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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第八十六話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ⑰
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「どう考えてもあの場面で選択権を持っているのは互いのリーダーである俺と綾香ちゃんだ」
「うむ」
と俺の言葉に納得しているのか頷いていた。意外だ。
「で、俺たちフリーダムは別に協力する事に否定的なわけじゃない。だが皇族ともあろう人間がダンジョンに来るって事は何らかの事情があるのは明白だ。違うか?」
「う、うむ。確かにその通りだ」
今度は口ごもった返事が返って来た。ちょっと面白いって思ったのは内緒だぞ。
それとは別に内容は分からないが、事情があると認めたな。ま、予想通りだけど。
「他人に話せないような事情を昨日今日あったばかりの俺らに話してくれと言っても話すわけもない。ましてや相手は皇族だからな」
「うむ、確かに……」
「なら、何も聞かずに協力すれば良いと考える奴も居るかもしれないが、俺はギルドマスターとしてギルドメンバーの命を預かっている身だ。事情も知らずに危険に飛び込むほど俺は無責任な男にはなりたくないんでね」
もしも俺個人としてなら話を聞かずに受けていた可能性は低くは無い。ま、判断材料としては面白いかどうか、面倒じゃないかどうか、この2つだ。
因みにギルマスとして判断するなら、危険度が追加される程度だけど。
「そうだったのか、そうとも知らず憤りを向けた事、謝罪する」
そう言って萩之介は頭を下げた。
「別に分かってくれたなら構わない」
これまで主第一に考えて来た連中を何人か見て来たがここまで物わかりの良い奴に会うのは初めてだな。いや、これまでにあって来た奴が盲目過ぎただけなのかもしれない。ロイドとか、グレンダとか。
それともロイドやグレンダと違って萩之介が綾香ちゃんの専属護衛じゃないのと、萩之介自身が呼び名は違えど部下の命を預かる役職に就いているのが一番大きいのかもしれない。
護衛にとって一番大切なのは護衛対象者の命だ。それ以外は心を痛めようが関係ない。
それに対して将軍は部下の命を預かる身。やはりそこがグレンダやロイドとは違う価値観と言うべき考え方なんだろうな。
納得してくれた萩之介はキャンプチェアから立ち上がると部下の許へと戻って行った。
さてと、綾香ちゃんが答えを出すまで俺は適当に時間を潰すとするか。
キャンプチェアに座って転寝をしていると既に夕食の時間になっていた。
肌寒さを感じ始めた俺はアイテムボックスからジャケットを取り出して羽織る。
昼寝後の一服をしていると、他の奴らがぞろぞろとキャンプチェアに座り出す。
「よく眠れたか?」
と俺の隣に座った影光が悪戯小僧のような笑みを浮かべて皮肉を言ってくる。
「ボチボチだな。やっぱり寝るならフカフカのベットに限る」
「それにしてもよく眠っていたように見えましたが?」
と今度は2つ席を空けたキャンプチェアに座るアインが悪意たっぷりで皮肉を飛ばして来る。
「冒険者だからな大抵の場所で眠れるがやっぱり寝心地がな」
「どこでも寝れるとは流石は蛆虫ですね」
「お前だってどこでも寝れるだろうが」
「私は優秀ですから」
まったく怒りを通り越して意味すら分からんなって来た。どう設計すればそこまで自分を棚に上げられるんだ。
そんなやりとりをしているとテントから綾香ちゃんと蝶麗さんが出て来ると何も言わずキャンプチェアに座る。
そんな彼女を萩之介たちは見詰めるだけで一切言葉を掛けなかった。
理由はハッキリしている。
彼女の顔に不安や迷いと言った影は一切無く、凛々しさが戻っていたからだ。どうやら決断したようだな。
そんな彼女に最初に声を掛けるのは当然俺だ。
吸っていた煙草を焚火に投げ捨てた俺は口を開いた。
「それじゃ、返答を聞こうか」
それに対して綾香ちゃ……いや、ヤマト皇国皇女土御門綾香は自信に満ちた笑みを浮かべて口を開いた。
「余はお主たち『フリーダム』に指名依頼を発注する」
一瞬の静寂、きっと誰もが、いや数人を除いて予想だにしなかった言葉に言葉を失う。
パチッパチッと火の粉が弾ける音以外何も聞こえなくなる事なんてそうそうないだろうな。
そう思いながら俺は込み上げて来る笑いを抑えるのに必死だった。
当然、俺は綾香ちゃんが依頼してくる可能性を予測していた。きっと他に気付いていた奴を挙げれば俺以外にはアインと影光ぐらいだろう。
なんせ最初に指名依頼を口にすると言うのは唯一の抜け道だからだ。
最初に事情を話せば俺たちの同情を買って力を手に入れる事が出来たかもしれないが、皇族の情報が他国の冒険者に洩れる事が確定した上で、報酬も支払わなければならなくなる。
しかし最初に指名依頼を出せば必要最低限の情報だけを提示すれば、ヤマト皇族の情報が洩れるリスクは減る。その分、俺たちの力を得る可能性は下がるが、内容だけを聞いてやっぱり請けないって可能性もある以上最良の選択をしたと言える。
俺としてはこっちの方が話がスムーズに進んで楽で良い。その分俺たちにもリスクはあるが、最悪命を狙われる程度だ。
え?ギルドマスターとしてメンバーの命を預かってる身だろって?
