魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第四十九話 眠りし帝国最強皇女 ⑳

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「ちょっと待ってくれ。さっきのライアン殿下の魔法は俺が知っている魔法銃使いよりも魔法発動が早かったし、魔導弾丸を使えば魔力消費が多くなるってのはどういうことだ?」
 さっき俺はライアンが発動した土壁アースウォールを見て魔法を発動してから完成するまでの時間が早すぎて驚いた。しかしあの銃が一般で使用されている魔法銃よりも発動が遅いとしり疑問に感じて仕方がなかった。

「我はさっき魔導銃と魔法銃で使わている『魔力を薬室に流し込む』と言う術式回路は同じと言ったが正確には違う。魔法銃の術式回路の方が一度に流せる魔力が多いのだ」
 そうだったのか。つまりは魔法銃用の術式回路が太いと言う事か。だから一度に流せる量が多いのか。
 だがここで新たな疑問が生まれた。

「それなら魔導銃の術式回路を魔法銃用の術式回路に変えた方が直ぐに魔力を流し込めるんじゃないか?」
「ま、普通はそう思うかもしれないな。だが魔導銃っと言うのは何も持っていない属性を使えると言う利点だけではない。魔力量が少ない人のためでもあるんだ。魔導銃に組み込まれている術式回路は一度に流せる魔力量を調べ、平均を元に設計されたものなんだ。そんな魔導銃を学生の時から使っていれば自然と体がその一度に流せる量を覚えてしまっているからな。いきなり変えたとしても直ぐにマスターする事は不可能だろう」
 なるほどな。
 FPSなんかのゲームをしていていきなり操作方法や感度を変えたとしても即座に対応出来ないのと一緒って事か。
 ん?待てよ。ライアンの動きを見る限り魔法発動は早い。魔力にも余裕がある……つまりそれって。

「ライアンは完璧にマスターしてるって事なのか……」
「その通りだ。ライアンは魔導銃の利点と魔法銃の利点を捨ててまであの銃を手にした。だが今ではその両方を完璧に使いこなせるほどのリロードの速さとそれを補うための戦術の組み立て方、魔力操作能力を手に入れた」
 おいおいマジかよ。
 魔導銃よりも発動が遅いのが難点の魔法銃よりも発動が遅いく、魔法銃用の術式回路であるため魔力の消費が早いと言うデメリットでしかない銃を完璧に使いこなすなんていったいどれだけの訓練を積み重ねて来たんだ。

「そして今では魔力操作能力だけならばジャンヌを越える『魔力操作Ⅸ』にまでなっているのだから」
「あはは……」
 あまりの凄さにから笑いが漏れる。
 魔力操作Ⅸ。うちの魔力操作の達人であるアインの一歩手前って事か。まさに目標に目掛けて独力する化身だな。
 ジャンヌ、俺が想像していたよりもこの1年間のブランクは大きかったようだ。
 そんな俺の気持ちを知らない2人の闘いは未だに続いており、既に終盤に入ったと言って良いだろう。だが2人の表情は最初の時に比べ、とても楽しそうだった。まるで子猫同士がじゃれ合っているかのようだ。
 因みに序盤での戦いで土壁アースウォールを出現させたライアンだったが、ジャンヌは驚く事もなく魔法剣で土壁アースウォール細切れになるまで切りつける。という対応してみせたのだ。だが表情を見る限り読んでいたわけじゃなさそうだ。
 これまで幾千と闘い、戦い続けて来たジャンヌはそれだけ経験を積んでいる。つまり似たような状況も何度もあったはずだ。ましてやライアンとは学生時代の時には何度も模擬戦を繰り返しているらしいからな。
 だからこそジャンヌの中にある幾つかの対応のうちの1つを選んだだけに過ぎないのだろう。しかしいったいどの魔法を使って細切れにしたんだ?確かジャンヌが使える属性は火、風、雷、氷の4属性だ。
 物理攻撃として使うのであれば氷だが、細切れにする際ジャンヌの魔法剣に氷を使っている様子は無かった。となると俺と闘った時どうように風魔法を使って斬ったのか?
 もしもそうなら風が起こったと俺たちに認識させる事が無いほど、無駄が無く濃密度の魔力操作が必要なはずだ。いや、それを可能にしているのがジャンヌなのだろう。改めて才能の塊だな。
 闘いが長引くにつれてライアンの表情が険しくなる。ま、当然だな。ジャンヌの場合は魔力量と体力を意識して闘えば良いだけだが、ライアンは魔力量、体力の2つに腰に装着しているマガジンポーチがある。つまりは弾薬の事も意識しなければならないのだ。ましてやジャンヌよりも魔力量で劣る分無駄撃ちは出来ないし、特殊な魔導拳銃を扱っている分繊細な魔力操作で精神も擦り減らしているはずだ。
 この闘いが集団対集団ならまだライアンにも勝機はあっただろう。または何もない決められた範囲ではなく、広大で遮蔽物がある場所なら1対1でも勝てたかもしれない。だが遮蔽物もなくさほど広大でもない場所で1対1での闘いは戦術や戦略を得意とするライアンにとって力でゴリ押ししてくるジャンヌは相性が悪い。唯一勝機があるとすれば魔力と体力に余裕のあった序盤で勝負を決めるべきだったと言いたいところだが一度見逃してるし……こればかりは仕方が無いよな。
 結局最後は間合いを詰められ首筋に氷で造った魔法剣を当ててジャンヌの勝利で終わった。

