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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第七話 スヴェルニ王国からやって来た友人 ⑦
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モールに来てから50分が経過した。
気配感知で周囲を警戒しているが、敵意や殺意を持った奴は居ない。念のために影光たちに聞いてみるか。
「(現状、怪しい奴等は見つけたか?)」
『こちら影光。1階の和菓子店に居るが、拙者は見ていないし感じないな』
『アイン。2階の掃除器具コーナーに居ますが、私も同様ですね』
『ヘレンなのだ。お菓子コーナーに居るけど、私も見ていないのだ』
『こ、こちらグリード。ぼ、僕も怪しいと思える人たちはいませんでした。調理器具コーナーに居ます』
『こちらクレイヴ。地下駐車場に居るけど俺も見ていないし、感じていない』
『こちらアリサ。中央広場に居るが私も見てないぜ。厭らしい男の視線なら胸に集中してるけどな』
「(そうか)」
確かにアリサの胸に男の視線が集まるのは仕方が無いな。うん、想像しなくてもその状況が分かるな。
それにしてもグリードの奴は大丈夫なのか?アイツはあの身長だからな目立つと思うんだが。
てか、お前等気になる場所にいるだけだろ。
だが未だに現れないのは変だな。まさか本当に気付いていないとかなのか?それとも監視している影光たちに気付いて撤退した?いや、そうだったとしても少しは気配を感じるはずだ。なのに感じていないとなるとやはり気付いていないのか?
『こちらクレイヴ。地下駐車場に黒いミニバン2台が停車。武器を隠し持った男たち数人が降りてきた』
通信が終了して5分も経たないうちにクレイヴから通信が入った。
それを聞いた瞬間、心臓の鼓動が一瞬強く跳ねた。
「(ようやく護衛依頼らしい時間が来たみたいだぜ。作戦通りに行くぞ。お前等しっかりおもてなししろよ)」
『了解』
俺の言葉に全員が答える。
待ちに待った敵のお出ましに心が昂る。どうやらフラストレーションが溜まっていたようだな。
ま、声音から考えてグリードは緊張しているだけだろうけど。
だがようやく始まる。
「フェリシティー」
「なんですか?」
普段とは違う俺の声音に気が付いたのかフェリシティーの表情は真剣そのものだった。
「どうやら敵が到着したみたいだ。作戦通りに行くぞ」
「わ、分かりました」
俺たちは適当に店の中を見て回る。
インカムから敵の位置情報が聞こえてくる。
俺はそれを頼りにモール内を移動する。
『こちらアリサ。敵のお出ましだぜ、ジンの旦那』
2回から敵の姿を視界の端で捉える。確かに一般人ではなさそうだな。
一瞬フェリシティーの父親が経営しているギルドの人たちかとも思ったが、纏っている気配からして違うだろう。なんせ奴等からは私利私欲に塗れた気配が漂っているからな。
「(よし、俺たちは今からモールを出る。お前たちは周囲の一般人に被害が出ないように警戒しつつ敵の動向を報告)」
『了解』
指示を出した俺はフェリシティーと一緒にモールの外へと向かう。その時敵の1人がフェリシティーに気付く。よし、釣れたな。
これが俺たちの作戦だ。
まず適当に買い物をして油断しているように見せる。そこに敵がやって来たら、何食わぬ顔でモールの(一般人に被害を出さないため)外に出る。
その際に敵にフェリシティーに気付かせる。
そうすれば自然と敵は俺たちを追いかけてくる。
で、後は人気が少ないところに誘導するだけだ。
勿論人気が少ない場所は前日に調べ済みだ。こういう時アインの能力は役に立つ。
ま、そんなわけで現在俺たちは人気が少ない廃ビルに囲まれた中庭に居る。
季節が冬と言うこともあってか、その場所はとても殺風景で錆付いたベンチに地面には枯葉と葉の無い木々が植えられているだけだった。
『仁、全員配置に付いたぞ』
「(分かった)」
影光からの連絡がインカムから聞こえてきた。さぁ、準備は整った。後は敵をもてなすだけだ。
廃ビルと廃ビルの合間にある通路から殺意を持った複数の気配が徐々に近づいてくる。
数は12人。2パーティーと言ったところか。
複数の男たちは中庭に入る直前で止まる。まさか気が付いたのか?