馬鹿野郎!
俺たちが早々殺られるように見えるか?それに別に戦うのが嫌なわけじゃない。嫌なら最初から冒険者なんてやってねぇよ。
俺が言いたいのは何も知らないまま命を狙われるのだけは勘弁って話だ。命を狙われるって分かっていれば幾らでも対処可能だからな。むしろ向こうから経験値がやって来るんだ。これほどありがたい話はないさ。
「それで依頼内容は?」
俺は新たな煙草を咥えながら問い返した。
「この11階層砂漠エリアの攻略とその功績を余に譲る事とその間の護衛である」
この階層の攻略した名誉を渡せって事か。
別にそれなら別に構わないが、
「それで報酬は?」
「それ以外はお主たちの好きにするが良い。この階層で狩った魔物も財宝もお主たちに譲る。それと余の権限内であれば1つだけ望みを叶えると約束しよう」
依頼内容に対してそれ以上の報酬か。
俺が予想していた報酬よりも上を行く事に驚きを感じながらも表情に出さないよう煙草を一吸いする。
「望みを叶えるとはこれまた大盤振る舞いだな。てっきり金銭で報酬を支払うと思っていた」
「素材や財宝で稼げるであろう。そんな時に報酬に金銭を提示したところで請けて貰えるとも思えぬからな。だが余の権限内だからな」
一応釘を刺しては来るが、別にそれ以上の物を望むつもりはないから安心して欲しい。
それにしてもそこまでしてこの階層の攻略した功績が欲しいらしい。ますます事情を知りたくなった。
「そこまでして功績が欲しい理由を聞いても良いか?」
一介の冒険者はそこまで知ろうとはしない。大抵の指名依頼は公式に冒険者組合の記録に残る。
そして指名依頼主が提示した内容に対して冒険者組合が危険度と信憑性、依頼主の素性と信頼性を精査した上で指名される冒険者に話が持ちかけられるものだ。
しかしこれは非公式の指名依頼だ。そこら辺は冒険者自身で判断しなければならない。
「………話せる内容はほんの僅かだが、構わぬか?」
綾香ちゃんが前置きしてくるが構わない。
「聞かないよりはマシだからな」
煙を吐きながら俺はそう答えた。え?皇族との交渉中に煙草は駄目って?別に構わねぇよ。ボルキュス陛下との会話と違ってここは皇宮でもないし、非公式の依頼だ。そこまで堅くなる理由なんてないからな。
品位の問題だって?そんなもん最初からあったらクソ皇子の金玉を蹴り上げたりなんてしねぇよ。
「そうか……一言で言えば皇族同士の未来を賭けた戦いである」
ああ、なるほどそう事。
その一言で大抵の事は理解した。
どうやら俺たちに指名依頼を出した若干16歳の少女は既に茨の道を進むことを決めたらしい。
だから俺たちに事情を話す事を躊躇ったのか。なら納得だな。
「なるほどな……さて、皇女さん、その依頼を請けるかどうか、少し話し合っても良いか?」
「構わぬ。しかし余はお主たちと違って時間があるわけではないからの」
と、不敵な笑みを浮かべて言われてしまった。
「ああ、分かってる」
これはお昼の仕返しか?これまた素晴らしい皮肉が返って来たものだ。
さてと話し合いと行きますか?
