266 / 274
第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第八十五話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ⑯
しおりを挟む
「そ、それは真か!?」
アインの言葉に一早く返答の言葉を発したのは、信じられないと言う驚きの表情を浮かべた綾香ちゃんだった。
そんな彼女の言葉に対して相変わらずの平然とした顔でアインは「はい」と端的に答えた。
銀を抱き上げたままアインは立ち上がると視線だけ俺たちに向けると作業を行っていた場所へと歩き出した。
ついて来いって事だろうと即座に理解した俺たちは立ち上がり、アインの後ろを付いて行く。
たった数秒歩いたそこは、朝方までは瓦礫の残骸が散らばっていた場所だ。しかし今は綺麗に掃除され、端っこに無造作に積み上げられた瓦礫の山が出来上がっていた。
そんな中央には必要と判断された瓦礫のみがパズルのように並べられていた。
しかし瓦礫同士が綺麗に嵌るわけでも引っ付くわけでもないため、瓦礫と瓦礫の間には隙間があるが、それでもアインが俺たちに見せたかったものがなんなのか、全体的に見れば一目瞭然だった。
「絵なのだ~」
と、可愛らしく俺たちに聞こえる程度の声量で呟くヘレン。
昔の人々が描いた壁画と思しき絵があった。
全部で500ピース以上の瓦礫、それもサイズ、形が違う瓦礫をこの短時間で完成させたものだ。俺どころかここに居る誰にも出来ないだろう。流石はアイン。いや、サイボーグと言うべきか。
「それにしてもこれは……何を意味してるんだ?」
武器を手にした沢山の人が中央の存在を囲むように描かれている。
崇めていると言う感じではない。むしろ中央に描かれた存在に敵意を向けている。そんな感じの絵だ。
そこまでは俺にも分かる。
しかし問題はその中央に描かれた存在だ。
「蛇、蠍、蟹、鷲、龍、熊……か」
「この6種の魔物を倒せって事であろうな」
と萩之介が推測を口にする。
「確かにこの6種を全て倒すのは骨が折れるな」
別に倒すのはそんなに難しい事じゃないだろう。
自信過剰に聞こえるかもしれないが、フリーダムの実力を考えれば難しい事じゃない。
それにSランク、Aランク相当の実力を持つ萩之介たちも居る事だしな。
実際、蛇、鷲、熊は既に倒している。
あと残るは蠍、蟹、龍の3種だけだしな。
だが、問題なのは、
「その居場所だよな~」
と頭を掻きながら俺は憂鬱そうに呟く。
この11階層砂漠エリアの広さがどれ程の物か把握出来ていない現状、どこに生息しているかも分からない状況ではどれだけの時間が経過するのか分かったものじゃない。最悪俺たちが持ってきた食料だけでは足りない可能性だってあるからな。
「そこは気長に探索を繰り返して探すしかないのではないか?」
「そうだよな~」
と、俺の言葉に影光が返事をした。
最悪ダンジョンの外に出れば良いだけだからな。え?外に出れるのかって?
このダンジョンはどうやら他のダンジョンと違い、ダンジョンの外に転移する場所が必ずどの階層、どのエリアにも必ずあるらしい。
だからこそ、このエリアに関しての情報が既に存在しているのだ。
それにしてもほんとこのダンジョン意味が分からないよな。
いきなり魔物のレベルが上がって冒険者たちを仕留めに来たかと思いきやダンジョンの外に繋がる緊急脱出装置まで備わっているなんて、ダンジョンの主は何を考えてるんだ?
