魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第四十八話 眠りし帝国最強皇女 ⑲

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 厳しく冷たい言葉を突き付けながらもずっと嫉妬し、憧れ、それでも追いかけ続け、見守り、信じて待ち続けたんだと辛い気持ちになりながらもライアンは言葉を吐き続ける。
 その言葉にシャルロット、エリーシャ皇妃、レティシア皇妃は涙を流す。
 きっと知っているのだろう。兄として妹よりも戦闘というジャンルにおいて才能に恵まれなかった事に。それでも諦めず想像し、思考し、努力し続けたライアンの事を。
 だが今度は妹が傷つき挫折し帰って来ても見放す事無く家族として、兄妹として愛し、そんな妹を救い出すことが出来なかった事に悔しくなり、悲しくなり、憤りを覚えたことに。
 それでもいつか帰って来る。復活すると信じ己の鍛錬を怠ることなく待ち続けて来た1人の兄を知っているからこそ泣いているのだろう。
 情けない事にきっと辛くて苦しくて大変だったんだろう。と簡単な言葉でしか言い表せない。
 それでも伝わって来る一人の男として伝わって来る。そして納得できた。
 ライアンはベルヘンス皇族の兄弟の誰よりも強い。
 メンタルと言う一点において誰よりも強いのだ。カルロスよりも最強の軍人と謳われるジャンヌよりも強い。
 この世には2種類の生物しか存在しない。強者か弱者かである。
 しかしこの強者と弱者とはいったい何を意味しているのだろうか?
 また強者と呼ばれる存在の中には強者と弱者が存在し、弱者の中にもまた強者と弱者が存在する。
 そして強者と呼ばれる存在であろうと、別ジャンルにおいては弱者であり、弱者と呼ばれる存在は別ジャンルにおいて強者である。きっとそんな強者と弱者の集まりが世界なのだろう。

「ジャンヌ、いつまで立ち止まっているつもりだ!いつまで見ぬフリをするつもりだ!」
「っ!」
 ライアンの怒声がジャンヌに突き刺さる。
 それに反応するようにジャンヌの体がビクッと一瞬震える。

「ジャンヌ、父上に頼んで君の魔法剣を用意して貰った」
 ライアンの言葉を聞いてジャンヌはボルキュス陛下に視線を向けると大きく目を見開いた。当然だろう。なんせボルキュス陛下の手には以前俺と闘った時同様にあの時と同じ魔法剣が握られているのだから。
 しかしジャンヌは愛用の魔法剣から視線を外すと俯いたまま小刻みに体を震わせていた。
 その姿に俺は不安になる。別に情が移ってもうこれ以上闘うのはジャンヌの心の傷を広げるだけだ。なんて思っているわけじゃない。
 今、ジャンヌが何を思っているかが不安なのだ。
 もう見たくない。思い出したくないと後ろ向きな考えをしているのか、はたまた前に進もうと自分の中にある恐怖と葛藤しているのか。それがどちらなのか不安なのだ。

「ジャンヌ、もしもレイノーツに強大な力を持った魔物が襲い掛かって来た時、君は何もしないで部屋に閉じこもっているつもりか?」
 先ほどまでの怒気がすっかり無くなり、優しく語り掛ける。

「僕はジャンヌみたいな一騎当千の力は持っていない。僕にできるのは出来るだけ多くの民を逃がす事ぐらいだろう。そしてそんな僕の指示に従って戦った部下たちは死んでいくんだ」
 ライアンは未来で起こりうる最悪の可能性を次々と口にしていく。

「それだけじゃない。巻き込まれて死んでいく民たち。きっとその中には学生時代の友人やクラスメイトたちもいるかもしれない。きっと冒険者たちも共に戦ってくれるだろう。勿論冒険者も沢山死ぬだろう。最悪カルロスや僕も八つ裂きにされ喰われてしまうかもしれない。そして軍が全滅すれば父上や母上たちも食われ、この国は滅亡してしまうだろう」
「ッ!」
 うん、間違いなくそんな奴が現れたらこの国は亡びるだろうな。いや、最悪世界が滅ぶ。だけどそんな奴が現れたら戦ってみたくて仕方がない。

「ジャンヌ、もしかしたら君は今私が居たところでなにも変わらない。って思っているかもしれないね。だけど変わるかもしれない。情けない事に僕よりも君の方が強いから」
 悲し気に言葉を吐くライアン。きっと自分の実力を明確に理解した上で言っているのだろう。
 そんなライアンは見てシャルロットたちは泣いていた。いや、泣き続けていた。