普通ならこの場から離れて話し合いをするものだが、俺たちはそんな面倒な事をしない。なによりそんな事をする内容でもないからな。
「それじゃ、お前たちの意見を聞かせてくれ」
「拙者は別に構わぬぞ、名誉に興味など無いからの」
「私もです」
と影光とアインが了承する。
「アタイもだ。素材や財宝を全て譲ってくれるんだ。これほどの好条件、そうあるもんじゃないからね」
「右に同じ」
とアリサとクレイヴも反論は無いようだ。
「構わないのだ~」
「こ、怖いですけど、目的は変わっていませんので別に大丈夫です。ただ僕が足を引っ張ってしまわないかそれだけが不安ですけど……」
と短絡的なアリサと強くなりたいグリードもOKと。ま、グリードが反対したところで俺とアインと影光で説得したけどな。
「ま、俺も異論はない」
と全員の意見が決まった所で俺は改めて綾香ちゃんに視線を向けた。
「と言う訳で俺たちはその指名依頼請ける事にする」
と1分にも満たない時間で俺たちの相談は終了し、返事をした。
あまりにも呆気ない返答に綾香ちゃんたちは呆けていた。
「余が言うのも変だが、もう少し考えた方が良いのではないか?」
と綾香ちゃんが心配してくる。
考える?これ以上何を考えるって言うんだ。
皇族絡みの危険性か?そんなもんベルヘンス帝国に居る時と何も変わらなぇよ。むしろあっちに居る方が色々と面倒だからこっちに来たって言うのに。
ましてやこれは非公式の指名依頼だ。表沙汰になる事もない。これほど旨味のある皇族依頼なんて滅多にあるもんじゃないからな。
「どうせこの階層クリアの功績なんて皇族との繋がりに比べれば大した事じゃないからな、別に構わねぇよ。それに俺たちがそう簡単に殺られるように見えるか?」
『っ!』
俺たちフリーダムは闘気を滾らせ不敵な笑みを浮かべて見せた。
その姿に綾香ちゃんたちが戦慄を覚えたように身震いしていた。そんなに怖く見えたか俺たちって。
(これほど頼りになる者もそうそう居るまいな)
予想以上の戦力が手に入った事に綾香は嬉しそうに笑みを浮かべながら口を開いた。
「その言葉、信じるぞ」
「ああ、それで構わねぇよ」
と言って俺と綾香ちゃんは握手を交わした。
偽の夜空が支配するダンジョンの内で非公式ではあるがヤマト皇族の依頼が無事に成立した。
それにしてもつい先日もベルヘンス帝国皇族の依頼を請けて完遂したばかりだと言うのに、今度はヤマト皇族の依頼を請ける事になるとは、まったく俺の人生はいったいどうなっているのやら。
そんな事を思いながら短くなった煙草の煙を深く吸い込んだ俺は天を仰ぐように吐き出した。
無事に依頼が成立した事を祝い豪勢な夕食ではないが、グリード特製の具沢山ビーフシチューを堪能する。
お腹も膨れて満足感に浸りたいが、そういう訳にはいかない。
俺は食後の一服をするため煙草に火を着ける。
「無事依頼も成立した。11階層砂漠エリアのボスと思しき情報も手に入ったから満腹感に浸りたいところだが、そうはいかねぇ。なんせまだボスの正体が分からないままだからな」
俺はそう言って煙草を吸う。
「アインが修復してくれた壁画の絵の通りなら、蛇、蠍、蟹、鷲、龍、熊系統の魔物だけを狙って片っ端から倒して行けば良い話だが、そうとも限らない。そこで今朝行った素材集め同様に幾つかのチームに分かれて片っ端から魔物を討伐していくことにする」
超が付く程地道なやり方だが仕方がない。
これ以外に方法が思いつかないからな。
ただその分確実ではある。
しかしこれには大きな欠点がある。
それは俺たち以上に時間が限られている綾香ちゃんたちにとっては博打のようなものだ。
俺たちフリーダムは別にこの階層がクリア出来なくても素材を持ち帰ってギルドに買い取って貰えれば利益が出る。
しかし綾香ちゃんたちが求めているのは魔物の素材では無くこの第11階層砂漠エリアの攻略と言う証だからだ。
「勿論これ以外に良い方法がある奴や何か気付いた事があるなら言ってくれ」
そんな俺の問い掛けに誰も声を発しようとはしない。現状誰もがこれ以外の方法を思いつく奴がいないからだ。
しかしそんな中1人だけ毅然として手を挙げる奴が居た。
アインだ。
「なんだ?」
俺はアインに視線を向けて問い掛けた。
「あれから1人で壁画を調べて分かったのですが、恐らく支配されている魔物とそうではない魔物の区別の仕方が分かりました」
その言葉に全員が驚愕のあまり息をするのも忘れた。
「うむ」
と俺の言葉に納得しているのか頷いていた。意外だ。
「で、俺たちフリーダムは別に協力する事に否定的なわけじゃない。だが皇族ともあろう人間がダンジョンに来るって事は何らかの事情があるのは明白だ。違うか?」
