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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第二十五話 漆黒のサンタクロース ⑦
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「それに護衛されているなんて事をパパラッチにでも知られてみろ、すぐにでも報道されてライブ中止は免れない。もしも中止にならなかったとしてもマネージャーでもない男を傍に置いていたら何を書かれるか分かったもんじゃないからな」
「だからって俺にさせる事はないだろ。前までは旭がしてたんだろ。そのまま続けさせたって別に問題はないだろうが」
「護衛だけで襲われるまで何もしない奴を使って何が悪い?」
お茶を飲みながらリサは聞いてくる。この野郎。俺の事を信頼してくれたんじゃないのか?
俺は雑用を押し付けられただけにしか思えないんだが。
そう、これが昨日リサが言っていた条件だ。俺がHERETICの護衛をする間、マネージャー業も兼用することになったのだ。
勿論最初は断った。
既に依頼は冒険者組合を通じて正式なモノになっている。その中にマネージャー業は含まれてはいないからな。
だがマネージャーをしないのなら従わないと言われてしまったため、俺は渋々引き受けることにしたのだ。緊急時は勿論、普段でも出来るだけ単独行動は控えるようにして貰わないと俺一人では護りきれないからな。え?なら仲間のアインや影光たちを使わないのかって?俺だって最初提案したさ。
だけど冒険者嫌いなリサが絶対に嫌だって言うからな。まったく一度は死に掛けてまだ命を狙われているって言うのに自覚が無いにも程があるだろ。
だが冒険者は依頼主の要望には出来るだけ答えなけらばならない。だから依頼主が望まぬ事は勝手に出来ないのだ。ま、ローブ野郎にはいきなりマネージャーがついて不審に思われるかもな。と言うよりも俺は顔を見られてるから眼鏡と髪型を変えただけじゃ直ぐに気づかれるかもな。
冒険者と言うことがバレないように俺は変装するように言われた。しかし変装道具と言ったらブラック・ハウンドの本拠地に乗り込んだ時の奴しかない。だがマネージャーがあの格好をするわけにはいかない。
だから変装道具を持っていないと伝えたら、リサたちに、変装させる。という名目与えてしまった俺は弄ばれてしまった。もうお嫁にいけない!
その結果、俺は見事な七三分けスタイルの髪型に眼鏡を付けさせられてマネージャーをする事になったのだ。まったくこれはなんの罰ゲームだ?
内心腹を立てるが、もう決まったことだ、と俺は諦める。それに少し考えれば変装した方が色んな意味でメリットがあるのは確かだからな。
さっきも言ったようにローブ野郎には気づかれているかもしれないが、そうでない可能性もある。それにリサが言うように男が一人、有名なバンドであるHERETICと共に行動していたら何を書かれるか分かったもんじゃない。それを考えるならマネージャーとして変装し業務をこなすのがベストなのは確かだ。それなら周囲に変な目で見られる事もないし、ローブ野郎に対する牽制にもなる。なんせ業務中はほぼ一緒に行動するんだからな。
10分程して目的地に到着した俺たちはドームにある駐車場にミニバンを駐めると、最初に降りた俺がリサたちが降りられるようにドアを開ける。てか、これってマネージャーの仕事なのか?