「すまぬが、一時でも早く攻略する事は出来ぬか?」
そんな俺たちの会話に綾香ちゃんが陰った表情で言ってくる。
皇族がこんなダンジョンに居る時点で何かあると思っていたが、その時が来たようだ。
勿論、そう思ったのは俺だけじゃなくフリーダムメンバー全員である。アインはどことなく興味なさげではあるが、銀にも関わって来る以上無視できる案件でもないからな。
だが、ここで話を聞くと言う事はヤマト皇国皇族の事情に関わると言う事だ。
正直、一緒に攻略する意図はない。だが一緒に攻略する方がメリットは大きいと言う理由と一緒に行動しているだけの関係に過ぎない。
だからこの場で別行動を取る事だってでき訳だが……正直、この年頃の女の子に申し訳なさそうな顔をされるのは正直辛い。だからと言って即座に良いよとも言える立場に俺は居ない。
なんせ、俺はギルドフリーダムのギルドマスター、相手が王族であろうと一番に考えるのはギルドメンバーの命だから。
「俺たちにも期限はあるが急いでいる訳じゃないし、このダンジョンを制覇したいとも思っていない。だから理由によってはそっちに合わせても構わないと思っているが、どうする?」
と、俺は綾香ちゃんに選択権を委ねる。
だが全ての全権を委ねたわけじゃない。今後一緒に攻略したいのであれば事情を話せと言っているのだ。それどころか事情を話しても一緒に行動するかは分からない。とも言っている。
当然その事に綾香ちゃんだけでなく萩之介たちも気づいている。
そしてその選択権があるのはたった16歳の少女だ。はっきり言って重い選択だ。
もしも俺だったら面倒臭いから嫌だって即座に放り投げているところだろう。
しかし綾香ちゃんはそうはしない。いや、出来ないと言うべきだろう。なんせ彼女は皇族なのだから。
「すまぬが、直ぐには答えられぬ。時間をくれぬか?」
と上目遣いで言ってくる。しかしそこに可愛らしさは一切ない。
「構わねぇよ。俺たちは急いでいるわけじゃないからな。ただそっちが急ぐのであれば早く決断した方が良い」
「分かった」
そう言って綾香ちゃんは蝶麗さんに付き添われ、テントの中に入って行った。
「さて、綾香ちゃんが答えを出すまでに出来るだけ調べるとするか」
「そうですね」
とアインが代表する形で返事をした。
共に行動する事になろうが、別々に行動する事になったとしてもこの時間を使って調べる事にメリットはあるからな。
こうして俺たちは壁画の調査を再開した。
調査を再開して数分、これと言って新たな事が分かったわけでは無かったが、アリサがある事に気が付いた。
「なぁ、アインの姉御。この壁画ってこれで完成なのか?アタイにはまだ続きがあるように感じるんだが」
アリサの言う通り、瓦礫と化した壁画はまだパズルのように組み合わせただけで、絵の周囲は不規則に波打つようにガタガタしていた。
確かに古代の壁画って言うのは言わば歴史書のようなものだ。
つまり実際にあった出来事が絵と描かれている。
しかし壁画を見る限りこの絵はこれで完成しているように見える。
だが、もしもこの壁画が物語の1コマに過ぎないとしたらアリサが言っている事が正しという事になる。
「アイン、アリサが言っている事は本当か?」
「ええ、本当です。ですが、ここにある瓦礫で壁画に関係しそうな物は今目の前にあるこの壁画のみでした」
「そうか」
アインが言うのだから間違いないだろう。となると他の壁画は別の場所にあるのか、既に砂の下に埋もれているかのどちらかだろう。
「となるとやっぱりこの一枚の壁画から新しい手がかりを見つけるしかないか」
憂鬱な気持ちを隠す事もせず俺はそう呟いた。
俺たちは壁画を囲むようにして黙々と調べるが、一向に11階層砂漠エリア攻略に繋がる手がかりが見つからない。
そしていつしか時間が経つにつれて全員の集中力が切れ始めた。
現代の冒険者は頭脳も求められるようになってきたが、それでもまだ頭を使った事が得意とは言えない状況だ。