「う、うむ。確かにその通りだ」
今度は口ごもった返事が返って来た。ちょっと面白いって思ったのは内緒だぞ。
それとは別に内容は分からないが、事情があると認めたな。ま、予想通りだけど。
「他人に話せないような事情を昨日今日あったばかりの俺らに話してくれと言っても話すわけもない。ましてや相手は皇族だからな」
「うむ、確かに……」
「なら、何も聞かずに協力すれば良いと考える奴も居るかもしれないが、俺はギルドマスターとしてギルドメンバーの命を預かっている身だ。事情も知らずに危険に飛び込むほど俺は無責任な男にはなりたくないんでね」
もしも俺個人としてなら話を聞かずに受けていた可能性は低くは無い。ま、判断材料としては面白いかどうか、面倒じゃないかどうか、この2つだ。
因みにギルマスとして判断するなら、危険度が追加される程度だけど。
「そうだったのか、そうとも知らず憤りを向けた事、謝罪する」
そう言って萩之介は頭を下げた。
「別に分かってくれたなら構わない」
これまで主第一に考えて来た連中を何人か見て来たがここまで物わかりの良い奴に会うのは初めてだな。いや、これまでにあって来た奴が盲目過ぎただけなのかもしれない。ロイドとか、グレンダとか。
それともロイドやグレンダと違って萩之介が綾香ちゃんの専属護衛じゃないのと、萩之介自身が呼び名は違えど部下の命を預かる役職に就いているのが一番大きいのかもしれない。
護衛にとって一番大切なのは護衛対象者の命だ。それ以外は心を痛めようが関係ない。
それに対して将軍は部下の命を預かる身。やはりそこがグレンダやロイドとは違う価値観と言うべき考え方なんだろうな。
納得してくれた萩之介はキャンプチェアから立ち上がると部下の許へと戻って行った。
さてと、綾香ちゃんが答えを出すまで俺は適当に時間を潰すとするか。
キャンプチェアに座って転寝をしていると既に夕食の時間になっていた。
肌寒さを感じ始めた俺はアイテムボックスからジャケットを取り出して羽織る。
昼寝後の一服をしていると、他の奴らがぞろぞろとキャンプチェアに座り出す。
「よく眠れたか?」
と俺の隣に座った影光が悪戯小僧のような笑みを浮かべて皮肉を言ってくる。
「ボチボチだな。やっぱり寝るならフカフカのベットに限る」
「それにしてもよく眠っていたように見えましたが?」
と今度は2つ席を空けたキャンプチェアに座るアインが悪意たっぷりで皮肉を飛ばして来る。
「冒険者だからな大抵の場所で眠れるがやっぱり寝心地がな」
「どこでも寝れるとは流石は蛆虫ですね」
「お前だってどこでも寝れるだろうが」
「私は優秀ですから」
まったく怒りを通り越して意味すら分からんなって来た。どう設計すればそこまで自分を棚に上げられるんだ。
そんなやりとりをしているとテントから綾香ちゃんと蝶麗さんが出て来ると何も言わずキャンプチェアに座る。
そんな彼女を萩之介たちは見詰めるだけで一切言葉を掛けなかった。
理由はハッキリしている。
彼女の顔に不安や迷いと言った影は一切無く、凛々しさが戻っていたからだ。どうやら決断したようだな。
そんな彼女に最初に声を掛けるのは当然俺だ。
吸っていた煙草を焚火に投げ捨てた俺は口を開いた。
「それじゃ、返答を聞こうか」
それに対して綾香ちゃ……いや、ヤマト皇国皇女土御門綾香は自信に満ちた笑みを浮かべて口を開いた。
「余はお主たち『フリーダム』に指名依頼を発注する」
一瞬の静寂、きっと誰もが、いや数人を除いて予想だにしなかった言葉に言葉を失う。
パチッパチッと火の粉が弾ける音以外何も聞こえなくなる事なんてそうそうないだろうな。
そう思いながら俺は込み上げて来る笑いを抑えるのに必死だった。
当然、俺は綾香ちゃんが依頼してくる可能性を予測していた。きっと他に気付いていた奴を挙げれば俺以外にはアインと影光ぐらいだろう。
なんせ最初に指名依頼を口にすると言うのは唯一の抜け道だからだ。
最初に事情を話せば俺たちの同情を買って力を手に入れる事が出来たかもしれないが、皇族の情報が他国の冒険者に洩れる事が確定した上で、報酬も支払わなければならなくなる。
しかし最初に指名依頼を出せば必要最低限の情報だけを提示すれば、ヤマト皇族の情報が洩れるリスクは減る。その分、俺たちの力を得る可能性は下がるが、内容だけを聞いてやっぱり請けないって可能性もある以上最良の選択をしたと言える。
俺としてはこっちの方が話がスムーズに進んで楽で良い。その分俺たちにもリスクはあるが、最悪命を狙われる程度だ。
え?ギルドマスターとしてメンバーの命を預かってる身だろって?
