けるとアインが近づいてきた。
「そっちも終わったのか?」
「ええ、パワー、技術、体力に関しては問題ありませんがメンタル面に問題がありますね」
「そうか」
やっぱりそう上手くはいかないか。
何か、切っ掛けがあれば変われるんだろうが。
スマホを開いて時間を見ると12時過ぎと表示されていた。休憩するには良い時間だし、俺たちは訓練を切り上げてリビングに移動した。
グリードが作ってくれた昼食を食べていると、俺はある事を思い出した。
「諸君、問題が起きた」
そんな俺の言葉に視線だけ俺に向けてくる。
「お金が無い!」
そんな俺の言葉に誰も気にする様子無く食事を続ける。おい。あ、でもグリードだけは食事の手を止めて聞いてくれているな。ありがとうよ。
「リフォームと修理、新しい仲間の家具などを揃えるので多大なる出費が続き、現在フリーダムの口座は30万RKを切っている状況だ。このままだと新しい仲間を入れた瞬間、破産する!よって来週の日曜日までは依頼を毎日一件は依頼を受けてもらう」
「ま、拙者は構わないぞ」
「私も問題ないのだ」
「まったく仕方がありませんね」
意外と素直に聞いてくれるメンバー諸君。ま、戦いが嫌いな連中じゃないからな。どちらかと言えば好きなタイプだし。
「あ、あの僕もですか?」
「当然だ。それとグリードには条件を付ける」
「条件ですか?」
「そうだ。討伐以外の依頼を受ける事を禁止する」
「え!?それって採取や街の中で手伝いも無しって事ですか?」
「当然だろ。俺がなんで期限付きの試練を与えたと思ってるんだ。討伐系の依頼をこなさないとBランクになんてなれないぞ」
「そ、それはそうですが……」
ま、いきなり言われても無理か。
「明日は一緒に俺が付いていってやるから安心しろ」
「わ、分かりました」
よし。あ、それと。
「アイン」
「なんですか?」
「最近、こないだの依頼で銀は少ししか戦えなかっただろ。だから悪いが銀に戦わせてやってくれ」
「分かりました」
やっぱり銀の事になると素直だよな。
昼食を終えた俺たちは、少し食後休憩をとったのち各自、自由に過ごす。
地下の訓練所に戻って訓練をする奴もいれば、さっそく依頼を受けて出て行く奴も居た。あ、それとソファーでお昼寝している奴もいたな。ま、言わなくても分かるだろうけど。
俺は地下の訓練所で影光に瞬脚を教えて貰っていた。
現在、地下室には俺と影光しかいない。
アインと銀は依頼を受けて外に出ているし、グリードは買い物があると出て行った。ヘレンは……言わなくても分かるだろう。
で、瞬脚を教わり始めて5時間。俺は地面に座っていた。
そんな俺を見て影光は言った。
「仁、お前は才能が無いな」
「煩い」
影光に教わってはいるが、まったく上手くいかない。
影光が言うには瞬脚がステータスに表示されるようになるのに常人でも1週間掛かる。しかし初日にでも瞬脚の片鱗ぐらいは見れるそうだ。
だが俺からはその片鱗すら見られないらしい。まだ5時間しか経っていないんだから当然だろうに。
夕方になったので俺たちは訓練を切り上げてリビングに戻るとアインたちは帰ってきており、ソファーで寛いでいた。
ヘレンはまだ寝ている。
「グリードの姿が見えないがまだ戻ってきていないのか?」
「先ほど見かけましたよ。なんでも屋上でする事がある言っていましたけど」
「屋上?」
俺は気になり屋上へ行ってみると、大量のレンガとセメントが置かれていた。
「グリードなにしてるんだ?」
「あ、ジンさん。そ、その僕、料理以外にも家庭菜園が好きでよく実家では野菜を作ってたんです。ですから屋上で野菜が作れたらなと思いまして。そ、それに食費も浮きますし」
「なるほどな。だけど、これだけの材料どうしたんだ?」
「買いました」
「まさか自腹か?」
「はい」
「馬鹿か。ギルドで食べる野菜を作るなら経費で買えば良いだろうに」
「で、でもお金が無いって」