いや、警戒しているのか。
なら、後はさっさと入って貰うだけだな。
「いい加減姿を見せたらどうだ?」
俺は入り口に向かってそう告げる。
フェリシティーも魔力感知で何となくではあるが気付いているのだろう。俺の服を強く握るのを感じる。
少しして気配が動き、俺たちの前に姿を見せる。
茶色や黒などのジャケットに迷彩ズボン姿の男たちの手には武器が握られていた。俺たちの前に出る前に準備したんだろう。
「やはり俺たちの尾行に気付いていやがったのか」
お前等がモールに来た瞬間から気づいていたけど。それは言わないでおこう。
「まぁな」
「流石は神童を倒した男だけの事はあるな」
どうやら俺の事を知っているらしい。となると影光たちの事も気付いているかもしれない。ならどうして姿を見せたんだ?
念のために探ってみるか。
「俺の事を知っているのか?」
「当たり前だろ。スヴェルニに住んでる奴でお前を知らねぇ奴はいねぇよ」
「俺も随分と有名人になったものだな。目立つのは好きじゃないんだがな」
「それはご愁傷様だな。で、この人数相手に1人で戦うつもりか?」
1人……か。なるほどそう言うことか。
コイツ等が知っているのは俺がスヴェルニ学園に在籍していた時の事だけ。きっとモールでフェリシティーと一緒に居るのを見て気付いただけだろう。
って事は俺がベルヘンス帝国で冒険者として活動している事も、フリーダムのギルドマスターである事も知らないんだろう。
なら、作戦続行と行くか。
「お前等程度の雑魚なら俺1人でも充分だ」
「やはり度胸だけはあるようだな。流石はクズ王子を殴り飛ばすだけの事はある。だけどよ、あのクズ王子と元冒険者の俺たち。それもこの人数差、馬鹿でもどっちか勝つか一目見れば分かると思うんだがな」
周囲への警戒すらしていない。となるとコイツ等は気配操作が出来ないどころか魔力感知もまともに出来ない奴等か。よくもそれで冒険者になれたものだな。
自分たちが優位だと完全に思い込み優越感に浸る笑みで俺たちを見下している。
「悪いことは言わねぇ。大人しくそっちの女を渡してくれれば悪いようにはしねぇよ」
「悪いが断るぜ。フェリシティーは俺の大切な友人だからな。それに俺が神童に勝ったって知ってるんだろ。なら実力ぐらいは分かっていると思うんだがな」
別に引いて欲しいなんて思っちゃいない。1人2人だけ生かして残りは全員殺すつもりだしな。
「正直言うぜ。俺たちはよ。あの神童って言われている女の実力なんて信じちゃいねぇんだよ。魔力無しの能無しに負ける程度だ。どうせ公爵である父親の力を借りて偽ってるに違いない。ま、確かにあの身体つきは神童だと思うぜ。一度でいいから思いっきり犯したいと思ったね。きっとアソコも神童って言われるほどに気持ち良くて敏感で最高なんだろうよ」
「てめぇ……」
別に俺の事を馬鹿にするのは構わない。だが大切な友人を、それも命の恩人を下卑た顔で馬鹿にされるほど腹立たしい事は無い。
駄目だ。このままだと情報を引き出す前に全員殺してしまう。
俺は残った自我で指示を出す。
「お前等、しっかりおもてなししてやれ。これが俺たちフリーダム流ってのをな」
『了解』
俺がそう呟いた瞬間、影光たちが攻撃を開始した。
「な、なんだコイツ等は!?」
「まさか仲間が居やがったのか!」
「怯むんじゃねぇ!数はこっちの方が上なんだ。きっちり対処すれば問題ねぇ!」
馬鹿か。
怒りが宿った鋭い視線を俺は男たちに向ける。