馬鹿野郎!
俺たちが早々殺られるように見えるか?それに別に戦うのが嫌なわけじゃない。嫌なら最初から冒険者なんてやってねぇよ。
俺が言いたいのは何も知らないまま命を狙われるのだけは勘弁って話だ。命を狙われるって分かっていれば幾らでも対処可能だからな。むしろ向こうから経験値がやって来るんだ。これほどありがたい話はないさ。
「それで依頼内容は?」
俺は新たな煙草を咥えながら問い返した。
「この11階層砂漠エリアの攻略とその功績を余に譲る事とその間の護衛である」
この階層の攻略した名誉を渡せって事か。
別にそれなら別に構わないが、
「それで報酬は?」
「それ以外はお主たちの好きにするが良い。この階層で狩った魔物も財宝もお主たちに譲る。それと余の権限内であれば1つだけ望みを叶えると約束しよう」
依頼内容に対してそれ以上の報酬か。
俺が予想していた報酬よりも上を行く事に驚きを感じながらも表情に出さないよう煙草を一吸いする。
「望みを叶えるとはこれまた大盤振る舞いだな。てっきり金銭で報酬を支払うと思っていた」
「素材や財宝で稼げるであろう。そんな時に報酬に金銭を提示したところで請けて貰えるとも思えぬからな。だが余の権限内だからな」
一応釘を刺しては来るが、別にそれ以上の物を望むつもりはないから安心して欲しい。
それにしてもそこまでしてこの階層の攻略した功績が欲しいらしい。ますます事情を知りたくなった。
「そこまでして功績が欲しい理由を聞いても良いか?」
一介の冒険者はそこまで知ろうとはしない。大抵の指名依頼は公式に冒険者組合の記録に残る。
そして指名依頼主が提示した内容に対して冒険者組合が危険度と信憑性、依頼主の素性と信頼性を精査した上で指名される冒険者に話が持ちかけられるものだ。
しかしこれは非公式の指名依頼だ。そこら辺は冒険者自身で判断しなければならない。
「………話せる内容はほんの僅かだが、構わぬか?」
綾香ちゃんが前置きしてくるが構わない。
「聞かないよりはマシだからな」
煙を吐きながら俺はそう答えた。え?皇族との交渉中に煙草は駄目って?別に構わねぇよ。ボルキュス陛下との会話と違ってここは皇宮でもないし、非公式の依頼だ。そこまで堅くなる理由なんてないからな。
品位の問題だって?そんなもん最初からあったらクソ皇子の金玉を蹴り上げたりなんてしねぇよ。
「そうか……一言で言えば皇族同士の未来を賭けた戦いである」
ああ、なるほどそう事。
その一言で大抵の事は理解した。
どうやら俺たちに指名依頼を出した若干16歳の少女は既に茨の道を進むことを決めたらしい。
だから俺たちに事情を話す事を躊躇ったのか。なら納得だな。
「なるほどな……さて、皇女さん、その依頼を請けるかどうか、少し話し合っても良いか?」
「構わぬ。しかし余はお主たちと違って時間があるわけではないからの」
と、不敵な笑みを浮かべて言われてしまった。
「ああ、分かってる」
これはお昼の仕返しか?これまた素晴らしい皮肉が返って来たものだ。
さてと話し合いと行きますか?