勿論、よくラノベなのである中世時代の時に比べれば天と地ほどの差があるのは間違いない。それでもどうしてもこういった作業は冒険者にとって苦痛でしかない。ましてやフリーダムメンバーは戦闘特化したメンバーのためどうしても他の冒険者に比べてこういった作業には向いていないのだ。けして脳筋と言うわけではない。
だいたいそんな事口にした瞬間袋叩きにあうのは目に見えているからな。
なので唯一脳筋ではないアインが頼みの綱なわけだが、これまたヤル気のない事。
銀を撫でる事でどうにかモチベーションを維持しているようだが、さっきに比べて撫でる回数やスピードが速くなっているのは目に見えて明らかだった。
サイボーグと言えど飽きるだな。
そう思いながら俺は壁画に目を落とした。
「それにしても傷だらけだな」
そんな事を呟きながら俺は壁画を指先で撫でる。
指先で感じる引っ掛かる感触は時の流れを感じさせる。
気が付くと無意識に絵の方ではなく傷の方をなぞるように撫でていた。
「ん?」
すると、ある不自然さを感じた。
「どうかしのか?」
そんな俺の呟きに気付いたのか影光が問いかる。
しかしまだ確証もない段階では何も言えないので、敢えて無視してその傷に注目して調べてみる。
数分もしないうちにその違和感は確証に変わった。
「やはりだ」
「だから何がだ?」
先ほど無視した事を少し引きずっているのかどことなくその声音に怒気を感じる。悪かったって。
「魔物から伸びてる線。最初は放置された挙句に付いた傷だと思ったんだが、どうやら違う。よく見ると他の魔物からも線が伸びてる」
俺がそう言うと全員が顔を近づけて魔物周辺に視線を集中させる。
「確かに伸びているな」
「伸びているのだ~」
と全員が同じ感想を漏らす。
「これが何を意味するのか俺には分からないが、この線を辿ると……見ての通り壁画の端に辿り着くわけだ」
魔物たちから伸びている線はまるで1つに集約されるように一か所に目掛けて伸びているが、何もない壁画の端だった。
「つまりはアリサが言ったように続きがあるって事か……」
「また行き詰ったのだ~」
と影光やヘレンが呟く。
新しい手がかりが見つかってもこれじゃあまり変わりないのと同じじゃねぇか。
「ですが、1つ分かった事があります」
とアインが銀を撫でながら言った。
「なんだ?」
「この線の先に描かれている存在が支配者なのでしょう」
そうだ……そうだった。壁画に夢中で忘れていたが、俺たちがこの壁画を調べる目的は支配者がどんな奴なのかって事だ。
「この絵が正しいのであれば、支配者は文字通りの支配者なのでしょう」
「つまりは魔物たちの頂点に立つ存在と言う意味ではなく、なんらかの方法で魔物たちを操るって意味か?」
と、俺が質問するとアインは簡潔に「はい」と頷きながら呟いた。
となるとその支配者はあらゆる魔物を支配出来る存在なのか、ここに描かれている魔物だけなのかって事になるが、それは前者だろう。
石板に刻まれた文章にもあった通り森、海、砂漠であろうと支配者なわけだからな。
ただ、支配できる数が複数なのか、単体なのかで変わって来るし、壁画に描かれていた魔物だけを狙って討伐する理由も消えたわけだからな。
「一段と面倒になったな」
俺としては目の前の魔物をぶっ飛ばせればそれで良かったのに、どうしてこうも回りくどいやり方をしなければならないのか、本当に面倒で仕方がない。
だが、一応前には進んだことには間違いない。
「ま、これ以上になにか新しい手がかりが見つかるとも思えないが、調べたい奴は調べて貰っても構わない。それ以外の奴は好きに過ごしてくれ」
そう言って俺は立ち上がり、キャンプチェアの方へと歩き出す。あ~腰が痛い。
キャンプチェアに座って一服していると、俺の隣のキャンプチェアに萩之介が座る。布を限界まで引っ張るような音が聞こえたが大丈夫か?
そんな事を思いながらも俺は気にせず煙草を吸い続けるが、話そうとしない。
ただ座って休憩しているだけのようにも見えるが、そういう雰囲気ではない。どう見たって何か話したそうにしているのは明らかだ。
そんな事を思っていると煙草が吸い終わる。
それと同時に萩之介が口を開いた。
「鬼瓦よ」
