180 / 274
第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第九十八話 遺跡探索 ⑥
しおりを挟む
12月1日土曜日。
俺たちは依頼を終えて帝都まで帰ってきていた。
昨日戻ってきた俺たちだったが、帝都に到着したのが夕方だったのでボルキュス陛下には今日報告することにしたのだ。
そのため俺たちフリーダムメンバーは現在皇宮の応接室に来ていた。
出されたコーヒーは相変わらず美味しいぜ。後でイオにどこのコーヒー豆か、聞いておこうか。
「まさか、こんなにも早く帰って来るとは思って無かったぞ」
「俺の仲間は優秀だからな」
「そのようだな」
竜の巣のような砂嵐が消えたことは既に帝都でもニュースになっている。しかしその原因までは報道されていない。だって研究者にも分かっていないんだから当然だよな。
ま、砂嵐を止めたのは間違いなく俺たちなんだが、いつ止めたのかがまったく分からないんだから仕方が無い。
「それであの右腕の正体は分かったのか?」
「種族までは分からないが、あれは巨大な蜥蜴を使役していたライダーの腕だと言う事は分かった」
「蜥蜴?してその大きさは?」
「全長で40メートルと言ったところだな」
「40メートルだと!?」
俺の言葉に驚愕の表情が露になる。当然の反応だけど。
「それほど大きいとなるといったい何人の兵士たちを向かわせる事になるか、想像しただけで頭が痛くなりそうだ」
「その必要は無いぜ」
「どうし……まさか、倒したって言うのか?」
「ああ。骨野郎の支援魔法が強力で最初は苦戦したが倒したぜ」
「それほどの相手はたったの7人で倒すとは……実力だけならAランク、いや、Sランクギルドにも匹敵するレベルだ」
「俺たちは少数精鋭だからな」
(少数精鋭などと言うレベルを遥かに超えている。フリーダムの戦力はもはや我が国の一個旅団と同等。もしかしたら一個師団にも匹敵するレベルになっているのかもしれない)
ボルキュス陛下の表情がどこか強張っており、真剣な面持ちをしていた。
そんなにあの蜥蜴と骨野郎が脅威だと感じているのかもしれない。たしかに中は広いが空爆で倒す事は無理だし、戦車で攻撃するにも遺跡に入れることは不可能だ。となると高火力の武器で言えばロケットランチャーか対戦車ライフルぐらいだろう。
だが俺たちの攻撃を防げるほどの魔法に鱗だ。そう簡単に倒せる相手ではない。それなりの数を揃えなければ倒せない相手だ。だがそれは大量の死傷者を出す恐れがあると言う事でもある。
ま、俺たちが倒したから結局は意味無いんだけどな。
「して、その蜥蜴と骨のライダーはどうした?」
「俺のアイテムボックスの中に入っている」
「なら後で研究所の方に持っていっておいてくれ。勿論正当な価格で買い取らせて貰う」
「分かった」
俺は返事をしてコーヒーを一口飲む。うん、美味い。
「それで他には何があった?」
「遺跡の階層は全部で3階層だ。地上、地下1階と2階となっている。蜥蜴と骨野郎は地下1階におり、入った者を直ぐに襲うことはなかった。どうやら遺跡から出ようとする者を襲うように指示されていたのだと俺たちは推測している」
俺の言葉にボルキュス陛下の表情が険しいものになっていく。
「地下2階には昔人々が住んでいたと思われる建物が幾つもあったが、その大半が壊れていた。戦闘で壊れたのか、時の流れとともに朽ちて崩れ落ちたのかは分からない。ただ砂や土の無い場所にも拘らず骨すら残っていなかった事には疑問を感じた。もしかしたら俺たちを襲ってきた大量の蠍が食べたのかもしれないしな」
「まて、蠍だと」
「ああ。数にすれば万に近い数の蠍が俺たちを襲ってきた。どうにか全滅させたけどな。それ以外にも魔蟲と呼ばれている魔物が操る甲冑も一体だけだが居た。それはアインが一撃で倒したけどな」
「砂漠地帯の遺跡だから蠍が居る事には頷けるが甲冑が1つだけあった理由がまったく分からないな」
「もしかしたら俺たち同様に昔、誰かがあの遺跡を探索したのかもな」