普通ならこの場から離れて話し合いをするものだが、俺たちはそんな面倒な事をしない。なによりそんな事をする内容でもないからな。
「それじゃ、お前たちの意見を聞かせてくれ」
「拙者は別に構わぬぞ、名誉に興味など無いからの」
「私もです」
と影光とアインが了承する。
「アタイもだ。素材や財宝を全て譲ってくれるんだ。これほどの好条件、そうあるもんじゃないからね」
「右に同じ」
とアリサとクレイヴも反論は無いようだ。
「構わないのだ~」
「こ、怖いですけど、目的は変わっていませんので別に大丈夫です。ただ僕が足を引っ張ってしまわないかそれだけが不安ですけど……」
と短絡的なアリサと強くなりたいグリードもOKと。ま、グリードが反対したところで俺とアインと影光で説得したけどな。
「ま、俺も異論はない」
と全員の意見が決まった所で俺は改めて綾香ちゃんに視線を向けた。
「と言う訳で俺たちはその指名依頼請ける事にする」
と1分にも満たない時間で俺たちの相談は終了し、返事をした。
あまりにも呆気ない返答に綾香ちゃんたちは呆けていた。
「余が言うのも変だが、もう少し考えた方が良いのではないか?」
と綾香ちゃんが心配してくる。
考える?これ以上何を考えるって言うんだ。
皇族絡みの危険性か?そんなもんベルヘンス帝国に居る時と何も変わらなぇよ。むしろあっちに居る方が色々と面倒だからこっちに来たって言うのに。
ましてやこれは非公式の指名依頼だ。表沙汰になる事もない。これほど旨味のある皇族依頼なんて滅多にあるもんじゃないからな。
「どうせこの階層クリアの功績なんて皇族との繋がりに比べれば大した事じゃないからな、別に構わねぇよ。それに俺たちがそう簡単に殺られるように見えるか?」
『っ!』
俺たちフリーダムは闘気を滾らせ不敵な笑みを浮かべて見せた。
その姿に綾香ちゃんたちが戦慄を覚えたように身震いしていた。そんなに怖く見えたか俺たちって。
(これほど頼りになる者もそうそう居るまいな)
予想以上の戦力が手に入った事に綾香は嬉しそうに笑みを浮かべながら口を開いた。
「その言葉、信じるぞ」
「ああ、それで構わねぇよ」
と言って俺と綾香ちゃんは握手を交わした。
偽の夜空が支配するダンジョンの内で非公式ではあるがヤマト皇族の依頼が無事に成立した。
それにしてもつい先日もベルヘンス帝国皇族の依頼を請けて完遂したばかりだと言うのに、今度はヤマト皇族の依頼を請ける事になるとは、まったく俺の人生はいったいどうなっているのやら。
そんな事を思いながら短くなった煙草の煙を深く吸い込んだ俺は天を仰ぐように吐き出した。
無事に依頼が成立した事を祝い豪勢な夕食ではないが、グリード特製の具沢山ビーフシチューを堪能する。
お腹も膨れて満足感に浸りたいが、そういう訳にはいかない。
俺は食後の一服をするため煙草に火を着ける。
「無事依頼も成立した。11階層砂漠エリアのボスと思しき情報も手に入ったから満腹感に浸りたいところだが、そうはいかねぇ。なんせまだボスの正体が分からないままだからな」
俺はそう言って煙草を吸う。
「アインが修復してくれた壁画の絵の通りなら、蛇、蠍、蟹、鷲、龍、熊系統の魔物だけを狙って片っ端から倒して行けば良い話だが、そうとも限らない。そこで今朝行った素材集め同様に幾つかのチームに分かれて片っ端から魔物を討伐していくことにする」
超が付く程地道なやり方だが仕方がない。
これ以外に方法が思いつかないからな。
ただその分確実ではある。
しかしこれには大きな欠点がある。
それは俺たち以上に時間が限られている綾香ちゃんたちにとっては博打のようなものだ。
俺たちフリーダムは別にこの階層がクリア出来なくても素材を持ち帰ってギルドに買い取って貰えれば利益が出る。
しかし綾香ちゃんたちが求めているのは魔物の素材では無くこの第11階層砂漠エリアの攻略と言う証だからだ。
「勿論これ以外に良い方法がある奴や何か気付いた事があるなら言ってくれ」
そんな俺の問い掛けに誰も声を発しようとはしない。現状誰もがこれ以外の方法を思いつく奴がいないからだ。
しかしそんな中1人だけ毅然として手を挙げる奴が居た。
アインだ。
「なんだ?」
俺はアインに視線を向けて問い掛けた。
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タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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