「だとしても自腹で買うのは駄目だ。それなら一度俺に相談すれば良いだろ。今後必要な材料は買う前に俺にリストを見せるように。良いな?」
「は、はい!」
嬉しそうに返事をしたグリードと一緒に片づけをして俺たちはリビングに戻った。
その後はグリードの美味しいご飯を堪能したのだった。
やっぱりグリードの料理は最高だな。
その後は新しいお風呂で疲れを解して一日を終えるのだった。
「なんだ?」
「別に気にせず魔眼の力を使えば良いと俺は思うぞ」
「いきなり何を言っているのだ!ジンはこの魔眼がどれだけ危険で恐ろしいものか知らないからそんな事が言えるのだ!」
「傷つけたのなら謝る。だけどどんな忌み嫌われた能力であろうと所詮、力だ。つまりはその力の使い手次第じゃないのか?」
「え?」
「拳を振るうのもまた力だ。だがその力を他人を傷つけるために使えば、それは暴力。だが誰かを守るため、何かを成し遂げるために使えば、それは暴力じゃない。そしてそれはヘレンの全痛覚眼も同じだ。対象者が苦しめるだけに使えば、それは暴力。しかし自分が生き残るため、仲間を守るために使えばそれは暴力じゃない。だからヘレンも自分の力を嫌いになるな」
「うん……頑張ってみるのだ……」
「ああ、それで良い」
下を向いていて表情は見えない。ただ銀がヘレンの頬を舐めていた。
それにしても全痛覚眼か。確かに拷問なんかには向いている力だが、ヘレンにそんな事をさせるつもりはない。
となると他の利用方法を考えなければならないな。
俺は考える。自分の呪いを無力化に使うと言う発想に転換した時のように考える。
何かないか、ヘレンが自分の力を嫌いにならない良い方法が……。
その時、アインとグリードの戦いが目に飛び込んできた。
銃で攻撃すると見せかけてグリードの顎に蹴りを打ち込んだ。おいおいあんな事も出来るのかよ。
まさか銃をブラフに使うとは。ん?ブラフ……見せかけ……偽情報……騙す……っ!
「これだ!」
「ど、どうかしたのか!」
隣で座っていたヘレンが慌てて顔で話しかけてくる。
影光たちも急に俺が叫んだからこっちに視線を向けていた。あ、気にせずに戦ってくれ。
「ヘレン、お前のその魔眼。良い使い方を思いついたぞ」
「え?」
驚いた表情を浮かべる。
俺はさっそくヘレンにその内容を伝えた。
「どうだ?上手く出来そうか?」
「分からないのだ。この力は緊急時以外使わないと決めていたから、でもやってみるのだ!」
ああ、それで良い。
もしもこれで上手く行けば、ヘレンは全痛覚眼を使えるように練習するはずだ。そうすればもっと強くなる。
さて、そんなヘレンの実験台としてはやっぱり影光あたりが良いだろう。
「影光」
「なんだ?」
「悪いが、ヘレンと模擬戦をしてくれないか?」
「別に構わぬが」
よし。これであとはヘレン次第だ。
俺はヘレンに視線を向けて頷く。ヘレンもまた「分かった」と頷いた。
グリードとアインが戦う横でヘレンと影光が対峙し合う。
しかし影光は驚いたのか目を見開け、そして直ぐにいつも以上に真剣な表情へと変わった。
「なるほど。仁が急にヘレンと戦ってくれ。と言い出したわけはこれか」
不敵な笑みを浮かべる影光。しかし額には冷や汗が流れていた。
ま、無理もないか。なんせ今のヘレンは眼帯を外しているのだからな。
これまで隠れていた左目は黄金に輝き、瞳は×のような、星のような形をしていた。手裏剣って言うべきかもしれないけど。
そう、ヘレンはようやく自分すら嫌っていた全痛覚眼を使う気になったのだ。
だからこそ影光は冷や汗を流す。まさか自分が最初の実験台にされるとは思ってなかっただろうからな。
だが仕方が無い。
ヘレンが試そうとしている戦術は俺が考えたものだし、アインはサイボーグなので痛覚を遮断することが可能。グリードに試せばトラウマになる可能性がある。それに比べて影光はヘレンよりも圧倒的に強いし、メンタル面も鍛えられているから問題ない。