「その可能性はあるか」
色々と可能性を推測するボルキュス陛下。そう言えば言うの忘れていたな。
「それと以前見せてくれた右腕の事なんだが」
「あの籠手の事か?」
「ああ。あれは籠手じゃなくてスケルトンライダーの右腕そのものだったぜ」
「待て。つまりはあの異様な形をした籠手はスケルトンが装着していたのではなく、本当に右腕だったと言いたいのか?」
「ああ、その証拠にあの骨野郎の形は普通の人間とは違う骨の形をしていたぜ」
「そうか。となるとあの遺跡を作ったのは人間ではない別の種族と言う事になるのかもしれないな」
「その可能性は十分ありえると思うぜ」
ボルキュス陛下が言っている事は俺も考え付いていた。なんせあの不気味な見た目をした骨野郎が同じ人間だとは思いたくないからな。
「それで他に何も無かったか?」
「そ、それはだな……」
ボルキュス陛下の言葉に思わず言葉を濁して目を逸らす。
そんな俺の態度にボルキュス陛下の眼光が鋭さを増す。
「言っておくが嘘を言ったら依頼ミスとして慰謝料を支払って貰う事になるぞ」
それだけは絶対に嫌だ!
「じ、実はだな。遺跡の最深部に置かれていた鏡を破壊してしまったんだ。と言うより破壊した」
「ほぉ、それは何故だ?」
止めて!そんな興味深そうに、そして事と次第によっては俺が死ぬような声音で言わないで!お願いだから!
「嫌な、その鏡はその人間が心の底から会いたい人物を映す鏡なんだ」
「なら、どうして破壊したんだ?」
「よくは分からないが、その鏡を見た者をその場から離さないような効果があるような気がしたんだ。だからこれは危険だと判断して……その、なんだ……思いっきり殴って破壊したんだ」
言ってしまった。もしもこれで依頼失敗って言われたらみんなすまん!俺の自腹で慰謝料を払うから勘弁してくれ!
「そうか、よくやってくれた!」
「へ?」
ボルキュス陛下の言葉に俺は思わず、変な声が出てしまう。
だってそうだろ。誰もよくやった!なんて言葉を想像出来た者なんていないだろうからな。
「それはどういう事だ?」
「実はその鏡には魅了の力があると言われているらしくてな。我々はその鏡を破壊するのが目的の1つでもあったんだ」
「ま、待て!俺もそうだが、フリーダムメンバーは強弱はあれど状態異常の耐性は持っているぞ」
「調べた限りあの鏡が持っているのはスキルでは無く、称号ではないかと言う意見も出ていてな。称号はスキルではどうにも出来ないからな」
確かに称号は固有スキル、スキルより圧倒的にその効果が強い。だからと言って鏡に称号ってありなのか?付喪神じゃあるまいし。
「ま、なんにせよ。お前たちでもその場から動けなくなる程の強力な魅了が存在し、道具にも称号が与えられる可能性が出てきたと言う事が分かっただけでも大きな成果と言えるだろう」
なんだよそれ。つまりは俺たちは探す依頼だけでなく実験台にもされたってわけか。そう言うことは前もって言ってくれないと困るんだが。
訴えても良いけど、ボルキュス陛下に勝てる気がまったくしないので止めておいた。
「これで話は以上だな」
「ああ」
「なら、イオに研究所に案内するからそこに蜥蜴と骸骨の骨を置いていってくれ。依頼達成の報酬は冒険者組合に報告してから払っておく」
こうして俺たちは無事に依頼を達成したのだった。なんとも釈然としない終わりになってしまったが、無事に依頼を終えられた事だけは分かる。
その後俺たちはイオの案内で皇宮内にある研究所に蜥蜴と骨野郎の遺体を置いてホームへと戻ってきた。
途中で食材などを買い込んだから帰ってくるのが遅くなったけど。
ソファーに座ったお茶を飲んでいるとスマホの通知音が鳴る。
スマホを開いてみると指名依頼達成の通知だった。
そして俺は昇格ポイントが貯まり、Aランク昇格試験を受けられる事になった。だがそれは俺だけでなくアインもそうらしい。
ま、互いに残り僅かだったからな。
フリーダムメンバー全員での初依頼を達成した事を祝うとしよう。
と言うわけで俺たちはリビングで宴会を開く事にした。
