魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第五十一話 眠りし帝国最強皇女 ㉒

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「どれだけ頑張ろうと思っても、どれだけ剣を握ろうと意識しても体が拒否反応を起こしたかのように硬直してしまうんだ」
 腰に携えている魔法剣に触れながらジャンヌは顔を顰めながら語り続ける。
 似たような体験なら俺もあるぜ。雨が降る日は特にあの日の事を未だに思い出すからな。

「だが、お兄様に家族が殺されても良いんだな。言われた時、想像したんだ。お父様やお母様、お兄様やシャルロットたちが私の部下のように死んでいくのかと……私はそれが怖くて嫌だった!またあの時のような残酷で辛い思いをしなければならないのかと!」
 ジャンヌの頬を涙が垂れ落ちる。嗚咽交じりに語り叫ぶ弱弱しい声。それでも語り続けるのはきっと前を向いていこうとするためなのだろう。
 だったら俺は黙って聞いていよう。帝国最強の皇女が再び戦場で舞い踊れるようになると信じて。

「だけど、体が動かなかったんだ。その時私は初めて理解したんだ。あの時私は死にたくないと思ってしまったんだ。私の事を信じて沢山の部下が死んでいく姿を見て私は助けるのでもなく、庇うわけでもなく、その場で立ちつくして死にたくないと思ってしまったんだ!」
 魔法剣を撫でていた手が強く握りしめられる。悔しくて、悲しくて、怖くて、それでも悔しくて拳を強く握りしめる。
 ああ、俺にもあったな似たような経験が。師匠を助けに戻るか、師匠の言葉を守って銀を連れて洞窟に戻るか、ずっと考えながら走りって洞窟に向かったけ。結局俺は間違った選択をしてしまったけど……。

「そんな時だ、お前の言葉が聞こえたのは」
「俺の言葉?」
 あの時、俺は何もジャンヌに対して喋っていなかった筈だが。俺はそう思い首を傾げる。幻聴でも聞いたんじゃないのか?

「お前は言ったな。辛い事も楽しい事も糧にして自分が求める『全て』を手に入れろ。と」
「ああ、あの時の言葉か」
 そう言えば、言ったな。すっかり忘れていた。
 ジャンヌと模擬戦をしたあとジャンヌに俺が言った時の事を思い出す。

「何故かは分からない。何故あのようにいい加減な言葉で体が動いたのかも分からない。だがまるで濁流に呑み込まれていた私の前に一本の道が出来たんだ」
 なんじゃそりゃ。まったく分からない。それと人の言葉をいい加減は無いだろ。俺が悲しくなるぞ。

「私はその道の先に向かってゆっくりとだが歩いていた。次第に体と心が軽くなった。そしてその先に進みたい。今度こそ私が求める全てが欲しいと願って手を差し伸べた時にはお父様が持っていたこの魔法剣を握っていたんだ」
(釈善としないが、きっとこの男が濁流の中から私を岸へと上げてくれたのだろう)

「そうか、それは良かったな」
(こんないい加減でまともに慰めの言葉の言えないような雑な男に助けられたと思と腹正しいがな)
 何はともあれ、ジャンヌが一歩前に進めたんだ。それはきっとジャンヌ本人すら気づいていない、信念があったからこそ動けたんだろうな。

「まったく、どうしてこんな男が私のカウンセラーなんだ」
「それはボルキュス陛下にでも聞いてくれ」
 笑みを浮かべながら皮肉交じりに愚痴る。
 俺だって思うさ。俺は冒険者であってカウンセラーじゃない。ましてやカウンセラーの資格すら持っていないんだから。そんな奴がこの仕事を請けて今こうしてジャンヌが魔獣討伐に来れている事事態俺は不思議でしかないんだからな。ま、ジャンヌが自分で思っている以上にはメンタルが強かったと思っておこう。
 その後は他愛もない話をしながらサンドイッチを2人で堪能した。
 1時間ほど休憩した俺たちは再び森の中へと入り魔物討伐へと向かう。
 しかしここら辺に生息する魔獣は午前中にあらかた片づけたため、魔獣を発見するどころかまったく気配すら感じない。気合入れて狩り過ぎたな。完全に魔獣どもは警戒して移動してるな。
 そこら中から血の臭いがすれば誰だって警戒する。ましてや人間よりも嗅覚に優れている魔獣は直ぐにでも危険だと判断するだろう。ま、気合入れ過ぎて殺気が駄々洩れだっただろうし。
 魔獣は食糧不足や危機的状況に陥らない限りは自分より強い相手と戦う事は滅多にない。ま、あの島は違ったけど。右を見ても左を見ても前だろうが後ろだろうが、そこら中で殺し合いが行われていたからな。喧嘩祭りどころの話じゃない。毎日が殺し合い祭りなのだ。ま、流石に圧倒的に強い神クラスや王クラスの魔物が現れた時は逃げたりしていたけど。
 午前中の時は1時間もしないうちに見つけられたのに、2時間が経過しようとしているのにまったく見つかる気配がない。本当に狩りつくしてしまったんだな。ま、午前中に結構戦ったからな。今日はこれで引き揚げて明日か明後日にもう一度ジャンヌの戦いを見て大丈夫ならこの依頼も終わりだろう。
 少し反省しながら俺たちは周囲を見渡す。それにしても本当に魔獣が居ないな。
 本当に切り上げようかと思い始めていた時だった。

