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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第四話 スヴェルニ王国からやって来た友人 ④
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ま、そんなわけで俺たちは訓練所に来ていた。
全員参加の訓練は数日ぶりだが問題ない。
各自軽くストレッチを行った俺たちは一箇所に集まる。
「それで今から何をするんでしょうか?」
フェリシティーが問いかけてくる。
どうやらフェリシティーは現役の冒険者がどんな訓練をしているのか気になるようだ。
実家がギルドを経営してるんだから気になるような事でもないと思うんだが、別のギルドだからなのかもしれない。
ま、そんな話は置いといて。
何をすると言われてもな。
「いつもなら、各自好きな訓練をしているからな」
「え?訓練メニューとか無いのですか?」
「これと言った訓練メニューはないな。最初は各自自由訓練だ。魔力操作の訓練をしたり、新たな技の開発や習得、あとは模擬戦をしたりだな。ま、最後は念のために陣形とイメージトレーニングはしているが、決まったメニューと言うのはないな」
「そ、そうなんですね。私の父が経営しているギルドでは訓練メニューがあったので、てっきり他のギルドでもあるものだと」
「ま、そこはギルドそれぞれと言うことだろ」
「ただ単に貴方が訓練メニューを作るのが面倒なだけではないのですか?」
アインめ、何を適当な事を言ってるんだ。
「なら、俺が作った訓練メニューをお前はするのか?」
「するわけないでしょ」
なら、最初から罵倒するような事を言うんじゃねぇよ。
俺は鋭い視線をアインに向けるが気にする様子もなく、銀を撫でていた。コイツは俺以上に自由に生きている気がする。
「では今日はエンドレスバトルはしないのか?」
影光が質問してくる。
エンドレスバトルか。さてどうしたものか。
「あ、あの。そのエンドレスバトルって言うのはなんでしょうか?」
「ん?そう言えばフェリシティーに説明するのを忘れていたな。エンドレスバトルって言うのは簡単に説明するなら、勝つまで終わらない模擬戦だ」
「具体的にはどんな内容なのでしょうか?」
「一対一で模擬戦を行って負けた者が次の相手と戦う。それの繰り返し、戦う順番は始める前にジャンケンで決めるが、一周したからと言って終わりじゃない。勝つまで終わらない。制限時間はあるからそれまでに決着が付かなかったら、交代になるけどな。ただし2回連続で引き分けなければ交代は無しだ」
1試合の制限時間は5分。
致命傷と思われる攻撃が決まったと観戦者の半数が思ったらそこで決着。
ま、大まかなルールはそれだけだ。
軽傷なら放置して戦う奴も居るし、アリサの治癒魔法で治して貰う奴もいる。
それにアリサの治癒魔法の訓練にもなるし、観戦するだけでも自分の観察眼を鍛える事になるからな。色々とお得なんだ。
「そ、それはなんともハードな訓練ですね」
「そうか?フリーダムでは大人気の訓練方法だぞ。そうだよな?」
「私はいっぱい戦えて楽しいのだ!」
「合法的に相手を倒せるのは嬉しいですしね」
「強くなれるからの」
「撃って撃って撃ちまくれるから最高だぜ!」
「疲れますけど、強くなれるので!」
「眠い。だけど強い相手と何度も戦えるのはありがたい」
「ほらな」
「あはははは……」
頬を引き攣らせながら笑ってるが、フェリシティーどうしたんだ?