どうやら煙草を吸い終わるのを待ってくれていたようだ。律儀なのか真面目な話だからなのか……。
「仁で良い」
俺はそう言う。
「では、仁よ。汝はなぜあのような事を言ったのだ?」
さて、萩之介は何を言いたいのか理解出来ないが、いつの事を指しているのかは分かる。
「俺が言った事に不満でもあるのか?」
「無論。だからこうして汝に問いかけているのだ」
ま、そうだよな。不満がないのなら俺に話しかけて来るわけが無い。
だが、萩之介がどうして不満を持っているのか、と言うよりもどの部分に不満を感じたのか分からない。
「いったい何が不満だったんだ?」
「あのような重大責任な選択をどうして姫殿下に託したのかって事だ」
ああ、そこか。ま、そこ以外ないよな。
だけど、安心した。即座に了承するべきだ。とか言われたら流石の俺も呆れて何も言えなくなっていただろうからな。
ま、そこら辺は流石は将軍と言うべきか。
アインの言葉に一早く返答の言葉を発したのは、信じられないと言う驚きの表情を浮かべた綾香ちゃんだった。
そんな彼女の言葉に対して相変わらずの平然とした顔でアインは「はい」と端的に答えた。
銀を抱き上げたままアインは立ち上がると視線だけ俺たちに向けると作業を行っていた場所へと歩き出した。
ついて来いって事だろうと即座に理解した俺たちは立ち上がり、アインの後ろを付いて行く。
たった数秒歩いたそこは、朝方までは瓦礫の残骸が散らばっていた場所だ。しかし今は綺麗に掃除され、端っこに無造作に積み上げられた瓦礫の山が出来上がっていた。
そんな中央には必要と判断された瓦礫のみがパズルのように並べられていた。
しかし瓦礫同士が綺麗に嵌るわけでも引っ付くわけでもないため、瓦礫と瓦礫の間には隙間があるが、それでもアインが俺たちに見せたかったものがなんなのか、全体的に見れば一目瞭然だった。
「絵なのだ~」
と、可愛らしく俺たちに聞こえる程度の声量で呟くヘレン。
昔の人々が描いた壁画と思しき絵があった。
全部で500ピース以上の瓦礫、それもサイズ、形が違う瓦礫をこの短時間で完成させたものだ。俺どころかここに居る誰にも出来ないだろう。流石はアイン。いや、サイボーグと言うべきか。
「それにしてもこれは……何を意味してるんだ?」
武器を手にした沢山の人が中央の存在を囲むように描かれている。
崇めていると言う感じではない。むしろ中央に描かれた存在に敵意を向けている。そんな感じの絵だ。
そこまでは俺にも分かる。
しかし問題はその中央に描かれた存在だ。
「蛇、蠍、蟹、鷲、龍、熊……か」
「この6種の魔物を倒せって事であろうな」
と萩之介が推測を口にする。
「確かにこの6種を全て倒すのは骨が折れるな」
別に倒すのはそんなに難しい事じゃないだろう。
自信過剰に聞こえるかもしれないが、フリーダムの実力を考えれば難しい事じゃない。
それにSランク、Aランク相当の実力を持つ萩之介たちも居る事だしな。
実際、蛇、鷲、熊は既に倒している。
あと残るは蠍、蟹、龍の3種だけだしな。
だが、問題なのは、
「その居場所だよな~」
と頭を掻きながら俺は憂鬱そうに呟く。
この11階層砂漠エリアの広さがどれ程の物か把握出来ていない現状、どこに生息しているかも分からない状況ではどれだけの時間が経過するのか分かったものじゃない。最悪俺たちが持ってきた食料だけでは足りない可能性だってあるからな。
「そこは気長に探索を繰り返して探すしかないのではないか?」
「そうだよな~」
と、俺の言葉に影光が返事をした。
最悪ダンジョンの外に出れば良いだけだからな。え?外に出れるのかって?
このダンジョンはどうやら他のダンジョンと違い、ダンジョンの外に転移する場所が必ずどの階層、どのエリアにも必ずあるらしい。
だからこそ、このエリアに関しての情報が既に存在しているのだ。
それにしてもほんとこのダンジョン意味が分からないよな。
いきなり魔物のレベルが上がって冒険者たちを仕留めに来たかと思いきやダンジョンの外に繋がる緊急脱出装置まで備わっているなんて、ダンジョンの主は何を考えてるんだ?