「だからお願いだ、進んでくれ!この瞬間も生きている人々を、仲間を、家族を、守りたいモノ全てを今度こそ守れるようになるために一緒に強くなろう!」
「ッ!」
 真っ直ぐに突き進むライアンの言葉に今まで以上にジャンヌの体がビクッ!と反応する。
 だがジャンヌは返事をしようとしない。それどころかこっちに向かって歩いてくる。未だに俯いていてその表情は読み取れない。
 シャルロットたちからは不安で仕方がないと言う気持ちが大いに伝わって来る。正直俺も少し不安だ。
 それでもジャンヌはゆっくりとこっちに近づいてくる。俺の右隣に立つボルキュス陛下目掛けて。
 そして、数分と言う長い時間を掛けジャンヌはボルキュス陛下の前までやって来るとジャンヌは先ほどまで俯いていた顔を上げた。
 その瞬間俺たちの顔を覆ていた不安は一瞬にして消え去る。
 ボルキュス陛下は嬉し気に笑みを浮かべ、シャルロットたちは口元に手を当てて先ほど以上に涙を流していた。きっと俺も笑みを零していただろう。

「お父様、お母様方、そしてシャルロット、ライアン兄さま、長い間お待たせしました」
 ジャンヌは謝罪の言葉を口にしながらボルキュス陛下が差し出した魔法剣を握りしめると、クルリと回ると模擬戦の相手、ライアンを鋭い眼差しで見つめていた。
 そう――この瞬間、1年間と言う長い間眠り続けていた帝国最強の皇女が完全に目を覚ましたのだ。
 体中から溢れ出す闘気。凛々しく威風堂々とした後ろ姿。まったく卑怯だな。こんな姿見たら男女関係無しに惚れるだろうよ。

「ベルヘンス帝国第一皇女、ジャンヌ・ダルク・ベルヘンス。この国のため再び立ち上がり、家族と共に強くなると誓う!」
 自信に満ち溢れたジャンヌの声は地下訓練所内に響き渡る。
 そんなジャンヌに視線を向けているとふと右隣に立つボルキュス陛下の目尻に光る物が視界の端に入って来た。
 そんなボルキュス陛下に視線を向けると、イオから渡されたハンカチを受け取り目元に軽く当てるとそれは消えていた。

「ジンよ、どうかしたのか?」
「いや、別に」
 俺の視線に気が付いたのかボルキュス陛下はこっちに視線を向けて来たが、そんなボルキュス陛下からジャンヌに視線を戻した俺は何でもないと言う言葉を口にした。
 きっとここで追及するのは無粋だろう。もしかしたら俺の勘違いかもしれないしな。それに追及したら命が無いような気がする。
 そんな感動的なワンシーンを堪能している場合ではない。なんせまだジャンヌとライアンの模擬戦は終わっていないのだから。
 互いに嬉しそうな笑みを浮かべながら数メートル離れた距離で再び対峙し合う。
 真剣な事には変わりないが先ほどとは違う空気が漂う。
 しかしイオの合図はない。互いに相手の様子を窺いながら脳内で戦闘を繰り広げているのだろう。
 そして最初に動いたのはジャンヌだった。
 先ほどと同様ライアン目掛けて地面を蹴った。
 当然のように読んでいたのかライアンはジャンヌとほぼ同時に後方に跳んで魔導拳銃を構える。
 しかし今度はジャンヌも読んでいたのか左腕に付けていたブレスレット型の魔道具を使い風魔法で更にスピードを上げる。
 ブレスレット型の魔道具は属性のある魔法を自分自身に魔法を使う時に用いられる事が多い。そのため肉体強化魔法や硬化魔法と言った無属性魔法はブレスレット型の魔道具を使わずに使うのがこの世界での共通認識となっている。ま、この知識もスヴェルニ学園に入るためにイザベラに叩き込まれた知識なんだが。そう言えば毎回試験勉強が嫌でイザベラに言ってたな。魔法が使えない俺が魔法を勉強しても意味がないって。ま、実際はそうとう意味があるんだがな。魔法と言うものがどういったモノなのか理解出来ていれば戦闘で余裕が生まれるからな。
 ブーストしたかのように一気に距離を詰めるジャンヌ。が、ライアンはそれすらも読んでいたのか右手に持っていた魔導拳銃で自分自身とジャンヌの間の地面に照準を合わせるとトリガーを引いた。
 瞬間、地面から高さ3メートルの土壁アースウォールが出現した。
 俺はその速さに驚きを隠せなかった。
 しかし次の瞬間には文字通り一瞬で現れた土壁アースウォールを見つめながらある疑問が浮かんだ。
 魔導拳銃は弾丸に魔法属性を付与された武器だ。そのため無属性しかない人間でも色んな属性が使える利点がある。
 しかし属性持ちの人に比べると威力が劣るため同程度の威力を出したければそれ以上の魔力を消費しなければならない。
 それを考えると高さ3メートル幅2メートル弱の土壁アースウォールを出現させるのはどう考えてもコスパが悪い。