そんな疑問が頭に過ぎるが、俺は警戒を怠る事はない。
戦ってみて奴の憎しみは本物だった。だからこそ日中の公園で自分の手で殺そうとした。銃を使いたくなかったのだろう。銃で殺せば憎しみをぶつけられないと思ったからに違いない。
だから俺は半径100メートルに敵意や悪意、殺意を向けてくる奴が居ないか気配感知で警戒はしているが、今のところは居ないようだ。
「なにボーっと突っ立てるんだよ、マネージャー。さっさと向かうぞ」
「マネージャーがこんな調子じゃ先が思いやられるわね」
ミニバンを降りたリサに我に戻され、俺は早足で先に行こうとするリサたちを追いかけ、そんな俺に対してセリシャは悪態を吐くようにぼやく。だから俺はマネージャーじゃなくて冒険者だっつうの。
俺はさっさとこんな依頼を終わらせて新年を寝正月で終えたいと心の底から願うのだった。
ドームの中に入った俺たちはスケジュール通りに仕事をこなす。
舞台袖からリサたちの演奏を聞きながらスタッフと話し合ったりとしていた。だけど本音を言えばまったく分からん!だって俺冒険者だぜ。前世の知識や経験を活かすにしても音楽関係の仕事なんてしたことねぇよ!ましてやマネージャーなんて前世も合わせて人生初だっての!それなのにリサたちの野郎は俺が慌てふためく姿を見て楽しんでやがるし、これほど冒険者の精神を疲労される依頼主はいないだろうな。
だからと言ってマネージャー業を疎かにするわけにはいかない。今後の冒険者活動にも関ってくる事だからな。
前にも話したがギルドには評価がある。その評価は主に冒険者組合がこれまでの依頼の達成率や依頼の難易度、達成までに掛かった時間などを踏まえているが、それだけじゃない。
ミキから聞いた話だが、どうやら依頼主には達成後アンケートを提出して貰っているらしい。そのアンケートの結果がギルドの評価に大きく関わっていると聞いた。
つまり依頼を達成してもリサたちが不満を感じた。と、アンケートに書けばそれが俺たちのフリーダムの評価に付け加えられるわけだ。
そうなれば指名依頼をしてくる奴が減ってくる。働きたくない俺としてはありがたい。正直最近働き過ぎなぐらいだ。いや、マジで。前世の時以上に働いてる気がする。ま、友人からの頼みだったり、仲間を救うためだったりと断る事も無視することも出来ないような依頼ばっかだったから仕方が無いけど。
だが、そうなれば一攫千金を狙える依頼がこないかもしれない。それは俺としては困る。
ならどうするか?決まってるだろ。リサたちに不満を持たれないように頑張るしかない。ああ、俺って仕事のために頑張るなんて思えるような真人間に成長してしまったんだな……いや、違う!これは仕事のためじゃない!お金のためだ!そして俺が一生遊んで暮らしていくためだ!
ポジティブな考えでこの場をどうにか乗り切った俺は、スタッフから説明された事をメモる。後で旭たちに伝えるためだ。だって俺じゃ分からないからな。
その後は何事も無く、順調に仕事を終えて行った。移動中に襲われる事も無ければ、収録や打ち合わせ中に襲ってくることも無かった。人に姿を目撃されたくないのか?それとも俺が傍に居る事に気がついたのかは分からないが、俺としてはさっさと襲ってきてくれたほうが依頼を達成できるからな。
仕事を終えてリサたちが暮らしているマンションに到着したのは午後22時10分だった。有名な芸能人ってこんなにも忙しいのか。よく芸能人になりたいなんて思うな。
お金が欲しいなら遥かに冒険者の方が短時間で稼げるだろうに。ま、お金のためだけに芸能人になりたいなんて奴は極少数だろうけどな。
呆れながらも俺は周囲に人の気配が無いか確かめてから、リサたちと一緒にマンションの中に入る。
依頼を受けてリサにも納得して貰った喫茶店で夜はどうするのかを話し合った。有名な女性バンドと一緒にマンションに入る所をパパラッチにでも写真を取られればマネージャーと言えど弁明するのは難しい。
本当の事を話たとしても信じて貰えるか分からない上に、もしもそれでライブが中止になったら元も子もないからな。
だがそれだと、夜寝ている間に襲われる可能性だってある。運良く今まではそんな事は無かったらしい、セキュリティーがしっかりしているこのマンションはベランダの窓ガラスも強化ガラスで出来ている。ましてやリサたちが暮らしている部屋は9階にある。
その高さまで外から登るなど不可能だし、マンションの屋上から懸垂下降して侵入するにしてもマンションに入る必要がある。だがそれなら普通にドアから侵入する方が早い。
だがセキュリティーがしっかりしているこのマンションの中に入るのは冒険者や軍人など戦闘経験が豊富な奴の中でも一握りだろう。なんせ侵入出来たとしても監視カメラを掻い潜ってターゲットを殺すなど不可能に近いんだからな。
だがそれは可能性が低いと言うだけで0%ではない。なら少しでも可能性があるのであれば俺が傍で護衛する必要がある。
で話し合った結果、俺はリサたちが住んでいる部屋の廊下で寝泊りする事が決まった。
運が良いことに全員が一戸で寝泊りしているため、俺としては護衛がし易い。なんたってこの部屋から出て別の部屋に向かう必要がないからな。因みにリサたちが住んでいる部屋は3LDKだ。家賃はどうなってるんだ?と思ったがどうやらもう一括で購入したらしい。さすがは有名バンド。俺が想像している以上にお金を持っているらしい。なら120万RK程度で高いなんて言うなよな。
エレベータで9階にあるリサたちの部屋にやって来た俺は廊下に置かれた毛布被ると壁に凭れて体を休める。それで寝られるのかと思うかもしれないが、気まぐれ島に比べれば雨風を凌げるだけ遥かにマシだ。ま、皇宮の客室にあったベッドに比べれば天と地の差があるけど。依頼主に文句を言ったら何を言われるか分かったものじゃないからな。
で、結局この日も何事も起こる事無く無事に一日を終えた。あ、ちゃんと影光たちには依頼で数日ホームを空けると伝えてあるから問題ない。
************************
私の名前はリサ・レイヘルツはその日の夜、寝室のベッドでスマホを弄っていた。
ここ去年の夏当たりから人気が急上昇し始めて、ようやく夢であったレイノーツドームでのライブもあと数日後に控えている。
だからこそ体調管理はしっかりしなければならない。だけど寝たくても寝れない。
昨日襲われた事が怖くて寝れないわけじゃない。確かに怖いけど寝れない原因じゃない。夢であったレイノーツドームでのライブが近くて緊張しているから寝れないわけでもない。
元凶は今廊下で寝ているアイツにある。
昨日、喫茶店でアイツが口にした言葉がどうしても頭から離れない。
――ただ俺は仲間を裏切るような奴はクズ以下の存在だと思っている。
あの言葉がどうしても頭から離れない。何度も何度も頭の中で繰り返し聞こえてくる。イラつく程に。
お金が欲しい奴が仲間を裏切らないわけがない。そのせいで父さんと母さんが殺されたんだから!
なのに、なんでだ。どうしてもアイツの事を完全に疑う事が出来ない。冒険者であり、金が欲しいアイツの事を恨みきれない!なんでだ!
答えが分からないまま、昨日の夜も過ごした。
だけどこのままじゃライブに支障を来たすと思った私は自然とジンの事を調べていた。
すると、最初に出てきたのはギルド、フリーダムに関しての事だ。レイノーツ学園祭での暴徒事件の鎮圧に貢献。そして冒険者組合の評価はどれも素晴らしいもので批判する評価が見当たらないほどだ。
「チッ」
私が求めているモノが無いことに思わず舌打ちする。
この程度じゃセリシャは起きたりはしない。
寝室の部屋二つのうち一部屋は私とセリシャ、廊下を挟んだ反対側の部屋に旭、アンジェリカ、ノーラの寝室になっている。
確かにアイツはこれまで見た奴とは違う。冒険者でもスタッフにも居なかったタイプの奴だ。だけどそれでも奴は金に群がる冒険者だ。なのに憎めない。そして気がついた時には条件付で護衛をOKしていた。いったい何者なんだアイツは!
そんな苛立ちを覚えていた時だった。
スマホに表示されたとある項目に目を奪われ呟きながら、その項目をタップしていた。
「悲劇の騎士……」
そこに表示された内容はスヴェルニ王国で起きた事件の内容が詳細に記載されていた。
私は目を左から右へと動かして読んで行き、その内容に驚き言葉にしていた。
「嘘だろ……」
口にしていた事に気が付き隣に寝ているセリシャに視線を向けるが、寝息が聞こえて事に安堵して嘆息する。どうやら起こさずに済んだようだ。
改めてスマホに表示された記事に視線を向ける。
最初は信じられなかった。だから『悲劇の騎士』と言う単語で再検索を行うと大量に出てきた。そしてその殆どが同じ内容だった。
その瞬間、頭の中にアイツに助けられた時の事を思い出す。
真剣な表情でローブの男を殴り飛ばす瞬間のアイツが鮮明に浮かび上がってくる。
そして、またしてもあの言葉が聞こえてくる。
――ただ俺は仲間を裏切るような奴はクズ以下の存在だと思っている。
************************
「だからって俺にさせる事はないだろ。前までは旭がしてたんだろ。そのまま続けさせたって別に問題はないだろうが」
「護衛だけで襲われるまで何もしない奴を使って何が悪い?」
お茶を飲みながらリサは聞いてくる。この野郎。俺の事を信頼してくれたんじゃないのか?
俺は雑用を押し付けられただけにしか思えないんだが。
そう、これが昨日リサが言っていた条件だ。俺がHERETICの護衛をする間、マネージャー業も兼用することになったのだ。
勿論最初は断った。
既に依頼は冒険者組合を通じて正式なモノになっている。その中にマネージャー業は含まれてはいないからな。
だがマネージャーをしないのなら従わないと言われてしまったため、俺は渋々引き受けることにしたのだ。緊急時は勿論、普段でも出来るだけ単独行動は控えるようにして貰わないと俺一人では護りきれないからな。え?なら仲間のアインや影光たちを使わないのかって?俺だって最初提案したさ。
だけど冒険者嫌いなリサが絶対に嫌だって言うからな。まったく一度は死に掛けてまだ命を狙われているって言うのに自覚が無いにも程があるだろ。
だが冒険者は依頼主の要望には出来るだけ答えなけらばならない。だから依頼主が望まぬ事は勝手に出来ないのだ。ま、ローブ野郎にはいきなりマネージャーがついて不審に思われるかもな。と言うよりも俺は顔を見られてるから眼鏡と髪型を変えただけじゃ直ぐに気づかれるかもな。
冒険者と言うことがバレないように俺は変装するように言われた。しかし変装道具と言ったらブラック・ハウンドの本拠地に乗り込んだ時の奴しかない。だがマネージャーがあの格好をするわけにはいかない。
だから変装道具を持っていないと伝えたら、リサたちに、変装させる。という名目与えてしまった俺は弄ばれてしまった。もうお嫁にいけない!
その結果、俺は見事な七三分けスタイルの髪型に眼鏡を付けさせられてマネージャーをする事になったのだ。まったくこれはなんの罰ゲームだ?
内心腹を立てるが、もう決まったことだ、と俺は諦める。それに少し考えれば変装した方が色んな意味でメリットがあるのは確かだからな。
さっきも言ったようにローブ野郎には気づかれているかもしれないが、そうでない可能性もある。それにリサが言うように男が一人、有名なバンドであるHERETICと共に行動していたら何を書かれるか分かったもんじゃない。それを考えるならマネージャーとして変装し業務をこなすのがベストなのは確かだ。それなら周囲に変な目で見られる事もないし、ローブ野郎に対する牽制にもなる。なんせ業務中はほぼ一緒に行動するんだからな。
10分程して目的地に到着した俺たちはドームにある駐車場にミニバンを駐めると、最初に降りた俺がリサたちが降りられるようにドアを開ける。てか、これってマネージャーの仕事なのか?
そんな疑問が頭に過ぎるが、俺は警戒を怠る事はない。
戦ってみて奴の憎しみは本物だった。だからこそ日中の公園で自分の手で殺そうとした。銃を使いたくなかったのだろう。銃で殺せば憎しみをぶつけられないと思ったからに違いない。
だから俺は半径100メートルに敵意や悪意、殺意を向けてくる奴が居ないか気配感知で警戒はしているが、今のところは居ないようだ。
「なにボーっと突っ立てるんだよ、マネージャー。さっさと向かうぞ」
「マネージャーがこんな調子じゃ先が思いやられるわね」
ミニバンを降りたリサに我に戻され、俺は早足で先に行こうとするリサたちを追いかけ、そんな俺に対してセリシャは悪態を吐くようにぼやく。だから俺はマネージャーじゃなくて冒険者だっつうの。
俺はさっさとこんな依頼を終わらせて新年を寝正月で終えたいと心の底から願うのだった。
ドームの中に入った俺たちはスケジュール通りに仕事をこなす。
舞台袖からリサたちの演奏を聞きながらスタッフと話し合ったりとしていた。だけど本音を言えばまったく分からん!だって俺冒険者だぜ。前世の知識や経験を活かすにしても音楽関係の仕事なんてしたことねぇよ!ましてやマネージャーなんて前世も合わせて人生初だっての!それなのにリサたちの野郎は俺が慌てふためく姿を見て楽しんでやがるし、これほど冒険者の精神を疲労される依頼主はいないだろうな。
だからと言ってマネージャー業を疎かにするわけにはいかない。今後の冒険者活動にも関ってくる事だからな。
前にも話したがギルドには評価がある。その評価は主に冒険者組合がこれまでの依頼の達成率や依頼の難易度、達成までに掛かった時間などを踏まえているが、それだけじゃない。
ミキから聞いた話だが、どうやら依頼主には達成後アンケートを提出して貰っているらしい。そのアンケートの結果がギルドの評価に大きく関わっていると聞いた。
つまり依頼を達成してもリサたちが不満を感じた。と、アンケートに書けばそれが俺たちのフリーダムの評価に付け加えられるわけだ。
そうなれば指名依頼をしてくる奴が減ってくる。働きたくない俺としてはありがたい。正直最近働き過ぎなぐらいだ。いや、マジで。前世の時以上に働いてる気がする。ま、友人からの頼みだったり、仲間を救うためだったりと断る事も無視することも出来ないような依頼ばっかだったから仕方が無いけど。
だが、そうなれば一攫千金を狙える依頼がこないかもしれない。それは俺としては困る。
ならどうするか?決まってるだろ。リサたちに不満を持たれないように頑張るしかない。ああ、俺って仕事のために頑張るなんて思えるような真人間に成長してしまったんだな……いや、違う!これは仕事のためじゃない!お金のためだ!そして俺が一生遊んで暮らしていくためだ!
ポジティブな考えでこの場をどうにか乗り切った俺は、スタッフから説明された事をメモる。後で旭たちに伝えるためだ。だって俺じゃ分からないからな。
その後は何事も無く、順調に仕事を終えて行った。移動中に襲われる事も無ければ、収録や打ち合わせ中に襲ってくることも無かった。人に姿を目撃されたくないのか?それとも俺が傍に居る事に気がついたのかは分からないが、俺としてはさっさと襲ってきてくれたほうが依頼を達成できるからな。
仕事を終えてリサたちが暮らしているマンションに到着したのは午後22時10分だった。有名な芸能人ってこんなにも忙しいのか。よく芸能人になりたいなんて思うな。
お金が欲しいなら遥かに冒険者の方が短時間で稼げるだろうに。ま、お金のためだけに芸能人になりたいなんて奴は極少数だろうけどな。
呆れながらも俺は周囲に人の気配が無いか確かめてから、リサたちと一緒にマンションの中に入る。
依頼を受けてリサにも納得して貰った喫茶店で夜はどうするのかを話し合った。有名な女性バンドと一緒にマンションに入る所をパパラッチにでも写真を取られればマネージャーと言えど弁明するのは難しい。
本当の事を話たとしても信じて貰えるか分からない上に、もしもそれでライブが中止になったら元も子もないからな。
だがそれだと、夜寝ている間に襲われる可能性だってある。運良く今まではそんな事は無かったらしい、セキュリティーがしっかりしているこのマンションはベランダの窓ガラスも強化ガラスで出来ている。ましてやリサたちが暮らしている部屋は9階にある。
その高さまで外から登るなど不可能だし、マンションの屋上から懸垂下降して侵入するにしてもマンションに入る必要がある。だがそれなら普通にドアから侵入する方が早い。
だがセキュリティーがしっかりしているこのマンションの中に入るのは冒険者や軍人など戦闘経験が豊富な奴の中でも一握りだろう。なんせ侵入出来たとしても監視カメラを掻い潜ってターゲットを殺すなど不可能に近いんだからな。
だがそれは可能性が低いと言うだけで0%ではない。なら少しでも可能性があるのであれば俺が傍で護衛する必要がある。
で話し合った結果、俺はリサたちが住んでいる部屋の廊下で寝泊りする事が決まった。
運が良いことに全員が一戸で寝泊りしているため、俺としては護衛がし易い。なんたってこの部屋から出て別の部屋に向かう必要がないからな。因みにリサたちが住んでいる部屋は3LDKだ。家賃はどうなってるんだ?と思ったがどうやらもう一括で購入したらしい。さすがは有名バンド。俺が想像している以上にお金を持っているらしい。なら120万RK程度で高いなんて言うなよな。
エレベータで9階にあるリサたちの部屋にやって来た俺は廊下に置かれた毛布被ると壁に凭れて体を休める。それで寝られるのかと思うかもしれないが、気まぐれ島に比べれば雨風を凌げるだけ遥かにマシだ。ま、皇宮の客室にあったベッドに比べれば天と地の差があるけど。依頼主に文句を言ったら何を言われるか分かったものじゃないからな。
で、結局この日も何事も起こる事無く無事に一日を終えた。あ、ちゃんと影光たちには依頼で数日ホームを空けると伝えてあるから問題ない。
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私の名前はリサ・レイヘルツはその日の夜、寝室のベッドでスマホを弄っていた。
ここ去年の夏当たりから人気が急上昇し始めて、ようやく夢であったレイノーツドームでのライブもあと数日後に控えている。
だからこそ体調管理はしっかりしなければならない。だけど寝たくても寝れない。
昨日襲われた事が怖くて寝れないわけじゃない。確かに怖いけど寝れない原因じゃない。夢であったレイノーツドームでのライブが近くて緊張しているから寝れないわけでもない。
元凶は今廊下で寝ているアイツにある。
昨日、喫茶店でアイツが口にした言葉がどうしても頭から離れない。
――ただ俺は仲間を裏切るような奴はクズ以下の存在だと思っている。
あの言葉がどうしても頭から離れない。何度も何度も頭の中で繰り返し聞こえてくる。イラつく程に。
お金が欲しい奴が仲間を裏切らないわけがない。そのせいで父さんと母さんが殺されたんだから!
なのに、なんでだ。どうしてもアイツの事を完全に疑う事が出来ない。冒険者であり、金が欲しいアイツの事を恨みきれない!なんでだ!
答えが分からないまま、昨日の夜も過ごした。
だけどこのままじゃライブに支障を来たすと思った私は自然とジンの事を調べていた。
すると、最初に出てきたのはギルド、フリーダムに関しての事だ。レイノーツ学園祭での暴徒事件の鎮圧に貢献。そして冒険者組合の評価はどれも素晴らしいもので批判する評価が見当たらないほどだ。
「チッ」
私が求めているモノが無いことに思わず舌打ちする。
この程度じゃセリシャは起きたりはしない。
寝室の部屋二つのうち一部屋は私とセリシャ、廊下を挟んだ反対側の部屋に旭、アンジェリカ、ノーラの寝室になっている。
確かにアイツはこれまで見た奴とは違う。冒険者でもスタッフにも居なかったタイプの奴だ。だけどそれでも奴は金に群がる冒険者だ。なのに憎めない。そして気がついた時には条件付で護衛をOKしていた。いったい何者なんだアイツは!
そんな苛立ちを覚えていた時だった。
スマホに表示されたとある項目に目を奪われ呟きながら、その項目をタップしていた。
「悲劇の騎士……」
そこに表示された内容はスヴェルニ王国で起きた事件の内容が詳細に記載されていた。
私は目を左から右へと動かして読んで行き、その内容に驚き言葉にしていた。
「嘘だろ……」
口にしていた事に気が付き隣に寝ているセリシャに視線を向けるが、寝息が聞こえて事に安堵して嘆息する。どうやら起こさずに済んだようだ。
改めてスマホに表示された記事に視線を向ける。
最初は信じられなかった。だから『悲劇の騎士』と言う単語で再検索を行うと大量に出てきた。そしてその殆どが同じ内容だった。
その瞬間、頭の中にアイツに助けられた時の事を思い出す。
真剣な表情でローブの男を殴り飛ばす瞬間のアイツが鮮明に浮かび上がってくる。
そして、またしてもあの言葉が聞こえてくる。
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