魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第三十話 眠りし帝国最強皇女 ①

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 公暦1327年1月2日水曜日。
 ベルヘンス帝国帝都レイノーツ、レインハルト城の書斎にて我――ボルキュス・サイム・ベルヘンスはオフィスデスクに頬杖をついてある事を考えていた。
 年号は世界共通のため建国パーティーとは違うが1月1日は1年に一度の大事な舞踏会が開かれる日だ。
 だが相変わらず我が娘は自室に引き篭もったまま出てはこなかった。
 あの事件があったとは言え、もう一年以上が経つ。いい加減部屋から出てきて貰わねば皇族としての威厳以前に身体を壊してしまう可能性だってある。
 だが精神的に塞ぎこんでいるあの娘を自室から出すなど、我々ですら無理だ。いったいどうすれば……。
 トントン。
 悩んでいるとドアがノックされる。

「誰だ?」
「僕です、父上。入っても宜しいでしょうか?」
 ドア越しに呼びかけると、返ってきたのは息子のライアンからだった。
 彼は公私混同をするような子ではない。そんな彼が父上と呼ぶと言う事は息子として用があるのであろう。

「ああ、入ってきて構わない」
 我がそう答えると、「失礼します」と一言呟いてドアを開けて入室してきた。
 そこにはライアンだけでなく、カルロス、シャルロット、サーシャの姿まであった。
 息子、娘たちが揃って我の許へ来るなどそうある事ではない。その証拠に息子たちの表情は真剣な面持ちをしていた。
 オフィスデスクの前までやって来た息子たちは一言も言葉を発しようとはしない。我の言葉を待っているのであろう。

「どうかしたのか?」
 その言葉に対して代表する形でライアンが答える。

「やはり、部屋から連れ出すことは出来なかったのですね」
「……そうだ」
 ライアンやカルロス。それにシャルロットにサーシャは皇族として昨日行われた舞踏会に参加していた。しかしそこには一人だけ姿が無かったことにライアンたちは気づいていた。いや、気づかない方が可笑しいのだ。
 だからこうして我の許へ来たのだろう。ま、次の日に来たのは舞踏会の後に聞くには失礼だからだと考えたんだろうが。

「ではお姉様の精神はまだ回復していないのですね」
 心配そうな表情を浮かべるシャルロット。ほんと心優しい子に育ってくれたな。
 我はその事に嬉しく感じながらも、そんなシャルロットを傷つけてしまう事に罪悪感を抱きながらコクリと頷いた。

「そうですか……」
 分かってはいたのだろう。だがそれでも事実を教えられた事にショックを受けるシャルロット。すまないな。
 我は内心謝りながらもライアンに視線を向けた。

「それで何か考えがあるのであろう」
 我のそんな言葉にライアンは少し笑みを浮かべて頷いた。
 息子たちが何の考えもなしに我の許へ来るはずがない。特にライアンは。そんな息子が笑みを浮かべるほどとはそれだけ自信があると言う事なのだろう。

「彼に依頼するのはどうかと考えています」
 ライアンのその言葉に我の眉がピクリと動き、潜める。ライアンが言うと言うのが誰なのか直ぐに分かったからだ。
 だが部外者の彼に頼むなど、皇族の威厳に関わる。
 しかしこのまま何もしなければ娘は自室から出てこない恐れだってある。
 それだけはどうにかしなければならない。

「だが……な」
「彼は昨日も依頼をこなし無事に依頼を達成したそうですよ」
 ライアンが齎した情報は既にイオから聞き及んでいる。なんでも有名なガールズバンドの護衛をし、犯人を討伐したとか。
 それも固有スキル持ちを相手を倒すほど。やはり実力は未知数か。
 だが彼の実績は本物だ。我も何度も指名依頼を出すほどだからな。
 しかしこれは実力など関係……あるか。
 正直、彼に頼りたくはない。だが……
 苦渋の決断に悩まされている時、ふと息子たちの表情が視界に飛び込んできた。
 懇願する表情など一切ない。ただ真剣に我を見つめるだけ。
 我はその姿を見て決断した。まるで緊張の意図が切れたかのように。

「……良いだろう。だがこの話は我が直接話す。良いな?」
『はい!』
 嬉しそうに返事をするライアンたち。
 直ぐにイオを呼び、彼に連絡するように伝える。
 まったく一番接点のあるシャルロットだけでなく、聡明なライアンや殆ど接点の無いカルロスにサーシャまでもが彼の事を心から信頼している。
 我が子達は他の国の王子や王女とは違いとても仲が良い。だが皇族として育てられた彼等は錬度は違えど人を見る目を養ってきた。そんな息子たちが一人の冒険者をここまで信頼するなど今まで無かった事だ。
 やはり恐ろしいのはその戦闘力だけでなく、人を引き付ける、パーソナルスペースに入ってくるその力だ。
 いったい何者なんだ、オニガワラ・ジン。