それに今回の戦術はヘレンよりも強い人間で試した方が、今後の課題が見つかり易いからな。
互いに武器を構える。
「それじゃ………始め!」
そんな俺の合図と同時に2人は瞬脚を使った。
一瞬で敵の懐まで移動することが可能な瞬脚。しかし俺とは違い、地面が陥没していない。やはり普通に地面を蹴るのとは違うのだろう。あとで教えて貰わないとな。
一瞬にして零距離で火花を散らす2人。
ヘレンは双剣で手数と言う意味では有利の筈だが、全て弾かれている。それだけ2人の技量に差があると言う事だ。
それにしても影光の奴、試合開始早々にヘレンに目掛けて走ったな。だけど当然と言えば当然か。
全痛覚眼の射程距離は約100メートル。訓練所の広さ以上ある射程距離だ。つまり距離を取ろうと思っても無理だ。
それなら相手に近づいて使わせる隙を与えないつもりなんだろう。さっさと決めようと思えば決められるからな。
そんな2人の攻防が数分間続いた。
そして最初に仕掛けたのはヘレンだ。
地面から一本の氷柱を影光目掛けて地面から生やす。
突然の攻撃だったが、影光は冷静にヘレンの氷柱を躱した。
しかしそれはヘレンも予想していた事。悔しそうな顔をする事無く冷静に影光に追撃を仕掛けた。
今だ。
俺は心の中だ呟いた。
影光と離れた距離を詰めたヘレンは一閃した。
しかし影光はそれすらも予測していたのか体を反らして躱す。
流石は影光。ヘレンの数手先を読んでいるな。
「だが影光、その攻撃は躱せないぜ」
俺は2人の戦いを見ながら小さく呟いた。
「くっ!?」
その瞬間、影光は思わず目を見開け、苦悶の声が口から漏れた。
影光は慌てて左手で自分の胸を触るが、何も起きてはいない。
傍から見れば何をしているんだ。って思われるだろう。だがそれがヘレンが行った攻撃。次へと繋げるための攻撃だ。
何が起きたのか一瞬分からなかった影光は困惑した。その数瞬の隙をヘレンは見逃す事無く影光の刀を弾き飛ばしたのだった。
「そこまで!勝者、ヘレン!」
「や、やったのだ!カゲミツに勝ったのだ!」
嬉しそうにはしゃぐヘレンは、見た目相応だと思えたが、本当は22歳。俺よりも年上だ。
「まさか拙者が負けるとはな」
そう呟きながら弾かれた刀を手にとって鞘に納めた。
「どうだ、俺が考えた戦術は?」
「見事と言うほかないだろう。まさか全痛覚眼にあんな使い方があるとはな。すっかり騙されてしまったぞ」
「なんでも、想像力が大事って事だ。ま、今回はたまたま上手くいっただけだ。今後はもっと訓練を重ねる必要があるだろうけどな」
「そうだろうの」
「頑張るのだ。もっと上手く使いこなせるようになるのだ!」
影光に勝てた事が嬉しかったのか、ヘレンはこれまでに無いほどやる気に満ち溢れていた。
俺がヘレンに教えた戦術は全痛覚眼をブラフに使う戦術だ。
普通に相手に痛みを与えるのでは無く、攻撃と織り交ぜる事で思考を停止させるのが今回の目的だ。
普通に痛みを与えれば相手は全痛覚眼を使ったと判断し、直ぐに対処してくる。
しかし双剣の攻撃を行った瞬間に全痛覚眼を使えば、攻撃が当たったと最初は認識する。
ましてや攻撃を躱したにも拘らず、痛みを感じれば誰だって攻撃が当たったと認識し、困惑するだろう。
それが相手の動きを封じ、その先の読みすらも封じる戦術だ。
「剣の一撃を躱したと脳が認識している時に全痛覚眼で痛みによるブラフを与える。剣の一撃が合ったからこそ、ブラフが絶大な効果を発揮したのですね。単細胞の癖によくもそんな戦術を思いつきますね」
毒舌が俺の耳に届くと方向に視線を向けるとアインが近づいてきた。
「そっちも終わったのか?」
「ええ、パワー、技術、体力に関しては問題ありませんがメンタル面に問題がありますね」
「そうか」
やっぱりそう上手くはいかないか。
何か、切っ掛けがあれば変われるんだろうが。
スマホを開いて時間を見ると12時過ぎと表示されていた。休憩するには良い時間だし、俺たちは訓練を切り上げてリビングに移動した。