料理は勿論、グリードのお手製だ。
酒も買い足しておいたのでなんの問題もない。と言うよりも旅行先で買った酒は既にない。
生憎と我がフリーダムには酒豪が数人居る。
名前を挙げれば影光、アリサのこの2人だ。
俺も飲もうと思えば幾らでも飲めるが嗜む程度だ。だってどれだけ飲んだも称号でほろ酔いにしかならないからな。
アインも酒は幾らでも飲める。何故なら全て胃の中でアルコールを分解してしまうからだ。と言うかサイボーグだから酔う事はない。
クレイヴも飲めるが嗜む程度だ。
飲めないのはヘレンとグリードぐらいだろう。
ヘレンはおこちゃま体質なので少しでも飲めば倒れるし、グリードは飲まない。
そんなわけで我がフリーダムの食費の酒代の大半を影光とアリサが使っているわけだ。あ、でもこないだはサシ勝負をする羽目になって俺も参加したっけな。え?勝負の結果って。勿論勝ったさ。だってどれだけ飲んでもほろ酔いにしかならないからな。
ま、そんなわけでテーブルには大量の料理と酒が用意されているわけだ。
酒代の半分は今後自腹にした方が良いかもしれないな。
そんな事を考えながら俺はビールが注がれたグラスを片手に持つ。
「それじゃ初めてのフリーダム全員での依頼達成を祝して乾杯!」
『乾杯!』
少し掲げたグラスを鳴らし合った俺たちは一気に胃へと流し込む。
「プハッー!やっぱり仕事の後はこの一杯だよな」
「仁、まだ若いのにおっさん臭いぞ」
「うるさいな。美味いものは美味いんだから仕方がないだろ」
それに中身は本当におっさんだし。
そんな事を思いながら俺はグリードが作ってくれた料理を一口食べる。
うん、美味い!
テーブルには様々な料理が並んでいる。
酢豚、刺身、寿司、サイコロステーキ、生ハムサラダ、フライドポテト、など様々だ。
「それにしてもジンの旦那が鏡を割った時はどうなるかと思ったが、結果オーライで良かったぜ」
「まったくです。やはり低脳が居ると周りが苦労しますね」
煩いな。結果的に良かったんだから良いじゃないか。
「だがこれでフリーダムの株も上がると言うものだ。なんせ皇族からの依頼を見事に完遂したのだからな。もしかしたら他の者達からも指名依頼が来るかも知れぬぞ」
それは良い話だな。
一々過去を持ち出さず未来を見ているとは流石は影光だ。
「ま、それも今回の依頼が偶然にも上手く行ったお陰だけどの」
前言撤回だ。
お前も過去を見るなんて酷いぞ。俺たち冒険者は未来に繋がる今日を生きるべきだと俺は思うぞ。
ま、そんな俺だからあの鏡を割れたんだしな。
「それで仁よ。今後の予定は決まっているのか?」
「そうだな。俺とアインはAランク昇格試験を受けるつもりだ。その間はお前たちは自由に依頼を受けてくれ」
「つまりはいつも通りと言うことだな」
「ま、そうだな。でも俺としてはグリードにも早くAランク。いや、Sランクになって貰いたいと思っているからな」
「え!?」
そんな俺の言葉に食べようとしていた生ハムサラダが皿の上に落ちる。
「じゃないと今回戦ったような魔物と戦えないだろ?」
「あ、あんな魔物とまた戦うんですか!?」
また戦うってグリードは何を言ってるんだ。
「またじゃなくて何度も戦うつもりだ」
「何度もですか!で、でも、今回の戦いで連携も上手く行きましたしそこまで急ぐ必要は無いと思うんだすけど!」
「あんなの偶然上手く言っただけだ。それに暗闇で戦うなんて特殊ケースだからな。本当なら地上の明るいところで戦うのがベストなんだぞ」
「仁の言う通りだぞ。それに一度連携が上手く行ったからとまた上手く行くとは限らない。なんども陣形を組み、連携を試すことでようやく使える状態になるのだ。それぐらい冒険者のお前なら知っていて当然だと思うが?」
「そ、それはそうですが、別に最初かあんな化物と戦う必要はありませんよね?」
「それはそうだが、俺たち全員で良い勝負が出来る相手となるとどうしてもSランク以上の魔物になってしまうからな」
それにあの蜥蜴が化物なら気まぐれ島の連中はなんだ?怪物か何かか?