「悔しいけどジャンヌには勝てなかったか」
 などと口にしているがその表情は笑顔だった。だが心の中では悔しいと感じているんだろう。それはこの場にいる誰もが理解している。だからこそ誰もその事を口にしないのだ。

「いえ、私は一度お兄様に負けました。あれが戦場なら死んでいたでしょう」
 そんなライアンにジャンヌは真剣な眼差しで語り始めた。兄妹とは分かっているが絵になる2人だな。中世時代なら歴史的な価値を持ちそうだな。
 そんな事を勝手に思いながら俺は腕を組みなおしてジャンヌの話を聞いていた。

「ごめんなさいお兄様!そして今日の今まで待ち続けて頂いてありがとうございました!」
 謝罪と感謝の気持ちを叫びながらジャンヌはお辞儀をする。
 そんなジャンヌに対してライアンは今まで待ち続けた甲斐があったと思ったのか心の底から嬉しそうな笑みでジャンヌの頭を撫でる。

「その言葉、父上たちにも後でもう一度言うんだよ」
「……はい!」
 ライアンの言葉にジャンヌの返事が僅かに掠れていた気がしたが、気のせいだろう。
 だがライアンの言葉はこれで終わらなかった。

「だけど、お願いだから妹を殺した事にしないでおくれ」
「あっ、いやっ、あれはモノの例えと言いますか、何と言えば……」
 慌てて自分言った言葉に言い訳を考えるジャンヌ。それを見て笑いを堪えているライアン。うん、間違いない。言葉の闘いなら間違いなくライアンが圧勝だろう。と言うかアレは分かっていてやってるな。
 ライアンが皇帝に就くと思うと今後皇族からの依頼を請けるべきか悩む俺だった。
 この日の夕食は久々に盛大に行われた。勿論家族だけのプライベートな食事だ。残念ながらカルロスは任務で帝都レイノーツを離れているため参加は出来なかったが、今後は家族全員が揃って出来るだろう。


