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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第八十話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ⑪
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「ま、説教はその辺にして。萩之介もしよかったら拙者の仲間を紹介したいから、移動せぬか?」
と影光が提案する。
一応俺がフリーダムのトップの筈なんだがな。ま、別に急ぐ攻略でもないし、悪い奴らでもなさそうだから俺は別に構わないが。
「それはとてもありがたい提案ではありますが、某だけの判断では決めかねますので」
俺も含め影光も直ぐに了承すると思っていたため、意外な返答に少し驚いていた。
先ほど狼獣人の男に将軍と呼ばれていたし、先ほどの戦闘でも指示を出していたからてっきりリーダーかと思ったんだがな。てか将軍って二つ名かあだ名か?似合い過ぎだな。
そんな下らない事を考えていると少女のような可愛らしい声が発せられた。
「良いぞ」
声の主を視線で辿るとそこにはフードを目深に被った小柄な少女?が立っていた。
確か……クレイヴが治癒魔法を使うと言っていた奴だよな?
「しかしひっ……いえ、綾香殿はそれで良いのですか?」
と、不安げに確認を取る萩之介。
ひってそんなに恐怖するような存在なのか?それとも恐怖してしまうオーラでも出していたのか?
だけど綾香って名前なのか。それが分かっただけでも今は良いか。話すときに名前が分からないと不便だしな。
「余は良いと申しておるのだぞ」
「畏まりました。兄弟子、ではお言葉に甘えます」
申し訳なさげに萩之介はそう答えた。
「構わないぞ」
だからそれを判断するのは俺の筈なんですけど!
こうして俺たちはアインと合流してからヘレンやグリードたちが待つ野営地へと移動した。
俺や影光、アインだけならば数分と掛からぬうちに野営地へと到着しただろうが、人数が増えた事でどうしても移動スピードが落ちてしまう。
ましてや砂漠地帯。
ある程度歩き慣れたとは言え、野営地に到着するまでには砂丘を1つ越えなければならないため15分弱もの時間が掛かってしまった。
ようやく野営地に到着すると、遺跡の柱にロープでつながれた天幕が張られており日陰の部分も増え、中央を食事したり寛ぐ共有スペースとして囲むように大きなテントが3つ設置されていた。
まさに休むのに快適な野営地が完成していたのである。きっとこれ以上望むのは罰が当たると言われてもおかしくないだろう。
「なんと、これほど見事な野営地がダンジョン内に築き上げるとは……」
なんてフードを目深に被った少女?が呟いているが仲間の行いを褒められるのはやはり嬉しいものだな。
仲間が褒められた事に少し嬉しく感じながら天幕の下に入ると暑さが全然違い、涼しいと感じるほどだった。
疲労が抜けて復活したグリードが俺たちの帰還に気が付いたのか飲み物を乗せたプレートを持って現れた。
「あ、ジンさんたちお帰りなさヒッ!」
全ての言葉を言い終える前に狼獣人と猫獣人の2人が携えていた武器を抜き放ちグリード目掛けて斬り掛かる。
しかし、その行動に気が付いた俺と影光が即座に2人が抜いた剣を拳と刀で受け止め、アインや他の仲間たちが銃口と短剣を突き付ける。
「おい、これはなんの真似だ」
突然仲間を斬り殺そうとする連中に何も感じ訳は無く、憤りを感じながらも冷静な脳で考え出した問いかけは憤りの籠った低音の声音で発していた。
「お前らこそ、どうして魔物が入り込んでいるにも拘わらず倒そうとしない!」
と、狼獣人が邪魔された事に腹を立てて言い返して来る。
魔物だと……確かにグリードの顔は強面で幼子が見れば泣き出すレベルだし、身長も3メートル強と人間の倍近い。まさかそれだけでオーガと勘違いしてるんじゃないだろうな。ほら見ろ魔物と誤解されてグリードの奴が落ち込んでしまったじゃねぇか!
今にも戦闘が勃発しても可笑しくない緊張感が漂う。
そんな空気をぶち壊したのは俺でも無ければフリーダムメンバーでもない。
フードを目深に被った少女だった。
「双方武器を収めよ!」
そう、高らかに言い放つ。
その言葉に俺は拳を引っ込める。それを見た仲間たちも自分の武器を収めていく。
しかし狼獣人と猫獣人の2人は武器を下ろそうとしない。
「お前たちはどうして武器を下ろさない。余は武器を収めよと申したはずだが?」
とフードの隙間からその黒い角膜に縦長の紅い瞳孔を覗かせて質問する。いや、もはやこれは尋問に近いと言うべきだろう。
「姫様、何を言うのですか!魔物を目の前にして武器を収める事などできません!」
と狼獣人は言葉を返す。
そんな彼の言葉に姫様と呼ばれた少女は呆れたのか大きく嘆息する。
「はぁ~、お前たちは馬鹿にも程があるであろう。萩之介と蝶麗が武器を抜くどころか警戒すらしておらぬと言うのにどこに魔物が居ると言うのだ!」
「そ、それは……」
将軍と呼ばれていた萩之介。それと萩之介と同等の力を持つエルフ。蝶麗さんって言うのか、良い名前だ。じゃなくて!これまでの会話である程度分かった。
きっと真ん中のフードを目深に被った少女がどこかの国の王族、もしくは王族の親戚かなにかなんだろう。で、他の連中がそんな彼女の護衛で間違いないだろう。将軍て呼ばれた萩之介と同等の力を持つ蝶麗さんも将軍と言う役職で間違いない。
そんな2人が武器を抜いていないのだから2人はグリードが俺たちの仲間である事を即座に理解したに違いない。ま、どこの国ってのが問題だが、多分間違いなくダンジョンがあるヤマト皇国の皇族かその親戚で間違いないだろう。
その事に気が付いたのは俺だけでなく影光やアインは気づいているだろう。他の連中は……ヘレンは頭の中が精神年齢と一緒なので五分五分だろう、アリサは多分分かっている……多分。クレイヴは完全に気付いているようだが、興味なさげだな。グリードは……気付いた以前に話も聞いていないみたいだ。未だに落ち込んで自分の世界の中のようだからな。
ま、そんな事は後で聞くとして今はさっさとこの状況を早く納めなければ。
と、思ったがその心配もなさそうだ。
「汝らいい加減に剣を収めぬか!ひめじゃなくて綾香殿が仰っておるのだぞ!」
と萩之介が憤りを露にして命令する。
流石に綾香ちゃんと萩之介に止められては従うしかないと判断したらしく、渋々武器を収める2人。
そんな2人の間を割って抜けて来た綾香ちゃんは、
「この度は余の仲間が大変な失礼な事をした。誠に申し訳なく思っている。すまない」
と頭を下げた。
そんな彼女に萩之介含め全員が慌てた様子になる。
「ひ……綾香殿が頭を下げる必要はありませんぞ!」
「そうですよ!」
「余の仲間が仕出かした不始末は余の不始末である。ならば余が謝るのが通りであろう。勿論ソナタ等も謝るのだ」
と言った綾香ちゃんの言葉に全員で頭を下げて謝罪して来た。
なんだ、この劇のような展開は。
「ま、誤解も解けたようだからな。俺たちは問題ないが、グリードには後で別に謝っておいてくれ」
「分かった」
と綾香ちゃんが代表して返事をした。
未だに顔は見えないが声と身長からして少女で間違いないだろう。だけどそれにしては人が出来過ぎていて内心驚いている。
はぁ、出来ればこの姿をヘレンや特にアインに見習って欲しいところだぜ。
「蛆虫も見習って欲しいですね」
と横でアインが呟く。
「それは俺のセリフだ!このポンコツメイド!」
「ほぉ~、またこの私を侮辱致しましたね。良いでしょう、殺して上げます!」
っと俺たちは互いに睨み合う。
「こら止めろ!人様の前で!」
と俺とアインの口論を影光が仲裁に入る。
普段は殆ど仲裁なんてしない影光だが、流石に知り合いの前で恥ずかしかったのかもしれないな。
影光には少し悪い事をしたと思った俺は喧嘩するのを止めてキャンプチェアに座り、グリードが用意してくれていた飲み物をプレートから勝手に取って飲む。
「クゥ~!」
キンキンに冷やされていたオレンジジュースは酷暑の下での戦闘の後だと格別に美味く、思わず声が漏れる。
これがビールならもっと最高なんだが、流石に魔物が生息するこの場所で酒を飲むわけにもいくまい。ビール1本程度で酔いはしないが、万が一という事もあるからな。
そんな俺の横でグリードに頭を下げている狼獣人と猫獣人の2人。どことなくまだ警戒はしているようだが、グリードの対応を見て魔物では無い事をちゃんと理解したようだ。
ようやく落ち着いた俺たちは輪になるようにしてキャンプチェアに座る。
え?萩之介たちのキャンプチェアはどうしたのかって?あ、それなら問題ない。どうやら俺たちと同様でダンジョン攻略のためにちゃんと準備していたみたいだぞ。
どうやら蝶麗さんは俺と同じでアイテムボックスのユニークスキル持ちのようだ。
自分以外のアイテムボックス持ちに会うのは初めてで少し驚いている。え?スヴェルニ王国に居た時に迷い人に会っているだろうって?
確かにアイテムボックスのユニークスキルを必ず持っていると言われる迷い人や送り人には会っているけど、こうして目の前で使っているところを見たのは初めてだ。
だから他人が使う処を見るとやはり少し驚きを感じずにはいられなかった。
ま、そんな感じで現在俺たちはキャンプチェアに座っているわけだよ。
グリードが用意したオレンジジュースを美味しそうに飲む綾香ちゃんたち。そんな彼女たちが心が落ち着いた瞬間を見計らって自己紹介する事にした。
「それじゃ改めて名乗らせて貰うとしよう。俺は鬼瓦仁。ベルヘンス帝国帝都レイノーツで『フリーダム』ってギルドのギルドマスターをしている冒険者だ。で、コイツは銀、俺の家族だ。でコイツ等が」
そう言って隣座るアインに視線を向けた。
「初めまして、アインと申します。ギルド『フリーダム』に属している冒険者です」
となんとも簡素に自己紹介を終えた。相手に興味が無いからと言って自己紹介を適当に済ませただろ。
ま、俺も人の事言えないレベルの自己紹介だったけど。
次にヘレン、アリサ、クレイヴ、グリードの順に自己紹介を行い最後に影光の番がやって来た。
「拙者は藤堂影光である。他の者同様にギルド『フリーダム』に所属する冒険者だ。よろしくの」
と言ってオレンジジュースの入ったコップを傾けるのであった。
やはり影光はこの国では有名人らしく、俺たちの時とは違い驚きの表情を見せていた。
さっきグリードに襲い掛かった狼獣人と猫獣人の2人なんてやっぱり!みたいな嬉しそうな表情で影光の事を見ているからな。
俺たちフリーダムメンバーの自己紹介を終え、次は萩之介たちの番になり最初に自己紹介をしたのは綾香ちゃんだった。
「では改めて名乗らせて貰うぞ」
そう言って目深に被っていたフードを取った綾香ちゃん。
黒い光沢のようにキラキラと輝くストレートの長髪が靡き。
凹凸の少ない顔だがそれでも整った顔立ちに黒い角膜に縦長の紅い瞳孔。まるでカラコンでもしてるのかと思うほどだが、それ以上にとてつもない美少女だ。
シャルロットも美少女だったが、彼女はまた別の美少女だ。
言うなればシャルロットは洋の美少女で綾香ちゃんは和の美少女って感じだ。間違いなく将来はとてつ綺麗な大和撫子になるだろう。っと危ない危ないまた自分だけの世界に入り過ぎるところだった。
「余はヤマト皇国第63代帝の4番目の子、土御門綾香である」
と堂々と名乗ったのである。
突然の事に萩之介たちは一瞬固まるが直ぐに我に戻ると慌ただしく綾香ちゃんを囲むようにして質問していた。
「ひ……綾香殿貴女は何を言っているのか分かっておいでなのですか!」
「萩之介の言う通りです!」
と蝶麗さんまで驚き隠せない表情で問い詰めていた。これはこれで面白いものが見れたし止めなくて良いか。
「余とて最初は隠すつもりであったが、あれだけ自分たちの正体を隠してますよ、アピールをすればバレていると考えて当然であろう」
思い当たる節があり過ぎて全員が黙り込んでしまう。
ま、そうだろうな。姫様だの、将軍だのだけでもアウトなのにリーダーの萩之介が綾香ちゃんだけに方針を訊いている時点で怪しいからな。
と影光が提案する。
一応俺がフリーダムのトップの筈なんだがな。ま、別に急ぐ攻略でもないし、悪い奴らでもなさそうだから俺は別に構わないが。
「それはとてもありがたい提案ではありますが、某だけの判断では決めかねますので」
俺も含め影光も直ぐに了承すると思っていたため、意外な返答に少し驚いていた。
先ほど狼獣人の男に将軍と呼ばれていたし、先ほどの戦闘でも指示を出していたからてっきりリーダーかと思ったんだがな。てか将軍って二つ名かあだ名か?似合い過ぎだな。
そんな下らない事を考えていると少女のような可愛らしい声が発せられた。
「良いぞ」
声の主を視線で辿るとそこにはフードを目深に被った小柄な少女?が立っていた。
確か……クレイヴが治癒魔法を使うと言っていた奴だよな?
「しかしひっ……いえ、綾香殿はそれで良いのですか?」
と、不安げに確認を取る萩之介。
ひってそんなに恐怖するような存在なのか?それとも恐怖してしまうオーラでも出していたのか?
だけど綾香って名前なのか。それが分かっただけでも今は良いか。話すときに名前が分からないと不便だしな。
「余は良いと申しておるのだぞ」
「畏まりました。兄弟子、ではお言葉に甘えます」
申し訳なさげに萩之介はそう答えた。
「構わないぞ」
だからそれを判断するのは俺の筈なんですけど!
こうして俺たちはアインと合流してからヘレンやグリードたちが待つ野営地へと移動した。
俺や影光、アインだけならば数分と掛からぬうちに野営地へと到着しただろうが、人数が増えた事でどうしても移動スピードが落ちてしまう。
ましてや砂漠地帯。
ある程度歩き慣れたとは言え、野営地に到着するまでには砂丘を1つ越えなければならないため15分弱もの時間が掛かってしまった。
ようやく野営地に到着すると、遺跡の柱にロープでつながれた天幕が張られており日陰の部分も増え、中央を食事したり寛ぐ共有スペースとして囲むように大きなテントが3つ設置されていた。
まさに休むのに快適な野営地が完成していたのである。きっとこれ以上望むのは罰が当たると言われてもおかしくないだろう。
「なんと、これほど見事な野営地がダンジョン内に築き上げるとは……」
なんてフードを目深に被った少女?が呟いているが仲間の行いを褒められるのはやはり嬉しいものだな。
仲間が褒められた事に少し嬉しく感じながら天幕の下に入ると暑さが全然違い、涼しいと感じるほどだった。
疲労が抜けて復活したグリードが俺たちの帰還に気が付いたのか飲み物を乗せたプレートを持って現れた。
「あ、ジンさんたちお帰りなさヒッ!」
全ての言葉を言い終える前に狼獣人と猫獣人の2人が携えていた武器を抜き放ちグリード目掛けて斬り掛かる。
しかし、その行動に気が付いた俺と影光が即座に2人が抜いた剣を拳と刀で受け止め、アインや他の仲間たちが銃口と短剣を突き付ける。
「おい、これはなんの真似だ」
突然仲間を斬り殺そうとする連中に何も感じ訳は無く、憤りを感じながらも冷静な脳で考え出した問いかけは憤りの籠った低音の声音で発していた。
「お前らこそ、どうして魔物が入り込んでいるにも拘わらず倒そうとしない!」
と、狼獣人が邪魔された事に腹を立てて言い返して来る。
魔物だと……確かにグリードの顔は強面で幼子が見れば泣き出すレベルだし、身長も3メートル強と人間の倍近い。まさかそれだけでオーガと勘違いしてるんじゃないだろうな。ほら見ろ魔物と誤解されてグリードの奴が落ち込んでしまったじゃねぇか!
今にも戦闘が勃発しても可笑しくない緊張感が漂う。
そんな空気をぶち壊したのは俺でも無ければフリーダムメンバーでもない。
フードを目深に被った少女だった。
「双方武器を収めよ!」
そう、高らかに言い放つ。
その言葉に俺は拳を引っ込める。それを見た仲間たちも自分の武器を収めていく。
しかし狼獣人と猫獣人の2人は武器を下ろそうとしない。
「お前たちはどうして武器を下ろさない。余は武器を収めよと申したはずだが?」
とフードの隙間からその黒い角膜に縦長の紅い瞳孔を覗かせて質問する。いや、もはやこれは尋問に近いと言うべきだろう。
「姫様、何を言うのですか!魔物を目の前にして武器を収める事などできません!」
と狼獣人は言葉を返す。
そんな彼の言葉に姫様と呼ばれた少女は呆れたのか大きく嘆息する。
「はぁ~、お前たちは馬鹿にも程があるであろう。萩之介と蝶麗が武器を抜くどころか警戒すらしておらぬと言うのにどこに魔物が居ると言うのだ!」
「そ、それは……」
将軍と呼ばれていた萩之介。それと萩之介と同等の力を持つエルフ。蝶麗さんって言うのか、良い名前だ。じゃなくて!これまでの会話である程度分かった。
きっと真ん中のフードを目深に被った少女がどこかの国の王族、もしくは王族の親戚かなにかなんだろう。で、他の連中がそんな彼女の護衛で間違いないだろう。将軍て呼ばれた萩之介と同等の力を持つ蝶麗さんも将軍と言う役職で間違いない。
そんな2人が武器を抜いていないのだから2人はグリードが俺たちの仲間である事を即座に理解したに違いない。ま、どこの国ってのが問題だが、多分間違いなくダンジョンがあるヤマト皇国の皇族かその親戚で間違いないだろう。
その事に気が付いたのは俺だけでなく影光やアインは気づいているだろう。他の連中は……ヘレンは頭の中が精神年齢と一緒なので五分五分だろう、アリサは多分分かっている……多分。クレイヴは完全に気付いているようだが、興味なさげだな。グリードは……気付いた以前に話も聞いていないみたいだ。未だに落ち込んで自分の世界の中のようだからな。
ま、そんな事は後で聞くとして今はさっさとこの状況を早く納めなければ。
と、思ったがその心配もなさそうだ。
「汝らいい加減に剣を収めぬか!ひめじゃなくて綾香殿が仰っておるのだぞ!」
と萩之介が憤りを露にして命令する。
流石に綾香ちゃんと萩之介に止められては従うしかないと判断したらしく、渋々武器を収める2人。
そんな2人の間を割って抜けて来た綾香ちゃんは、
「この度は余の仲間が大変な失礼な事をした。誠に申し訳なく思っている。すまない」
と頭を下げた。
そんな彼女に萩之介含め全員が慌てた様子になる。
「ひ……綾香殿が頭を下げる必要はありませんぞ!」
「そうですよ!」
「余の仲間が仕出かした不始末は余の不始末である。ならば余が謝るのが通りであろう。勿論ソナタ等も謝るのだ」
と言った綾香ちゃんの言葉に全員で頭を下げて謝罪して来た。
なんだ、この劇のような展開は。
「ま、誤解も解けたようだからな。俺たちは問題ないが、グリードには後で別に謝っておいてくれ」
「分かった」
と綾香ちゃんが代表して返事をした。
未だに顔は見えないが声と身長からして少女で間違いないだろう。だけどそれにしては人が出来過ぎていて内心驚いている。
はぁ、出来ればこの姿をヘレンや特にアインに見習って欲しいところだぜ。
「蛆虫も見習って欲しいですね」
と横でアインが呟く。
「それは俺のセリフだ!このポンコツメイド!」
「ほぉ~、またこの私を侮辱致しましたね。良いでしょう、殺して上げます!」
っと俺たちは互いに睨み合う。
「こら止めろ!人様の前で!」
と俺とアインの口論を影光が仲裁に入る。
普段は殆ど仲裁なんてしない影光だが、流石に知り合いの前で恥ずかしかったのかもしれないな。
影光には少し悪い事をしたと思った俺は喧嘩するのを止めてキャンプチェアに座り、グリードが用意してくれていた飲み物をプレートから勝手に取って飲む。
「クゥ~!」
キンキンに冷やされていたオレンジジュースは酷暑の下での戦闘の後だと格別に美味く、思わず声が漏れる。
これがビールならもっと最高なんだが、流石に魔物が生息するこの場所で酒を飲むわけにもいくまい。ビール1本程度で酔いはしないが、万が一という事もあるからな。
そんな俺の横でグリードに頭を下げている狼獣人と猫獣人の2人。どことなくまだ警戒はしているようだが、グリードの対応を見て魔物では無い事をちゃんと理解したようだ。
ようやく落ち着いた俺たちは輪になるようにしてキャンプチェアに座る。
え?萩之介たちのキャンプチェアはどうしたのかって?あ、それなら問題ない。どうやら俺たちと同様でダンジョン攻略のためにちゃんと準備していたみたいだぞ。
どうやら蝶麗さんは俺と同じでアイテムボックスのユニークスキル持ちのようだ。
自分以外のアイテムボックス持ちに会うのは初めてで少し驚いている。え?スヴェルニ王国に居た時に迷い人に会っているだろうって?
確かにアイテムボックスのユニークスキルを必ず持っていると言われる迷い人や送り人には会っているけど、こうして目の前で使っているところを見たのは初めてだ。
だから他人が使う処を見るとやはり少し驚きを感じずにはいられなかった。
ま、そんな感じで現在俺たちはキャンプチェアに座っているわけだよ。
グリードが用意したオレンジジュースを美味しそうに飲む綾香ちゃんたち。そんな彼女たちが心が落ち着いた瞬間を見計らって自己紹介する事にした。
「それじゃ改めて名乗らせて貰うとしよう。俺は鬼瓦仁。ベルヘンス帝国帝都レイノーツで『フリーダム』ってギルドのギルドマスターをしている冒険者だ。で、コイツは銀、俺の家族だ。でコイツ等が」
そう言って隣座るアインに視線を向けた。
「初めまして、アインと申します。ギルド『フリーダム』に属している冒険者です」
となんとも簡素に自己紹介を終えた。相手に興味が無いからと言って自己紹介を適当に済ませただろ。
ま、俺も人の事言えないレベルの自己紹介だったけど。
次にヘレン、アリサ、クレイヴ、グリードの順に自己紹介を行い最後に影光の番がやって来た。
「拙者は藤堂影光である。他の者同様にギルド『フリーダム』に所属する冒険者だ。よろしくの」
と言ってオレンジジュースの入ったコップを傾けるのであった。
やはり影光はこの国では有名人らしく、俺たちの時とは違い驚きの表情を見せていた。
さっきグリードに襲い掛かった狼獣人と猫獣人の2人なんてやっぱり!みたいな嬉しそうな表情で影光の事を見ているからな。
俺たちフリーダムメンバーの自己紹介を終え、次は萩之介たちの番になり最初に自己紹介をしたのは綾香ちゃんだった。
「では改めて名乗らせて貰うぞ」
そう言って目深に被っていたフードを取った綾香ちゃん。
黒い光沢のようにキラキラと輝くストレートの長髪が靡き。
凹凸の少ない顔だがそれでも整った顔立ちに黒い角膜に縦長の紅い瞳孔。まるでカラコンでもしてるのかと思うほどだが、それ以上にとてつもない美少女だ。
シャルロットも美少女だったが、彼女はまた別の美少女だ。
言うなればシャルロットは洋の美少女で綾香ちゃんは和の美少女って感じだ。間違いなく将来はとてつ綺麗な大和撫子になるだろう。っと危ない危ないまた自分だけの世界に入り過ぎるところだった。
「余はヤマト皇国第63代帝の4番目の子、土御門綾香である」
と堂々と名乗ったのである。
突然の事に萩之介たちは一瞬固まるが直ぐに我に戻ると慌ただしく綾香ちゃんを囲むようにして質問していた。
「ひ……綾香殿貴女は何を言っているのか分かっておいでなのですか!」
「萩之介の言う通りです!」
と蝶麗さんまで驚き隠せない表情で問い詰めていた。これはこれで面白いものが見れたし止めなくて良いか。
「余とて最初は隠すつもりであったが、あれだけ自分たちの正体を隠してますよ、アピールをすればバレていると考えて当然であろう」
思い当たる節があり過ぎて全員が黙り込んでしまう。
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タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
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