影光とヘレンが男たちを斬り倒し、グリードがウォーハンマーで180センチの男を吹き飛ばし、アイン、クレイヴ、アリサの正確無比の射撃によって撃ち殺される、一方的な光景だった。ざまぁみろ。
奇襲が決まった事もありたったの数分で戦い。いや討伐は終了した。
俺は一旦深呼吸して冷静さを取り戻す。
「ジンの旦那、終わったぜ」
廃ビルの中からアリサが姿を現す。他の廃ビルからアインとクレイヴも出てきていた。
「ご苦労だったな。あのままだと俺が全滅させていたからな」
「まったくだ。拙者たちの事を忘れているのではないかとヒヤヒヤしたぞ」
「悪かったな。で、首尾はどうだ?」
「上場と言ったところだ。脚から出血している奴が1名とヘレンに右腕を斬り落とされた奴が1名」
「そうか。どうにか作戦通りだな」
俺はゆっくりと死体が転がり血溜まりが出来上がった男たちの許へ向かう。
「て、てめぇらはいったい何者なんだ!」
脚を撃たれて動けなくなっていたのはイザベラを馬鹿にしたリーダーと思われる男だった。これは好都合だな。
「俺たちは冒険者。ギルド、フリーダムだ」
「フ、フリーダムだと!そ、そんなギルド聞いたことがねぇ!」
「この帝都ではそこそこ有名なギルドにはなって来たと思うんだがな。ま、スヴェルニ王国に名前が轟くほどかと言われれば、微妙だけどな」
「微妙なんて何をほざいているのですか。フリーダムはまだまだ出来たばかりの弱小ギルド。やはり貴方は馬鹿ですね」
「アインよ、せっかく格好付けたのに全て台無しだ」
「それは大変良かったです」
はぁ、そうだった。コイツは俺の邪魔をするのが好きなんだよな。
だけど今邪魔することないだろ。
「それよりも早く情報を引き出してください。この役立たず」
誰のせいだ、誰の!
ここでいがみ合っていても仕方がないので俺はさっそく情報を引き出すことにした。
っとその前に。
「グリード、クレイヴ。悪いんだがフェリシティーを安全な場所に連れて行ってあげてくれ」
「え?それなら此処が一番――」
「分かった」
「え?ちょっとクレイヴさん押さないで下さい!」
どうやらクレイヴは俺の意図が読めたらしくグリードを押してフェリシティーを廃ビルの外へと連れて行った。
これで今からする事を見せずに済むな。
「それでお前等はどうしてフェリシティーを狙う?」
「ヘッ、誰が教えるかよ」
「そうか」
ブチッ!
「ぎゃああああああああああああああぁぁぁ!!」
俺は男の右親指の爪を剥いだ。いや、引き抜いたと言うべきか。
「て、てめぇ!何しやがる!」
「何ってお前が素直に話したくなるようにしてるだけだ。おっと忘れていた。アリサ、悪いんだがそっちの男が死なない程度に止血を頼む」
「わ、分かったぜ。ジンの旦那」
どうしてかは分からないがアリサの声音が少し震えていた。
ま、今はどうでも良いか。
「それで素直に話す気になったか?」
「誰がてめぇに話すかよ。プッ!」
男は俺の顔に唾を吐き掛ける。
ブチッ!
「がああああああああああああぁぁぁ!!」
男の絶叫が誰も住んでいない廃ビルに囲まれた空間に鳴り響く。建物に囲まれているだけあってよく響く。
「で、話す気になったか?」
「誰が話すか――」
ブチッ!
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁ!!」
「素直に話した方が身の為だぞ。なんせ爪はまだ残ってるからな」
「爪を剥がれた程度で俺が素直になるわけが――」
ブチッ!