グリードが作ってくれた昼食を食べていると、俺はある事を思い出した。
「諸君、問題が起きた」
そんな俺の言葉に視線だけ俺に向けてくる。
「お金が無い!」
そんな俺の言葉に誰も気にする様子無く食事を続ける。おい。あ、でもグリードだけは食事の手を止めて聞いてくれているな。ありがとうよ。
「リフォームと修理、新しい仲間の家具などを揃えるので多大なる出費が続き、現在フリーダムの口座は30万RKを切っている状況だ。このままだと新しい仲間を入れた瞬間、破産する!よって来週の日曜日までは依頼を毎日一件は依頼を受けてもらう」
「ま、拙者は構わないぞ」
「私も問題ないのだ」
「まったく仕方がありませんね」
意外と素直に聞いてくれるメンバー諸君。ま、戦いが嫌いな連中じゃないからな。どちらかと言えば好きなタイプだし。
「あ、あの僕もですか?」
「当然だ。それとグリードには条件を付ける」
「条件ですか?」
「そうだ。討伐以外の依頼を受ける事を禁止する」
「え!?それって採取や街の中で手伝いも無しって事ですか?」
「当然だろ。俺がなんで期限付きの試練を与えたと思ってるんだ。討伐系の依頼をこなさないとBランクになんてなれないぞ」
「そ、それはそうですが……」
ま、いきなり言われても無理か。
「明日は一緒に俺が付いていってやるから安心しろ」
「わ、分かりました」
よし。あ、それと。
「アイン」
「なんですか?」
「最近、こないだの依頼で銀は少ししか戦えなかっただろ。だから悪いが銀に戦わせてやってくれ」
「分かりました」
やっぱり銀の事になると素直だよな。
昼食を終えた俺たちは、少し食後休憩をとったのち各自、自由に過ごす。
地下の訓練所に戻って訓練をする奴もいれば、さっそく依頼を受けて出て行く奴も居た。あ、それとソファーでお昼寝している奴もいたな。ま、言わなくても分かるだろうけど。
俺は地下の訓練所で影光に瞬脚を教えて貰っていた。
現在、地下室には俺と影光しかいない。
アインと銀は依頼を受けて外に出ているし、グリードは買い物があると出て行った。ヘレンは……言わなくても分かるだろう。
で、瞬脚を教わり始めて5時間。俺は地面に座っていた。
そんな俺を見て影光は言った。
「仁、お前は才能が無いな」
「煩い」
影光に教わってはいるが、まったく上手くいかない。
影光が言うには瞬脚がステータスに表示されるようになるのに常人でも1週間掛かる。しかし初日にでも瞬脚の片鱗ぐらいは見れるそうだ。
だが俺からはその片鱗すら見られないらしい。まだ5時間しか経っていないんだから当然だろうに。
夕方になったので俺たちは訓練を切り上げてリビングに戻るとアインたちは帰ってきており、ソファーで寛いでいた。
ヘレンはまだ寝ている。
「グリードの姿が見えないがまだ戻ってきていないのか?」
「先ほど見かけましたよ。なんでも屋上でする事がある言っていましたけど」
「屋上?」
俺は気になり屋上へ行ってみると、大量のレンガとセメントが置かれていた。
「グリードなにしてるんだ?」
「あ、ジンさん。そ、その僕、料理以外にも家庭菜園が好きでよく実家では野菜を作ってたんです。ですから屋上で野菜が作れたらなと思いまして。そ、それに食費も浮きますし」
「なるほどな。だけど、これだけの材料どうしたんだ?」
「買いました」
「まさか自腹か?」
「はい」
「馬鹿か。ギルドで食べる野菜を作るなら経費で買えば良いだろうに」
「で、でもお金が無いって」
「だとしても自腹で買うのは駄目だ。それなら一度俺に相談すれば良いだろ。今後必要な材料は買う前に俺にリストを見せるように。良いな?」
「は、はい!」
嬉しそうに返事をしたグリードと一緒に片づけをして俺たちはリビングに戻った。
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