「そんな……」
俺の言葉に落ち込むグリード。お前は本当に強くなりたいのか未だに疑問に思うぞ。ま、戦場で戦えていたから口には出さないけど。
そんなこんなで俺たちの宴会はまだまだ続くのだった。
─────────────────────
【依頼内容】
スメルティス砂漠にある遺跡探索 完了
依頼報酬+500万RK
【ギルド残高】
指名依頼依頼報酬2割
100万+1万RK
居酒屋飲み代 -4万7250RK
ギルド口座残高 476万1500RK
【ギルドランク】
Dランク
【個人残高】
指名依頼報酬 +57万RK
煙草2カートン -1万400RK
ジップ・ライター -1万2600RK
残高 1480万5740RK
【冒険者ランク】
Aランク昇格まで残り0ポイント
Aランク昇格試験可能!
=================================
お久しぶりです、月見酒です。
これにて第二章終了です。
第二章が始まってから3ヶ月と少しが過ぎましたが、どうでしたでしょうか。
仁はようやく最初の目標であった冒険者になり、自分のギルドと仲間を持つことが出来ましたね。
感想を見さして貰うと大半が誤字脱字の報告でいつも申し訳なさと感謝で一杯です。
そして思い返してみれば第二章はエロさが少なかった!と思います。
と言うことで、第三章はエロさ多めで行きたいと思うぜ!(多分)
それでは今後とも「魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~」を宜しくお願いします。
あ、それと鬼神転生記の方はもう暫く待って貰えるとありがたいです。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
俺たちは依頼を終えて帝都まで帰ってきていた。
昨日戻ってきた俺たちだったが、帝都に到着したのが夕方だったのでボルキュス陛下には今日報告することにしたのだ。
そのため俺たちフリーダムメンバーは現在皇宮の応接室に来ていた。
出されたコーヒーは相変わらず美味しいぜ。後でイオにどこのコーヒー豆か、聞いておこうか。
「まさか、こんなにも早く帰って来るとは思って無かったぞ」
「俺の仲間は優秀だからな」
「そのようだな」
竜の巣のような砂嵐が消えたことは既に帝都でもニュースになっている。しかしその原因までは報道されていない。だって研究者にも分かっていないんだから当然だよな。
ま、砂嵐を止めたのは間違いなく俺たちなんだが、いつ止めたのかがまったく分からないんだから仕方が無い。
「それであの右腕の正体は分かったのか?」
「種族までは分からないが、あれは巨大な蜥蜴を使役していたライダーの腕だと言う事は分かった」
「蜥蜴?してその大きさは?」
「全長で40メートルと言ったところだな」
「40メートルだと!?」
俺の言葉に驚愕の表情が露になる。当然の反応だけど。
「それほど大きいとなるといったい何人の兵士たちを向かわせる事になるか、想像しただけで頭が痛くなりそうだ」
「その必要は無いぜ」
「どうし……まさか、倒したって言うのか?」
「ああ。骨野郎の支援魔法が強力で最初は苦戦したが倒したぜ」
「それほどの相手はたったの7人で倒すとは……実力だけならAランク、いや、Sランクギルドにも匹敵するレベルだ」
「俺たちは少数精鋭だからな」
(少数精鋭などと言うレベルを遥かに超えている。フリーダムの戦力はもはや我が国の一個旅団と同等。もしかしたら一個師団にも匹敵するレベルになっているのかもしれない)
ボルキュス陛下の表情がどこか強張っており、真剣な面持ちをしていた。
そんなにあの蜥蜴と骨野郎が脅威だと感じているのかもしれない。たしかに中は広いが空爆で倒す事は無理だし、戦車で攻撃するにも遺跡に入れることは不可能だ。となると高火力の武器で言えばロケットランチャーか対戦車ライフルぐらいだろう。
だが俺たちの攻撃を防げるほどの魔法に鱗だ。そう簡単に倒せる相手ではない。それなりの数を揃えなければ倒せない相手だ。だがそれは大量の死傷者を出す恐れがあると言う事でもある。
ま、俺たちが倒したから結局は意味無いんだけどな。
「して、その蜥蜴と骨のライダーはどうした?」
「俺のアイテムボックスの中に入っている」
「なら後で研究所の方に持っていっておいてくれ。勿論正当な価格で買い取らせて貰う」
「分かった」
俺は返事をしてコーヒーを一口飲む。うん、美味い。
「それで他には何があった?」
「遺跡の階層は全部で3階層だ。地上、地下1階と2階となっている。蜥蜴と骨野郎は地下1階におり、入った者を直ぐに襲うことはなかった。どうやら遺跡から出ようとする者を襲うように指示されていたのだと俺たちは推測している」
俺の言葉にボルキュス陛下の表情が険しいものになっていく。
「地下2階には昔人々が住んでいたと思われる建物が幾つもあったが、その大半が壊れていた。戦闘で壊れたのか、時の流れとともに朽ちて崩れ落ちたのかは分からない。ただ砂や土の無い場所にも拘らず骨すら残っていなかった事には疑問を感じた。もしかしたら俺たちを襲ってきた大量の蠍が食べたのかもしれないしな」
「まて、蠍だと」
「ああ。数にすれば万に近い数の蠍が俺たちを襲ってきた。どうにか全滅させたけどな。それ以外にも魔蟲と呼ばれている魔物が操る甲冑も一体だけだが居た。それはアインが一撃で倒したけどな」
「砂漠地帯の遺跡だから蠍が居る事には頷けるが甲冑が1つだけあった理由がまったく分からないな」
「もしかしたら俺たち同様に昔、誰かがあの遺跡を探索したのかもな」
「その可能性はあるか」
色々と可能性を推測するボルキュス陛下。そう言えば言うの忘れていたな。
「それと以前見せてくれた右腕の事なんだが」
「あの籠手の事か?」
「ああ。あれは籠手じゃなくてスケルトンライダーの右腕そのものだったぜ」
「待て。つまりはあの異様な形をした籠手はスケルトンが装着していたのではなく、本当に右腕だったと言いたいのか?」
「ああ、その証拠にあの骨野郎の形は普通の人間とは違う骨の形をしていたぜ」
「そうか。となるとあの遺跡を作ったのは人間ではない別の種族と言う事になるのかもしれないな」
「その可能性は十分ありえると思うぜ」
ボルキュス陛下が言っている事は俺も考え付いていた。なんせあの不気味な見た目をした骨野郎が同じ人間だとは思いたくないからな。
「それで他に何も無かったか?」
「そ、それはだな……」
ボルキュス陛下の言葉に思わず言葉を濁して目を逸らす。
そんな俺の態度にボルキュス陛下の眼光が鋭さを増す。
「言っておくが嘘を言ったら依頼ミスとして慰謝料を支払って貰う事になるぞ」
それだけは絶対に嫌だ!
「じ、実はだな。遺跡の最深部に置かれていた鏡を破壊してしまったんだ。と言うより破壊した」
「ほぉ、それは何故だ?」
止めて!そんな興味深そうに、そして事と次第によっては俺が死ぬような声音で言わないで!お願いだから!
「嫌な、その鏡はその人間が心の底から会いたい人物を映す鏡なんだ」
「なら、どうして破壊したんだ?」
「よくは分からないが、その鏡を見た者をその場から離さないような効果があるような気がしたんだ。だからこれは危険だと判断して……その、なんだ……思いっきり殴って破壊したんだ」
言ってしまった。もしもこれで依頼失敗って言われたらみんなすまん!俺の自腹で慰謝料を払うから勘弁してくれ!
「そうか、よくやってくれた!」
「へ?」
ボルキュス陛下の言葉に俺は思わず、変な声が出てしまう。
だってそうだろ。誰もよくやった!なんて言葉を想像出来た者なんていないだろうからな。
「それはどういう事だ?」
「実はその鏡には魅了の力があると言われているらしくてな。我々はその鏡を破壊するのが目的の1つでもあったんだ」
「ま、待て!俺もそうだが、フリーダムメンバーは強弱はあれど状態異常の耐性は持っているぞ」
「調べた限りあの鏡が持っているのはスキルでは無く、称号ではないかと言う意見も出ていてな。称号はスキルではどうにも出来ないからな」
確かに称号は固有スキル、スキルより圧倒的にその効果が強い。だからと言って鏡に称号ってありなのか?付喪神じゃあるまいし。
「ま、なんにせよ。お前たちでもその場から動けなくなる程の強力な魅了が存在し、道具にも称号が与えられる可能性が出てきたと言う事が分かっただけでも大きな成果と言えるだろう」
なんだよそれ。つまりは俺たちは探す依頼だけでなく実験台にもされたってわけか。そう言うことは前もって言ってくれないと困るんだが。
訴えても良いけど、ボルキュス陛下に勝てる気がまったくしないので止めておいた。
「これで話は以上だな」
「ああ」
「なら、イオに研究所に案内するからそこに蜥蜴と骸骨の骨を置いていってくれ。依頼達成の報酬は冒険者組合に報告してから払っておく」
こうして俺たちは無事に依頼を達成したのだった。なんとも釈然としない終わりになってしまったが、無事に依頼を終えられた事だけは分かる。
その後俺たちはイオの案内で皇宮内にある研究所に蜥蜴と骨野郎の遺体を置いてホームへと戻ってきた。
途中で食材などを買い込んだから帰ってくるのが遅くなったけど。
ソファーに座ったお茶を飲んでいるとスマホの通知音が鳴る。
スマホを開いてみると指名依頼達成の通知だった。
そして俺は昇格ポイントが貯まり、Aランク昇格試験を受けられる事になった。だがそれは俺だけでなくアインもそうらしい。
ま、互いに残り僅かだったからな。
フリーダムメンバー全員での初依頼を達成した事を祝うとしよう。
と言うわけで俺たちはリビングで宴会を開く事にした。
料理は勿論、グリードのお手製だ。
酒も買い足しておいたのでなんの問題もない。と言うよりも旅行先で買った酒は既にない。
生憎と我がフリーダムには酒豪が数人居る。
名前を挙げれば影光、アリサのこの2人だ。
俺も飲もうと思えば幾らでも飲めるが嗜む程度だ。だってどれだけ飲んだも称号でほろ酔いにしかならないからな。
アインも酒は幾らでも飲める。何故なら全て胃の中でアルコールを分解してしまうからだ。と言うかサイボーグだから酔う事はない。
クレイヴも飲めるが嗜む程度だ。
飲めないのはヘレンとグリードぐらいだろう。
ヘレンはおこちゃま体質なので少しでも飲めば倒れるし、グリードは飲まない。
そんなわけで我がフリーダムの食費の酒代の大半を影光とアリサが使っているわけだ。あ、でもこないだはサシ勝負をする羽目になって俺も参加したっけな。え?勝負の結果って。勿論勝ったさ。だってどれだけ飲んでもほろ酔いにしかならないからな。
ま、そんなわけでテーブルには大量の料理と酒が用意されているわけだ。
酒代の半分は今後自腹にした方が良いかもしれないな。
そんな事を考えながら俺はビールが注がれたグラスを片手に持つ。
「それじゃ初めてのフリーダム全員での依頼達成を祝して乾杯!」
『乾杯!』
少し掲げたグラスを鳴らし合った俺たちは一気に胃へと流し込む。
「プハッー!やっぱり仕事の後はこの一杯だよな」
「仁、まだ若いのにおっさん臭いぞ」
「うるさいな。美味いものは美味いんだから仕方がないだろ」
それに中身は本当におっさんだし。
そんな事を思いながら俺はグリードが作ってくれた料理を一口食べる。
うん、美味い!
テーブルには様々な料理が並んでいる。
酢豚、刺身、寿司、サイコロステーキ、生ハムサラダ、フライドポテト、など様々だ。
「それにしてもジンの旦那が鏡を割った時はどうなるかと思ったが、結果オーライで良かったぜ」
「まったくです。やはり低脳が居ると周りが苦労しますね」
煩いな。結果的に良かったんだから良いじゃないか。
「だがこれでフリーダムの株も上がると言うものだ。なんせ皇族からの依頼を見事に完遂したのだからな。もしかしたら他の者達からも指名依頼が来るかも知れぬぞ」
それは良い話だな。
一々過去を持ち出さず未来を見ているとは流石は影光だ。
「ま、それも今回の依頼が偶然にも上手く行ったお陰だけどの」
前言撤回だ。
お前も過去を見るなんて酷いぞ。俺たち冒険者は未来に繋がる今日を生きるべきだと俺は思うぞ。
ま、そんな俺だからあの鏡を割れたんだしな。
「それで仁よ。今後の予定は決まっているのか?」
「そうだな。俺とアインはAランク昇格試験を受けるつもりだ。その間はお前たちは自由に依頼を受けてくれ」
「つまりはいつも通りと言うことだな」
「ま、そうだな。でも俺としてはグリードにも早くAランク。いや、Sランクになって貰いたいと思っているからな」
「え!?」
そんな俺の言葉に食べようとしていた生ハムサラダが皿の上に落ちる。
「じゃないと今回戦ったような魔物と戦えないだろ?」
「あ、あんな魔物とまた戦うんですか!?」
また戦うってグリードは何を言ってるんだ。
「またじゃなくて何度も戦うつもりだ」
「何度もですか!で、でも、今回の戦いで連携も上手く行きましたしそこまで急ぐ必要は無いと思うんだすけど!」
「あんなの偶然上手く言っただけだ。それに暗闇で戦うなんて特殊ケースだからな。本当なら地上の明るいところで戦うのがベストなんだぞ」
「仁の言う通りだぞ。それに一度連携が上手く行ったからとまた上手く行くとは限らない。なんども陣形を組み、連携を試すことでようやく使える状態になるのだ。それぐらい冒険者のお前なら知っていて当然だと思うが?」
「そ、それはそうですが、別に最初かあんな化物と戦う必要はありませんよね?」
「それはそうだが、俺たち全員で良い勝負が出来る相手となるとどうしてもSランク以上の魔物になってしまうからな」
それにあの蜥蜴が化物なら気まぐれ島の連中はなんだ?怪物か何かか?
「そんな……」
俺の言葉に落ち込むグリード。お前は本当に強くなりたいのか未だに疑問に思うぞ。ま、戦場で戦えていたから口には出さないけど。
そんなこんなで俺たちの宴会はまだまだ続くのだった。
─────────────────────
【依頼内容】
スメルティス砂漠にある遺跡探索 完了
依頼報酬+500万RK
【ギルド残高】
指名依頼依頼報酬2割
100万+1万RK
居酒屋飲み代 -4万7250RK
ギルド口座残高 476万1500RK
【ギルドランク】
Dランク
【個人残高】
指名依頼報酬 +57万RK
煙草2カートン -1万400RK
ジップ・ライター -1万2600RK
残高 1480万5740RK
【冒険者ランク】
Aランク昇格まで残り0ポイント
Aランク昇格試験可能!
=================================
お久しぶりです、月見酒です。
これにて第二章終了です。
第二章が始まってから3ヶ月と少しが過ぎましたが、どうでしたでしょうか。
仁はようやく最初の目標であった冒険者になり、自分のギルドと仲間を持つことが出来ましたね。
感想を見さして貰うと大半が誤字脱字の報告でいつも申し訳なさと感謝で一杯です。
そして思い返してみれば第二章はエロさが少なかった!と思います。
と言うことで、第三章はエロさ多めで行きたいと思うぜ!(多分)
それでは今後とも「魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~」を宜しくお願いします。
あ、それと鬼神転生記の方はもう暫く待って貰えるとありがたいです。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる