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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第八十四話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ⑮
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そんな愛莉の願いが聞き届けられたのか、なんとも言えない気まずい雰囲気を壊したのは影光だった。
「蝶麗、道場には顔を出しているか?」
「いえ……」
「そうか……」
再び、沈黙が訪れる。
(え、終わり!?他にも話す事あるでしょ!)
あまりにも短い会話に愛莉は内心ツッコミを入れる。
2人がどうして会話をしないのか愛莉には分からない。
同じ道場の出と言う事以外なにも知らないのだ。
それもそのはずで、影光の事は武勇伝として噂で聞く程度でそれ以上の事は何も知らないし、調べようと思った事は一度も無いからだ。
蝶麗の事は影光以上に知ってはいるが、それは将軍と補佐と言う関係のため殆ど一緒に行動しているからだ。
しかし愛莉が知っているのは蝶麗の仕事をする姿だけで、彼女自身の過去を知っている訳ではない。なにより蝶麗は自分の事を他人に話すタイプでは無いからだ。
そのため愛莉が知る蝶麗という女性は寡黙なキャリアウーマンと言う感じだ。
だからこそ昔の知り合いに会ったら雑談でもすると思っていた愛莉にとって永遠と続きそうな沈黙に気分が悪くなりそうであった。
軍人になって厳しい訓練や危険な戦場ですら乗り越えて来た彼女だがは流石にこの状況を打開する方法は知らなかった。
結局、酷暑にも拘わらず淀んだ空気が漂うこの状況が薄れたのは探索を開始して15分が経って魔物をようやく発見出来た時だった。
いつもなら鬱陶しいと感じていた魔物も今回ばかりは救世主と感じた愛莉であった。
************************
俺とアリサは砂漠角熊の群れへと突撃していた。
転ばないよう砂丘を駆け下りると同時に俺は1%だけ力を開放する。
(これだぜ。ジンの大旦那から突然湧き出るような力。フリーダムに入って数か月だがこの感覚だけは未だになれぇな)
アリサが俺に視線を向けて来るが、大したことではなさそうだから、気にせず砂漠角熊の群れへと向かう。
俺たちの殺気を感じ取ったのか砂漠角熊が俺たちに殺気を向けて来る。
ああ、それで良い。最初から逃走一択なんて面白味の欠片もないからな。
「アリサ、お前はそこで止まれ、合図したら撃ちまくれ!」
「了解だ、ジンの大旦那」
いい加減その呼び名を変えたらどうだ。普段は良いかもしれないが、戦闘中だと言いづらいとしか思えないんだが。
そんな事を思いながら俺は先頭集団の砂漠角熊を無視して一気に駆け抜け群れの反対側まで移動した。
人数も少ないこの状況で一々迂回して回り込むなんて面倒な事するわけねぇだろ。
「それじゃ、ちゃっちゃと終わらせるか!」
俺はアリサに合図を送りさっそく戦闘を開始した。
ダダダダダと群れの反対から聞こえて来る銃声だが、当然俺の方には飛んでこないよう射線は切ってあるし、アリサもそこら辺の事は分かっているだろう。ま、たまに流れ弾が飛んでくる事もあるが、当たった事は無いので今のところ問題はない。
アリサが使用する魔導軽機関銃はRPK‐47に似た形の銃だ。
乱射魔のアリサは当然バナナ型のマガジンではなく、75発も入るドラムマガジンが装着されている。
5.45x39mmの小口径高速弾は当然魔術の刻印が施されており威力、貫通力、スピード、強度の全てが強化されている。
どれだけ強靭の毛皮があったとしてもお前ら程度じゃ、アリサの弾丸の雨に耐えられるわけがない。
だからこそ俺は自分の戦闘に集中できる。
後ろの足で立ち上がった砂漠角熊は鋭利な爪の生えた右前足で薙ぎ払うように攻撃するが難なく躱し、手突で胸を貫いて絶命させる。
倒れる仲間を見て激情した一体が即座に額から生えた角を突き出して突進してくるが、躱し間際に手刀で首を一刀両断する。
――弱い。
戦闘を始める前から分かってはいた。
アリサが楽勝と言う程度だから期待もしてはいなかった。
だがそれでも煉獄大迷宮と呼ばれるだけの実力のある魔物が跋扈しているかと思ったがあまりにも期待外れだ。
少しは楽しめるかと思っていた俺だったが、その期待は内側にある熱が冷めきるのと同時に即座に捨てて、ただの作業のように砂漠角熊を屠って行く。
気が付くと10分も経たないうちに20体強の砂漠角熊が全滅した。
ま、一体も逃す事無く討伐出来た事は良かったが、あまりにも面白味の掛ける戦いだったな。いや、これは作業だから面白くなくて当然か。
落胆する俺に地面に転がる死体の隙間を縫ってアリサがやって来た。
「やっぱり楽勝だったな」
「ああ、面白くもなんともなかった」
そんな俺の言葉にアリサは呆れて嘆息すると口を開いた。
「ジンの大旦那が強い相手を求めてるのは知ってるけど、低階層に期待するのは間違いだぜ」
まるで俺が悪いみたいな言い回しで説教されてしまったが、別に良い。
アリサが正しいのは間違いないのでから。
「それより、一服しようぜ」
アリサはそう言って自分が普段吸っている煙草を渡して来るが、
「お前、俺が普段吸ってる煙草の3倍以上のタールを俺に吸わせる気か?」
「ジンの大旦那なら余裕だろ?」
確かに俺は称号のお陰で煙草を吸っても鴈にはならない体質になったが、流石にそれは無理だ。
「遠慮する。やっぱり普段吸いなれた煙草が良い」
「ちぇっ、そうかよ」
なぜか不貞腐れてしまったが、気にする事もなく俺たちは煙草に火を着けて一服する。
早く死体と化した砂漠角熊を処理しないと他の魔物が来るかもしれないが、俺たちからしてみればそれは逆にありがたい事なので別に構わない。
ま、この暑さだし腐るかもしれないが、一服するぐらい構わないだろう。どうせ俺のアイテムボックスに放り込むだけだしな。
こう俺たちの素材集めと探索は続いて行った。
他の連中から緊急要請の連絡は一度も無いまま昼食の時間になったので俺とアリサは野営地を設置した遺跡へと戻った。
すると既に他の連中も戻ってきており、キャンプチェアに座って寛いでいた。
そんななか1人だけ疲労感を隠せず俯いている人物が居たので思わず俺は話しかけた。
「愛莉、どうしたんだ?」
「うぅ……ジンさん……」
自分を呼ぶ俺の声に見上げた愛莉は救世主でも現れたかのような表情をしていた。
愛莉の表情を見た瞬間、これは間違いなく面倒臭い事だ。と直感で感じ取り、8割方後悔した。
なら、こうゆう時の対処法はただ1つ。
「怪我は無いようだな、良かった。じゃぁな」
何もなかったようにこの場から立ち去る事だ。
「待ってください!逃げないでください!話を聞いて下さい!」
と服を握りしめて懇願して来た。
「断る!俺は人の相談に乗れるほど人生経験が豊富じゃないし、慰めた事なんてないからな」
「それでも良いです!だから話を聞いて下さい。この不満を誰かに聞いて貰いたいんです!」
それは相談でも何でもない。ただの愚痴だろ!