だけどエンドレスバトルにフェリシティーを参加させるのは少し厳しいかもしれないな。なんせレベルが違い過ぎるからな。
ま、最初は普通の訓練で良いだろう。
だが問題は誰に教えさせるかだ。
フェリシティーは銃器全般を扱うから一番良いのはアインだろう。アリサは教え方が全て擬音語になりそうだし、クレイヴは教える以前にやりたがらないだろうから、論外。やはりここはアインに任せてみるか。
ま、問題なのは素直に引き受けて受けるかどうかだが。
「アイン、フェリシティーを見てやってくれないか?」
「別に構いませんけど」
「え?」
「何故、そんなに驚いているのですか?」
「いや、だって絶対に嫌がると思ったからな」
「貴方は私を何だと思っているのですか。護衛対象者である彼女を鍛えるのは当然です。ましてや私と同じタイプなのですから」
「え?それって」
アインの言葉に驚くフェリシティー。
同じとあらば無理もないか。
「私も魔導銃全般を使います」
「そうなんですね。って私教えましたか?」
「いえ、調べましたので」
「そ、そうなんですか」
アインの不思議な力に驚いているようだな。だけど気にしない方が身のためだぞ。
でもまアインがあっさりと引き受けてくれたお陰でどうにかなりそうだな。
「フェリシティーの訓練はアインに任せて俺たちも各自訓練と言うことで」
俺の指示に全員が訓練を始めた。
俺は瞬脚の訓練、影光とグリード、ヘレンとクレイヴと言う組み合わせで模擬戦をしていた。
で、訓練場の隅でアインとフェリシティーが訓練をしているようだが、銃を使っての訓練ではなさそうだ。
その場に座ってなにやらしている。多分だが魔力操作の訓練だろう。
で、銀と三叉熊のトアはと言うと二人とも小動物サイズになってじゃれ合っていた。なんとも愛らしい光景である。
そんなこんなで1時間があっと言う間に過ぎた。
「大丈夫か?」
「は、はい……大丈夫です」
俺には分からないが魔力操作で相当な精神と体力を消耗したのだろう。
その場に横たわっていた。
「いったいどんな訓練をしていたんだ?」
「これです」
「なんだこれ、黒い砂?」
桶の中に大量に入っていたのは黒い砂だった。砂鉄のようにも見えるな。
触ってみたが唯の砂の感触だ。炭を粉末にした物ではないと言う事が分かったな。
「これは魔石です」
「魔石って洞窟内によくある石の事か?」
「その通りです」
魔石とは魔力を含んだ石や鉱石の事で、空気中に存在する魔素を多く吸収する事で出来るものだ。
ただし魔石に含まれる魔力は発掘される高山の場所によって異なる。
その理由としては空気中に含まれている魔素の濃度が原因である。
濃度が濃いほど短時間で多く含む事が出来ると言うわけだ。
気まぐれ島にも同じような物が幾つもあった。ま、暇な時は趣味として採掘したりしてたけど。
「この砂は魔石を加工する際に出た粒です。そしてこれに魔力を流し込むと――」
そう言ってアインは片手で砂を掴み魔力を流すとまるで1つの球体へと変化した。
「この通り、球体にする事が出来ます。ただし魔力を流し込むのを止めれば――」
その瞬間球体が崩壊し砂と戻りアインの指の隙間から流れ落ちる。
「元に戻ってしまいます」
「へぇ~面白いな」
「一定以上の魔力を流し込まなければ、球体を作る事が出来ませんし、手に取った魔石の砂の量で魔力量も変わってきます。ですから魔力操作には持って来いなのです」
「そうなのか?」
「やはり、貴方は馬鹿ですね」
「悪かったな。魔力がないから分からないんだよ」
「そうでしたね」
おい、今鼻で笑わなかったか?
ま、一々気にしていても仕方がないか。
「私が彼女にさせているのは、100グラムの魔石の砂を球体にするのに必要な魔力の見極めとそれの継続です」
見極めと継続か。これまた精神的疲労が多そうな内容だな。
「少しでも多ければ、球体の強度が上がり、少なければ砂に戻ります。ですから球体として形が保てる程度の魔力量を見極めさせ、それが無意識にでも出来るようになる訓練をさせているのです」
な、なるほどな。