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 1月10日木曜日。
 俺は自室のベッドの中で正月を堪能していた。え?10日はもう正月じゃないって。馬鹿野郎!俺が正月って思えば正月なんだよ。前世の日本にだってこんなことわざがあるだろうが、心頭を滅却すれば火もまた涼しってよ。
 つまりは自分がそう思えばそうなんだ。だから正月なんだ!
 だいたい俺は元旦の日まで働いていたんだからもっと寝かせてくれたって良いだろうに。って俺は誰に向かって文句を言ってるんだ?
 これも全てアインのせいだ。アイツが昨日から何度も起こしに来るのが悪いんだ。俺なんかよりクレイヴのほうがよっぽど怠け者だろうが。
 だから俺は今月いっぱいは休業する。
 俺はベッドの温もりに包まれて闇の中へと意識を静め――
 ドンドン!

「いい加減起きろ、この穀潰し」
 苛立ったアインの声がドア越しから聞えて来る。アイツ、そんなに強く叩いたらドアが壊れるだろうが。
 俺は顔だけ出してドアの方へ半眼を向ける。
 だいたいこのギルドは俺がギルドマスターなんだ俺がどうしようが俺の勝手だ。

「今月いっぱいは俺は休業だ!絶対に依頼なんか受けないからな!」
 そう言って俺は毛布を被る。
 絶対に今月いっぱいは働かないからな!

「そうですか、この国のトップが会いたいと来ていますが、仕方がありません帰って頂くとしましょう」
 そうだ、そうだ。帰って貰え!たかがこの国のトップぐらいで俺の睡眠を邪魔されてたまるか!
 …………トップ?
 この国のトップって事はつまり皇帝だよな。
 俺はベッドから飛び起きて強くドアを開ける。
 そこにはドアに当たらないギリギリの場所で立ち、呆れた表情を俺に向けるアインの姿があった。

「おい、アイン。今の話は本当なのか?」
「本当です。私が嘘を言うはずがないでしょ」
 いや、以前に平然と言っていた気がするんだが。

「嘘だと思うのであれば気配感知をお使いになればいいでしょ」
 それもそうだな。
 俺は気配感知を使って調べて見ると確かに3階のリビングに影光たち以外の覚えのある気配が複数あった。間違いないボルキュス陛下の気配だ。

「ちょっと待ってろ!」
 俺は急いで身支度を整えてエレベーターを使うわずに階段を使って3階にあるリビングへと向かった。
 リビングのドアを開けるとそこにはボルキュス陛下だけでなく、エリーシャ第一皇妃、レティシア第二皇妃、ライアン第一皇子、カルロス第二皇子、シャルロット、サーシャ第三皇女、マオ第三皇子、ミア第四皇女と皇族が全員集合していた。それにイオにグレンダの姿もある。
 ボルキュス陛下たちはソファーに座って寛ぎ、グレンダとイオはその後ろに立って控えていたが、俺が入ってきた事に気がついたのか、それともドアが開かれた音が気になったって視線を向けてきたのか分からないが、全員の視線がこちらに向けられていた。まさか皇宮意外で皇族全員から視線を向けられる羽目になるとは思わなかった。

「随分と重役出勤だな、ジンよ」
「すいません。最近まで依頼をこなしてたものでね」
「それは1月1日までの話だろ」
 なんで知ってるんだ?と問い掛けたいところだが、皇帝なんだ。調べようと思えば調べられる事だと、勝手に納得して、俺はソファーに座る。
 影光やアインは皇族が相手でも気圧されたりはしない。ま、グリードは完全に腰が引けてるけど。
 世間話などすっぽかして俺は本題に入る事にした。

「それで皇族の皆様がどうしてこんなところまで、それも全員で来ているのですか?」
「なに、ジンに依頼をしに来ただけの事だ」
 ま、そうだろうな。わざわざ新年の挨拶をするために一介の冒険者のホームに皇族が来るわけが無い。と言うよりも依頼も普通は召使を向かわる筈だ。
 だが俺は皇宮に呼ばれるのは信頼されているからだろう。皇族に信頼されている事はありがたい。だがホームまで普通来ないだろ。