 2月12日火曜日午前9時25分。
 あれから2日が過ぎた。
 今日はいよいよボルキュス陛下に頼んでいた帝都外での魔獣討伐である。え?復活したんだからもう大丈夫だろうって。馬鹿言ってんじゃないよ。あれで克服出来るならならカウンセラーなんていらなくなるだろうが。
 ジャンヌは魔法剣を持って闘えるようになっただけで、殺すか殺されるか弱肉強食の世界で生きて行けるようになったわけじゃない。
 模擬戦ならば1年前同様に闘えるようになっただけの話だ。それじゃ今後軍人として復帰して戦場に立った際ぶり返す可能性だってあるんだからな。それじゃ本末転倒だろう?
 ま、そんなわけでこれから魔獣討伐なわけだが、冒険者でもないジャンヌが任務以外で魔物を倒しても良いのかって?
 それに関してはボルキュス陛下とライアンが上手くやってくれた。緊急時の際冒険者と軍人が連携出来るのか調査するべく最初は少数で行うと言う名目で軍、冒険者の合同パティ―に俺を指名してきたのだ。
 俺はジャンヌのトラウマを克服させると言う依頼を冒険者組合を通して指名依頼を請けている。だからジャンヌの行く場所に同行しなければならないのだ。
 ハッキリ言って無茶苦茶な理由だが、気にしても仕方が無いので考えないようにしよう。ま、正直な話この一カ月真面に生死を賭けた戦いが出来ていなかったから体が鈍っていないか心配だったので丁度良い。
 ジャンヌが順調に回復している事を知っているのは極一部の者だけだ。報道すれば焦って他国がちょっかいを出して来る可能性があるからだそうだ。政治ってやっぱり難しいし面倒だな。
 そんな事を思いながら俺とジャンヌは地下駐車場に用意し貰っていた米軍のハンヴィーに似た迷彩柄のジープに乗り込んだ。因みに運転はベルヘンス帝国軍少佐であらせられるライアンが受け持つことになった。これも出来るだけジャンヌが回復している事を伏せておくためらしい。本当なら俺が運転すべきなんだろうが、生憎と運転免許を持ってないし、持っていたとしても呪いのせいで運転できないだろうからな。後部座席で帝都外までゆっくりと寛いでよう。
 で、見送りだが、皇族が地下駐車場に集まれば流石に目立つので今回はプライベートフロアでエレベーターで降りる際に見送って貰ったのだ。レティシアさんに至っては不満そうだったがこればかりは仕方がない。なんせ決めたのはボルキュス陛下だ。因みにシャルロットは学園があるので既に登校して皇宮にはいない。
 そんなわけで俺、ジャンヌ、ライアンの3人で出発したのだった。
 出発して普通の道を30分ほど走ってところで11区からは高速道路に乗って帝都外に出る事が出来る東門に向かって移動した。
 約1時間で東門までやって来た。遅いって思うかもしれないが、11区から東門に直線的に高速道路があるわけじゃない。蜘蛛の巣のようになっているので途中途中で料金所があったりする。そのため軽い渋滞になったりするわけだが気にする程度事じゃない。この車両はETC搭載だしな。本来なら領収書を貰わないといけないのかもしれないが、交通費専用の予算があるらしく、ちゃんと移動経路を事後に報告しておけば問題ないそうだ。ま、後から経理部の人たちが報告書通りなのか車に搭載されたGPSによる移動記録と照らし合わせながら確認するらしいので嘘の報告をしても意味がないそうだ。
 ま、そんなわけで東門を監視している軍人にライアンがなにやら指令所を見せて許可を貰うと無事に外に出る事が出来た。
 帝都の外に出て移動する事10数分。目的地の場所に到着した。
 車から降りた俺とジャンヌに運転席からライアンが話しかけて来た。

「それじゃ僕は安全圏まで下がっておくからもしもの時は無線で連絡してね」
「分かった」
「分かりました」
 安全圏とは帝都外に居たとしても帝都一帯を囲っている城壁から100メートル以内の距離ならば魔物が出現しても城壁の上で警戒している軍人によって攻撃が可能だからだ。
 城壁の上には兵士だけでなく対空砲や榴弾砲、迫撃砲などが設置されている。また城壁の幅は10メートル以上あり、軽トラなら並走して走れるほどのらしい。榴弾砲や対空砲を設置してるんだから当然と言えば当然だよな。
 そのため城壁から100メートルは木が一切生えていない。出来るだけ早く魔物や外敵を発見できるようにするためだ。勿論魔物だけは無く他国からの攻撃にも備えて対空レーダーや対砲レーダーなども設置されているらしいが設置場所に関しては知らない。ネットに情報があるかもしれないし、機密なのかもしれない。
 ま、そんなわけで優秀な帝国陸軍の人たちにジャンヌの事がバレてはいけないのでこうして離れた場所にやって来たわけだ。
 ライアンを見送った俺とジャンヌは早速魔物討伐のため森の中へと入って行く。
 今回の装備や服装だが、俺は冒険者として活動している時に着ている服で、ジャンヌは304独立遊撃連隊用の軍服ではなく普通の軍服を着ている。ま、違いは所属や階級のワッペンが付いていないぐらいだけど。
 あとは腰に武器を携えているぐらいで食料や飲み物、緊急時のテントなどは全て俺のアイテムボックスの中に入っている。
 森に入って数分俺たちは目的も無く歩いているわけではない。すでに最初の目標となる魔物の群れを見つけている。
 レーダーや衛星画像を頼りに向かっているわけじゃない。俺は気配操作を使い、ジャンヌは魔力操作で敵を見つけたのだ。分かりやすく言えば気配感知と魔力感知である。この2つはそれぞれ気配操作と魔力操作の熟練度を上げていけば誰にだって出来る芸当である。
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