「すまぬが、一時でも早く攻略する事は出来ぬか?」
そんな俺たちの会話に綾香ちゃんが陰った表情で言ってくる。
皇族がこんなダンジョンに居る時点で何かあると思っていたが、その時が来たようだ。
勿論、そう思ったのは俺だけじゃなくフリーダムメンバー全員である。アインはどことなく興味なさげではあるが、銀にも関わって来る以上無視できる案件でもないからな。
だが、ここで話を聞くと言う事はヤマト皇国皇族の事情に関わると言う事だ。
正直、一緒に攻略する意図はない。だが一緒に攻略する方がメリットは大きいと言う理由と一緒に行動しているだけの関係に過ぎない。
だからこの場で別行動を取る事だってでき訳だが……正直、この年頃の女の子に申し訳なさそうな顔をされるのは正直辛い。だからと言って即座に良いよとも言える立場に俺は居ない。
なんせ、俺はギルドフリーダムのギルドマスター、相手が王族であろうと一番に考えるのはギルドメンバーの命だから。
「俺たちにも期限はあるが急いでいる訳じゃないし、このダンジョンを制覇したいとも思っていない。だから理由によってはそっちに合わせても構わないと思っているが、どうする?」
と、俺は綾香ちゃんに選択権を委ねる。
だが全ての全権を委ねたわけじゃない。今後一緒に攻略したいのであれば事情を話せと言っているのだ。それどころか事情を話しても一緒に行動するかは分からない。とも言っている。
当然その事に綾香ちゃんだけでなく萩之介たちも気づいている。
そしてその選択権があるのはたった16歳の少女だ。はっきり言って重い選択だ。
もしも俺だったら面倒臭いから嫌だって即座に放り投げているところだろう。
しかし綾香ちゃんはそうはしない。いや、出来ないと言うべきだろう。なんせ彼女は皇族なのだから。
「すまぬが、直ぐには答えられぬ。時間をくれぬか?」
と上目遣いで言ってくる。しかしそこに可愛らしさは一切ない。
「構わねぇよ。俺たちは急いでいるわけじゃないからな。ただそっちが急ぐのであれば早く決断した方が良い」
「分かった」
そう言って綾香ちゃんは蝶麗さんに付き添われ、テントの中に入って行った。
「さて、綾香ちゃんが答えを出すまでに出来るだけ調べるとするか」
「そうですね」
とアインが代表する形で返事をした。
共に行動する事になろうが、別々に行動する事になったとしてもこの時間を使って調べる事にメリットはあるからな。
こうして俺たちは壁画の調査を再開した。
調査を再開して数分、これと言って新たな事が分かったわけでは無かったが、アリサがある事に気が付いた。
「なぁ、アインの姉御。この壁画ってこれで完成なのか?アタイにはまだ続きがあるように感じるんだが」
アリサの言う通り、瓦礫と化した壁画はまだパズルのように組み合わせただけで、絵の周囲は不規則に波打つようにガタガタしていた。
確かに古代の壁画って言うのは言わば歴史書のようなものだ。
つまり実際にあった出来事が絵と描かれている。
しかし壁画を見る限りこの絵はこれで完成しているように見える。
だが、もしもこの壁画が物語の1コマに過ぎないとしたらアリサが言っている事が正しという事になる。
「アイン、アリサが言っている事は本当か?」
「ええ、本当です。ですが、ここにある瓦礫で壁画に関係しそうな物は今目の前にあるこの壁画のみでした」
「そうか」
アインが言うのだから間違いないだろう。となると他の壁画は別の場所にあるのか、既に砂の下に埋もれているかのどちらかだろう。
「となるとやっぱりこの一枚の壁画から新しい手がかりを見つけるしかないか」
憂鬱な気持ちを隠す事もせず俺はそう呟いた。
俺たちは壁画を囲むようにして黙々と調べるが、一向に11階層砂漠エリア攻略に繋がる手がかりが見つからない。
そしていつしか時間が経つにつれて全員の集中力が切れ始めた。
現代の冒険者は頭脳も求められるようになってきたが、それでもまだ頭を使った事が得意とは言えない状況だ。
勿論、よくラノベなのである中世時代の時に比べれば天と地ほどの差があるのは間違いない。それでもどうしてもこういった作業は冒険者にとって苦痛でしかない。ましてやフリーダムメンバーは戦闘特化したメンバーのためどうしても他の冒険者に比べてこういった作業には向いていないのだ。けして脳筋と言うわけではない。
だいたいそんな事口にした瞬間袋叩きにあうのは目に見えているからな。
なので唯一脳筋ではないアインが頼みの綱なわけだが、これまたヤル気のない事。
銀を撫でる事でどうにかモチベーションを維持しているようだが、さっきに比べて撫でる回数やスピードが速くなっているのは目に見えて明らかだった。