「本当はジンに皇宮に来て貰う予定だったんだが、スマホに連絡しても、冒険者組合を経由しても一向に連絡が取れないからな。こうして来たと言う訳だ」
 な、なるほど。
 ここ一週間ほど俺は部屋に引き篭もって惰眠を貪っていた。
 そのためスマホの電源は切っていたため連絡が取れないのは無理も無い。だからと言っていきなり全員で訪れる事はないだろ。
 俺の想像を遥か上を行く皇族の行動力に俺は気圧され一気に疲れが出てきた。
 グリードが用意してくれた、コーヒーを一口飲んで頭を覚醒させた俺は改めてボルキュス陛下に依頼内容を訊く事にした。

「それで今回の依頼はどのような依頼なんだ?護衛、探索、それとも討伐依頼か?」
「いや、今回は違う。ジンにはある女性を元に戻して欲しいのだ」
「元に戻す?」
 しかし神妙な面持ちでボルキュス陛下は答えた。
 俺たちフリーダムが行ってきたこれまでの指名依頼とはまったく持って異なる依頼に俺は怪訝の表情になる。
 元に戻して欲しいと言う事はなにか魔法や固有スキル、もしくは称号の力で異常状態に陥っているのか?それなら俺ではなくアインに調べて貰うべきじゃないのか?
 だがその前にその女性がいったい誰なのか知らなくてはならない。ま、シャルロットたちの表情からして想像はついているが。

「それでその女性と言うのは誰なんだ?」
「我が娘にしてベルヘンス帝国第一皇女ジャンヌ・ダルク・ベルヘンス。この帝国で最強の軍人だった女性だ」
 ああ、やっぱり第一皇女か。ってジャンヌ・ダルク!え?どういう事?まさか送り人じゃないよな。そんなわけないよな。ただ名前が一緒ってだけだよな。
 だが、帝国最強って言ってたし。ああ、駄目だ。色々と混乱してきた。
 前世の地球に存在した歴史上の人物。漫画やアニメだけでなく、小説や映画にすら出てくる超有名な人物の名前に俺は額に手を当てる。

「どうかしたのか?」
 どうやら挙動不審の動きをする俺を見てボルキュス陛下たちは怪訝の表情で俺を見ていた。

「いや、何でもない。それよりも最強の軍人だったってどういう事だ?まさか病気か何かなのか?」
 そんな俺の言葉にボルキュス陛下はエリーシャ第一皇妃とレティシア第二皇妃と視線を交わすと、覚悟を決めたのか話し始めた。

「親馬鹿と思われるかもしれないが、ジャンヌは我が子の中で一番才能を持って産まれて来たのだ。スヴェルニ王国で神童と謳われているイザベラ・レイジュ・ルーベンハイトと並ぶほどにな。これがその証拠だ」
 そう言ってボルキュス陛下は俺にスマホを渡してくる。そこにはジャンヌ第一皇女のステータスが表示されていた。

─────────────────────
 ジャンヌ・ダルク・ベルヘンス
 種族 混血種(エルフとロード)
 職業 軍人
 レベル 415
 魔力 345000
 力 56400
 体力 73600
 器用 68800
 敏捷性 89200

 固有スキル
 経験5倍速
 未来視
 
 スキル
 剣術Ⅷ
 体術Ⅶ
 射撃Ⅵ
 瞬脚Ⅶ
 耐熱Ⅳ
 耐寒Ⅳ
 雷電耐性Ⅴ
 危機察知Ⅵ
 物理攻撃耐性Ⅵ
 魔法攻撃耐性Ⅴ
 状態異常耐性Ⅳ
 指揮Ⅶ
 魔力操作Ⅶ
 気配操作Ⅳ

 称号
 龍殺し
 魔神の寵愛
 闘神の寵愛

 属性
 火 風 雷 氷 無
─────────────────────

 そのステータスに俺は目玉が飛び出そうになった。おいおいマジかよ。ありえねぇだろ。なんだこの出鱈目なステータスは。
 影光よりかは低いがそれでもこのレベルなら僅差と言える程だ。
 それに経験5倍速って初めて見た。イザベラですら3倍速だぞ。それなのに5倍って。てからそれだけじゃない未来視ってどれだけの効果があるかは分からないが、もうチートだろ。
 確かにイザベラに比べれば魔法属性の数は2つほど少ない。だがそれを補えるだけの魔力量と身体能力。正直今のイザベラでは勝てないだろう。ま、実戦の数が違いすぎるか。
 イザベラが実戦で戦うのは領地の魔物が増えすぎた時と学園での実戦訓練ぐらいだろう。だがジャンヌは軍人だ。完全にこれまで戦場での経験が違う。だからステータスが広がるのは仕方が無い。だがこれはあまりにも広がりすぎだろ。
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