今の話を聞いて魔力が無い俺でもこれの難しさが理解できた。
つまりは球体を作るのに魔力が5必要だとすれば、4.9なら崩れ、5.1なら強度が強いという事だ。
だが普通に見ているだけなら5と5.1の違いなんて分からない。レグウェス帝国に技術によって生み出されたサイボーグであるアインにとってその違いを見極める事など簡単なのだろう。
そんな彼女に魔力操作を教わっているんだ。上達することは間違いないだろうが疲れは相当なものの筈だ。
「彼女はヘレンほどでは無いにしろ魔力操作の才能があります。1週間も続けていればある程度モノに出来るでしょう」
「だとよ、良かったな」
「こ、これは1週間も続けるのですか。魔力枯渇で死にそうですね」
フェリシティーはアインの言葉に用意されていたタオルで汗を拭きながら苦笑いを浮かべる。
「安心してください。そんな不効率な事はさせませんので」
「あ、はははは……」
平然と答えるアインの言葉にフェリシティーから気力の無いから笑いが聞こえてくる。分かるぞ、今のは流石に俺でもわかる。これほど安心できない内容はそうそう無いだろうからな。
ま、そんなわけで俺たちは訓練を切り上げてリビングに戻ってきた。
グリードが作ってくれたオリジナルフルーツジュースを飲みながら体を休ませる俺たち。あ、そう言えば。
「フェリシティー」
「なんでしょうか?」
「これから此処に泊まるわけだからな、必要な物とかあるだろ。疲れているかもしれないが買い物にいかないか?」
「本当ですか。実はソーイングセットをオボロさんの所に忘れてきてしまいまして、新しいのを買いに行こうかと思っていたところなんです」
「そうか。なら買いに行くとするか」
「はい」
フルーツジュースを飲み終わった俺とフェリシティーは立ち上がる。念のために聞いておくか。
「お前等はこのあとどうするんだ?」
「拙者は寝室で刀の手入れをしようかと」
「私はマスターと一緒に寛いでいます」
「私はアリサと一緒に訓練するつもりなのだ」
「僕は夕食の材料を買いに行こうかと」
「寝る」
各自が自由に過ごすみたいだな。クレイヴが熟睡しないように祈るだけだな。
「分かった。だけど念のために全員インカムは持ち歩いておいてくれ」
『了解』
「それじゃ、行こうか」
「はい」
俺とフェリシティーは一緒に買い物に向かった。ソーイングセットならコンビニでも買えるが、女子だしな他にも必要な物があるだろうし、なによりベッドとテーブルを買わないといけないので俺とフェリシティーは俺がいつも家具類を買っているお店に来ていた。ソーイングセットは後で買って貰えば良いだろう。
1時間ほどで全ての買い物が終わった俺たちはホームに向かって歩いていた。
「ベルヘンス帝国は初めて来ましたので思いのほか買い込んでしましました」
「そ、そうだな」
フェリシティーの言葉に同意の言葉を返すがどこかぎこちない返事になってしまった。
いやね初めての場所で目にしたことの無い物を見れば欲しくなるのは分かる。俺だってヌイシャ連邦国で色んな種類の酒を衝動買いしてしまったからな。
だけど買いすぎじゃないですかね。一日で30万RK以上の買い物って。流石の俺でもプライベートの買い物でそこまで使ったことはないぞ。
と言うかなんでそんなに楽しんでいるんだ?数時間前まで怯えていたのに。
影光たちに鍛えて貰える事が自信になっているのか、それとも俺の事を信頼してくれているのか、はたまたその両方なのかは分からないが、落ち込んでいるよりかはマシか。
「それにしても、こうして2人で出かけるのは初めてですね」
俺の顔を覗き込んで来たフェリシティーは笑顔でそう言って来る。
「ん?言われてみればそうだな。スヴェルニ学園に在籍していた時はいつもジュリアスたちが居たからな」
「ジュリアス君たちが居た時は気付きませんでしたが、ちゃんと気遣ってくれているのですね」
「ん?何のことだ?」
突然、そんな事を言って来るフェリシティーの言葉に首を傾げる。