「それなら同じ軍人の小太郎か萩之介あたりにでも訊いて貰えば良いだろ!」
いい加減離せ!服が伸びてしまうだろ!てか、思った以上に握力あるな。
「あんな軍人馬鹿たちに話したろ頃で、ま、仕方がないな。で終わるに決まってるじゃないですか!」
色々あったのは間違いないんだろうが、平然と同僚と上司をディスるのは止めた方が良いぞ。
「なら、同じ女性に話せば良いだろ!俺じゃなくても良い筈だ!」
「だって誰も私に話しかけてこないし、私から相談しても絶対興味ないでしょ!」
確かに、アインは銀以外の事にまったく興味無しだろうし、アリサの場合は「そんなもん、殴ってどうにかしろ」とか言いそうだし、ヘレンに至っては「なんとかなるのだ~」って短絡的な事しか言わないだろうかなら。
「なら、綾香ちゃんに相談すれば良いだろ。彼女なら相談に乗ってくれるだろうし」
「無理です!無理です!皇女様に相談なんて恐れ多くて無理です!」
ま、そうだよな。
だからと言って俺じゃなくても良いだろうに。
「ああ、面倒臭いな……あ」
「今、面倒臭いって言いました!?言いましたよね!」
あまりにもしつこい愛莉の態度に思わず本心が口から漏れてしまう。
「き、気のせいだ。だから落ち込むな」
「そんな言葉でどうにかなるとほんとに思ってるんですか!」
ですよねー。
本心を口に出してしまった事で結局俺は愛莉の愚痴を聞く事になってしまった。
因みに愚痴の内容はとてもくだらない内容だった事は言うまでもなく、一番大変だったのは愚痴に出て来る内容の本人たちがすぐ傍に居るって事だ。
ま、それだけ愛莉が愚痴りたくなるほど憂鬱な空気が漂っていたって事なんだろう。
昼食を終えたあと愛莉が蝶麗さんにこっぴどく説教された事は言うまでもない。
お腹も膨れ、愛莉への説教も終わったろ頃で朝の成果を報告する事にした。
素材集めに出ていた組から報告するとしよう。
俺とアリサはランクBの砂漠角熊を23体に、砂大蛇が1体。
今回討伐した砂大蛇は全長13メートル強、胴囲3メートルの大蛇だ。だが、これでも平均的なサイズらしい。
砂大蛇はその巨躯から平然と人間を丸呑みする事が可能であり、長い牙には強力な神経毒が分泌されているためランクA+指定された魔物である。
で、次に討伐したのが砂鱏である。
砂鱏は海に生息している鱏と姿かたちがとても似ており、生存方法も似ている。
砂を被り身を潜め間合いに入った獲物を仕留めて生存しているが、尾の数である。
誰もが知る鱏の尾の数は1本だが、砂鱏は3本生えており、全て別種の毒性の針が生えている。
そして何よりそのサイズがこれまたデカイ。
今回討伐した砂鱏は4体だが、全部が4メートル以上のサイズだ。
このサイズだと1体でランクB-の強さと言う事だ。そこまで強くは無かったけどな。
アリサに聞いた話だとこれまでで討伐された砂鱏は15メートル強だったそうだ。もうそのサイズだと普通に乗って空が飛べそうだ。あ、因みに砂鱏は空を飛ぶことは出来ない。移動手段は砂漠の中を泳ぐようにして移動しているらしい。ま、俺が実際に見たわけじゃないから本当かどうか知らないけど。
ま、そんな感じで俺とヘレンの報告は終了したわけで次はクレイヴとヘレンの組に移った。
クレイヴとヘレンが討伐した魔物は砂百足と呼ばれる全長5メートルのムカデの形をした魔物で。顎の両端から生えている牙には猛毒があり、噛まれると1分足らずで死に至るらしい。
またその外骨格はとても硬く、普通の銃弾では貫通どころか傷すらつかないとか。そのためランクB-に指定されている。ま、魔導弾を使用するクレイヴに取って大した敵では無かったようだ。
その結果、砂百足を3体討伐していた。
で、次に討伐したのは砂大鷲と呼ばれている全長4メートルの大鷲である。
本来大型猛禽類と言うのは群れて行動する事はないが、砂大鷲は群れて生活する鳥類型の魔物である。
その巨躯を最大に活かしたスピードと鋭い爪で敵を斬り割き、群れによる連携で竜巻すら起こすことが出来る魔物のため、1体でランクBであり、群れ全体ではランクA指定された魔物である。
で、最後は影光、蝶麗さん、愛莉の3人はと言うと、群れから逸れた砂漠棘蟲が1体のみだった。これは酷い。
なんとも言えない淀んだ空気に俺たちはただ引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。
どうやら魔物たちも影光たちから淀んだ空気を感じ取ったんだろうな。
そんな事を思いながらも俺たち素材集め組の報告は終了した。
因みにクレイヴ、ヘレンたちが討伐して持ち帰って来た素材は俺のアイテムボックスにきちんと収納したので腐る事はない。
ほんとアイテムボックスって便利だよな。
「それじゃアイン、新たな手掛かりがあったか教えてくれ」
気を取り直す意味でも俺は早速銀を撫でるアインに視線を向けて問うた。
「はい、昨夜見つけた遺跡に刻まれた文章に出て来た支配者。その支配者と思われる魔物の正体が分かりました」
その一言に俺たちは驚きで一瞬思考が停止した。
「蝶麗、道場には顔を出しているか?」
「いえ……」
「そうか……」
再び、沈黙が訪れる。
(え、終わり!?他にも話す事あるでしょ!)
あまりにも短い会話に愛莉は内心ツッコミを入れる。
2人がどうして会話をしないのか愛莉には分からない。
同じ道場の出と言う事以外なにも知らないのだ。
それもそのはずで、影光の事は武勇伝として噂で聞く程度でそれ以上の事は何も知らないし、調べようと思った事は一度も無いからだ。
蝶麗の事は影光以上に知ってはいるが、それは将軍と補佐と言う関係のため殆ど一緒に行動しているからだ。
しかし愛莉が知っているのは蝶麗の仕事をする姿だけで、彼女自身の過去を知っている訳ではない。なにより蝶麗は自分の事を他人に話すタイプでは無いからだ。
そのため愛莉が知る蝶麗という女性は寡黙なキャリアウーマンと言う感じだ。
だからこそ昔の知り合いに会ったら雑談でもすると思っていた愛莉にとって永遠と続きそうな沈黙に気分が悪くなりそうであった。
軍人になって厳しい訓練や危険な戦場ですら乗り越えて来た彼女だがは流石にこの状況を打開する方法は知らなかった。
結局、酷暑にも拘わらず淀んだ空気が漂うこの状況が薄れたのは探索を開始して15分が経って魔物をようやく発見出来た時だった。
いつもなら鬱陶しいと感じていた魔物も今回ばかりは救世主と感じた愛莉であった。
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俺とアリサは砂漠角熊の群れへと突撃していた。
転ばないよう砂丘を駆け下りると同時に俺は1%だけ力を開放する。
(これだぜ。ジンの大旦那から突然湧き出るような力。フリーダムに入って数か月だがこの感覚だけは未だになれぇな)
アリサが俺に視線を向けて来るが、大したことではなさそうだから、気にせず砂漠角熊の群れへと向かう。
俺たちの殺気を感じ取ったのか砂漠角熊が俺たちに殺気を向けて来る。
ああ、それで良い。最初から逃走一択なんて面白味の欠片もないからな。
「アリサ、お前はそこで止まれ、合図したら撃ちまくれ!」
「了解だ、ジンの大旦那」
いい加減その呼び名を変えたらどうだ。普段は良いかもしれないが、戦闘中だと言いづらいとしか思えないんだが。
そんな事を思いながら俺は先頭集団の砂漠角熊を無視して一気に駆け抜け群れの反対側まで移動した。
人数も少ないこの状況で一々迂回して回り込むなんて面倒な事するわけねぇだろ。
「それじゃ、ちゃっちゃと終わらせるか!」
俺はアリサに合図を送りさっそく戦闘を開始した。
ダダダダダと群れの反対から聞こえて来る銃声だが、当然俺の方には飛んでこないよう射線は切ってあるし、アリサもそこら辺の事は分かっているだろう。ま、たまに流れ弾が飛んでくる事もあるが、当たった事は無いので今のところ問題はない。
アリサが使用する魔導軽機関銃はRPK‐47に似た形の銃だ。
乱射魔のアリサは当然バナナ型のマガジンではなく、75発も入るドラムマガジンが装着されている。
5.45x39mmの小口径高速弾は当然魔術の刻印が施されており威力、貫通力、スピード、強度の全てが強化されている。
どれだけ強靭の毛皮があったとしてもお前ら程度じゃ、アリサの弾丸の雨に耐えられるわけがない。
だからこそ俺は自分の戦闘に集中できる。
後ろの足で立ち上がった砂漠角熊は鋭利な爪の生えた右前足で薙ぎ払うように攻撃するが難なく躱し、手突で胸を貫いて絶命させる。
倒れる仲間を見て激情した一体が即座に額から生えた角を突き出して突進してくるが、躱し間際に手刀で首を一刀両断する。
――弱い。
戦闘を始める前から分かってはいた。
アリサが楽勝と言う程度だから期待もしてはいなかった。
だがそれでも煉獄大迷宮と呼ばれるだけの実力のある魔物が跋扈しているかと思ったがあまりにも期待外れだ。
少しは楽しめるかと思っていた俺だったが、その期待は内側にある熱が冷めきるのと同時に即座に捨てて、ただの作業のように砂漠角熊を屠って行く。
気が付くと10分も経たないうちに20体強の砂漠角熊が全滅した。
ま、一体も逃す事無く討伐出来た事は良かったが、あまりにも面白味の掛ける戦いだったな。いや、これは作業だから面白くなくて当然か。
落胆する俺に地面に転がる死体の隙間を縫ってアリサがやって来た。
「やっぱり楽勝だったな」
「ああ、面白くもなんともなかった」
そんな俺の言葉にアリサは呆れて嘆息すると口を開いた。
「ジンの大旦那が強い相手を求めてるのは知ってるけど、低階層に期待するのは間違いだぜ」
まるで俺が悪いみたいな言い回しで説教されてしまったが、別に良い。
アリサが正しいのは間違いないのでから。
「それより、一服しようぜ」
アリサはそう言って自分が普段吸っている煙草を渡して来るが、
「お前、俺が普段吸ってる煙草の3倍以上のタールを俺に吸わせる気か?」
「ジンの大旦那なら余裕だろ?」
確かに俺は称号のお陰で煙草を吸っても鴈にはならない体質になったが、流石にそれは無理だ。
「遠慮する。やっぱり普段吸いなれた煙草が良い」
「ちぇっ、そうかよ」
なぜか不貞腐れてしまったが、気にする事もなく俺たちは煙草に火を着けて一服する。
早く死体と化した砂漠角熊を処理しないと他の魔物が来るかもしれないが、俺たちからしてみればそれは逆にありがたい事なので別に構わない。
ま、この暑さだし腐るかもしれないが、一服するぐらい構わないだろう。どうせ俺のアイテムボックスに放り込むだけだしな。
こう俺たちの素材集めと探索は続いて行った。
他の連中から緊急要請の連絡は一度も無いまま昼食の時間になったので俺とアリサは野営地を設置した遺跡へと戻った。
すると既に他の連中も戻ってきており、キャンプチェアに座って寛いでいた。
そんななか1人だけ疲労感を隠せず俯いている人物が居たので思わず俺は話しかけた。
「愛莉、どうしたんだ?」
「うぅ……ジンさん……」
自分を呼ぶ俺の声に見上げた愛莉は救世主でも現れたかのような表情をしていた。
愛莉の表情を見た瞬間、これは間違いなく面倒臭い事だ。と直感で感じ取り、8割方後悔した。
なら、こうゆう時の対処法はただ1つ。
「怪我は無いようだな、良かった。じゃぁな」
何もなかったようにこの場から立ち去る事だ。
「待ってください!逃げないでください!話を聞いて下さい!」
と服を握りしめて懇願して来た。
「断る!俺は人の相談に乗れるほど人生経験が豊富じゃないし、慰めた事なんてないからな」
「それでも良いです!だから話を聞いて下さい。この不満を誰かに聞いて貰いたいんです!」
それは相談でも何でもない。ただの愚痴だろ!
「それなら同じ軍人の小太郎か萩之介あたりにでも訊いて貰えば良いだろ!」
いい加減離せ!服が伸びてしまうだろ!てか、思った以上に握力あるな。
「あんな軍人馬鹿たちに話したろ頃で、ま、仕方がないな。で終わるに決まってるじゃないですか!」
色々あったのは間違いないんだろうが、平然と同僚と上司をディスるのは止めた方が良いぞ。
「なら、同じ女性に話せば良いだろ!俺じゃなくても良い筈だ!」
「だって誰も私に話しかけてこないし、私から相談しても絶対興味ないでしょ!」
確かに、アインは銀以外の事にまったく興味無しだろうし、アリサの場合は「そんなもん、殴ってどうにかしろ」とか言いそうだし、ヘレンに至っては「なんとかなるのだ~」って短絡的な事しか言わないだろうかなら。
「なら、綾香ちゃんに相談すれば良いだろ。彼女なら相談に乗ってくれるだろうし」
「無理です!無理です!皇女様に相談なんて恐れ多くて無理です!」
ま、そうだよな。
だからと言って俺じゃなくても良いだろうに。
「ああ、面倒臭いな……あ」
「今、面倒臭いって言いました!?言いましたよね!」
あまりにもしつこい愛莉の態度に思わず本心が口から漏れてしまう。
「き、気のせいだ。だから落ち込むな」
「そんな言葉でどうにかなるとほんとに思ってるんですか!」
ですよねー。
本心を口に出してしまった事で結局俺は愛莉の愚痴を聞く事になってしまった。
因みに愚痴の内容はとてもくだらない内容だった事は言うまでもなく、一番大変だったのは愚痴に出て来る内容の本人たちがすぐ傍に居るって事だ。
ま、それだけ愛莉が愚痴りたくなるほど憂鬱な空気が漂っていたって事なんだろう。
昼食を終えたあと愛莉が蝶麗さんにこっぴどく説教された事は言うまでもない。
お腹も膨れ、愛莉への説教も終わったろ頃で朝の成果を報告する事にした。
素材集めに出ていた組から報告するとしよう。
俺とアリサはランクBの砂漠角熊を23体に、砂大蛇が1体。
今回討伐した砂大蛇は全長13メートル強、胴囲3メートルの大蛇だ。だが、これでも平均的なサイズらしい。
砂大蛇はその巨躯から平然と人間を丸呑みする事が可能であり、長い牙には強力な神経毒が分泌されているためランクA+指定された魔物である。
で、次に討伐したのが砂鱏である。
砂鱏は海に生息している鱏と姿かたちがとても似ており、生存方法も似ている。
砂を被り身を潜め間合いに入った獲物を仕留めて生存しているが、尾の数である。
誰もが知る鱏の尾の数は1本だが、砂鱏は3本生えており、全て別種の毒性の針が生えている。
そして何よりそのサイズがこれまたデカイ。
今回討伐した砂鱏は4体だが、全部が4メートル以上のサイズだ。
このサイズだと1体でランクB-の強さと言う事だ。そこまで強くは無かったけどな。
アリサに聞いた話だとこれまでで討伐された砂鱏は15メートル強だったそうだ。もうそのサイズだと普通に乗って空が飛べそうだ。あ、因みに砂鱏は空を飛ぶことは出来ない。移動手段は砂漠の中を泳ぐようにして移動しているらしい。ま、俺が実際に見たわけじゃないから本当かどうか知らないけど。
ま、そんな感じで俺とヘレンの報告は終了したわけで次はクレイヴとヘレンの組に移った。
クレイヴとヘレンが討伐した魔物は砂百足と呼ばれる全長5メートルのムカデの形をした魔物で。顎の両端から生えている牙には猛毒があり、噛まれると1分足らずで死に至るらしい。
またその外骨格はとても硬く、普通の銃弾では貫通どころか傷すらつかないとか。そのためランクB-に指定されている。ま、魔導弾を使用するクレイヴに取って大した敵では無かったようだ。
その結果、砂百足を3体討伐していた。
で、次に討伐したのは砂大鷲と呼ばれている全長4メートルの大鷲である。
本来大型猛禽類と言うのは群れて行動する事はないが、砂大鷲は群れて生活する鳥類型の魔物である。
その巨躯を最大に活かしたスピードと鋭い爪で敵を斬り割き、群れによる連携で竜巻すら起こすことが出来る魔物のため、1体でランクBであり、群れ全体ではランクA指定された魔物である。
で、最後は影光、蝶麗さん、愛莉の3人はと言うと、群れから逸れた砂漠棘蟲が1体のみだった。これは酷い。
なんとも言えない淀んだ空気に俺たちはただ引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。
どうやら魔物たちも影光たちから淀んだ空気を感じ取ったんだろうな。
そんな事を思いながらも俺たち素材集め組の報告は終了した。
因みにクレイヴ、ヘレンたちが討伐して持ち帰って来た素材は俺のアイテムボックスにきちんと収納したので腐る事はない。
ほんとアイテムボックスって便利だよな。
「それじゃアイン、新たな手掛かりがあったか教えてくれ」
気を取り直す意味でも俺は早速銀を撫でるアインに視線を向けて問うた。
「はい、昨夜見つけた遺跡に刻まれた文章に出て来た支配者。その支配者と思われる魔物の正体が分かりました」
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帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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