魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第八話 スヴェルニ王国からやって来た友人 ⑧

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 そのあと男はどうしてかは分からないが、素直になり話し出した。
 俺が知りたかったのはブラック・ハウンドの規模と人数。
 それからどこまで情報を手に入れているのか。
 またベルヘンス帝国にはどれだけの人員が送り込まれたのか。
 どうしてフェリシティーを誘拐しようとしたのか。
 また襲ってくる可能性はあるのか。
 ブラック・ハウンドのリーダーと幹部の人数と名前を聞き出した。
 俺は全てを詳細に覚えておける自信がないがアインが居るから大丈夫だろ。
 で、その後は生き残った男2人も殺した俺はスマホでライアンに連絡して犯罪者たちの後片付けを頼む。
 思いっきり呆れられていたが、仕方が無い。このまま放置するわけにもいかないからな。
 この世界は前世の地球より少し発展した世界だが、犯罪者に対する法律は案外単純である。勿論逮捕されれば法の下に裁かれるが、逮捕する前の犯罪者であれば殺しても罪には問われない。
 本当はもっと詳細に法律が決まっているようだが、正直覚えてない。
 連絡をし終えた俺は影光たちと一緒にフェリシティーたちの許へと向かった。

「ジンさん!」
 フェリシティーと合流したのは先ほど戦った場所から500メートル離れた街中だった。
 この距離ならギリギリ銃声が聞こえるかどうかだな。今は日中だし車も動いている。だから意識しなくても色々な音が耳に入ってくる。
 だから気にしない限り聞こえないだろう。ま、耳に良い種族には聞こえているようだけど。
 ライアンにも連絡したし、大丈夫だろ。ま、後で事情聴取されるだろうが、それはこの依頼を終えてからにしてもらいたい。
 いや、状況を話して手を貸して貰うか。
 それこそ無理だか。
 なんせブラック・ハウンドの本拠地があるのはスヴェルニ王国だ。
 帝国の軍が他国で作戦を行うのには危険と問題が多すぎる。
 それにスヴェルニ王国が隣国ならまだしも、飛行機でも半日以上は掛かる。そんな長距離移動を軍がすれば間違いなく国際問題になる。
 なら情報だけでも。それならアインに調べて貰った方が早いか。
 それならまずは聞き出した情報の整理からするべきだな。

「あ、あのジンさん、もしかしてどこか怪我でもしてんですか?」
 不安げな表情を浮かべながら俺の顔を覗き込んでいた。
 しまった。つい考えに没頭してしまった。

「わ、悪い。ちょっと今後の事を考えていただけだ。心配させて悪かったな」
 俺はそう言ってフェリシティーの頭を撫でる。
 すると彼女は安堵したのか笑みを零すのが一瞬だけ見えた。なんせ直ぐに俯かれたからな。
 それにしても此処まで接近すればフェリシティーもちゃんと女だったんだな。髪の毛はサラサラで日光を浴びて輝いてるし、なにより思いのほか胸がある。Bカップかと思っていたがDカップに近いCカップはあるんじゃないか?もしかしてフェリシティーって着やせするタイプ?

「あのジンさん」
「なんだ?」
「頭を撫でてくださるのは嬉しいのですが、今とても不愉快な事を考えていませんでしたか?」
「ナ、ナンノコトダ?」
 俺の表情を窺うようにジト目を向けてくる。そうだった。この世界の女性は無駄に鋭いんだった。
 どうにか誤魔化す事に成功した俺は全員でホームに戻るのだった。
 ホームに戻った俺たちはリビングのソファーに座ってさっそく聞き出した情報を整理する。

「それにしても今後どうするかだな。まさかブラック・ハウンドの規模がここまで大きいと思わなかったぞ」
 都市ゲラントだけでなく、王都や隣国のテメル自由都市国家にまで支部を構える程の大規模犯罪組織。
 その戦闘員、非戦闘員を全てを合わせれば4000人以上。
 特に本拠地がある都市ゲラントにはその半分以上が住み着いている。
 アインの話では都市ゲラントの人口はおよそ3万人弱。つまりは人口の15%がブラック・ハウンドの構成員と言う事になる。
 それに対して冒険者側はAランク以上のギルド10組以上のギルドで討伐を行うそうだ。それも一つ一つのギルドが大規模のギルドだ。
 ましてや国別ランキングでトップ10に入る程のギルド半分が今回の依頼に参加。
 その内の1つがSSランク冒険者、ヴィオラ・ヘンドリクセンがギルドマスターを勤めるSランクギルド、眠りの揺り籠だ。そんな世界的にも有名な冒険者が依頼を受けたんだ全体的の人数が上でもブラック・ハウンドの連中が危機を感じないわけがない。
 男から聞き出した情報では最低でもSランク冒険者が10人。SSランク冒険者が3人は今回の依頼に出てくるらしい。
 そこでブラック・ハウンドの連中はギルドの身内を誘拐して取引の材料にと考えたようだ。なんとも浅はかな考えだな。