「「っ!!」」
 突如、地面が揺れ始めたのだ。
 地震大国とまで呼ばれてた日本で暮らしていた俺としては震度3にも満たない揺れで混乱したりはしない。
 しかし、どういう訳か揺れは徐々に大きくなっていったのだ。

「おいっ!」
 地面を見つめていた俺にジャンヌが慌てた声で呼ぶので、顔を上げると先ほどまで一匹も見当たらなかった筈の魔獣が土煙を上げるほどの大群となってこっちに向かって来るのだ。

「おいおい、マジかっ!」
 一瞬大氾濫かとも思った俺とジャンヌは即座に戦闘態勢を取るが、魔獣たちの様子がおかしい事に気がついた。
 この光景どこかで見たことがある……ああ、そうだ。あの島で見たんだ。
 俺よりも遥かに強い魔獣どもが強大な力を持つ魔獣から一斉に逃げ出したあの時と。
 その証拠に魔獣たちは俺たちを襲ってくるどころか目もくれず帝都の方へと逃げていく。
 これは……拙いな。
 運が良い事に魔獣たちは俺たちに殺気を放って襲ってくることはないから警戒さえしておけば、向こうが勝手に避けて逃げていく。
 だが今は魔獣たちが逃げている原因が体中に風圧が襲って来たのかと錯覚するほどの殺気を向けている事だ。
 
『……ジン君、聞こえるか!?』
 その時胸ポケットに差し込んでいた無線機からライアンの声が聞こえて来る。
 胸ポケットから取り出した無線機を口元に近づけて返事をする。

「ああ、聞こえてるぜ」
『っ!良かった。それでジャンヌも無事なんだね』
「掠り傷1つも無いぜ」
 ジャンヌに怪我が無いか足から頭へと視線を向けて診ながら返事をする。

『それは良かった。今直ぐ迎えに行きたいところだけど大量の魔獣がこの帝都に向かって来てるから僕はそっちの対処をしなければならない。悪いけどジャンヌを連れて出来るだけ速くこっちに戻ってきて欲しいんだ』
 どうやら警備していた帝国軍が魔獣の群れを探知したんだろう。で、その情報がライアンに届いたのが1、2分前と言ったところか。で、今こうして連絡をくれたわけか。

「悪いが、戻れそうにもない」
『なっ!何を言ってるんだ!そこは危険だ今すぐにでも戻って……いや、君が無謀な判断をするわけがないか。なにか理由があるんだね』
 俺の予想外の言葉に最初は驚いて冷静さを失っていたが、直ぐに意図を汲み取り問い返して来る。流石は帝国陸軍少佐。ジャンヌよりも指揮が上手いとボルキュス陛下に言われた男だけの事はある。
 だがこうしてライアンの会話をしている間も増々揺れが大きくなっていき、

「ああ、そうさ。これは大氾濫かじゃない」
 突如、足元の地面が隆起したかと思えば、温泉が勢い良く噴き出したのようにこの騒動の原因が俺たちを襲って来る。
 それを俺とジャンヌは慌てる事無く後方に跳んで攻撃を躱す。

「魔獣たちはヤバい奴から逃げてるだけなんだからな」
 先ほどまで立っていた一帯は樹齢100年近い木々が突如地面から現れた魔獣、いや、獣じゃないな。あれはどう見ても無視だよな。なら魔蟲か?面倒だから魔物でいいや。
 その魔物によって根元から倒され根っこが露になり、先ほどまで明るかった筈が深い影で俺たち2人に落とす元凶を見上げた。
 その高さは優に10メートルを超えていた。だがそれは地面からみた高さだ。完全に地面から出ていない事を考えるとその倍以上の長さと考えるのが妥当だろう。
 そして何よりあの大きな口。完全に開けばグリード3人分は余裕で咥えられるほどの幅はありそうだ。

『な、なにッ!ジン君……よく聞くんだ。その魔物はワーム種の一種で大樹喰らいフォレスト・イーターって名前のランクS-のモンスターだ』
 だろうな。何度かこの森で討伐依頼を行った事があるが、これだけの殺気と力を漂わせてる奴が生息していれば気付かないわけないよな。

『っ!それは本当なんだな……ジン君、君にどんな作戦があるかは分からいけど、今すぐに帝都に戻って来るんだ。陛下から命令が下った。直ぐにでも城壁の上から榴弾砲で攻撃する命令が。援軍も直ぐにやってきて討伐される。だから――』
「悪いが、その作戦は中止だ。どうやらこの超特大ミミズ野郎は俺たちが目的らしいからな」
『っ!それは本当なんだね……』
「俺たちで討伐したいなんて緊急時に変なプライドは出さねぇよ。さっきから俺たちに殺気を向けて来るから間違いない。だから俺たちが帝都に戻れば、遅かれ早かれ間違いなく超特大ミミズ野郎コイツは帝都内に侵入し帝都内の住民を襲うだろうよ」
 正直、今にも襲って来そうなほどだしな。
 隣に立つジャンヌの様子を見る限り、完全に錯乱状態にはなっていない。だが、流石にこのレベルの魔物と戦わせるのは早過ぎた。
 どうにかさっきの攻撃を回避は出来たようだが、あれから一言も喋ろうとはしないし魔法剣を構える手が目視で分かるほど震えていた。

『……解った。今すぐ榴弾砲による攻撃を中止させ、陛下にもこの事は伝える』
「ああ、頼んだぜ。後ろから吹き飛ばされたくないからな」
『帝国第一皇子として何が何でも止めて見せるよ。だから妹を……頼む』
 この緊急時にボルキュス陛下の事を父上じゃなく、陛下と呼ぶほど冷静な判断が出来ているライアンがジャンヌの事を第一皇女ではなく妹と呼ぶんだ。それだけでライアンの今の心境が伝わって来る。

「ああ、請け負ったぜその願い依頼。ギルド『フリーダム』ギルドマスターの鬼瓦仁がな!」
 自信満々に答えると、ライアンからの返事は無くただ無線機での会話が終わったのだと分かる。
 だから俺は超特大ミミズ野郎から目を離さずジャンヌに怒声を浴びせるかのように呼びかける。

「ジャンヌ、お前また立ち止まるのか!まさにこの状況はライアンが言った通りの展開じゃねぇか!」
「っ!」
「俺たちが殺られたら今度は後ろの帝都が襲われる。討伐出来たとしても間違いなく死人がでるだろうよ」
 俺はジャンヌの心を奮い立たせるために喚き散らすかのように話しかけ続ける。

「それが嫌で次こそは護って見せるって誓ったんだろうが!なのにまた塞ぎ込むつもりか、この意気地なし皇女!何が帝国最強皇女だ!ただの泣き虫皇女の間違いだろうが!」
 戦場の空気に中てられたなのか、アドレナリンの大量分泌のせいか、その場のノリなのかは分からないが、俺は色々とヤバい事を喋りまくっていた。

「だったら早く家に帰ってベッドの中で丸まってるんだな。この臆病こう――」
「――それ以上喋ったら首を斬り飛ばすぞ」
 突如、俺の首筋に冷たい冷気を放つ氷の刃があてられる。ジャンヌの魔法剣だ。

「はい……」
 超特大ミミズ野郎から視線は外せないので、今のジャンヌの顔がどうなっているか俺には分からない。だが間違いなく怒っているだろう。
 なんせこれまで聞いた事のない本当に女性なのかと思えるほどの低音ボイスには怒気と殺意が込められているのだから。
 そして俺は感謝した。
 超特大ミミズ野郎から視線を離さなかった数分前の俺に。だって見たら間違いなくトラウマになるところだったろう。と俺の直感がそう叫んでいるから。
 俺の首筋から離れた魔法剣の切っ先は超特大ミミズ野郎に向けられる。

「だが腹立たしい事にお前の言葉のお陰で戦う事が出来る。よって処罰は無しにしてやる」
「ありがとうございます」
 いつ以来だろうか。心の底から感謝したのは。
 改めて俺とジャンヌが超特大ミミズ野郎と本当の意味で対峙した瞬間、何か感じ取ったかのように超特大ミミズ野郎が巨大な口を開けて襲い掛かって来た。
 だが俺たちは焦ることなく再び後方に跳んで攻撃を躱す。
 超特大ミミズ野郎がその巨体を持ち上げると、先ほどまで立っていた地面が見事に抉れて無くなっていた。一瞬で小さな池の完成だ。
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