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁ!!」
またしても男の絶叫が響き渡る。
この男は俺を怒らせるだけでなく苛立たせる天才だな。これほど煩わしい悲鳴を躊躇いなく叫べるだからな。
「で、喋る気になったか?あ、それと言っておくが爪を剥いだからって終わりじゃないぞ。俺はこう見えても骨の種類には詳しくてな。爪を剥いで駄目なら指を折っていく。それでも駄目なら尺骨と橈骨。それでもだめなら、上腕骨。それでも駄目なら足の爪を剥ぐ。で、その後は腓骨と脛骨、大腿骨の順に折っていく。安心しろ右と左、両方あるから余裕はある。ま、それでも駄目ならあとは5センチずつブツ切りにしていくしかないけどな」
「ば、化物がっ!」
激痛に歪む表情をしながらも虚勢を張って悪態を吐く。
まったく人を化物扱いとは本当に酷い野郎だな。ま、今は否定するのも面倒だし良いか。
「お前はその化物を怒らせたんだよ」
「ひぃっ!」
そんな怯えたような声が俺は聞きたいんじゃない。俺は情報が欲しいんだよ。
気配感知で周囲を警戒しているが、敵意や殺意を持った奴は居ない。念のために影光たちに聞いてみるか。
「(現状、怪しい奴等は見つけたか?)」
『こちら影光。1階の和菓子店に居るが、拙者は見ていないし感じないな』
『アイン。2階の掃除器具コーナーに居ますが、私も同様ですね』
『ヘレンなのだ。お菓子コーナーに居るけど、私も見ていないのだ』
『こ、こちらグリード。ぼ、僕も怪しいと思える人たちはいませんでした。調理器具コーナーに居ます』
『こちらクレイヴ。地下駐車場に居るけど俺も見ていないし、感じていない』
『こちらアリサ。中央広場に居るが私も見てないぜ。厭らしい男の視線なら胸に集中してるけどな』
「(そうか)」
確かにアリサの胸に男の視線が集まるのは仕方が無いな。うん、想像しなくてもその状況が分かるな。
それにしてもグリードの奴は大丈夫なのか?アイツはあの身長だからな目立つと思うんだが。
てか、お前等気になる場所にいるだけだろ。
だが未だに現れないのは変だな。まさか本当に気付いていないとかなのか?それとも監視している影光たちに気付いて撤退した?いや、そうだったとしても少しは気配を感じるはずだ。なのに感じていないとなるとやはり気付いていないのか?
『こちらクレイヴ。地下駐車場に黒いミニバン2台が停車。武器を隠し持った男たち数人が降りてきた』
通信が終了して5分も経たないうちにクレイヴから通信が入った。
それを聞いた瞬間、心臓の鼓動が一瞬強く跳ねた。
「(ようやく護衛依頼らしい時間が来たみたいだぜ。作戦通りに行くぞ。お前等しっかりおもてなししろよ)」
『了解』
俺の言葉に全員が答える。
待ちに待った敵のお出ましに心が昂る。どうやらフラストレーションが溜まっていたようだな。
ま、声音から考えてグリードは緊張しているだけだろうけど。
だがようやく始まる。
「フェリシティー」
「なんですか?」
普段とは違う俺の声音に気が付いたのかフェリシティーの表情は真剣そのものだった。
「どうやら敵が到着したみたいだ。作戦通りに行くぞ」
「わ、分かりました」
俺たちは適当に店の中を見て回る。
インカムから敵の位置情報が聞こえてくる。
俺はそれを頼りにモール内を移動する。
『こちらアリサ。敵のお出ましだぜ、ジンの旦那』
2回から敵の姿を視界の端で捉える。確かに一般人ではなさそうだな。
一瞬フェリシティーの父親が経営しているギルドの人たちかとも思ったが、纏っている気配からして違うだろう。なんせ奴等からは私利私欲に塗れた気配が漂っているからな。
「(よし、俺たちは今からモールを出る。お前たちは周囲の一般人に被害が出ないように警戒しつつ敵の動向を報告)」
『了解』
指示を出した俺はフェリシティーと一緒にモールの外へと向かう。その時敵の1人がフェリシティーに気付く。よし、釣れたな。
これが俺たちの作戦だ。
まず適当に買い物をして油断しているように見せる。そこに敵がやって来たら、何食わぬ顔でモールの(一般人に被害を出さないため)外に出る。
その際に敵にフェリシティーに気付かせる。
そうすれば自然と敵は俺たちを追いかけてくる。
で、後は人気が少ないところに誘導するだけだ。
勿論人気が少ない場所は前日に調べ済みだ。こういう時アインの能力は役に立つ。
ま、そんなわけで現在俺たちは人気が少ない廃ビルに囲まれた中庭に居る。
季節が冬と言うこともあってか、その場所はとても殺風景で錆付いたベンチに地面には枯葉と葉の無い木々が植えられているだけだった。
『仁、全員配置に付いたぞ』
「(分かった)」
影光からの連絡がインカムから聞こえてきた。さぁ、準備は整った。後は敵をもてなすだけだ。
廃ビルと廃ビルの合間にある通路から殺意を持った複数の気配が徐々に近づいてくる。
数は12人。2パーティーと言ったところか。
複数の男たちは中庭に入る直前で止まる。まさか気が付いたのか?
いや、警戒しているのか。
なら、後はさっさと入って貰うだけだな。
「いい加減姿を見せたらどうだ?」
俺は入り口に向かってそう告げる。
フェリシティーも魔力感知で何となくではあるが気付いているのだろう。俺の服を強く握るのを感じる。
少しして気配が動き、俺たちの前に姿を見せる。
茶色や黒などのジャケットに迷彩ズボン姿の男たちの手には武器が握られていた。俺たちの前に出る前に準備したんだろう。
「やはり俺たちの尾行に気付いていやがったのか」
お前等がモールに来た瞬間から気づいていたけど。それは言わないでおこう。
「まぁな」
「流石は神童を倒した男だけの事はあるな」
どうやら俺の事を知っているらしい。となると影光たちの事も気付いているかもしれない。ならどうして姿を見せたんだ?
念のために探ってみるか。
「俺の事を知っているのか?」
「当たり前だろ。スヴェルニに住んでる奴でお前を知らねぇ奴はいねぇよ」
「俺も随分と有名人になったものだな。目立つのは好きじゃないんだがな」
「それはご愁傷様だな。で、この人数相手に1人で戦うつもりか?」
1人……か。なるほどそう言うことか。
コイツ等が知っているのは俺がスヴェルニ学園に在籍していた時の事だけ。きっとモールでフェリシティーと一緒に居るのを見て気付いただけだろう。
って事は俺がベルヘンス帝国で冒険者として活動している事も、フリーダムのギルドマスターである事も知らないんだろう。
なら、作戦続行と行くか。
「お前等程度の雑魚なら俺1人でも充分だ」
「やはり度胸だけはあるようだな。流石はクズ王子を殴り飛ばすだけの事はある。だけどよ、あのクズ王子と元冒険者の俺たち。それもこの人数差、馬鹿でもどっちか勝つか一目見れば分かると思うんだがな」
周囲への警戒すらしていない。となるとコイツ等は気配操作が出来ないどころか魔力感知もまともに出来ない奴等か。よくもそれで冒険者になれたものだな。
自分たちが優位だと完全に思い込み優越感に浸る笑みで俺たちを見下している。
「悪いことは言わねぇ。大人しくそっちの女を渡してくれれば悪いようにはしねぇよ」
「悪いが断るぜ。フェリシティーは俺の大切な友人だからな。それに俺が神童に勝ったって知ってるんだろ。なら実力ぐらいは分かっていると思うんだがな」
別に引いて欲しいなんて思っちゃいない。1人2人だけ生かして残りは全員殺すつもりだしな。
「正直言うぜ。俺たちはよ。あの神童って言われている女の実力なんて信じちゃいねぇんだよ。魔力無しの能無しに負ける程度だ。どうせ公爵である父親の力を借りて偽ってるに違いない。ま、確かにあの身体つきは神童だと思うぜ。一度でいいから思いっきり犯したいと思ったね。きっとアソコも神童って言われるほどに気持ち良くて敏感で最高なんだろうよ」
「てめぇ……」
別に俺の事を馬鹿にするのは構わない。だが大切な友人を、それも命の恩人を下卑た顔で馬鹿にされるほど腹立たしい事は無い。
駄目だ。このままだと情報を引き出す前に全員殺してしまう。
俺は残った自我で指示を出す。
「お前等、しっかりおもてなししてやれ。これが俺たちフリーダム流ってのをな」
『了解』
俺がそう呟いた瞬間、影光たちが攻撃を開始した。
「な、なんだコイツ等は!?」
「まさか仲間が居やがったのか!」
「怯むんじゃねぇ!数はこっちの方が上なんだ。きっちり対処すれば問題ねぇ!」
馬鹿か。
怒りが宿った鋭い視線を俺は男たちに向ける。
影光とヘレンが男たちを斬り倒し、グリードがウォーハンマーで180センチの男を吹き飛ばし、アイン、クレイヴ、アリサの正確無比の射撃によって撃ち殺される、一方的な光景だった。ざまぁみろ。
奇襲が決まった事もありたったの数分で戦い。いや討伐は終了した。
俺は一旦深呼吸して冷静さを取り戻す。
「ジンの旦那、終わったぜ」
廃ビルの中からアリサが姿を現す。他の廃ビルからアインとクレイヴも出てきていた。
「ご苦労だったな。あのままだと俺が全滅させていたからな」
「まったくだ。拙者たちの事を忘れているのではないかとヒヤヒヤしたぞ」
「悪かったな。で、首尾はどうだ?」
「上場と言ったところだ。脚から出血している奴が1名とヘレンに右腕を斬り落とされた奴が1名」
「そうか。どうにか作戦通りだな」
俺はゆっくりと死体が転がり血溜まりが出来上がった男たちの許へ向かう。
「て、てめぇらはいったい何者なんだ!」
脚を撃たれて動けなくなっていたのはイザベラを馬鹿にしたリーダーと思われる男だった。これは好都合だな。
「俺たちは冒険者。ギルド、フリーダムだ」
「フ、フリーダムだと!そ、そんなギルド聞いたことがねぇ!」
「この帝都ではそこそこ有名なギルドにはなって来たと思うんだがな。ま、スヴェルニ王国に名前が轟くほどかと言われれば、微妙だけどな」
「微妙なんて何をほざいているのですか。フリーダムはまだまだ出来たばかりの弱小ギルド。やはり貴方は馬鹿ですね」
「アインよ、せっかく格好付けたのに全て台無しだ」
「それは大変良かったです」
はぁ、そうだった。コイツは俺の邪魔をするのが好きなんだよな。
だけど今邪魔することないだろ。
「それよりも早く情報を引き出してください。この役立たず」
誰のせいだ、誰の!
ここでいがみ合っていても仕方がないので俺はさっそく情報を引き出すことにした。
っとその前に。
「グリード、クレイヴ。悪いんだがフェリシティーを安全な場所に連れて行ってあげてくれ」
「え?それなら此処が一番――」
「分かった」
「え?ちょっとクレイヴさん押さないで下さい!」
どうやらクレイヴは俺の意図が読めたらしくグリードを押してフェリシティーを廃ビルの外へと連れて行った。
これで今からする事を見せずに済むな。
「それでお前等はどうしてフェリシティーを狙う?」
「ヘッ、誰が教えるかよ」
「そうか」
ブチッ!
「ぎゃああああああああああああああぁぁぁ!!」
俺は男の右親指の爪を剥いだ。いや、引き抜いたと言うべきか。
「て、てめぇ!何しやがる!」
「何ってお前が素直に話したくなるようにしてるだけだ。おっと忘れていた。アリサ、悪いんだがそっちの男が死なない程度に止血を頼む」
「わ、分かったぜ。ジンの旦那」
どうしてかは分からないがアリサの声音が少し震えていた。
ま、今はどうでも良いか。
「それで素直に話す気になったか?」
「誰がてめぇに話すかよ。プッ!」
男は俺の顔に唾を吐き掛ける。
ブチッ!
「がああああああああああああぁぁぁ!!」
男の絶叫が誰も住んでいない廃ビルに囲まれた空間に鳴り響く。建物に囲まれているだけあってよく響く。
「で、話す気になったか?」
「誰が話すか――」
ブチッ!
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁ!!」
「素直に話した方が身の為だぞ。なんせ爪はまだ残ってるからな」
「爪を剥がれた程度で俺が素直になるわけが――」
ブチッ!
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁ!!」
またしても男の絶叫が響き渡る。
この男は俺を怒らせるだけでなく苛立たせる天才だな。これほど煩わしい悲鳴を躊躇いなく叫べるだからな。
「で、喋る気になったか?あ、それと言っておくが爪を剥いだからって終わりじゃないぞ。俺はこう見えても骨の種類には詳しくてな。爪を剥いで駄目なら指を折っていく。それでも駄目なら尺骨と橈骨。それでもだめなら、上腕骨。それでも駄目なら足の爪を剥ぐ。で、その後は腓骨と脛骨、大腿骨の順に折っていく。安心しろ右と左、両方あるから余裕はある。ま、それでも駄目ならあとは5センチずつブツ切りにしていくしかないけどな」
「ば、化物がっ!」
激痛に歪む表情をしながらも虚勢を張って悪態を吐く。
まったく人を化物扱いとは本当に酷い野郎だな。ま、今は否定するのも面倒だし良いか。
「お前はその化物を怒らせたんだよ」
「ひぃっ!」
そんな怯えたような声が俺は聞きたいんじゃない。俺は情報が欲しいんだよ。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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