「だがフェリシティーの誘拐は失敗した。となると相手連中は必ずまた仕掛けてくる可能性が高い。なんたって組織の命運が掛かってるんだからな。でも、だからと言って動かる構成員の数は限られるだろう。あらゆるルートからベルヘンス帝国に入り込んではくるだろうが、その分本拠地が手薄になる。その隙を狙われては本末転倒だからな」
「となると考えられる数としては多くても50人と言ったところか?」
「最悪を想定するならそれぐらいだろうが、実際はそれよりも少ないだろう」
 ブラック・ハウンドの連中の大半が元冒険者だったとしてもSランクやSSランクの冒険者相手に勝てるとは思えない。
 だからこそ焦ってフェリシティーを誘拐しようとしたわけだ。

「ですが私たちが彼女を護り切ったところでいつ終わるかも分からない戦いに参戦できないのは少し腹立たしいですね」
「仕方がないであろ。なんせ問題の場所がスヴェルニ王国なのだからな」
 アインの言いたいことも分かる。会った事も無い冒険者連中に任せるより自分たちで倒した方が気分的に楽だ。
 それよりも今はフェリシティーをどう護るかだ。
 俺の仲間なら戦力的と言う意味では問題ないが1回目の時とは違い、襲ってくるブラック・ハウンドの連中の数は多くなる。となると間違いなく1回目の時には出来なかった作戦や行動なんかもしてくる可能性だってある。
 そうなると今まで以上に警戒しなくてはならない。

「駄目だ。完全に煮詰まっているな」
 俺の台詞に誰も返事をする事はなかった。それは同意だけでなく反論もだ。つまりは全員が同じ意見だと言う事なのだろう。
 結局、情報の整理だけで今後は今までよりも警戒する。と言う結論で話し合いは終わった。
 俺としては敵が全員こっちに来てくれるとありがたいんだが、そんな望みは無理だろう。
 気分を入れ替えるべく俺は屋上に来ていた。
 やはりこの時期に外に出るのは少し辛いが脳に刺激を与えると言う意味では丁度良い。
 アイテムボックスから取り出したタバコに火を点して軽く吸う。

「ふー、やっぱりこのままだと駄目だよな~」
「何が駄目なんですか?」
 そんな俺の独り言に問い返してくる人物が居た。
 気配を感じていたので驚く事無く俺は振り向くとそこにはフェリシティーが立っていた。

「あれ?ジンさんはタバコ吸われるのですか?」
「ここ最近になってまた吸うようになったんだ。昔も吸ってたしな」
「え?それってつまり未成年の時って事ですか?」
「あ、いや!そう言う意味じゃないぞ!学園に入る前少しの間だけ吸っていたって意味だ!」
 しまった、つい前世の時の事が口から出てしまった!
 俺が送り人である事は秘密だからな。

「タバコは体に悪いのでお勧めしませんよ」
「俺はアリサと違ってヘビースモーカーじゃないぞ。一日に一本吸うかどうかって感じだしな」
「それなら吸わない方が宜しいと思いますけど」
「ま、頭を切り替えるときや少し考え事したい時に丁度良いからな」
「そうですか。それで何が駄目なんですか?」
 話が切り替わり最初の問いへと戻った。そう言えば最初はその話をしようとしてたんだよな。

「このままだと何も変わらないと思っただけだ」
「何も変わらないですか?」
 遠い彼方を見つめながら俺の自分の考えを口にすると、怪訝に首をかしげながらフェリシティーは聞き返してきた。

「そうだ。またいつ襲ってくるかも分からない敵に警戒するのは面倒だろ?」
「普通は面倒ではなく、怯えるって言いますけどね」
 フェリシティーがそう訂正してくるが、俺は怖いとは思わない鬱陶しいとは思うぐらいだしな。

「でも少し安心しました」
「安心?」
 まさかフェリシティーまで俺が堕落した生活をしているとでも思ったのか?

「はい。学生の時は友人のためとなれば平然と危険へ飛び込んでいましたし、なにより私たちの心配など気にせず戦っていましたから」
「まるでその言い方だと俺が考え無しの猪突猛進みたいじゃないか?」
「違いますか?」
 フェリシティーの返事に思わず俺は力が抜けそうになる。俺はそこまで馬鹿だと思われていたのか。いや、確かに学生時代は学科が苦手だったけどな。
 別に俺はそこまで馬鹿じゃないぞ。

「俺だってちゃんと考えて行動してた筈だぞ。ジュリアスの時だってイザベラの時だって罪に問われたのは俺だけだしな。周りに迷惑は掛けていないと思うんだが」
「はぁ……やっぱりそんな考えだったんですね」
「ん?それはどういう意味だ?」
 わざとかと思えるほどの嘆息に俺は少しイラッ来る。しかしフェリシティーはアインのように他人を馬鹿にするような子じゃない。となるとあの嘆息は本当に呆れてるって事なんだろう。

「いいですか?確かにジンさんは法律や規則から見れば皆を巻き込んではいません。編入時早々に起こした暴力事件もジュリアスさんはなんの罰則もありませんでしたし、イザベラ様の時だって逮捕されたのはジンさんだけでした。ですが、それを見て心の底から心配する人がいるのです。そこのところをちゃんと考えてください!」
 眉を吊り上げて真剣な表情のフェリシティーは人差し指を俺に突き付けて怒る。と言うよりも叱られる。

「わ、悪かった」
「本当ですか?」
「あ、ああ」
「なら、良いです」
 鋭い視線で俺を見る。
 フェリシティーってこんな顔もするんだな。
 意外な一面を見れたことに俺は少し嬉しいと感じていた。
 と言うよりも、前世から合わせれば今年で38のおっさんが19歳の少女に叱られる構図ってとても見っとも無いような気がする。
 だけど肉体年齢はフェリシティーと同じだから大丈夫か。いや、叱られている時点でアウトなのか。
 このままだとイザベラやジュリアス同様に説教が長くなるかもしれないと危惧した俺は話題を変える事にした。

「そ、それよりもフェリシティーはどうしてここに来たんだ?」
「あ、そうでした。もうすぐ夕食が出来るそうなので、呼びに来たんです」
「おいおい、うちの連中は護衛対象者に呼びに行かせるのかよ」
「いえ、私が行きますって言ったので」
「ま、フェリシティーがそう言うんだったら仕方がないな」
 本当なのかどうかなんて関係ない。
 俺はただフェリシティーを立てる事にした。

「なら俺はタバコを吸い終わったら直ぐに行くと伝えておいてくれ」
「分かりました」
 そう言うとフェリシティーは屋上から下りて行った。

「フェリシティー、ありがとうよ。そして悪いな」
 フェリシティーが心配してくれている事は分かった。それは嬉しいと思う。
 だがあの話を聞いて俺は思い出した。
 自分が何をしたいのか。何をすべきなのかを。そして俺が面倒臭がり屋である事を。
 俺はスマホを取り出しメールを送った後、タバコの火を消して屋上を下りた。
 夕食を食べ終わった俺たちはソファーで寛ぐ。
 テレビを見る奴等も居れば、スマホをイジる奴。あと銀を撫でる奴。

「では、私はそろそろお風呂に行かせて貰いますね」
 そう行ってフェリシティーが立ち上がり出て行った。
 エレベーターが上の階に行く音が聞こえてくる。

「それで仁よ。全員にこのようなメールを送るってどういう事なのか説明して貰えるだろうな」
「ああ、勿論だ」
 影光が疑問に思うのは無理も無い。
 俺は屋上を後にする少し前、スマホでフリーダムメンバー全員にメールを送った。
 その内容が「この依頼をさっさと終わらせる方法を思いついたので、夕食後全員リビングに残るように。ただしフェリシティーには秘密にすること」。
 これが全員に一斉送信で送ったメール内容だ。

「一旦話し合いが終わったあと屋上で考えていたんだ。どうすればこの依頼がさっさと終わるのかを」
「ですから私が言いましたよね?現況である犯罪者組織、ブラック・ハウンドの本拠地を潰せば良いと」
「ああ。だがその方法には色々と問題があった。だけど俺は面倒臭がり屋なんだよな」
「おい仁よ、まさかだと思うが」
「ああ、そのまさかだ。アインの作戦を実行しようと思う」
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