「私が落ち込んでいると分かれば慰めてくれましたし、自信を付けるためにフリーダムの皆さんの訓練に参加させて貰っただけでなく色々と指導もしてく下さいました。それに今だってさり気なく道路側を歩いているじゃありませんか」
言われて気付かなかったが、確かに俺は道路側を歩いていた。
別に気にしてたわけじゃない。本当に無意識で道路側を歩いていただけなんだが。
「そういったさり気ない気遣いは女性として高評価ですよ」
「別に評価されるためにしてるわけじゃないんだけどな」
「なら、尚更高評価ですね」
嬉しそうに笑みを浮かべるフェリシティー。
まだ美女と呼べるほど大人びた雰囲気ではないが、同世代の中では間違いなく大人びた雰囲気を出している彼女が浮かべる笑みはとても魅力的だと感じた。
だからと言って恋人の関係を望みはしない。と言うか俺みたいな男をフェリシティーが好きになる筈がないからな。
「ありがとうよ」
「はい」
友人と言うには遠くも感じ、ただ仲間、相棒と言うには相応しい言葉を交わした俺たちはホームへと戻るのであった。
全員参加の訓練は数日ぶりだが問題ない。
各自軽くストレッチを行った俺たちは一箇所に集まる。
「それで今から何をするんでしょうか?」
フェリシティーが問いかけてくる。
どうやらフェリシティーは現役の冒険者がどんな訓練をしているのか気になるようだ。
実家がギルドを経営してるんだから気になるような事でもないと思うんだが、別のギルドだからなのかもしれない。
ま、そんな話は置いといて。
何をすると言われてもな。
「いつもなら、各自好きな訓練をしているからな」
「え?訓練メニューとか無いのですか?」
「これと言った訓練メニューはないな。最初は各自自由訓練だ。魔力操作の訓練をしたり、新たな技の開発や習得、あとは模擬戦をしたりだな。ま、最後は念のために陣形とイメージトレーニングはしているが、決まったメニューと言うのはないな」
「そ、そうなんですね。私の父が経営しているギルドでは訓練メニューがあったので、てっきり他のギルドでもあるものだと」
「ま、そこはギルドそれぞれと言うことだろ」
「ただ単に貴方が訓練メニューを作るのが面倒なだけではないのですか?」
アインめ、何を適当な事を言ってるんだ。
「なら、俺が作った訓練メニューをお前はするのか?」
「するわけないでしょ」
なら、最初から罵倒するような事を言うんじゃねぇよ。
俺は鋭い視線をアインに向けるが気にする様子もなく、銀を撫でていた。コイツは俺以上に自由に生きている気がする。
「では今日はエンドレスバトルはしないのか?」
影光が質問してくる。
エンドレスバトルか。さてどうしたものか。
「あ、あの。そのエンドレスバトルって言うのはなんでしょうか?」
「ん?そう言えばフェリシティーに説明するのを忘れていたな。エンドレスバトルって言うのは簡単に説明するなら、勝つまで終わらない模擬戦だ」
「具体的にはどんな内容なのでしょうか?」
「一対一で模擬戦を行って負けた者が次の相手と戦う。それの繰り返し、戦う順番は始める前にジャンケンで決めるが、一周したからと言って終わりじゃない。勝つまで終わらない。制限時間はあるからそれまでに決着が付かなかったら、交代になるけどな。ただし2回連続で引き分けなければ交代は無しだ」
1試合の制限時間は5分。
致命傷と思われる攻撃が決まったと観戦者の半数が思ったらそこで決着。
ま、大まかなルールはそれだけだ。
軽傷なら放置して戦う奴も居るし、アリサの治癒魔法で治して貰う奴もいる。
それにアリサの治癒魔法の訓練にもなるし、観戦するだけでも自分の観察眼を鍛える事になるからな。色々とお得なんだ。
「そ、それはなんともハードな訓練ですね」
「そうか?フリーダムでは大人気の訓練方法だぞ。そうだよな?」
「私はいっぱい戦えて楽しいのだ!」
「合法的に相手を倒せるのは嬉しいですしね」
「強くなれるからの」
「撃って撃って撃ちまくれるから最高だぜ!」
「疲れますけど、強くなれるので!」
「眠い。だけど強い相手と何度も戦えるのはありがたい」
「ほらな」
「あはははは……」
頬を引き攣らせながら笑ってるが、フェリシティーどうしたんだ?
だけどエンドレスバトルにフェリシティーを参加させるのは少し厳しいかもしれないな。なんせレベルが違い過ぎるからな。
ま、最初は普通の訓練で良いだろう。
だが問題は誰に教えさせるかだ。
フェリシティーは銃器全般を扱うから一番良いのはアインだろう。アリサは教え方が全て擬音語になりそうだし、クレイヴは教える以前にやりたがらないだろうから、論外。やはりここはアインに任せてみるか。
ま、問題なのは素直に引き受けて受けるかどうかだが。
「アイン、フェリシティーを見てやってくれないか?」
「別に構いませんけど」
「え?」
「何故、そんなに驚いているのですか?」
「いや、だって絶対に嫌がると思ったからな」
「貴方は私を何だと思っているのですか。護衛対象者である彼女を鍛えるのは当然です。ましてや私と同じタイプなのですから」
「え?それって」
アインの言葉に驚くフェリシティー。
同じとあらば無理もないか。
「私も魔導銃全般を使います」
「そうなんですね。って私教えましたか?」
「いえ、調べましたので」
「そ、そうなんですか」
アインの不思議な力に驚いているようだな。だけど気にしない方が身のためだぞ。
でもまアインがあっさりと引き受けてくれたお陰でどうにかなりそうだな。
「フェリシティーの訓練はアインに任せて俺たちも各自訓練と言うことで」
俺の指示に全員が訓練を始めた。
俺は瞬脚の訓練、影光とグリード、ヘレンとクレイヴと言う組み合わせで模擬戦をしていた。
で、訓練場の隅でアインとフェリシティーが訓練をしているようだが、銃を使っての訓練ではなさそうだ。
その場に座ってなにやらしている。多分だが魔力操作の訓練だろう。
で、銀と三叉熊のトアはと言うと二人とも小動物サイズになってじゃれ合っていた。なんとも愛らしい光景である。
そんなこんなで1時間があっと言う間に過ぎた。
「大丈夫か?」
「は、はい……大丈夫です」
俺には分からないが魔力操作で相当な精神と体力を消耗したのだろう。
その場に横たわっていた。
「いったいどんな訓練をしていたんだ?」
「これです」
「なんだこれ、黒い砂?」
桶の中に大量に入っていたのは黒い砂だった。砂鉄のようにも見えるな。
触ってみたが唯の砂の感触だ。炭を粉末にした物ではないと言う事が分かったな。
「これは魔石です」
「魔石って洞窟内によくある石の事か?」
「その通りです」
魔石とは魔力を含んだ石や鉱石の事で、空気中に存在する魔素を多く吸収する事で出来るものだ。
ただし魔石に含まれる魔力は発掘される高山の場所によって異なる。
その理由としては空気中に含まれている魔素の濃度が原因である。
濃度が濃いほど短時間で多く含む事が出来ると言うわけだ。
気まぐれ島にも同じような物が幾つもあった。ま、暇な時は趣味として採掘したりしてたけど。
「この砂は魔石を加工する際に出た粒です。そしてこれに魔力を流し込むと――」
そう言ってアインは片手で砂を掴み魔力を流すとまるで1つの球体へと変化した。
「この通り、球体にする事が出来ます。ただし魔力を流し込むのを止めれば――」
その瞬間球体が崩壊し砂と戻りアインの指の隙間から流れ落ちる。
「元に戻ってしまいます」
「へぇ~面白いな」
「一定以上の魔力を流し込まなければ、球体を作る事が出来ませんし、手に取った魔石の砂の量で魔力量も変わってきます。ですから魔力操作には持って来いなのです」
「そうなのか?」
「やはり、貴方は馬鹿ですね」
「悪かったな。魔力がないから分からないんだよ」
「そうでしたね」
おい、今鼻で笑わなかったか?
ま、一々気にしていても仕方がないか。
「私が彼女にさせているのは、100グラムの魔石の砂を球体にするのに必要な魔力の見極めとそれの継続です」
見極めと継続か。これまた精神的疲労が多そうな内容だな。
「少しでも多ければ、球体の強度が上がり、少なければ砂に戻ります。ですから球体として形が保てる程度の魔力量を見極めさせ、それが無意識にでも出来るようになる訓練をさせているのです」
な、なるほどな。
今の話を聞いて魔力が無い俺でもこれの難しさが理解できた。
つまりは球体を作るのに魔力が5必要だとすれば、4.9なら崩れ、5.1なら強度が強いという事だ。
だが普通に見ているだけなら5と5.1の違いなんて分からない。レグウェス帝国に技術によって生み出されたサイボーグであるアインにとってその違いを見極める事など簡単なのだろう。
そんな彼女に魔力操作を教わっているんだ。上達することは間違いないだろうが疲れは相当なものの筈だ。