「ボルキュス陛下」
「なんだ?」
「ライアン殿下はどうしてあんなコスパの悪い使い方をしてるんだ?」
「そう言えば、ジンはライアンの魔法属性を知らなかったな。ライアンは水、土、氷の三属性持ちトリプルなんだ」
 三属性持ちトリプルだと!確かにジャンヌに比べれば劣るが、一般的に見たら十分才能がある分類だと思うんだが。ましてや属性どころか魔力すらない俺からしてみれば羨ましいの一言だぞ。って今はそんな事はどうでも良い。

「同じ属性を使えば魔導拳銃でも魔力量はさほど変わりが無いかもしれないが、それでも使い勝手が悪いんじゃないか?」
「ああ、その事か。ライアンの銃は確かに魔導拳銃だが、魔法拳銃としても使える銃なんだ」
「マジか……」
 魔導拳銃と魔法拳銃の両方が一つの銃で可能ってヤバすぎるだろ。
 そんな事を考えているとボルキュス陛下がライアンに指さして説明してくれた。

「ライアンの腰にマガジンポーチが沢山あるだろ」
「ああ」
「あれには魔導拳銃用と魔法拳銃用のマジンガ入っているんだ」
「なるほどってちょと待ってくれ。魔法拳銃には弾丸は無かった筈だが?」
 魔法拳銃の一番の利点は魔導銃や一般的な銃とは違いリロードをする必要が無いと言う事だ。
 それなのにリロードする必要があるってのはデメリットでしかない。

「その通りだ。本来魔導銃と魔法銃に組み込まれている術式回路は別物だ。それを一緒にして両方使えるようにするには魔法銃も弾丸。正確に言うならカラ薬莢を使う必要があるんだ」
「悪い、さっぱり解らん」
 魔導銃と魔法銃に使われている術式回路が違うものであるのは俺も知っている。だからこそ魔導銃、魔法銃とそれぞれ呼称が付いた銃が存在しているんだからな。
 それを一緒にして両方使えるようにするって事はその術式回路を組み合わせた。もしくは新たな術式回路を作ったって事だ。なのにどうして薬莢が必要なんだ?

「別物の術式同士を組み合わせたとしてもそれが必ずしも発動するとは限らない。発動したとしても発動までに時間が掛かっては意味がないからな」
 ボルキュス陛下の言うとおりだ。
 術式回路とは簡単に言えば管だ。そして如何に魔力と言う水をどれだけ多く早く目的地の場所に送り込むかは管の長さ太さ、また管の中に不純物があるか無いかによる。勿論魔力操作能力が高い人物が使えばロスする時間を短縮する事は出来るかもしれないが、管が短くて、太くて、不純物が無ければ更に早く水を目的地に送り込むことが出来ると言うわけだ。

「魔導銃の術式と魔法銃の術式の一部はほぼ一緒って事は知っていたか?」
「そうなのか?」
 初めて知った事実に俺は驚きを抑えながら問い返した。

「魔力を流し込む術式回路は魔導銃も魔法銃もほぼ一緒なんだ」
 へぇそうだったのか。まぁ確かに普通なら魔力が通らない。または通りにくい素材に安定して魔力を流し込むための術式回路なんだ。魔導銃と魔法銃の術式回路が似ていても不思議ではないか。

「そこで銃本体には魔法銃で使われる『魔力を薬室に流し込む』と言う意味を持つ術式回路が刻まれていて、残りの術式をの術式回路を薬莢に組み込むことで発動させる事にしたんだ」
「そう言う事か」
 組み合わせる事が出来ないなら一緒の部分は1つとして活用し、一緒じゃない部分は別の場所で発動させれば良いと言う事か。

「だがそれでも一般的に販売されている魔法銃に比べると発動に時間が掛かってしまうし、魔法銃用術式回路が組み込まれている銃で魔導弾丸を使えばどうしたって魔力消費が多くなってしまうからな」
 まぁ、普通に考えてそうだろ。銃本体に組み合わせられていた1つの術式を半分に分けて繋ぎ直せばどうしたって遅くなるだろう。………ん?
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