サイボーグと言えど飽きるだな。
そう思いながら俺は壁画に目を落とした。
「それにしても傷だらけだな」
そんな事を呟きながら俺は壁画を指先で撫でる。
指先で感じる引っ掛かる感触は時の流れを感じさせる。
気が付くと無意識に絵の方ではなく傷の方をなぞるように撫でていた。
「ん?」
すると、ある不自然さを感じた。
「どうかしのか?」
そんな俺の呟きに気付いたのか影光が問いかる。
しかしまだ確証もない段階では何も言えないので、敢えて無視してその傷に注目して調べてみる。
数分もしないうちにその違和感は確証に変わった。
「やはりだ」
「だから何がだ?」
先ほど無視した事を少し引きずっているのかどことなくその声音に怒気を感じる。悪かったって。
「魔物から伸びてる線。最初は放置された挙句に付いた傷だと思ったんだが、どうやら違う。よく見ると他の魔物からも線が伸びてる」
俺がそう言うと全員が顔を近づけて魔物周辺に視線を集中させる。
「確かに伸びているな」
「伸びているのだ~」
と全員が同じ感想を漏らす。
「これが何を意味するのか俺には分からないが、この線を辿ると……見ての通り壁画の端に辿り着くわけだ」
魔物たちから伸びている線はまるで1つに集約されるように一か所に目掛けて伸びているが、何もない壁画の端だった。
「つまりはアリサが言ったように続きがあるって事か……」
「また行き詰ったのだ~」
と影光やヘレンが呟く。
新しい手がかりが見つかってもこれじゃあまり変わりないのと同じじゃねぇか。
「ですが、1つ分かった事があります」
とアインが銀を撫でながら言った。
「なんだ?」
「この線の先に描かれている存在が支配者なのでしょう」
そうだ……そうだった。壁画に夢中で忘れていたが、俺たちがこの壁画を調べる目的は支配者がどんな奴なのかって事だ。
「この絵が正しいのであれば、支配者は文字通りの支配者なのでしょう」
「つまりは魔物たちの頂点に立つ存在と言う意味ではなく、なんらかの方法で魔物たちを操るって意味か?」
と、俺が質問するとアインは簡潔に「はい」と頷きながら呟いた。
となるとその支配者はあらゆる魔物を支配出来る存在なのか、ここに描かれている魔物だけなのかって事になるが、それは前者だろう。
石板に刻まれた文章にもあった通り森、海、砂漠であろうと支配者なわけだからな。
ただ、支配できる数が複数なのか、単体なのかで変わって来るし、壁画に描かれていた魔物だけを狙って討伐する理由も消えたわけだからな。
「一段と面倒になったな」
俺としては目の前の魔物をぶっ飛ばせればそれで良かったのに、どうしてこうも回りくどいやり方をしなければならないのか、本当に面倒で仕方がない。
だが、一応前には進んだことには間違いない。
「ま、これ以上になにか新しい手がかりが見つかるとも思えないが、調べたい奴は調べて貰っても構わない。それ以外の奴は好きに過ごしてくれ」
そう言って俺は立ち上がり、キャンプチェアの方へと歩き出す。あ~腰が痛い。
キャンプチェアに座って一服していると、俺の隣のキャンプチェアに萩之介が座る。布を限界まで引っ張るような音が聞こえたが大丈夫か?
そんな事を思いながらも俺は気にせず煙草を吸い続けるが、話そうとしない。
ただ座って休憩しているだけのようにも見えるが、そういう雰囲気ではない。どう見たって何か話したそうにしているのは明らかだ。
そんな事を思っていると煙草が吸い終わる。
それと同時に萩之介が口を開いた。
「鬼瓦よ」
どうやら煙草を吸い終わるのを待ってくれていたようだ。律儀なのか真面目な話だからなのか……。
「仁で良い」
俺はそう言う。
「では、仁よ。汝はなぜあのような事を言ったのだ?」
さて、萩之介は何を言いたいのか理解出来ないが、いつの事を指しているのかは分かる。
「俺が言った事に不満でもあるのか?」
「無論。だからこうして汝に問いかけているのだ」
ま、そうだよな。不満がないのなら俺に話しかけて来るわけが無い。
だが、萩之介がどうして不満を持っているのか、と言うよりもどの部分に不満を感じたのか分からない。
「いったい何が不満だったんだ?」
「あのような重大責任な選択をどうして姫殿下に託したのかって事だ」
ああ、そこか。ま、そこ以外ないよな。
だけど、安心した。即座に了承するべきだ。とか言われたら流石の俺も呆れて何も言えなくなっていただろうからな。
ま、そこら辺は流石は将軍と言うべきか。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる