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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第七十九話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ⑩
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偽りの日差しが降り注ぐ酷熱の砂漠地帯で嬉々として砂塵を巻き上げる砂漠棘蟲の群れが拙者の前を横切って行く。
拙者の力量を見破り危険だと判断したのか、それとも長時間の戦闘で疲弊している萩之介たちの方が獲物として魅力的に見えたのかもしれん。どちらにしても拙者には興味がないようだな。
熱を帯びて舞い上がった砂塵がヒリヒリと頬に張り付く痛みに煩わしさに集中をかき乱して来る。
その場に立っているだけでも体力を奪われ、砂塵で集中を掻き乱される戦場で拙者を無視して横切る砂漠棘蟲の群れを睨みつけながら刀を抜いた。
「拙者を無視した事後悔させてやろうぞ!」
力強く吠えた拙者は真面に力の伝達がし辛い砂の地面を蹴り砂漠棘蟲の群れ横っ腹目掛けて刀を振り下ろす。
まずは一匹。
突然振り下ろされた刀に反応すら出来なかった砂漠棘蟲は顔と胴体が綺麗に離れ離れになり絶命していた。
突然仲間が死んだ事に驚きを覚えた後続の砂漠棘蟲たちは進路を萩之介たちから拙者に変更して襲い掛かって来る。うむ、それで良い。
砂の地面を飛び跳ね鋭い牙で噛みつこうと襲い掛かって来る砂漠棘蟲たち。
しかし――
「遅い!」
鈍い攻撃をしてくる砂漠棘蟲どもを斬り捨てて行く。
戦闘を開始して数分が経過したであろう。地面には数十を超える数の砂漠棘蟲の死体が転がっておる。
残りの砂漠棘蟲の数も目に見えて減っているのが分かる。仁が後続を相手してくれているお陰であろう。
さて、拙者もそろそろ終わらせないとな。
後続を相手している仁が居る方角からまったく戦闘音が聞こえないと言う事は既に全てを倒し終えたと言う事だろうからの。
拙者に殺意を向ける砂漠棘蟲の数は凡そ20弱。この数なら大丈夫であろう。
一旦刀を鞘に納めた拙者は軽く腰を落とし、息を整える。
軽い深呼吸のつもりだったが喉が焼けるかと感じるほど熱い空気を我慢し呼吸を整える。
勿論目は閉じぬ。敵を前にして目を閉じるような阿呆は居ないからな。
攻撃してこなくなった拙者に困惑していた砂漠棘蟲たちは好機と思ったのか一斉に地面を刎ねて襲い掛かって来た。
やはり所詮は獣か。
「神道零限流居合――円弧波龍!」
音速を超える速さで鞘から抜き放たれた刃から砂漠棘蟲目掛けて斬撃が飛ぶ。
しかしこれまでとは違い、放たれた斬撃は三日月のような斬撃ではあったが、龍が夜空を揺蕩っているかのうであり、刀の波紋のように斬撃は高さも距離もバラバラな砂漠棘蟲を一刀両断し、その命を奪った。
飛び跳ねていた砂漠棘蟲たちは熱い砂の地面にバタバタと落ちていった。
全て倒し終えた時、後続を相手していた仁が拙者に近づいて来た。
************************
影光の顔が目視で確認できる距離まで近づくと顎から汗がポタポタと垂れ落ちていた。戦闘慣れしている影光でも流石にこの酷暑の下で戦闘するのは経験が少なかったようだな。
そんな影光にタオルと冷たい水が入ったペットボトルをアイテムボックスから取り出して渡しながら口を開いた。
「そっちも片付いたようだな」
「有難い。数も群れの一部だったからな」
と、返答して来た。
死体とかした砂漠棘蟲たちの死体に視線を向けると全て斬られた痕があり、弾丸で撃ち抜かれ痕跡は無かった。
俺と影光に援護射撃が無かったと言う事はアインは猪俣とか言う影光の知り合いの方を優先したと言う事だろう。俺や影光の戦闘能力を考えて砂漠棘蟲たちに殺れる心配は無いと判断したんだろう。ま、俺も明確に誰の援護射撃をしろ。とは言ってなかったからな、お互いさまでもあるか。
「それじゃ、俺たちもあっちの戦場に向かうか」
「そうだな」
未だに戦闘音が聞こえて来る戦場に視線を向けた俺と影光は軽く水分補給をしてから新たな戦場へと地面を蹴った。
************************
濁流の如き押し寄せる砂漠棘蟲の群れを先頭で押し止めている1人の男は突然砂漠棘蟲の当たりが弱くなった事を大盾から伝わって来る衝撃で気が付いた。
一瞬仲間が砂漠棘蟲を多く殺したのかと思ったが、これまでの戦闘での疲労を考えてそれは無いと即座に判断する。
先頭で砂漠棘蟲たちのヘイト稼ぎをしている男は砂漠棘蟲たちの耳障りな鳴き声で周囲の音を拾える状態では無かった。
そこで自分とほぼ同じ高さの大盾から少し場から顔を出して砂漠棘蟲の群れに視線を向けると男へと目掛けて飛び跳ねる来る砂漠棘蟲が突然力を失ったかのようにポタッと地面に落ちる瞬間を目にした。
一瞬の出来事に思考が止まるがそれも一瞬の事で男は直ぐに理解する。
――射殺!
しかし前方は砂漠棘蟲の群れで視界不良で確認する事が出来ない。周囲に視線を向けたが銃を持った人影らしい者はどこにも居ない。
その事に男は一瞬見間違いか?と自分の考えが間違っていたと思い込みそうになるが、再び目の前で砂漠棘蟲が力尽きて地面に落ちていくのを目撃する。
しかも今度は一匹だけでなく何匹もの砂漠棘蟲が絶命する瞬間を目の当たりにした瞬間、男は確信した。
(間違いない。この戦場には某たち以外にも誰かいる!)
ここはダンジョンの中であるため他の冒険者たちが居る事は男も理解していた。
男はすぐさま思考を整理し、一瞬だけ背後で戦っている仲間たちに視線を向けると仲間たちも気が付いていたらしく軽く頷いた。
男はそれだけで覚悟を決めたのか、生き残る兆しが見えたからなのか、それともその両方なのかは分からないが不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「汝等最後の踏ん張り所ぞ、力を振り絞るのだ!」
『おう!』
男の号令に合わせて仲間たちも先ほどとは違い活気づいた声音で返事をした。
押し寄せて来る砂漠棘蟲の群れを大盾で跳ね返した男は右手に持っていたモーニングスターを高々と振り上げる。
振り上げた腕の筋肉が一瞬で風船の如く膨れ上がる。
(何処の何方は知らぬが感謝するぞ――)
「オラッアアァ!」
野太い咆哮が砂漠地帯に轟くと同時に十数匹の砂漠棘蟲が吹き飛ばされる。
これが口火となり男たちの反撃が始まった。
************************
5分にも満たない小休憩を終えた俺と影光は砂漠棘蟲の群れに襲われているパーティーの許へ急ぐべく走っていた。
俺と影光が後続の砂漠棘蟲たちをあらかた倒したとは言え、それでもまだ200匹弱は居る。
さっさと向かわないとな。
砂漠棘蟲どもの後ろから挟撃するつもりで足取りを速めた俺たち。
しかし砂漠棘蟲の群れの更に奥から途轍もない闘気を感じ取る。
これは砂漠棘蟲どもの物じゃない。だいたい知能の低い魔物が闘気を感じる事はない。あるのは純粋無垢な殺気のみ。ま、それはあの島に居た連中の大半がそうだったけど。そんな話は今はどうでも良いか。今は目の前の事に集中しないとな。
強烈で膨れ上がった闘気を感じ取った俺と影光は挟撃するのを止めその場に立ち止まる。
「なぁ、影光。俺の考えが間違っていなければこの闘気は」
「ああ。仁、お主が考えて居る事は間違いない。これは萩之介たちの物だ」
隣に立つ影光に視線を向けると嬉しそうに笑みを浮かべ、そう答えた。
まったく影光が嬉しそうにする所なんて久々に見たぜ。それにしても、
「俺たちの援護が必要ないほどに勢いづいてるな」
その場に立ち止まってから数分と経っていないが、既に30匹以上の砂漠棘蟲たちを倒している。
なんでこんな奴らがさっきまで危機的状況に陥っていなのが不思議なぐらいだ。なんせ闘気から感じる強さは影光ほどじゃないにしろ充分強者と言える程の強さを持った奴が2人は居るのだからな。
間違いなく強者と言える強さの2人はアリサやヘレン以上に強い。それどころかクレイヴよりも強い気配を感じる。
まったく影光が通っていた神道零限流って言う道場どうなっているんだか。
って呟いている場合じゃないな。アインの精密な援護射撃があるとは言え、あの勢いがどこまで続くか分からない以上、あのパーティー全員が生き残れる保証はどこにもない。
「さて、俺たちも加勢するとするか」
「そうだの」
影光の知人の勢いに呼応するかのように俺たちもいつも以上の勢いで討伐を行った。
砂漠棘蟲は体の構造上その場で振り向くと言う事が出来ない魔物だ。そのため後ろからの攻撃にはとても脆弱なのである。
だから動き回って敵を攪乱しつつ敵を追い詰めるのが奴らの狩りの仕方なわけだが、正面には鉄壁の盾があるため撹乱に必要なスピードどころか動き回る事すら出来ない状況にある。
数は今の方が圧倒的に多いとは言え、そんな状態の砂漠棘蟲どもを倒すのは先ほどの戦闘よりも遥かに楽なのは必定と言えた。
だから俺はいつも通り、いや、それ以下の力で殴り飛ばし、影光は神道零限流の技を使う事無く刀捌きのみで砂漠棘蟲たちを一刀両断して行った。
結果、200匹弱も居た砂漠棘蟲は10分も経たないうちに全て討伐を終えたのである。
戦闘を終えた俺たちはさっそく影光の知り合いたちと合流する事にする。
と言っても向こうさんも突然現れた俺たちに警戒しているだろうから慎重に行動しないとな。
「兄弟子!」
と思ったがどうやら杞憂に終わりそうだ。
自分と変わりない大きさの大盾を背負った男が嬉しそうに俺たちに近づいて来る。
それにしても警戒心が低いな。知人の姿を見つけたからと言ってその仲間が良いやつとは限らない。それなのに再会に嬉しさで警戒を緩めるのは愚かな行為だろう。いや、影光への信頼が厚いからこその対応かもしれないな。
男に続いて他の奴らも集まって来る。
「久しいな、萩之介」
懐から取り出したタオルで汗を拭う影光は笑みを零しながらそう答えた。
「お久しぶりです、兄弟子。まさかこのような場所でお会いできるとは思っても見ませんでしたぞ!」
嬉しそうに返答する萩之介と呼ばれる男。
確かこの男自分の頭より大きいモーニングスターで砂漠棘蟲を殴り飛ばしていたな。いったいどれだけの力があるのか想像できないな。
純粋な力勝負で俺を除いたフリーダム1の力を有しているグリードよりも上なんじゃ……。
「しかし、この度は助けて頂き感謝の言葉しかありません。ありがとうございました」
そう言って萩之介は頭を下げる。
「しょ、将軍!冒険者に頭を下げる必要なんてありませんよ!」
萩之介が頭を下げた感謝の言葉を口にする姿に驚いたのか狼獣人の男が慌てて止めに入るが、
「馬鹿者!汝は恩を受けた相手に感謝の言葉すら掛けぬつもりか!」
「いや、そうではないですけど……将軍が頭を下げる事では……」
などとあちらさんはやりとりしているが、この酷暑だ。さらに暑苦しさが増した気がするからやめて貰いたい。
どうやらそう思っているのは俺だけでなく、あちらの魔導弓を使っていたエルフたちも同じ考えのようで気だるそうな表情をしていた。だからと言って警戒心は解いていなさそうだ。それにしてもやはりエルフ。美人だな~胸はそんなに大きくないけど。やべっ!ジロジロ見過ぎたか?睨まれてしまった。
偽りの日差しが降り注ぐ酷熱の砂漠地帯で嬉々として砂塵を巻き上げる砂漠棘蟲の群れが拙者の前を横切って行く。
拙者の力量を見破り危険だと判断したのか、それとも長時間の戦闘で疲弊している萩之介たちの方が獲物として魅力的に見えたのかもしれん。どちらにしても拙者には興味がないようだな。
熱を帯びて舞い上がった砂塵がヒリヒリと頬に張り付く痛みに煩わしさに集中をかき乱して来る。
その場に立っているだけでも体力を奪われ、砂塵で集中を掻き乱される戦場で拙者を無視して横切る砂漠棘蟲の群れを睨みつけながら刀を抜いた。
「拙者を無視した事後悔させてやろうぞ!」
力強く吠えた拙者は真面に力の伝達がし辛い砂の地面を蹴り砂漠棘蟲の群れ横っ腹目掛けて刀を振り下ろす。
まずは一匹。
突然振り下ろされた刀に反応すら出来なかった砂漠棘蟲は顔と胴体が綺麗に離れ離れになり絶命していた。
突然仲間が死んだ事に驚きを覚えた後続の砂漠棘蟲たちは進路を萩之介たちから拙者に変更して襲い掛かって来る。うむ、それで良い。
砂の地面を飛び跳ね鋭い牙で噛みつこうと襲い掛かって来る砂漠棘蟲たち。
しかし――
「遅い!」
鈍い攻撃をしてくる砂漠棘蟲どもを斬り捨てて行く。
戦闘を開始して数分が経過したであろう。地面には数十を超える数の砂漠棘蟲の死体が転がっておる。
残りの砂漠棘蟲の数も目に見えて減っているのが分かる。仁が後続を相手してくれているお陰であろう。
さて、拙者もそろそろ終わらせないとな。
後続を相手している仁が居る方角からまったく戦闘音が聞こえないと言う事は既に全てを倒し終えたと言う事だろうからの。
拙者に殺意を向ける砂漠棘蟲の数は凡そ20弱。この数なら大丈夫であろう。
一旦刀を鞘に納めた拙者は軽く腰を落とし、息を整える。
軽い深呼吸のつもりだったが喉が焼けるかと感じるほど熱い空気を我慢し呼吸を整える。
勿論目は閉じぬ。敵を前にして目を閉じるような阿呆は居ないからな。
攻撃してこなくなった拙者に困惑していた砂漠棘蟲たちは好機と思ったのか一斉に地面を刎ねて襲い掛かって来た。
やはり所詮は獣か。
「神道零限流居合――円弧波龍!」
音速を超える速さで鞘から抜き放たれた刃から砂漠棘蟲目掛けて斬撃が飛ぶ。
しかしこれまでとは違い、放たれた斬撃は三日月のような斬撃ではあったが、龍が夜空を揺蕩っているかのうであり、刀の波紋のように斬撃は高さも距離もバラバラな砂漠棘蟲を一刀両断し、その命を奪った。
飛び跳ねていた砂漠棘蟲たちは熱い砂の地面にバタバタと落ちていった。
全て倒し終えた時、後続を相手していた仁が拙者に近づいて来た。
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影光の顔が目視で確認できる距離まで近づくと顎から汗がポタポタと垂れ落ちていた。戦闘慣れしている影光でも流石にこの酷暑の下で戦闘するのは経験が少なかったようだな。
そんな影光にタオルと冷たい水が入ったペットボトルをアイテムボックスから取り出して渡しながら口を開いた。
「そっちも片付いたようだな」
「有難い。数も群れの一部だったからな」
と、返答して来た。
死体とかした砂漠棘蟲たちの死体に視線を向けると全て斬られた痕があり、弾丸で撃ち抜かれ痕跡は無かった。
俺と影光に援護射撃が無かったと言う事はアインは猪俣とか言う影光の知り合いの方を優先したと言う事だろう。俺や影光の戦闘能力を考えて砂漠棘蟲たちに殺れる心配は無いと判断したんだろう。ま、俺も明確に誰の援護射撃をしろ。とは言ってなかったからな、お互いさまでもあるか。
「それじゃ、俺たちもあっちの戦場に向かうか」
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そこで自分とほぼ同じ高さの大盾から少し場から顔を出して砂漠棘蟲の群れに視線を向けると男へと目掛けて飛び跳ねる来る砂漠棘蟲が突然力を失ったかのようにポタッと地面に落ちる瞬間を目にした。
一瞬の出来事に思考が止まるがそれも一瞬の事で男は直ぐに理解する。
――射殺!
しかし前方は砂漠棘蟲の群れで視界不良で確認する事が出来ない。周囲に視線を向けたが銃を持った人影らしい者はどこにも居ない。
その事に男は一瞬見間違いか?と自分の考えが間違っていたと思い込みそうになるが、再び目の前で砂漠棘蟲が力尽きて地面に落ちていくのを目撃する。
しかも今度は一匹だけでなく何匹もの砂漠棘蟲が絶命する瞬間を目の当たりにした瞬間、男は確信した。
(間違いない。この戦場には某たち以外にも誰かいる!)
ここはダンジョンの中であるため他の冒険者たちが居る事は男も理解していた。
男はすぐさま思考を整理し、一瞬だけ背後で戦っている仲間たちに視線を向けると仲間たちも気が付いていたらしく軽く頷いた。
男はそれだけで覚悟を決めたのか、生き残る兆しが見えたからなのか、それともその両方なのかは分からないが不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「汝等最後の踏ん張り所ぞ、力を振り絞るのだ!」
『おう!』
男の号令に合わせて仲間たちも先ほどとは違い活気づいた声音で返事をした。
押し寄せて来る砂漠棘蟲の群れを大盾で跳ね返した男は右手に持っていたモーニングスターを高々と振り上げる。
振り上げた腕の筋肉が一瞬で風船の如く膨れ上がる。
(何処の何方は知らぬが感謝するぞ――)
「オラッアアァ!」
野太い咆哮が砂漠地帯に轟くと同時に十数匹の砂漠棘蟲が吹き飛ばされる。
これが口火となり男たちの反撃が始まった。
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5分にも満たない小休憩を終えた俺と影光は砂漠棘蟲の群れに襲われているパーティーの許へ急ぐべく走っていた。
俺と影光が後続の砂漠棘蟲たちをあらかた倒したとは言え、それでもまだ200匹弱は居る。
さっさと向かわないとな。
砂漠棘蟲どもの後ろから挟撃するつもりで足取りを速めた俺たち。
しかし砂漠棘蟲の群れの更に奥から途轍もない闘気を感じ取る。
これは砂漠棘蟲どもの物じゃない。だいたい知能の低い魔物が闘気を感じる事はない。あるのは純粋無垢な殺気のみ。ま、それはあの島に居た連中の大半がそうだったけど。そんな話は今はどうでも良いか。今は目の前の事に集中しないとな。
強烈で膨れ上がった闘気を感じ取った俺と影光は挟撃するのを止めその場に立ち止まる。
「なぁ、影光。俺の考えが間違っていなければこの闘気は」
「ああ。仁、お主が考えて居る事は間違いない。これは萩之介たちの物だ」
隣に立つ影光に視線を向けると嬉しそうに笑みを浮かべ、そう答えた。
まったく影光が嬉しそうにする所なんて久々に見たぜ。それにしても、
「俺たちの援護が必要ないほどに勢いづいてるな」
その場に立ち止まってから数分と経っていないが、既に30匹以上の砂漠棘蟲たちを倒している。
なんでこんな奴らがさっきまで危機的状況に陥っていなのが不思議なぐらいだ。なんせ闘気から感じる強さは影光ほどじゃないにしろ充分強者と言える程の強さを持った奴が2人は居るのだからな。
間違いなく強者と言える強さの2人はアリサやヘレン以上に強い。それどころかクレイヴよりも強い気配を感じる。
まったく影光が通っていた神道零限流って言う道場どうなっているんだか。
って呟いている場合じゃないな。アインの精密な援護射撃があるとは言え、あの勢いがどこまで続くか分からない以上、あのパーティー全員が生き残れる保証はどこにもない。
「さて、俺たちも加勢するとするか」
「そうだの」
影光の知人の勢いに呼応するかのように俺たちもいつも以上の勢いで討伐を行った。
砂漠棘蟲は体の構造上その場で振り向くと言う事が出来ない魔物だ。そのため後ろからの攻撃にはとても脆弱なのである。
だから動き回って敵を攪乱しつつ敵を追い詰めるのが奴らの狩りの仕方なわけだが、正面には鉄壁の盾があるため撹乱に必要なスピードどころか動き回る事すら出来ない状況にある。
数は今の方が圧倒的に多いとは言え、そんな状態の砂漠棘蟲どもを倒すのは先ほどの戦闘よりも遥かに楽なのは必定と言えた。
だから俺はいつも通り、いや、それ以下の力で殴り飛ばし、影光は神道零限流の技を使う事無く刀捌きのみで砂漠棘蟲たちを一刀両断して行った。
結果、200匹弱も居た砂漠棘蟲は10分も経たないうちに全て討伐を終えたのである。
戦闘を終えた俺たちはさっそく影光の知り合いたちと合流する事にする。
と言っても向こうさんも突然現れた俺たちに警戒しているだろうから慎重に行動しないとな。
「兄弟子!」
と思ったがどうやら杞憂に終わりそうだ。
自分と変わりない大きさの大盾を背負った男が嬉しそうに俺たちに近づいて来る。
それにしても警戒心が低いな。知人の姿を見つけたからと言ってその仲間が良いやつとは限らない。それなのに再会に嬉しさで警戒を緩めるのは愚かな行為だろう。いや、影光への信頼が厚いからこその対応かもしれないな。
男に続いて他の奴らも集まって来る。
「久しいな、萩之介」
懐から取り出したタオルで汗を拭う影光は笑みを零しながらそう答えた。
「お久しぶりです、兄弟子。まさかこのような場所でお会いできるとは思っても見ませんでしたぞ!」
嬉しそうに返答する萩之介と呼ばれる男。
確かこの男自分の頭より大きいモーニングスターで砂漠棘蟲を殴り飛ばしていたな。いったいどれだけの力があるのか想像できないな。
純粋な力勝負で俺を除いたフリーダム1の力を有しているグリードよりも上なんじゃ……。
「しかし、この度は助けて頂き感謝の言葉しかありません。ありがとうございました」
そう言って萩之介は頭を下げる。
「しょ、将軍!冒険者に頭を下げる必要なんてありませんよ!」
萩之介が頭を下げた感謝の言葉を口にする姿に驚いたのか狼獣人の男が慌てて止めに入るが、
「馬鹿者!汝は恩を受けた相手に感謝の言葉すら掛けぬつもりか!」
「いや、そうではないですけど……将軍が頭を下げる事では……」
などとあちらさんはやりとりしているが、この酷暑だ。さらに暑苦しさが増した気がするからやめて貰いたい。
どうやらそう思っているのは俺だけでなく、あちらの魔導弓を使っていたエルフたちも同じ考えのようで気だるそうな表情をしていた。だからと言って警戒心は解いていなさそうだ。それにしてもやはりエルフ。美人だな~胸はそんなに大きくないけど。やべっ!ジロジロ見過ぎたか?睨まれてしまった。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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