「彼女はヘレンほどでは無いにしろ魔力操作の才能があります。1週間も続けていればある程度モノに出来るでしょう」
「だとよ、良かったな」
「こ、これは1週間も続けるのですか。魔力枯渇で死にそうですね」
フェリシティーはアインの言葉に用意されていたタオルで汗を拭きながら苦笑いを浮かべる。
「安心してください。そんな不効率な事はさせませんので」
「あ、はははは……」
平然と答えるアインの言葉にフェリシティーから気力の無いから笑いが聞こえてくる。分かるぞ、今のは流石に俺でもわかる。これほど安心できない内容はそうそう無いだろうからな。
ま、そんなわけで俺たちは訓練を切り上げてリビングに戻ってきた。
グリードが作ってくれたオリジナルフルーツジュースを飲みながら体を休ませる俺たち。あ、そう言えば。
「フェリシティー」
「なんでしょうか?」
「これから此処に泊まるわけだからな、必要な物とかあるだろ。疲れているかもしれないが買い物にいかないか?」
「本当ですか。実はソーイングセットをオボロさんの所に忘れてきてしまいまして、新しいのを買いに行こうかと思っていたところなんです」
「そうか。なら買いに行くとするか」
「はい」
フルーツジュースを飲み終わった俺とフェリシティーは立ち上がる。念のために聞いておくか。
「お前等はこのあとどうするんだ?」
「拙者は寝室で刀の手入れをしようかと」
「私はマスターと一緒に寛いでいます」
「私はアリサと一緒に訓練するつもりなのだ」
「僕は夕食の材料を買いに行こうかと」
「寝る」
各自が自由に過ごすみたいだな。クレイヴが熟睡しないように祈るだけだな。
「分かった。だけど念のために全員インカムは持ち歩いておいてくれ」
『了解』
「それじゃ、行こうか」
「はい」
俺とフェリシティーは一緒に買い物に向かった。ソーイングセットならコンビニでも買えるが、女子だしな他にも必要な物があるだろうし、なによりベッドとテーブルを買わないといけないので俺とフェリシティーは俺がいつも家具類を買っているお店に来ていた。ソーイングセットは後で買って貰えば良いだろう。
1時間ほどで全ての買い物が終わった俺たちはホームに向かって歩いていた。
「ベルヘンス帝国は初めて来ましたので思いのほか買い込んでしましました」
「そ、そうだな」
フェリシティーの言葉に同意の言葉を返すがどこかぎこちない返事になってしまった。
いやね初めての場所で目にしたことの無い物を見れば欲しくなるのは分かる。俺だってヌイシャ連邦国で色んな種類の酒を衝動買いしてしまったからな。
だけど買いすぎじゃないですかね。一日で30万RK以上の買い物って。流石の俺でもプライベートの買い物でそこまで使ったことはないぞ。
と言うかなんでそんなに楽しんでいるんだ?数時間前まで怯えていたのに。
影光たちに鍛えて貰える事が自信になっているのか、それとも俺の事を信頼してくれているのか、はたまたその両方なのかは分からないが、落ち込んでいるよりかはマシか。
「それにしても、こうして2人で出かけるのは初めてですね」
俺の顔を覗き込んで来たフェリシティーは笑顔でそう言って来る。
「ん?言われてみればそうだな。スヴェルニ学園に在籍していた時はいつもジュリアスたちが居たからな」
「ジュリアス君たちが居た時は気付きませんでしたが、ちゃんと気遣ってくれているのですね」
「ん?何のことだ?」
突然、そんな事を言って来るフェリシティーの言葉に首を傾げる。
「私が落ち込んでいると分かれば慰めてくれましたし、自信を付けるためにフリーダムの皆さんの訓練に参加させて貰っただけでなく色々と指導もしてく下さいました。それに今だってさり気なく道路側を歩いているじゃありませんか」
言われて気付かなかったが、確かに俺は道路側を歩いていた。
別に気にしてたわけじゃない。本当に無意識で道路側を歩いていただけなんだが。
「そういったさり気ない気遣いは女性として高評価ですよ」
「別に評価されるためにしてるわけじゃないんだけどな」
「なら、尚更高評価ですね」
嬉しそうに笑みを浮かべるフェリシティー。
まだ美女と呼べるほど大人びた雰囲気ではないが、同世代の中では間違いなく大人びた雰囲気を出している彼女が浮かべる笑みはとても魅力的だと感じた。
だからと言って恋人の関係を望みはしない。と言うか俺みたいな男をフェリシティーが好きになる筈がないからな。
「ありがとうよ」
「はい」
友人と言うには遠くも感じ、ただ仲間、相棒と言うには相応しい言葉を交わした俺たちはホームへと戻るのであった。
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